メルマガ原稿


こころの情報学、西垣通著、ちくま新書、1999年6月


(北海道石狩南高等学校 教諭 小笠原 節、                 基礎教科=数学)

(第3稿 〜「情報」の教養への指針として〜 18年8月2日)

 「情報」を担当する教員は、いったいどんな「情報の教養」を身につけるべきなのでしょうか。  いったい私は、どんな「情報の教養」をもとに、情報の授業を行なっていけばいいのでしょうか。  もし、採用された教科書をそのまま使い、指導書を参考にしながら授業を進めていくだけなら、こんなことは考えなくてもいいのかもしれません。

 しかし、「情報化社会に参画する態度の育成」とともに、「情報化社会はどうあるべきか」を考えるヒントを授業で提示することも重要であると私は考えます。  そのためには、「情報」の系統立てされた知識が必要になってくるのですが、現在、専門家たちの「情報」に関する意見はバラエティに富んでいます。電脳肯定派、電脳否定派、楽観派、悲観派・・・。相反する主張が専門家の間でなされていることもめずらしくありません。

 さて、本書はそういうなかで、情報の教養を得るひとつの指針を与えてくれる本だと思います。  「こころの情報学」と題される本書は、10年の構想ののちに、ようやく執筆を完了した(あとがき)とあります。新書版ですが、”情報量”は多く、著者自身も、「啓蒙書レベルをこえる」といっています。  著者は、「情報学」というひとつの学問が起こりつつあるといい、その「情報学」とは「情報科学」よりも遥かに広大な知の領域を覆う学問であり、理系の知のみならず、文系の知をも海のごとく包摂していく学問であるとはいいます。  そして、「情報」と「こころ」の関係に着目して、「情報学」からヒトの心というものを眺めると、既存の学問では隠蔽されていた部分に光があたり、情報化社会の根本的問題が明快に整理されてくるのだと著者は主張しています。

 本書の内容は、シャノンの情報理論、チューリングテスト、オートポイエーシス、アフォーダンス、フレーム問題、言語の発生、ミツバチのコミュニケーション、賢馬ハンスなどなど、多方面にわたります。  本書では、人間のこころ、感情、思考、言語とは何かと問いながら、それを機械に実現させることができるのかどうかをあちらこちらで論じています。 それにより、人間のこころについていっそう深い理解におよび、また、機械の限界も明らかになっていきます。

本書に登場してくる視点、概念、人物や時代は多様です。 著者は、<情報量>とは、コンピュータ科学的な情報量とは全く別次元のものであり、「情報化社会などと日頃口にしながら、私たちは<情報>や<情報量>について明快な概念をもってはいないのです」といい、 「歴史性すなわち時間的累積性こそが、<情報>の本質的特徴なのです」「生物とは、環境世界との相互作用のなかで時々刻々、せっせと情報系をつくりかえている存在」といいます。  啓蒙書ではないという著者のいうとおり、一般の新書より難解かもしれません。しかし、ヒトの言葉を理解し思考する人工知能の創造の試みと、ヒトの能力の一面を強調する知能増強機械の創造の歴史と問題点について知ることは、コンピュータ社会の未来像を知る上で役立つと思います。

 だた、本書の内容がそのまま即情報の授業に役立つとは言い難く、強いていうなら、推薦入試での小論文を書くときの心強い基礎知識になるだろうということです。  実際、私は、本書の読了後は、他の関連図書が非常に読みやすくなりました。  その点でも本書は役立つと思います。

(第2稿)

 「こころの情報学」という題名である本書には、 いったいどんな内容が書かれているのでしょうか。 「こころ」と「情報」とは、どんな関連があるので しょうか。人口知能に関する内容なのでしょうか。 本書には、人口知能に関する解説があることはありますが、それが本書の主たるテーマではありません。

そもそも「こころ」とは、心理学や精神医学などで 扱うべき対象であって、情報とはいったいどんな関連が あるのでしょうか。しかも「情報」ではなく「情報学」 となっています。 著者は、「情報学」とは「情報科学」よりも 遥かに広大な知の領域を覆う学問であり、理系の知のみ ならず、文系の知をも海のごとく包摂していく学問で あるといいます。

そして、 情報とこころの関係に着目して、「情報学」から ヒトの心というものを眺めると、既存の学問では 隠蔽されていた部分に光があたり、情報化社会の根本的 問題が明快に整理されてくるのだと著者は主張します。 本書では、そのとおり、情報との関係から、機械のこころ、 動物のこころ、ヒトのこころ・・・を解説していきます。 シャノンの情報理論、チューリングテスト、 オートポイエーシス、アフォーダンス、フレーム問題、 言語の発生、ミツバチのコミュニケーション、 賢馬ハンスなどなど、 「情報学」の名のとおり広範囲の知があらわれてきます。 考えてみれば、情報と呼ばれる世界が、ひとつの視点や、 ひとつの学問の分野でおさまってしまうと考えるほうが どうかしています。

「情報学」に登場してくる視点、概念、人物や時代が多様となるのは、いたって当然のことです。 著者は、<情報量>とは、コンピュータ科学的な情報量と は全く別次元のものであり、 「情報化社会などと日頃口にしながら、 私たちは<情報>や<情報量>について明快な概念を もってはいないのです」 といって、 「そもそも<情報>とはいかなる存在なのでしょうか」 というところから、本書を始めます。

「歴史性すなわち時間的累積性こそが、<情報>の本質的 特徴なのです」、 「生物とは、環境世界との相互作用のなかで時々刻々、 せっせと情報系をつくりかえている」存在です、 「言語情報の織りなすプロセス」が<こころ>です、 「情報化社会とは、記号の意味作用の安定という条件 のうえに成立する社会」 などなど、「情報学」とよぶに ふさわしい文章があちらこちらに現れます。

「情報化社会におけるヒトの心は、これまでのヒトの 心とはかなり異なる特質をもっています。」と著者は いい、最終章の”サイバーなこころ”に入っていきます。 参考文献も50冊以上書いてあり、新書としてはめずらし い多さであると思います。たいていの新書は、必ずや 何かを文献にして執筆されているはずであるにもかかわらず、 1冊の参考文献もあげないとか、本文の中にも 出典を明らかにしていないとかいうものを多く見かけるの ですから。

ヒトのこころと同じような働きをコンピュータ上で つくるいわゆる人工知能の試みが、現在でも困難である 理由が明快に解説されており、ヒトのこころの複雑さをあらためて知りました。 逆にいうと、現在のネットワークでは、 ヒトの能力の限られた一部分が非常に強調された形 で実現されているということを 再認識しました。

また、大学の推薦入試などで、 「インターネットの普及で、人間関係がどのように 変化しているか述べよ」 といった小論文問題をよく 目にしますが、本書は、それに対する一つの視点を、 しかも、深い視点を提供していると思います。 常々、私は教科「情報」の教材研究をどうやってやって いけばよいのか、高校の教科書に書いてある 内容のバックボーンとして、何を知っておく必要が あるのかを考えることがあります。それに対して本書は、 理系、文系の垣根にこだわらず、幅広く勉強して いくしか方法はないのだと思わせてくれるのです。


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% % 以下第1稿 % %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%


こころの情報学、西垣通著、ちくま新書、1999年6月


   (北海道石狩南高等学校 教諭 小笠原 節)

著者によれば、「情報学」とは、「情報科学」よりも 遥かに広大な知の領域を覆う学問であり、理系の知のみ ならず、文系の知をも海のごとく包摂していく学問で ある。

情報とこころの関係に着目して、「情報学」から ヒトの心というものを眺めると、既存の学問では 隠蔽されていた部分に光があたり、情報化社会の根本的 問題が明快に整理されてくるという。

本書は、そのとおり、情報との関係から、機械のこころ、 動物のこころ、ヒトのこころ・・・を解説していく。 シャノンの情報理論、チューリングテスト、 オートポイエーシス、アフォーダンス、言語の発生、 ミツバチのコミュニケーション、賢馬ハンスなどなど、 「情報学」というとおりに広範囲の知があらわれる。 参考文献も50冊以上書いてあり、新書としてはめずらし いと思う。

ヒトのこころと同じような働きをコンピュータ上で つくるいわゆる人工知能の試みが、現在でも困難である 理由が解説されており、ヒトのこころの複雑さをあらためて知ったのだが、逆にいうと、現在のネットワークで 実現されていることは、ヒトの能力の非常に限られた 能力が強調された形で実現されていることを再認識で きた。

大学の推薦入試などで、 「インターネットの普及で、人間関係がどのように 変化しているか述べよ」といった小論文問題をよく 目にするが、本書は、それに対する一つの視点を、 しかも、深い視点を提供していると思う。

常々私は、教科「情報」の教材研究をどうやってやって いけばよいのか、高校の教科書に書いてある 内容のバックボーンとして、何を知っておく必要が あるのかと考えるのだが、本書は、 理系、文系の垣根にこだわらず、広範囲に、勉強して いくしか方法はないのだと思わせてくれるのである。




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Last-modified: 2023-03-28 (火) 21:32:53