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高等学校の学習指導要領を読み解く

高等学校での情報教育の概要

 高等学校では共通教科情報が情報教育の主たる場面となることは旧学習指導要領と変わることはないが、今回の改訂における大きな特徴として、各教科があらゆる教育の機会を通してICTを活用することが求められている。このことは、情報活用の実践を多く行い具体例を豊富に体験することが、情報の科学的な理解を促し、また、情報活用の実践の経験やその反省を通して情報社会に参画する態度が育成されるという高等学校学習指導要領解説(第1部共通教科情報科編第1章 総則4)の記述を見てもはっきりしている。また、同解説には中学校技術・家庭科等との関係という項目で中学校技術・家庭科技術分野の改善内容をよく理解することが重要であるという記述も見られる。共通教科情報だけで情報教育を完結させるのではなく、小・中学校との連続性や他教科との連携をより強く意識して教育計画を作成しなければならない。

高等学校卒業時までに身に付けるべき情報活用能力の内容と学習活動例

高等学校では共通教科情報が中心となって情報教育を行うが、学習指導要領にも明記されている通り他の教科とも連携を深めながら学習活動を行うことが求められている。当然ながら中学校での学習活動を基礎としてより高度な内容にも触れていかなければならない。%
 1つめは、データからグラフを作成し、そこから元になったデータの性質を統計的な面から理解すること。 グラフの利用は数学科の関数分野だけに限らず、地歴科や理科でも重要視されている。数学的な統計の技術も合わせて資料を読み解く力を身につけさせることが求められる。データの処理にはアルゴリズムの考え方が必要であるし、グラフの作成には表計算ソフトウエアを操作する技能も必要とされる。また、表現したい内容にふさわしいグラフを選択し、そこから結論を得るためには統計的な知識と数学的な思考が必要となる。これらの一連の作業を効率よく行うために表計算ソフトウエアなどをりようするが、高等学校においては、ソフトウエアの操作よりも、出来上がった資料をどう活用していくかに力点が置かれている。
 2つめは、アルゴリズムを理解し、コンピュータの持つ計算能力を活用すること。 計算アルゴリズムを理解することで、コンピュータ上で数値計算を効率よく行うことができることを理解させる。本格的な取扱いは情報の科学の単元になるが、中学校の数学で学んだ題材を用いて、すでに得ている知識と新たに学んだ内容を組み合わせることで理解を深めることができる。アルゴリズムを実行に移す段階でプログラミングの知識も求められるが、必要に応じて表計算ソフトウエアなどを利用することも考えられる。
 そして、3つめは集めた複数の資料から取捨選択を行ないレポートとしてまとめること。 問題解決を意識した取り組みとして各教科で取り上げられている。資料の収集には情報通信ネットワークの利用も含まれているが、情報の信憑性についてのクロスチェックや著作権の問題など、複数の問題点を解決する力が必要となる。複数の資料からプランを検討したり、プレゼンテーションの方法を比較するなど、一人の活動にとどまらずグループでの発表も視野に含められる。グループでの活動を行う場合には相手の立場や考え方を尊重したコミュニケーションが求められる。

高等学校での情報教育を4観点から考える

 学習指導要領を読み解いてゆくと、高等学校での学習活動の特徴が次のように読み取られる。
 「(1)知識・理解」に分類される項目は中学校と同程度の割合で含まれていることが読み取れるが、高等学校では項目数が増えるというよりも内容を深め、よりしっかりと定着させることを目標としている。
 例を挙げると、情報機器や情報通信ネットワークなどを通じて情報の特徴とメディアの意味についても理解させる。現実の「もの」を扱う既存のメディアとの違いを対比させたりする。情報の特徴の理解や情報の信頼性や信憑性を評価する方法の習得が重要であることも理解させなければならない。

 「(2)技能」に分類される項目は中学校と比較して大きく減少している。単純に技能を身につけることよりも、中学校までで身につけた技能を使ってさらなる知識を得、理解を深めて「思考・判断・表現」につなげていく活動が求められている。

 高等学校の学習活動では「(3)思考・判断・表現」に分類される項目がもっとも多くなっている。情報科目だけでなく、国語や地歴、数学、理科全般など幅広い教科でICTを用いた活動が盛り込まれている。
 活動例としては、情報発信を行う場合に表現方法や情報機器を選択させたり、問題解決の手順を踏まえながら、あらかじめ作業の手順や素材を選択させたり、生徒自身に検討させたりする活動を取り入れる。また、学習活動の中に生徒同士で相互評価させる活動を取り入れる。

「(4)関心・意欲・態度」に分類される項目は、中学校と同様に情報モラルに関する項目が多く取り上げられており、高等学校においてはより深く掘り下げた学習が行われる。国語総合では学習指導要領の内容でも触れられているが、課題の解決のために話し合いを行うという項目もある。ここでは相互の立場を踏まえたコミュニケーションを取り入れるという活動も考えられるが、こういった活動は近年増えつつあるメールやtwitterなどの新しいスタイルのコミュニケーションにおいても非常に有効である。
 また、高校生になると中学生までと比較してより深く情報化社会に関わりを持つと考えられる。情報社会に主体的に関われるように、情報格差やインターネット依存症などについて生徒同士に話し合いを通して考えさせ、互いに発表させる場を設け、望ましい情報社会を構築しようという態度を育成させる。意見集約にあたっては電子メールや電子掲示板を実際に利用することも考えられる。
 また、情報の受け手から積極的に情報発信を行うようになる年代でもあり、「自分の個人情報は自分で守る」という態度を身につけさせることも必要である。(高等学校学習指導要領解説情報編第2章第1節第2内容とその取扱い(3)のウ)

まとめ

 新学習指導要領では、小中高すべての段階で「情報モラル等」の扱いが大きくなり、社会との関わりという視点が重視されている。その中で高等学校の段階では情報社会に主体的に参加する態度の育成がより強く求めらている。情報通信ネットワークの扱いも大きくなり、情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度が求められるようになった。
 高等学校の情報教育が小中学校段階と大きく異なる点は、「情報活用の実践力」から「考え方の習得」に重点が移ったことである。問題解決が学習活動に取り入れられ、共通教科情報だけでなく幅広い教科の中で要求される力として挙げられている。旧学習指導要領では、「コンピュータの活用」や「情報活用の実践力」といったことも重点項目の中に設けられていたが、今回、これらの内容は、小・中学校段階で多く取り上げられ、身に付けるべき目標となっている。
 逆に、小中学校で「情報活用の実践力」が身についていないと、新学習指導要領が示す従来よりも高度な学習内容にスムーズに移行することは難しいと思われる。我々高等学校の情報科に携わる教員は、入学してくる生徒の個人差に応じた柔軟な学習形態やカリキュラムを用意しておく必要がある。


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Last-modified: 2023-03-28 (火) 21:32:53