研究紀要プロジェクト2010

『小学校から高等学校まで、情報教育の系統性のデザイン』

北海道高等学校教育研究会情報部会

北海道札幌北高等学校    奥村  稔
北海道札幌篠路高等学校   鶴間  伸一
北海道倶知安高等学校    津端  公彦
北海道岩見沢緑陵高等学校 川崎  知文
北海道旭川藤女子高等学校 鎌田  亮樹
北海道札幌平岸高等学校   杉本  式史
北海道藻岩高等学校      高木  昭信
北海道藻岩高等学校      日比 誠
北海道札幌東陵高等学校   高田 和典
北海道札幌北高等学校    有田  幸史
代表
北海道釧路江南高等学校長 成田  雅昭

1.はじめに

 平成20年に告示された新学習指導要領は本年度4月より、小中学校で先行実施が開始された。高等学校においても平成24年度からの先行実施と、平成25年度入学生から年次進行で実施されることが決定している。
 新学習指導要領総則では、小学校段階では文字入力など基本的な操作や情報モラルを身に付ける等、また中学校段階ではコンピュータの積極的な活用や情報モラルの定着等、それぞれにおいて情報教育の充実が規定されている。これらは小、中、高等学校での情報活用能力育成の系統性を示し、それぞれの育てるべき能力を区分けして、役割分担を明確にしようとするねらいが読める。つまり、小、中、高等学校のすべての段階において情報化への対応は具体的な指導目標として明記されたことになる。
 ここまでに至る経過の中で、平成20年1月、中央教育審議会総会は「 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」をまとめた。この中で情報教育は新学習指導要領において『社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項』として位置づけられた。特筆すべきは、第一に学習におけるICT(Information and Communication Technology以下ICT) の効果的な活用の重要性を理解させ情報教育が目指している情報活用能力をはぐくむこと、第二に家庭と連携しながら、情報モラルの育成、情報安全等に関する知識の習得などについて指導することの重要性が謳われたことであった。
 またこの答申を受けて、平成21年3月に小中学校ならびに特別支援学校に対応した「教育の情報化に関する手引」が公表された(高等学校に対応した内容は平成22年8月公表)。「教育の情報化に関する手引」は新学習指導要領における教育の情報化が円滑かつ確実に実施されるよう教員の指導をはじめ、学校や教育委員会の具体的な取り組みの参考となることを目的に作成されている。とりわけ、4章『情報教育の体系的な推進』において、各教科における児童・生徒によるICTを活用した学習活動の指導例等を具体的に解説しており、授業のデザインに非常に有効であろう。
 しかし、以前と比較すれば小、中、高等学校の各段階における情報化への対応の具体的な目標や教科横断的な指導に関する具体的な記述は見られるようになったが、小中学校・高等学校の各段階での、より具体的な学習活動や各校種同士の指導の連続性やそれに伴う留意事項については、いまだ不透明な部分や抽象的な解説に終始しているといわざるを得ない。
 今回、北海道高等学校教育研究会情報部会では、小中学校・高等学校の学習指導要領を主な研究対象として、小・中・高等学校12年間で情報教育に必要と考えられる学習活動を発達段階に応じて可能な限り具体化し、これらの系統性を検証・研究することによって、情報科に求められる学習活動を示し、初等中等教育における情報教育の範となるものを目指す。

2.研究方法について

 まず、小中高等学校の新学習指導要領の読み取りを行った。前述の「教育の情報化に関する手引」では、第2章 学習指導要領における教育の情報化において、全ての校種の学習指導要領における教育の情報化に関する主な記述を表で示している。しかし、ここでは些細な見落としもないように、全ての校種の新学習指導要領総則と各教科の解説について、『コンピュータ』『インターネット』『ネットワーク』『問題解決』『情報』の5つのキーワードを設定し、文部科学省のwebサイトにある新学習指導要領各校種の総則と各教科解説のpdfファイルhttp://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/index.htm を対象として、検索を行い、該当する文章を全て抜き出した。検索自体は効率化を図り、検索スクリプトを作成し活用した。
 次にこれらの文章が情報教育に該当するかを判断した。判断の基準は『ICTに関連する学習活動であるかどうか』とした。これはICTを広義に捉え、情報活用の実践力の育成を目的とした学習活動であるかどうかを見極める作業となった。 こうして抽出された箇所の全てを調査の対象とし、それぞれの記述について可能な限り具体的な学習活動や身に付けるべきスキルや態度・状態を小、中、高等学校すべての段階において列挙した。
 これらを、次章に述べる再構成された観点別評価の四観点に分類する。これらは縦軸を小、中、高等学校の校種、横軸をこの新しい観点別評価の四観点としたルーブリックにまとめる。ルーブリックとは、成功の度合いを示す数値的な尺度(scale)と、それぞれの尺度に見られる認識や行為の特徴を示した記述語(descriptor)からなる評価指標のことを指す。ルーブリックとして形にすることは教育の情報化に関して、抽象的な解説が多く、具体的な解説も部分的なものであることが多い現状を打破し、初等中等教育のそれぞれの段階において必要とされる具体的な学習活動をデザインすることであり、これが系統的に示されることは大きな意味がある。
また、小、中、高等学校の各段階で調査の結果、不足している部分や、次の段階の学校に向けて必要と考えられること等特記すべき点は各章の最後に触れる。

3.観点別評価の新しい四観点について

 これまでの観点別評価の観点は現行の学習指導要領に示された目標等から「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」の四つの観点から構成されている。
 新学習指導要領への改訂の中で学校教育法が一部改正された。第30条第2項には『生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。』とある。つまり、このことは「基礎的な知識及び技能」「思考力、判断力、表現力その他」「主体的に学習に取り組む態度」の三つが学力を構成する基本要素として示されたことを意味する。
 これに基づき、学習評価の在り方についての審議を行う過程で、現行の観点別評価の四観点を再構成することとなった。具体的には以下のとおりである。
 「基礎的な知識及び技能」に関する観点として「知識・理解」と「技能」を、「これら(知識や技能)を活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」に関する観点として「思考・判断・表現」を、「主体的に学習に取り組む態度」に関する観点として「関心・意欲・態度」と改められた。
本研究の学習活動の分類にもこの観点別評価の新しい四観点を利用するものとする。また新しい観点の表示順はこの学習プロセスの進行順に表すものとし、「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の順に表記するものとする。

出典

幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申) 文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/information/1290361.htm 7.教育内容に関する主な改善事項 (7)社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項(情報教育)   

「教育の情報化に関する手引」について 文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm

「管理職のための「教育情報化」対応ガイド」 堀田龍也 編  教育開発研究所

「新しい学習評価のポイントと実践1生きる力と新しい学習評価」 小島 宏 岩谷敏行 編著  ぎょうせい

「よくわかる教育評価」  田中耕冶編   ミネルヴァ書房


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Last-modified: 2023-03-28 (火) 21:32:53