**小学校の情報教育の概要  まず、小学校での情報教育の特徴は、中学校の「技術家庭」、高校の共通教科「情報」という情報教育を主に扱う教科は独立して設置されず、各教科の中学年、高学年を中心にして、その科目の目標と共に、「情報活用の実践力の育成」と「情報社会に参画する態度の育成」を目指しているということが挙げられる。従前の学習指導要領では、小学校においてのICT活用は、各教科の目標を達成するための手段として位置づけられており、あくまでも情報教育は中学校の技術家庭科で始められた。しかし、新学習指導要領では、各教科の目標とともに並列してどのような情報活用能力を育てていくべきかというねらいが記されている。つまり、これまでとは異なり、情報教育をあらゆる場で積極的に行っていこうと明記されているのである。これは、国の「IT新改革戦略」のもと、文部科学省が韓国、シンガポール、インドなど初等教育よりICT教育を積極的に取り入れている国々と同じ土俵に立ち、小学校教育から我が国の教育方法を変えて行く大きな流れの変化だと言える。  技術家庭、共通教科情報と同じような情報教育を扱う教科を設置しない理由は明らかにされていない。しかし、ひとりの学級担任が、ほとんどすべての教科を教える小学校教育では、担任が幅広い目でクロスカリキュラム的に情報教育を各教科に埋めこむことができる。小学校卒業時、または、各学年の終了時に児童につけたい情報活用能力の具体的なイメージを持てば、適切な教科で適切なタイミングで授業に情報教育を埋めこむことができる。また、地域や学校の特色、児童の特性など実際の現場の状況に合わせた指導方法ができたり、情報活用能力が十分に身についていないと感じた場合は、スパイラル的に他の場面で繰り返し指導できたり、非常に柔軟な展開が期待できる。また、これはあまり良い例ではないが、各教科の目標には情報教育に関する目標の文言が埋め込まれている。授業をする教員が学習指導要領に忠実に授業を行いさえすれば、情報教育を何も意識せずにも、児童に最低限の「情報活用の実践力」と「情報社会に参画する態度」を育てることができるようになっているのも事実だ。 **小学校卒業時における技能の視点から -総則について  改正された小学校学習指導要領の「第1章総則 第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」において、『(9) 各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。』と書かれている。「各教科等の指導に当たっては」と「適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」という部分は前述したとおりである。そして、中盤のコンピュータリタラシーに関する記述は、コンピュータやネットワークに慣れ親しむだけでなく、操作方法やモラルを身に付け、適切に活用できるレベルを求めている。  小学校卒業時における技能の視点から総則を読み解いてみる。「コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作」は、@キーボードなどによる文字入力、A電子ファイルの保存・整理、Bインターネットの閲覧、C電子メールの送受信の4つの技能が、総則の解説では取り上げられている。また、「情報手段を適切に活用できる」能力の具体例は、文章の編集、図表の作成、様々な方法で文字や画像などの情報を収集すること、またそれらを調べたり、比較するという学習活動、情報手段を使っての(遠隔地との)交流、調べ物をまとめたり発表したりする学習活動が挙げられている。  コンピュータの基本的な操作は中学校では取り上げられず、小学校卒業時までに確実に身に付けておかねばならない。ちょうど従前の普通教科「情報A」の内容が小学校に降りてきたという状態だ。生まれた時からインターネットや電子機器が身近に存在する中で成長してきた児童たちに対して、情報教育を行っていくためには、教師が教科情報担当教諭レベルの情報活用能力を身に付けていなければ、厳しいかもしれない。しかし、クロスカリキュラムで情報教育を行っていくというのは小学校教員にしかできないことなので、小学校卒業時までにどのような情報活用能力を児童の中に育てていくのか、全体像を常に意識して学年毎の年間カリキュラムを構築していきたい。 ***情報活用の実践力を育成する学習活動。 ***基本的な操作を身に付ける学習活動 **「慣れ親しむ」を目標とする学習活動。 -生活  生活は、小学校低学年の教科である。身の回りの事象を中心に考える学習活動が期待される。このなかでまず、児童には、情報機器に慣れ親しむことを行わせたい。具体的には、コンピュータの電源の入れ方、シャットダウンの方法、Yahoo!キッズなどをポータルサイトに設定しておき、児童が興味ある情報が掲載されているホームページを閲覧させるなかで、マウスの使い方を学ばせる。また、夏休みの宿題として設定される朝顔の観察、プチトマトの観察を家庭にあるデジタルカメラで記録させるなどの方法で情報機器へのアレルギーを取り除きたい。 -体育  体育の活動で考えられるのは、デジカメを使い、客観的に自分の運動を知るということである。特に、現在ではハイスピード撮影が可能になるデジカメもあるので、野球でバットにボールが当たる瞬間や、ピッチャーがボールを投げる瞬間を撮影し、分析、運動の仕組みを理解する一助として情報機器が活用できることを実感する。 ***「文字入力(正しいキータッチ、ホームポジション、ローマ字入力)を身につける学習活動。 -国語  ローマ字学習は従前第4学年で学習してきた内容であるが、現在の情報化された家庭環境、TVなどの影響で小学校入学前の幼児たちがアルファベットが読める現状などのもと第3学年で学習する内容となった。従来のローマ字学習の目的は日常使われている簡単な単語をローマ字読みしたりローマ字で書くということで終わっていた。しかし、コンピュータで調べ学習するためにキーワードを入力することが必要となり、コンピュータへの文字の入力ができるようになる必要があるというその先の目的が見えてきた。明確なニーズが誕生したことになり、児童はモチベーションを持って学習を進めていくことができるであろう。また、楽しみながらローマ字を習得するために、児童向けのキーボード練習サイト「キーボー島アドベンチャー」などを活用したい。 **ファイル保存(まとめ、整理、ツリー構造)を身につける学習活動。 -総合的な学習の時間  地域を流れる川について、学習活動を行うとする。その川に住む、様々な水中生物の写真を撮り、学校のサーバに保存するときに、川のどの部分で、どの時期にとったかなどの区分を意識し、フォルダを用いて情報を整理させる。また、デジタルカメラで撮影した映像自体に適切な名前をつけたり、フォルダに適切なフォルダ名を設定するということを児童に考えさせながら指導したい。また、フォルダ作成時はツリー構造を理解させ、分類する方法の一助としたい。 **インターネットでの検索(検索方法、アドレス入力)を身につける学習活動。 -社会 第6学年の内容「ア 我が国の歴史上の主な事象」において、体験的な活動が困難な場合が多いので、図書館やインターネットで歴史上の人物について情報を収集する。 **電子メールの送受信(基本的なメーラーの操作、文章の書き方、相手のことを思いやる心)を身につける学習活動 -社会 第5学年の内容「イ 我が国の農業や水産業(食料生産)の様子と国民生活との関連」において、食料生産の盛んな地域について調査する際,生産地の方にメールでインタビューを行ったり、お礼のメールを適切な文言を用いて作る活動。「ウ 我が国の工業の様子と国民生活との関連」において、地域の姉妹都市の学校に、メールを送って調査する活動など、遠隔地であることの不利を情報ネットワークの活用により克服する体験を行わせたい。 **その他の情報活用の実践力を育成する学習活動。 -国語  「国語」という科目自体が、情報教育活動ではあるが、話すこと聞くことで情報活用能力の基礎的な部分を取り上げている。学習活動例としては、「先生や身近な人に尋ねたことを,必要な事柄とそうでない事柄とに区別する」活動が考えられ、これにより、「Aア伝えたい事を選び,自分の考えが分かるように筋道を立てて,相手や目的に応じた適切な言葉遣いで話すことができる。Bイ 書く必要のある事柄を収集したり選択したりすることができる。」という部分が達成される。 -理科 第5学年の内容「生命の連続性」において、水中の小さな生物や微生物を観察し、自分が見つけた観察対象を電子黒板に拡大表示し、説明をする。 -算数 「図表・グラフ化」することで、数学的な思考力・表現力の育成を図ったり、自分の考えを分かりやすく説明したり,互いに自分の考えを表現し伝え合ったりする。 -外国語活動  意外なことにキーワード検索で、あまりヒットしなかったのが、外国語活動である。しかし、外国語活動の授業には、情報化する要素が多々ある。例えば、外国の学校の教室と日本の教室をTV会議システムでつなぐ。語彙力を増やすために、絵を表示するフラッシュ教材を作り、児童に提示し、英語を答えさせるなどである。 -社会 第3学年の内容「ウ 地域の人々の健康な生活や良好な生活環境を守るための諸活動」において、飲料水、電気、ガスなどを供給する仕事に携わる人々から話を聞いたり、施設を見学し調べ、節水や節電など資源の有効な利用の必要性を話し合い、ポスターにまとめ、プレゼンテーションを行う。 ***情報の科学的な理解を育成する学習活動 小学校での「情報の科学的な理解」の学習活動は非常にすくない。 -社会 次に取り上げる「情報社会に参画する態度」の育成と重なるが、第5学年の内容「我が国の情報産業や情報化した社会の様子」の活動の一環で「信憑性を確かめる方法を知り、いくつかの方法で自分の扱う情報の信憑性を確かめることができる。」活動を行えば、「情報の科学的な理解」に当てはまる。具体的には、「ちらし」を教材として扱う社会科の授業があるが、身近なものをネタに、初歩段階のメディアリテラシーを指導することができる。 ***情報社会に参画する態度の視点から -道徳  道徳では、「情報モラルに必要性や情報に対する責任」に軸を置き、指導したい。個人情報、肖像権、著作権、受け手の気持ちを考えたコミュニケーションなどの指導がポイントとなる。具体的な活動は、携帯電話の使い方を取り上げるのが良いだろう。例えば、携帯電話には、多くの機能がある。カメラ機能が付属していることから発生し得る問題点は何かをグループで考え、発表すれば、他の機能の様々な問題点も浮き彫りになり、多くのことを児童自ら考えるようになる。また、基本的な部分は、家庭でも指導するべきであるが、子供たちの中に広がるメールの返事は5分以内に出すルールなどは、適切な情報手段の活用法ではないことを全体に教え込むことも大切である。 -社会 第5学年次に「我が国の情報産業や情報化した社会の様子」という単元が設けられている。「情報化の進展は、自分たちの生活にどのような影響を及ぼしているか話し合い、様々な情報に対して、どのようなことに注意して生活すべきかをそれぞれのメディア毎にまとめてみる。」、「新聞社やテレビ局を取材し、情報を発信する側の責任や、影響の大きさ、情報を受け取る側の心構えを考え、学級新聞にまとめる。」などの学習活動を通して、「情報や情報技術が果たしている役割や影響」を理解させる。 ***まとめ(配慮を要する部分) -傾向としては、小学校段階では、その多くが「情報活用の実践力の育成」をねらったものとなっている。一方で、「情報社会に参画する態度」については、社会科における情報産業の理解、著作権などについて考えることも入っている。極端に少ないのが、「情報の科学的理解」に関する活動である。「情報社会に参画する態度」と重なってしまう社会科の「テレビやラジオ,新聞,電話,コンピュータなどの様々な情報手段が普及していることや,人々は放送や新聞などの産業が発信する情報を日常の生活や産業活動の多方面で活用し,様々な影響を受けていること」を理解させる授業の一環として、「信憑性」を確かめる活動や「メディアの特性」や「情報伝達過程」を理解する活動をあげることができるが、極端に少ない。 -ギャップ項目 --アナログとデジタルの理解。その特徴。 --IDやパスワードの大切さ。 --デジカメ科学的理解。ピクセルなど解像度の観念、撮影方法の指導。 --グラフの種類。適切なグラフの選択。(円グラフ、帯グラフは算数にある?) --ファイル操作は、コピーと移動の観念。デバイスの違い。バックアップの大切さ。デジタル情報の紛失。ハードディスクのクラッシュ。 --携帯電話の健康上の問題。(体育?道徳?)パケット代。科学的理解はない。