**4. 小学校の情報教育の概要  小学校での情報教育の特徴は、中学校の「技術家庭」、高校の共通教科「情報」という情報教育を主に扱う教科が独立して設置されず、各教科の中学年、高学年を中心にして、その科目の目標と共に、「情報活用の実践力の育成」と「情報社会に参画する態度の育成」を目指しているという点である。従前の学習指導要領では、小学校においてのICT活用は、各教科の目標を達成するための手段として位置づけられており、あくまでも情報教育は中学校の「技術家庭」で始められた。しかし、新学習指導要領では、各教科の目標とともに並列して、どのような情報活用能力を育てていくべきかというねらいが記されている。つまり、これまでとは異なり、情報教育をあらゆる場で積極的に行うことを明記している。これは、韓国、シンガポール、インド、フィンランド、アメリカなど初等教育よりICT教育を積極的に取り入れている国々と同様か超える理念のもと、小学校教育から我が国を変えていこうとする大きな流れだと言える。  ひとりの学級担任が、ほとんどすべての教科を教える小学校教育では、担任が広い視野でクロスカリキュラム的に情報教育を各教科に埋めこむことができる。小学校卒業時、または、各学年の終了時に児童につけたい情報活用能力の具体的なイメージを持てば、適切な教科で児童の発達段階に合ったタイミングにおいて、授業に情報教育を埋めこむことができる。また、地域や学校の特色、児童の特性など実際の現場の状況に合わせた指導ができたり、情報活用能力が十分に身についていないと感じた場合は、スパイラル的に他の場面で繰り返し指導できたり、非常に柔軟な展開が期待できる。これは、情報機器の取扱方法を教え込まなくてはならない「技能」習得を重視した内容が多い小学校では、アドバンテージだと言える。 **5. 小学校卒業時までに身に付けるべき情報活用能力  改正された小学校学習指導要領の「第1章総則 第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」において、『(9) 各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。』と書かれている。「各教科等の指導に当たっては」と「適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」という部分は前述したとおりである。そして、中盤のコンピュータリタラシーに関する記述は、コンピュータやネットワークに慣れ親しむだけでなく、操作方法やモラルを身に付け、適切に活用できるレベルを求めている。  「コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作」は、@キーボードなどによる文字入力、A電子ファイルの保存・整理、Bインターネットの閲覧、C電子メールの送受信の4つの技能が、総則の解説では取り上げられている。また、「情報手段を適切に活用できる」能力の具体例は、文章の編集、図表の作成、様々な方法で文字や画像などの情報を収集すること、またそれらを調べたり、比較するという学習活動、情報手段を使っての(遠隔地との)交流、調べ物をまとめたり発表したりする学習活動が挙げられている。  コンピュータの基本的な操作は中学校では取り上げられず、小学校卒業時までに確実に身に付けておかねばならない。ちょうど高校の普通教科「情報A」の内容が小学校に降りてきたという状態だ。生まれた時からインターネットや電子機器が身近に存在する中で成長してきた児童たちに対して、情報教育を行っていくためには、教師が教科情報担当教諭レベルの情報活用能力を身に付けていなければ、厳しいかもしれない。しかし、クロスカリキュラムで情報教育を行っていくというのは小学校教員にしかできないことなので、小学校卒業時までにどのような情報活用能力を児童の中に育てていくのか、全体像を常に意識して学年毎の年間カリキュラムを構築していきたい。 **6. 小学校での情報教育を4観点から考える  指導要領の文章をキーワード検索したものを前提として作った情報教育活動の表を分析する。まず、低学年では、情報に慣れ親しむことが中心となり、明記されている情報活用能力を育成する活動は非常に少ない。しかし、これは、まだローマ字での変換を理解し、キーボードの使い方を習得して、本格的な情報活用の実践を育成し始めるのが3年生からという理由もある。  次に中学年の傾向であるが、最初の部分の「知識・理解」と、最後の部分の「関心・意欲・態度」が非常に少ない。つまり「技能スタート、思考・判断・表現エンド型」という特徴が見えてくる。実はこの傾向は小学校の情報教育全般で言える。これは「情報の科学的な理解」の分野の内容が、小学校では極端に少ないことが影響している。  最後に、高学年になると「知識・理解」から始まり、「関心・意欲・態度」までカバーする内容が増えてくる。具体的な例では、社会科・第5学年次に「我が国の情報産業や情報化した社会の様子」という単元が設けられている。「情報化の進展は、自分たちの生活にどのような影響を及ぼしているか話し合い、様々な情報に対して、どのようなことに注意して生活すべきかをそれぞれのメディア毎にまとめてみる。」、「新聞社やテレビ局を取材し、情報を発信する側の責任や、影響の大きさ、情報を受け取る側の心構えを考え、学級新聞にまとめる。」などの学習活動を通して、「情報や情報技術が果たしている役割や影響」を理解させ、関心を持たせるところまでの活動が想定できる。  少々意外であるのが、図画工作と体育で「知識・理解」と「関心・意欲・態度」をカバーしている部分である。これは、図画工作において「著作権」を、体育において「コンピュータやインターネットの使用が長くなり過ぎると,生活のリズムを崩すなどの影響が起こることを知り,健康に注意しながら利用すること」を取り上げているからである。 **7. まとめ  小学校での情報教育の成功のポイントは、(1)各教科に自然な形で「技能」と「思考・判断・表現」をピンポイントで埋め込めるか、と(2)総合的な学習の時間において、いかに「知識を理解し、技能を身に付け、これらをもとに思考・判断・表現し、関心や意欲を持った態度を養う流れを作っていけるかどうかがポイントである。  これは二者択一ではなく、両方の指導方法を駆使し、クロスカリキュラム的に情報教育活動を増加させねばならないということを意味している。小学校でどれだけ多くの情報教育の場を提供できるかは、教育のデザインを行うカリキュラム担当者や実際の授業案を作る学級担任の腕の見せ所であると言える。