小学校学習指導要領解説 外国語活動編 平成20年8月 文部科学省 --1/32-- 目次 第1章 総説 …………………………………………………………………… 1 1 改訂の経緯 ……………………………………………………………… 1 2 小学校外国語活動新設の経緯 ………………………………………… 3 3 小学校外国語活動新設の趣旨 ………………………………………… 5 4 小学校外国語活動の目標及び内容等の要点 ………………………… 6 第2章 外国語活動の目標及び内容 ………………………………………… 8 第1節 外国語活動 ………………………………………………………… 8 1 目標 …………………………………………………………………… 8 2 内容 ……………………………………………………………………10 3 指導計画の作成と内容の取扱い ……………………………………14 --2/32-- -1- 第1章総説 1 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領 域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時代で あると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイディアなど 知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や文明との共 存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確かな学力,豊 かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがますます重要に なっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我が 国の児童生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用する 問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間など の学習意欲,学習習慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたちの教 育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて,国の 教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対して要請し, 同年4月から審議が開始された。この間,教育基本法改正,学校教育法改正が行われ, 知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに,基礎的・基本的な知識 ・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し(学校教育法第30条第2 項),学校教育においてはこれらを調和的にはぐくむことが必要である旨が法律上規 定されたところである。中央教育審議会においては,このような教育の根本にさかの ぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か月にわたる審議の末,平成20年1月 --3/32-- -2- に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善に ついて」答申を行った。 この答申においては,上記のような児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 D 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方向 性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切り拓 ひら く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育の新し い理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新たに義務 教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正されたことを 十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては,読み・書き・ 計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学年では体験的な 理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して習得させ,学習の 基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の上に,Cの思考力・ 判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの作成,論述など知識・ 技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させるとともに,これらの学習 活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学校低・中学年の国語科にお いて,音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着させた上で,各教科等にお いて,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り組む必要があると指摘した。 また,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実については,徳育や体育 の充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能力の重視や体験活動の充実により, 他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これらとともに生きる自分への自信を持た --4/32-- -3- せる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学校教育法施行規則を改正するとともに, 幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小学校学 習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心に内容を前 倒しして実施するとともに,平成23年4月1日から全面実施することとしている。 2 小学校外国語活動新設の経緯 今回の学習指導要領改訂により,小学校第5学年及び第6学年に外国語活動が新設 された。ここに至るまでに,小学校における外国語教育はさまざまな審議会等で検討 されてきた。既に昭和60年代からの課題であり,およそ,20年間の経緯を経て,今回 の外国語活動新設となった。その経緯は次の通りである。 (1) 英語教育の開始時期の見直し 昭和61年4月,臨時教育審議会「教育改革に関する第二次答申」の第3部第1章(3) 「外国語教育の見直し」において,「まず,中学校,高等学校等における英語教育が 文法知識の修得と読解力の養成に重点が置かれ過ぎていることや,大学においては実 践的な能力を付与することに欠けていることを改善すべきである。今後,各学校段階 における英語教育の目的の明確化を図り,学習者の多様な能力・進路に適応するよう 教育内容等を見直すとともに,英語教育の開始時期についても検討を進める。その際, 一定期間集中的な学習を課すなど教育方法の改善についても検討する」とされた。 (2) 国際理解教育の一環としての導入 その後,平成4年以降,国際理解教育の一環としての英語教育を実験的に導入する 研究開発学校が指定され,平成8年7月の第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀 を展望した我が国の教育の在り方について」において,「小学校における外国語教育 については,教科として一律に実施する方法は採らないが,国際理解教育の一環とし て,『総合的な学習の時間』を活用したり,特別活動などの時間において,地域や学 --5/32-- -4- 校の実態等に応じて,子供たちに外国語,例えば英会話等に触れる機会や,外国の生 活・文化などに慣れ親しむ機会を持たせることができるようにすることが適当である と考えた。」「(その際は,)ネイティブ・スピーカーや地域における海外生活経験者 などの活用を図ることが望まれる」とされた。これにより,平成10年に改訂された学 習指導要領により,「総合的な学習の時間」が設けられるとともに,学習指導要領の 総則において,総合的な学習の時間の取扱いの一項目として,「国際理解に関する学 習の一環としての外国語会話等を行うときは,学校の実態等に応じ,児童が外国語に 触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい 体験的な学習が行われるようにすること」と規定された。これにより,全国の小学校 において,いわゆる英語活動が広く行われることとなった。 (3) 外国語活動の新設に向けて 平成14年7月に文部科学省によって策定された「『英語が使える日本人』の育成の ための戦略構想」の中で,小学校英語活動実施状況調査が行われ,平成15年度には全 国の小学校の約88%が何らかの形で英語活動を実施していることが分かった。その割 合は年々上昇し,平成19年度には約97%にまで達している。このような状況から,平 成18年3月,中央教育審議会外国語専門部会から「小学校における英語教育について (外国語専門部会における審議の状況)」が出され,その中で,「高学年においては, 中学校との円滑な接続を図る観点からも英語教育を充実する必要性が高いと考えられ る。英語活動の実施時間数が,平均で13.7単位時間(第6学年の場合)である現 状を踏まえつつ,教育内容としての一定のまとまりを確保する必要性を考慮すると, 外国語専門部会としては,例えば,年間35単位時間(平均週1回)程度について共 通の教育内容を設定することを検討する必要があると考える」とされた。これを受け, 平成20年1月中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校 の学習指導要領等の改善について(答申)」の中で,小学校段階の外国語活動につい ては,「小学校段階にふさわしい国際理解やコミュニケーションなどの活動を通じて, コミュニケーションへの積極的な態度を育成するとともに,言葉への自覚を促し,幅 広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うことを目的とする外国語活動について --6/32-- -5- は,現在,各学校における取組に相当ばらつきがあるため,教育の機会均等の確保や 中学校との円滑な接続等の観点から,国として各学校において共通に指導する内容を 示すことが必要である。その場合,目標や内容を各学校で定める総合的な学習の時間 とは趣旨・性格が異なることから,総合的な学習の時間とは別に高学年において一定 の授業時数(年間35単位時間,週1コマ相当)を確保することが適当である」とし, 外国語活動の新設が答申されたのである。 (4) 外国語活動の新設 文部科学省は,この答申を受けて,学習指導要領の改訂を行った。そして,平成20 年3月28日に小学校学習指導要領を改訂し,小学校第5学年及び第6学年に外国語活 動が位置付けられたのである。 3 小学校外国語活動新設の趣旨 今回の外国語活動の新設は,中央教育審議会から次のように答申されたことを踏ま えたものである。 ○ 社会や経済のグローバル化が急速に進展し,異なる文化の共存や持続可能な発 展に向けて国際協力が求められるとともに,人材育成面での国際競争も加速して いることから,学校教育において外国語教育を充実することが重要な課題の一つ となっている。 ○ 我が国においては,外国語教育は中学校から始まることとされており,現在, 中学校においてあいさつ,自己紹介などの初歩的な外国語に初めて接することと なる。しかし,こうした活動はむしろ小学校段階での活動になじむものと考えら れる。また,中学校外国語科では,指導において聞くこと及び話すことの言語活 動に重点を置くこととされているが,同時に,読むこと及び書くことも取り扱う ことから,中学校に入学した段階で4技能を一度に取り扱う点に指導上の難しさ があるとの指摘もある。 こうした課題等を踏まえれば,小学校段階で外国語に触れたり,体験したりす --7/32-- -6- る機会を提供することにより,中・高等学校においてコミュニケーション能力を 育成するための素地をつくることが重要と考えられる。 ○ 小学校段階における英語活動については,現在でも多くの小学校で総合的な学 習の時間等において取り組まれているが,各学校における取組には相当のばらつ きがある。このため,外国語活動を義務教育として小学校で行う場合には,教育 の機会均等の確保や中学校との円滑な接続等の観点から,国として各学校におい て共通に指導する内容を示すことが必要である。 この場合,目標や内容を各学校で定める総合的な学習の時間とは趣旨・性格が 異なることとなる。また,小学校における外国語活動の目標や内容を踏まえれば 一定のまとまりをもって活動を行うことが適当であるが,教科のような数値によ る評価にはなじまないものと考えられる。これらのことから,総合的な学習の時 間とは別に高学年において一定の授業時数(年間35単位時間,週1コマ相当) を確保する一方,教科とは位置付けないことが適当と考えられる。 なお,外国語活動においては,中学校における外国語科では英語を履修することが 原則とされているのと同様,英語を取り扱うことを原則とすることが適当であること も提言されている。 4 小学校外国語活動の目標及び内容等 中央教育審議会答申を踏まえ,外国語活動の教育課程上の位置付け,目標及び内容 等に関して,次のようにした。 (1) 教育課程上の位置付け 教育課程における外国語活動の位置付けは,次のようにした。 ・ 外国語活動として,第5学年及び第6学年において,それぞれ年間35単位時間 の授業時数を確保した。 ・ 英語を取り扱うことを原則とした。 --8/32-- -7- (2) 目標の要点 外国語活動の目標については,次のようにした。 ・ 外国語活動の目標をコミュニケーション能力の素地を養うこととし,中学校と の連携を図った。 ・ 外国語を用いて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成に重 点を置いた。 ・ 外国語活動の目標については,学年ごとに示すのではなく,より弾力的な指導 ができるよう,2学年間を通した目標とした。 (3) 内容の要点 内容については,外国語活動の目標を受けて次のようにした。 ・ 外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図るための内容と,日本と外国 の言語や文化について,体験的に理解を深めるための内容との二つとした。 ・ 目標にある「外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませ」ることは,日本と 外国の言語や文化について,体験的に理解を深めさせる内容の中に含めた。 (4) 外国語活動における「指導計画の作成と内容の取扱い」の要点 外国語活動における指導計画の作成と内容の取扱いについては,次のようにした。 ・ 学年ごとの目標については,各学校において児童や地域の実態に応じて,適切 に定めることとした。 ・ 言語や文化については体験的な理解を図ることとし,指導内容が必要以上に細 部にわたったり,形式的になったりしないようにすることとした。 ・ 指導計画の作成や授業の実施に当たっては,学級担任の教師又は外国語活動を 担当する教師が行うこととした。 ・ 道徳の時間などとの関連を考慮しながら指導することとした。 --9/32-- -8- 第2章 目標及び内容 第1節 外国語活動 1目標 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニ ケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣 れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。 外国語活動の目標は次の三つの柱から成り立っている。 @ 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深める。 A 外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図 る。 B 外国語を通じて,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる。 以上の三つの柱を踏まえた活動を統合的に体験することで,中・高等学校等におけ る外国語科の学習につながるコミュニケーション能力の素地をつくろうとするもので ある。 @は,外国語活動において,児童のもつ柔軟な適応力を生かして,言葉への自覚を 促し,幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うため,国語や我が国の文化を 含めた言語や文化に対する理解を深めることの重要性を述べたものである。その際, 知識のみによって理解を深めるのではなく,体験を通して理解を深めることとしてい る。文化に関しては,理解を深めることにとどまらず,例えば,地域や学校などを紹 介したり,地域の名物などを外国語で発信することなども考えられる。なお,体験的 に理解を深めることで,言葉の大切さや豊かさ等に気付かせたり,言語に対する興味 ・関心を高めたり,これらを尊重する態度を身に付けさせたりすることは,国語に関 する能力の向上にも資すると考えられる。 --10/32-- --10/32-- -9- Aは,コミュニケーション能力の素地を育成するためには,コミュニケーションへ の積極的な態度を身に付けることが重要であることを述べたものである。コミュニケ ーションへの積極的な態度とは,日本語とは異なる外国語の音に触れることにより, 外国語を注意深く聞いて相手の思いを理解しようとしたり,他者に対して自分の思い を伝えることの難しさや大切さを実感したりしながら,積極的に自分の思いを伝えよ うとする態度などのことである。現代の子どもたちが,自分の感情や思いを表現した り,他者のそれを受け止めたりするための語彙や表現力及び理解力に乏しいことによ り,他者とのコミュニケーションが図れないケースが見られることなどからも,コミ ュニケーションを図ろうとする態度の育成が必要であると考える。Aを設定したのは, そのためである。なお,この場合,ジェスチャーなど言葉によらないコミュニケーシ ョンの手段もコミュニケーションを図る上で大切であることから,体験を通してさま ざまなコミュニケーションの方法に触れさせることも大切である。 Bは,児童の柔軟な適応力を生かして,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ, 聞く力などを育てることが適当であることを述べたものである。なお,小学校段階の 外国語の学習については,聞くことなどの音声面でのスキル(技能)の高まりはある 程度期待できるが,実生活で使用する必要性が乏しい中で多くの表現を覚えたり,細 かい文構造などに関する抽象的な概念を理解したりすることを通じて学習の興味・関 心を持続することは,児童にとっては難しいと考えられる。したがって,中学校段階 の文法等を単に前倒しするのではなく,あくまでも,体験的に「聞くこと」「話すこ と」を通して,音声や表現に慣れ親しむこととしている。 これらをとらえると,@A及びBは不可分に結びついているものである。異なる言 語や文化を理解したり,他者と積極的にコミュニケーションを図ったりすることは, これからの社会に生きる子どもたちにとっては,重要なことである。その際,特に, パターン・プラクティス(表現習得のために繰り返し行う口頭練習)やダイアローグ (対話)の暗唱など,Bの音声や基本的な表現の習得に偏重して指導したり,「聞く ことができること」や「話すことができること」などのスキル向上のみを目標とした 指導が行われたりすることは,本来の外国語活動の目標とは合致しない。 また,@の言語や文化について体験的に理解を深めたり,Aの積極的にコミュニケ --11/32-- -10- ーションを図ろうとする態度を育成したり,Bの外国語の音声や基本的な表現に慣れ 親しませたりする際には,これらすべてを「外国語を通じて」行うことを明記してい る。これは,言語や文化について体験的に理解を深めたり,積極的にコミュニケーシ ョンを図ろうとする態度を育成したりするには,国語などを通じたさまざまな方法が 考えられるが,外国語活動は,「外国語を通じて」という特有の方法によって,この 目標の実現を図ろうとするものであることを明確にしたものである。 さらに,「コミュニケーション能力の素地」とは,小学校段階で外国語活動を通し て養われる,言語や文化に対する体験的な理解,積極的にコミュニケーションを図ろ うとする態度,外国語の音声や基本的な表現への慣れ親しみを指したものである。こ れらは,中・高等学校の外国語科で目指すコミュニケーション能力を支えるものであ り,中学校における外国語科への円滑な移行を図る観点から,目標として明示したも のである。 2内容 前記の外国語活動の目標を踏まえ,次のように内容を設定している。 〔第5学年及び第6学年〕 1 外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図ることができるよう,次の 事項について指導する。 (1) 外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさを体験すること。 (2) 積極的に外国語を聞いたり,話したりすること。 (3) 言語を用いてコミュニケーションを図ることの大切さを知ること。 2 日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深めることができるよう, 次の事項について指導する。 (1) 外国語の音声やリズムなどに慣れ親しむとともに,日本語との違いを知り, 言葉の面白さや豊かさに気付くこと。 (2) 日本と外国との生活,習慣,行事などの違いを知り,多様なものの見方や --12/32-- -11- 考え方があることに気付くこと。 (3) 異なる文化をもつ人々との交流等を体験し,文化等に対する理解を深める こと。 (1) 内容の構成 学年ごとに内容を示すのではなく,2学年間を通じて達成される内容を示した。こ れは,各学校が児童の実態に応じて,学年ごとの指導内容を設定することが適切であ ると考え,また,必要な内容を繰り返して指導するなど,2学年間を通して柔軟に指 導することが適当と考えたからである。 また,前記の目標は,「言語と文化に関する事項」,「コミュニケーションに関する 事項」,「外国語の音声や基本的な表現に関する事項」の三項目から成り立っている が,内容としては,1の「主としてコミュニケーションに関する事項」と,2の「主 として言語と文化に関する事項」とで構成している。これは,外国語活動の目標を実 現するためには,内容面では,異なる言語や文化を理解したり,他者と積極的にコミ ュニケーションを図ったりすることとし,こうした1及び2の内容に関する活動を外 国語を通して行うことで,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむことが大切であ るからである。 (2) コミュニケーションに関する事項 「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」を育成するためには,実際に コミュニケーションを体験させることが大切である。そこで,積極的にコミュニケー ションを図ることができるように,(1),(2),(3)の指導内容をそれぞれ設定した。 (1) 外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさを体験すること。 外国語活動では,単に児童が喜ぶような楽しい活動を行えばよいというものではな い。児童が使える外国語を駆使し,さまざまな相手と互いの思いを伝え合い,コミュ ニケーションを図ることの楽しさを実際に体験することが大切である。 --13/32-- -12- これは,自転車に乗ることができるようになることを例に挙げると,自転車の構造 や乗り方についての知識がどれだけあったとしても,実際に自転車に乗らなければ, 自転車に乗ることができるようにはならず,乗る楽しさも経験することができないと いうことと同じである。つまり,コミュニケーションの楽しさを味わうことなしに, コミュニケーションへの積極的な態度を育成することは難しいのである。 このように,外国語活動においては,まず,「外国語を用いてコミュニケーション を図る楽しさ」を体験させることが大切なのである。 (2) 積極的に外国語を聞いたり,話したりすること。 我が国におけるこれまでの外国語教育は,中学校から始まることとされていた。従 来は,あいさつや自己紹介など,音声を中心とした活動が入門期の活動として行われ ていた。しかし,こうした活動は,むしろ柔軟な適応力のある小学校段階になじむも のである。 また,従来の中学校外国語科では,指導において「聞くこと及び話すこと」の言語 活動に重点を置くこととされていたが,同時に「読むこと及び書くこと」も取り扱う ことから,中学校に入学した段階で4技能を一度に取り扱う点で,指導上の難しさも 指摘されていた。 そこで,外国語活動では,外国語を初めて学習することを踏まえ,児童に過度の負 担をかけないために,「外国語を聞いたり,話したりすること」を主な活動内容に設 定することとした。 (3) 言語を用いてコミュニケーションを図ることの大切さを知ること。 社会や経済のグローバル化が急速に進展し,異なる文化の共存や持続可能な発展に 向けた国際協力が求められている。また,人材育成面での国際競争も加速している。 このような社会にあっては,言語を用いて他者とのコミュニケーションを図っていく ことが大切である。 --14/32-- -13- さらに,「1 目標」で述べたように,現代の子どもたちは自分や他者の感情や思 いを表現したり,受け止めたりする表現力や理解力に乏しいとされる。児童が豊かな 人間関係を築くためには,言語によるコミュニケーション能力を身に付けることが求 められる。そこで,外国語活動では,多くの表現を覚えたり,細かい文法事項を理解 したりすることよりも,実際に言語を用いてコミュニケーションを図る体験を通して, それらの大切さに気付かせることが重要である。児童に,普段使い慣れていない外国 語を使用させることによって,言語を用いてコミュニケーションを図ることの難しさ を体験させるとともに,その大切さも実感させることが重要である。 (3) 言語と文化に関する事項 日本と外国との言語や文化について,体験的に理解を深めることができるように, (1),(2),(3)の指導内容をそれぞれ設定した。 (1) 外国語の音声やリズムなどに慣れ親しむとともに,日本語との違いを知り, 言葉の面白さや豊かさに気付くこと。 外国語活動においては,多くの表現を覚えたり,細かい文構造などに関する抽象的 な概念について理解させたりすることは目標としていない。一方,音声面に関しては, 児童の柔軟な適応力を十分生かすことが可能である。 そこで,外国語活動では,外国語のもつ音声やリズムなどに慣れ親しませることが 大切になる。例えば,日本語のミルク(mi-ru-ku)は3音節であるが,英語のmilkは 1音節である。これを日本語のようなリズムで発音すると,英語に聞こえず,意味も 伝わらない。そこで,実際に英語で歌ったりチャンツをしたりすることを通して,英 語特有のリズムやイントネーションを体得することにより,児童が日本語と英語との 音声面等の違いに気付くことになる。 また,例えばbrotherという単語を聞いたり,発音したりすることにより,児童は 日本語にない/r/や//の音に触れたり,慣れ親しんだりすることになる。 さらに,brotherという単語が,「兄」と「弟」の両方の意味で使えることを知り, --15/32-- -14- 日本語と英語との意味上の違いについても気付くことができる。 このような体験を通して,日本語との違いを知ることで,言葉の面白さや豊かさに 気付かせることが大切である。 (2) 日本と外国との生活,習慣,行事などの違いを知り,多様なものの見方や考 え方があることに気付くこと。 外国語活動では,外国の文化のみならず我が国の文化を含めたさまざまな国や地域 の生活,習慣,行事などを積極的に取り上げていくことが期待される。また,その際 には,児童にとって身近な日常生活における食生活や遊び,地域の行事などを取り扱 うことが適切である。外国語活動を通して,多様な文化の存在を知り,また,日本の 文化と異文化との比較により,さまざまな見方や考え方があることに気付くとともに, 我が国の文化についても理解が深まることが期待される。これらの事項は,知識とし て指導するのではなく,体験的な活動を通して具体的に気付かせていくことが大切で ある。 (3) 異なる文化をもつ人々との交流等を体験し,文化等に対する理解を深めるこ と。 前項の(2)で触れたように,「日本と外国との生活,習慣,行事などの違いを知り, 多様なものの見方や考え方があることに気付くこと」は,外国語活動における大切な 指導事項である。この事項は,体験的な活動を通して指導されるべきものである。そ こで,ネイティブ・スピーカー(ALTや留学生など)や地域に住む外国人など,異 なる文化をもつ人々との交流を通して,体験的に文化等の理解を深めることが大切に なる。 3 指導計画の作成と内容の取扱い --16/32-- -15- 1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。 (1) 外国語活動においては,英語を取り扱うことを原則とすること。 外国語のうち,特に「英語を取り扱うことを原則とする」とされているのは,現在 の状況では,英語が世界で広くコミュニケーションの手段として用いられている実態 や,中学校における外国語科は英語を履修することが原則とされていることなどを踏 まえたものである。 「原則とする」とは,学校の創設の趣旨や地域の実情,児童の実態などによって, 英語以外の外国語を取り扱うこともできるということである。 英語以外の外国語を取り扱う場合には,中学校における外国語科との関係にも十分 配慮する必要がある。なお,英語を取り扱う際にも,「外国語を通じて,言語や文化 について体験的に理解を深め」るという目標に資するよう,英語以外のさまざまな外 国語に触れたり,英語圏以外の文化について理解を深めたりするよう工夫を行うこと は大切である。 (2) 各学校においては,児童や地域の実態に応じて,学年ごとの目標を適切に定 め,2学年間を通して外国語活動の目標の実現を図るようにすること。 この配慮事項は,指導計画の作成に当たって,2学年間を通して外国語活動の目標 の実現を図るため,各学校において学年ごとの目標を適切に定めることの必要性を述 べたものである。 これまでの総合的な学習の時間内での取組などを生かし,児童の実態や地域の実情 に応じて,各学校が主体的に学年ごとの目標を定め,2学年間を通して外国語活動の 目標の実現が図れるよう配慮しているものである。 (3) 第2の内容のうち,主として言語や文化に関する2の内容の指導については, 主としてコミュニケーションに関する1の内容との関連を図るようにすること。 --17/32-- -16- その際,言語や文化については体験的な理解を図ることとし,指導内容が必要 以上に細部にわたったり,形式的になったりしないようにすること。 この配慮事項では,言語や文化に関する内容の指導の際に留意する点について二点 述べている。 一つは,外国語を用いたコミュニケーションを通して,児童が日本語と外国語との 違いを知り,言葉の面白さや豊かさに気付くようにすることが大切であるということ である。例えば,外来語を扱った活動を通して,日本語と外国語との音声の違いに気 付かせたり,漢字やアルファベット,さまざまな地域で話される英語を扱った活動を 通して,言葉の表し方の違いや言葉の多様性を知り,言葉の面白さや豊かさに気付か せることができるのである。 もう一つは,言語や文化についての知識を単に与えるのではなく,言語や文化を題 材にして,児童が実際に外国語を聞いたり話したりするなどコミュニケーションを体 験することを通して,言語や文化について理解することが大切であるということであ る。日本と外国との生活,習慣,行事などを題材としてコミュニケーションを図った り,異なる文化をもつ人々と交流したりする体験を通して,児童がそれらの違いを知 り,多様なものの見方や考え方があることに気付くようにすることが重要である。例 えば,世界の食事を扱った活動を通して,国や地域によって食事の習慣が違うことや, ジェスチャーを扱った活動を通して,同じ意味を表すにも国や地域によってさまざま な方法があることに気付かせることができるのである。 なお,「必要以上に細部にわたったり,形式的になったりしないようにすること」 とは,例えば,単語を複数形にしたり,冠詞を付けたりすることなどを強調したり, 知識として理解させたりすること,また,機械的に語句や文を暗記させたりすること などで,児童の自己表現したいという気持ちやコミュニケーションを図ることへの興 味を失わせることのないように留意して指導する必要があることを示している。 (4) 指導内容や活動については,児童の興味・関心にあったものとし,国語科, 音楽科,図画工作科などの他教科等で児童が学習したことを活用するなどの工 --18/32-- -17- 夫により,指導の効果を高めるようにすること。 この配慮事項は,指導内容や活動の取扱いについて,留意すべき点を述べている。 これは,児童が進んでコミュニケーションを図りたいと思うような,興味・関心の ある題材や活動を扱うことが大切であるということである。 外国語活動の目標を実現するためには,児童にコミュニケーションを体験させる必 要がある。そこで,児童が興味・関心を示す題材を取り扱い,児童がやってみたいと 思うような活動を通して,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を養うこ とが大切である。 また,外国語活動の目標を踏まえると,広く言語教育として,国語教育をはじめと した学校におけるすべての教育活動と積極的に結び付けることが大切である。 さらに,児童が国語科,音楽科,図画工作科などの他教科等で得た知識や体験など を生かして活動を展開することで,児童の知的好奇心を更に刺激することにもなる。 国語科との関連については,日本語とは異なる外国語の音声や基本的な表現に慣れ 親しませることで,言葉の大切さや豊かさに気付かせ,言語に対する関心を高め,こ れを尊重する態度を身に付けさせることにつながるものであることから,国語力向上 にも相乗的に資するように教育内容を組み立てることが求められる。例えば,外来語 の成り立ちや語源である外国語との違いに気付かせたり,発表などを通して,話し手 の意図をとらえながら聞き,自分の考えと比べることができるようにしたりするなど の工夫が考えられる。 音楽科では,低学年でリズムをとったり,つくったりしており,中学年・高学年で は,音楽を特徴付けている要素としてのリズムに気を付けて音楽鑑賞をしたりしてい る。例えば,こうした学習が,チャンツや歌などの外国語の音声やリズムに慣れ親し む活動の中で生かされることによって,一層外国語に慣れ親しむことができるように するなどの工夫が考えられる。 また,図画工作科では,見たこと,感じたこと,想像したこと,伝えたいことを絵 や立体に表現したり,工作に表したりする学習をしている。そこで,こうした学習を 通して児童が作成した作品を,ショー・アンド・テル(発表活動)の中で他の児童に --19/32-- -18- 紹介するなどして,児童の外国語活動への興味・関心を一層高めることができると思 われる。 このように,他教科等の学習の成果を,外国語活動の中に適切に生かすためには, 相互の関連について検討し,指導計画に位置付けることが必要である。 (5) 指導計画の作成や授業の実施については,学級担任の教師又は外国語活動を 担当する教師が行うこととし,授業の実施に当たっては,ネイティブ・スピー カーの活用に努めるとともに,地域の実態に応じて,外国語に堪能な地域の人 たん 々の協力を得るなど,指導体制を充実すること。 前項の(4)では,外国語活動の目標から,児童が進んでコミュニケーションを図り たいと思うような,興味・関心のある題材や活動を扱うことが大切であるということ を述べた。このような題材や活動を設定するためには,児童のことをよく理解してい ることが前提となる。また,児童が初めて出会う外国語への不安を取り除き,新しい ものへ挑戦する気持ちや失敗を恐れない雰囲気を作り出すためには,豊かな児童理解 と高まり合う学習集団作りとが指導者に求められる。このようなことから,外国語活 動においても学級担任の教師の存在は欠かせない。また,外国語活動を専門に担当す る教師が授業を行う場合にも,学級担任の教師と同様に初等教育や児童を理解し,授 業を実施することが大切である。 以上のことから,学級担任の教師または外国語活動を専門に担当する教師が指導計 画の作成や授業の実施を行うことが求められるのである。 しかしながら,外国語活動を実施する際に,児童に活発なコミュニケーションの場 を与えたり,さまざまな国や地域の文化を児童に理解させるなど,国際理解教育の推 進を図ったりするためには,指導者に,ある程度,英語をはじめとする外国語を聞い たり話したりするスキルや,さまざまな国や地域の文化についての知識や理解が求め られる側面もあることから,ネイティブ・スピーカーや,外国生活の経験者,海外事 情に詳しい人々,外国語に堪能な人々の協力を得ることも必要と考えられる。外国語 活動の目標の実現のためには,児童に外国語を使ってコミュニケーションを図る体験 --20/32-- --20/32-- -19- をさせることが必要であり,その体験を通して,児童に自分の思いが相手に通じた, あるいは,相手の思いが分かったという,言語によるコミュニケーションの楽しさを 味わわせることが求められる。 前述のような観点から,特に指導計画の作成や授業の全体的なマネジメントについ ては,学級担任の教師や外国語活動を専門に担当する教師が中心となって外国語活動 を進めることが大切ではあるが,授業における外国語を用いた具体的な活動の場面で は,ネイティブ・スピーカーや外国語が堪能な人々とのコミュニケーションを取り入 れることで,児童の外国語を使ってコミュニケーションを図ろうとする意欲を一層高 めることにもなると考える。 (6) 音声を取り扱う場合には,CD,DVDなどの視聴覚教材を積極的に活用す ること。その際,使用する視聴覚教材は,児童,学校及び地域の実態を考慮し て適切なものとすること。 外国語活動の内容としての,外国語の音声やリズムに慣れ親しませる指導に際して は,児童に外国語の音声に触れさせることも大切である。しかし,ネイティブ・スピ ーカーや外国語に堪能な人々の協力が得にくい学校や地域もありうることや,外国語 を初めて学習する段階に当たる外国語活動では,ジェスチャーや表情などの視覚情報 もコミュニケーションを図る際には大切な要素となってくることを踏まえると,CD, DVDなどの視聴覚教材の積極的な活用も極めて有効である。その際,さまざまな視 聴覚教材が手に入ることを考えると,それらを使う目的を明確にし,児童や学校及び 地域の実態に応じたものを選択することが大切である。例えば,音声中心でコミュニ ケーションを体験させ,異文化理解を図ることを求めている外国語活動では,児童に とって身近なネイティブ・スピーカーの音声で作成されたものや,我が国も含めたさ まざまな国や地域の行事等を紹介したものを活用することも考えられる。過度に文字 を習得させることや,簡単な定型対話文を過度に暗記させ演じさせることなどを目的 にしたものを活用することは,外国語活動の目標にそぐわない。 --21/32-- -20- (7) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき, 道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容につい て,外国語活動の特質に応じて適切な指導をすること。 学習指導要領の第1章総則の第1の2においては,「学校における道徳教育は,道 徳の時間を 要 として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間はも かなめ とより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に 応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならない」と規定 されている。 これを受けて,外国語活動の指導においては,その特質に応じて,道徳について適 切に指導する必要があることを示すものである。 外国語活動における道徳教育の指導においては,学習活動や学習態度への配慮,教 師の態度や行動による感化とともに,以下に示すような外国語活動の目標と道徳教育 との関連を明確に意識しながら,適切な指導を行う必要がある。 外国語活動においては,目標を「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理 解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の 音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。」 と示している。 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深めることは,日本人として の自覚をもって世界の人々と親善に努めることにつながるものである。 次に,道徳教育の 要 としての道徳の時間の指導との関連を考慮する必要がある。 かなめ 外国語活動で扱った内容や教材の中で適切なものを,道徳の時間に活用することが効 果的な場合もある。また,道徳の時間で取り上げたことに関係のある内容や教材を外 国語活動で扱う場合には,道徳の時間における指導の成果を生かすように工夫するこ とも考えられる。そのためにも,外国語活動の年間指導計画の作成などに際して,道 徳教育の全体計画との関連,指導の内容及び時期等に配慮し,両者が相互に効果を高 め合うようにすることが大切である。 --22/32-- -21- 2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。 (1) 2学年間を通じ指導に当たっては,次のような点に配慮するものとする。 今回の学習指導要領では,第2の内容が2学年間一括して示されている。そのため, 内容の取扱いについて,2学年間を通して配慮すべき事項と各学年の指導において配 慮すべき事項とをそれぞれ示している。前者については次の5項目となっている。 ア 外国語でのコミュニケーションを体験させる際には,児童の発達の段階を 考慮した表現を用い,児童にとって身近なコミュニケーションの場面を設定 すること。 この配慮事項では,外国語でのコミュニケーションを体験させる際には,児童の発 達の段階を考慮して表現を選定するとともに,児童にとって身近なコミュニケーショ ンの場面を設定し,児童が積極的にコミュニケーションを図ることができるように指 導することの必要性を述べている。 外国語を初めて学習する段階であることを踏まえると,外来語など児童が聞いたこ とのある表現や身近な内容を活用し,高学年の児童の発達の段階や興味・関心にあっ た身近なコミュニケーションの場面で,外国語でのコミュニケーションを体験させる ことが大切である。 その際には,児童の発達の段階を考慮せず,過度に複雑なコミュニケーションを目 指そうとするあまり,児童に対して過度の負担を強いることのないように配慮したい。 また,例えば,将来の夢を扱った場合に,指導前に児童はどのような夢をもってい るのかを調べるなど,児童の主体的な自己表現を促すよう配慮する必要がある。 取り扱う表現や単語については,地域の実情や児童の実態を踏まえて,複雑になら ないように,例えば,理解にとどめるものとそうでないものとを示し,指導において 留意することも考えられる。 イ 外国語でのコミュニケーションを体験させる際には,音声面を中心とし, --23/32-- -22- アルファベットなどの文字や単語の取扱いについては,児童の学習負担に配 慮しつつ,音声によるコミュニケーションを補助するものとして用いること。 この配慮事項では,外国語活動の指導においては,聞くこと,話すこと,読むこと, 書くことの4技能の中で,あくまで音声によるコミュニケーションを重視し,聞くこ と,話すことを中心とする豊かなコミュニケーションを体験させることが大切である ということを示している。 音声面の指導については,さまざまな工夫をしながら聞くことの時間を確保し,日 本語とは違った外国語の音声やリズムなどに十分慣れさせるとともに,聞き慣れた表 現から話すようにさせるなど,児童にとって過度の負担にならないように指導するこ とが大切である。 また,コミュニケーションを体験させることを踏まえ,単なる表現の繰り返しの活 動だけではなく,コミュニケーションの場面に応じた表現ができるようにするにはど うすればよいかなど,実際のコミュニケーションの体験の中で児童に気付かせたり考 えさせたりする必要がある。 アルファベットなどの文字の指導については,例えば,アルファベットの活字体の 大文字及び小文字に触れる段階にとどめるなど,中学校外国語科の指導とも連携させ, 児童に対して過度の負担を強いることなく指導する必要がある。さらに,読むこと及 び書くことについては,音声面を中心とした指導を補助する程度の扱いとするよう配 慮し,聞くこと及び話すこととの関連をもたせた指導をする必要がある。 外国語を初めて学習する段階であることを踏まえると,アルファベットなどの文字 指導は,外国語の音声に慣れ親しんだ段階で開始するように配慮する必要がある。さ らに,発音と綴りとの関係については,中学校学習指導要領により中学校段階で扱う ものとされており,小学校段階では取り扱うこととはしていない。 ウ 言葉によらないコミュニケーションの手段もコミュニケーションを支える ものであることを踏まえ,ジェスチャーなどを取り上げ,その役割を理解さ せるようにすること。 --24/32-- -23- この配慮事項では,外国語でのコミュニケーションを体験させる際に,音声による コミュニケーションだけでなく,ジェスチャーや表情などを手がかりとすることで, 相手の意図をより正確に理解したり,ジェスチャーや表情などを加えて話すことで, 自分の思いをより正確に伝えたりすることができることなど,言葉によらないコミュ ニケーションの役割を理解するように指導することの必要性を述べている。 特に,外国語を初めて学習する段階における指導においては,児童が自ら理解した り運用したりできる表現が限られているため,ジェスチャーなどを活用して表現させ るなど,コミュニケーションを図る楽しさを体験させるようにする。 また,ジェスチャーには,同じ意味を表すものでも,その方法が地域によって違う ものがあったり,逆に表情については,地域が違っていてもよく似た意味であったり するなど,ジェスチャーや表情を比較する中で,日本と外国との違いに気付かせ,多 様なものの見方や考え方があることに気付かせるように配慮する必要がある。 エ 外国語活動を通して,外国語や外国の文化のみならず,国語や我が国の文 化についても併せて理解を深めることができるようにすること。 外国語活動を通して,さまざまな国の生活や文化と我が国の生活や文化との共通点 や相違点に気付くようにするとともに,言語や文化に関心をもち,尊重できる態度を 育成することが大切である。特に,外国語や外国の文化を扱う際には,さまざまな言 語に触れたり,人々の日常生活に密着した生活文化や学校に関するものなど幅広い題 材を取り扱ったりすることで,児童の興味・関心を踏まえ,特定のものに偏らないよ うに心がけることが重要である。同時に,国語や我が国の文化について理解を深める ことができるような指導を大切にしたい。例えば,さまざまな言語での「あいさつ」, 「数の数え方」,「遊び」,「文字」などを扱うことで,日本のお辞儀の習慣やひらが な,カタカナ,漢字などの文字,じゃんけんなど,共通点や相違点に気付かせること もできる。その際には,知識の伝達に偏らないように注意する必要がある。 これらの活動を通して,児童が国語や我が国の文化に対する理解を深め,世界の人 --25/32-- -24- 々と相互の立場を尊重,協調しながら交流を行っていけるようにすることをねらいと している。 オ 外国語でのコミュニケーションを体験させるに当たり,主として次に示す ようなコミュニケーションの場面やコミュニケーションの働きを取り上げる ようにすること。 この配慮事項では,「コミュニケーションの場面」や「コミュニケーションの働き」 について,特に具体例を示している。これは,日常の授業において,コミュニケーシ ョンの場面の設定や,コミュニケーションの働きを意識した指導を行う際の手がかり となるようにするためである。 「コミュニケーションの場面」とは,コミュニケーションが行われる場面を表して いる。これは「特有の表現がよく使われる場面」と「児童の身近な暮らしにかかわる 場面」の二つに分けて具体例を示した。 「コミュニケーションの働き」とは,コミュニケーションを図ることで達成できる ことを表している。具体的には「相手との関係を円滑にする」,「気持ちを伝える」, 「事実を伝える」,「考えや意図を伝える」及び「相手の行動を促す」であり,それ ぞれ代表的な例を示した。 なお,これらの例示は,外国語でのコミュニケーションを体験させる際の指導に当 たって取り上げる例であり,これらの例に限定する趣旨で示したものではない。 〔コミュニケーションの場面の例〕 (ア) 特有の表現がよく使われる場面 ・ あいさつ ・ 自己紹介 ・ 買物 ・食事 ・道案内など 以下に,それぞれのコミュニケーションの場面における特有の表現について,英語 の例を示す。 --26/32-- -25- ・あいさつ 例1A:Hello. How are you? B:I'm fine, thank you. 例2A:Nice to meet you. B:Nice to meet you, too. ・自己紹介 例Hi, my name is Taro. I like sushi. I don't like tennis. ・買物 例1A:Doyouhaveblueshoes? B:Yes, I do. / No, I don't. 例2A:What do you want? B:Banana, please. ・食事 例A:What would you like? B:Soup, please. ・道案内 例A:Where is the post office? B:Go straight. Turn left / right. など。 (イ) 児童の身近な暮らしにかかわる場面 ・ 家庭での生活 ・ 学校での学習や活動 ・ 地域の行事 ・ 子どもの遊び など 以下に,それぞれのコミュニケーションの場面における表現について,英語の例を 示す。 ・家庭での生活 例A:What time do you get up? --27/32-- -26- B:I get up at 6:00. ・学校での学習や活動 例On Monday, I study Japanese, math and science. ・地域の行事 例Let's clean the beach. ・子どもの遊び 例1Rock, scissors, paper. One, two, three. 例2Icanplaykendama. など。 〔コミュニケーションの働きの例〕 (ア) 相手との関係を円滑にする 以下に,それぞれのコミュニケーションの働きにおける表現について,英語の例を 示す。 ・礼を言う 例Thank you. ・褒める 例That's right. Good. ・丁寧表現 例A:What would you like? B:I'd like pizza, please. など。 (イ) 気持ちを伝える 以下に,このコミュニケーションの働きにおける表現について,英語の例を示す。 ・気持ちを伝える --28/32-- -27- 例A:How are you? B:I'm fine / happy. など。 (ウ) 事実を伝える 以下に,このコミュニケーションの働きにおける表現について,英語の例を示す。 ・事実を伝える 例A:What's this? B:It's a rabbit. など。 (エ) 考えや意図を伝える 以下に,このコミュニケーションの働きにおける表現について,英語の例を示す。 ・発表する 例1I like soccer. 例2Iwanttobeasoccerplayer. など。 (オ) 相手の行動を促す 以下に,このコミュニケーションの働きにおける表現について,英語の例を示す。 ・道案内をする 例Go straight. Turn right. など。 (2) 児童の学習段階を考慮して各学年の指導に当たっては,次のような点に配慮 --29/32-- -28- するものとする。 (1)では,2学年間を通した配慮事項を示していたが,ここでは,各学年における 配慮事項を示している。「児童の学習段階を考慮」するとは,児童が外国語を初めて 学習する段階であり,それぞれ,第5学年,第6学年であることを踏まえるというこ とである。 ア 第5学年における活動 外国語を初めて学習することに配慮し,児童に身近で基本的な表現を使いな がら,外国語に慣れ親しむ活動や児童の日常生活や学校生活にかかわる活動を 中心に,友達とのかかわりを大切にした体験的なコミュニケーション活動を行 うようにすること。 イ 第6学年における活動 第5学年の学習を基礎として,友達とのかかわりを大切にしながら,児童の 日常生活や学校生活に加え,国際理解にかかわる交流等を含んだ体験的なコミ ュニケーション活動を行うようにすること。 ア,イについては,それぞれの学年における特徴的な内容を示したものである。2 学年間を通じて,コミュニケーションの場面や働きに配慮した体験的なコミュニケー ション活動を行わせるに当たっては,児童の日常生活,学校生活など児童の身近で基 本的な表現を使いながら,友達とのかかわりからはじめ,国際理解にかかわる交流な どに発展させることができることを示したものである。 特に第5学年では,友達や家族,地域,社会とのつながりに焦点を当てた活動を行 う。例えば「あいさつ」,「自己紹介」,「買物」,「学校生活」,「遊び」,「日常生活」, 「食事」など自分や身近な話題に関してのやり取りを通して,友達とのかかわりを深 めていくことをねらっている。普段,友達に対してあまり問わないような内容でも, 外国語活動においては,友達とやり取りをすることを通して,友達や自分のよさをよ りよく再認識することで,他者理解や自尊感情などを高めていくことにつながる。そ --30/32-- --30/32-- -29- の際,外国語を初めて学習することに配慮しつつ,児童にとって過度の負担にならな いように指導していく必要があるが,第5学年という発達の段階を考慮しながら,活 動が単調にならないように注意する必要がある。 第6学年では,第5学年での経験をもとに,友達とのかかわりを大切にしながら, 世界へのつながりや広がりに関する活動へ発展させていくことをねらいとしている。 「世界のさまざまなあいさつ」,「世界の文字」,「世界の子どもたちの生活」,「夢」 などを扱うことで,児童の視野を世界へと広げるとともに,日本の文化,国語,自分 自身にも興味をもたせることにつながる。国際理解にも資するこうした内容について, 外国語を用いた交流活動などの体験的なコミュニケーションを通して深めていくこと で,外国人とのコミュニケーションを図る楽しさを体得することができるとともに, 中学校外国語科に向けてのコミュニケーション能力の素地をつくることが可能にな る。 ここに示したものは2学年間を通しての大きな流れであり,各学年における活動を 厳密に限定する趣旨のものではない。学校や学級の実情に合わせて弾力的に扱うこと が可能であることに留意する必要がある。 --31/32-- 小学校学習指導要領解説外国語活動編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 梅 本 龍 多 大阪府河内長野市立高向小学校教諭 大 城 賢 琉球大学教授 兼 重 昇 鳴門教育大学准教授 國 方 太 司 大阪成蹊大学教授 多 田 孝 志 目白大学教授 直 山 木綿子 京都府京都市教育委員会指導主事 Peter Ferguson 灘中・高等学校外国人教員 本 名 信 行 青山学院大学教授 松 川 禮 子 岐阜県教育委員会教育長 無 藤 隆 白梅学園大学教授 なお,文部科学省においては,次の者が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 神 山 弘 初等中等教育局教育課程課専門官 菅 正 隆 初等中等教育局教育課程課教科調査官 --32/32--