小学校学習指導要領解説 国語編 平成20年6月 文部科学省 --1/139-- 目次 第1章 総 説………………………………………………………………………………1 1 改訂の経緯 ………………………………………………………………………1 2 国語科改訂の趣旨…………………………………………………………………4 3 国語科改訂の要点 ………………………………………………………………8 第2章 国語科の目標及び内容 ………………………………………………………12 第1節 国語科の目標 ………………………………………………………………12 1 教科の目標 ……………………………………………………………………12 2 学年の目標 ……………………………………………………………………14 第2節 国語科の内容 ………………………………………………………………16 1 内容構成 ………………………………………………………………………16 2 各領域及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の内容 …16 第3章 各学年の目標と内容 …………………………………………………………33 第1節 第1学年及び第2学年 ……………………………………………………33 「A話すこと・聞くこと」 ……………………………………………………33 「B書くこと」 …………………………………………………………………40 「C読むこと」 …………………………………………………………………46 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 …………………………52 第2節 第3学年及び第4学年 ……………………………………………………60 「A話すこと・聞くこと」 ……………………………………………………60 「B書くこと」 …………………………………………………………………67 「C読むこと」 …………………………………………………………………75 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 …………………………82 第3節 第5学年及び第6学年 ……………………………………………………92 「A話すこと・聞くこと」 ……………………………………………………92 「B書くこと」 …………………………………………………………………98 --2/139-- 「C読むこと」 ………………………………………………………………106 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 ………………………114 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い …………………………………………123 1 指導計画作成上の配慮事項…………………………………………………123 2 第2の各学年の内容の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 の取扱い ……………………………………………………………………130 3 取り上げる教材についての観点 …………………………………………133 --3/139-- -1- 第1章総説 1 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領 域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時代で あると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイディアなど 知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や文明との共 存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確かな学力,豊 かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがますます重要に なっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我が国の児童 生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用する 問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間など の学習意欲,学習習慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたちの教 育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて,国の 教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対して要請し, 同年4月から審議が開始された。この間,教育基本法改正,学校教育法改正が行われ, 知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに,基礎的・基本的な知識 ・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し(学校教育法第30条第2 項),学校教育においてはこれらを調和的にはぐくむことが必要である旨が法律上規 定されたところである。中央教育審議会においては,このような教育の根本にさかの --4/139-- -2- ぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か月にわたる審議の末,平成20年1月 に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善に ついて」答申を行った。 この答申においては,上記のような児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 D 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方向 性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切り拓 ひら く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育の新し い理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新たに義務 教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正されたことを 十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては,読み・書き・ 計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学年では体験的な 理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して習得させ,学習の 基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の上に,Cの思考力・ 判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの作成,論述など知識・ 技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させるとともに,これらの学習 活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学校低・中学年の国語科にお いて音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着させた上で,各教科等におい て,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り組む必要があると指摘した。ま た,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実については,徳育や体育の 充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能力の重視や体験活動の充実により, --5/139-- -3- 他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これらとともに生きる自分への自信をもた せる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学校教育法施行規則を改正するとともに, 幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小学校学 習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心に内容を前 倒しして実施するとともに,平成23年4月1日から全面実施することとしている。 --6/139-- -4- 2 国語科改訂の趣旨 中央教育審議会答申における国語科の改善の基本方針は,次のように示されている。 ○ 国語科については,その課題を踏まえ,小学校,中学校及び高等学校を通じ て,言語の教育としての立場を一層重視し,国語に対する関心を高め,国語を 尊重する態度を育てるとともに,実生活で生きてはたらき,各教科等の学習の 基本ともなる国語の能力を身に付けること,我が国の言語文化を享受し継承・ 発展させる態度を育てることに重点を置いて内容の改善を図る。 特に,言葉を通して的確に理解し,論理的に思考し表現する能力,互いの立 場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成することや,我が国の言語文化 に触れて感性や情緒をはぐくむことを重視する。 そのため,現行の「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」 からなる領域構成は維持しつつ,基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題 を探究することのできる国語の能力を身に付けることに資するよう,実生活の 様々な場面における言語活動を具体的に内容に示す。また,現行の〔言語事項〕 の内容のうち各領域の内容に関連の深いものについては,実際の言語活動にお いて一層有機的にはたらくよう,それぞれの領域の内容に位置付けるとともに, 必要に応じてまとめて取り上げるようにする。 また,〔言語文化と国語の特質に関する事項〕を設け,我が国の言語文化に 親しむ態度を育てたり,国語の役割や特質についての理解を深めたり,豊かな 言語感覚を養ったりするための内容を示す。 ○ 子どもたちの発達の段階を踏まえた学習の系統性を重視し,学校段階・学年 段階ごとに,具体的に身に付けるべき能力の育成を目指し,重点的な指導が行 われるようにする。その際,小学校においては日常生活に必要な国語の能力の 基礎を,中学校においては社会生活に必要な国語の能力の基礎を,高等学校に おいては社会人として必要な国語の能力の基礎をそれぞれ確実に育成するよう --7/139-- -5- にする。 ○ 古典の指導については,我が国の言語文化を享受し継承・発展させるため, 生涯にわたって古典に親しむ態度を育成する指導を重視する。 漢字の指導については,実生活や他教科等の学習における使用や,読書活動 の充実に資するため,確実な習得が図れるよう,指導を充実する。書写の指導 については,実生活や学習場面に役立つよう,内容や指導の在り方の改善を図 る。 敬語の指導については,人間関係を円滑にし,日常の言語生活を豊かにする ため,相手や場に応じた言葉遣いが適切にできるようにすることを重視する。 言葉のきまりの指導については,系統的に指導するとともに,実際に文章を書 いたり読んだりするときなどに役立つよう,指導の改善を図る。 読書の指導については,読書に親しみ,ものの見方,感じ方,考え方を広げ たり深めたりするため,読書活動を内容に位置付ける。教材については,我が 国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう,長く読まれて いる古典や近代以降の作品などを,子どもたちの発達の段階に応じて取り上げ るようにする。 これを受けて,国語に関する「改善の具体的事項」が,各学校段階に分けて述べら れている。小学校については「日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けるこ とができるよう,次のような改善を図る。」としてその具体的な内容が示されている。 ○ 日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう,次の ような改善を図る。 (ア) 「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」の各領域では,日 常生活に必要とされる対話,記録,報告,要約,説明,感想などの言語活動を 行う能力を確実に身に付けることができるよう,継続的に指導することとし, 課題に応じて必要な文章や資料等を取り上げ,基礎的・基本的な知識・技能を 活用し,相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能力の育成を --8/139-- -6- 重視する。 例えば,低学年では,見たことや知らせたいことを記録し説明や紹介をした り,体験したことを報告したりすることができる,中学年では,調べたことや 観察・実験したことを記録・整理し,説明や報告にまとめて書き,資料を提示 しながら発表することができる,高学年では,目的に応じて自分の立場から解 説や意見,報告を書き,理由や根拠を示しながら説明することができるととも に,自らの言語活動を振り返ることができる能力などの育成を図る。 〔言語文化と国語の特質に関する事項〕では,物語や詩歌などを読んだり, 書き換えたり,演じたりすることを通して,言語文化に親しむ態度を育成する ことを重視する。また,認識や思考及び伝え合いなどにおいて果たす言語の役 割や,相手に合わせた言葉の使い方や方言など,言語の多様な働きについての 理解を重視する。なお,発音・発声,文字,表記,語彙,文及び文章の構成, 言葉遣い,書写などについては,実際の言語活動において有機的にはたらくよ う,関連する領域の内容に位置付けるとともに,必要に応じてまとめて取り上 げるようにする。 (イ) 言語文化としての古典に親しむ態度を育成する指導については,易しい古文 や漢詩・漢文について音読や暗唱を重視する。 (ウ) 漢字の指導については,日常生活や他教科等の学習における使用や,読書活 動の充実に資するため,上の学年に配当されている漢字や学年別漢字配当表以 外の常用漢字についても,必要に応じて振り仮名を用いるなど,児童が読む機 会を多くもつようにする。また,日常生活において確実に使えることを重視し, 実際の文章や表記の中で繰り返し学習させるなど,児童の習得の実態に応じた 指導を充実する。 (エ) ローマ字の指導については,情報機器の活用や他の学習活動等との関連を考 慮し,より早い段階から指導する。 (オ) 書写の指導については,手紙を書いたり記録をとったりするなどの実際の日 常生活や学習活動に役立つよう,内容や指導の在り方の改善を図る。 (カ) 敬語の指導については,基本的な知識を理解し,実際の場面において使い慣 --9/139-- -7- れるようにすることを重視する。 (キ) 言葉のきまりの指導については,基本的な知識を理解し,実際に文章を推敲 したり,表現の工夫をまとめたりするときに役立つよう,書くことや読むこと などと関連付けた指導に改善を図る。 (ク) 読書の指導については,目標をもって読書し,日常的に読書に親しむように することや図書館の利用の仕方などを内容に位置付ける。 (ケ) 教材については,我が国において継承されてきた言語文化に親しむことがで きるよう,長く親しまれている和歌・物語・俳諧,漢詩・漢文などの古典や, 物語,詩,伝記,民話などの近代以降の作品を取り上げるようにする。 --10/139-- --10/139-- -8- 3 国語科改訂の要点 中央教育審議会答申に示された「改善の基本方針」及び「改善の具体的事項」に基 づいて改訂した小学校学習指導要領の国語科の主な内容は,次のようなものである。 (1) 目標及び内容の構成 @目標 教科の目標は,次のとおりである。これは,これまでと変更はない。 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるととも に,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重す る態度を育てる。 国語科の最も基本的な目標である国語による表現力と理解力とを育成するととも に,人間と人間との関係の中で,互いの立場や考えを尊重しながら言葉で「伝え合う 力」を高めることを位置付けている。また,論理的な思考力や想像力及び言語感覚を 養うとともに,伝統的な言語文化に触れたり,国語の特質を理解したりしながら,国 語に対する関心を深めたり国語を尊重したりする態度の育成を位置付けている。 A 内容の構成の改善 内容については,これまでは「話すこと・聞くこと」,「書くこと」,「読むこと」の 3領域及び〔言語事項〕で構成していたが,3領域と〔伝統的な言語文化と国語の特 質に関する事項〕に改めている。 各領域では,国語の能力を調和的に育て実生活で生きて働くように,それぞれの領 域の特性を生かしながら児童主体の言語活動を活発にし,国語科の目標を確実かつ豊 かに実現できるように内容を改善した。そのために,各領域の内容を(1)の指導事項 に示すとともに,これまでは内容の取扱いに示していた言語活動例を内容の(2)に位 置付け,再構成している。これは,各学年の内容の指導に当たって,(1)に示す指導 事項を(2)に示す言語活動例を通して指導することを一層重視したためである。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕は,我が国の言語文化を享受し継 承・発展させる態度を育てることや,国語が果たす役割や特質についてまとまった知 識を身に付けることとともに,実際の言語活動において有機的に働くような能力を育 --11/139-- -9- てることに重点を置いて構成している。 (2) 学習過程の明確化 自ら学び,課題を解決していく能力の育成を重視し,指導事項については学習過程 を明確化した。例えば,「書くこと」では,書くことの課題を決める指導事項や,書 いたものを交流する指導事項などを新設し,学習過程全体が分かるように内容を構成 している。「読むこと」では,音読や解釈,自分の考えの形成及び交流,目的に応じ た読書という学習過程を示している。 学習過程の明確化は,総則の第4の2に示している「(4) 各教科等の指導に当たっ ては,児童が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的 に取り入れるよう工夫すること。」と深く関連している。 (3) 言語活動の充実 「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」の各領域においては,基 礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を探究することのできる国語の能力を身に 付けることができるよう,内容の(2)に日常生活に必要とされる記録,説明,報告, 紹介,感想,討論などの言語活動を具体的に例示している。学校や児童の実態に応じ て,様々な言語活動を工夫し,その充実を図っていくことが重要である。なお,例示 のため,これらのすべてを行わなければならないものではなく,それ以外の言語活動 を取り上げることも考えられる。 (4) 学習の系統性の重視 国語科の指導内容は,系統的・段階的に上の学年につながっていくとともに,螺旋 ら 的・反復的に繰り返しながら学習し,能力の定着を図ることを基本としている。その ため,児童の実態に応じ,各領域の指導事項及び言語活動例,さらには〔伝統的な言 語文化と国語の特質に関する事項〕を関連付けながら,重点を置くべき指導内容を明 確にし,その系統化を図っている。 例えば,「読むこと」では,文学的な文章について,低学年では場面の様子につい --12/139-- -10- て,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと,中学年では登場人物の性格 や気持ちの変化,情景などについて,叙述を基に想像して読むこと,高学年では登場 人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえて読むことといったように指導 事項を系統化している。 (5) 伝統的な言語文化に関する指導の重視 伝統的な言語文化は,創造と継承を繰り返しながら形成されてきた。それらを小学 校から取り上げて親しむようにし,我が国の言語文化を継承し,新たな創造へとつな いでいくことができるよう内容を構成している。例えば,低学年では昔話や神話・伝 承など,中学年では易しい文語調の短歌や俳句,慣用句や故事成語,高学年では古文 ・漢文などを取り上げている。 (6) 読書活動の充実 読書の指導については,目的に応じて本や文章などを選んで読んだり,それらを活 用して自分の考えを記述したりすることを重視して改善を図っている。また,日常的 に読書に親しむために,学校図書館を計画的に利用し必要な本や文章などを選ぶこと ができるように指導することも重視している。 (7) 文字指導の内容の改善 漢字の指導については,日常生活や他教科等の学習における使用や,読書活動の充 実に資することを重視して改善を図っている。読みの指導では,これまでどおり学年 別漢字配当表に配当されている漢字を当該学年で指導することとするが,上の学年に 配当されている漢字や学年別漢字配当表以外の常用漢字についても,必要に応じて振 り仮名を用いるなどして児童が読む機会を多くもつようにする。また,書きの指導で は,これまでどおり次の学年までに定着を図るようにするが,当該学年においても漸 次書き,文や文章の中で使うようにしている。それは,日常生活において確実に使え ることを重視し,実際に文章を書く中で繰り返し学習させるなど,児童の習得の実態 に応じた指導を充実するためである。 --13/139-- -11- ローマ字の指導については,情報機器の活用や他の学習活動等との関連を考慮し, 従前の第4学年から第3学年に移行している。 書写の指導については,手紙を書いたり記録を取ったりするなどの実際の日常生活 や学習活動に役立つよう,内容や指導の在り方の改善を図っている。 --14/139-- -12- 第2章 国語科の目標及び内容 第1節 国語科の目標 1 教科の目標 教科の目標は,次のとおりである。 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるととも に,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重す る態度を育てる。 教科の目標は,大きく二つの部分から構成している。前段は,「国語を適切に表現 し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高める」としている。後段は,「思考 力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育て る」としている。 前段では,国語の能力の根幹となる,国語による表現力と理解力とを育成すること が,国語科の最も基本的な目標であることを述べている。すなわち,「適切に表現」 する能力と「正確に理解する能力」とは,連続的かつ同時的に機能するものであるこ とから最初に位置付けている。 また,言語は言語形式とそれによって表される言語内容を併せもっており,「国語 を適切に表現」する能力とは,国語を適切に使う能力と国語を使って内容や事柄を適 切に表現する能力との両面の内容を含んでいる。国語を「正確に理解する能力」とは, 国語の使い方を正確に理解する能力と国語で表現された内容や事柄を正確に理解する 能力との両面の内容を含んでいる。「伝え合う力を高める」とは,人間と人間との関 係の中で,互いの立場や考えを尊重し,言語を通して適切に表現したり正確に理解し たりする力を高めることである。 --15/139-- -13- このような言語能力は,日常生活に生きて働くよう,一人一人の児童が言語の主体 的な使い手として,相手,目的や意図,場面や状況などに応じて適切に表現したり正 確に理解したりする力として育成することが大切である。 後段では,まず,「思考力や想像力及び言語感覚」を養うことを述べている。思考 力や想像力とは,言語を手掛かりとしながら論理的に思考する力や豊かに想像する力 である。思考力や想像力などは認識力や判断力などと密接にかかわりながら,新たな 発想や思考を創造する原動力となる。 言語感覚とは,言語の使い方の,正誤・適否・美醜などについての感覚のことであ る。話すこと・聞くこと,書くこと及び読むことの具体的な言語活動の中で,相手, 目的や意図,多様な場面や状況などに応じて,どのような言葉を選んで表現するのが ふさわしいものであるかを直観的に判断したり,話や文章を理解する場合に,そこで 使われている言葉が醸し出す味わいを感覚的にとらえたりすることである。 言語感覚を養うことは,一人一人の児童の言語生活や言語活動を充実させ,ものの 見方や考え方を個性的にすることに役立つ。こうした言語感覚の育成には,多様な場 面や状況における学習の積み重ねや,継続的な読書の時間などが必要であり,そのた めに,国語科の学習を他教科等の学習や学校教育全体に関連させていく工夫も大切で ある。さらに,言語環境の整備も,言語感覚の育成に極めて重要な意味をもつ。 次に,「国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」ことを求めている のは,我が国の歴史の中ではぐくまれてきた国語が,人間としての知的な活動や文化 的な活動の中枢をなし,一人一人の自己形成,社会生活の向上,文化の創造と継承な どに欠かせないからである。国語に対する自覚と関心を高め,その特質や機能につい ての理解を深めさせることによって,国語の習得を一層確実にすることができる。ま た,表現力や理解力を高めていくことによって,国語の重要性に対する認識を深めつ つ,国語による話すこと・聞くこと,書くこと及び読むことの活動や言語生活を更に 充実したものにしていくことができる。このような特質と役割を担っている国語に対 する認識を深めていくことによって,国語を愛護し,尊重して,国語そのものを一層 優れたものに向上させていこうとする意識や態度も育っていく。 --16/139-- -14- 2 学年の目標 各学年の目標は,各領域に対応して,次の3項目を示している。 (1)「話すこと・聞くこと」に関する目標 (2)「書くこと」に関する目標 (3)「読むこと」に関する目標 また,各学年の目標は,2学年まとめて示している。それは,児童の発達の段階や 中学校との関連を配慮しつつ,学校や児童の実態に応じて各学年における指導内容を 重点化し,十分な定着を図ることが大切だからである。 「話すこと・聞くこと」に関する目標は,話す能力,聞く能力及び話し合う能力と, 話すこと・聞くこと全体にわたる態度に関する目標とを示している。 「書くこと」に関する目標は,書く能力と書く態度に関する目標とを示している。 「読むこと」に関する目標は,読む能力と読書態度に関する目標とを示している。 なお,当該2学年の各領域の「2 内容」の(1)指導事項と(2)言語活動例とを併せ て考え,目標に対する具体的な指導内容を明確に理解することが重要である。また, 各2学年とも(1)から(3)までの「話すこと・聞くこと」,「書くこと」及び「読むこと」 の各領域の目標はそれぞれ独自の目標として示しているが,同時に相互に密接な関連 性がある。したがって,各領域の目標を関連付けるとともに,指導が調和的に行われ るような配慮をする必要がある。 --17/139-- -15- 各学年における目標は,次のとおりである。 各学年における各領域の目標 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 A (1) 相手に応じ,身近な (1) 相手や目的に応じ,調 (1) 目的や意図に応じ,考 話 ことなどについて,事 べたことなどについて, えたことや伝えたいこと す 柄の順序を考えながら 筋道を立てて話す能力, などについて,的確に話 こ 話す能力,大事なこと 話の中心に気を付けて聞 す能力,相手の意図をつ と を落とさないように聞 く能力,進行に沿って話 かみながら聞く能力,計 ・ く能力,話題に沿って し合う能力を身に付けさ 画的に話し合う能力を身 聞 話し合う能力を身に付 せるとともに,工夫をし に付けさせるとともに, く けさせるとともに,進 ながら話したり聞いたり 適切に話したり聞いたり こ んで話したり聞いたり しようとする態度を育て しようとする態度を育て と しようとする態度を育 る。 る。 てる。 B (2) 経験したことや想像 (2) 相手や目的に応じ,調 (2) 目的や意図に応じ,考 書 したことなどについ べたことなどが伝わるよ えたことなどを文章全体 く て,順序を整理し,簡 うに,段落相互の関係な の構成の効果を考えて文 こ 単な構成を考えて文や どに注意して文章を書く 章に書く能力を身に付け と 文章を書く能力を身に 能力を身に付けさせると させるとともに,適切に 付けさせるとともに, ともに,工夫をしながら 書こうとする態度を育て 進んで書こうとする態 書こうとする態度を育て る。 度を育てる。 る。 C (3) 書かれている事柄の (3) 目的に応じ,内容の中 (3) 目的に応じ,内容や要 読 順序や場面の様子など 心をとらえたり段落相互 旨をとらえながら読む能 む に気付いたり,想像を の関係を考えたりしなが 力を身に付けさせるとと こ 広げたりしながら読む ら読む能力を身に付けさ もに,読書を通して考え と 能力を身に付けさせる せるとともに,幅広く読 を広げたり深めたりしよ とともに,楽しんで読 書しようとする態度を育 うとする態度を育てる。 書しようとする態度を てる。 育てる。 --18/139-- -16- 第2節 国語科の内容 1内容構成 国語科の内容は,これまでの「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読 むこと」という3領域構成を維持するとともに,伝統的な言語文化に親しむ態度を育 てたり,国語の特質についての理解を深めたり,豊かな言語感覚を養ったりすること などを重視して,〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕を新設している。 3領域の内容については,(1)において指導事項を示すとともに,これまでは内容 の取扱いに示していた言語活動例を内容の(2)に位置付け,より具体的な記述に改善 した。これにより,(2)に示している言語活動例を通して(1)の指導事項を指導するこ とを一層明確にし,各領域の能力を確実に身に付けることができるようにした。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の内容は,(1)の「ア 伝統的な 言語文化に関する事項」,「イ 言葉の特徴やきまりに関する事項」,「ウ 文字に関す る事項」,(2)の書写に関する事項から構成している。なお,従前の〔言語事項〕の内 容のうち,発音・発声や言葉遣いに関する事項など領域の内容に関連の深いものにつ いては,関係する領域の内容に位置付けた。 2 各領域及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の内容 (1) 「A話すこと・聞くこと」 「話すこと・聞くこと」の指導事項 内容の(1)は,次のように構成している。 ○ 話題設定や取材に関する指導事項 ○ 話すことに関する指導事項 ○ 聞くことに関する指導事項 ○ 話し合うことに関する指導事項 --19/139-- -17- 指導に当たっては,話すことと聞くこととの両面から考えていくことが重要である。 話題設定や取材に関する指導事項 話題設定や取材に関する指導事項は,以下の話すことに関する指導事項,聞くこと に関する指導事項,話し合うことに関する指導事項と密接にかかわる。 低学年では,身近なことや経験したことなどから話題を決め,必要な事柄を思い出 すこと,中学年では,関心のあることなどから話題を決め,必要な事柄について調べ, 要点をメモすること,高学年では,考えたことや伝えたいことなどから話題を決め, 収集した知識や情報を関係付けることを示している。 話すことに関する指導事項 構成や内容及び言葉遣いと,音声との二つの内容で構成している。 構成や内容及び言葉遣いについては,相手や目的に応じて話を構成し,考えをまと めたり,適切な言葉遣いで話したりすることを示している。 低学年では,相手に応じて,話す事柄を順序立て,丁寧な言葉と普通の言葉との違 いに気を付けて話すこと,中学年では,相手や目的に応じて,理由や事例などを挙げ ながら筋道を立て,丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと,高学年では, 目的や意図に応じて,事柄が明確に伝わるように話の構成を工夫しながら,場に応じ た適切な言葉遣いで話すことや,共通語と方言との違いを理解し,必要に応じて共通 語で話すことを示している。 音声については,相手や場に応じて音声や言葉の調子を整えて適切に話すことを低 学年と中学年で示している。 低学年では,姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発音で 話すこと,中学年では,相手を見たり,言葉の抑揚や強弱,間の取り方などに注意し たりして話すことを示している。 聞くことに関する指導事項 目的に応じて相手の話を聞き,自分とかかわらせて聞くことを示している。 低学年では,大事なことを落とさないようにしながら,興味をもって聞くこと,中 学年では,話の中心に気を付けて聞き,質問をしたり感想を述べたりすること,高学 年では,話し手の意図をとらえながら聞き,自分の意見と比べるなどして考えをまと --20/139-- --20/139-- -18- めることを示している。 話し合うことに関する指導事項 互いの考えや立場などを尊重しながら互いに協力し合って話し合うことを示してい る。 低学年では,互いの話を集中して聞き,話題に沿って話し合うこと,中学年では, 互いの考えの共通点や相違点を考え,司会や提案などの役割を果たしながら,進行に 沿って話し合うこと,高学年では,互いの立場や意図をはっきりさせながら,計画的 に話し合うことを示している。 各学年の指導事項は,次のとおりである。 各学年における「A話すこと・聞くこと」の指導事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 関話 ア 身近なことや経験し ア 関心のあることなど ア 考えたことや伝えたい す題 たことなどから話題を から話題を決め,必要 ことなどから話題を決 る設 決め,必要な事柄を思 な事柄について調べ,め,収集した知識や情報 指定 い出すこと。要点をメモすること。 を関係付けること。 導や 事取 項材 に 話 イ 相手に応じて,話す イ 相手や目的に応じ イ 目的や意図に応じて, す 事柄を順序立て,丁寧 て,理由や事例などを事柄が明確に伝わるよう こ な言葉と普通の言葉と 挙げながら筋道を立に話の構成を工夫しなが と の違いに気を付けて話 て,丁寧な言葉を用いら,場に応じた適切な言 に すこと。るなど適切な言葉遣い葉遣いで話すこと。 関 で話すこと。 す ウ 姿勢や口形,声の大 ウ 相手を見たり,言葉 ウ 共通語と方言との違い る きさや速さなどに注意 の抑揚や強弱,間の取を理解し,また,必要に 指 して,はっきりした発 り方などに注意したり 応じて共通語で話すこ 導 音で話すこと。して話すこと。と。 事 項 す聞 エ 大事なことを落とさ エ 話の中心に気を付け エ 話し手の意図をとらえ るく ないようにしながら, て聞き,質問をしたりながら聞き,自分の意見 指こ 興味をもって聞くこ 感想を述べたりすること比べるなどして考えを 導と と。 と。 まとめること。 事に 項関 関話 オ 互いの話を集中して オ 互いの考えの共通点 オ 互いの立場や意図をは すし 聞き,話題に沿って話 や相違点を考え,司会っきりさせながら,計画 る合 し合うこと。や提案などの役割を果的に話し合うこと。 指う たしながら,進行に沿 導こ って話し合うこと。 事と 項に --21/139-- -19- 「話すこと・聞くこと」の言語活動例 内容の(2)は,(1)の指導事項を指導する際の具体的な言語活動を例示している。 「話すこと・聞くこと」の言語活動は,話すことと聞くこととが一体化して考えら れるように,説明や報告を発表したり,それらを聞いて感想や意見を述べたりするこ と,紹介や推薦をしたり,それらを聞いたりすることなどの言語活動例を示した。 各学年の言語活動例は,次のとおりである。 各学年における「A話すこと・聞くこと」の言語活動例 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 ア 事物の説明や経験の報 ア 出来事の説明や調査の ア 資料を提示しながら説明 告をしたり,それらを聞 報告をしたり,それらを や報告をしたり,それらを いて感想を述べたりする 聞いて意見を述べたりす 聞いて助言や提案をしたり こと。 ること。 すること。 イ 尋ねたり応答したり, イ 学級全体で話し合って イ 調べたことやまとめたこ グループで話し合って考 考えをまとめたり,意見 とについて,討論などをす えを一つにまとめたりす を述べ合ったりするこ ること。 ること。 と。 ウ 場面に合わせてあいさ ウ 図表や絵,写真などか ウ事物や人物を推薦したり, つをしたり,必要なこと ら読み取ったことを基に それを聞いたりすること。 について身近な人と連絡 話したり,聞いたりする をし合ったりすること。 こと。 エ 知らせたいことなどに ついて身近な人に紹介し たり,それを聞いたりす ること。 (2) 「B書くこと」 「書くこと」の指導事項 内容の(1)は,次のように構成している。 ○ 課題設定や取材に関する指導事項 ○ 構成に関する指導事項 ○ 記述に関する指導事項 --22/139-- -20- ○ 推敲に関する指導事項 こう ○ 交流に関する指導事項 課題設定や取材に関する指導事項 課題設定や取材に関する指導事項は,以下の構成に関する指導事項,記述に関する 指導事項,推敲に関する指導事項,交流に関する指導事項と密接にかかわっている。 こう 低学年では,経験したことや想像したことなどから書くことを決め,書こうとする 題材に必要な事柄を集めること,中学年では,関心のあることなどから書くことを決 め,相手や目的に応じて,書く上で必要な事柄を調べること,高学年では,考えたこ となどから書くことを決め,目的や意図に応じて,書く事柄を収集し,全体を見通し て事柄を整理することを示している。 構成に関する指導事項 自分の考えが明確になるよう文章を構成することを示している。 低学年では,自分の考えが明確になるように,事柄の順序に沿って簡単な構成を考 えること,中学年では,文章全体における段落の役割を理解し,自分の考えが明確に なるように,段落相互の関係などに注意して文章を構成すること,高学年では,自分 の考えを明確に表現するため,文章全体の構成の効果を考えることを示している。 記述に関する指導事項 語や文及び段落の続き方に注意してまとまりのある文章を記述することを示してい る。 低学年では,語と語や文と文との続き方に注意しながら,つながりのある文や文章 を書くこと,中学年では,書こうとすることの中心を明確にし,目的や必要に応じて 理由や事例を挙げて書くこと,文章の敬体と常体との違いに注意して書くこと,高学 年では,事実と感想,意見などとを区別するとともに,目的や意図に応じて簡単に書 いたり詳しく書いたりすること,引用したり,図表やグラフなどを用いたりして,自 分の考えが伝わるように書くことを示している。 推敲に関する指導事項 記述した文章を読み返し推敲することを示している。 こう --23/139-- -21- 低学年では,文章を読み返す習慣を付けるとともに,間違いなどに気付き,正すこ と,中学年では,文章の間違いを正したり,よりよい表現に書き直したりすること, 高学年では,表現の効果などについて確かめたり工夫したりすることを示している。 交流に関する指導事項 書いたものを発表し合い,交流することを示している。 低学年では,書いたものを読み合い,よいところを見付けて感想を伝え合うこと, 中学年では,書いたものを発表し合い,書き手の考えの明確さなどについて意見を述 べ合うこと,高学年では,書いたものを発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合 うことを示している。 各学年の指導事項は,次のとおりである。 --24/139-- -22- 各学年における「B書くこと」の指導事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 関課 ア 経験したことや想像 ア 関心のあることなど ア 考えたことなどから書 す題 したことなどから書く から書くことを決め,くことを決め,目的や意 る設 ことを決め,書こうと 相手や目的に応じて,図に応じて,書く事柄を 指定 する題材に必要な事柄 書く上で必要な事柄を収集し,全体を見通して 導や を集めること。調べること。事柄を整理すること。 事取 項材 に る構 イ 自分の考えが明確に イ 文章全体における段 イ 自分の考えを明確に表 指成 なるように,事柄の順 落の役割を理解し,自現するため,文章全体の 導に 序に沿って簡単な構成 分の考えが明確になる 構成の効果を考えるこ 事関 を考えること。ように,段落相互の関 と。 項す 係などに注意して文章 を構成すること。 ウ 語と語や文と文との ウ 書こうとすることの ウ 事実と感想,意見など 続き方に注意しなが 中心を明確にし,目的とを区別するとともに, る記 ら,つながりのある文 や必要に応じて理由や目的や意図に応じて簡単 指述 や文章を書くこと。 事例を挙げて書くこに書いたり詳しく書いた 導に と。 りすること。 事関 エ 文章の敬体と常体と エ 引用したり,図表やグ 項す の違いに注意しながら ラフなどを用いたりし 書くこと。て,自分の考えが伝わる ように書くこと。 る推 エ 文章を読み返す習慣 オ 文章の間違いを正し オ 表現の効果などについ 指敲 を付けるとともに,間 たり,よりよい表現にて確かめたり工夫したり 導に 違いなどに気付き,正 書き直したりするこすること。 事関 すこと。と。 項す る交 オ 書いたものを読み合 カ 書いたものを発表し カ 書いたものを発表し合 指流 い,よいところを見付 合い,書き手の考えのい,表現の仕方に着目し 導に けて感想を伝え合うこ 明確さなどについて意て助言し合うこと。 事関 と。 見を述べ合うこと。 項す --25/139-- -23- 「書くこと」の言語活動例 内容の(2)は,(1)の指導事項を指導する際の具体的な言語活動を例示している。 詩や物語など創造的な内容について書くこと,説明や報告,紹介や手紙などの日常 生活で活用されるものを書くこと,学級新聞などに表すことなどの言語活動例を示し た。 各学年の言語活動例は,次のとおりである。 各学年における「B書くこと」の言語活動例 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 ア 想像したことなどを文 ア 身近なこと,想像した ア 経験したこと,想像した 章に書くこと。ことなどを基に,詩をつ ことなどを基に,詩や短歌, イ 経験したことを報告す くったり,物語を書いた 俳句をつくったり,物語や る文章や観察したことを りすること。随筆などを書いたりするこ 記録する文章などを書く イ 疑問に思ったことを調 と。 こと。 べて,報告する文章を書 イ自分の課題について調べ, ウ 身近な事物を簡単に説 いたり,学級新聞などに 意見を記述した文章や活動 明する文章などを書くこ 表したりすること。 を報告した文章などを書い と。 ウ 収集した資料を効果的 たり編集したりすること。 エ 紹介したいことをメモ に使い,説明する文章な ウ 事物のよさを多くの人に にまとめたり,文章に書 どを書くこと。伝えるための文章を書くこ いたりすること。 エ 目的に合わせて依頼状, と。 オ 伝えたいことを簡単な 案内状,礼状などの手紙 手紙に書くこと。を書くこと。 (3) 「C読むこと」 「読むこと」の指導事項 内容の(1)は,次のように構成している。 ○ 音読に関する指導事項 ○ 効果的な読み方に関する指導事項 ○ 説明的な文章の解釈に関する指導事項 ○ 文学的な文章の解釈に関する指導事項 ○ 自分の考えの形成及び交流に関する指導事項 --26/139-- -24- ○ 目的に応じた読書に関する指導事項 音読に関する指導事項 語の意味や内容が伝わるように音読することを示している。 低学年では,語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること,中学年で は,内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること,高学年では,自分の 思いや考えが伝わるように音読や朗読をすることを示している。 効果的な読み方に関する指導事項 高学年で,目的に応じて,本や文章を比べて読むなど効果的な読み方を工夫するこ とを示している。 説明的な文章の解釈に関する指導事項 低学年では,時間的な順序や事柄の順序などを考えながら内容の大体を読むこと, 中学年では,目的に応じて,中心となる語や文をとらえて段落相互の関係や事実と意 見との関係を考えて読むこと,高学年では,目的に応じて,文章の内容を的確に押さ えて要旨をとらえたり,事実と感想,意見などとの関係を押さえ,自分の考えを明確 にしながら読んだりすることを示している。 なお,文章の解釈とは,本や文章に書かれた内容を理解し意味付けることである。 具体的には,今までの読書経験や体験などを踏まえ,内容や表現を,想像,分析,比 較,対照,推論などによって相互に関連付けて読んでいく。文章の内容や構造を理解 したり,その文章の特徴を把握したり,書き手の意図を推論したりしながら,読み手 は自分の目的や意図に応じて考えをまとめたり深めたりしていくことである。 文学的な文章の解釈に関する指導事項 低学年では,場面の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読む こと,中学年では,場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気持ちの変 化,情景などについて,叙述を基に想像して読むこと,高学年では,登場人物の相互 関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考えをまとめ ることを示している。 なお,文章の解釈とは,「説明的な文章の解釈に関する指導事項」で述べたことと 同じである。 --27/139-- -25- 自分の考えの形成及び交流に関する指導事項 自分の考えを形成することについて,低学年では,文章の中の大事な言葉や文を書 き抜くこと,中学年では,目的や必要に応じて,文章の要点や細かい点に注意しなが ら読み,文章などを引用したり要約したりすることを示している。 また,交流について,低学年では,文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分 の思いや考えをまとめ,発表し合うこと,中学年では,文章を読んで考えたことを発 表し合い,一人一人の感じ方について違いのあることに気付くこと,高学年では,本 や文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めたりすることを 示している。 目的に応じた読書に関する指導事項 目的に応じて,本や文章を選んで読むことを示している。 低学年では,楽しんだり知識を得たりするために,本や文章を選んで読むこと,中 学年では,目的に応じて,いろいろな本や文章を選んで読むこと,高学年では,目的 に応じて,複数の本や文章などを選んで比べて読むことを示している。 各学年の指導事項は,次のとおりである。 --28/139-- -26- 各学年における「C読むこと」の指導事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 る音 ア 語のまとまりや言葉 ア 内容の中心や場面の ア 自分の思いや考えが伝 指読 の響きなどに気を付け 様子がよく分かるようわるように音読や朗読を 導に て音読すること。 に音読すること。 すること。 事関 項す 関効 イ 目的に応じて,本や文 す果 章を比べて読むなど効果 る的 的な読み方を工夫するこ 指な と。 導読 事み 項方 に に説 イ 時間的な順序や事柄 イ 目的に応じて,中心 ウ 目的に応じて,文章の 関明 の順序などを考えなが となる語や文をとらえ内容を的確に押さえて要 す的 ら内容の大体を読むこ て段落相互の関係や事旨をとらえたり,事実と るな と。 実と意見との関係を考感想,意見などとの関係 指文 え,文章を読むこと。を押さえ,自分の考えを 導章 明確にしながら読んだり 事の すること。 項解 釈 に文 ウ 場面の様子につい ウ 場面の移り変わりに エ 登場人物の相互関係や 関学 て,登場人物の行動を 注意しながら,登場人心情,場面についての描 す的 中心に想像を広げなが 物の性格や気持ちの変写をとらえ,優れた叙述 るな ら読むこと。化,情景などについて,について自分の考えをま 指文 叙述を基に想像して読とめること。 導章 むこと。 事の 項解 釈 交自 エ 文章の中の大事な言 エ 目的や必要に応じ 流分 葉や文を書き抜くこ て,文章の要点や細か にの と。 い点に注意しながら読 関考 み,文章などを引用し すえ たり要約したりするこ るの と。 指形 オ 文章の内容と自分の オ 文章を読んで考えた オ 本や文章を読んで考え 導成 経験とを結び付けて, ことを発表し合い,一たことを発表し合い,自 事及 自分の思いや考えをま 人一人の感じ方につい分の考えを広げたり深め 項び とめ,発表し合うこと。 て違いのあることに気たりすること。 付くこと。 に目 カ 楽しんだり知識を得 カ 目的に応じて,いろ カ 目的に応じて,複数の 関的 たりするために,本や いろな本や文章を選ん本や文章などを選んで比 すに 文章を選んで読むこ で読むこと。べて読むこと。 る応 と。 指じ 導た 事読 項書 --29/139-- -27- 「読むこと」の言語活動例 内容の(2)は,(1)の指導事項を指導する際の具体的な言語活動を例示している。 物語や詩,伝記などの創作や,説明などの多様な本や文章を読んで感想を述べたり 考えを表現したりする言語活動例を示した。 各学年の言語活動例は,次のとおりである。 各学年における「C読むこと」の言語活動例 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 ア 本や文章を楽しんだり, ア 物語や詩を読み,感想 ア 伝記を読み,自分の生き 想像を広げたりしながら を述べ合うこと。方について考えること。 読むこと。 イ 物語の読み聞かせを聞 イ 記録や報告の文章,図 イ 自分の課題を解決するた いたり,物語を演じたり 鑑や事典などを読んで利 めに,意見を述べた文章や すること。用すること。解説の文章などを利用する こと。 ウ 事物の仕組みなどにつ ウ 記録や報告の文章を読 ウ 編集の仕方や記事の書き いて説明した本や文章を んでまとめたものを読み 方に注意して新聞を読むこ 読むこと。合うこと。と。 エ 物語や,科学的なこと エ 紹介したい本を取り上 エ 本を読んで推薦の文章を について書いた本や文章 げて説明すること。 書くこと。 を読んで,感想を書くこ と。 オ 読んだ本について,好 オ 必要な情報を得るため きなところを紹介するこ に,読んだ内容に関連し と。 た他の本や文章などを読 むこと。 (4) 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕は,我が国の歴史の中で創造され, 継承されてきた伝統的な言語文化に親しみ,継承・発展させる態度を育てることや, 国語の果たす役割や特質についてまとまった知識を身に付け,言語感覚を養い,実際 の言語活動において有機的に働くような能力を育てることに重点を置いて構成してい る。 --30/139-- --30/139-- -28- 言語文化とは,我が国の歴史の中で創造され,継承されてきた文化的に高い価値を もつ言語そのもの,つまり文化としての言語,また,それらを実際の生活で使用する ことによって形成されてきた文化的な言語生活,更には,古代から現代までの各時代 にわたって,表現し,受容されてきた多様な言語芸術や芸能などを幅広く指している。 今回の改訂では,伝統的な言語文化に低学年から触れ,生涯にわたって親しむ態度の 育成を重視している。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕は,(1)と(2)とから成っている。 (1)は,「ア 伝統的な言語文化に関する事項」,「イ 言葉の特徴やきまりに関する事 項」,「ウ 文字に関する事項」で構成しており,各領域の指導を通して指導する。(2) は,書写に関する事項である。 ア 伝統的な言語文化に関する事項 低学年では,昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合 ったりすること,中学年では,易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮か べたり,リズムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすることや,長い間使われてき たことわざや慣用句,故事成語などの意味を知り,使うこと,高学年では,親しみや すい古文や漢文,近代以降の文語調の文章について,内容の大体を知り,音読するこ とや,古典について解説した文章を読み,昔の人のものの見方や感じ方を知ることを 示している。 各学年の事項は,次のとおりである。 各学年における伝統的な言語文化に関する事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 (ア) 昔話や神話・伝承など (ア) 易しい文語調の短歌や (ア) 親しみやすい古文や漢文, の本や文章の読み聞かせ 俳句について,情景を思 近代以降の文語調の文章に を聞いたり,発表し合っ い浮かべたり,リズムを ついて,内容の大体を知り, たりすること。感じ取りながら音読や暗 音読すること。 唱をしたりすること。 (イ) 古典について解説した文 (イ) 長い間使われてきたこ 章を読み,昔の人のものの とわざや慣用句,故事成 見方や感じ方を知ること。 語などの意味を知り,使 うこと。 --31/139-- -29- イ 言葉の特徴やきまりに関する事項 言葉の特徴やきまりに関する事項は,次のように構成している。 ○ 言葉の働きや特徴に関する事項 ○ 表記に関する事項 ○ 語句に関する事項 ○ 文及び文章の構成に関する事項 ○ 言葉遣いに関する事項 ○ 表現の工夫に関する事項 各学年の事項は,次のとおりである。 --32/139-- -30- 各学年における言葉の特徴やきまりに関する事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 言 (ア) 言葉には,事物の内 (ア) 言葉には,考えたこ (ア) 話し言葉と書き言葉と 葉 容を表す働きや,経験 とや思ったことを表すの違いに気付くこと。 の したことを伝える働き 働きがあることに気付 (イ) 時間の経過による言葉 働 があることに気付くこくこと。の変化や世代による言葉 き と。(イ) 漢字と仮名を用いたの違いに気付くこと。 や (イ) 音節と文字との関係 表記などに関心をもつ 特 や,アクセントによる こと。 徴 語の意味の違いなどに に 気付くこと。 関 (ウ) 言葉には,意味によ す る語句のまとまりがあ る ることに気付くこと。 事 項 表 (エ) 長音,拗音,促音,撥 (ウ) 送り仮名に注意して (ウ) 送り仮名や仮名遣いに よう はつ 記 音などの表記ができ, 書き,また,活用につ 注意して正しく書くこ に 助詞の「は」,「へ」及 いての意識をもつこ と。 関 び「を」を文の中で正 と。 す しく使うこと。 (エ) 句読点を適切に打 る (オ) 句読点の打ち方や, ち,また,段落の始め, 事 かぎ(「」)の使い方会話の部分などの必要 項 を理解して文章の中で な箇所は行を改めて書 使うこと。くこと。 (オ) 表現したり理解した (エ) 語句の構成,変化など りするために必要な語についての理解を深め, 語 句を増し,また,語句また,語句の由来などに 句 には性質や役割の上で関心をもつこと。 に 類別があることを理解 (オ) 文章の中での語句と語 関 すること。句との関係を理解するこ す (カ) 表現したり理解した と。 る りするために必要な文 (カ) 語感,言葉の使い方に 事 字や語句について,辞対する感覚などについて 項 書を利用して調べる方関心をもつこと。 法を理解し,調べる習 慣を付けること。 成文 (カ) 文の中における主語 (キ) 修飾と被修飾との関 (キ) 文や文章にはいろいろ に及 と述語との関係に注意 係など,文の構成につな構成があることについ 関び すること。いて初歩的な理解をもて理解すること。 す文 つこと。 る章 (ク) 指示語や接続語が文 事の と文との意味のつなが 項構 りに果たす役割を理解 し,使うこと。 関言 (キ) 敬体で書かれた文章 (ク) 日常よく使われる敬語 す葉 に慣れること。 の使い方に慣れること。 る遣 事い 項に 関表 (ケ) 比喩や反復などの表現 ゆ す現 の工夫に気付くこと。 るの 事工 項夫 に --33/139-- -31- ウ 文字に関する事項 文字に関する事項は,次のように構成している。 ○ 仮名の読み書きや使い方に関する事項 ○ 漢字の読み書きや使い方などに関する事項 ○ 文字文化に関する事項 各学年の事項は,次のとおりである。 各学年における文字に関する事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 い仮 (ア) 平仮名及び片仮名を (ア) 第3学年において 方名 読み,書くこと。また,は,日常使われている にの 片仮名で書く語の種類 簡単な単語について, 関読 を知り,文や文章の中 ローマ字で表記された すみ で使うこと。ものを読み,また,ロ る書 ーマ字で書くこと。 事き 項や 使 漢 (イ) 第1学年において (イ) 第3学年及び第4学 (ア) 第5学年及び第6学年 字 は,別表の学年別漢字 年の各学年においての各学年においては,学 の 配当表(以下「学年別 は,学年別漢字配当表年別漢字配当表の当該学 読 漢字配当表」という。) の当該学年までに配当年までに配当されている み の第1学年に配当され されている漢字を読む漢字を読むこと。また, 書 ている漢字を読み,漸 こと。また,当該学年当該学年の前の学年まで き 次書き,文や文章の中 の前の学年までに配当に配当されている漢字を や で使うこと。されている漢字を書書き,文や文章の中で使 使 (ウ) 第2学年において き,文や文章の中で使うとともに,当該学年に い は,学年別漢字配当表 うとともに,当該学年配当されている漢字を漸 方 の第2学年までに配当 に配当されている漢字次書き,文や文章の中で な されている漢字を読む を漸次書き,文や文章使うこと。 ど こと。また,第1学年の中で使うこと。 に に配当されている漢字 関 を書き,文や文章の中 す で使うとともに,第2 る 学年に配当されている 事 漢字を漸次書き,文や 項 文章の中で使うこと。 関文 (ウ) 漢字のへん,つくり (イ) 仮名及び漢字の由来, す字 などの構成についての特質などについて理解す る文 知識をもつこと。 ること。 事化 項に --34/139-- -32- 書写に関する事項 この事項は,(1)ウの「文字に関する事項」の指導や,「B書くこと」の領域の指導 と緊密に関連する。文字のまとまった学習は,小学校入学を期に始まる。文字を書く 基礎となる「姿勢」,「筆記具の持ち方」,「点画や一文字の書き方」,「筆順」などの事 項から,「文字の集まり(文字群)の書き方」に関する事項へ,さらに,「目的に応じ た書き方」に関する事項へと系統的に指導し,日常生活や学習活動に生かすことので きる書写の能力を育成することが重要となる。 各学年の事項は,次のとおりである。 各学年における書写に関する事項 第1学年及び第2学年 第3学年及び第4学年 第5学年及び第6学年 ア 姿勢や筆記具の持ち方 ア 文字の組立て方を理解 ア 用紙全体との関係に注意 を正しくし,文字の形に し,形を整えて書くこと。 し,文字の大きさや配列な 注意しながら,丁寧に書 どを決めるとともに,書く くこと。 速さを意識して書くこと。 イ 点画の長短や方向,接 イ 漢字や仮名の大きさ, イ 目的に応じて使用する筆 し方や交わり方などに注 配列に注意して書くこ 記具を選び,その特徴を生 意して,筆順に従って文 と。 かして書くこと。 字を正しく書くこと。 ウ 点画の種類を理解する ウ 毛筆を使用して,穂先の とともに,毛筆を使用し 動きと点画のつながりを意 て筆圧などに注意して書 識して書くこと。 くこと。 --35/139-- -33- 第3章 各学年の目標と内容 第1節 第1学年及び第2学年 「A話すこと・聞くこと」 (1) 目 標 (1) 相手に応じ,身近なことなどについて,事柄の順序を考えながら話す能力, 大事なことを落とさないように聞く能力,話題に沿って話し合う能力を身に 付けさせるとともに,進んで話したり聞いたりしようとする態度を育てる。 低学年の児童は,身近なことに興味や関心をもち,それらについて意欲的に話した り聞いたりしようとする。また,家庭のことに加え,学校での様々な新しい出合いに ついて保護者や教師に今まで以上に話しかけるようになる。友達とのかかわりも増え, 話し合うことの必要性も感じ取るようになる。このような時期にふさわしい,話すこ と,聞くこと及び話し合うことの能力を育成することを主なねらいとしている。 前段は,話す能力,聞く能力及び話し合う能力,後段は,話すこと・聞くこと全体 にわたる態度を示している。 前段では,「相手に応じ,身近なことなどについて,事柄の順序を考えながら話す 能力,大事なことを落とさないように聞く能力,話題に沿って話し合う能力を身に付 けさせる」ことをねらいとしている。 話題については,「相手に応じ,身近なことなど」を取り上げることを示している。 「相手に応じ」ることを重視するのは,話すこと・聞くことには,聞き手が目の前に いることや,話し手と聞き手が交代することなど,互いに影響し合いながら言語活動 が成立するという特質があるからである。相手は,保護者や教師などの大人,同級生 --36/139-- -34- など身近な人々が想定される。「身近なことなど」としているのは,児童にとって身 近なことや経験したことなどは思い出しやすいからである。 話すことについては,「事柄の順序を考えながら話す能力」を示している。話すた めには,自分で内容を構成することが必要となる。低学年では,話す内容を構成する ことは容易ではないので,最初は取り上げる事柄の順序に沿って考えるようにし,次 第に経験したことの順序や物事が起こった順序などに気を付けて話すようにする工夫 が必要である。 聞くことについては,「大事なことを落とさないように聞く能力」を示している。 聞くことには,話し手が何を伝えたいのかを大事にして聞いたり,自分が知りたいこ とを大事にして聞いたりする場合がある。また,そこで,話し手の立場について考え たり,自分の聞きたいことをはっきりさせたりして,話の順序に沿って大事なことを 聞き取ることも大切になる。 話し合うことについては,「話題に沿って話し合う能力」を示している。話し合う ためには,話し手と聞き手の双方の立場から言語活動を行うことが求められる。一人 一人の児童が話題に興味や関心をもち,相手の話題からそれないように話したり,自 分の分からないことを聞き直したり尋ねたりするなどの活動を行うことになる。「話 題に沿って話し合う能力」は,合意形成を図ることや,互いを理解し合い交流してい く関係を大切にすることの基礎を養う面からも大切である。 後段では,「進んで話したり聞いたりしようとする態度を育てる」ことをねらいと している。 進んで話したり聞いたりする態度は,話したいことや聞きたいことの話題を身近な ことから考えたり,互いの思いや考えを尊重しながら共感的に受け止めようとする雰 囲気を大切にしたりする中で育つものである。 --37/139-- -35- (2) 内容 @ 指導事項 (1) 話すこと・聞くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 身近なことや経験したことなどから話題を決め,必要な事柄を思い出すこ と。 イ 相手に応じて,話す事柄を順序立て,丁寧な言葉と普通の言葉との違いに 気を付けて話すこと。 ウ 姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発音で話す こと。 エ 大事なことを落とさないようにしながら,興味をもって聞くこと。 オ 互いの話を集中して聞き,話題に沿って話し合うこと。 ア 話題設定や取材に関する指導事項 この指導事項は,児童が話題を設定して学習活動を見通し,実際に話したり聞いた りする活動を主体的に行えるよう全学年を通して新設したものである。 低学年では,身近なことや経験したことなどから話したり聞いたりする話題を設定 し,それに合わせて必要な事柄を取材することを示している。話題については,学校 生活や家庭での日常生活における身近なことや,自分が経験したこと,観察したこと などの中から,児童の,話したい,聞きたい,話し合いたいという思いや願いを生か すように工夫することが必要である。 話題が決定すれば,話すために必要な事柄を思い出してノートやカードに書き出す など,必要な材料を集める取材を行うことになる。これは,話題を具体化することや 話したり聞いたりする内容を充実させることにつながる。取材は,準備の段階で十分 行うことが必要だが,実際に話したり聞いたりするときに,更に必要な材料を集める こともあることに注意させる必要がある。 --38/139-- -36- イ・ウ 話すことに関する指導事項 イは,話すことの構成や内容及び言葉遣いに関する指導事項である。 前段は,相手に応じて,話す事柄を順序立てて構成しながら,自分の考えをまとめ ることを示している。後段は,相手に応じた言葉遣いをすることを示している。 話の相手としては,教師や隣に座っている友達,同じグループの友達,幼稚園児や 保育園児など身近な人々が考えられる。人数についても,ペアから小グループ,学級 全体へと広げていくことが考えられる。そこで,それぞれの相手に応じて話の構成や 内容を工夫することになる。 「話す事柄を順序立て」とは,順序に沿って事柄を具体化することを求めたもので ある。ここでいう「順序」とは,行動したことや経験したこと,物を作ったり作業し たりすること,物事や事物が生起すること,説明や紹介をすることなどの順序を指す。 言葉遣いについては,「丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付けて話すこと」 を求めている。話すときの言葉遣いは,相手との親疎や人数の多少,改まった場面か どうかなどに応じて使い分ける必要がある。丁寧な言葉と普通の言葉との違いには, 文や語句とその使い方,声の質などの音声,姿勢や態度など様々なことが関係してい る。丁寧な言葉で話すためには,改まった場面に適した言葉を選んだり,相手の気持 ちに配慮してあいさつや前置きをしたり,敬語を用いたりすることなどが考えられる。 低学年では,場面や状況によって丁寧な言葉を用いるときと普通の言葉で話すときと があることに気付き,それぞれを使い分けようとする気持ちをもたせることが大切で ある。 ウは,音声に関する指導事項である。 話す内容を決め,相手に伝えるためには,一音一音を「はっきりした発音で話すこ と」を大切にしなければならない。そこで,聞き手がはっきりと聞き取れるような発 声や発音をするために,「姿勢や口形」と「声の大きさや速さなどに注意して」話す こととを示している。 「姿勢」は,相手に対する印象などに加え,発声をしやすくしたり明 瞭 な発音を りよう したりする基礎となるものである。背筋を伸ばし,声を十分出しながら落ち着いた気 持ちで話すことが求められる。また,正しい発音のために,唇や舌などを適切に使っ --39/139-- -37- た「口形」について,早い時期に身に付けられるようにすることが大切である。入門 期には,幼児音の残る児童も見られる。幼児音には,「ライオン」を「ダイオン」,「子 ども」を「コロモ」,「サカナ」を「チャカナ」と発音するなどラ行やサ行などによく 見られる置き換えや,「トウモロコシ」が「トウモコシ」となる音の省略などがある。 そこで,母音の口形について適切に指導するとともに,語句を文脈の中でひとかたま りに認識しがちになることを改め,一音一音を識別させ,安定した発声や明 瞭 な発 りよう 音へと導いていくようにすることが必要となる。 「声の大きさや速さ」に注意することも,音声化するときの基礎を養うものである。 話す内容が伝わるためには,相手に声が届く音量や,音声が明 瞭 に聞こえる速さを りよう 考えることが欠かせない。同時に,自由に楽しく話すことのできる雰囲気を大事にし ながら,話している場所や聞き手の人数などによって,声の大きさや速さを変えるこ とに注意を向けるようにすることも重要である。一方,聞き手である児童や教師は, あいづちを打ったり聞き直したりしながら,はっきりと聞こえていることを示すよう にする。 エ 聞くことに関する指導事項 話すことと聞くこととは,同時に指導するものであり,ここでは聞き手として必要 なことを全学年を通して取り上げている。低学年では,大事なことを落とさないよう にしながら興味をもって聞くことを示している。 「大事なことを落とさないように」聞くには,話し手が知らせたいと思っている事 柄の大事なことを落とさないようにすることと,自分が聞きたい事柄の大事なことを 落とさないようにすることという二つの側面があり,その両面ともに「興味をもって 聞くこと」が重要となる。話し手にとって重要な事柄を聞き落とさないためには,事 柄の順序を意識しながら聞き取ることが大切であり,自分が興味をもっていることを 聞き落とさないためには,集中して聞き取ることを大事にする必要がある。 オ 話し合うことに関する指導事項 話合いは,話し手と聞き手とが交互に入れ替わりながら,流れに沿って進めていく ものである。そこで,低学年では,互いの話を集中して聞き,話の内容を理解した上 で話題に沿って話したり,再び聞いたりすることを示している。 --40/139-- --40/139-- -38- 「互いの話を集中して聞」くためには,話し手の方に顔を向けるようにしたり,話 の内容に関心をもち, 頷 いたりしながら聞くことが大切である。また,互いの発言 うなず をよく聞き,その内容を話合いの流れの中に位置付け,今後どのように展開するのか などを考えるようにすることが必要となる。話合いの終わりには,学習したことを振 り返ることも必要である。なお,話合いの人数としては,ペア,小グループ,学級全 体などを効果的に組み合わせて指導するように留意する。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 事物の説明や経験の報告をしたり,それらを聞いて感想を述べたりする こと。 イ 尋ねたり応答したり,グループで話し合って考えを一つにまとめたりす ること。 ウ 場面に合わせてあいさつをしたり,必要なことについて身近な人と連絡 をし合ったりすること。 エ 知らせたいことなどについて身近な人に紹介したり,それを聞いたりす ること。 ア 事物の説明や経験の報告をしたり,それらを聞いて感想を述べたりする言語活動 説明や報告をすることと,それらを聞いて感想を述べる言語活動であり,話すこと と聞くこととを一体化して指導することを示している。 「事物の説明」では,まず身の回りの事柄やものを取り上げることが有効である。 その際,例えば,その事物が生活の中でどのような役割を果たしているのか,そのた めにどのような構造になっているのかなど,話すことを幾つかに絞って説明すること が考えられる。実際の説明では,必要に応じて原因や理由を付け加えながら事柄を順 序立てたり,相手に分かりやすいように事物そのものを見せたりするなどの工夫をす ることが重要である。 --41/139-- -39- 「経験の報告」では,学級や学校,あるいは家庭や地域での経験を取り上げること が考えられる。経験したことによってどのようなことを感じたのか,知らせたいこと は何なのかなどを明確にし,経験したことが生き生きと伝わるように内容を思い出し たり,時間の経過に基づいて順序立てたりすることが必要となる。 一方,聞き手は,話し手の思いや願いに共感しながら聞き,感想をもつことが大切 である。聞いたことを整理して相手に伝えることで,聞き手は自分の考えを一層明確 にすることができ,話し手は,話そうという意欲を喚起されることになる。 イ 尋ねたり応答したり,グループで話し合って考えを一つにまとめたりする言語活 動 対話や話合いについての言語活動である。 「尋ねたり応答したり」することでは,内容を確認したり,分からないことを質問 したり,その質問に答えることを自覚して応答したりすることができるようにするこ とが重要である。 「グループで話し合って考えを一つにまとめたりすること」では,話題に関して最 終的に考えを一つにまとめることを求めている。考えを一つにまとめるためには,例 えば,一人一人が自分の考えを出し合ってから,グループで考えをまとめていくよう な過程を重視することが大切である。第1学年の当初は,ペアでの話合いから始め, 徐々に,3人,4人と人数を増やしていくようにする。 ウ 場面に合わせてあいさつをしたり,必要なことについて身近な人と連絡をし合っ たりする言語活動 あいさつや連絡という日常生活場面についての言語活動である。 「あいさつ」では,一日の生活の中からいろいろな場面を設定し,身振りや表情な ども交えながら場面に合わせたあいさつができるようにすることが大切である。 「連絡」では,例えば,学習や行事で使用する持ち物や催し物の日時や場所などの 連絡を取り上げる。また,連絡をする際に大事なことを落とさないようにするために, 必要に応じてメモを取るなどの活動も取り入れるようにすることが有効である。 --42/139-- -40- エ 知らせたいことなどについて身近な人に紹介したり,それを聞いたりする言語活 動 紹介をしたり,それを聞いたりする言語活動である。 ここでは,身の回りから,自分が興味を抱いたり,楽しく感じたり,好ましく思っ たりした事物を選んで,教師や友達,家族などに紹介することが考えられる。なお, 知らせたいことなどを紹介する言語活動は,「B書くこと」や「C読むこと」におい ても取り上げている。 「B書くこと」 (1) 目 標 (2) 経験したことや想像したことなどについて,順序を整理し,簡単な構成を考 えて文や文章を書く能力を身に付けさせるとともに,進んで書こうとする態度 を育てる。 書くことの指導においては,高学年までに目的や意図に応じて適切に表現する能力 を育成するとともに,それらが日常生活に生きて働くようにすることを求めている。 日常生活における活動や,生活科その他の教科等における学習活動などと関連付け, 書くことが役に立つ場を設定することが大切となる。 前段は,書く能力,後段は,書く態度を示している。 前段では,「経験したことや想像したことなどについて,順序を整理し,簡単な構 成を考えて文や文章を書く能力を身に付けさせる」ことをねらいとしている。 「経験したことや想像したことなどについて」とは,実際に経験したことを思い出 したり,想像して考えたりしたことなどを手掛かりにして書く事柄を決めることであ る。その際,思い出しながら課題が明確になることもあるし,日常的に感じている疑 問などから課題を決め,書く事柄を整理することもあることに注意する必要がある。 --43/139-- -41- 「順序を整理」するとは,書く事柄を,出来事や行動,情報などの順序に沿って整 理することを指す。「順序を整理」することは,課題を一層明確にしたり,書こうと する題材に必要な事柄を更に集めたりすることや,文や文章の「簡単な構成を考え」 ることなどにつながっていく。 「簡単な構成を考えて文や文章を書く能力を身に付けさせる」とは,構成の能力と 実際に記述する能力とを示したものである。情報や事柄の順序に沿いながら,文章の 始めから終わりまでの簡単な構成を意識し,決めた分量や表記の仕方に従って書いて いくことを求めている。なお,入門期においても,話し言葉ではあるが,一定の長さ の説明や報告をすることは経験している。それらを生かしながら文字を使い,新鮮な 気持ちをもって書くことを楽しめるようにする必要がある。 後段では,「進んで書こうとする態度を育てる」ことをねらいとしている。 進んで書こうとする態度を養うためには,書くことによって,取り上げた対象や自 分の思いを伝えることができる楽しさ,それらを発表し合うことによって評価される 喜びなどを実感させることが重要である。進んで書くことによって表現する喜びを育 てていくことは,よりよく表現したいという願いをもつことにもつながっていく。 入門期においては,児童一人一人の生活の言葉を大切にし,いろいろな機会をとら えて実際に文や文章を書くことが必要となるような場を設定することが大切である。 --44/139-- -42- (2) 内 容 @指導事項 (1) 書くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 経験したことや想像したことなどから書くことを決め,書こうとする題材 に必要な事柄を集めること。 イ 自分の考えが明確になるように,事柄の順序に沿って簡単な構成を考える こと。 ウ 語と語や文と文との続き方に注意しながら,つながりのある文や文章を書 くこと。 エ 文章を読み返す習慣を付けるとともに,間違いなどに気付き,正すこと。 オ 書いたものを読み合い,よいところを見付けて感想を伝え合うこと。 ア 課題設定や取材に関する指導事項 「経験したことや想像したことなどから書くことを決め」とは,見たり聞いたりし た身の回りの出来事や,自分が経験したこと,さらには,想像を膨らませて考えたこ となどから,書くことを決めることである。 「書こうとする題材に必要な事柄を集めること」とは,取材に関することである。 書くために必要な事柄を思い出したり,想像したりして,ノートやカードにメモを取 っていくことなどを求めている。生活科での学校探検など各教科等における学習で感 動したことや,疑問に思ったことなども題材となる。 児童は,経験や生活,あるいは興味・関心に違いがある。そのような違いを考慮し ながら,一人一人の気持ちや経験を大切にして,楽しんで書くようにすることを重視 する。 イ 構成に関する指導事項 「自分の考えが明確になるように」するために,「事柄の順序に沿って簡単な構成 を考えること」を示している。 --45/139-- -43- 書きたいことは,書く前から明確である場合もあるが,書くことによって明確にな る場合もある。低学年では,構成を考えることによって自分の考えを明確にしていく ことを重視する。「事柄の順序に沿って簡単な構成を考えること」とは,取材した事 柄の順序に沿いながら,文章の始めから終わりまでを,内容のまとまりごとに,いく つかに分けて配置していくことを意識することである。その際,文章には「始め−中 −終わり」などの構成があることを意識できるようにすることが大切である。 ウ 記述に関する指導事項 事柄の順序に沿いながら,文や文章の中で,語と語及び文と文との続き方を考えて 記述することを示している。 前後の語句や文のつながりを大切にし,一文の意味が明確になるように語と語との 続き方を考えさせることを重視するとともに,離れたところにある語と語や文と文と のつながりについても考えさせるようにする。 なお,〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(エ) 長音,拗音, よう 促音,撥音などの表記ができ,助詞の「は」,「へ」及び「を」を文の中で正しく使う はつ こと。」,「(オ) 句読点の打ち方や,かぎ(「 」)の使い方を理解して文章の中で使うこ と。」,「(カ) 文の中における主語と述語との関係に注意すること。」,「(キ) 敬体で書 かれた文章に慣れること。」などとも関連付けて指導すると効果的である。 エ 推敲に関する指導事項 推敲は,指導事項ア〜ウのいずれにもかかわるものであり,書くことの表現過程に こう 沿って,話題や題材の絞り方,事柄の順序,語と語及び文と文とのつながりの明確さ などを意識しながら,「文章を読み返す習慣を付ける」ことを求めている。入門期に おいては,書いた文を音読してみることなども読み返す習慣を付けることにつながる。 「間違いなどに気付き,正す」ためには,語句の使い方などに注意しながら,一文 一文を丁寧に読み返していくことが求められる。読み返す際には,主語・述語のつな がりや句読点の打ち方などの構文上の明確さや,長音,拗音,促音,撥音,助詞の よう はつ 「は」,「へ」及び「を」などの正しい表記,敬体や常体による文末表現の正しい使い 方などに注意させることが大切である。 --46/139-- -44- オ 交流に関する指導事項 文章を書くことは,多くの場合,読んでもらう相手がいることが前提である。その 相手との交流を,書くことのまとめとして位置付けている。これは,全学年を通して 新設した指導事項である。 低学年としては,書いたものを読み合い,感想を互いに伝え合うことを中心に展開 することを示している。課題を設定し,学習の見通しをもち,実際に書いてきた過程 の全体について,読んでもらった相手の感想を受けて振り返るようにすることが重要 である。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 想像したことなどを文章に書くこと。 イ 経験したことを報告する文章や観察したことを記録する文章などを書くこ と。 ウ 身近な事物を簡単に説明する文章などを書くこと。 エ 紹介したいことをメモにまとめたり,文章に書いたりすること。 オ 伝えたいことを簡単な手紙に書くこと。 ア 想像したことなどを文章に書く言語活動 想像したことなどを文章に書く言語活動である。 想像したことなどから,登場人物を決め,簡単なお話を書いたり,見たことや経験 して感じたことを詩の形式で書いたりする。物語の内容について,書き加えたり,書 き換えたり,続きを書いたりするなどの活動も考えられる。自由に空想や想像の世界 を膨らますことができるこの時期の児童の特性を生かすことで,一層楽しい活動を行 うことが求められる。 イ 経験したことを報告する文章や観察したことを記録する文章などを書く言語活動 報告や記録の文章を書く言語活動である。 --47/139-- -45- 「経験したこと」は,低学年であることを考え,学級や学校,地域や家庭の行事に 参加したこと,学校や地域を探検してきたことなどから取り上げていくようにする。 これらのことを報告する文章に書くときには,報告する相手を明確に設定するととも に,報告するという目的に沿って内容や文章構成を工夫することが必要となる。 「観察したこと」を記録するためには,観察したことや観察して感じたことなどを, その場で確実に記録していくことが必要となる。対象として,低学年では,身近な自 然の観察や,飼育,栽培している動植物などの観察などが考えられる。 この言語活動は,「A話すこと・聞くこと」(2)の「ア 事物の説明や経験の報告を したり,それらを聞いて感想を述べたりすること。」と関連付けて指導すると効果的 である。 ウ 身近な事物を簡単に説明する文章などを書く言語活動 説明する文章を書く言語活動である。 説明する「身近な事物」としては,例えば生活科をはじめとした各教科等の学習は もちろん,学校生活や家庭生活において,児童が慣れ親しんでいる事物が考えられる。 ここでの活動は,それらの事物の特徴に沿って,説明する順序を考えながら,形状や 様子,動きなどを簡単に文章に書くことである。 エ 紹介したいことをメモにまとめたり,文章に書いたりする言語活動 紹介したいことをメモや文章にまとめる言語活動である。 児童は,人物や遊び,施設,本,絵など,日常生活の中に紹介したいことを多くも っている。これらを活用し,紹介のためのメモや文章を書くようにすることが考えら れる。 オ 伝えたいことを簡単な手紙に書く言語活動 実用的な文章を書く言語活動である。 手紙を書く学習では,相手を明確にして伝えたり,返事をもらったりという交流を 重視する必要がある。低学年では形式を重んじることよりも,短い文や伝言でもよい ので,書いた手紙で交流する楽しさを感じ取らせるようにすることが大切である。 --48/139-- -46- 「C読むこと」 (1) 目 標 (3) 書かれている事柄の順序や場面の様子などに気付いたり,想像を広げたりし ながら読む能力を身に付けさせるとともに,楽しんで読書しようとする態度を 育てる。 児童は,幼児期に,家庭や幼稚園などで読み聞かせをしてもらっており,お話や物 語によっては,その内容を既に知っていることも多い。小学校入学によって文字を習 得し,今度は自分の力で本や文章を読むことになる。 前段は,読む能力,後段は,読書態度を示している。 前段では,「書かれている事柄の順序や場面の様子などに気付いたり,想像を広げ たりしながら読む能力を身に付けさせる」ことをねらいとしている。 読むことについては,説明的な文章や文学的な文章など,それぞれの本や文章の内 容や構成の特徴などに着目して読んでいく能力が求められている。科学的な内容の本 や文章では,時間や事柄の順序に従って内容を押さえて読むことが必要となる。文学 的な絵本や物語など場面展開が明確な本や文章では,場面の様子を押さえながら想像 を広げて読むことが必要となる。 後段では,「楽しんで読書しようとする態度を育てる」ことをねらいとしている。 これは,読書に親しみ,読書を通して生活を豊かにすることを目指したものである。 「楽しんで読書しようとする態度」とは,自ら楽しんだり知識を得たりするために読 書しようとする態度のことである。本や文章を読むことが楽しく,生活の中で役に立 つということなどを実感させるために,教師の指導や家庭,地域の協力などにより, 日常的に読む習慣を付けるようにする。 --49/139-- -47- (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 読むことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること。 イ 時間的な順序や事柄の順序などを考えながら内容の大体を読むこと。 ウ 場面の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと。 エ 文章の中の大事な言葉や文を書き抜くこと。 オ 文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考えをまとめ,発 表し合うこと。 カ 楽しんだり知識を得たりするために,本や文章を選んで読むこと。 ア 音読に関する指導事項 音読には,自分が理解しているかどうかを確かめたり深めたりする働きと,他の児 童が理解するのを助ける働きとがある。自分のために音読する場合は,文字を確かめ, 内容が理解できるか,どのように感じるかなどを,自分の声を自分で聞きながら把握 していく。他の人のために音読する場合は,音声化することによって,互いに理解し 合っているかを確認し合うことになる。また,一人一人の理解や感想などを音読に反 映させることもある。 このような音読の基礎となるのが,「語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて」 音読することである。明 瞭 な発音で文章を読むこと,ひとまとまりの語や文として りよう 読むこと,言葉の響きやリズムなどに注意して読むことなどが重要となる。このよう な活動を確かなものとするためには,「A話すこと・聞くこと」(1)の「ウ 姿勢や口 形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発音で話すこと。」と関連付け て指導することが重要である。 指導事項イ〜カとかかわらせて指導し,児童の実態に応じて繰り返し音読する機会 を設けるとともに,自分の声を自分で聞きながら音読する習慣を付けたり,他の人に --50/139-- --50/139-- -48- 聞いてもらったりするなど,聞くということを意識できるように工夫する。なお,音 読には,教師が読んだ後に児童が読んだり,グループで役割読みしたりするなどいろ いろな方法がある。 イ 説明的な文章の解釈に関する指導事項 「時間的な順序や事柄の順序など」とは,時間の順序や,例えば,事物の作り方の 手順など文章に取り上げられた話題自体に内在する事柄の順序などに加え,どのよう に文章を構成しているかという文章表現上の順序なども意味する。そのような順序に 沿って「内容の大体を読」んで理解することが重要である。 ウ 文学的な文章の解釈に関する指導事項 物語などを読む場合には,時間や場所,問題状況などの設定,情景や場面の様子の 変化,主人公などの登場人物,登場人物の性格や行動,会話及び心情の変化,事件の 展開と解決などの基本的な構成要素を理解していくことが必要である。 低学年では,「場面の様子」と「登場人物の行動」を中心に取り上げている。「場面 の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読む」とは,物語の展開 に即して各場面の様子が変化したり,中心となる登場人物の行動が変化したりしてい くことを把握した上で,その様子を豊かに想像しながら読むことを意味している。 エ・オ 自分の考えの形成及び交流に関する指導事項 今回の改訂では,本や文章を読んで,感じたことや思ったこと,考えたことなどを 一人一人の児童がまとめ,発表し合う指導事項を,全学年を通して新設している。 低学年では,エとして,自分の考えをまとめるために,文章に書かれている「大事 な言葉や文を書き抜くこと」を示している。 「大事な言葉や文を書き抜く」とは,時間や事柄の順序,場面の様子や登場人物の 行動,文章の要点やあらすじなどにかかわって,文章の中で大事になる言葉や文,読 み手が自分の思いや考えをもつことに強く影響した言葉や文,思いや考えを話したり 書いたりするために必要となる言葉や文などを,適切に書き抜くということである。 内容や表現からみて大事な言葉や文を書き抜くことは,理解を深めたり,自分の考え をまとめたりするときに役立つ。書き抜いた言葉や文について,感じたことや経験し たこと,思ったことや考えたことなどを書き添えたり,それらの言葉や文を関係付け --51/139-- -49- て整理したりすることが大切である。また,書き抜いたものに書き足したり,書き換 えたりして,整理することへ発展させることも考えられる。 オでは,文章を読んで「文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考 えをまとめ,発表し合うこと。」を示している。 「文章の内容と自分の経験とを結び付け」るとは,本や文章の内容や構成を自分が 既にもっている知識や経験,特に読書体験などと結び付けて解釈し,想像を広げたり 理解を深めたりすることである。「自分の思いや考えをまとめ」るとは,本や文章の 内容や構成に対する児童一人一人の思いや考えを明確に書きまとめることである。「発 表し合う」とは,互いの思いを分かち合ったり,感じ方や考え方を認め合ったりして, 読みの世界を広げることであり,話し言葉による発表だけでなく,劇で演じることや 書き言葉によって表したものを読み合うことなどの交流も含んでいる。 児童一人一人が自分の思いや考えをもてるようにするためには,本や文章との関連 を考えながら,現実的な経験や読書体験などを十分想起できるように工夫する必要が ある。交流のための発表は,共感的な態度で受容する雰囲気をつくる配慮が必要であ る。また,読む目的に照らして読書活動を振り返り,どのような読む力を身に付けた かを確かめ,読書生活に生かしていこうとする態度を養うようにすることが求められ る。 カ 目的に応じた読書に関する指導事項 楽しむためや知識を得るために,目的や必要に応じて,本や文章を選んで読むこと を示している。 低学年においても,読む目的を意識して本や文章を選び,読書活動に関する見通し をもって取り組ませる必要がある。 なお,入門期においては,易しい読み物の読み聞かせやストーリーテリングなどを 聞くことを通して,読書に興味をもつようにすることが考えられる。 --52/139-- -50- A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 本や文章を楽しんだり,想像を広げたりしながら読むこと。 イ 物語の読み聞かせを聞いたり,物語を演じたりすること。 ウ 事物の仕組みなどについて説明した本や文章を読むこと。 エ 物語や,科学的なことについて書いた本や文章を読んで,感想を書くこと。 オ 読んだ本について,好きなところを紹介すること。 ア 本や文章を楽しんだり,想像を広げたりしながら読む言語活動 本や文章を読書の対象として取り上げる言語活動である。 一つの文章を読むだけでなく,科学的な読み物や物語集,絵本など,説明的な文章 や文学的な文章を問わず様々に取り上げて読むことを求めている。楽しんで読むため には,物語に描かれている世界や,説明的な文章に取り上げられている内容について, 想像豊かに読むことが必要となる。また,楽しんだり想像したりするためには,読ん で思ったことや考えたことを音読発表会や感想の交流会などを通して交流し合う読書 活動を行うようにすることも有効である。 イ 物語の読み聞かせを聞いたり,物語を演じたりする言語活動 物語を読み聞かせてもらったり,それらを簡単な劇にしたりして楽しむ言語活動で ある。 物語の優れた読み聞かせは,語り手の声そのもの,声の大小,速さ,間の取り方, 表情などに触れて,文字などの抵抗なしに文学作品の世界に浸ることができる。読み 聞かせによって本や文章を音読する楽しさを知り,自分でも読み聞かせや,身振りを 伴った簡単な劇活動を行いたいと思うようになる。このような気持ちを大切にして, 役割を決めて読んだり,友達と協力して人形劇,音読劇,紙芝居などの簡単な劇を演 じたりする活動へとつないでいく。 この言語活動は,〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)アの「(ア) 昔 --53/139-- -51- 話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合ったりすること。」 と関連させて考えるようにすると効果的である。 ウ 事物の仕組みなどについて説明した本や文章を読む言語活動 事物を取り上げてその仕組みなどについて説明した本や文章を読む言語活動であ る。 「A話すこと・聞くこと」(2)アの「事物の説明」や「B書くこと」(2)の「ウ 身 近な事物を簡単に説明する文章などを書くこと。」などとも関連させて指導すること が大切である。 エ 物語や,科学的なことについて書いた本や文章を読んで,感想を書く言語活動 物語などの文学的な本や文章,説明的な本や文章について感想を書く言語活動であ る。 感想を書くためには,本や文章の種類を意識して内容の大体を理解するとともに, 文章の内容と自分の経験や問題意識とを結び付けて読むことが必要である。自分の経 験や問題意識とは,日常生活の中で自分が疑問に思っていることや興味のあること, 今までの学習経験や読書経験との関連,その本や文章を読むことになったきっかけな どである。低学年では,自分の経験を思い出すときにこれらのことに注意して指導す るようにするとともに,「心に残る」,「すばらしい」,「よく分かる」などの感想を表 す言葉の指導を併せて行い,自分の思いや考えを明確に表現できるようにすることが 必要である。 オ 読んだ本について,好きなところを紹介する言語活動 自分のために読むだけではなく,人に紹介することによって自分の作品に対する思 いを深める言語活動である。 紹介することを通して,自らの読書生活を豊かにするとともに,紹介する相手と, 本を読みたい気持ちを共有して読書の輪を広げていく。紹介する内容は,低学年では, 好きなところなどが中心となる。「一人で読める」,「おもしろくてたまらない」など といった紹介のための言葉を活用しやすいように語彙表を配布したり,実際の本の紹 い 介文,本の帯などの実物をモデルとして示したりして,そこから紹介文の書き方の要 素を見付け出させるなど自らの気付きを大切にした学習が進められるようにすること --54/139-- -52- が求められる。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 (1) 「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指導を通し て,次の事項について指導する。 ア 伝統的な言語文化に関する事項 (ア) 昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合ったり すること。 児童が伝統的な言語文化としての古典に出合い,親しんでいく始まりとして,昔話 や神話・伝承などの読み聞かせを聞いたり,それらを発表し合ったりすることを示し ている。昔話や神話・伝承は,国の始まりや形成過程,人の生き方や自然などについ ての古代からの人々のものの見方や考え方が,長い歴史の中で口承だけでなく筆記さ れた書物として,現在に引き継がれてきたものである。 「昔話」は,「むかしむかし,あるところに」などの言葉で語り始められる空想的 な物語であり,特定または不特定の人物について描かれる。 「神話・伝承」は,一般的には特定の人や場所,自然,出来事などと結び付けられ, 伝説的に語られている物語である。 これらを基にした本や文章を活用して読み聞かせを聞いたり,発表し合ったりする ことになる。神話・伝承については,古事記,日本書紀,風土記などに描かれたもの や,地域に伝わる伝説などが教材として考えられる。その際,児童の発達の段階や初 めて古典を学習することを考慮し,易しく書き換えたものを取り上げることが必要で ある。 --55/139-- -53- 低学年では,まず,読み聞かせを聞くことで,伝統的な言語文化に触れることの楽 しさを実感できるようにすることが大切である。話の面白さに加え,独特の語り口調 や言い回しなどにも気付き親しみを感じていくことを重視する。読み聞かせを聞いた り,互いに発表し合ったりすることを求めているので,「C読むこと」(2)の「イ 物 語の読み聞かせを聞いたり,物語を演じたりすること。」と関連付けて,初歩的な語 りや劇,紙芝居などによる発表活動を工夫するようにすると効果的である。 イ 言葉の特徴やきまりに関する事項 言葉の働きや特徴に関する事項 (ア) 言葉には,事物の内容を表す働きや,経験したことを伝える働きがあること に気付くこと。 (イ) 音節と文字との関係や,アクセントによる語の意味の違いなどに気付くこと。 (ウ) 言葉には,意味による語句のまとまりがあることに気付くこと。 これらの事項は,言葉が果たす多様な働きや特徴を理解させるために,今回の改訂 で新設したものである。 (ア)は,表現し,伝達するという言葉の働きに関する事項である。 事物の内容や自分が経験したことを表現したり伝達したりすることは,言葉の主要 な働きである。このような働きが,日常的に使用している言葉にあることに自ら気付 くような指導を行うことが大切である。 (イ)は,国語の音節や文字,アクセントに関する事項である。 平仮名や片仮名は,拗音の表記などを除けば,一文字が一音節(拍)に対応する文 よう 字である。漢字はそのような表音文字ではなく,個々の文字が音と意味とを備えてい る。この段階では,平仮名,片仮名,漢字のそれぞれの文字体系の特徴に気付かせる ようにし,中学年(1)イの「(イ) 漢字と仮名を用いた表記などに関心をもつこと。」へ と円滑につながるように指導することが重要である。 日本語のアクセントは,一般に音節(拍)の高低として理解される。「アクセント --56/139-- -54- による語の意味の違い」とは,「橋」と「箸」,「雨」と「飴」など,同音の語でもア はし あめ クセントによって意味が異なる場合があることを指している。 (ウ)は,語句に関する事項である。 言葉が小さな意味の単位である語句によって構成され,それらの語句が意味のまと まりによって語句の集合体(語彙)になっていることに気付くことを示している。 い 「意味による語句のまとまり」とは,ある語句を中心として,同義語や類義語,対 義語など,その語句と様々な意味関係にある語句が集まって構成している集合である。 例えば,果物の名前を表す語句,気持ちを表す語句などは,相互に関係のある語句と して一つのまとまりを構成している。 使用する語句の量や範囲を広げながら,語句相互の意味関係を理解するようにして, 同義語,上位・下位語,同音異義語,多義語などの学習に発展させる指導が求められ る。 表記に関する事項 (エ) 長音,拗音,促音,撥音などの表記ができ,助詞の「は」,「へ」及び「を」 よう はつ を文の中で正しく使うこと。 (オ) 句読点の打ち方や,かぎ(「」)の使い方を理解して文章の中で使うこと。 (エ)は,仮名遣いや助詞に関する事項である。 長音とは「おかあさん」のように「のばす音」,拗音とは「きゃ」,「きゅ」のよう よう に「ねじれる音」,促音とは「らっぱ」のように「つまる音」,撥音とは「ん」の字に はつ 当たる「はねる音」のことである。 ここでは,発音に関する指導と関連させるとともに,各領域における学習の積み重 ねの中で,次第にその規則性に気付き,身に付けていくことができるようにする。ま た,助詞の「は」,「へ」及び「を」については,視写や聴写の指導などを繰り返し行 うことによって,文の中で使えるようにすることが必要である。 (オ)は,句読点や,かぎ(「」)の使い方に関する事項であり,ひとまとまりの文 章を書く上での基礎的な事項である。 --57/139-- -55- 句点については,入門期から,文を書く際には,文末に必ず句点を打つように指導 し,文意識を育てていくようにする。読点については,文頭の接続詞などの後,主語 の後,従属節の後,並列する語の後など必要な箇所に打つことを理解させるようにす る。 かぎ(「」)については,会話文におけるかぎ(「」)の使い方を中心にし,その 他の箇所でもかぎ(「」)が使われていることに目を向けさせていく。 これらの表記の仕方については,国語科に限らず様々な書く機会をとらえて指導す る必要がある。 文及び文章の構成に関する事項 (カ) 文の中における主語と述語との関係に注意すること。 ここでいう「主語と述語との関係」とは,主語と述語との照応関係を指す。文の骨 格をなし,明確な文を書く最も基礎となる事項である。児童の書く文は,長くなった り複雑になったりすると,主語と述語がねじれたり,どちらかが表現されず照応関係 が不明確になったりしやすい。文の意味を明確に伝えるためには,主語と述語とが照 応することが大切であるということについて,文章を読んだり表現したりするとき強 く意識できるように指導をすることが必要である。 言葉遣いに関する事項 (キ) 敬体で書かれた文章に慣れること。 小学校に入学した児童は,これまで以上に,友達や教師,地域の人々など様々な人 とかかわるようになる。相手や場に応じて,言葉の使い方が変わることを意識すると ともに,敬体で書かれた文章にも接することになる。ここでは,そのような文章表現 における相手や場に応じた適切な言葉遣いとして敬体で書かれた文章に慣れることを 示している。「敬体」とは,文末が「です」,「ます」又は「でした」,「ました」など のようになる文体である。また,「常体」とは,文末が「である」,「であった」など --58/139-- -56- のようになる文体である。 まず,入学して初めて出合う教科書の敬体の文章に読み慣れるようにすることが必 要である。最初は,文末の表現に注意させて読み慣れるようにし,漸次自分でも使い 慣れるようにしていく。次第に常体の文章も出てくるので,敬体と常体との違いにつ いての初歩的な理解ができるように指導することも必要である。 ウ 文字に関する事項 (ア) 平仮名及び片仮名を読み,書くこと。また,片仮名で書く語の種類を知り, 文や文章の中で使うこと。 (イ) 第1学年においては,別表の学年別漢字配当表(以下「学年別漢字配当表」 という。)の第1学年に配当されている漢字を読み,漸次書き,文や文章の中 で使うこと。 (ウ) 第2学年においては,学年別漢字配当表の第2学年までに配当されている漢 字を読むこと。また,第1学年に配当されている漢字を書き,文や文章の中で 使うとともに,第2学年に配当されている漢字を漸次書き,文や文章の中で使 うこと。 (ア)は,平仮名及び片仮名に関する事項である。 基礎的な平仮名及び片仮名の読み書きと使い方が確実にできるようにすることを示 している。平仮名の読み書きについては,各教科等の学習の基礎となるものであり, 第1学年でその全部の読み書きができるようにする必要がある。「片仮名で書く語の 種類を知り,文や文章の中で使うこと」とは,擬声語や擬態語,外国の地名や人名, 外来語など片仮名で書く語がどのような種類の語であるかを知り,実際に文や文章の 中で片仮名を使うことを示している。 (イ)及び(ウ)は,漢字に関する事項である。 漢字の読みと書きについては,書きの方が習得に時間がかかるという実態を考慮し, 書きの指導は2学年間という時間をかけて,確実に書き,使えるように指導すること --59/139-- -57- としている。また,漢字の読みについては,当該学年に配当されている漢字の音読み や訓読みを指導することになる。 (イ)の第1学年では,漢字に対する興味や関心,字形に関する意識などを養いなが ら,学年に配当されている80字の漢字を読めるようにする。第1学年の配当漢字には, 象形文字や指事文字が多く含まれているので,漢字の字形と具体的な事物(実物や絵 など)とを結び付けるなどの指導を工夫し,漢字が表意文字であることを意識しなが ら,漢字に対する興味や関心を高められるようにする。また,漢字単独の読みだけで はなく,文や文章の中で漢字を読むことも大切にして,文脈の中での意味と結び付け ていくようにする。 「漸次書き,文や文章の中で使う」とは,学習した漢字を習得できるように少しず つ練習を重ねるとともに,実際の文や文章で使うようにすることである。児童の中に は,知識として漢字を知っていても,実際に文章を書くときに使わないことがある。 そのような実態に留意し,実際に使うことによって有効性を実感するとともに,2学 年にわたって確実に定着するように実際に書く態度を養うようにする。 (ウ)の第2学年では,漢字を読むことについて,学年別漢字配当表の第2学年まで に配当されている漢字を読むことを示している。また,漢字を書くことについては, 第1学年に配当されている漢字を書き,文や文章の中で使う習慣を身に付けるように するとともに,当該学年に配当されている漢字を漸次書き,文や文章の中で使うよう にすることとしているのは第1学年と同じである。 書写に関する事項 (2) 書写に関する次の事項について指導する。 ア 姿勢や筆記具の持ち方を正しくし,文字の形に注意しながら,丁寧に書く こと。 イ 点画の長短や方向,接し方や交わり方などに注意して,筆順に従って文字 を正しく書くこと。 --60/139-- --60/139-- -58- アは,文字を書く基礎となる姿勢や筆記具の持ち方及び文字の形に関する事項であ る。 「姿勢や筆記具の持ち方を正しくし」とは,読みやすく整った文字を効率よく書く ために必要なことを示したものである。「姿勢」は,文字を書くときの構えのことで ある。正しい姿勢になるには,背筋を伸ばした状態で体を安定させたり,書く位置と 目の距離を適度に取ったり,筆記具を持ったときに筆先が見えるようにすることが重 要である。「筆記具」は,低学年では,鉛筆やフェルトペンを使用する。「持ち方を 正しく」するためには,人差し指と親指と中指の位置,手首の状態や鉛筆の軸の角度 などを適切にすることが必要である。 姿勢と筆記具の持ち方は,深く関連している。例えば,執筆に際して親指が人差し 指の先より下がった場合,筆先を親指の先端が隠すため,児童は横から紙面をのぞき 込む姿勢をとる。このような執筆傾向があることへの意識が欠けたままで,「背筋を 伸ばす」といった指導のみが加えられた場合,児童は筆先を注視することなく文字を 書くことになる。このようなことがないように関連性を考えて指導することが大切で ある。 「文字の形に注意しながら,丁寧に書く」の「文字の形」とは,主として文字の概 形のことである。概形とは,「○,□,◇,△」などの形に類型化される文字のおお よその形のことである。また,「丁寧に書く」とは,始筆から送筆,さらに,終筆(と め,はね,はらい)までを確実に書き,その積み重ねで文字の形を整えていくことで ある。 イは,文字を正しく整えて書くことに関する事項である。 「点画」とは,文字を構成する「横画,縦画,左払い,右払い,折れ,曲がり,そ り,点」などのことである。「長短や方向,接し方や交わり方」とは,文字を構成す る点画の形状や点画相互の位置関係のことを指す。「長短や方向」とは,点画の形状 のことである。例えば,「三」の場合,仮に一画目が他の二画に比べて長すぎたり, その方向が横方向ではなくて縦方向を向いていたりすると,その文字は「三」という 文字としては認識されにくいし,正しく整っているとは言えない。また,「接し方や 交わり方」とは,点画相互の位置関係のことである。 --61/139-- -59- 「筆順」は,書き進む際の合理的な順序が習慣化したもののことである。学校教育 で指導する筆順は,「上から下へ」,「左から右へ」,「横から縦へ」といった原則とし て一般に通用している常識的なものである。筆順は,中学年の文字の組立て方につい ての事項アや毛筆を使用する事項ウなどにかかわっている。 --62/139-- -60- 第2節 第3学年及び第4学年 「A話すこと・聞くこと」 (1) 目 標 (1) 相手や目的に応じ,調べたことなどについて,筋道を立てて話す能力,話の 中心に気を付けて聞く能力,進行に沿って話し合う能力を身に付けさせるとと もに,工夫をしながら話したり聞いたりしようとする態度を育てる。 前段は,話す能力,聞く能力及び話し合う能力,後段は,話すこと・聞くこと全体 にわたる態度を示している。 前段では,「相手や目的に応じ,調べたことなどについて,筋道を立てて話す能力, 話の中心に気を付けて聞く能力,進行に沿って話し合う能力を身に付けさせる」こと をねらいとしている。 話題については,「相手や目的に応じ,調べたことなど」を取り上げることを示し ている。低学年の「相手に応じ」ることに加え,「目的」を明確にすることを求めて いる。相手についても,今までより多様な相手へと広がる。それとともに,様々な目 的を設定することが必要となる。例えば,出来事を説明したり調査の報告をしたりす る,話し合って考えをまとめたり意見を述べ合ったりするなどである。取り上げる話 題については,低学年の「身近なことなど」から「調べたことなど」へと発展させて いる。 話すことについては,「筋道を立てて話す能力」を示している。物事の順序はもち ろん,調べて分かった事柄や事実などの順序などに基づいて,自分の思いや願い,伝 えたい中心を位置付けたり,相手に分かりやすく伝えられるように構成や内容を考え たりするものである。ここでは,自分の考えや意見の筋道が明確であることとともに, 相手が理解しやすい筋道であることも大切にしなければならない。 --63/139-- -61- 聞くことについては,「話の中心に気を付けて聞く能力」を示している。例えば, 説明や報告などの中心としては,話し手が調べたことはどのようなことであったのか, それを話し手はどのようにまとめたのかなどに気を付けて聞くことが重要である。 話し合うことについては,「進行に沿って話し合う能力」を示している。ここでは, 司会や提案などの役割を果たしながら,話合いの進行に合わせ,互いの考えをよく伝 え合って話し合うことを求めている。中学年においては,グループや学級全体の問題 解決などに向けて,主体的に話し合い,より一層豊かな相互交流を図るようにするこ とが重要である。 後段では,「工夫をしながら話したり聞いたりしようとする態度を育てる」ことを ねらいとしている。今まで学んできたことを生かしながら,相手や目的に応じて工夫 をしながら話したり聞いたりしようとする態度を育てる必要がある。 (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 話すこと・聞くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 関心のあることなどから話題を決め,必要な事柄について調べ,要点をメ モすること。 イ 相手や目的に応じて,理由や事例などを挙げながら筋道を立て,丁寧な言 葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと。 ウ 相手を見たり,言葉の抑揚や強弱,間の取り方などに注意したりして話す こと。 エ 話の中心に気を付けて聞き,質問をしたり感想を述べたりすること。 オ 互いの考えの共通点や相違点を考え,司会や提案などの役割を果たしなが ら,進行に沿って話し合うこと。 --64/139-- -62- ア 話題設定や取材に関する指導事項 低学年の「ア 身近なことや経験したことなどから話題を決め,必要な事柄を思い 出すこと。」を受けて,関心のあることなどから話題を決め,必要な事柄について調 べて,要点をメモすることを示している。 話題については,児童の興味や関心のあることを大切にして決めることを求めてい る。学校や家庭,地域のことなどで興味や関心をもっている事柄を想起し,一つの話 題に絞っていくことが必要となる。 取材については,必要に応じて,本や文章を読む,人に聞く,図表や絵,写真など を見るなどの方法から選択し,調べたことの要点をメモすることを重視している。児 童は,調べた知識や情報が多くなると未整理なままそれらを使おうとすることがある。 そのようなときには,メモを活用して内容を整理し相互関係を考えることで,話した いことや聞きたいことを明確にすることが重要である。 ここでは,児童一人一人の興味や関心を大切にして話題を決め,具体的な相手や話 す目的を強く意識して必要な事柄を取材したりまとめたりすることが大切である。 イ・ウ 話すことに関する指導事項 イは,話すことの構成や内容及び言葉遣いに関する指導事項である。 この指導事項は,低学年の「イ 相手に応じて,話す事柄を順序立て,丁寧な言葉 と普通の言葉との違いに気を付けて話すこと。」を受けたものである。後段の「丁寧 な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと」の「丁寧な言葉」は,従前,〔言語 事項〕に位置付けていたものである。 中学年では,具体的な場を一層強く意識して話すことをねらいとし,「相手や目的」 に応じることを示している。相手は,身近な存在の人々に加え,異学年の児童や地域 の人々などへと広がってくる。それに伴って,目的も多様になるので,説明や報告を する,意見を述べるなど,伝えたい目的を明確にして話すことが求められるようにな る。 「理由や事例などを挙げながら筋道を立て」るとは,話す内容を構成するときに, 伝えたいことだけを話すのではなく,関心を抱いた理由や,なぜそのような考えにな ったのかという根拠,さらに,事例などを挙げながら筋道立て,内容を明確にしてい --65/139-- -63- くことである。 また,「丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと」は,「B書くこと」(1) の「エ 文章の敬体と常体との違いに注意しながら書くこと。」と関連しており,相 手や目的に応じて,丁寧な言葉を選んだり,敬体と常体との表現を使い分けたりする ことを示したものである。言葉遣いは,実際に話すときに強く意識するものであるが, 発表の原稿を準備する段階でも工夫するようにすることが求められる。 ウは,音声に関する指導事項である。 この指導事項は,低学年の「ウ 姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して, はっきりした発音で話すこと。」を受けたものである。話す際に,相手を見る視線, 言葉の抑揚や強弱,間の取り方などに注意することを示している。 「相手を見たり」という視線についての指導は,自分の話したことが聞き手に十分 伝わっているかを判断するために,聞き手の反応を見ながら話す能力として重要であ る。また,聞き手の注意を喚起する上でも大事な要素である。 「言葉の抑揚や強弱」は,身振りや表情などとともに,話の伝わり方に大きな影響 を与える要素である。不自然な言葉の強調は避けなければならないが,話す内容に応 じて,声の上げ下げに注意して言葉に調子を付けたり,文中の特定の語や表現の一部 を他よりも強調したりして,話の内容が相手に伝わるような工夫をするよう指導して いくことが大切である。 「間の取り方」は,話し手と聞き手の両面から考える必要がある。話し手にとって の間とは,発音・発声のための息継ぎであると同時に,自らが伝えたい内容を聞き手 に理解してもらうために意図的にとる構文や語句の上での間でもある。一方,聞き手 にとっての間は,話し手の意図を理解したり,思いや考えの大事な箇所を感じ取った り,自分の理解を深める時間となる。 ここでは,相手との親疎やその人数,目的など具体的な場面を明確に設定し,それ らの場面や条件に応じて言葉遣いや視線などに注意しながら音声にも気を付けて話さ せるように工夫することが必要である。具体的には,身近な人から知らない人へとい うように対象を変えたり,少人数のグループから学級全体へと人数を変えたりするな どいろいろな場を設定することになる。また,まとまった発表などのときには,発表 --66/139-- -64- 原稿を書き,話す内容を筋道立てる工夫などについて考えさせるようにすることが必 要である。 エ 聞くことに関する指導事項 低学年の「エ 大事なことを落とさないようにしながら,興味をもって聞くこと。」 を受けて,話の中心を聞き取り,質問などをすることを示している。 「話の中心に気を付けて聞き」とは,話している事柄の順序など,話の組立て方を 意識しながら,話の要点を聞くことである。 「質問をしたり感想を述べたりする」とは,話の内容や話し方に関心をもって聞き, 聞いた事柄を基に分からない点や確かめたい点を質問したり,自分の感想や意見を述 べたりすることである。感想を深められるようにするために,自分の経験と結び付け たり,自分の考えと比較しながら聞いたりすることにも注意させることが必要である。 オ 話し合うことに関する指導事項 低学年の「オ 互いの話を集中して聞き,話題に沿って話し合うこと。」を受けて, 話合いを進行していくときの役割を理解してそれぞれが積極的に進行に協力すること を示している。 司会や提案の役割を理解し,話合いの規模に応じて児童一人一人がそれぞれの役割 を果たす経験をする機会を設けるようにすることが重要である。なお,進行に沿った 話合いをするためには,互いの話を聞き,考えの共通点や相違点を整理することにも 配慮する必要がある。 司会者は,話合いがまとまるように進行していくのが役割である。司会者としては, 最初は,準備した進行表に沿って進行することそのものを学び,徐々に,話合いが目 的に応じて適切に進行するように,提案者や参加者の発言を整理したり,促したり, まとめたりすることができるように高めていくことが求められる。提案者は,参加者 全員に考えが伝わるように話す内容を整理したり,話し方に注意したりする必要があ る。また,参加者には,進行に合わせながら,積極的に自分の考えを発言し,話合い に加わるようにさせる。 話合いの規模については,小グループから始め,学級全体でも司会や提案をするよ うにする。その際,互いの考えの共通点や相違点をよく確認しつつ,話合いを進める --67/139-- -65- ようにさせることが重要である。考えが相違するときには,それぞれの考えがどのよ うなことに基づいているのかといったことにも目を向けさせることが必要である。こ こでは,司会者や提案者の役割をそれぞれに果たしながら,いろいろな場面での司会 や提案の内容や方法を学んでいくことが大切である。 また,例えば,特別活動における集団としての意見をまとめる話合い活動など他教 科等とも関連付け,児童の日常生活に生きて働くように多くの場を設定することが大 切である。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 出来事の説明や調査の報告をしたり,それらを聞いて意見を述べたりする こと。 イ 学級全体で話し合って考えをまとめたり,意見を述べ合ったりすること。 ウ 図表や絵,写真などから読み取ったことを基に話したり,聞いたりするこ と。 ア 出来事の説明や調査の報告をしたり,それらを聞いて意見を述べたりする言語活 動 出来事の説明や調査の報告をしたり,それらを聞いて自分の意見を述べたりする言 語活動である。 出来事としては,学校や地域での催し,季節にちなんだ行事などを取り上げること が考えられる。日常生活の中に根付いている文化的な催しなどの歴史や意義,また, その運営や人々の参加の様子についてまとめて説明することなどが考えられる。説明 は,催しなどの内容を知っている人に話す場合もあれば,知らない人に説明する場合 もある。また,児童自身がその催しなどに参加している場合と,本や文章などで調べ ただけの場合などがあることに注意する必要がある。 調査の報告は,関心のあることや,各教科等で行う観察や実験,調査などを取り上 --68/139-- -66- げることが考えられる。調査の目的に合わせて,観察や実験の経過や成果とともに, 本,インタビュー,アンケートなど調べるための方法も選ばせるようにする。報告す るときには,調査の目的や方法,調べたときの記録を生かし,結果や成果とともに分 かったことや考えたことを明確にさせることが重要である。 なお,このような出来事の説明や調査の報告をする際には,情報活用能力の育成の 面からも,録音や録画の機器を積極的に活用することが求められる。 また,説明や報告を聞くときには,話し手がどのような課題について調べ,分かっ たことや考えたことをまとめているかに気を付けて,その内容や,説明や報告の仕方 の分かりやすさなどについての意見をまとめることが必要である。意見をまとめるた めに,話の要点,気付いたことや連想したことなどをメモすることなども有効である。 イ 学級全体で話し合って考えをまとめたり,意見を述べ合ったりする言語活動 学級全体で話合いをする言語活動である。 学級全体で話し合うためには,司会者や提案者,参加者などの役割を決めて運営す ることのみならず,個人やグループの意見を十分明確にする時間を確保することが必 要となる。その際,個人やグループの意見の共通点や相違点を整理し,それぞれの考 えを反映させながら,学級全体として一つの考えに集約することや,討論を交わして 考えを深め合ったり広げ合ったりすることが重要となる。 ウ 図表や絵,写真などから読み取ったことを基に話したり,聞いたりする言語活動 図表や絵,写真などの資料を取り上げ,そこから読み取ったことを基に話したり,それ を聞いたりする言語活動である。 図表や絵,写真などは,それ自体を取り上げる場合もあれば,文や文章などに収録 されているものを取り上げる場合もある。いずれの場合にも,それらから,目的に応 じて効果的に情報を得たり,自分の考えをもったりすることなどが求められる。 図は,分類や組織,構成や関係,手順や過程などを端的に表すためのものである。 箇条書きなども,図解の一つである。また,表やグラフは,変化や傾向,順位,時間 の経過などを表したり,全体の構成要素を概観したりするのに役立つものであり,多 様な表現方法が用いられる。絵や写真には,芸術的なものだけでなく,物事を説明す るために用いられているものもある。これらの資料は,多様な目的や方法によって活 --69/139-- -67- 用されているが,中学年では,話すときにこのような資料のいくつかを取り上げ,相 手に分かりやすく説明や報告をするなどの言語活動を重視することが大切である。 一方,それらを聞くことでは,友達の読み取ったことに妥当性があるかを判断した り,自分の読み取ったこととの共通点や相違点は何かを見付けたり,新たに得た情報 を自分の考えに生かしたりすることが大切である。 「B書くこと」 (1) 目 標 (2) 相手や目的に応じ,調べたことなどが伝わるように,段落相互の関係などに 注意して文章を書く能力を身に付けさせるとともに,工夫をしながら書こうと する態度を育てる。 前段は,書く能力,後段は,書く態度を示している。 前段では,「相手や目的に応じ,調べたことなどが伝わるように,段落相互の関係 などに注意して文章を書く能力を身に付けさせる」ことをねらいとしている。 話すこと・聞くことと同様,書くことにおいても,相手や目的を強く意識しながら 課題を設定したり,取材をしたりすることが重要である。しかし,書く相手は,話す こと・聞くことのように眼前にいるのではない。その場を共有しない特定または不特 定の人を想定しなければならない。その点で,話すこと・聞くことの言語活動よりも 難しくなるので,「話すこと・聞くこと」では低学年から,「書くこと」では中学年か ら「相手や目的に応じ」ることを目標に置いている。 書く相手としては,保護者や地域の人々などの大人から,同学年・異学年の友達ま で多様である。児童自身が課題意識をもって相手を設定したり,書いた文章を相手が どのように受け止めるかなどについても考えさせたりする。また,書く目的としては, 伝える,報告する,説明する,依頼する,案内するなど,具体的な生活の中で必要と --70/139-- --70/139-- -68- なるものを取り上げるようにすることが望ましい。 さらに,課題の設定や取材に関して「調べたことなど」を示したのは,各教科等の 学習の中で,様々なことを調べたり,観察したり,見学したりするなどの機会が増え てくるからである。このような活動を通して興味や関心を抱いたり,疑問に思ったり, 想像したりしたことなどを取り上げて書くことを求めている。 構成や記述の能力に関しては,「段落相互の関係などに注意して文章を書く能力を 身に付けさせる」ことを示している。これは,低学年での「順序を整理し,簡単な構 成を考えて文や文章を書く能力」を受け,文章構成の中核となる段落相互の関係につ いて理解し,それに基づいて書くべき内容を構成したり記述したりする能力を求めた ものである。 後段では,「工夫をしながら書こうとする態度を育てる」ことをねらいとしている。 相手や目的が多様になっていくこの時期に,これまでに身に付けてきた書くことの 能力を活用する能動的な態度を求めている。 --71/139-- -69- (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 書くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 関心のあることなどから書くことを決め,相手や目的に応じて,書く上で 必要な事柄を調べること。 イ 文章全体における段落の役割を理解し,自分の考えが明確になるように, 段落相互の関係などに注意して文章を構成すること。 ウ 書こうとすることの中心を明確にし,目的や必要に応じて理由や事例を挙 げて書くこと。 エ 文章の敬体と常体との違いに注意しながら書くこと。 オ 文章の間違いを正したり,よりよい表現に書き直したりすること。 カ 書いたものを発表し合い,書き手の考えの明確さなどについて意見を述べ 合うこと。 ア 課題設定や取材に関する指導事項 低学年の「ア 経験したことや想像したことなどから書くことを決め,書こうとす る題材に必要な事柄を集めること。」を受けて,関心のあることなどから書くことを決 め,相手や目的に応じて,書く上で必要な事柄を調べることを示している。 「関心のあることなどから書くことを決め」るとは,日常的に興味や関心をもって いること,経験したり人から聞いたりしたこと,本を読んで知ったことなどから,自 分なりに関心を深めて書こうとすることを決めることである。 「相手や目的に応じて,書く上で必要な事柄を調べること」とは,書こうとするこ とに応じて相手や目的を明確に意識し,必要なことを調べて取材するということであ る。なお,一層知識を得たり,考えを深めたりするためのもの,考えや意見の理由と なるものや事例など,必要なことを取材させるようにすることになる。調べることが できるようにするのは,課題を解決する際に役立ち,各教科等の学習の基盤ともなる --72/139-- -70- 重要な能力だからである。本や文章,リーフレットやパンフレット,音声や映像を利 用したり,友達や地域の人々などにインタビューやアンケートを行ったりすることな どから,適切な方法を選択し調べるようにさせる必要がある。 イ 構成に関する指導事項 低学年のイ「事柄の順序に沿って簡単な構成を考えること」を受けて,文章の単位 の一つとして,ひとまとまりの内容を構成する段落の役割を理解するとともに,自分 の考えが明確になるように段落相互の関係などに注意して文章を構成することを示し ている。 段落には,改行によって示されるいくつかの文の集まりである形式段落と,その形 式段落のいくつかが意味のつながりの上でひとまとまりになった意味段落とがある。 段落は,そのように文章を構成する単位としての役割をもっている。自分の考えが明 確になるように文章を構成するためには,累加や並列といった連接関係や,具体的な 事柄と抽象的な事柄,結論とその理由や根拠といった配列関係などの段落相互の関係 に注意することが必要となってくる。また,「冒頭部−展開部−終結部」などの文章 の展開に即して,各部分での段落の役割を強く意識して,自分の考えが明確になるよ うに工夫することも重要である。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(エ) 句読点を適切に打 ち,また,段落の始め,会話の部分などの必要な箇所は行を改めて書くこと。」とも 関連付け,まず形式段落を十分理解させることに配慮する。次に,「ウ 書こうとす ることの中心を明確にし,目的や必要に応じて理由や事例を挙げて書くこと。」のた めに,連接関係や配列関係などがあることを理解することが必要となるので,事柄の まとまりを意識して,段落相互の関係に注意させるようにする。段落相互の関係は, 網羅的に取り上げるのではなく,実際の文章構成に即して相互関係があることに注意 しながら「自分の考えが明確になるように」書くために必要な相互関係を取り上げて 指導することが重要である。 ウ・エ 記述に関する指導事項 ウは,低学年の「ウ 語と語や文と文との続き方に注意しながら,つながりのある 文や文章を書くこと。」を受けて,調べたことやそれによって深まった自分の考えな --73/139-- -71- ど,書こうとすることの中心を明確にし,目的や必要に応じて理由や事例を挙げて記 述することを示している。 「書こうとすることの中心を明確に」するためには,文章全体を通して中心となる 内容を明確に記述したり,段落相互の関係から見て中心となる段落を明確に位置付け たり,各段落の内容の中心を明確に記述したりすることなどに配慮する必要がある。 また,目的や必要に応じて,その中心の内容や段落に対して,原因や理由を挙げた り,分かりやすく説明するために事例などを挙げたりすることを示している。理由に ついては,因果関係がある場合や,複数の要因によって帰結する場合などに応じて, 記述する内容を検討したり,「なぜかというと〜」,「その理由は〜」,「〜のためであ る」などの表現について指導したりするようにする。事例については,エピソードと なるようなまとまったものを取り上げたり,考えに該当する実例を幾つか取り上げた り,具体的な本や文章,絵や写真など事物そのものを取り上げたりして描写や説明を することが必要である。事例の場合にも,「例えば〜」,「事例を挙げると〜」,「〜な どが当たる」などの表現を指導することが大切である。 エは,敬体と常体との違いに注意しながら書くことを示している。 文章を記述するときには,相手や目的に応じて敬体と常体のどちらかを使用して書 くことになる。それを意識的に使い分けることや,書いていくときに「〜だ」,「〜で ある」,「です」,「ます」などの文末表現に注意して書くことが重要である。児童の文 章では,敬体と常体が混在していることがあるので,読み直して統一するようにさせ ることが大切である。 「A話すこと・聞くこと」(1)の「イ 相手や目的に応じて,理由や事例などを挙 げながら筋道を立て,丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと。」とも関 連を図る必要がある。 オ 推敲に関する指導事項 低学年の「エ 文章を読み返す習慣を付けるとともに,間違いなどに気付き,正す こと。」を受けて,間違いを正したり,よりよい表現に書き直したりすることを示し ている。 指導事項ア〜エを基に,どのようなところに注意して推敲するのかを明確にするこ こう --74/139-- -72- とが大切である。「文章の間違いを正」すことでは,主語と述語及び修飾と被修飾の 関係の明確さ,長音,拗音,促音,撥音,助詞などの表記の仕方のほかに,敬体と よう はつ 常体,断定や推量,疑問などの文末表現の使い方などに注意する。「よりよい表現に 書き直」すためには,相手や目的に応じているか,自分の考えを明確に記述している かなどから表現を検討することが必要となる。 児童自身が間違いなどを正したり,よりよい表現に書き直したりすることによって 整った文章になることが実感できるように,下書きと推敲後の文章を比べるなどの工 こう 夫をすることが大切である。 カ 交流に関する指導事項 低学年の「オ 書いたものを読み合い,よいところを見付けて感想を伝え合うこと。」 を受けて,書いたものを読み合ったり音読したりして発表し合い,考えの明確さや書 き方の巧みさなどについて意見を述べ合うことを示している。 「書いたものを発表し合」うことでは,推敲して書き終えた文章だけではなく,学 こう 習計画や,取材,構成の段階のメモなど書くことの学習過程についても発表し合うよ うに工夫する。また,記述した内容以外に,相手について配慮したことや,記述の仕 方などで工夫したことなどを紹介し,自分の考えがなぜそのような考えに至ったのか というきっかけなどについても交流させるようにすることが大切である。 --75/139-- -73- A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 身近なこと,想像したことなどを基に,詩をつくったり,物語を書いたり すること。 イ 疑問に思ったことを調べて,報告する文章を書いたり,学級新聞などに表 したりすること。 ウ 収集した資料を効果的に使い,説明する文章などを書くこと。 エ 目的に合わせて依頼状,案内状,礼状などの手紙を書くこと。 ア 身近なこと,想像したことなどを基に,詩をつくったり,物語を書いたりする言 語活動 詩や物語などの文学的な文章を創作する言語活動である。 ここでは,学校や家庭,地域などで実際に見聞したり,行動したり,経験したりした ことや想像したことなどを基に,詩をつくったり物語を書いたりする。「C読むこと」 (2)の「ア 物語や詩を読み,感想を述べ合うこと。」との関連を図り,詩や物語の基 本的な特徴を理解し,書くことを楽しむようにすることが大切である。 詩は,凝縮した表現であること,普通の文章と違った改行形式や連による構成にな っていることといった特徴をもっている。物語は,主人公やその他の登場人物がそれ ぞれの役割をもっていること,フィクション(虚構)の世界が物語られていること, 冒頭部に状況や登場人物が設定され,事件とその解決が繰り返され発端から結末へと 至る事件展開によって構成されていることなどの特徴をもっている。また,詩も物語 も,語り手が,一人称や三人称などの視点から語っていく形式となっている。 中学年では,このような特徴を必ずしも十分満たさなくとも,児童の思いを大切に して創造的な表現をすることの楽しさを実感させることが大切である。 イ 疑問に思ったことを調べて,報告する文章を書いたり,学級新聞などに表したり する言語活動 --76/139-- -74- 調べたことを基に報告する文章を書いたり,それを学級新聞などの記事として生か しながら編集したりする言語活動である。 「疑問に思ったことを調べ」るとは,例えば,自分の経験したことの中から不思議 に思ったことや,身の回りの事柄や学習した事柄について疑問に思っていることなど を調べることである。調べた結果を友達に説明するなど,書く相手や目的を明確にも つことのできる場面の設定が必要となる。 設定した相手,目的や場面に応じて,書く材料の収集や選択の仕方,まとめ方など を様々に工夫することになる。その際,報告する文章や学級新聞などの特徴に基づい て書くことが必要となる。例えば,調査を報告する文章では,調査の目的や方法,調 査の結果とそこから考えたことを明確に書くことになる。学級新聞では,複数の種類 の文章を集めて編集し,見出しを付けたり記事を書いたり,割り付けをしたりするこ とになる。 ウ 収集した資料を効果的に使い,説明する文章などを書く言語活動 資料を使い,説明する文章などを書く言語活動である。 「収集した資料を効果的に使い」とは,説明する相手や目的に応じて,本や文章, 図表,絵画,写真,具体物などの資料を収集し,考えを高めることと,構成や記述の ためにこれらの資料を活用することとである。書くべき「説明する文章など」には, 文章だけでなく,図鑑や小冊子などの形も考えられる。ここでは,例えば文章を図解 する資料となっていることや,写真やグラフなどを具体的に解説した文章となってい ることなど,文章と図表などの資料とが相互に密接な関連をもつものであることを意 識できるようにすることが大切となる。 エ 目的に合わせて依頼状,案内状,礼状などの手紙を書く言語活動 実用的な文章としての手紙を書く言語活動である。 ここでは,地域での体験学習の指導を依頼する手紙,学校行事について案内をする 手紙,地域の方にお世話になったことへのお礼の手紙などを書くことが考えられる。 その際,表書きに宛て名や住所などを正しく書くことや,後付けにおける署名と宛て あ あ 名の位置関係といった基本的な形式なども押さえることが求められる。 --77/139-- -75- 「C読むこと」 (1) 目 標 (3) 目的に応じ,内容の中心をとらえたり段落相互の関係を考えたりしながら読 む能力を身に付けさせるとともに,幅広く読書しようとする態度を育てる。 前段は,読む能力,後段は,読書態度を示している。 前段では,「目的に応じ,内容の中心をとらえたり段落相互の関係を考えたりしな がら読む能力を身に付けさせる」ことをねらいとしている。 「目的に応じ」ることは,話すこと・聞くこと,書くことと同様に,読むことにお いても重要である。読むことによって何を得ようとするのか,またどのように活用し ようとするのかなどについて考える必要がある。 読むことについては,「内容の中心をとらえたり段落相互の関係を考えたりしなが ら読む能力」を示している。これは,目的に応じていろいろな本や文章を分析的に読 み,内容の中心をとらえたり,段落相互の関係を考えて全体の構成を把握し,自分の 考えをまとめたりしながら読む能力を育成することを求めている。 後段では,「幅広く読書しようとする態度を育てる」ことをねらいとしている。 今までの読書経験を踏まえ,様々な目的に応じて幅広く読書しようとする態度を指 している。これは,多くの本や文章を読むという読書の量的な向上と,いろいろな種 類の本や文章を読んで読書の分野を広げるという質的な向上との両方を意図したもの である。多くの本や文章を幅広く読書し,読書の大切さや価値を理解することは,読 書生活を向上させ読書しようとする態度を育てることにもつながっていく。 --78/139-- -76- (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 読むことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること。 イ 目的に応じて,中心となる語や文をとらえて段落相互の関係や事実と意見 との関係を考え,文章を読むこと。 ウ 場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気持ちの変化,情景 などについて,叙述を基に想像して読むこと。 エ 目的や必要に応じて,文章の要点や細かい点に注意しながら読み,文章な どを引用したり要約したりすること。 オ 文章を読んで考えたことを発表し合い,一人一人の感じ方について違いの あることに気付くこと。 カ 目的に応じて,いろいろな本や文章を選んで読むこと。 ア 音読に関する指導事項 低学年の「ア 語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること。」を受 けて,文章の内容や構成をよく理解し,自分の思いや考えと合わせながらよく分かる ように音読することを示している。 「内容の中心や場面の様子がよく分かるように」とは,一文一文などの表現だけで なく,文章全体の内容や構成からその中心を把握して音読する工夫を求めたものであ る。中心を理解することによって,音読するときの軽重や速さなどを考えて音読の仕 方を変えることができるようになる。特に,物語では,各場面を意識して,様子がよ く分かるように音読する工夫が求められる。 ここでは,「カ 目的に応じて,いろいろな本や文章を選んで読むこと。」と関連付 けて,本や文章の内容や表現の特徴に合わせて,音読の目的や方法を工夫させるよう にする。なお,「A話すこと・聞くこと」(1)の「ウ 相手を見たり,言葉の抑揚や強 --79/139-- -77- 弱,間の取り方などに注意したりして話すこと。」とも関連付けて指導することが効 果的である。 また,黙読も活用し,文章の内容の理解を深めることが重要である。黙読について は,文章の展開に即して事柄を関連付けたり,重要な箇所を見付けたり,必要に応じ て速さを変えて読んだりするなどの指導を工夫する必要がある。 イ 説明的な文章の解釈に関する指導事項 低学年の「イ 時間的な順序や事柄の順序などを考えながら内容の大体を読むこ と。」を受けて,目的に応じて中心となる語や文をとらえるなどして段落相互の関係 を押さえることや,事実と意見との関係を考えて読むことを示している。 「B書くこと」においても「イ 文章全体における段落の役割を理解し,自分の考 えが明確になるように,段落相互の関係などに注意して文章を構成すること。」があ り,読むことにおいても,目的に応じて段落相互の関係をとらえることを求めている。 文章を読む目的に応じて中心となる語や文をとらえるような学習を工夫することが 重要である。読む目的によって本や文章の活用の仕方が変わり,そのため取り上げる 中心となる語や文も変化してくる。中心となる語や文に注目して要点をまとめたり, 小見出しを付けたりするなどして,内容を整理することが大切となる。〔伝統的な言 語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(ク) 指示語や接続語が文と文との意味 のつながりに果たす役割を理解し,使うこと。」と関連付け,指示語や接続語,文末 表現に注意して読ませることも必要となる。 また,ここでは,事実と意見との関係に注目して読むことも求めている。「事実と 意見との関係を考え」るとは,事実と意見とがどのように区別されているのかを把握 したり,文章における事実と意見の記述の仕方の違いについて気付いたりすることで ある。「事実」には,現実の事象や出来事,科学的事実,社会的・歴史的事実,自分 が直接経験した事実や,間接的に見聞したり読んだりして得た間接的な事実などがあ る。また,「意見」とは,書き手や話し手が自分の思いや考えを述べたものであるが, そこには,断定的な意見や推論による不確定な意見,助言や勧告,提案などが含まれ ていたり,私的な見解と公的な見解といった違いなどもあったりする。筆者がこのよ うな「事実」をどのように取り上げ,またそれらについての「意見」をどのように述 --80/139-- --80/139-- -78- べているのかを,文章の内容や構成を把握することから考えることが重要となる。 なお,事実と意見との関係を考えることは,段落相互の関係をとらえることにおい ても必要なものであるとともに,段落の内部においても必要なものであることに留意 する必要がある。事実に対して,意見を表す語句,文,段落を取り出し,これを関係 付けながら,筆者がどのような事実を原因や理由として挙げ,それについてどのよう な考えや意見を述べようとしているのかをとらえることが重要である。 ウ 文学的な文章の解釈に関する指導事項 低学年の「ウ 場面の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読 むこと。」を受けて,物語の場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気 持ちの変化,情景などについて想像して読むことを示している。 「場面の移り変わりに注意しながら」読むとは,各場面の様子に気を付けながら場 面と場面とを関係付けて読むことである。「登場人物の性格や気持ちの変化,情景な ど」について読むとは,各場面を構成する要素である登場人物の行動や会話に即しな がら,それぞれの登場人物の性格を押さえ,登場人物同士がどのような関係にあるか, 物語の上でどのような役割を担っているかなどを考えながら,それらの人物像を中核 に読むことである。〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(ア) 言 葉には,考えたことや思ったことを表す働きがあることに気付くこと。」と関連付け て,登場人物の気持ちをとらえることが大切である。 「叙述を基に想像して読むこと」とは,フィクション(虚構)による世界が描かれ ている物語や詩の描写を,想像力を働かせながら読むことである。叙述を基に,それ ぞれの登場人物の性格や境遇,状況を把握し,場面や情景の移り変わりとともに変化 する気持ちについて,地の文や行動,会話などから関連的にとらえていくようにする ことが必要となる。その際,自分を取り巻く現実や経験と照らし合わせて物語の世界 を豊かにかつ具体的に感じ取ったり,そこから感じ取った感想や感動を大切にしたり することが必要である。 エ・オ 自分の考えの形成及び交流に関する指導事項 エは,低学年の「エ 文章の中の大事な言葉や文を書き抜くこと。」を受けて,自 分の考えをまとめるために,文章の要点や細かい点に注意しながら読み,引用や要約 --81/139-- -79- をすることを示している。 「目的や必要」には,自分の考えや感想などを高めたり,調べたことを報告したり, 紹介したりすることなどが考えられる。「文章の要点や細かい点に注意しながら」と は,文章を読んで自分の考えや感想を組み立てる場合に,文章の中心となる大事な事 柄や,読み手がそのような考えや感想をもつようになった理由,事例として挙げられ ている事実,人物や情景の描写などの表現の細かい点に注意しながら読むことを大切 にするということである。 「引用」とは,本や文章の一節や文,語句などを引いてくることである。かぎ(「」) でくくることなど,引用の仕方を指導するとともに,引用したことについて,引用者 が自分の思いや考えを書くことなども指導する必要がある。「要約」とは,目的や必 要に応じて,話や本,文章を短くまとめることである。元の文章の構成や表現をその まま生かして短くまとめる要約と,自分の言葉で短くまとめる要約とがある。要約は, 要約するときの目的や必要に応じて元の文章のどの部分を取り上げるかが変わってく る。要約する目的を明確にし,分量や時間,元の文章の構成や表現の生かし方などを 考え,要点や細かい点に注意しながら要約する経験を重ねることが重要である。 なお,実際に引用や要約をするに当たっては,文章の表現や情報だけに限らず,図 表やグラフ,絵や写真なども含むことに留意し,引用する部分をかぎ(「」)でくく り,出典を明示することや,引用部分が適切な量になることなどについても指導する ことが求められる。このことは,著作権を尊重し保護することになる。 オは,低学年の「オ 文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考え をまとめ,発表し合うこと。」を受けて,文章を読んで考え,まとめたことを発表し 合い,互いの感じ方や考え方の違いに気付くことを示している。 話し言葉によって交流する場合には,「A話すこと・聞くこと」(1)のイやエ,オと 関連させて指導したり,書き言葉によって交流する場合には,「B書くこと」(1)のウ やカと関連させて指導したりすると効果的である。その際,一人一人の感じ方が違う ことを大事にしながら,学級全体で読書を楽しんだり進んで読書しようとしたりする 態度を養うようにする。 --82/139-- -80- カ 目的に応じた読書に関する指導事項 低学年の「カ 楽しんだり知識を得たりするために,本や文章を選んで読むこと。」 を受けて,多様な目的に応じていろいろな分野の本や文章を読むことを示している。 目的としては,楽しむことや調べること以外に,読みたい内容を絞って読む,書き 手を絞って読むなどが考えられる。ここでは,読書の範囲を広げるために,学校図書 館などの施設の利用方法を学び,図書を紹介するブックトークなどの活動や読書案内, 新刊紹介などを積極的に利用する態度を養うことが必要になる。友達同士で面白かっ た本の紹介をし合ったり,同じ題材の本を交換して読んだりするなど,読書への関心 を高め,学級における児童の読書生活を整えるようにすることが大切である。 なお,読書範囲の広がりとともに,難語句などに出合うことが多くなるので,〔伝 統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(カ) 表現したり理解したりす るために必要な文字や語句について,辞書を利用して調べる方法を理解し,調べる習 慣を付けること。」との関連を図る必要がある。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 物語や詩を読み,感想を述べ合うこと。 イ 記録や報告の文章,図鑑や事典などを読んで利用すること。 ウ 記録や報告の文章を読んでまとめたものを読み合うこと。 エ 紹介したい本を取り上げて説明すること。 オ 必要な情報を得るために,読んだ内容に関連した他の本や文章などを読む こと。 ア 物語や詩を読み,感想を述べ合う言語活動 文学的な文章を読み,感想を述べ合う言語活動である。 一冊の本だけでなく,同じ主人公や作家,詩人のシリーズ,ファンタジーのシリー ズなど,物語集や詩集などにも読書範囲が広がるようにする。自分の感想を明確に表 --83/139-- -81- 現するためには,低学年で指導したものに加えて,「感激する」,「上手に説明してい る」などの感想を表す言葉を増やすことが求められる。また,感想が本や文章のどの 叙述に基づいているのか,自分が現実に経験したこと,普段考えていることや関心の あることなどと,どのように関連しているのかなどを説明することも必要となる。感 想を述べ合ったら,自分の感想が,友達の感想と比べてどのような特徴をもつのかを 認識させていくことが大切である。 イ 記録や報告の文章,図鑑や事典などを読んで利用する言語活動 観察や調査したことなどを記録したり報告したりした文章を読んだり,図鑑や事典 などを利用したりする言語活動である。 いずれも課題を解決しようと調べるのに必要な本や文章である。「第3指導計画の 作成と内容の取扱い」1の(5)「本の題名や種類などに注目したり,索引を利用して検 索をしたりするなどにより,必要な本や資料を選ぶこと」に配慮することが必要であ る。 ウ 記録や報告の文章を読んでまとめたものを読み合う言語活動 説明的な文章を読んで,その内容や表現の仕方などについての感想などをまとめて 交流する言語活動である。 記録や報告の文章を読んで感想などをまとめるためには,記述や説明から,目的や 必要に応じて知識や情報を選択すること,表現の仕方に注目すること,以前に読んだ 本や文章と比べたり,自分のもっている知識や情報,現実などと結び付けたりして, 自分の考えを深めることなどが重要である。 エ 紹介したい本を取り上げて説明する言語活動 相手が知らない本や,自分が読んで紹介したいと思う本を取り上げて紹介する言語 活動である。 この言語活動では,なぜ紹介したいのかという,紹介するのにふさわしい理由を十 分説明することが必要となるので,選んだ本の内容や構成全体をよく理解することが 欠かせない。そのため,例えば,必要な文や語句を書き抜いたり,要約したり引用し たりするなどの準備が必要となる。紹介を目的とした説明では,書き抜きや要約,引 用した部分を理由や根拠として示すことが有効である。なお,書き抜きや要約,引用 --84/139-- -82- の対象には図や表も含まれる。実際に紹介するに当たっては,本を提示したり,要約 や引用した部分のページをめくって見せたり,音読したりするなどして,紹介が効果 的に行われるよう工夫をさせるようにする。 オ 必要な情報を得るために,読んだ内容に関連した他の本や文章などを読む言語活 動 必要な情報を得るために,読んだ内容に関連した他の本や文章などを取り上げて読 む言語活動である。 疑問や課題を解決するためには,1冊の本や1編の文章だけでは解決できないこと もあり,関連する様々な本や文章を併せて読む必要がある。ここで取り上げる「他の 本や文章」は,説明的な文章だけでなく,物語や詩などの文学的な文章も含まれてい る。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 (1) 「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指導を通し て,次の事項について指導する。 ア 伝統的な言語文化に関する事項 (ア) 易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべたり,リズムを感じ 取りながら音読や暗唱をしたりすること。 (イ) 長い間使われてきたことわざや慣用句,故事成語などの意味を知り,使うこ と。 (ア)は,易しい文語調の短歌や俳句の音読や暗唱に関する事項である。 短歌の五・七・五・七・七の三十一音,俳句の五・七・五の十七音から,季節や風 --85/139-- -83- 情,歌や句に込めた思いなどを思い浮かべたり,七音五音を中心としたリズムから国 語の美しい響きを感じ取りながら音読したり暗唱したりして,文語の調子に親しむ態 度を育成するようにすることが重要である。 「易しい」とは,意味内容が容易に理解できるということである。「文語調」とは, 日常の話し言葉とは異なった特色をもつ言語体系で書かれた文章の調子のことであ る。「文語調の短歌や俳句」では,歴史的仮名遣いや古典の語句などが用いられてい る。教材としては,親しみやすい作者の句を選んだり,代表的な歌集などから内容の 理解しやすい歌を選んだりすることになる。各地域に 縁 のある歌人や俳人,地域の ゆかり 景色を詠んだ歌や句を教材にすることも考えられる。 また,短歌や俳句を自分でもつくってみたいという気持ちをもつように指導するこ とも大切である。実際につくってみることで,よさを実感し,音読することの意義を 深く理解することになる。 (イ)は,長く使われてきたことわざや慣用句,故事成語などの意味を知り,日常生 活でも使うようにすることに関する事項である。 「ことわざ」は,生活経験などにおいてありがちなことを述べたり,教訓を述べた りするものである。例えば,「住めば都」,「犬も歩けば棒に当たる」,「急がば回れ」, 「石の上にも三年」などがある。「慣用句」は,「道草を食う」,「油を売る」などのよ うに,二つ以上の語が結び付いて元の意味とは違った特定の意味を表すものである。 「故事成語」は,「推敲」,「矛盾」,「五十歩百歩」などのように中国の故事に由来す こう むじゅん る熟語である。これらによっては,先人の知恵や教訓,機知に触れることができる。 言語生活を豊かにするために,これらの言葉の意味を知り,実際の言語生活で用いる ようにさせることが大切である。 「C読むこと」(2)のイ「図鑑や事典などを読んで利用すること」や,〔伝統的な言 語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの(カ)「辞書を利用して調べる方法を理解し, 調べる習慣を付けること」と関連させ,言葉に関する児童書なども活用させるように する。言葉の意味を調べることに加え,短文作りをしたり,本や文章を読んでその中 に使われているものを探したりすることなどを通して,自分の表現に用いるようにす ることも必要である。 --86/139-- -84- イ 言葉の特徴やきまりに関する事項 言葉の働きや特徴に関する事項 (ア) 言葉には,考えたことや思ったことを表す働きがあることに気付くこと。 (イ) 漢字と仮名を用いた表記などに関心をもつこと。 これらの事項は,言葉が果たす多様な働きや特徴を理解させるために,今回の改訂 で新設したものである。 (ア)は,自分の思考や感情を表すという言葉の働きに関する事項である。 人間は,意味をもった言葉を組み合わせることによって,考えを深めたり高めたり することができる。また,思ったことや考えたことを,物語や詩歌,説明や報告など の文章にまとめ,他の人に伝えることができるのも,言葉の働きによるものである。 「A話すこと・聞くこと」(2)の「イ 学級全体で話し合って考えをまとめたり,意 見を述べ合ったりすること。」と関連付け,感想や意見を伝えたり共有したりするた めには,適切な言葉によって表すことが大切であることにも気付かせることが求めら れる。 (イ)は,国語の表記の特徴に関する事項である。 漢字と仮名とでは,音節との関係や書き表す語の種類など,文字としての性質や役 割が異なっている。そのような性質や役割の異なる漢字や仮名を交ぜて書く「漢字仮 名交じり文」という日本語の表記の仕方に関心をもつように指導し,交ぜて書くこと の利点に気付いたり,句読点を含め読みやすい表記を考えながら書いたりする言語感 覚の基礎を養うことを示している。 --87/139-- -85- 表記に関する事項 (ウ) 送り仮名に注意して書き,また,活用についての意識をもつこと。 (エ) 句読点を適切に打ち,また,段落の始め,会話の部分などの必要な箇所は行 を改めて書くこと。 (ウ)は,送り仮名に関する事項である。 例えば,「泳いだ」の「泳」という漢字を学習する際には,「泳がない」,「泳ぎます」, 「泳ぐ」のように活用させながら,送り仮名についても学習できるようにする。また, 一つ一つの具体的な語の送り仮名の指導をするだけでなく,その学習を通して,活用 語尾を送るという送り仮名の原則的な付け方についても理解を促して,活用について の意識をもつようにする。 (エ)は,句読点や改行に関する事項である。 (エ)の「句読点を適切に打」つことは,「(キ) 修飾と被修飾との関係など,文の構成 について初歩的な理解をもつこと。」や,低学年の「(カ) 文の中における主語と述語 との関係に注意すること。」と関連付けて指導する。句読点は,文の構成と関係して いる。特に,読点は,低学年で取り上げたように,意味を明確に伝えるために,文頭 の接続詞などの後,主語の後,従属節の後,並列する語の後などに適切に打つことが 求められる。中学年では,それらに加え,文を読みやすくまた分かりやすくするため に,文脈に合わせて適切に打つことができるように指導する。 改行については,書くことの構成の能力に関して,段落分けの指導を重点的に中学 年で取り扱うことと関連している。「段落の始め」で改行することは,「B書くこと」 (1)の「イ 文章全体における段落の役割を理解し,自分の考えが明確になるように, 段落相互の関係などに注意して文章を構成すること。」と併せて指導するようにする。 また,低学年の(オ)「かぎ(「」)の使い方」を受けて,会話の部分などを改行し て書くことが習慣となるように指導することも大切である。 --88/139-- -86- 語句に関する事項 (オ) 表現したり理解したりするために必要な語句を増し,また,語句には性質や 役割の上で類別があることを理解すること。 (カ) 表現したり理解したりするために必要な文字や語句について,辞書を利用し て調べる方法を理解し,調べる習慣を付けること。 (オ)は,語句の量と範囲,性質と類別に関する事項である。 児童の発達の段階に応じて語句を拡充していくためには,語句の量を増し使い方の 範囲を広げるとともに,それぞれの語句がどのような性質をもち類別されるのかを理 解できるようにすることが大切である。 「表現したり理解したりするために必要な語句を増し」とは,語句の量を増やし使 える範囲を広げていくことである。その際には,社会的な事象を表す語句を含めて考 えることが必要である。また,「語句には性質や役割の上で類別があることを理解す る」とは,語句の文法的な働きを,文法そのものとしてではなく,語句の使い方とし て類別できることを理解するということである。「性質」の上での類別とは,物の名 前を表す語句や,動きを表す語句,様子を表す語句のように類別することである。ま た,「役割の上」での類別とは,文の主語になる語句,述語になる語句,修飾する語 句のように類別することである。なお,学年別漢字配当表に示された漢字は,それぞ れの学年の児童の発達の段階と関連をもたせて配当しているので,当該学年に配当さ れている漢字と関連付けながら語句の指導をすることが大切である。 (カ)は,辞書の利用に関する事項である。 これまでは,中学年においては,「辞書を利用して調べる方法を理解すること」を, 高学年においては,「辞書を利用して調べる習慣を付けること」を指導することとし ていた。今回の改訂では,辞書を利用して調べる習慣を付けることの重要性を考えて 中学年にまとめて示した。 中学年においては,辞書を利用する能力や態度を育て,習慣を付けるために,国語 辞典や漢字辞典などの使い方を理解するとともに,必要なときにはいつでも辞書が手 --89/139-- -87- 元にあり使えるような言語環境をつくっておくことが重要である。また,国語科に限 らず,他の教科等の調べる学習や日常生活の中でも積極的に辞書を利用できるように することが大切である。 文及び文章の構成に関する事項 (キ) 修飾と被修飾との関係など,文の構成について初歩的な理解をもつこと。 (ク) 指示語や接続語が文と文との意味のつながりに果たす役割を理解し,使うこ と。 (キ)は,文の構成に関する事項である。 低学年の「(カ) 文の中における主語と述語との関係に注意すること。」を受けてい る。文章の内容を理解するためには,それぞれの文の中での語句の役割や,語句相互 の関係に気を付けて,文がどのように組み立てられているかを理解することが大切で ある。中学年では,主語と述語に加え,修飾と被修飾との関係をはっきりさせるとと もに,「だれが」,「いつ」,「どこで」,「なにを」,「どのように」,「なぜ」などという 文の構成について,初歩的な理解ができるようにする。 (ク)は,文章における指示語や接続語の役割に関する事項である。 指示語や接続語は,文や文章の構成にかかわる語で,文章の論理的な関係を構築す る上で大切な役割を果たしている。読みの指導の中では,文相互の関係とともに,段 落相互の関係を端的に示す手掛かりとなるものとして指導する。また,文章を書く様 々な機会をとらえて,文脈に沿って指示語や接続語の役割を理解し,使うことの指導 を工夫するようにすることが大切である。 --90/139-- --90/139-- -88- ウ 文字に関する事項 (ア) 第3学年においては,日常使われている簡単な単語について,ローマ字で表 記されたものを読み,また,ローマ字で書くこと。 (イ) 第3学年及び第4学年の各学年においては,学年別漢字配当表の当該学年ま でに配当されている漢字を読むこと。また,当該学年の前の学年までに配当さ れている漢字を書き,文や文章の中で使うとともに,当該学年に配当されてい る漢字を漸次書き,文や文章の中で使うこと。 (ウ) 漢字のへん,つくりなどの構成についての知識をもつこと。 (ア)は,ローマ字に関する事項である。 ローマ字表記が添えられた案内板やパンフレットを見たり,コンピュータを使う機 会が増えたりするなど,ローマ字は児童の生活に身近なものになっている。これらの ことから,これまでは第4学年であったものを,今回の改訂では,第3学年の事項と し,ローマ字を使った読み書きがより早い段階においてできるようにしている。「日 常使われている簡単な単語」とは,地名や人名などの固有名詞を含めた,児童が日常 目にする簡単な単語のことである。 (イ)は,漢字に関する事項である。 第3学年及び第4学年においては,漢字を読むことについて,学年別漢字配当表の 当該学年までに配当されている漢字を読むことを示している。また,漢字を書くこと については,当該学年の前の学年に配当されている漢字を書き,文や文章の中で使お うとする習慣を身に付けるようにするとともに,当該学年に配当されている漢字を漸 次書き,文や文章の中で使うようにすることを示している。 中学年においては,「(ウ) 漢字のへん,つくりなどの構成について知識をもつこと。」 と関係付けながら,漢字の読み書きに関する指導を進める。また,漢字辞典の使い方 に慣れてきたら,自分で新出漢字の読みや意味などを調べる活動も取り入れるように する。 なお,中学年は,漢字による熟語などの語句が増加する時期でもある。したがって, --91/139-- -89- 文や文章を書く際には,漢字のもつ意味を考えながら正しく使ったり,当該学年の前 の学年までに学習した漢字を意識して使ったりする習慣を付けるように指導すること が大切である。 (ウ)は,文字文化に関する事項である。 中学年では,「へん」,「つくり」,「かんむり」,「あし」,「たれ」,「かまえ」,「にょ う」などの部首と他の部分とによって漢字が構成されることを知るとともに,実際の 漢字についてその構成を理解することを示している。この事項は,イの「(カ) 表現し たり理解したりするために必要な文字や語句について,辞書を利用して調べる方法を 理解し,調べる習慣を付けること。」や,(2)の「ア 文字の組立て方を理解し,形を 整えて書くこと。」と関連付けて指導すると効果的である。 書写に関する事項 (2) 書写に関する次の事項について指導する。 ア〜ウの事項は,書写全体にかかわる内容であるが,ウは主として毛筆の特性を生 かした事項である。「第3指導計画の作成と内容の取扱い」2の(2)「毛筆を使用する 書写の指導は硬筆による書写の能力の基礎を養うよう指導」することに留意する必要 がある。 ア 文字の組立て方を理解し,形を整えて書くこと。 イ 漢字や仮名の大きさ,配列に注意して書くこと。 ウ 点画の種類を理解するとともに,毛筆を使用して筆圧などに注意して書くこ と。 アは,一つの文字の組立て方に関する事項である。 「文字の組立て方」とは,点画の組立て方から部首や部分相互の組立て方までを指 すが,ここでは主に後者に重点を置いている。組立て方が簡単な漢字が多かった低学 --92/139-- -90- 年に比べて,この時期になると,組立て方が複雑な漢字が多くなる。そこで,中学年 では部首と他の部分の組立て方,すなわち左と右,上と下,内と外などの関係におい て一つの文字が組み立てられるという仕組みを理解することを重視する。また,(1) ウの「(ウ) 漢字のへん,つくりなどの構成についての知識をもつこと。」と関連を図 りながら指導を進めることが必要である。 「形を整えて書く」とは,低学年で指導した全体の概形を意識するとともに,一つ の文字の構成要素となる部分相互が等間隔であること,左右対称であること,同一方 向であることなどを考えて書くということである。 イは,語句,文,文章などの文字の集まりにおける漢字や仮名の大きさや配列に関 する事項である。 「漢字や仮名の大きさ」とは,漢字と漢字,漢字と仮名,仮名と仮名との相互のつ り合いから生じる相対的な大きさのことである。画数の多い文字ほど大きく書き,画 数の少ない文字ほど小さく書くと,並べたときに読みやすい文字列になる。一般的に, 仮名は漢字よりも小さく書くとよいと言われるのは,仮名が漢字よりも構成要素が少 ないことによる。 「配列に注意して」とは,行の中心や行と行との間,文字と文字との間がそろって いるかなど文字列及び複数の文字列に注意してということである。読みやすい文や文 章を書くには,一文字一文字を整えることに加え,文字の集まりという面から整える ことが重要である。したがって,書き出しの位置を決めること,行の中心に文字の中 心をそろえるように書くことなどが求められる。なお,字数を多く書くことや,毛筆 に慣れるということから小筆の活用にも配慮する。 ウは,点画の種類を理解するとともに,毛筆を使用して筆圧などに注意して書くこ とに関する事項である。 横画,縦画,左払い,右払い,折れ,曲がり,そり,点などの点画の種類について は,低学年で基礎的な知識を学習している。ここでは,それぞれの点画の形とその形 を作る筆の動きの類型や毛筆の筆圧などに注意しながら書くことが求められる。 「筆圧」とは,筆記具から用紙に加わる力のことである。点画には,左右の払いの ように筆圧を変化させて書くものや,横画のようにほぼ等しい筆圧で書くものがある。 --93/139-- -91- その意味で点画の種類を理解することと呼応しており,点画の書き方と筆圧とを関連 付けることを重視する必要がある。例えば,送筆については,筆圧のかけ方に変化が 少ない場合(横画,縦画など),徐々に筆圧を弱めていく場合(左払い,右払い,は ねの部分など),穂先の位置が移動する場合(折れ,曲がり,そりなど)などがある。 終筆部については,止めの形で終わる場合(横画,縦画など),払いの形で終わる場 合(左払い,右払いなど),はねの形で終わる場合(そり,曲がり,縦画など)など がある。 --94/139-- -92- 第3節 第5学年及び第6学年 「A話すこと・聞くこと」 (1) 目 標 (1) 目的や意図に応じ,考えたことや伝えたいことなどについて,的確に話す能 力,相手の意図をつかみながら聞く能力,計画的に話し合う能力を身に付けさ せるとともに,適切に話したり聞いたりしようとする態度を育てる。 前段は,話す能力,聞く能力及び話し合う能力,後段は,話すこと・聞くこと全体 にわたる態度を示している。 前段では,「目的や意図に応じ,考えたことや伝えたいことなどについて,的確に 話す能力,相手の意図をつかみながら聞く能力,計画的に話し合う能力を身に付けさ せる」ことをねらいとしている。 話題については,「目的や意図に応じ,考えたことや伝えたいことなど」を取り上 げることを示している。今までの学年と同様に,(1)のイ・ウの話すこと,エの聞く こと,オの話し合うことそれぞれに関連付けられるものである。高学年では,児童の 主体性や個性が高まるのに伴って,話す目的や意図を明確にするとともに,聞き手で ある相手の意図を十分感じ取っていくことが重要となる。 話すことについては,「的確に話す能力」を示している。目的や意図に応じるため に,話の構成や内容を一層的確にすることが求められる。具体的には,取り上げる事 柄について十分調べたり考えたりして理解し,話の構成や内容,考えたことや伝えた いこと,言葉遣いを一層的確にすることが求められる。 聞くことについては,「相手の意図をつかみながら聞く能力」を示している。話し 手の意図を考えながら,話の中心,構成や内容上の工夫及び適切な言葉遣いに注意し て聞くことが重要である。 --95/139-- -93- 話し合うことについては,「計画的に話し合う能力」を示している。考えたことや 伝えたいことについて,十分に話し合うことができるよう,計画を練り上げることが 求められる。また,話合いの過程において計画的に話し合うためには,司会や提案な どの役割を各自が理解し,それぞれの役割に応じて協力し合いながら円滑に運営でき るようにすることが重要である。 後段では,「適切に話したり聞いたりしようとする態度を育てる」ことをねらいと している。 小学校における話すこと・聞くことのまとめとして,相手や目的及び意図などに応 じて決定した話題について取材し,話したり聞いたりすることを適切に行っていく態 度を養おうとするものである。 これらの能力と態度は,中学校の第1学年の目標である「構成を工夫して話す能力」 や「話し手の意図を考えながら聞く能力」,「話題や方向をとらえて話し合う能力」,「話 したり聞いたりして考えをまとめようとする態度」などを育てることにつながってい く。 --96/139-- -94- (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 話すこと・聞くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 考えたことや伝えたいことなどから話題を決め,収集した知識や情報を関 係付けること。 イ 目的や意図に応じて,事柄が明確に伝わるように話の構成を工夫しながら, 場に応じた適切な言葉遣いで話すこと。 ウ 共通語と方言との違いを理解し,また,必要に応じて共通語で話すこと。 エ 話し手の意図をとらえながら聞き,自分の意見と比べるなどして考えをま とめること。 オ 互いの立場や意図をはっきりさせながら,計画的に話し合うこと。 ア 話題設定や取材に関する指導事項 中学年の「ア 関心のあることなどから話題を決め,必要な事柄について調べ,要 点をメモすること。」を受けて,話題については,学校や家庭及び地域で経験したこ とや関心をもって考えたり調べたりすることに加え,日常生活の中で考えたことや特 に伝えたいと思うことなどから話題を決めること,取材については,得た知識や情報 を関係付けて活用することを示している。 このようなことのためには,メモやノートの内容を比較,対照したり,関連のある ことをまとめたり,分類したりして,自分の考えに生かすようにする。このような取 材を通して話題を練り直し,話題の目的や意図を一層明確にすることにつないでいく ようにさせることが重要である。 なお,話したり聞いたりする学習が進んだとき,学習計画表やその記録に立ち返っ て計画的に学習を進めたり,話題を深めたりできるように,個人で考えたいこととグ ループや学級全体で考えたいこととをそれぞれメモやノートを利用し明確に書き留め ておくことが必要である。 --97/139-- -95- イ・ウ 話すことに関する指導事項 イは,中学年の「イ 相手や目的に応じて,理由や事例などを挙げながら筋道を立 て,丁寧な言葉を用いるなど適切な言葉遣いで話すこと。」を受けて,目的や意図に 応じて,話の構成を工夫しながら場に応じた適切な言葉遣いで話すことを示している。 「目的や意図に応じて,事柄が明確に伝わるように話の構成を工夫」することの「意 図」には,自分の意図だけでなく,相手の意図をも含んでいることに注意する必要が ある。「事柄が明確に伝わるように話の構成を工夫」するためには,自分の立場を明 確に説明したり,事実と感想,意見とを区別したり,概説したり,結論付けを明確に したりすることなどが求められる。それとともに,中学年での「理由や事例」に加え, 必要な文言や数値などを引用したり,図解したり,重要語句の定義付けをしたりする などの工夫も必要となる。 「場に応じた適切な言葉遣い」とは,声量や速度,抑揚や間の取り方などの音声上 の工夫はもちろん,改まった言葉や丁寧な言葉,敬体と常体との使い分けなど,中学 年までに学習してきた言葉遣いの様々な側面を基に,その場に応じた最も適切な表現 をすることである。言葉遣いは,音声の使い方,語や文,表情,仕草など広い範囲に 及ぶ。そのため,同学年や異学年,全校児童や学校外の人々などを対象とした,多様 な場や相手に対して話すことができるような機会を設定するようにする。 ウは,共通語と方言との違いを理解し,また,必要に応じて共通語で話すことを示 している。 従前は〔言語事項〕に示していたが,話すこと・聞くことの実際の場面における重 要性を考えて,「A話すこと・聞くこと」に位置付けた。共通語と方言とを比較,対 照させながら違いを理解し,それぞれの特質とよさを知り,共通語を用いることが必 要な場合を判断しながら話すことができるように指導することが大切である。 エ 聞くことに関する指導事項 中学年の「エ 話の中心に気を付けて聞き,質問をしたり感想を述べたりすること。」 を受けて,話し手の意図を考慮しながら聞き,自分の意見と比べて考えをまとめるこ とを示している。 話の目的や意図は何か,自分に伝えたいことは何か,共に考えたいことは何かなど --98/139-- -96- 相手の話の内容を十分聞き取るとともに,取り上げられた内容について,自分の考え と比べ,共通点や相違点,関連して考えたことなどを整理し,自分の考えをまとめる ようにすることが重要である。 オ 話し合うことに関する指導事項 中学年の「オ 互いの考えの共通点や相違点を考え,司会や提案などの役割を果た しながら,進行に沿って話し合うこと。」を受けて,司会者や提案者,参加者などの 役割に基づいて,立場や意図を明確にしながら計画的に話し合うことを示している。 話合いには,グループや学級全体での共通理解や問題解決に向けて,相互の知識や 考え,意見などを出し合い一つにまとめていく協議と,互いの考えの違いを大事にし ながら多くの考えを関係付けていく討論とがある。いずれの場合も,互いの立場や意 図をはっきりさせ,話合いを計画に沿って進めていく必要がある。そのためには,例 えば,決められた時間内にまとめられるように,発言内容を簡潔にしたり,発言回数 に注意したりすることなどの工夫が必要となる。 自主的な形による話合い活動の場を多く経験することにより,徐々に指導内容を生 かしていくようにすることが重要である。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 資料を提示しながら説明や報告をしたり,それらを聞いて助言や提案をし たりすること。 イ 調べたことやまとめたことについて,討論などをすること。 ウ 事物や人物を推薦したり,それを聞いたりすること。 ア 資料を提示しながら説明や報告をしたり,それらを聞いて助言や提案をしたりす る言語活動 相手に対して説明や報告をするときに,資料を提示しながら発表することや,それ らを聞いて助言や提案をする言語活動である。 --99/139-- -97- 準備した説明や報告の発表原稿にふさわしく,相手の理解を深められるような資料 を提示することを求めている。適切な資料の選択や作成と,それらを活用した話し方 が重要となる。 資料としては,本や文章,実物や映像,リーフレットやパンフレット,図表などか ら適切なものを用いることになる。また,話す内容と資料との整合,適切な時間や機 会での資料の提示,スピーチ原稿や資料への目配りの仕方,相手の反応などに注意し ながら話させるようにすることが必要となる。ここでは,コンピュータのプレゼンテ ーションソフトなどを利用して発表することなども考えられる。 聞き手は,内容を理解し,自分の考えと比べてより自分の考えを明確にしたり,話 し手の立場に立って助言や提案をしたりすることが求められる。説明や報告の内容と, 資料を提示しながら話す説明や報告の仕方との両面に対する助言や提案を考える必要 がある。 イ 調べたことやまとめたことについて,討論などをする言語活動 調べたことやまとめたことを話題として取り上げ,互いの考えを出し合い討論する 言語活動である。 調べたことやまとめたことについて討論するためには,本や文章を調べたり,イン タビューやアンケートを行ったりするなどして,自分なりに幅広く考え,資料を用意 しておくことが必要となる。討論では,異なった角度からの意見が出たり,新たな提 案が行われたりすることが予想される。話合いで異なる意見や対立する意見が出たと きには,準備した資料などに基づいて明確に対応することが必要となる。座談会やパ ネルディスカッションなどの公開討論の形式などを利用し,討論の仕方を理解したり, 討論を実際に行ったりするなどの工夫も大切である。 ウ 事物や人物を推薦したり,それを聞いたりする言語活動 事物や人物を取り上げ,それらのよさを考えて推薦したり,それを聞いたりする言 語活動である。 低学年では紹介を取り上げている。紹介は,対象となるものの特徴をとらえ,相手 に分かりやすく伝えることが大切である。推薦は紹介を発展させたものである。推薦 では,推薦者が,対象の特徴を深く理解し,そのよさを相手に説明することが求めら --100/139-- --100/139-- --100/139-- -98- れる。推薦する対象としては,事物や人物などを取り上げることになる。それらの対 象について十分調べ,そのよさを整理し,相手の要求や目的も考慮し,推薦したい点 をまとめておくようにする必要がある。推薦は,伝えたいという自分の目的にとどま らず,相手の要求や目的にも合致した事物や人物を取り上げて伝えることが必要とさ れる。話すときには,相手にそのよさが伝わるように,理由を説明したり,エピソー ドとなる事例を挙げたり,図解したりするなどして印象付けるように話すことが必要 である。そのために,例えば,児童が,推薦するまでに至った経緯や推薦したい理由 を中心とした話の構成を考えたり,「立派な人物である」,「〜に役立つ」といった推 薦したい気持ちを伝えるような言葉を選んだりすることができるようにする。また, 聞き手は,推薦した理由がよく分かるか,納得できるかなどに留意して聞くことが重 要である。 なお,「B書くこと」(2)の「ウ 事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書く こと。」や,「C読むこと」(2)の「エ 本を読んで推薦の文章を書くこと。」と関連付 けて指導すると効果的である。 「B書くこと」 (1) 目 標 (2) 目的や意図に応じ,考えたことなどを文章全体の構成の効果を考えて文章に 書く能力を身に付けさせるとともに,適切に書こうとする態度を育てる。 前段は,書く能力,後段は,書く態度を示している。 前段では,「目的や意図に応じ,考えたことなどを文章全体の構成の効果を考えて 文章に書く能力を身に付けさせる」ことをねらいとしている。 中学年の「相手や目的に応じ」ることを受けて,「目的や意図に応じ,考えたこと など」を取り上げることを示している。高学年においては,話すこと・聞くことと同 --101/139-- -99- 様,「目的や意図に応じ」ることを意識しながら課題を設定したり,取材したりする ことになる。児童の主体性や個性が高まり,目的を明確にすることが必要であるとと もに,自分の意図を明確にして書くことが重要となるからである。また,書くときに 想定する相手には,特定の相手の場合と不特定の相手の場合とがある。特定の相手の 場合には,相手の意図を明確に把握するようにするとともに,不特定の相手の場合に は,読者によって違った受け止め方があることなどにも気付くようにすることが大切 である。 低学年で自分の経験したことや想像して考えたことなどから書いたり,中学年で目 的をもって調べたことを書いたりした経験を生かして,高学年ではまとまった考えを 書くことへと発展させている。 文章を書くことについては,「文章全体の構成の効果を考えて文章に書く能力」を 育成することをねらいとしている。自分の考えたことなどの中心的な内容を明確にし ながら,文章全体の構成を考えて表現する能力の育成を求めている。特に,書こうと する文章の種類に応じて,効果を考えながら,読み手にもよく理解できるように構成 する能力を重視している。 後段では,「適切に書こうとする態度を育てる」ことをねらいとしている。 小学校における書くことのまとめとして,書く目的や意図,相手に応じ,文章の種 類を選択し,考えたことを十分反映させ,文章全体の構成を考えながら適切に書いて いくことを求めている。なお,これは記述の段階だけではなく,課題設定や取材の段 階なども含めてのものである。 これらのことが,中学校第1学年における「目的や意図に応じ,日常生活にかかわ ることなどについて,構成を考えて的確に書く能力を身に付けさせるとともに,進ん で文章を書いて考えをまとめようとする態度」の育成につながっていく。 --102/139-- -100- (2)内 容 @ 指導事項 (1) 書くことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 考えたことなどから書くことを決め,目的や意図に応じて,書く事柄を収 集し,全体を見通して事柄を整理すること。 イ 自分の考えを明確に表現するため,文章全体の構成の効果を考えること。 ウ 事実と感想,意見などとを区別するとともに,目的や意図に応じて簡単に 書いたり詳しく書いたりすること。 エ 引用したり,図表やグラフなどを用いたりして,自分の考えが伝わるよう に書くこと。 オ 表現の効果などについて確かめたり工夫したりすること。 カ 書いたものを発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合うこと。 ア 課題設定や取材に関する指導事項 中学年の「ア 関心のあることなどから書くことを決め,相手や目的に応じて,書 く上で必要な事柄を調べること。」を受けて,考えたことなどから書くことを決め, 目的や意図に応じて,書く事柄を収集し,全体を見通して事柄を整理することを示し ている。 「考えたことなどから書くことを決め」るとは,家庭や地域,学校生活での学習な どで感じたり考えたりしたことから選択して書くことを決めることに加え,いくつか のことを比較したり,関係付けたりしながら課題意識を明確にしていくことも意味す る。目的や意図が明確になっていて,それに従って考えることもあれば,以前から疑 問や課題をもっており,そこで考えたことから目的や意図を設定していくことも考え られる。 「目的や意図に応じて,書く事柄を収集し,全体を見通して事柄を整理すること」 とは,目的や意図に応じて,取材の内容や方法を考えながら,実際に情報検索したり --103/139-- -101- 取材したりした事柄を,文章の構成や記述に役立つよう整理していくことである。取 材の対象や方法としては,本や文章,パンフレットやリーフレット,雑誌や新聞,音 声や映像,インタビューやアンケートなど様々なものを取り上げることになる。 イ 構成に関する指導事項 中学年の「イ 文章全体における段落の役割を理解し,自分の考えが明確になるよ うに,段落相互の関係などに注意して文章を構成すること。」を受けて,自分の考え を明確に表現することを重視して文章全体の構成の効果を考えることを示している。 「自分の考えを明確に表現する」ための構成とは,自分が考えていることを明確に することだけではなく,相手が書き手の考えを明確に理解できるようにすることであ ることにも留意しなければならない。文章全体の構成としては,例えば,物語では, 「状況設定−発端−事件展開−山場−結末」など,説明的な文章では,「序論−本論 −結論」,「現状認識−問題提起−解決−結論−展望」などがある。統括する内容を位 置付ける箇所によって,冒頭部に統括する場合の「頭括型」,終結部に統括する場合 の「尾括型」,冒頭部・終結部の双方で統括する「双括型」などがある。これらを目 的や意図に応じて効果的に用いて,自分の考え及び相手の理解が明確になるように文 章を構成するのである。 それぞれの段落の内容としてどのようなことを書けばよいのかを考えたり,自分の 考えを一貫して述べたりすることなどに注意することが大切である。また,書き出し に読み手の関心を喚起する事例を配置したり,概説や要約を活用して読み手が考えを 理解しやすいように工夫したり,冒頭部や終結部の書き方を工夫したりすることがで きるような学習を適切に位置付けることも必要である。なお,〔伝統的な言語文化と 国語の特質に関する事項〕(1)イの「(キ) 文や文章にはいろいろな構成があることに ついて理解すること。」と関連付けて指導すると効果的である。 ウ・エ 記述に関する指導事項 ウは,中学年の「ウ 書こうとすることの中心を明確にし,目的や必要に応じて理 由や事例を挙げて書くこと。」を受けて,事実と感想,意見などとを区別するととも に,目的や意図に応じて簡単に書いたり詳しく書いたりすることを示している。 出来事や科学的な事実だけではなく,想像したことや,物語などで描写されるフィ --104/139-- -102- クションの世界などもここでいう「事実」に含まれる。 高学年では,このような「事実」と自分の感想,意見などとを区別して書くことを 重視する。また,その目的や意図に応じて,事実と感想,意見などを詳しく書いたり, 簡単に書いたりするなど事実と感想,意見のそれぞれの記述の仕方について工夫する ことが必要である。 さらに,出来事などの描写と,科学的な観察や実験,調査結果の説明などとの表現 の違いを考えて工夫させるようにする。そのためには,「C読むこと」(1)の「ウ 目 的に応じて,文章の内容を的確に押さえて要旨をとらえたり,事実と感想,意見など との関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら読んだりすること。」,「エ 登場人 物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考え をまとめること。」などと関連付けて,優れた表現を模範にして書けるようにするこ とが効果的である。 エは,引用したり,図表やグラフなどを用いたりして,自分の考えが伝わるように 書くことを示している。 「引用」して書くとは,自分の考えを根拠付けたり,具体的な例を示したりする際 に,本や文章などから必要な語句や文を抜き出して,自分の表現に取り入れることで ある。引用する場合は,まず何のために引用するのかという目的を明確にする必要が ある。目的としては,人物の行動や会話を物語るため,事物や出来事,科学的事実な どを紹介したり自分の考えを補説したりするためなどが考えられる。引用は,原文に 正確に行うことや,引用した部分と自分の考えとの関係などを明確にすることなどに 注意する。また,引用した文章等の出典については必ず明記するとともに,引用部分 が適切な量になるよう指導する必要がある。このような指導が,著作権を尊重し,保 護することにつながる。 「図表やグラフなどを用い」るのは,示すべき事実が,図解したり,表形式やグラ フ形式で示したりした方が一層分かりやすい場合である。観察したり,実験したり, 地域社会のことについて調べたりした結果などの事実の記述は,このような図表やグ ラフを用いる方が自分にとっても考えを深めやすいし,相手にとってもよく理解でき る。なお,図表やグラフは,自分で作成する場合もあるが,本や文章から引用して用 --105/139-- -103- いる場合もあることに注意することが必要である。 また,例えば,描写や説明を行うとき,どのような引用をするのがよいのか,図表 やグラフのいずれを用いるのがよいのかなど,記述の方法としてふさわしいものを考 えるように習慣付ける。なお,文章を引用する場合には,引用する部分をかぎ(「」) でくくることや,図表を用いる場合には,本文に「図1は,〜」といった表現を用い て本文との関連を示すことなどの指導が必要となる。 オ 推敲に関する指導事項 中学年の「オ 文章の間違いを正したり,よりよい表現に書き直したりすること。」 を受けて,表現の効果などについて確かめたり工夫したりすることを示している。 「表現の効果などについて確かめ」るとは,自分の考えなどを明確に表しているか, 相互関係が明確な構成であるか,表現の曖昧さはないかなどについて確かめること あいまい である。「工夫したりする」とは,相手が読んで理解しやすいように更に改善できる 部分について,よりよいものにしていくことである。表現の効果を確認したり更に工 夫したりするためには,読み手の立場から文章を客観的に評価することが必要となる。 そのような点からも自己評価に加えて相互評価を積極的に位置付けることが求められ る。 カ 交流に関する指導事項 中学年の「カ 書いたものを発表し合い,書き手の考えの明確さなどについて意見 を述べ合うこと。」を受けて,書いたものを発表し合って交流し自分の考えをもつと ともに,書き手の表現の仕方をよりよくするために助言することを示している。書い たものを発表し合う場合,記述した内容そのものに加えて,書こうとした意図,すな わち,だれに向かってどのような目的で伝えようとして書いたのか,またそのためど のような表現を用いたのかなどを述べることも必要である。 「表現の仕方に着目して助言し合うこと」とは,書く目的や意図に応じた文章構成 や表現になっているかどうかについて具体的に助言をし合うことである。助言すると きには,修正すべき内容とともに,どのように書き換えればよいのかを具体的に指摘 することが重要である。 互いが書き上げた文章のよさを感じ取ることを大切にしながら交流するとともに, --106/139-- -104- 相手に助言することによって,自分の考えを深めたり自分の表現の参考にしたりする ことにも留意させることが大切である。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 経験したこと,想像したことなどを基に,詩や短歌,俳句をつくったり, 物語や随筆などを書いたりすること。 イ 自分の課題について調べ,意見を記述した文章や活動を報告した文章など を書いたり編集したりすること。 ウ 事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書くこと。 ア 経験したこと,想像したことなどを基に,詩や短歌,俳句をつくったり,物語や 随筆などを書いたりする言語活動 経験したこと,想像したことなどを基に,詩や短歌,俳句をつくったり,物語や随 筆などの文学的な文章を創作したりする言語活動である。中学年までの,詩や物語を 受けて,高学年では,短歌や俳句,随筆を示している。 短歌や俳句をつくることについては,中学年の〔伝統的な言語文化と国語の特質に 関する事項〕(1)アの「(ア) 易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべ たり,リズムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすること。」と関連付けて指導す ると効果的である。 高学年の児童は,既に,短歌や俳句を音読したり暗唱したりすることによって,季 節や風情,歌や句に込めた思いなどを思い浮かべたり,国語の美しい響きを感じ取っ たりすることを学習してきている。ここでは,身近な情景や生活の中での出来事をと らえ,伝統的な定型詩の特徴を生かした創作を行うことによって,七音五音を中心と する言葉の調子やリズムに親しんだり,凝縮した表現によって創作する楽しさを味わ わせるようにすることが大切である。創作によって,短歌や俳句の特徴を一層理解す るとともに,それらを更に読もうとする態度を養うことにつながる。 --107/139-- -105- 随筆は,身近に起こったこと,見たことや聞いたこと,経験したことなどを他の人 にも分かるように描写した上で,感想や感慨,自分にとっての意味などをまとめたも のである。随筆を書くことで,出来事や経験などをきっかけに,自分自身がもってい るものの見方や考え方,生き方などを見つめ直したり深めたりすることができる。そ のために,考えるきっかけになった出来事や経験などを体験的にまとめて書くことが 必要となる。物語や詩などを書き身に付けてきた描写などの文学的な文章の表現力を 生かすことになる。また,そのような出来事や経験などの事情や背景を想像したり推 測したりして,自分の考えを記述したり説明したりする必要があり,説明や報告など を書き身に付けてきた説明的な文章の表現力なども生かすことが大切である。 イ 自分の課題について調べ,意見を記述した文章や活動を報告した文章などを書い たり編集したりする言語活動 児童一人一人が課題をもち,その課題について調べ,意見を記述した文章や活動を 報告した文章などを書いたり,それらの文章を活用して編集したりする言語活動であ る。 「自分の課題について調べ」るとは,一人一人の児童が課題を設定し,それについ て調べて知識や情報を得ることである。課題は,自分自身の経験に基づいて設定する 場合,資料などを読んで更に調べたいと思って設定する場合,交流を通して設定する 場合,自分がこれまでに書いたものを読み返して設定する場合などが考えられる。 「意見を記述した文章や活動を報告した文章など」を書く場合には,課題に応じて どのような種類の文章を用いるのかを明確に意識する必要がある。意見を記述した文 章や活動を報告した文章のほかに,例えば,調査や研究を報告する文章,解説したり 提案をしたりする文章などが考えられる。 これらを「書いたり編集したりする」こととは,一つの文章を書くことに加え,複 数の文章を一定の目的の下に組み合わせて表現することである。例えば,意見や活動 の報告文集,本や新聞,リーフレットやパンフレットなどを編集することなどが考え られる。その際,目的や意図に応じた編集として章立てや節などを工夫するとともに, 題名や前書き,目次,後書き,奥付などを付け,実際の本や新聞,雑誌などの編集に 合わせるようにすることが大切である。 --108/139-- -106- ウ 事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書く言語活動 自分が他の人に薦めたいと思う事物を取り上げ,そのよさを多くの人に伝わるよう に,様々な形式の中から適切なものを選んで書く言語活動である。 具体的には,推薦書や宣伝文,紹介のためのポスター,案内のための小冊子などが 考えられる。推薦したり宣伝したりするためには,その事物についてよく認識する必 要がある。確かな理由や根拠に裏付けられていることや,他のものと比較してのよさ などをとらえることができるよう指導する必要がある。相手は,特定の人だけでなく 不特定の人の場合もあるので,それぞれに応じて工夫することが大切である。また, 書いたものを実際に多くの人に読んでもらう場を設定することを通して指導の効果を 高めることが重要である。 「C読むこと」 (1) 目 標 (3) 目的に応じ,内容や要旨をとらえながら読む能力を身に付けさせるとともに, 読書を通して考えを広げたり深めたりしようとする態度を育てる。 前段は,読む能力,後段は,読書態度を示している。 前段では,「目的に応じ,内容や要旨をとらえながら読む能力を身に付けさせる」 ことをねらいとしている。 「目的に応じ」は,中学年と同じである。高学年では,読む本や文章が多様になり, 作者や筆者の述べたい内容や要旨をとらえるなど文章全体に対応することをねらいと している。楽しむために読む,調べるために読む,知的欲求を満たすために読むなど, いろいろな目的に応じて計画的に読書をすることが必要である。複数の本や文章など について,様々な読み方を身に付けることも必要となってくる。 読むことについては,「内容や要旨をとらえながら読む能力」を身に付けることを --109/139-- -107- 示している。目的に応じて複数の本や文章を比べて読み,文章全体から内容や要旨を 把握するとともに,自分の考えをまとめる能力を育成することを求めている。 後段では,「読書を通して考えを広げたり深めたりしようとする態度を育てる」こ とをねらいとしている。 文学的な文章や説明的な文章などを読むことによって,ものの見方や考え方が広が る。また,書き手の思考に即して読んでいくことによって自分の思考も論理的になり, 考えが深められる。様々な読み方を取り上げながら読書の機会を多くもたせ,読書を 続ける態度を育成することを求めている。 これらのことが,中学校第1学年の「目的や意図に応じ,様々な本や文章などを読 み,内容や要旨を的確にとらえる能力を身に付けさせるとともに,読書を通してもの の見方や考え方を広げようとする態度を育てる。」へとつながっていく。 (2) 内 容 @ 指導事項 (1) 読むことの能力を育てるため,次の事項について指導する。 ア 自分の思いや考えが伝わるように音読や朗読をすること。 イ 目的に応じて,本や文章を比べて読むなど効果的な読み方を工夫すること。 ウ 目的に応じて,文章の内容を的確に押さえて要旨をとらえたり,事実と感 想,意見などとの関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら読んだりする こと。 エ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述に ついて自分の考えをまとめること。 オ 本や文章を読んで考えたことを発表し合い,自分の考えを広げたり深めた りすること。 カ 目的に応じて,複数の本や文章などを選んで比べて読むこと。 ア 音読に関する指導事項 --110/139-- --110/139-- -108- 中学年の「ア 内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること。」を受 けて,文章に書かれていることを理解して音声化するだけでなく,文章を読んで感じ たことや思ったこと,考えたことなどを大切にしながら,その思いや考えが相手に伝 わるように音読や朗読をすることを示している。 音読では,書き手の意図を考え自分の思いや考えと合わせて音声化していく必要が ある。特に物語や詩では,書き手が語り手を設定したり,登場人物を設定したりして いるので,その語り手やそれぞれの登場人物などの人物像も明確にし,どのように語 りたいのかを決める必要がある。その上で,今まで学習してきた,声の大きさ,声の 質や速さ,間の取り方などに気を付けて音読させるようにする。 朗読は,読者として自分が思ったことや考えたことから対象としている文章の全体 的なイメージを明確にし,そのことを相手に分かってもらうように伝えようとして音 声化するものである。音読が,文章の内容や表現をよく理解し伝えることに重点があ るのに対して,朗読は,児童一人一人が自分なりに解釈したことや,感心や感動をし たことなどを,文章全体に対する思いや考えとしてまとめ,表現性を高めて伝えるこ とに重点がある。同じ文章を読んでも,一人一人の感じ方や思い,考えなどが違うこ とを大事にするとともに,どのように音声化すれば聞き手にもよく味わってもらえる のかなどを考えながら相互に朗読し合って楽しむことを重視する。 児童や学級の実態に応じて,音読や朗読の方法を考えたり,取り入れる場面を工夫 したりするようにする。音読や朗読の発表会をしたり,更に表現性や創造性を高め, 朗読劇や群読を行ったりするほか,身体的な表現なども交えた劇のような音読の活動 なども考えられる。なお,このような発表会では,文章の内容や表現に戻って繰り返 し読み,十分理解することに留意することが重要である。 イ 効果的な読み方に関する指導事項 目的に応じて,本や文章を比べて読むなど,効果的な読み方を工夫することを示し ている。 高学年になると,調べるために資料を集めたり,同じ作者や課題について数多くの 作品を読んだりするなど読む目的も多様化する。また,調べる範囲も学校図書館から 地域の公共図書館や資料館などへと広がる。さらには,本を中心とした資料から新聞 --111/139-- -109- や雑誌,インターネットなど様々なメディアへと,その活用や情報収集の範囲も広が っていく。それに応じて,本や文章の読み方を広げていく必要がある。「効果的な読 み方」には,比べ読みのほか,速読,本や文章全体を概観しながら拾い読みする摘読, 同じ課題で多くの本を重ねたり並行させたりして読む多読などがある。このような多 様な読み方の中から,目的に応じて,効果的な読み方を選択し,活用することが重要 である。 ウ 説明的な文章の解釈に関する指導事項 中学年の「イ 目的に応じて,中心となる語や文をとらえて段落相互の関係や事実 と意見との関係を考え,文章を読むこと。」を受けて,目的に応じて,文章の要旨を とらえたり,自分の考えを明確にしながら読んだりすることを示している。 要旨は,書き手が文章で取り上げている内容の中心となる事柄,あるいは,それに ついての書き手の考えの中心となる事柄などである。「目的に応じて,文章の内容を 的確に押さえて要旨をとらえ」るとは,目的に応じて,何のために,どのようなこと が必要かなどを明確にした上で,文章の重要な点を表現に即して的確に押さえ,求め られている分量や表現の仕方などに合わせてまとめることである。文章の内容を的確 に押さえるためには,文章に書かれている話題,理由や根拠となっている内容,構成 の仕方や巧みな叙述などについて注意することが大切である。 また,「事実と感想,意見などとの関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら読 んだりする」とは,筆者が,どのような事実を事例として挙げ理由や根拠としている のか,また,どのような感想や意見,判断や主張などを行い,自分の考えを論証した り読み手を説得したりしようとするのかなどについて,筆者の意図や思考を想定しな がら文章全体の構成を把握し,自分の考えを明確にしていくことである。自分の考え を明確にする場合には,自分の知識や経験,考えなどと関係付けながら,自分の立場 から書かれている意見についてどのように考えるか意識して読むことも大切となる。 「B書くこと」(1)の「ウ 事実と感想,意見などとを区別するとともに,目的や 意図に応じて簡単に書いたり詳しく書いたりすること。」と関連付けて指導すると効 果的である。 エ 文学的な文章の解釈に関する指導事項 --112/139-- -110- 中学年の「ウ 場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気持ちの変化, 情景などについて,叙述を基に想像して読むこと。」を受けて,登場人物の相互関係 や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考えをまとめるこ とを示している。 「登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ」るとは,物語などを 読むときの中心となる登場人物について,その相互関係をとらえ,それらに基づいて 心情や場面の描写をとらえることである。中学年までは,一人一人の登場人物の行動 や性格に基づき,場面の展開に即して変化する気持ちを中心にとらえていた。高学年 では,登場人物の相互関係から人物像やその役割をとらえ,そのことによって,内面 にある深い心情も合わせてとらえることにつないでいく。登場人物の心情は,直接的 に描写されている場合もあるが,登場人物相互の関係に基づいた行動や会話,情景な どを通して暗示的に表現されている場合もある。このような表現の仕方にも注意し, 想像を豊かにしながら,読むことが大切になる。 「優れた叙述について自分の考えをまとめる」とは,場面の展開に沿って読みなが ら,感動やユーモア,安らぎなどを生み出す優れた叙述に着目して自分の考えをまと めることである。象徴性や暗示性の高い表現や内容,メッセージや題材を強く意識さ せる表現や内容などに気付き,それらを評価したり,自分の表現に生かしたり,感想 文や解説文などにまとめたりしていくことになる。 優れた叙述は,一冊の本や一編の文章だけでは分かりにくいこともある。同じ作者 や同じ題材の作品を比べて読むようにして,児童が自分で優れた叙述に気付いていく ことができるように工夫することが大切である。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕(1)イの「(カ) 語感,言葉の使い 方に対する感覚などについて関心をもつこと。」や「(ケ) 比喩や反復などの表現の工 ゆ 夫に気付くこと。」などと関連させて指導すると効果的である。 オ 自分の考えの形成及び交流に関する指導事項 中学年の「オ 文章を読んで考えたことを発表し合い,一人一人の感じ方について 違いのあることに気付くこと。」を受けて,本や文章を読んで,自分の考えをまとめ ることを示している。 --113/139-- -111- 「本や文章を読んで考えたことを発表し合い」とは,文学的な本や文章,説明的な 本や文章など多様な本や文章を読み,目的に応じて報告や意見,解説や新聞の記事, 推薦などの文章として考えをまとめ発表し合うことである。話し言葉によって発表し 交流するだけでなく,書きまとめたものを読み合うことなども交流に含まれる。感想 文集などにまとめたり,読書発表会などをしたりする言語活動に結び付けて考えるこ とが大切である。共通の課題,又は一人一人に応じた課題について学習し,それぞれ 考えたことが,どのように共通していたり相違したりしているのかなどを明らかにし ながら「自分の考えを広げたり深めたりすること」につなぐことが重要である。 普段の学習において,選択した課題,解決のための読み方,まとめた考えなどにつ いて,互いの違いを認め合う雰囲気をつくり,積極的に自分の考えをまとめ,また発 表し合うことの意義を感じ取るように工夫することが大切である。 カ 目的に応じた読書に関する指導事項 中学年の「カ 目的に応じて,いろいろな本や文章を選んで読むこと。」を受けて, 目的に応じて適切な本や文章などを複数選び,比べて読むことを示している。 高学年になると,児童の興味・関心が多様になる。一冊の本や一編の文章では,課 題を解決しにくいこともある。そこで,「目的に応じて,複数の本や文章などを選ん で」読むことが必要となる。「複数の本や文章」とは,同じ課題について違う筆者が 執筆した本や文章,同じ書き手の本や文章などのことである。 適切な本や文章を選ぶために,学校図書館やインターネットなどの利用に関する知 識,情報モラルなどを身に付けさせることが求められる。図書資料を選ぶ場合には, 十進分類法の概略や本の配置についての知識や,索引の使い方,事典などの特色など を知っておくことが必要になる。また,図書館,資料館,博物館等の社会教育施設の 内容について知り,どこに行けばどのような資料が入手できるのか,どのような観点 から必要な情報を探すのかといったことについての知識を身に付ける必要がある。 また,複数の本や文章などを「比べて読むこと」は,様々な違いを発見する喜びを 知り,知識や情報を豊かにしたり,読書の範囲を広げたりすることにつながり,多く の本や文章などを読むことの意義や楽しさを実感させることになる。それは,読書を 日常的に行う読書生活の構築にも役立つ。 --114/139-- -112- 実際に,読書を日常的に行う生活をつくっていくために,本だけに限らず,新聞や 雑誌,パンフレット,インターネットのホームページなど,様々な資料を活用できる よう工夫する。それまでの国語辞典中心の利用から,各種の事典などで事柄を調べ, 図書資料を活用することへと発展させたり,本や情報を検索する様々なメディアの活 用の仕方を身に付けさせたりするようにしていく必要がある。また,学校図書館や公 共図書館などとのネットワークを活用し,読書環境を整備して児童の読書生活を高め ていくことにも配慮する。 A 言語活動例 (2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導する ものとする。 ア 伝記を読み,自分の生き方について考えること。 イ 自分の課題を解決するために,意見を述べた文章や解説の文章などを利用 すること。 ウ 編集の仕方や記事の書き方に注意して新聞を読むこと。 エ 本を読んで推薦の文章を書くこと。 ア 伝記を読み,自分の生き方について考える言語活動 取り上げられた人物の生き方や人生等を描いた伝記を読み,自分を見つめ直し,自 分の生き方について考える言語活動である。 伝記に描かれた人物の行動や生き方と,自分の経験や考えなどとの共通点や相違点 を見付け,共感するところや取り入れたいところなどを中心に考えをまとめるように することが大切である。 伝記には,人物の取り上げ方や書き手によって偉人伝や史伝などがある。いずれも, 人物の生き方を描いているので,物語や詩のような行動や会話,心情などを基軸に物 語る文学的な描写が用いられることが多い。それと同時に,人物の生き方や考え方, その偉業などを意味付けるという点から事実の記述や説明の表現が用いられる。これ らは,「B書くこと」(2)のアで取り上げている「随筆」と表現方法に共通性がある。 --115/139-- -113- イ 自分の課題を解決するために,意見を述べた文章や解説の文章などを利用する言 語活動 自分の課題を解決するために,意見を述べた文章や解説の文章などを利用し役立て ようとする言語活動である。 「意見を述べた文章や解説の文章など」には,本以外では,新聞,雑誌,地域の情 報誌などに掲載された意見,論説,報道,解説などの文章がある。また,テレビ・ラ ジオなどの番組で取り上げられる意見や解説など音声や映像を利用することも考えら れる。意見や解説の文章は,書き手の立場や考え方が強く反映しているので,それら に注意して読み,自分との相違点などに注意して利用することが重要である。 ウ 編集の仕方や記事の書き方に注意して新聞を読む言語活動 新聞を取り上げ,編集の仕方や記事の書き方に注意して読む言語活動である。 新聞は,多数の人々や広い範囲に配布されるメディアとして編集され,社会・経済 ・政治・産業・国際・教育・文化・スポーツなど多岐にわたる内容が取り上げられて いる。編集に当たっては,活字や図,写真などの大きさや行数,配置などを決める割 り付けなどが行われている。記事は,逆三角形の構成と呼ばれることもあるように, 結論を見出しで先に示し,リードから本文へと次第に詳しく記述されている。また, 事件や出来事の報道記事だけでなく,社説・コラム・解説などの記事もある。このよ うな特徴を理解し,編集の仕方や記事の書き方に注意して読むことが大切である。 エ 本を読んで推薦の文章を書く言語活動 本を読んで推薦の文章を書く言語活動である。 推薦するためには,自分の目的とともに,相手の目的も考慮し,どのような本を取 り上げるのか,また取り上げた本の何を主に推薦するのかなどを決める必要がある。 文学的な文章にしろ,説明的な文章にしろ,それぞれの本の特徴をとらえて推薦する ようにする。そのために,本をよく読み込み,相手に伝わるような構成や推薦するた めの言葉などに注意して叙述を整えることが欠かせない。推薦する対象となる本の内 容や,書き手に関連する本を重ねて読んだり,書き手自身のことについて調べたりす ることも大切となる。推薦の方法としては,本の帯や広告カード(ポップ),ポスタ ーや読書郵便,リーフレットやパンフレットなどが考えられる。 --116/139-- -114- 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 (1) 「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指導を通し て,次の事項について指導する。 ア 伝統的な言語文化に関する事項 (ア) 親しみやすい古文や漢文,近代以降の文語調の文章について,内容の大体を 知り,音読すること。 (イ) 古典について解説した文章を読み,昔の人のものの見方や感じ方を知ること。 (ア)は,古文や漢文,近代以降の文語調の文章に関する事項である。 これらの文章には,独特のリズムや長い年月を経て培われてきた美しい語調が備わ っている。音読することにより,その美しさや楽しさを感覚的に味わうことができる。 「親しみやすい古文や漢文,近代以降の文語調の文章」とは,児童が,言葉のリズ ムを実感しながら読めるもの,音読することによって内容を知ることができるような 親しみやすい範囲のものを指す。教材に合わせて暗唱や群読を取り入れるなど読み方 を工夫することが必要である。古文や漢文は,読んで楽しいものであること,自分を 豊かにするものであることを実感させるようにする。 この内容は,中学校第1学年「(ア) 文語のきまりや訓読の仕方を知り,古文や漢文 を音読して,古典特有のリズムを味わいながら,古典の世界に触れること。」へとつ ながっていくものである。 (イ)は,古典について解説した文章を読むことに関する事項である。 古典を解説した文章を読むことによって,それぞれの時代における人々がどのよう なものの見方や感じ方をしていたのか,伝統的な言語文化がどのように変遷してきた --117/139-- -115- のかを,生活や文化とともに知ることができる。解説の内容を基に,昔の人々の生活 や文化など,古典の背景をできる限り易しく理解させ,昔の人のものの見方や感じ方 に関心をもたせたり,現代人のものの見方や感じ方と比べたりして,古典への興味・ 関心を深めるようにすることが重要である。また,言語文化への興味・関心を深める ために,能,狂言,人形 浄 瑠璃,歌舞伎,落語などを鑑賞することも考えられる。 じよう る り か ぶ き イ 言葉の特徴やきまりに関する事項 言葉の働きや特徴に関する事項 (ア) 話し言葉と書き言葉との違いに気付くこと。 (イ) 時間の経過による言葉の変化や世代による言葉の違いに気付くこと。 これらの事項は,言葉が果たす多様な働きや特徴を理解させるために,今回の改訂 で新設したものである。 (ア)は,音声言語としての話し言葉と,文字言語としての書き言葉に関する事項で ある。それぞれの特色や役割に気付かせることを示している。 音声は,発せられた途端に消えていくので,話し言葉は 遡 って内容を確認する さかのぼ ことができない。このことによって,複雑な構文や誤解されやすい同音異義語を避け るなど,様々な表現上の特質が生まれる。聞き手や場面の状況の影響を強く受けなが ら表現及び理解が進められるという特質もある。 書き言葉は,読み手が文や文章を繰り返し確認することができる。使用される語彙 い や,文や文章の構造なども話し言葉と違いがある。また,「器官」と「機関」,「機械」 と「機会」など,意味の違いを漢字の使い分けで表すことができる。こうした両者の 違いについて気付かせることは,それぞれの特質に配慮した使い分けを身に付けるた めの基礎を養うことになる。 (イ)は,言葉の変化や言葉の違いに関する事項である。 言葉は,「時間の経過」によって変化する。児童は,伝統的な言語文化に触れるう ちに,古典の言葉の中には,自分たちが普段使っている言葉とは同じではないものが あることに気付く。それが「時間の経過による言葉の変化」の結果であることを押さ --118/139-- -116- え,自分たちの言葉への関心を深めるとともに,そのように変化する言葉の特質に気 付いたり,言語文化としての古典に親しみ,受け継いでいく態度を養ったりする契機 とする。指導に当たっては,古典に見られる過去の言葉は,現代の言葉と連続したも のであること,したがって現代の言葉に置き換えなくてもそのまま理解できる部分が 少なからずあることにも自然に気付かせるように配慮することが大切である。 「世代による言葉の違い」とは,年配者と,年少者や若者には,それぞれの世代に 特有の言葉遣いがあることを指す。それらの存在に気付き,世代間の親近感やつなが りを強めるという役割を意識させた上で,例えば,若者の言葉が,使える場合と使う べきではない場合とがあることなどを理解させる。児童は,世代や年齢による言葉の 違いのほかにも,地方・地域による言葉の違いなども知っている。それを明確に意識 させることは,場に応じた適切な言葉遣いができるようになるためにも重要である。 「(ク) 日常よく使われる敬語の使い方に慣れること。」や「A話すこと・聞くこと」(1) の「ウ 共通語と方言との違いを理解し,また,必要に応じて共通語で話すこと。」 と関連付けて指導すると効果的である。 表記に関する事項 (ウ) 送り仮名や仮名遣いに注意して正しく書くこと。 基礎的な表記についての指導を重視する観点から,各学年を通じた学習のまとめと して示している。送り仮名については,(エ)の「語句の構成」などの学習と関連付け て指導すると効果的である。 また,仮名遣いについても,語句の構成などに注意して指導するようにする。例え ば,「鼻血(はなぢ)」と「地面(じめん)」,「みずうみ(湖)」と「みかづき(三日月)」 などの区別を付けて,正しく表記できるようにする。 その際,「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示)や,「現代仮名遣い」(昭和61年 内閣告示)の内容を十分に踏まえ,児童の仮名遣いの実態などと関連を図ることが大 切である。 語句に関する事項 --119/139-- -117- (エ) 語句の構成,変化などについての理解を深め,また,語句の由来などに関心 をもつこと。 (オ) 文章の中での語句と語句との関係を理解すること。 (カ) 語感,言葉の使い方に対する感覚などについて関心をもつこと。 (エ)は,語句の構成,変化と語句の由来に関する事項である。 語句の構成については,お米の「お」のような接頭語,お父さんの「さん」のよう な接尾語のほかに,複合語,略語,慣用語なども含んでいる。語句の変化については, 例えば,「花+畑」で「ハナバタケ」というような音の変化,「帰る+道」で「帰り道」 というような語形の変化,また「物」と「物物しい」のような意味の変化などがある。 このような語句の構成や変化を,意味とのかかわりを大切にしながら理解することに より,語句の使用が一層豊かになるよう指導することが大切である。 語句の由来に関しては,ウの「(イ) 仮名及び漢字の由来,特質などについて理解す ること。」に関する事項とも関連させて,語源を調べたり,和語,漢語,外来語など の区別について関心をもったりできるようにすることが効果的である。 (オ)は,文章における語句と語句との関係に関する事項であり,新設したものであ る。 語句と語句とがどのように関連し合って文章全体を構成しているのかを理解するこ とが大切である。実際の文章は,類義語や対義語,上位語・下位語,派生語など,語 句と語句との関係に基づきながら記述されており,そのような語句相互の関係を理解 することによって内容の把握を的確にすることを理解させる。また,説明的な文章, 文学的な文章には,それぞれの文章を特徴付ける語句が使用されていることから,そ れぞれを特徴付ける結び付きの強い語句同士が相互に関連し合っていることも理解さ せるようにする。このような語句と語句との関係を理解することは,語感を高めたり, 言語感覚を豊かにしたりすることにもつながり,また自分が話したり書いたりする力 を高めることにもつながる。 (カ)は,語感や言葉の使い方に関する事項である。 --120/139-- --120/139-- -118- 語感や言葉の使い方の感覚に関する指導は,言葉のリズムをはじめ,語や語句の使 い方,文や文章の表現の柔らかさ,美しさなどに対する感覚について,各学年を通じ て指導が積み重ねられており,特に重点を置く学年が高学年であるということである。 語感には,言葉の正しさや美しさだけではなく,文や文章を含めて,実際にその言葉 が使われる際に,適切であるかどうかを感じ取る感覚も含んでいる。多くの文章を繰 り返して読んだり,優れた表現を抜き出したりする活動を取り入れるとともに,日常 生活の中での話すこと・聞くこと,書くことの場面で,語感や言葉の使い方を意識す るようにさせることが大切である。 文及び文章の構成に関する事項 (キ) 文や文章にはいろいろな構成があることについて理解すること。 文の構成については,中学年の「(キ) 修飾と被修飾との関係など,文の構成につい て初歩的な理解をもつこと。」を受けて,文の中での語句の係り方や照応の仕方に気 付き,いろいろな文の構成があることについて理解することを示している。構造から みて,単文・重文・複文に分けたり,性質や機能からみて,平叙文,呼びかけや疑問, 応答を表す文,命令や承諾を表す文,推定や伝聞を表す文,感動や感嘆を表す文に分 けたりすることなどが考えられる。 文章の構成については,中学年の「(ク) 指示語や接続語が文と文との意味のつなが りに果たす役割を理解し,使うこと。」や「B書くこと」(1)の「イ 自分の考えを明 確に表現するため,文章全体の構成の効果を考えること。」と関連付けて指導すると 効果的である。文章全体の構成が目的に応じて決定されており,それらに合わせた構 成を理解するようにすることが求められる。 --121/139-- -119- 言葉遣いに関する事項 (ク) 日常よく使われる敬語の使い方に慣れること。 丁寧な言葉の使い方については,中学年までの指導を受けて,高学年においては, 相手と自分との関係を意識させながら,尊敬語や謙譲語をはじめ,丁寧な言い方など について理解することが大切である。 敬語の役割や必要性を自覚してくる時期であるので,相手や場面に応じて適切に敬 語を使うことに慣れるよう,児童の日常の言語生活につながる指導方法を工夫するこ とが大切である。 表現の工夫に関する事項 (ケ) 比喩や反復などの表現の工夫に気付くこと。 ゆ 比喩や反復など修辞法に関する表現の工夫をまとめて考えられるように今回の改訂 ゆ で新設した事項である。 高学年において示しているが,各学年において,説明的な文章,文学的な文章のい ずれにおいても表現の工夫についての指導が積み重ねられており,ここでまとめて整 理する。 具体的な表現の工夫には,比喩や反復をはじめとして様々なものが考えられる。擬 ゆ 声語・擬態語,語句の反復,誇張などは低学年の児童が読んだり書いたりする文章中 にも頻繁に見られる。学年が進行するにつれて直喩,隠喩などの比喩やユーモア,ま ゆゆ ゆ た,省略,倒置,対句など構成上の工夫も多くなる。そこで,多様な文章に表れる様 々な表現の工夫に気付いたり,自分の表現に活用したりするように指導することが大 切である。この事項は,中学校第1学年〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事 項〕(1)イの「(オ) 比喩や反復などの表現の技法について理解すること。」につながっ ゆ ていく。 --122/139-- -120- ウ 文字に関する事項 (ア) 第5学年及び第6学年の各学年においては,学年別漢字配当表の当該学年ま でに配当されている漢字を読むこと。また,当該学年の前の学年までに配当さ れている漢字を書き,文や文章の中で使うとともに,当該学年に配当されてい る漢字を漸次書き,文や文章の中で使うこと。 (イ) 仮名及び漢字の由来,特質などについて理解すること。 (ア)は,漢字に関する事項である。 第5学年及び第6学年においては,漢字を読むことについて,学年別漢字配当表の 当該学年までに配当されている漢字を読むことを示している。また,漢字を書くこと については,当該学年の前の学年に配当されている漢字を書き,文や文章の中で使お うとする習慣を身に付けるようにするとともに,当該学年に配当されている漢字を漸 次書き,文や文章の中で使うようにすることを示している。 高学年は,漢字による熟語などの語句の使用が増加する時期でもある。したがって, 文や文章を書く際には,漢字のもつ意味を考えながら正しく使ったり,「収める」,「納 める」,「治める」などの同音異義語に注意して使ったりする習慣を付けるように指導 する。また,漢字辞典の使い方に慣れてきたら,自分で新出漢字の読みや意味などを 調べる活動を取り入れることも大切である。 (イ)は,文字文化に関する事項である。 中学年の「(ウ) 漢字のへん,つくりなどの構成についての知識をもつこと。」を受 けて,仮名及び漢字の由来,特質などについて理解することを示している。具体的に は,仮名や漢字がどのように形成され,継承されてきたのかなどについて基本的な知 識をもつこと,また,表音文字としての平仮名や片仮名,表意文字としての漢字の特 質を理解すること,文章が漢字仮名交じりで表記されていることや,漢字には原則と して音と訓の読み方があることなどをまとまった知識として整理することなどであ る。 --123/139-- -121- 書写に関する事項 (2) 書写に関する次の事項について指導する。 ア 用紙全体との関係に注意し,文字の大きさや配列などを決めるとともに, 書く速さを意識して書くこと。 イ 目的に応じて使用する筆記具を選び,その特徴を生かして書くこと。 ウ 毛筆を使用して,穂先の動きと点画のつながりを意識して書くこと。 アは,文や文章などの文字の集まりにおける文字の大きさや配列の決定,書く速さ の意識化に関する事項である。書く速さの意識化は,中学校における行書の指導への 橋渡しという位置付けになる。 「用紙全体との関係」の「用紙」とは,原稿用紙や便箋などの書式に対応した用 せん 紙,半紙,画用紙や模造紙などの白紙に始まり,それらに準ずる布や金属,ガラスな どといった用材全般のことを指す。 「文字の大きさ」は,中学年イの「漢字や仮名の大きさ」と関連している。中学年 までは,漢字より仮名は小さく書くといった文字相互の相対的な大きさの関係であっ たのに対し,高学年では,主に用紙全体との関係から判断される文字の大きさを指し ている。例えば,用紙全体からはみださずに書く,逆に余白をつくり過ぎずに書く, また,用紙の中で見出しの文字を目立たせる,地の文章の文字は控えめに見せるとい ったようなことである。 「配列」も同じように,中学年イの「配列」と関連している。中学年までは,「配 列」が,字間は均等にする,行の中心はそろえる,行間は均等にするという一般的な ものであったのに対して,高学年では,用紙全体との関係から考えられる文字の位置, 字間,行間などの効果的な在り方に重点を置いている。 「書く速さを意識して」とは,書く場面の状況によって速さが決まってくることを 意識することである。速く書くことが求められるだけでなく,ゆっくりと丁寧に書く ことが求められる場面もある。例えば,聞き取りメモや板書の視写をするといった時 間が限定されている場面では,ある程度の速さが求められる。自分の持ち物に名前を --124/139-- -122- 書く場面や目上の人に手紙を書く場面などでは,ゆっくりと丁寧に書くことが求めら れる。 イは,目的に応じて筆記具を選択し,その特徴を生かして書くことに関する事項で ある。低学年のア「姿勢や筆記具の持ち方を正しく」することを発展させたものであ る。 「目的に応じて」の「目的」は,生活や学習活動において文字を書く様々な場面に おける目的のことである。例えば,全校児童に伝えるために大きく読みやすく書くこ とや,お世話になった人にお礼の気持ちを伝えるために丁寧に整った文字で書くこと などである。 「筆記具を選び」の「筆記具」は,鉛筆,フェルトペン,毛筆,ボールペン,筆ペ ンなどから選択することが考えられる。これらの筆記具に適した用材の選択にも配慮 する必要がある。「その特徴を生かして」の「特徴」は,筆記具全体の形状,書く部 分の材質や形状,色などである。例えば,立て看板を書くときには,情報の伝わりや すさが大切なので大きく書ける毛筆と模造紙を選んだり,文章の下書きをするときに は,消すことが可能な鉛筆や加除訂正が容易な原稿用紙を選んだりするといった関連 付けを常に意識することが必要である。 ウは,毛筆を使用して,穂先の動きと点画のつながりを意識して書くことに関する 事項である。 「穂先の動き」については,中学年ウで,横画・縦画や左右の払いなどの点画の種 類ごとにある一定の穂先の動きを指導している。ここでは,点画の中での穂先の動き だけでなく,点画から点画へ,更には,文字から文字へと移動していく過程に重点を 置く。したがって,「穂先の動き」と「点画のつながり」とは一体化した事項と言え る。 また,穂先の柔軟さが書写する際の筆圧を吸収し,強弱のあるリズミカルな運筆を 可能にするという毛筆という用具の特性を生かして,書き始めから書き終わりまでを 無理なくつないで書き進める効率よい書写のリズムを習得させるようにする。また, 点画相互,文字相互のつながりという点では,小筆や筆ペンなどを使用して,日常で 文字を書く条件に近づけることが求められる。 --125/139-- -123- 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い 1 指導計画作成上の配慮事項 弾力的な指導に関する事項 1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。 (1) 第2の各学年の内容の指導については,必要に応じて当該学年より前の学 年において初歩的な形で取り上げたり,その後の学年で程度を高めて取り上 げたりして,弾力的に指導することができるようにすること。 第2の各学年の内容は,児童の6年間の発達の段階を踏まえて2学年ずつまとめて 示している。前後の学年段階を考慮して弾力的に指導することができるように指導計 画を立てる必要があることを述べたものである。形式的に該当する学年に当てはめて 指導したり,その学年だけで指導が終わったとしたりするような扱いにならないよう に注意する。 指導計画の作成に当たり,学校や学年あるいは学級の児童の言語能力や言語体験の 違いなどに応じて,学習のねらいや児童の興味や関心を考えながら計画を立てる必要 がある。その際,各学年の内容に基づきながらも,その前の学年において初歩的な形 で取り上げたり,後の学年において程度を高めて取り上げたりして指導することも考 えられる。また,児童の言語能力が螺旋的に高まるよう,それぞれの学年の学習指導 ら を孤立させず,児童の発達の段階を見通して目標の系統性を保ちながら柔軟でしかも 弾力的な運用を図り,系統化した効果的な指導がなされるよう計画を立てていくこと が大切である。 --126/139-- -124- 関連的な指導と学校図書館などの活用に関する事項 (2) 第2の各学年の内容の「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」,「C読むこ と」及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕に示す事項について は,相互に密接に関連付けて指導するようにするとともに,それぞれの能力が 偏りなく養われるようにすること。その際,学校図書館などを計画的に利用し その機能の活用を図るようにすること。また,児童が情報機器を活用する機会 を設けるなどして,指導の効果を高めるよう工夫すること。 この事項は,「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」,「C読むこと」及び〔伝統 的な言語文化と国語の特質に関する事項〕に示しているそれぞれの内容を相互に密接 に関連させながら指導することで,指導の効果を高めようとするものである。それぞ れの領域で指導する内容は,具体的な指導において深く関連するものである。例えば, 中学年の内容を見ると,次のようになっている。 「段落相互の関係」に関する指導事項については,「B書くこと」(1)のイに「段 落相互の関係などに注意して文章を構成する」とある。「C読むこと」(1)のイに「段 落相互の関係や事実と意見との関係を考え,文章を読む」とある。このように,各領 域等に示した内容は,他の領域等の内容と相互に関連している。 したがって,年間指導計画を立てる際,関連して指導する単元及び題材の組合せを 考慮して,各領域等の能力が偏りなく育成されるよう配慮する必要がある。 学校図書館については,「C読むこと」における読書指導だけの利用ではなく,「A 話すこと・聞くこと」や「B書くこと」の指導の中でも,必要な図書館資料を得るた めに,意図的・計画的に利用する必要がある。また,国語科においてはもちろん,他 の教科においても,児童一人一人が自分の疑問や課題を解決するために,学校図書館 が学習・情報センターとして有効に機能することを求めている。このような観点から 各領域等において,学校図書館の利用計画を立て,情報収集のための活用を意図的, 計画的に行うことが大切である。また,国語科における読書の指導を,他の教科にお ける読書の指導や学校図書館における読書の指導と緊密に関連付け,成果を上げてい --127/139-- -125- く工夫も大切である。 なお,情報収集や情報発信の手段としてコンピュータや情報通信ネットワークを活 用する機会を設けること,インターネットや電子辞書等の活用,コンピュータによる 発表資料の作成とプロジェクターによる提示等も考えられる。 「A話すこと・聞くこと」に関する事項 (3) 第2の各学年の内容の「A話すこと・聞くこと」に関する指導については, 意図的,計画的に指導する機会が得られるように,第1学年及び第2学年では 年間35単位時間程度,第3学年及び第4学年では年間30単位時間程度,第5学 年及び第6学年では年間25単位時間程度を配当すること。その際,音声言語の ための教材を活用するなどして指導の効果を高めるよう工夫すること。 話すこと・聞くことは,言語生活の上での基本的な言語活動である。話すこと・聞 くことの能力は,学習した知識・技能を繰り返し用いたり,実際の生活場面において 使いこなす機会を多くもったりすることによって身に付けることができる。したがっ て,これらのことを年間指導計画に意図的・計画的に位置付け確実に指導を行うこと が重要である。また,「A話すこと・聞くこと」の指導のみならず,「B書くこと」や 「C読むこと」の指導においても学習したことを関連付けて生かすようにすることが 必要である。 「A話すこと・聞くこと」に関する指導については,学年ごとの年間の指導時間を 配当している。低学年では年間35単位時間程度,中学年では年間30単位時間程度,高 学年では年間25単位時間程度である。時間の取り方としてはある時期にまとめて単元 を設定したり,1単位時間の中の15分程度の短い時間を組み合せたりするなど工夫し て設定していくことが重要である。 また,各学校の創意工夫により,児童の実態に応じたより有効な教材を活用し,指 導の効果を上げることが期待される。 --128/139-- -126- 「B書くこと」に関する事項 (4) 第2の各学年の内容の「B書くこと」に関する指導については,第1学年及 び第2学年では年間100単位時間程度,第3学年及び第4学年では年間85単位 時間程度,第5学年及び第6学年では年間55単位時間程度を配当すること。そ の際,実際に文章を書く活動をなるべく多くすること。 「B書くこと」の指導では,書く活動の過程に沿って基礎的な能力を取り上げ,そ れを,学年に応じて年間指導計画に意図的,計画的に位置付けて育成することが重要 である。 「B書くこと」に関する指導については,学年ごとの年間の指導時間を配当してい る。低学年では,年間100単位時間程度,中学年では年間85単位時間程度,高学年で は年間55単位時間程度である。基礎的な内容の定着のために下学年の方が時間が多く 必要なことや,繰り返し行う授業が効果を上げるために,時間数を多く配当すること としている。低学年で身に付けた能力を中・高学年において活用しながら,次への程 度や段階を高めることになる。この時数を標準にして,書くことの指導計画を立て, 文章表現の基礎的能力が確実に育成できるように,その実施計画を工夫する必要があ る。文章の表現過程に応じた学習を展開するとともに,実際に文章を書く活動を多く 取ることや,文章を書く学習を特に取り上げて指導する工夫も必要である。 --129/139-- -127- 「C読むこと」に関する事項 (5) 第2の各学年の内容の「C読むこと」に関する指導については,読書意欲を 高め,日常生活において読書活動を活発に行うようにするとともに,他の教科 における読書の指導や学校図書館における指導との関連を考えて行うこと。学 校図書館の利用に際しては,本の題名や種類などに注目したり,索引を利用し て検索をしたりするなどにより,必要な本や資料を選ぶことができるように指 導すること。なお,児童の読む図書については,人間形成のため幅広く,偏り がないように配慮して選定すること。 「C読むこと」の指導では,児童の読書意欲を高め,日常生活においても読書活動 を活発に行うように促し,児童の読書力を向上させることが重要である。また,国語 科における読書の指導は,常に国語科以外の学校の教育活動全体における読書の指導 との密接な連携を図っていく必要がある。つまり,他の教科における読書の指導や学 校図書館における指導などとの関連を考えて,児童の読書意欲を高め,読書活動が一 層活発に行われるようにすることである。 学校図書館の利用に関する指導は,本の題名や著者名,テーマやジャンルなどに注 目したり,目次や索引を利用して検索したり,「はじめに」(まえがき)や「おわりに」 (あとがき)などを参考にしたりして,目的に照らして必要な本や資料を児童自ら選 ぶことができるようにする必要がある。また,特別活動の学級活動との関連を図り, 指導の内容や時間の配分に重複や無駄のないよう留意する必要がある。児童が読む図 書の選定に当たっては,「人間形成のため幅広く,偏りがないように」し,豊かな人 間性の育成に資するよう配慮する必要がある。 読書の指導では,読み手としての主体性を育てること,目的をもち意欲的に読書を する態度を育てること,読書をする喜びが分かり進んで読もうとすることなどを通し て読書意欲を高めることを重視する。なお,「C読むこと」の指導の中で,目的や意 図に応じて的確に読み取る能力が一層高まるよう,個に応じた指導計画を工夫する必 要がある。 --130/139-- --130/139-- -128- 生活科や幼稚園教育との関連についての事項 (6) 低学年においては,生活科などとの関連を積極的に図り,指導の効果を高め るようにすること。特に第1学年においては,幼稚園教育における言葉に関す る内容などとの関連を考慮すること。 低学年の児童の特性を考慮し,他教科等との関連を積極的に図るようにすること及 び幼稚園教育の言葉に関する内容などとの関連を図ることについて示している。 幼児期は体験活動が中心の時期であり,周りの人や物,自然などの環境に体ごとか かわり全身で感じるなど,活動と場,体験と感情が密接に結び付いている。小学校低 学年の児童は同じような発達の特性をもっており,体験を通して感じたことや考えた ことなどを,常に自分なりに組み換えながら学んでいる。 このような発達の特性を生かし,生活科など他教科等との関連を積極的に図ったり, 幼稚園,保育所,認定こども園における言葉に関する内容などを参考にして国語科の 指導計画を作成したりすることが必要である。例えば,育成を図る資質や能力を明ら かにした上で,教材についても他教科等と関連付けたり取り上げる時期を合わせたり することが考えられる。 道徳との関連についての事項 (7) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づ き,道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容に ついて,国語科の特質に応じて適切な指導をすること。 学習指導要領の第1章総則の第1の2においては,「学校における道徳教育は,道 徳の時間を 要 として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間はも かなめ とより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に 応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならない」と規定 されている。 --131/139-- -129- これを受けて,国語科の指導においては,その特質に応じて,道徳について適切に 指導する必要があることを示すものである。 国語科における道徳教育の指導においては,学習活動や学習態度への配慮,教師の 態度や行動による感化とともに,以下に示すような国語科の目標と道徳教育との関連 を明確に意識しながら,適切な指導を行う必要がある。 国語科においては,目標を「国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝 え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心 を深め国語を尊重する態度を育てる。」と示している。 国語による表現力と理解力を育成するとともに,人間と人間との関係の中で,互い の立場や考えを尊重しながら言葉で伝え合う力を高めることは,学校の教育活動全体 で道徳教育を進めていく上で,基盤となるものである。また,思考力や想像力及び言 語感覚を養うことは,道徳的心情や道徳的判断力を養う基本になる。さらに,国語を 尊重する態度を育てることは,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国 と郷土を愛することなどにつながるものである。 なお,3(2)には,教材選定の観点として,道徳性の育成に資する項目を国語科の 特質に応じて示している。 次に,道徳教育の 要 としての道徳の時間の指導との関連を考慮する必要がある。 かなめ 国語科で扱った内容や教材の中で適切なものを,道徳の時間に活用することが効果的 な場合もある。また,道徳の時間で取り上げたことに関係のある内容や教材を国語科 で扱う場合には,道徳の時間における指導の成果を生かすように工夫することも考え られる。そのためにも,国語科の年間指導計画の作成などに際して,道徳教育の全体 計画との関連,指導の内容及び時期等に配慮し,両者が相互に効果を高め合うように することが大切である。 --132/139-- -130- 2 第2の各学年の内容の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の 取扱い 伝統的な言語文化に関する事項,言葉の特徴やきまりに関する事項,文字に関する 事項 2 第2の各学年の内容の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕につ いては,次のとおり取り扱うものとする。 (1) 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の(1)に示す事項につい ては,次のとおり取り扱うこと。 ア 特定の事項をまとめて指導したり,繰り返して指導したりすることが必 要な場合については,特にそれだけを取り上げて学習させるよう配慮する こと。 イ 伝統的な言語文化に関する指導については,各学年で行い,古典に親し めるよう配慮すること。 ウ 漢字の指導については,第2の内容に定めるほか,次のとおり取り扱う こと。 (ア) 学年ごとに配当されている漢字は,児童の学習負担に配慮しつつ,必 要に応じて,当該学年以前の学年又は当該学年以降の学年において指導 することもできること。 (イ) 当該学年より後の学年に配当されている漢字及びそれ以外の漢字につ いては,振り仮名を付けるなど,児童の学習負担に配慮しつつ提示する ことができること。 (ウ) 漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準と すること。 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の(1)は,伝統的な言語文化に関 --133/139-- -131- する事項,言葉の特徴やきまりに関する事項,文字に関する事項を,学年に応じて系 統的に配列している。 アは,必要な場合には特定の事項を取り上げて学習させることに関する取扱いを示 したものである。〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の(1)は,「A話す こと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の各領域の指導を通して行うこ とを基本とするが,知識・技能の定着を図るために,まとめて単元化して扱ったり, 特定の時間を確保して繰り返し指導したり,学期や学年を超えて指導したりすること もできることを示している。 なお,特定の事項をまとめたり繰り返したりする学習は,形式的・機械的な学習に なりやすいので,児童が興味や関心をもって学習を継続できるような工夫が大切であ る。 イは,伝統的な言語文化に関する指導の取扱いを示したものである。第1学年から 第6学年までの各学年において継続して指導し,古典に親しめるよう配慮することを 示している。 ウは,漢字の指導の取扱いを示したものである。(ア)は,当該学年に配当されてい る漢字は原則としてその学年で指導するものであるが,必要に応じて弾力的な扱いが できることを示している。例えば,第2学年の漢字の指導の際,「昔話」や「自転車」 のように,「話・自」は第2学年,「昔・転」は第3学年の配当漢字であり(「車」は 第1学年),配当学年が異なる漢字で構成されている熟語が出てくる場合がある。そ のとき,第2学年であっても,必要に応じて「昔話」,「自転車」などのように漢字の 熟語として提示してよいということである。その際,(イ)の事項と関連して,児童の 学習負担が過重にならないよう配慮が必要であり,後の学年の配当漢字である「昔・ 転」については,振り仮名を付けて「 昔 話」,「自転車」のように提示することにな むかし てん る。 (イ)は,振り仮名付きの漢字の提示を増やし,漢字を読む機会を多くもつようにす ることを示しており,これにより,児童の語句の読みと意味理解を一層高めることが 期待される。 (ウ)は,漢字の標準的な字体の拠り所を示している。漢字の指導の際には,学習指 よ --134/139-- -132- 導要領の「学年別漢字配当表」に示された漢字の字体を標準として指導することを示 している。しかし,この「標準」とは,字体に対する一つの手掛かりを示すものであ り,これ以外を誤りとするものではない。児童の書く文字を評価する場合には,「常 用漢字表」(昭和56年内閣告示)の「前書き」にある活字のデザイン上の差異,活字 と筆写の楷書との関係なども考慮することが望ましい。 かい 書写に関する事項 (2) 硬筆を使用する書写の指導は各学年で行い,毛筆を使用する書写の指導は第 3学年以上の各学年で行うこと。また,毛筆を使用する書写の指導は硬筆によ る書写の能力の基礎を養うよう指導し,文字を正しく整えて書くことができる ようにするとともに,各学年年間30単位時間程度を配当すること。 従前から,硬筆を使用する書写の指導は各学年で行うものとしていたが,今回の改 訂ではそれを明確に示している。「毛筆を使用する書写の指導は硬筆による書写の能 力の基礎を養うよう指導し」とあるのは,毛筆を使用して書写の指導を行うことの国 語科におけるねらいを明確にしたものである。 また,「文字を正しく整えて書くことができるようにする」ことと示してあるのも, 国語科における毛筆書写のねらいを明確にしたものである。文字を正しく整えて書く 能力を身に付けることは,日常生活における硬筆による書写の能力を高める基礎とな る。したがって,毛筆で正しく整えて書くことの基礎・基本を硬筆に関連させた指導 計画や指導法を創意工夫することが大切である。 毛筆を使用する書写の指導に配当する授業時数は,第3学年以上に「年間30単位時 間程度」とすることを示している。指導計画を作成するに当たっては,毛筆と硬筆と を一体化させる関連的な指導を一層工夫する必要がある。 --135/139-- -133- 3 取り上げる教材についての観点 3 教材については,次の事項に留意するものとする。 (1) 教材は,話すこと・聞くことの能力,書くことの能力及び読むことの能力 などを偏りなく養うことや読書に親しむ態度の育成を通して読書習慣を形成 することをねらいとし,児童の発達の段階に即して適切な話題や題材を精選 して調和的に取り上げること。また,第2の各学年の内容の「A話すこと・ 聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」のそれぞれの(2)に掲げる言 語活動が十分行われるよう教材を選定すること。 教材選定に当たっては,話すこと・聞くことの能力,書くことの能力及び読むこと の能力などを偏りなく養うことをねらいとし,児童の発達の段階に即して適切な話題 や題材を調和的に選定することに留意する必要がある。年間を通して各領域の教材を 調和よく選定するとともに,各領域の指導が適切に行われるように配当することが重 要である。 また,読書に親しむ態度の育成を通して読書習慣を形成することもねらいとし,児 童の発達の段階に即して説明的な文章や文学的な文章を読む機会を設けるようにした り,話すこと・聞くこと,書くことにおいても読書をするように工夫したりすること が大切である。 さらに,「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の領域では, (1)の指導事項に加え,(2)の言語活動例を示している。これらの指導が十分に行われ るような教材を選定することを求めている。そのためには,言語活動例についてその 学年段階に合わせ,どのような内容があるのかを十分に検討し,配当されている時数 を考慮しつつ,学年や学級の実態に合わせて,どの学年のどの時期に,どの程度時間 をかけて指導するかを明確にする必要がある。その場合,どのような話題や題材が使 えるのかを十分に検討して,適切な教材を選定することが大切である。 --136/139-- -134- (2) 教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。 ア 国語に対する関心を高め,国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。 イ 伝え合う力,思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。 ウ 公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。 エ 科学的,論理的な見方や考え方をする態度を育て,視野を広げるのに役立 つこと。 オ 生活を明るくし,強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。 カ 生命を尊重し,他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。 キ 自然を愛し,美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと。 ク 我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。 ケ 日本人としての自覚をもって国を愛し,国家,社会の発展を願う態度を育 てるのに役立つこと。 コ 世界の風土や文化などを理解し,国際協調の精神を養うのに役立つこと。 学習指導において教材として話題や題材を選定し取り上げたり扱ったりする際の配 慮すべき観点を示したものである。 国語科は,話すこと・聞くことの能力,書くことの能力,読むことの能力の育成を 目指している。児童は様々な言語活動を通して言語能力を身に付けていく。その際, 取り上げられる話題や題材の内容について感動したり疑問をもったりする中で,新鮮 な「発想」や「感動」が豊かで深いほど,国語の力はよりよく育成されるものである と考えられる。 したがって,教材の内容となる話題や題材は,自然や美しいものに感動するなど情 操を豊かにすること,たくましく生きる態度を育てること,論理的な思考力を育てる こと,我が国の伝統や文化に対する関心や理解を深めること,国際理解を深め国際協 調の精神を養うことなどに役立つものを選ぶよう配慮する必要がある。 小学校の国語科指導の全体としては,話すこと・聞くことの能力,書くことの能力, 読むことの能力を偏りなく育成するとともに,人間,社会,自然などについて考えを --137/139-- -135- 深め道徳性を養うことに資するよう配慮する必要がある。以上のような考え方から, 国語科の話題や題材として,児童の実態に応じながら偏りのないより有効な内容の教 材を選定するための観点を10項目として示したものである。 この10項目の主な内容は,国語科の究極のねらいである国語を尊重する態度にかか わるもの,国語科の目標や内容である言語能力にかかわるもの,児童の内面的な生き 方にかかわるもの,豊かな心の教育にかかわるもの,我が国の伝統と文化にかかわる もの,我が国を愛するとともに国際理解や協調にかかわるものなどである。いずれも, 国語を通して自分の考えをもち,国語の力を育成するとともに豊かな人間性を育て視 野を広げる内容であり,十分な配慮が必要である。 (3) 第2の各学年の内容の「C読むこと」の教材については,説明的な文章や文 学的な文章などの文章形態を調和的に取り扱うこと。 「C読むこと」の領域では,児童の実態に応じて,説明的な文章や文学的な文章な どの文章形態を調和的に取り扱うことが大切である。 その際,児童の疑問や課題を取り上げ,読書を通して自分の考えを広げたり深めた りするような学習や問題解決的な学習を工夫する必要がある。 --138/139-- -136- 小学校学習指導要領解説国語編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 大 森 恵美子 埼玉県さいたま市立桜木小学校教諭 尾 ア 靖 二 大阪府四條畷市立四條畷小学校長 上 月 敏 子 兵庫県芦屋市教育委員会学校教育部長 小久保 美 子 千葉敬愛短期大学専任講師 島 田 康 行 筑波大学大学院准教授 神 明 照 子 福岡県北九州市立あやめが丘小学校教諭 木 篤 子 神奈川県横浜市立岸谷小学校副校長 寺 井 正 憲 千葉大学教授 林 理 香 兵庫県宝恷s教育委員会指導主事 松 永 立 志 神奈川県横浜市立東小学校長 松 本 仁 志 広島大学大学院准教授 水戸部 修 治 山形大学准教授 吉 田 裕 久 広島大学大学院教授 渡 邊 あ や 熊本大学准教授 渡 ・ 眞 弓 京都府教育委員会指導主事 なお,文部科学省においては,次の者が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 石 塚 等 初等中等教育局教育課程課学校教育官 井 上 一 郎 初等中等教育局教育課程課教科調査官 --139/139--