小学校学習指導要領解説 生活編 平成20年6月 文部科学省 --1/82-- 目次 第1章 総説………………………………………………………………………1 1 改訂の経緯………………………………………………………………1 2 生活科改訂の趣旨………………………………………………………3 3 生活科改訂の要点………………………………………………………6 第2章 生活科の目標……………………………………………………………10 第1節 教科目標………………………………………………………………10 1 教科目標の構成…………………………………………………………10 2 教科目標の趣旨…………………………………………………………11 第2節 学年の目標……………………………………………………………16 1 学年の目標の設定………………………………………………………16 2 学年の目標の趣旨………………………………………………………17 第3章 生活科の内容……………………………………………………………21 第1節 内容構成の考え方……………………………………………………21 1 内容構成の基本的な視点………………………………………………21 2 内容構成の具体的な視点………………………………………………21 3 内容を構成する具体的な学習活動や学習対象………………………23 4 内容の構成要素と階層性………………………………………………24 第2節 生活科の内容…………………………………………………………27 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い………………………………………47 1 指導計画作成上の配慮事項……………………………………………47 2 内容の取扱いについての配慮事項……………………………………54 第5章 指導計画の作成と学習指導……………………………………………59 第1節 生活科における指導計画と学習指導………………………………59 1 指導計画の作成と特質…………………………………………………59 2 学習指導の特質…………………………………………………………60 --2/82-- 第2節 年間指導計画の作成…………………………………………………62 1 児童の実態に対応する…………………………………………………62 2 地域の環境を生かす……………………………………………………63 3 指導体制を整える………………………………………………………64 4 授業時数の適切な割り振り……………………………………………66 5 2年間を見通し立案する………………………………………………67 第3節 単元計画の作成………………………………………………………69 1 内容の組合せ……………………………………………………………69 2 学習活動の組織化………………………………………………………70 3 発達・成長への配慮……………………………………………………71 4 評価の在り方……………………………………………………………72 第4節 学習指導の進め方……………………………………………………74 1 振り返り表現する機会を設ける………………………………………74 2 伝え合い交流する場を工夫する………………………………………75 3 試行錯誤や繰り返す活動を設定する…………………………………75 4 児童の多様性を生かす…………………………………………………76 --3/82-- -1- 第1章 総 説 1 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆ る領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の 時代であると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイデ ィアなど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や 文明との共存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確 かな学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことが ますます重要になっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我 が国の児童生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用す る問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間な どの学習意欲,学習習慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたち の教育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて, 国の教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対して 要請があり,同年4月から審議を開始した。この間,教育基本法改正,学校教育法 改正が行われ,知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに,基礎 的・基本的な知識・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し(学校 教育法第30条第2項),学校教育においてはこれらを調和的にはぐくむことが必要 である旨が法律上規定されたところである。中央教育審議会においては,このよう --4/82-- -2- な教育の根本にさかのぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か月にわた る審議の末,平成20年1月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援 学校の学習指導要領等の改善について」答申を行った。 この答申においては,上記のような児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 D 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方 向性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切 り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育 ひら の新しい理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新 たに義務教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正さ れたことを十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては, 読み・書き・計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学 年では体験的な理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して 習得させ,学習の基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の 上に,Cの思考力・判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの 作成,論述など知識・技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させる とともに,これらの学習活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学 校低・中学年の国語科において音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着 させた上で,各教科等において,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り 組む必要があると指摘した。また,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導 の充実については,徳育や体育の充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能 --5/82-- -3- 力の重視や体験活動の充実により,他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これ らとともに生きる自分への自信を持たせる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学校教育法施行規則を改正するととも に,幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小 学校学習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心 に内容を前倒しして実施するとともに,平成23年4月1日から全面実施すること としている。 2 生活科改訂の趣旨 平成元年の学習指導要領の改訂において,小学校低学年に生活科が新設された。今 回は,平成10年の1回目の改訂に続く,生活科として2回目の改訂となる。ここで は,その趣旨や要点を述べる。 (1)改善の基本方針 今回の改訂は,平成20年1月の中央教育審議会の答申に基づいて行われた。この 答申において,生活科の課題については,次のように指摘された。 ・ 指定校の調査などによると,学習活動が体験だけで終わっていることや,活動 や体験を通して得られた気付きを質的に高める指導が十分に行われていないこと ・ 表現の出来映えのみを目指す学習活動が行われる傾向があり,表現によって活 動や体験を振り返り考えるといった,思考と表現の一体化という低学年の特質を 生かした指導が行われていないこと ・ 児童の知的好奇心を高め,科学的な見方・考え方の基礎を養うための指導の充 実を図る必要があること ・ 児童の生活の安全・安心に対する懸念が広まる中,安全教育を充実することや, 自然事象に接する機会が乏しくなってきている状況を踏まえ,生命の尊さや自然 事象について体験的に学習することを重視すること --6/82-- -4- ・ 小1プロブレムなど,学校生活への適応を図ることが難しい児童の実態がある ことを受け,幼児教育と小学校教育との具体的な連携を図ること こうした課題を受けて,同答申においては,生活科の改善の基本方針について,次 の通り提言された。 第1は,「具体的な活動や体験を通して,人や社会,自然とのかかわりに関心をも ち,自分自身について考えさせるとともに,その過程において生活上必要な習慣や技 能を身に付けさせるといったその趣旨の一層の実現を図るため,人や社会,自然とか かわる活動を充実し,自分自身についての理解などを深めるよう改善を図る」ことで ある。 生活科の特質は,直接体験を重視した学習活動を行うこと,身の回りの地域や自分 の生活に関する学習活動を行うことなどにある。また,それらの学習活動において, 自分の生活や自分自身について考えさせたり,生活上必要な習慣や技能を身に付けさ せたりして,自立への基礎を養っていくことが趣旨である。 今回の改善は,生活科の趣旨の一層の実現に向けて,身近な人々,社会,自然とか かわる活動を充実させようとするものである。また,このことによって,自分自身の よさや可能性などについて,一人一人の子どもが理解を深めることを目指している。 第2は,「気付きの質を高め,活動や体験を一層充実するための学習活動を重視す る。また,科学的な見方・考え方の基礎を養う観点から,自然の不思議さや面白さを 実感する学習活動を取り入れる」ことである。 生活科においては,その新設当時から気付きを大切にしてきた。前回の改訂におい ても,「知的な気付きを大切にする指導」を改善の基本方針に位置付けてきたところ である。この気付きは,対象に対する一人一人の認識であり,児童の主体的な活動に よって生まれるものである。そこには知的な側面だけではなく,情意的な側面も含ま れる。また,気付きは次の自発的な活動を誘発するものとなる。 活動や体験を繰り返したり他者とともに活動したりすることで,自分と対象とのか かわりが深まり,気付きが質的に高まっていくようにするとともに,気付きの質を高 めて,次の活動や体験の一層の充実につなげていくことを目指している。 また,気付きの質を高めることが,科学的な見方や考え方の基礎を養うことにつな --7/82-- -5- がることから,例えば,児童が自然に対して関心をもち,積極的にかかわろうとする ことを目指して,自然の不思議さや面白さを実感する学習活動を取り入れることが要 請されている。 第3は,「児童を取り巻く環境の変化を考慮し,安全教育を充実することや自然の 素晴らしさ,生命の尊さを実感する学習活動を充実する。また,小学校における教科 学習への円滑な接続のための指導を一層充実するとともに,幼児教育との連携を図り, 異年齢での教育活動を一層推進する」ことである。 近年,児童を取り巻く社会や自然の環境が大きく変化してきている。その結果,自 然に直接触れる経験が極めて少なくなってきていることや,生命の尊さを実感できて いない児童がいるという状況が生まれてきている。また,学校の登下校において,低 学年児童が事件や事故に巻き込まれるなど,安全面への不安も増大している。こうし た中,生活科においても安全教育や生命に関する学習活動を充実することが求められ ている。 さらには,小1プロブレムなどの問題が生じる中,小学校低学年では,幼児教育の 成果を踏まえ,体験を重視しつつ,小学校生活に適応すること,基本的な生活習慣等 を育成すること,教科等の学習活動に円滑な接続を図ること,などが課題として指摘 されている。そもそも生活科新設の趣旨の中には,幼児教育との連携が重要な要素と して位置付けられており,その意味からも,小1プロブレムなどの問題を解決するた めに,生活科が果たすべき役割には大きなものがある。 そこで,これまでも重視してきた幼児と児童の交流等をはじめとした幼児教育との 連携を,一層推進することが改めて重要であるとされたのである。 (2)改善の具体的事項 こうした改善の基本方針を受けて,改善の具体的事項は次のように示された。 (ア) 自分の特徴や可能性に気付き,自らの成長についての認識を深めたり,気付き をもとに考えたりすることなどのように,児童の気付きを質的に高めるよう改善 を図る。その際,例えば,見付ける,比べる,たとえるなどの多様な学習活動の 充実に配慮する。 --8/82-- -6- (イ) 身の回りの人とのかかわりや自分自身のことについて考えるために,活動や体 験したことを振り返り,自分なりに整理したり,そこでの気付き等を他の人たち と伝え合ったりする学習活動を充実する。その際,活動や体験したことを言葉や 絵で表す表現活動を一層重視する。 (ウ) 中学年以降の理科の学習を視野に入れて,児童が自然の不思議さや面白さを実 感するよう,遊びを工夫したり遊びに使うものを工夫して作ったりする学習活動 を充実する。例えば,動くおもちゃを工夫して作って遊ぶ活動,ものを水に溶か して遊ぶ活動,風を使って遊ぶ活動などを行うよう配慮する。 (エ) 通学路の様子を調べ,安全を守ってくれる人々に関心をもつなど,安全な登下 校に関する指導の充実に配慮する。また,自然に直接触れる体験や動物と植物の 双方を自分たちで継続的に育てることを重視するなど,自然の素晴らしさや生命 の尊さを実感する指導の充実に配慮する。 (オ) 幼児教育から小学校への円滑な接続を図る観点から,入学当初をはじめとして, 生活科が中心的な役割を担いつつ,他教科等の内容を合わせて生活科を核とした 単元を構成したり,他教科等においても,生活科と関連する内容を取り扱ったり する合科的・関連的な指導の一層の充実を図る。また,児童が自らの成長を実感 できるよう低学年の児童が幼児と一緒に学習活動を行うことなどに配慮するとと もに,教師の相互交流を通じて,指導内容や指導方法について理解を深めること も重要である。 3 生活科改訂の要点 上記のような改善の基本方針及び改善の具体的事項を受けて,生活科の目標や内容, 内容の取扱いについて,次のように改善を図った。 (1)目標の改善 教科の目標については,○低学年児童の発達の特性として,具体的な活動や体験を 通して思考する特徴があり,直接体験を重視した学習活動を行うことで,意欲的な学 --9/82-- -7- 習や生活をすることが引き続き期待されていること,○身の回りの事象を一体的にと らえ,生活者の視点から対象を全体的にとらえ,考えることが求められていること, ○生活上必要な習慣や技能の育成が一層重視されており,その獲得は児童が意欲的に 人や社会,自然にかかわる学習活動の過程において,必要に応じて行われることが重 要となってきていること,を踏まえて現行を維持する。 このように身近な人々や対象と直接的にかかわる学習活動を通して,児童が学習や 生活において自立することを目指すとともに,豊かな生活を営む生活者としての資質 や能力及び態度を育成することを引き続き重視することとした。 学年の目標については,自分自身に関する目標を加え,三つの目標から四つに増や した。第1は,主に自分と人や社会とのかかわりに関するもの,第2は,主に自分と 自然とのかかわりに関するもの,第3は,自分自身に関するもの,第4は,生活科特 有の学び方に関するものである。答申において,自分の特徴や可能性に気付き,自ら の成長についての認識を深めることが重要である旨が提言されており,自分自身に関 することを一層重視するために目標(3)を加えた。 さらには,目標(1)では「地域のよさに気付き」,目標(2)では「自然のすばらしさ に気付き」,目標(3)では「自分のよさや可能性に気付き」という文言を加え,学習 活動において,一人一人の児童にどのような認識が育つことを期待しているかを明確 に示した。また,生活科における表現の価値について,思いや願いを自己表出するこ とと,表現によって思考を深めることの両面があることを明確にし,「考える」こと を強調した。 (2)内容及び内容の取扱いの改善 内容及び内容の取扱いは,主として次のことについて改善を図った。 @気付きの明確化と気付きの質を高める学習活動の充実 今回の改訂により,すべての内容において,具体的な学習活動や学習対象を示すと ともに,学習対象とかかわったり学習活動を行ったりして,関心をもつこと,気付く こと,分かること,考えることなどを明確にした。 また,内容の取扱いでは,活動や体験によって生まれる気付きを基に考えるための --10/82-- --10/82-- -8- 具体的な学習活動を例示した。すなわち,低学年の児童の発達特性として,比べて考 える,分類して考える,関連付けて考えるなどが一体的に行われることから,見付け る,比べる,たとえるなどの多様な学習活動を行うことを例として示した。 A伝え合い交流する活動の充実 生活科においては,具体的な活動や体験を重視しており,今後も活動や体験の重要 性は変わらない。しかし,活動や体験をその場限りで終わらせるのではなく,一層の 充実を図る観点から,言葉などを中心としたコミュニケーション活動を通して,体験 したことを他者と情報交流することを目指した「生活や出来事の交流」を新たな内容 (8)として位置付けた。言葉などを使った言語活動は,思考を促し,他者とのコミュ ニケーションを成立させ,情緒を安定させることにつながる。その中でも,特に,言 語活動によって他者と交流して認め合ったり,振り返りとらえ直したりすることが重 要である。 こうしたことから,生活科における具体的な活動や体験の様子などを,身近な人々 と伝え合う活動を行うことで,かかわることの楽しさが分かり,多くの人と進んで交 流していこうとする子どもの姿を目指すようにした。 B自然の不思議さや面白さを実感する指導の充実 低学年の児童は自然事象に高い関心を示す傾向にあり,これまでの生活科において も,自然事象を対象とした学習活動は行われてきた。今回の改訂では,科学的な見方 ・考え方の基礎を養う観点から,自然の不思議さや面白さを実感する学習活動を取り 入れることとした。学年の目標(2)に「自然のすばらしさに気付き」としたことに加 え,内容(6)「自然や物を使った遊び」において,身近な自然や物を使って遊びや遊 びに使う物を工夫してつくること,自然の不思議さに気付くことを明示し,科学的な 見方・考え方の基礎が養われることを期待した。 C安全教育や生命に関する教育の充実 これまでも生活科では安全教育や生命に関する教育を取り扱ってきた。今後も,児 童を取り巻く社会の急激な変化に対応するという視点から,安全教育や生命に関する 教育を一層重視することとした。 従前も内容(1)「学校と生活」において,安全な登下校ができることを目指してい --11/82-- -9- た。今回の改訂では,学年の目標(1)に「安全で適切な行動」を加えるとともに,内 容(1)「学校と生活」に「その安全を守っている人々」を加え,地域や登下校の安全 に関する学習活動が一層充実するようにした。 また,生命に関する教育については,これまでも内容(7)「動植物の飼育・栽培」 を2学年にわたって取り扱うこととしてきた。しかし,短時間の触れ合いに終わって いる事例,児童が自分自身で行わない事例などが見られたことを踏まえ,生命の尊さ を実感を通して学ぶという観点から,内容の取扱いにおいて「継続的な飼育,栽培を 行うようにすること」の文言を加えることとした。 D幼児教育及び他教科との接続 幼児教育との接続の観点から,幼児と触れ合うなどの交流活動や他教科等との関連 を図る指導は引き続き重要であり,特に,学校生活への適応が図られるよう,合科的 な指導を行うことなどの工夫により第1学年入学当初のカリキュラムをスタートカリ キュラムとして改善することとした。 また,生活科の各内容と第3学年以降の社会科,理科の内容を視野に入れ見直しを 行った。内容(3)「地域と生活」で,地域で働いている人を対象とすること,内容(4) 「公共物や公共施設の利用」で,公共物や公共施設を利用することを明確にした。ま た,内容(6)「自然や物を使った遊び」では,自然の不思議さに気付くことを明示し た。これらにより,第3学年以降の社会科や理科へのつながりを示した。 --12/82-- -10- 第2章 生活科の目標 第1節 教科目標 1 教科目標の構成 生活科の特質や目指すところを端的に示したのが教科目標である。生活科の教科目 標は次の通りである。 具体的な活動や体験を通して,自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわ りに関心をもち,自分自身や自分の生活について考えさせるとともに,その過 程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ,自立への基礎を養う。 この教科目標は,次の五つの要素によって構成されている。 (1) 具体的な活動や体験を通して (2) 自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわりに関心をもち (3) 自分自身や自分の生活について考えさせるとともに (4) 生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ (5) 自立への基礎を養う この五つの要素は,(1)と(5)の間に(2)(3)(4)が組み込まれた構成になっている。 生活科の目標を最も端的にいえば「具体的な活動や体験を通して,自立への基礎を養 う」ことである。そして,生活科の学習においては,「自分と身近な人々,社会及び 自然とのかかわりに関心をもつこと」「自分自身や自分の生活について考えさせるこ と」「生活上必要な習慣や技能を身に付けさせること」が行われるという次ページの 図のような構成になっている。 この生活科の教科目標は,次の点を背景にしている。 --13/82-- -11- ○ 児童の生活圏としての学 校,家庭,地域を学習の対 象や場とし,そこでの児童 の生活から学習を出発させ, 学習したことは,学校,家 庭,地域での児童の生活に 生きていくようにする。 ○ 児童が身近な人々,社会 及び自然と直接かかわる活 動や体験を重視し,児童が 自分の思いや願いを生かし,主体的に活動することができるようにするとともに, そうした活動の楽しさや満足感・成就感を実感できるようにする。 ○ 児童が身近な人々,社会及び自然と直接かかわる中で,それらについて気付くこ とができるようにするとともに,そこに映し出される自分自身や自分の生活につい て気付くことができるようにする。そうした気付きが児童に自覚されて,児童は自 ら自立の方向に変容していく。 2 教科目標の趣旨 上記のような構成になっている生活科の教科目標について,以下にその趣旨を解説 する。 (1)具体的な活動や体験を通すこと 具体的な活動や体験とは,例えば,見る,聞く,触れる,作る,探す,育てる,遊ぶな どして直接働きかける学習活動であり,また,そうした活動の楽しさやそこで気付いたこ となどを言葉,絵,動作,劇化などの方法によって表現する学習活動である。目標の冒頭 に「具体的な活動や体験を通して」とあるのは,生活科の学習はそうした活動や体験をす 生活科の教科目標 --14/82-- -12- ることを前提にするからである。すなわち,児童が体全体で身近な環境に直接働きかける 創造的な行為が行われるようにすることを何よりも重視する。 直接働きかけるということは,児童が一方的に身近な人々,社会及び自然に働きかける だけではない。同時に,それらが児童に働き返してくるという,双方向性のある活動が行 われることを意味する。生活科は,児童がそうした対象とのやりとりをする中で,感じ, 考え,気付くなどして,それらと効果的に,また,自分のよさを生かして相互交渉する能 力を身に付け,自立への基礎を養うことを目指している。 (2)自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわりに関心をもつこと 生活科の学習は,児童が自分とのかかわりの中で,身近な人々,社会及び自然に直接働 きかけ,また働き返されるという双方向性のある活動をめぐって展開される。自分とのか かわりに関心をもつということは,外部の環境からの刺激に対してただ表面的に反応する のではなく,それが自分にとって価値があると実感し,それへ積極的に向かっていくこと である。すなわち,児童を取り巻く人々,社会及び自然が自分自身にとってもつ意味に気 付き,身の回りにあるものを見直し,切実な問題意識をもって,新たな働きかけをしたり 表現したりなどすることである。 例えば,身近な人々に対しては「(学校探検で)校長先生と握手をしたよ。名前はまだ 分からないけど,明日からあいさつができるよ」というように,かかわることを通して, よりよい生活ができるようになることを目指している。また,動植物に対しては,ただ眺 めて観察するだけではなく,手で触ったり,抱いたり,水や肥料をやったりというように して親しく接する。そうすることにより,児童は次第にそれらに心がひかれ,親しみや知 的好奇心・探究心を覚え,驚いたり喜んだりするようになる。そうした中から気付きが生 まれるようになることを期待している。 この気付きは,活動を繰り返したり対象とのかかわりが深まったりすることに伴い,無 自覚なものから自覚された気付きへ,一つ一つの気付きから関連付けられた気付きへと質 的に高まっていくことが大切である。それと同時に,対象に対する身体の振る舞いも洗練 され,質の高いものになっていく。このように,児童が自分と身近な人々,社会及び自然 とのかかわりに関心をもち,主体的に活動できるようにすることは,自立への基礎を養う --15/82-- -13- 上で大切である。 (3)自分自身や自分の生活について考えること 自分自身や自分の生活について考えるということは,児童が身近な人々,社会及び自然 と直接かかわる中で,自分自身や自分の生活について新たな気付きをすることである。児 童が,自分自身についてのイメージを深め,自分のよさや可能性に気付き,心身ともに健 康でたくましい自己を形成できるようにすることは,自立への基礎を養う上で大切である。 生活科は,働きかける対象への気付きだけではなく,自分自身の気付きへと質的に高ま ることも大切にする。それは,例えば「毎日アサガオのお世話をしたので,アサガオが大 きくなりました。アサガオと一緒に私も大きくなりました」という児童の声に見て取れる。 ここでは,自分自身の体の成長だけではなく,毎日毎日休まずにアサガオの世話を続ける ことのできた自分自身の心の成長にも気付いている姿がある。生活科のどの内容において も,児童が対象と自分とのかかわりを深め,対象に気付くことで,そこに映し出される自 分自身への気付きが生じる。また,直接自分自身への気付きを深める学習として内容(9) 「自分の成長」がある。ここでは,自分の過去を振り返って心身ともに成長した自分を感 じ,自分はさらに成長していけるであろうという期待と意欲を育てることを目指している。 小学校低学年の児童における自分自身への気付きとして,具体的には次のようなことが 考えられる。 第1は,集団生活になじみ,集団における自分の存在に気付くことである。例えば,友 達とものづくりをしたのがうまくいって「みんなでやったからできました。わたしもがん ばりました。またやってみたいです」ということがある。活動における自己関与意識や成 功感,成就感などから,仲間意識や帰属意識が育ち,共によりよい生活ができるようにな ることである。また,集団の中の自分の存在に気付くだけでなく,友達の存在に気付くこ とも大切にする。 第2は,自分のよさや得意としていること,また,興味・関心をもっていることなどに 気付くことである。例えば,生き物を育てることが得意で,それに興味・関心をもってい ること,人や自然に優しくできることなどに気付くことである。そこに個性の伸長・開花 の兆しが現れる。また,自分のよさや得意としていることなどに気付くことは,同時に, --16/82-- -14- 友達のそれにも気付き,認め合い,そのよさを生かし合って共に生活や学習ができるよう になることである。 第3は,自分の心身の成長に気付くことである。例えば,自分が大きくなったこと,で きるようになったことや役割が増えたこと,さらに成長できることなどに気付くことであ る。そして,こうした自分の成長の背後には,それを支えてくれた人々がいることが分か り,感謝の気持ちをもつようになること,また,これからの成長への願いをもって,意欲 的に生活することができるようになることを大切にする。 (4)生活上必要な習慣や技能を身に付けること 生活科は,児童が身近な人々,社会及び自然と直接かかわり合う中で,それに必要な習 慣や技能を身に付けることを目指している。教科目標に「その過程において……身に付け させ」とあるのは,児童が身近な人々,社会及び自然と直接かかわり合う中にその機会が あるので,それをとらえて指導するということである。 ここでの生活上必要な習慣には,健康や安全にかかわること,みんなで生活するための きまりにかかわること,言葉遣いや身体の振る舞いにかかわることなどがある。例えば, 次のようなことが考えられる。 ・生活のリズムを整える ・病気の予防に努める ・安全への意識を高める ・道具や用具の準備,片付け,整理整頓ができる とん ・遊びのルールを守る ・施設や公共の場所のルールやマナーを守る ・時間を守る ・適切なあいさつや言葉遣いができる ・訪問や連絡,依頼の仕方を知る など また,生活上必要な技能には,手や体を使うこと,様々な道具を使うことなどがある。 例えば,次のようなことが考えられる。 ・手や体を使って友達と仲良く遊ぶ --17/82-- -15- ・必要な道具を使って遊んだり,ものを作ったりする ・動物や植物の世話ができる ・電話や手紙などを使って連絡する など なお,習慣と技能とは切り離すことのできない関係にあることを考慮して,これらにつ いては,取り扱う内容の中で,さらに具体的に考えていくことが大切である。いずれにせ よ,こうした習慣や技能が身に付いていることが自立への基礎を養うことにつながる。 (5)自立への基礎を養うこと 自立への基礎を養うことは,生活科の究極的な目標である。具体的な活動や体験を通す ことによって,身近な対象と自分とのかかわりに関心をもつこと,自分自身や自分の生活 についての理解を深めること,生活上必要な習慣や技能を身に付けることを重視している。 ここでいう自立とは,以下に述べる三つの自立を意味している。 第1は,自分にとって興味・関心があり,価値があると感じられる学習活動を自ら進ん で行うことができるということであり,自分の思いや考えなどを適切な方法で表現できる という学習上の自立である。 第2は,生活上必要な習慣や技能を身に付けて,身近な人々,社会及び自然と適切にか かわることができるようになり,自らよりよい生活を創り出していくことができるという つく 生活上の自立である。 第3は,自分のよさや可能性に気付き,意欲や自信をもつことによって,現在及び将来 における自分自身の在り方に夢や希望をもち,前向きに生活していくことができるという 精神的な自立である。 こうした三つの意味での自立への基礎を養うことが,生活科の教科目標で意図されてい る。この三つの自立への基礎は,互いに支え合い補い合いながら,豊かな生活を生み出し ていくことに役立てられるものである。それゆえ,それらの実現に当たっては,小学校低 学年の児童に何をどう具体化すればよいかについて,各学校において,児童の実態,保護 者の願いや地域の要望などを踏まえて,明確にしていく必要がある。 --18/82-- -16- 第2節 学年の目標 学年の目標は,教科目標をより具体的・構造的に示したものであり,重点目標とも いうべきものである。指導計画の作成や学習指導の展開において重要な役割をもち, 大きな指針となるものである。ここに示された目標は,第2学年修了までに実現する ことを目指している。したがって,学年の目標は,各学校において作成される指導計 画を適切に実施した結果,児童の姿として具現されるべきものであるといえる。 1 学年の目標の設定 (1)2学年に共通する目標の設定 生活科は第1学年及び第2学年に設定されている教科であるが,学年の目標は2学年共 通に示されている。その趣旨は以下の通りである。 第1に,低学年の児童には,具体的な活動を通して思考するという発達上の特徴があ ることである。児童は試行錯誤したり,繰り返したりしながら対象に何度もかかわりなが ら体全体で学ぶ。このような低学年の児童の発達上の特徴に配慮し,学年の目標を共通に 示して,児童の実態に即して活動の深まりや広がりなどに配慮した柔軟な指導ができるよ うにした。 第2に,生活科は児童の生活圏を学習の対象や場にして,直接体験を重視した学習活動 を展開する。このような学習では,地域の生活環境の様子,生活様式や習慣などの違い, また,児童の生活経験の違いなどが活動に影響してくる。学習活動を見定めたり学習の素 材を選んだりする際に,これらのことを基にすることが大切である。そこで,学年の目標 を共通に示して,こうした地域や児童の実態に応じられるようにした。 (2)学年の目標の構成 学年の目標は,四つの項目で構成されている。(1)が主に自分と人や社会とのかか わりに関すること,(2)が主に自分と自然とのかかわりに関すること,(3)が自分自身 に関すること,(4)が生活科特有の学び方に関することである。 --19/82-- -17- 生活科は,児童の身近な生活圏を活動や体験の場とする。身近な人々や社会,自然 を対象とするとともに,それらとのかかわりや自分自身の成長を振り返って,自己の よさや可能性に気付くことを大切にしている。これらのことから,(1)主に自分と人 や社会とのかかわり,(2)主に自分と自然とのかかわり,(3)自分自身,に関する項目 を,学年の目標として設定した。さらに,生活科の学習活動は,子どもが具体的な活 動や体験の楽しさを存分に味わうことが特徴である。学習活動に没頭し本気になって 取り組むとともに,その活動での気付きを表現したり,気付きを基に考えたりするこ とが期待されていることから,(4)の生活科特有の学び方の目標を設定している。な お,目標(1)(2)(3)は,目標(4)があることによって充実し,発展していく構造的な関 係にある。 また,(1)から(3)の目標については,それらの記述において,主な学習対象,思考 や認識,能力や態度等を要素として示している。したがって,示された各要素につい ては,生活科の各内容を包括する学年の目標として,今まで以上に重視することが望 まれる。 2 学年の目標の趣旨 (1) 自分と身近な人々及び地域の様々な場所,公共物などとのかかわりに関心を もち,地域のよさに気付き,愛着をもつことができるようにするとともに,集 団や社会の一員として自分の役割や行動の仕方について考え,安全で適切な行 動ができるようにする。 目標(1)は,児童が自分と身近な人々や社会とのかかわりに関心をもって,それらと主 体的にかかわり,自分の住む地域のよさに気付き,愛着をもつとともに,その中で安全で 適切な行動ができるようにすることを目指している。 自分と身近な人々及び地域の様々な場所,公共物などとは,児童の生活圏である学校, 家庭,地域で児童が実際にかかわり合うことのできる人々や場所,公共の施設や設備など である。それらが自分の生活や学習とかかわっていることに関心をもち,それらに積極的 --20/82-- --20/82-- -18- に働きかけたり受容したりなどして生き生きと学習や生活ができるようにする。 地域のよさに気付き,愛着をもつとは,身近な人々や場所,公共物などに慣れ親しむ ことによって,それらに心がひかれ,離れがたく感じることである。こうした気持ちは, 地域に生活する人々の暮らしや特徴,地域の空間的な広がりや時間的な変化,公共物 や公共施設などの社会的な働きなどを,一人一人の子どもが直接体験を通して地域の よさとしてとらえていくことが基盤になって生じる。それは,地域の人々及び地域の 様々な場所,公共物などと直接かかわる活動や体験を通してはぐくまれるものである。 また,集団や社会の一員として自分の役割や行動の仕方について考え,安全で適切な行 動ができるとは,学校,家庭,地域社会の構成員の一人として,何をどのように行うこと が望ましいのかについて考え,自ら次のような行動ができることを大切にしている。 ア 自分の思いや願いをもって接することができる イ 相手や場所の様子や状況を考えて接したり扱ったりすることができる ウ 人や場所,ものなどに親しみ,大切にすることができる エ 健康や安全に気を付けたり,きまりなど日常生活に必要なことを大切にしたりして 行動することができる オ 自分のよさや友達のよさを認め合って行動することができる 特に,安全については,自然災害,交通災害,人的災害などに十分気を付けた適切な行 動や危険を回避する行動などができることにも配慮する必要がある。 (2) 自分と身近な動物や植物などの自然とのかかわりに関心をもち,自然のすば らしさに気付き,自然を大切にしたり,自分たちの遊びや生活を工夫したりす ることができるようにする。 目標(2)は,児童が自分と身近な自然とのかかわりに関心をもって,それらと主体的に かかわり合い,自然のすばらしさに気付き,自然を大切にしたり,自分たちの遊びや生活 を豊かにしたりすることができるようにすることを目指している。 身近な自然とは,児童の身の回りにあって,児童自身と関係の深い動物や植物,自然の 事物や現象,季節による様々な自然の変化などである。そうした身近な自然とのかかわり --21/82-- -19- を一層深め,自然の美しさや巧みさ,不思議さや面白さなどの自然のすばらしさに気付く ようにするとともに,身近な自然とかかわり合う楽しさを体全体で感じ取ることができる ようにする。このような活動や体験を通す中で,自然を大切にする心が育つようにするこ とが大切である。 また,目標(2)は,自分たちの遊びや生活を工夫することができるようにすることを目 指している。自然を利用した遊びは,児童が素直に対象にかかわっていくことのできる活 動である。特に,思いや願いを強く抱いて遊ぶ中で,児童は対象への働きかけ方や友達と の協力の仕方など様々なことを学ぶ。児童が身近な自然とかかわり合い,児童の創造的な 発想や工夫が生かされ,遊びや生活が豊かなものになっていくことを大切なねらいとして いる。 (3) 身近な人々,社会及び自然とのかかわりを深めることを通して,自分のよさ や可能性に気付き,意欲と自信をもって生活することができるようにする。 目標(3)は,児童が身近な人々,社会,自然と繰り返しかかわり,それらとのかか わりを深め,自分のよさや可能性に気付き,意欲と自信をもって毎日の生活を送るこ とができるようにすることを目指している。 身近な人々,社会及び自然とのかかわりを深めるためには,人や社会,自然と繰り 返しかかわることが欠かせない。繰り返しかかわる中で,対象に働きかけ,対象から 働き返されながら,相互に交流し合い,互いのかかわりが深まっていく。 児童は,学習活動を行う中で,人や社会,自然とのかかわりを深め,それらの特徴 や性質などに気付いていく。そのことを通して,心身の成長,自分らしさなどの自分 のよさや可能性にも気付いていく。児童は,それらを自覚することで,更なる自分自 身の成長に期待をもち,将来への夢を膨らませることになる。こうして,意欲と自信 をもって日々生活することにつながっていく。 なお,この目標(3)は,目標(1)(2)のどちらとも深くかかわり合っており,従前か ら重視していたところである。今回の改訂において,身近な人々,社会及び自然と直 接かかわり合う活動によって,自分を見つめ,自分のよさや可能性に気付き,自分の --22/82-- -20- 成長についての一人一人の認識を深めることがさらに重視されたことから,新たに目 標(3)として掲げ,明確化することにした。 (4) 身近な人々,社会及び自然に関する活動の楽しさを味わうとともに,それら を通して気付いたことや楽しかったことなどについて,言葉,絵,動作,劇化 などの方法により表現し,考えることができるようにする。 目標(4)は,児童が例えば,見る,聞く,触れる,作る,探す,育てる,遊ぶなどの様 々な活動の楽しさを味わうことや,そのための技能,能力を身に付けること,活動や体験 したことを表現し,考えることができるようにすることを目指している。 生活科は,児童が身近な環境と直接かかわる活動や体験を楽しむことを大切にしており, これらを十分に行う必要がある。そうした中で,熱中し没頭したこと,思わぬ発見をした こと,成功したことなどの喜びを味わうとともに,直接体験を通して実感的な分かり方が できるようにすることを大切にしている。それが,その後の学習や生活への意欲と工夫を 生み出し,実生活で役立つことにつながる。 また,直接かかわる活動や体験に必要な技能,能力を身に付けることも大切にされなけ ればならない。諸感覚を使って感じ取ったり,道具などを使って作ったりできるようにな って,児童は一層自発的・能動的に対象にかかわっていくようになるからである。 熱中し没頭したこと,発見や成功した時の喜びなどは表現への意欲となり,それを基盤 とした表現する活動は,低学年の時期には欠かせない大切な学習活動である。それと同時 に,直接体験を重視した学習では,その活動について他者と交流して認め合ったり,振り 返りとらえ直したりすることなども必要である。なぜなら,児童は生き生きと楽しく活動 する中で,様々な気付きをしており,それらについて言葉や絵,動作,劇化などの多様な 方法を使って表現することによって,生み出した気付きを自覚することにつながるからで ある。さらには,表現する活動は,気付いたことを基に考え,新たな気付きを生み出し, 気付きの質を高めていくことにもなる。これらの観点から,直接働きかける活動と表現す る活動とを関連させて取り扱うことが肝要であり,そこに低学年の発達に見られる思考と 表現の一体化が現れるのである。 --23/82-- -21- 第3章 生活科の内容 第1節 内容構成の考え方 前回の改訂では,生活科の内容は2学年まとめて示され,8項目で構成したところであ る。これは従来の内容を整理統合し,一層ゆとりをもって学習に取り組めるよう内容を厳 選した結果であった。今回は,内容が一つ増え9項目で構成している。これらの内容は, 基本的な視点とそれを受けた具体的な視点,学習活動や学習対象を基に構成している。各 内容は,生活科のねらいや目指す児童像,また,児童を取り巻く学習環境の実態,そして 学校に求められる社会的要請など,多様な要因によって設定される。以下に,生活科の内 容構成の考え方について詳しく述べる。 1 内容構成の基本的な視点 生活科の学習内容を構成する際の基本的な視点は,以下の3点である。 (1) 自分と人や社会とのかかわり (2) 自分と自然とのかかわり (3) 自分自身 この基本的な視点は,具体的な活動や体験を通して学ぶとともに,自分と対象とのかか わりを重視する生活科の内容の基本構造を原理的に説明したものであり,生活科の基本的 な性格を反映したものといってよい。また,この考え方は,実社会や実生活で活用で きる能力の育成を目指したOECDの主要能力(キー・コンピテンシー)の枠組みに 共通するものがある。 2 内容構成の具体的な視点 三つの基本的な視点をさらに詳しく示したものが具体的な視点である。これは,各 --24/82-- -22- 内容を構成する際に必要となる視点を意味する。したがって,9項目の内容は原則と して複数の具体的な視点から構成されることになる。また,この具体的な視点は,児 童や学習環境の変化,社会的要請の変化などにより,その都度若干の変更が加えられ るものである。 今回は,これまでの視点を生かし,次のア〜サを具体的な視点とした。 ア 健康で安全な生活 健康や安全に気を付けて,友達と遊んだり,学校に通 ったり,規則正しく生活したりすることができるようにする。 イ 身近な人々との接し方 家族や友達や先生をはじめ,地域の様々な人々と 適切に接することができるようにする。 ウ 地域への愛着 地域の人々や場所に親しみや愛着をもつことができるよう にする。 エ 公共の意識とマナー みんなで使う物や場所,施設を大切に正しく利用で きるようにする。 オ 生産と消費 身近にある物を利用して作ったり,繰り返し大切に使ったり することができるようにする。 カ 情報と交流 様々な手段を適切に使って直接的間接的に情報を伝え合いな がら,身近な人々とかかわったり交流したりすることができるようにする。 キ 身近な自然との触れ合い 身近な自然を観察したり,生き物を飼ったり, 育てたりするなどして,自然との触れ合いを深め,生命を大切にすることができ るようにする。 ク 時間と季節 一日の生活時間や季節の移り変わりを生かして,生活を工夫 したり楽しくしたりすることができるようにする。 ケ 遊びの工夫 遊びに使う物を作ったり遊び方を工夫したりしながら,楽し く過ごすことができるようにする。 コ 成長への喜び 自分でできるようになったことや生活での自分の役割が増 えたことなどを喜び,自分の成長を支えてくれた人々に感謝の気持ちをもつこと ができるようにする。 サ 基本的な生活習慣や生活技能 日常生活に必要な習慣や技能を身に付ける --25/82-- -23- ことができるようにする。 この具体的な視点に関しては,以下のような考え方により改訂した。 ○ 健康で安全な生活では,低学年の児童の事件や事故が課題となる中,登下校な ど通学路での安全にも十分配慮した行動ができるようにすることが必要である。 ○ 地域で働く人など地域で生活する様々な人や場所などに慣れ親しみ,それらに心が ひかれ,離れがたく感じる気持ちを大切にすることができるようにする必要があるこ とから,地域への愛着について加える。 ○ 生産と消費については,持続可能な社会が求められる中,自らが必要な物を作 るとともに,それを繰り返し使ったり,活用したりすることができるようにする ことが必要である。 ○ 情報と交流については,情報化社会が一層進展する中,多様な情報手段によっ て伝え合うことが求められるとともに,他者とのかかわりや交流などのコミュニ ケーションを深めることができるようにする必要がある。 ○ 身近な自然との触れ合いについては,生命を尊重する意識の低下が指摘される 中,これまでと同様に自然の観察や動植物の飼育・栽培などを大切にするととも に,それらを通して生命を大切にすることができるようにする必要がある。 生活科の内容は,ここに示した11の具体的な視点を基に構成されている。したが って,各学校で構成する単元においては,内容を位置付けるだけではなく,具体的な 視点がどのように単元構成に取り入れられているかにも十分配慮しなければならな い。 3 内容を構成する具体的な学習活動や学習対象 生活科は,具体的な活動や体験を内容の一環としているところに特色がある。具体 的な活動や体験は,単なる手段や方法ではなく,目標であり,内容でもある。つまり, 生活科ではぐくみたい児童の姿を,どのような対象とかかわりながら,どのような活 動を行うことによって育てていくかが重要であり,そのこと自体が内容となって構成 --26/82-- -24- されている。そこで,今回の改訂では,内容構成の具体的な視点を視野に入れながら, 低学年の児童にかかわってほしい学習対象を選び出し,以下のように整理した。 @学校の施設 A学校で働く人 B友達 C通学路 D家族 E家庭 F地域で生 活したり働いたりしている人 G公共物 H公共施設 I地域の行事・出来事 J身 近な自然 K身近にある物 L動物 M植物 N自分のこと 以上のことから,生活科の内容は,先に記した内容構成の具体的な視点と学習対象 を組み合わせ,そこに生まれる学習活動を核として内容を構成することになる。こう した内容構成のとらえ直しによって,これまでもあった「学校と生活」,「家庭と生 活」,「地域と生活」,「公共物や公共施設の利用」,「季節の変化と生活」,「自然や物 を使った遊び」,「動植物の飼育・栽培」,「自分の成長」の八つの内容を見直した。 そして,生活や地域の出来事を伝え合い,進んで身近な人々と交流することができる ことを目指した「生活や出来事の交流」を新たな内容として位置付けることとした。 4 内容の構成要素と階層性 生活科は,複数の内容を組み合わせて単元を構成することが多い。ここでは,各内 容の構成要素と九つの内容の関係を明らかにし,複数の内容を組み合わせて単元を構 成する際の参考となるようにする。 (1)各内容の構成要素 生活科の各内容の記述には,次の要素が組み込まれている。第1は,児童が直接か かわる学習対象や実際に行われる学習活動等である。これは,具体的な活動や体験は, 目標であり,内容であり,方法でもあるとしてきた生活科の従前の考えに基づく。第 2は,対象とのかかわりや学習活動を通して生まれる気付きなどの一人一人の思考や 認識等についての記述である。第3は,それらを通して一体的にはぐくまれる能力・ 態度等である。九つのすべての内容には,これらの三つの要素が組み込まれ,構成さ れている。 --27/82-- -25- 低学年の児童に,よき生活者としての資質や能力及び態度を育成していくためには, 実際に対象に触れ,活動することが欠かせない。同時に,その学習活動によってかか わる対象や自分自身への気付きが生まれ,それらが相まって資質や能力及び態度を育 成し,確かな行動へと結び付くことが期待されている。例えば,飼育活動を行うこと を通して,児童は生き物の成長や生き物には生命があることに気付く。そして,実際 の飼育体験と生命への気付きが,生き物に親しみをもち大切にしようとする児童の行 為へとつながる。 複数の内容を組み合わせて単元を構成する際には,これらの要素を意識することに よって,内容の漏れや落ちが生じないように配慮することが求められる。 (2)内容の階層性 九つの各内容には,下図のような階層性がある。 まず,第1の階層として,内容(1)「学校と生活」,内容(2)「家庭と生活」,内容(3) 「地域と生活」があり,これらは児童の生活圏としての環境に関する内容である。生 活科は,児童の身の回りの環境や地域を学習の対象とし,フィールドとしている。児 童にとって最も身近な学校,家庭,地域を扱う内容が第1の階層といえる。 --28/82-- -26- 次に,第2の階層として,内容(4)「公共物や公共施設の利用」,内容(5)「季節の 変化と生活」, 内容(6)「自 然や物を使っ た遊び」,内 容(7)「動植 物の飼育・栽 培」,内容(8) 「生活や出来 事の交流」が 位置付けられ る。これらは, 自らの生活を 豊かにしていくために低学年の時期に体験させておきたい活動に関する内容である。 低学年の時期に体験させておきたい活動とは,低学年の児童の身の回りにあるだけで なく,低学年 の児童が関心 を向けやすい活動であり,活動を通して次第に児童一人一人の認識を広げ,期待する 資質や能力及び態度を育成していくために必要となる活動である。 そして,第3の階層に,自分自身の生活や成長に関する内容(9)「自分の成長」を 位置付け,内容(1)〜(8)のすべての内容との関連が生まれる階層としてとらえていく。 したがって,内容(9)は,一つの内容だけで独立した単元の構成も考えられるし,他 のすべての内容と関連させて単元を構成することも考えられる。 このように生活科では,下図に示した各内容の構成要素とその階層性を意識して, 単元の構成を行うことに配慮することが必要である。 生活科の内容の階層性 --29/82-- -27- 第2節 生活科の内容 (1) 学校の施設の様子及び先生など学校生活を支えている人々や友達のことが分か り,楽しく安心して遊びや生活ができるようにするとともに,通学路の様子やそ の安全を守っている人々などに関心をもち,安全な登下校ができるようにする。 児童は学校において,先生や友達と一緒に遊んだり学んだりして共に生活する楽し さを味わい,学校のことが分かり,集団の中での自分の行動の仕方を学んでいく。こ こでは,児童が学校の施設を利用したり,先生や友達,学校生活を支えている人々と のかかわりを深めたりしながら,学校生活を豊かに広げ,楽しく安心して遊びや生活 ができるようにすることを目指している。また,通学路の様子やその安全を守っている 生活科の内容の全体構成 --30/82-- --30/82-- -28- 人々に関心をもち,安全な登下校ができるようにすることを目指している。 学校の施設の様子や人々のことが分かるということは,実際に施設を利用したり,そ こにいる人とかかわったりして,施設の位置や特徴,役割,人の存在や働きなどに気付き, 自分とのかかわりの中でその意味を見出すことができるということである。例えば,校庭 に出て砂場や遊具で遊んだり,図書室で本を読んだりして,その施設を利用する楽しさや よさを感じたり,その使い方が分かったりすることである。また,図書室の本を整理する 司書教諭の姿を見て,「みんなのためにお仕事をしている」と,その仕事の意味が分かっ たり,音楽室で笛を演奏する上級生の姿を見て,音楽室はどんな場所かを知るとともに, 「わたしもやってみたい。できるようになりたい」と,自分の思いや願いをもったりする ことである。 児童の学校生活では,学校の施設の様子や人々のことが分かるだけではなく,楽し く安心して遊びや生活ができるようにすることが大切である。それは,学校生活にお ける児童の生活の基盤をなすものであり,児童にとっての居場所をつくることである。 先生や友達,学校のいろいろな人々との好ましい人間関係や信頼関係に支えられて, 児童は伸び伸びと安心して生活ができるようになる。そのためにも,児童がめあてを 新たにしながら,学校の施設や人々と繰り返しかかわることができるようにすること が大切である。 なお,学校の施設や人々とかかわる活動を行う際,学校の公共性に目を向けるよう 配慮する必要がある。学校の施設はみんなのものであること,学校にはみんなで気持 ちよく生活するためのきまりやマナーがあることなどに気付いたり,学校生活のリズ ムを身に付けたりすることなどが大切である。 通学路の様子やその安全を守っている人々に関心をもつとは,児童の生活の場としての 通学路に興味を示し,そこを歩いたり,調べたり,観察したりなどしようとすることであ る。そのことによって,児童は通学路の動植物をはじめとした自然,そこで出会う人々 や暮らしの様子等に気付く。また,通学路における危険な箇所,安全を守っている施設や 人々に気付くことで,安全な登下校ができるようにすることを目指している。 児童を取り巻く環境が変化する中,学校の中の生活だけではなく,登下校も含めて, 楽しく安心で安全な生活ができるようにすることが課題となっている。このことを踏まえ, --31/82-- -29- 今回の改訂では,通学路の様子だけではなく,「その安全を守っている人々」に関心をも つことが加えられた。安全を守っている施設や人々には,子ども110番の家や登下校の安 全を見守る地域ボランティアの人などが想定できる。なお,安全については,自然災害, 交通災害,人的災害の三つの災害に対する安全確保に配慮することが必要である。 この内容の取扱いに当たっては,学校での自分の生活を豊かに広げていくという視 点に立って,児童が常に学校での自分の生活をよりよくしていこうとする意識をもち続 けられるよう工夫する必要がある。また,幼児教育から小学校教育への円滑な接続を図る 観点から,入学当初においては,生活科を核とした合科的な単元を構成したり,新一年生 の体験入学の際に,児童が幼児と交流する学習活動を設定したりすることも考えられる。 その際は,幼稚園や保育所などとの連携や全校的な協力体制をとれるようにすることが大 切である。 (2) 家庭生活を支えている家族のことや自分でできることなどについて考え,自 分の役割を積極的に果たすとともに,規則正しく健康に気を付けて生活するこ とができるようにする。 児童にとって家庭は,自分を支え,はぐくんでくれる家族がいるところである。そ こでは,家族一人一人が家庭の内外の仕事や役割を果たすとともに,思いやりや愛情 によって互いに支え合い,家庭生活が営まれている。しかし,児童にとってあまりに も身近であるため,その大切さに思い至らないことが多い。 ここでは,児童が家族とともにしていることや家族にしてもらっていることを振り 返り,家族のことや,家庭生活における自分のこと,自分でできることなどについて 考え,自分の役割を進んで行うようになることを目指している。また,家庭における 自分の生活を見直し,規則正しく健康に気を付けて生活しようとする,積極的な生活 態度を育てることを目指している。 家庭生活を支えている家族のことについては,家計を支える仕事,家事に関する仕 事,家庭生活の中での役割,家族の団らん,家族で過ごす楽しみ,家族の願い,家族 一人一人のことなどが考えられる。児童が家庭生活を支える家族のことを考えるため --32/82-- -30- には,これらのことについて,改めて見つめたり,尋ねたり,実際に手伝いをしたり することによって,児童が家庭での自分の生活を振り返るようにすることが大切であ る。それにより,児童は,家族の大切さや自分が家族によって支えられていることな どに気付き,家庭生活においてそれぞれの果たしている仕事や役割の価値,家庭の温 かさ,家族一人一人のよさなどが分かるようになる。 自分でできることなどについては,自分のことは自分でする,手伝いをする,家族 が喜ぶことを見付ける,家庭生活が楽しくなることを工夫するなどが考えられる。こ れらは,考えるだけでなく,実際に行うことが大切である。さらに,活動したことに ついて,家族の感想を聞く機会を設けたり,友達と伝え合い交流したりすることによ り,児童は充実感や自信をもつことができる。 「お皿洗いを手伝うことに決めたわけはお母さんの手がいつもかさかさしていたか らです。お皿洗いをしていたら,優しい,いい子になったねと喜んでくれました。今 はガラスのコップや大きななべも洗えるようになりました。一人で洗い物をすること ができます」。このように,自分の役割を積極的に果たし,それが家族の役に立って いることを実感した児童は,自分に自信をもって生活することができるようになる。 規則正しく健康に気を付けて生活することは,家庭生活の基盤であり,児童が健や かに成長するために家族が心を砕いてきた事柄である。食事や睡眠等,日々の家庭生 活の中での配慮,病気やけがをした時の心配や治癒した時の安堵,成長の節目に当た ど る家族の行事などについて,振り返ったり交流したりすることで,児童は家族がして くれたことに気付き,家族の願いを実感する。このことが,規則正しく健康に気を付 けて生活しようとする意欲や態度の育成につながる。 このように,家族や家庭生活にかかわる活動を行う中で,あいさつや言葉遣い,身 の回りの整理整頓,食事や睡眠などに関する習慣や技能を身に付けるようにすること とん も大切である。児童を取り巻く家庭生活に大きな変化が見られる中,家族との会話や 触れ合いの減少,生活習慣や生活リズムの乱れ等の問題が生じていることも指摘され ている。ここでの学習を通して,児童が自分の家庭を見つめ,家族の一員として,よ りよい生活をしようとする意欲を高めることが期待される。 この内容の学習を行うに当たっては,次の点に十分配慮することが必要である。そ --33/82-- -31- れは,児童によって家族構成や家庭生活の様子が異なるので,それぞれの家庭の違い やよさを尊重することである。これによって,児童は安心して学習に取り組み,自分 の家庭を見つめることができる。また,各家庭のプライバシーは尊重されなければな らない。そのためにも,家庭の理解と協力を得て,学校と家庭との連携を図る必要が ある。 また,家庭生活は児童の生活の中心を担うものであることから,他の内容との関連 を図った活動を取り入れるよう工夫することが考えられる。例えば,自分で育てた野 菜を家族と調理して食べる,学校で飼育している動物を家族に紹介する,身近な自然 や物を使って製作したおもちゃで家族と遊ぶ,などが考えられる。これらにより,家 族とともにできることや家庭が楽しくなることについての児童の見方を広げることが できる。 (3) 自分たちの生活は地域で生活したり働いたりしている人々や様々な場所とか かわっていることが分かり,それらに親しみや愛着をもち,人々と適切に接す ることや安全に生活することができるようにする。 ここでは,児童が身近な生活圏である地域に出て,そこで生活したり働いたりして いる人々と接し,様々な場所を調べたり利用したりすることを通して,それらが自分 たちの生活を支えていることや楽しくしていることが分かり,地域に親しみや愛着を もち,人々と適切に接することや安全に生活することができるようにすることを目指 している。 児童は,学校や家庭を中心とした生活から,友達や地域の人々,身の回りの環境な どとのかかわりを通して,自分たちの地域へと生活の場を広げる。地域で,友達と遊 んだり,買物をしたり,子供会の活動に参加したりするなどして,様々な人々や場所 とかかわって生活するようになる。「あの公園で,鬼ごっこをすると楽しいんだ」「あ のお店の人は,いらっしゃいって,元気に声をかけてくれるよ」などと,地域でのか かわりを学校で話題にする児童も増えてくる。こうしたかかわりから,「公園で遊び たい」「お店の人とお話ししてみたい」などと,地域に出かける活動が生まれてくる。 --34/82-- -32- このように,ここでの地域の活動は,児童の生活の場の広がりを背景に,地域に出 かけることで,様々な人々や場所との出会いをつくり,それらに心を寄せ,自分の生 活とのかかわりをさらに広げたり深めたりすることを期待している。 ここで取り上げる,地域で生活したり働いたりしている人々や様々な場所とは,自 分の家や学校の周りの田や畑,商店やそこで働く人,友達の家やその家族,公園や公 民館などの公共施設やそこを利用したり働いたりしている人,幼稚園・保育所やそこ の幼児・先生,近隣の人,子供会の人,目印にしている場所や物,遊べる川や林,自 分や家の人がよく通る道などを挙げることができる。なお,従前では「地域の人々」 としていたものを,今回の改訂ではより分かりやすく明確にする観点から,「地域で 生活したり働いたりしている人々」とした。それは,生活したり働いたりしている人 々の姿を見たり話を聞いたりなどして,自分の身の回りに幼児や高齢者,障害のある 人など多様な人たちが生活していることや,地域には様々な仕事があり,それらの仕 事に携わっている人たちがいることに気付いてほしいと考えたからである。さらに, 「おじさんはいつも元気だな」「お姉さんみたいになりたい」など,それらの人々に 心を寄せ,「わたしも頑張りたい」と,夢や希望をもち,児童が意欲をもって生活す ることを期待しているからである。 いずれにしても,ここで人々や場所を取り上げる際には,単に地域全体を扱うとい うことではなく,児童の思いや願いを生かした活動ができるとともに,繰り返しかか わる活動ができ,活動を通して地域がより身近なものになることが大切である。 今回の改訂では,従前は「親しみをもち」としていたものを,「親しみや愛着をも ち」とし,「愛着」という言葉を加えている。それは,児童が,活動を通して,地域 の人々や場所のよさに気付くとともに,それらを大切にする気持ちや地域に積極的に かかわろうとする気持ちを,一層強くもつようにしたいからである。そして,「あの 公園には好きな虫がいるから,遊びに行こう」「野菜を育てているおばあちゃんみた いに,わたしも毎日水やりをしよう」など,親しみや愛着とともに,あこがれまでも もつようにすることが期待される。 地域の人々や場所への親しみや愛着は,もっと知りたい,もっと行きたい,もっと 親しくなりたい,自分にできることをしたいという思いや願いを生む。この思いや願 --35/82-- -33- いを実現するために,人々と適切に接することや安全に生活することが,児童自身に とって必要なこととなる。 人々と適切に接することは,相手のよさを感じ取り,自分のよさを伝えることにも なり,より深いかかわりを生む。そのために,地域の人々とあいさつをして適切な言 葉遣いでやりとりしたり,幼児に遊具を譲るなど相手や場に応じて行動したりするな どが必要となる。ここでは,地域の店や公園などを訪問したり利用したり,そこで働 く人々や利用する人々にインタビューしたりするなどの活動が想定される。その際に, あいさつをする,用件を伝える,相手の都合を尋ねる,順番を待つなど,マナーを守 って行動することが求められる。「おはようございますってあいさつしたら,おはよ うございますって,元気にあいさつしてくれた」「小さい子にすべり台を先にすべら せてあげたら,ありがとうと言ってくれて,とってもうれしかった」など,実際に地 域の人々とかかわり,マナーを守ることで互いに気持ちよく生活できるという体験を 重ね,児童自らが人々と適切に接する大切さを感じ,その接し方を身に付けるように していくことが望まれる。 また,安全に生活することは,児童自身が事故やけがなどがなく安全に生活できる と同時に,安全で安心な場所としての地域の一員になることでもある。だからこそ, 安全に気を付けて,遊んだり場所や物を使ったり人々と接したりすることなどが必要 となる。ここでは,地域の人々や場所と実際にかかわることを通して,より安全な遊 び方や場所・物の使い方,人々との接し方を児童自身が身に付けるようにしていくこ とが望まれる。「今日は雨が降っていて滑りやすいから,池のそばには行かないよう にしよう」「困ったことがあったときには,あの家や店の人に相談しよう」など,児 童が,その場の状況をとらえ,危険を予測して行動できるようにすることが大切であ る。そして何よりも,実際に繰り返し地域に出かけ,親しみや愛着をもつ人や場所を 増やし,地域が安心して生活できる場と感じられるようにしていくことが望まれる。 (4) 公共物や公共施設を利用し,身の回りにはみんなで使うものがあることやそ れを支えている人々がいることなどが分かり,それらを大切にし,安全に気を 付けて正しく利用することができるようにする。 --36/82-- -34- 児童にとって公共物や公共施設を利用することは,自分自身の生活を広げたり豊か にしたりするために大切である。そして,それらを積極的に,有効に利用できるよう にするためには,公共物や公共施設を実際に利用して,自分の生活に生かしたり,自 分以外の人のことを考えて行動したりする体験が不可欠である。このような資質や能 力及び態度は,他者との共生が求められる社会において,これまで以上に求められる ようになる。 児童にとって,最も身近な公共施設は学校である。児童には,学校生活を営む中で, 少しずつ公共の意識が育ってきている。ここでは,学校からさらに活動の範囲を広げ, 身の回りにはみんなで使うものがあることやそれを支えている人々がいることなどが 分かり,それらを大切にし,安全に正しく利用できるようにすることを目指している。 今回の改訂では,「公共物や公共施設を利用し」という文言が加わった。これは, 公共物や公共施設について,実際に利用する中で,物や施設,人とかかわりながら, 利用の仕方等について考えさせることを重視したからである。「みんなのものだから ていねいに使おう」「他の人に迷惑をかけないように静かに利用しよう」「いつもお 世話になっている管理人さんにお礼を言おう」などと,身の回りにはみんなで使うも のがあることや,それを支えている人がいることを実感的に分かることが大切である。 ここで取り上げる公共物とは,例えば,地域や公園にあるベンチ,遊具,水飲み場, トイレ,ごみ箱,図書館や児童館の本,博物館の展示物,乗り物,道路標識や横断旗 などみんなが利用するものが考えられる。公共施設としては,公園,児童館,公民館, 図書館,博物館,美術館,駅,バスセンターなどみんなで使う施設が考えられる。こ れらのほかにも,みんなが利用する掲示板や掲示物,多くの人々が利用する河川敷や 広場なども含めて幅広くとらえていくことが大切である。 また,「身の回りにはみんなで使うもの」という文言も加わった。これは,児童が ふだん生活している中で,身の回りには様々な公共物や公共施設があり,多くの人が それらを利用していることに気付くことが大切であることを,より明確にしたもので ある。 この内容では,公共物や公共施設を支えている人々がいることが分かるようにする --37/82-- -35- ことも求めている。支えている人々とは,公共物や公共施設で職員として働く人はも とより,例えば,図書館で図書の読み聞かせをしてくれる人や,博物館などで案内を してくれるボランティアの人なども含めて考えていくようにする。大切なことは,そ れらの人々と直接かかわり,親しみをもてるようにすることであり,その気持ちが公 共物や公共施設を大切に利用しようとする意識へと高まることである。例えば,繰り 返し公園を利用する中で,公園を管理している方とあいさつをしたり会話を交わした りして親しくなる。一方で,掃除などの管理作業の大変さにも気付くようになる。そ のことが「公園を大切にしよう」「公園をきれいに使おう」とする意識として高まる ようになる。このことは,みんなで使うものは,自分にとっても,相手にとっても気 持ちよく利用して生活するものであるという公共の意識の高まりにつながることを意 味する。 この内容は,内容(1)「学校と生活」や内容(3)「地域と生活」などと組み合わせて 単元を構成することも考えられる。その際には,指導の効果が高まるように配慮する ことが必要である。町を探検する中でバスや電車などの乗り物を利用する場合には, 公共の交通機関はたくさんの人が利用していることや,みんなで気持ちよく利用する ためのルールやマナーがあることなどに気付き,安全に気を付けて正しく利用できる ようにすることが大切である。なお,社会生活の基本となるルールやマナーを身に付 けられるようにするには,単にそれだけを取り上げて指導するのではなく,児童の思 いや願いを実現する過程において,必要に応じて適切に指導していくことが大切であ る。また,児童自身の中に,公共の意識に支えられた正しい態度が育つように配慮す ることも大切である。 児童が公共物や公共施設を繰り返し利用して,そこに親しみや愛着をもつようにな ったときには,自分たちで育てた草花を届けたり,利用した楽しさを手紙や作文,絵 にして知らせたりするなど,児童の側からの主体的な働きかけの場を設定することも 大切である。このような活動によって,児童は単なる利用者という立場を越えて,公 共の意識をより一層高めていくとともに,自分自身の力でよりよい生活をつくり出し ていく態度を養っていくことになる。 --38/82-- -36- (5) 身近な自然を観察したり,季節や地域の行事にかかわる活動を行ったりなど して,四季の変化や季節によって生活の様子が変わることに気付き,自分たち の生活を工夫したり楽しくしたりできるようにする。 「くっつき虫で遊んだよ。服に付けて模様にしたよ。秋になるとくっつき虫の色が 変わることも発見したよ」とオナモミを使って遊んだり,「お兄ちゃんたちが,笛や 太鼓の練習をしていたよ。もうすぐお祭りだね」とうれしそうに話しかけたりする児 童には,身近な自然や社会の変化に素直に心を動かし,自分とのかかわりにおいて季 節をとらえている姿がある。このように,身近な自然に浸り,四季の変化を楽しむこ とは,諸感覚を磨いたり感性を豊かにしたりする上で重要な体験である。また,自然 体験の少なさが課題として挙げられる中,幼児期から児童期に至る成長の過程におい て,自然に触れ合う体験や季節に応じて自分たちの生活を工夫する体験が求められて いる。 ここでは,身近な自然に目を向け,興味・関心をもって観察したり,季節や地域の 行事にかかわる活動を行ったりして,四季の変化を体全体で感じ取り,季節によって 生活の様子が変わることに気付き,自分たちの生活を工夫したり楽しくしたりできる ようにすることを目指している。 身近な自然を観察するとは,実際に野外に出かけ,諸感覚を使って繰り返し自然と 触れ合うことや,自分なりの思いや願いをもって進んで自然とかかわることなどであ る。そこには,視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚などを使って自然のすばらしさを十 きゅう 分に味わう姿が生まれる。例えば,春に花を摘んだ野原で秋には虫取りをしたり,春 には冷たかった川で夏には水遊びをしたりする。また,秋になると木の葉が色づくこ とや木の実が実ることを発見したり,冬には風や雪,氷を使って楽しんだりする。こ のようにして児童は,身近な自然とかかわる活動を繰り返す中で,自然と一体になり ながらその特徴や性質をとらえ,四季の変化や季節によって生活の様子が変わること に気付いていく。教師がこうした活動から生まれた気付きを大切にし,振り返ったり 交流したりする場を設け,それらの意味や価値を児童が自覚できるようにしていくこ とが,自分の生活を工夫したり楽しくしたりすることにつながっていく。 --39/82-- -37- ここで取り上げる身近な自然とは,児童が繰り返しかかわることのできる自然であ るとともに,四季の変化を実感するのにふさわしい自然である。例えば,川や土手, 林や野原,海や山などが考えられる。また,そこで出会う生き物,草花,樹木などの ほかに,水,氷,雨,雪,風,光なども対象となろう。 人々は昔から季節の変化と深いかかわりをもちながら生活してきた。各地には,そ うした季節にちなんだ様々な行事がある。また,地域の歴史や人物にかかわるもの, みんなの幸せや地域の発展を願うもの,さらには,地域の結び付きを強めたり,楽し みを増したりするために新しく創り出されたものもある。例えば,七夕や端午などの つく 節句,立春や立秋などの節気,正月などの伝統行事,地域の行事などには,人々の願 いや思いが織り込まれている。それらにかかわることで,季節と人々の生活とのつな がりや人々の暮らしぶりを知ることができる。これらの行事については,単に調べて 終わるのではなく,低学年の児童の発達に応じて,実際に参加しながら学習を進める ことが大切である。 四季の変化や季節によって生活の様子が変わることに気付くとは,身近な自然を観 察したり,節句や節気,伝統行事や伝承遊びなど季節や地域の特色にかかわる活動を 行ったりすることで,季節の移り変わりや季節と自分たちの生活との関連に気付くこ とである。こうした気付きを発展させ,実際に自分たちの生活に生かしていくことが, 自分たちの生活を工夫したり楽しくしたりするということである。例えば,「教室に 季節の花を摘んで飾ろう」「みんなで春を見付けに行こう」などと,季節の変化を自 分たちの生活に取り入れる活動を行う。こうした活動は,四季の変化を体全体で感じ 取るとともに,感じたことや気付いたことを基にして自分たちの生活を工夫したり楽 しくしたりすることにつながっていく。 なお,この内容は,他の内容との関連を図り,年間を通して継続的に扱うことも考 えられる。特に,内容(3)「地域と生活」,内容(6)「自然や物を使った遊び」,内容(7) 「動植物の飼育・栽培」,内容(8)「生活や出来事の交流」とも適宜関連させて,創 意工夫のある指導計画を作成することが大切である。 (6) 身近な自然を利用したり,身近にある物を使ったりなどして,遊びや遊びに --40/82-- --40/82-- -38- 使う物を工夫してつくり,その面白さや自然の不思議さに気付き,みんなで遊 びを楽しむことができるようにする。 児童は,目の前に砂場があれば,砂山を作りトンネルを掘る。近くに水があれば, それを流し,川に見立てて遊ぶ。また,友達が加われば,協力したり,競い合ったり しながら,遊びが次々と発展していく。ここには,自分から自然や物にかかわろうと する児童の姿や,より楽しく遊ぼうと知恵を出し合う姿などを見ることができる。そ して,児童は遊びを通して,自分の思いや願いを実現し,満足感を得たり自分らしさ を表出したりする。 ここでは,身近にある自然を利用したり,身近にある物を使ったりなどして,遊び 自体を工夫したり,遊びに使う物を工夫して作ったりすることが主な活動である。そ して,その過程を通して,遊びの面白さや自然の不思議さに気付くとともに,みんな で遊びを楽しむことができるようにすることを目指している。 ここでいう身近な自然とは,児童を取り巻く自然の中から,児童が自分の遊びの目 的のために選び出した自然のことである。例えば,草花,樹木,木の実,木の葉,石, 砂,土,光,影,水,氷,雨,雪,風などの事物や現象である。また,身近にある物 とは,日常生活の中にある様々な物の中で,児童が遊びを工夫したり,遊びに使うも のを作ったりするために使おうと選び出す事物のことである。例えば,紙,ひも,ポ リ袋,空き缶,空き箱,ストロー,割りばし,ペットボトル,牛乳パック,紙コップ, トレイ,輪ゴム,磁石などがある。 児童が好んでする遊びには,主に自然の事物を使ったり自然の現象を利用したりす る遊び,主に不要になった物などを使った遊びなど様々な遊びが考えられる。さらに は,土手,広場,小川など,場所自体のもつ特徴を生かして遊ぶことも考えられる。 児童がその場所のもつ環境の特性や構造を生かして遊びを創り出し,安全に,そして つく ダイナミックに活動できるよう,学習環境の構成などを工夫していくことが大切であ る。 今回の改訂では,従前の「遊びを工夫し」が「遊びや遊びに使う物を工夫してつく り」に変更され,さらに,「その面白さや自然の不思議さに気付き」の文言が加えら --41/82-- -39- れた。つまり,遊びや遊びに使う物を工夫してつくることで,児童が,遊びの面白さ とともに,自然の不思議さにも気付くことができるようにすることを強調した。 ここでいう,その面白さとは,次のようなものが考えられる。例えば,落ち葉を踏 みしめたり投げあげたりしてその感触を楽しむなど,遊びに浸り没頭する遊び自体の 面白さである。また,「鬼の数を増やしたら楽しくなるかな」と遊びの約束やルール を変えていくなど,遊びを工夫し遊びを創り出す面白さもある。さらに,「みんなで つく やると楽しいね」と友達と一緒に遊ぶことの面白さもある。 一方,自然の不思議さとは,次のようなものが考えられる。例えば,「大きなシャ ボン玉を作ろうと思って,せっけんをたくさん入れたのに大きくならないよ」など, 自分の見通しと事実が異なった時に生まれる疑問などである。また,「ゴムを強く引 っ張ったら遠くまで飛んだよ」と,目に見えないものの働きが見えてくることなどで ある。また,「アサガオの色水は,アサガオの花の色と同じだね」「風の向きによっ て,凧の揚がり方が違うんだよ」と,自然の中にきまりを見付けることなどである。 たこ さらには,自然の事物や現象がもつ形や色,光や音など自然現象そのものが児童に与 える不思議さもある。 いずれにしても,児童の身近には様々な遊びの面白さや自然の不思議さがある。児 童が遊びや遊びに使うものを工夫してつくることを通して,それらを実感するよう単 元を構成したり学習環境を整えたりすることが大切である。また,一人一人の思いや 願いを生かした多様な遊びを行い,それを互いに響かせ合うような学習活動を展開す ることが大切である。 なお,ここの内容で特に大切にしたいのが,「比べる」「繰り返す」「試す」などの 活動である。「比べる」ことで相違点や共通点に気付いたり,「繰り返す」ことで「ど うしてかな」と疑問が生まれたりする。また,体験を生かして「試す」ことで,「い つもこうなる」ときまりに気付くことなどが考えられる。 このように遊びはそれ自体が楽しいことであるが,そこに友達とのかかわりがある と,さらに楽しいものになる。競い合ったり力を合わせたりできるからである。友達 とのかかわり合いを通して,約束やルールが大切なことや,それを守って遊ぶと楽し いことなどに気付いていく。さらには,友達のよさや自分との違いに気付いたり,相 --42/82-- -40- 手の考えを尊重したりできる態度が身に付いたりする。このようにして,児童は遊び を通して友達とのかかわりを深めたり広げたりしていくのである。 (7) 動物を飼ったり植物を育てたりして,それらの育つ場所,変化や成長の様子 に関心をもち,また,それらは生命をもっていることや成長していることに気 付き,生き物への親しみをもち,大切にすることができるようにする。 「モルモットって,抱っこするととってもあったかいね」「サツマイモの葉が,わ たしの手よりも大きくなっていました」といった児童の姿に見られるように,児童に とって動植物の飼育・栽培は,毎日が発見や感動の連続である。児童は自分の育てる 動物や植物の成長を楽しみにしながら,日々のかかわりを深めていく。例えば,「ぼ くがえさをあげたらいっぱい食べてくれたよ」「ソフトクリームみたいなつぼみを見 つけたよ。はやく咲いてほしいな」などと,親しみと期待の目で見つめ,心を寄せな がら世話をしていくようになる。 ここでは,児童が自らの手で継続的に動物を飼ったり植物を育てたりすることを通 して,身近な動物や植物に興味・関心をもち,それらが生命をもっていることや成長 していることに気付くとともに,動物や植物を大切にすることができるようにするこ とを目指している。 長期にわたる飼育・栽培の過程では,児童の感性が揺さぶられるような場面が数 多く生まれてくる。しかし,児童を取り巻く自然環境や社会環境の変化によって, 日常生活の中で自然や生命と触れ合い,かかわり合う機会は乏しくなってきている。 このような現状を踏まえ,生き物への親しみをもち,生命の尊さを実感するために, 継続的な飼育・栽培を行うことには大きな意義がある。 動物を飼ったり植物を育てたりとは,飼育と栽培のどちらか一方を行うのではなく, 2年間の見通しをもちながら両方を確実に行っていくことを意味している。動物を飼 うことは,その動物のもつ特徴的な動きや動物の生命に直接触れる体験となる。また 植物を育てることは,植物の日々の成長や変化,実りが児童に生命の営みを実感させ る。動物を飼うことも植物を育てることも,継続的に世話をし繰り返しかかわる過程 --43/82-- -41- で,生命あるものを大切にする心をはぐくむ価値ある体験となり,そのことが生命の 尊さを実感することにつながる。 飼育・栽培の過程において児童は「もっと元気に育ってほしい」「もっと上手に育 てたい」という願いをもつ。そして,その願いを実現するために,動物本来の生育環 境や土,水,日照,肥料といった植物の生育条件に目を向けるようになる。「バッタ を捕まえた場所に生えていた草も一緒に入れてあげよう」「もうすぐ花が咲きそうだ よ」などと,それらの育つ場所,変化や成長の様子に関心をもつ児童の姿が期待でき る。 このように,関心をもって動物や植物にかかわる児童からは,多くの気付きが生ま れる。成長や変化に関する気付き,生命をもっていることへの気付き,自分のかかわ り方に対する気付きなどがある。2年生の野菜栽培の時,キュウリにアサガオと同じ ようなつるが出てきたことを見付けた児童は,1年生でアサガオを育てた経験を想起 してキュウリにも支柱を立てた。すると,「やっぱりつるが棒につかまってユラユラ しなくなったよ」と自分の行為とキュウリの成長とを結び付けた。このように野菜の 変化や成長に気付き,自分の力で工夫して栽培しようとする児童の姿を大切にするこ とによって,児童は植物への親しみをもち,世話をする楽しさや喜びを味わうことが できる。 「小屋の掃除をしました。おしっこやうんちがいっぱいありました。だけどぼくは シロちゃんが大好きです。シロちゃんを大事にしたいから,小屋をきれいにするお仕 事をしました。ぼくはシロちゃんから,がんばる心と優しい心をプレゼントしてもら いました」。ここには,動物が生命をもって生きていることや動物と自分とのかかわ り方に対する気付きがある。がんばった自分,優しく接することができた自分自身に も気付いている。このような児童の姿が生まれるためには,繰り返し動植物とかかわ る息の長い活動を設定することが大切である。継続的な活動をすることによって,親 しみの気持ちが生まれ,責任感が育ち,生命の尊さも感じることができる。また, 自分本位の見方・考え方から,動植物の立場に立った見方・考え方ができるようにな り,気付きの質の高まりも期待できる。 なお,どのような動物を飼育し,植物を栽培するかについては,各学校が地域や児 --44/82-- -42- 童の実態に応じて適切なものを取り上げることが大切である。飼育する動物としては, 身近な環境に生息しているもの,児童が安心してかかわることができるもの,えさ やりや清掃など児童の手で管理ができるもの,動物の成長の様子や特徴がとらえやす いもの,児童の夢が広がり多様な活動が生まれるもの,などが考えられる。栽培す る植物としては,種まき,発芽,開花,結実の時期が適切なもの,低学年児童でも栽 培が容易なもの,植物の成長の様子や特徴がとらえやすいもの,確かな実りを実感で き満足感や成就感を得られるもの,などの観点を考慮しながら選択することが考えら れる。また,動物や植物との出会いを工夫することも大切である。 生活科の学習活動をより充実させていくには,毎日の学校生活の様々な場面に飼育 ・栽培活動を位置付けるようにするとよい。例えば,児童の生活場面での動きを考 えて,登校してきた児童が朝一番にアサガオを見ることができるように,アサガオ の鉢を児童の玄関に並べることなども考えられる。また,休み時間に動植物の世話 をするなど,一日の学校生活を生活科を中心に設計することによって,生活科の活 動を日々の学校生活に取り入れることも考えられる。 飼育や栽培の過程では,新しい生命の誕生や突然の死や病気など,生命の尊さを身 をもって感じる出来事に直面することもある。成長することの素晴らしさや尊さ,死 んだり枯れたり病気になったりしたときの悲しさやつらさ,恐ろしさは,児童の成長 に必要な体験である。動植物とのかかわり方を真剣に振り返り,その生命を守ってい た自分の存在に児童自らが気付く機会ととらえることが大切である。 なお,動物の飼育に当たっては,管理や繁殖,施設や環境などについて配慮する必 要がある。その際,専門的な知識をもった地域の専門家や獣医師などの多くの支援者 と連携して,よりよい体験を与える環境を整える必要がある。休日や長期休業中の世 話なども組織的に行い,児童や教師,保護者,地域の専門家などによる連携した取組 が期待される。また,地域の自然環境や生態系の破壊につながらないように,外来生 物等の取扱いには十分配慮しなければならない。 活動の前後には,必ず手洗いをする習慣をつけ,感染症などの病気の予防に努める ことも大切である。児童のアレルギーなどについても,事前に保護者に尋ねるなどし て十分な対応を考えておく必要がある。 --45/82-- -43- (8) 自分たちの生活や地域の出来事を身近な人々と伝え合う活動を行い,身近な 人々とかかわることの楽しさが分かり,進んで交流することができるようにす る。 人とのかかわりが希薄化している現在,よりよいコミュニケーションを通して情報 の交換をし,互いの交流を豊かにすることが求められている。特に生活科においては, 身近な幼児や高齢者,障害のある児童生徒などの多様な人々と触れ合うことを大切に している。これからの社会では,言葉だけではない様々な方法によって情報を伝え合 う活動を行うことにより,互いの関係を一層豊かにし,社会の一員としてだれとでも 仲良く生活できるようになることが期待されている。 今回新設されたこの内容では,自分たちの生活や地域の出来事を身近な人々と伝え 合う活動を行い,互いのことを理解し合ったり心を通わせたりしてかかわることの楽 しさが実感として分かり,身の回りの多様な人々と進んで交流できるようにすること を目指している。 ここで取り上げる自分たちの生活や地域の出来事とは,学校や家庭,地域における 児童の生活の様子と,そこで起きた児童一人一人の心に残る出来事のことである。自 分自身で体験したり活動したりして,感じたことや気付いたり分かったりしたこと, 考えたこと,もっと知りたいと思ったことなどを伝え合い,交流する活動が行われる ようにすることが大切である。したがって,生活科の学習活動における様々な出来事 も伝え合う活動の対象となり,そこでは,情報が一方向ではなく,双方向に行き来す ることが大切になる。 この活動では直接話しかけることなど,言葉を中心にした伝え合う活動が活発に行 われる。しかし,表情やしぐさ,態度といった言葉によらない部分も,伝え合う活動 においては大切にされなければならない。例えば,自分のことについて伝えている児 童は,自分の方を向いて笑顔でうなずきながらじっくりと聞いてくれる相手の態度を 見て,うれしいと感じる。そのうれしい気持ちは,自分が受け入れられたことへの喜 びであり,「もっと伝えたい」という意欲につながる。逆に,聞き手の児童は,笑顔 --46/82-- -44- で生き生きと表現する姿に引き込まれ,本気になって聞き取ろうとするものである。 伝え合う活動においては,言葉による交流だけではなく,感情の交流も行われること を重視しなければならない。 身近な人々とかかわることの楽しさとは,自分のことや自分の伝えたいことが相手 に伝わることの楽しさ,相手のことや相手が伝えたいと考えていることを理解できる 楽しさが考えられる。また,こうした双方向のやり取りを繰り返す中で,互いの気持 ちと心のつながりが豊かになる楽しさも大切である。こうした楽しさを実感すること が,互いのことを理解しようと努力し合い,協同的な関係を築くことにつながる。 児童にとって,かかわることの楽しさを味わえる身近な存在は,友達である。友達 との学習活動を積み重ねながら,学校から地域へと少しずつかかわる対象を広げてい くようにすることが大切である。例えば,学校を探検して発見したことを友達に伝え る活動を繰り返し,徐々に活動の範囲を地域へと広げていくことが考えられる。地域 では,目的に応じて調べたりインタビューしたり体験したりして情報を集め,それを 地域の人に伝えたり,発信したりする活動が考えられる。こうしたことを繰り返して 行う中で,児童は互いに交流することの楽しさを実感し,さらに進んで交流していこ うとする。 また,幼児との交流も,児童にとっては,かかわることの楽しさを実感する有効な 機会となる。幼児との交流を通して相手意識が生まれ,「分かりやすく伝えよう」「相 手の気持ちを考えよう」といった気持ちが高まる。そうした中で成立した幼児との豊 かなコミュニケーションは,児童にとって大きな達成感や成就感につながるものであ り,さらなる交流の動機付けとなる。 こうした活動においては,児童が伝えたいことを伝えるとき,話したり書いたりす る言葉による方法のほかに,絵や身体表現などの様々な方法が考えられる。また,手 紙や電話,ファックスなどの多様な手段を活用できるようにすることに心がけること も大切である。 なお,この内容は,他のすべての内容との関連を図り,単元を構成していくことが 考えられる。その際には,伝えたいという強い思いや願いを児童が心に抱くよう,活 動や体験を充実させることが重要になる。「おばあちゃんと野菜の話がいっぱいでき --47/82-- -45- てうれしかった。おばあちゃんは水をあげるときお話しするんだって。わたしも野菜 にお話ししてみよう」と話す言葉に,栽培活動の充実が,伝え合う活動の動機付けに なっていることが分かる。それと同時に,交流したことが,栽培活動を豊かなものに していることも分かる。このように,支え合い,補い合い,互いの内容を充実させて いくことが望まれる。 (9) 自分自身の成長を振り返り,多くの人々の支えにより自分が大きくなったこ と,自分でできるようになったこと,役割が増えたことなどが分かり,これま での生活や成長を支えてくれた人々に感謝の気持ちをもつとともに,これから の成長への願いをもって,意欲的に生活することができるようにする。 「逆上がりが初めてできた時,友達が一緒に喜んでくれたよ」「上級生みたいにほ うきを上手に使って,自分たちだけで掃除ができるようになったよ」と自分の成長を 具体的に実感し,その喜びを感じ,感謝の気持ちをもつことは,精神的な自立という 点からも大切なことである。 ここでは,自分の成長を振り返り,自分が大きくなったこと,自分でできるように なったこと,役割が増えたことなどの自分の成長が実感として分かるようにするとと もに,自分の成長を支えてくれた人々の存在に気付き,感謝の気持ちをもつことがで きるようにすること,「自分にもできるんだ」「もっとやりたいな」という自信や意 欲をもって生活できるようにすることを目指している。 今回の改訂では,「自分自身の成長を振り返り」という文言が加わった。これは, 自分自身の成長を振り返る学習活動を,実際に行うことを意味している。 成長を振り返るということは,過去の自分自身や出来事を思い浮かべ,過去の自分 と現在の自分とを比較することである。しかし,低学年の児童にとって,自分の成長 を頭の中だけで振り返ることは難しいため,具体的な手掛かりが必要である。それぞ れの児童が自分の成長を振り返る手掛かりとして,例えば,父母や祖父母,親せきの 人々,幼稚園や保育所の先生などの話,幼いころに使ったものなどが考えられる。ま た,入学当初に書いた自分の名前や絵,行事等のスナップ写真,生活の中でのエピソ --48/82-- -46- ードなども手掛かりとなろう。例えば,幼稚園の時の写真から自分の成長を実感する ことや,家族へのインタビューを手掛かりに役割が増えたことに気付くなどが考えら れる。 なお,どの時点から自分の成長を振り返り実感するかは,児童によって異なる。よ く覚えていることから振り返る児童もいれば,現在の自分から振り返る児童もいよう。 大切なのは,自分の成長を実感できることであって,一律に過去から順にたどること ではない。こうした観点に立って,振り返りの時点については,特に,入学してから, 誕生してから,というような示し方をしていない。 成長を振り返り分かることとしては,大きくなったこと,自分でできるようになっ たこと,役割が増えたことなどが挙げられている。例えば,去年着ていた服が着られ なくなったことから体が大きくなったことを実感したり,そのことに関連して食べ物 の好き嫌いが減り,給食で食べる量が増えたことに気付いたりするなどが考えられる。 また,ある児童は,使い古した跳び縄を手掛かりに振り返る中で,たくさんの技がで きるようになったことだけではなく,友達や兄姉が練習を手助けしてくれたことを思 い浮かべるかもしれない。このように振り返るきっかけとなるものを広げながら,そ れぞれの児童が自分の成長を多面的に振り返るとともに,自分の成長を支えてくれた 人々とのかかわりを意識させていくことが大切である。 自分の成長を振り返る活動の中では,過去の自分と現在の自分とが比較され,自分 の生活や成長について,様々な人とのかかわりがあったことに気付いていく。そして, その気付きを表現したり交流したりすることで,児童は気付きを一層自覚し関連付け ていく。このような活動を通して,自分の成長の背後には多くの人々の支えがあった ことが分かり,自分の成長を支えてくれた人々に対する感謝の気持ちが芽生えてくる ことになる。 また,優しい気持ち,他者への思いやり,我慢する心など,内面的な成長に児童が 気付くための手だてとしては,例えば,幼稚園や保育所の年長児などと触れあう活動 を通して間接的に自己の成長を実感すること,生活科における学習カードや作品など を利用し,長期にわたる自己の変容をとらえること,友達や周囲の人の意見や感想に よる相互の評価によって自分の成長を見つめ直すこと,などの工夫が考えられる。 --49/82-- -47- なお,自分の成長への気付きは,この内容だけに限らず,生活科の全内容の中でと らえていくことができる。各内容との関連を意識し,年間を見通した計画的な学習活 動を構想することが必要である。具体的な指導に当たっては,あらゆる場面において 児童の成長をとらえ,タイミングを逃さず,認めたり,励ましたりしていくことを心 がける必要がある。 また,活動によっては,児童の誕生や生育にかかわる事柄を扱ったり,家族へのイ ンタビューを行ったりするような場合も考えられるので,プライバシーの保護に留意 するとともに,それぞれの家庭の事情,特に生育歴や家族構成などに十分配慮するこ とが必要である。 自分自身の成長を実感することは,さらなる成長を願う心につながっていく。それ は,それぞれの目標に向けて努力したり,挑戦したりして主体的にかかわるなど,意 欲的に活動する姿になって現れてくる。児童がこれからの自分の成長に希望をもち, 意欲的に生活することは,自立への基礎を養う上で大きな意義をもっている。 --50/82-- --50/82-- -48- 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い 1 指導計画作成上の配慮事項 (1) 自分と地域の人々,社会及び自然とのかかわりが具体的に把握できるような学 習活動を行うこととし,校外での活動を積極的に取り入れること。 生活科では,児童が直接地域に出て,自分と地域の人々,社会及び自然とのかかわ りに関心をもち,自分とのかかわりが具体的に把握できるようにすることが重要であ る。 自分と地域の人々,社会及び自然とのかかわりが具体的に把握できるとは,自分も 地域の人々,社会及び自然の中で生活している者の一人であり,よりよい生活者にな ることを願って生活している者として,地域の人々,社会及び自然などをとらえるこ とである。そのためには,実際に地域の人と話をしたり,地域の施設を利用したり, 地域の自然に触れたりするなどの直接かかわる活動や体験を行うことが欠かせない。 例えば,公共施設を利用する活動では,地域の公共施設に行き,そこで行われてい ることに参加したり,そこで指導してくれる人に出会ったりして,自分と公共施設と のかかわりを具体的に把握できるようにする。そうした活動がきっかけとなり,家庭 の協力も得ながら,公共施設を日常的に利用できるようになることが望まれる。自分 とのかかわりが具体的に把握できるような学習活動を行うに当たっては,児童が身近 な環境に関心をもち,それらに直接働きかけ,そこから返ってくることを受け止め, さらに工夫などして新たに働きかけができるような学習活動を行うことが大切であ る。 校外での活動を積極的に取り入れるとは,児童がその場に行き,その場の環境に身 を置き,そこでの事実や実物に触れる活動ができるようにすることである。それは, 活動や体験を通して学ぶという生活科の本質に根ざしたものであり,一層重視するこ --51/82-- -49- とが望まれる。しかし,今日の社会情勢の中で校外活動を行うに当たっては,交通や 活動場所に対する安全,見知らぬ人への対応,緊急の連絡方法などについて十分配慮 する必要がある。児童の安全を見守ってもらうために,保護者や地域の人々の理解と 協力を得ることも欠かせない。また,十分な活動時間を保障した上で,児童が安心し て活動できる空間の確保に努めることも大切である。 今回の改訂において,内容(8)「生活や出来事の交流」が位置付けられ,従前から の「必要に応じて手紙や電話を用い伝え合う活動についても工夫すること」は,当該 内容に含まれることから,ここでは記述していない。しかし,内容(8)に位置付けら れたことを踏まえ,これまで以上に意識して取り扱うことが期待される。 内容(8)「生活や出来事の交流」と他の内容との関連を図った単元を構成するこ とにより,それぞれの内容が補い合い支え合って成果を上げることが考えられる。例 えば,児童が地域を探検する活動では,地域の特徴やそこで働く人などに目を向け, 多くのことに気付く。その中でも,不思議に思ったことや詳しく聞いてみたいことな どを繰り返しインタビューしたり調査したりして,新しい情報や自分だけの情報を収 集していく。また,集めた情報を新聞やポスターにまとめたり,パンフレットにした りして地域の人たちに発信していくことも考えられる。さらには,地域についての発 表会に発展することもある。こうした活動の過程においては,手紙や電話,ファック スなどを使って情報のやり取りをすることや,情報を収集したり発信したりする活動 が想定される。こうして,身近な人々とかかわる楽しさを実感し,地域の人々と交流 し続けようとすることが期待される。 (2) 第2の内容の(7)については,2学年にわたって取り扱うものとし,動物や植 物へのかかわり方が深まるよう継続的な飼育,栽培を行うようにすること。 9項目の内容を第1学年と第2学年にどのように配置するかは,各学校の判断にゆ だねられているが,第2の内容の(7)については,従前より2学年にわたって取り扱 うこととしている。 2学年にわたって取り扱うとは,第1学年でも第2学年でも取り扱うということで --52/82-- -50- ある。これは,飼育・栽培という活動の特性から一回限りの活動で終わるのではなく, 経験を生かし,新たなめあてをもって,繰り返したり長期にわたったりして活動する ことを意図したものである。 2学年にわたって取り扱う場合,その取り扱い方を創意工夫する必要がある。例え ば,第1学年では飼育,第2学年では栽培(又はその逆)といった方法や,第1学年 でも第2学年でも飼育と栽培の両方を行う方法があろう。また,例えば,小動物を育 てながら一緒に野菜などを栽培して,それを小動物のえさにする方法もあろう。栽培 では第1学年の春から秋にかけて行い,引き続いて第2学年の春にかけて行う方法も 考えられる。各学校において,児童の実態,飼育・栽培に関する環境,活動のねらい に応じて創意工夫することが求められる。 今回の改訂では,特に継続的な飼育・栽培を行うことを強調している。これは,自 然事象に接する機会が乏しくなっていることや生命の尊さを実感する体験が少なくな っているという現状を踏まえたものである。動物や植物へのかかわり方が深まるよう 継続的な飼育・栽培を行うとは,一時的・単発的な動植物とのかかわりにとどまるの ではなく,例えば,季節を越えた飼育活動で成長を見守ること,開花や結実までの一 連の栽培活動を行うことなどである。そのような活動を通してこそ,動植物どちらの 場合も生命の尊さを実感することができると考えられる。児童は,長期にわたる飼育 ・栽培を行うことで,成長や変化,生命の尊さや育て方など様々なことに気付き,親 身になって世話ができるようになるのである。 (3) 国語科,音楽科,図画工作科など他教科等との関連を積極的に図り,指導の効 果を高めるようにすること。特に,第1学年入学当初においては,生活科を中心 とした合科的な指導を行うなどの工夫をすること。 生活科の学習は,教科の性格上,国語科,音楽科,図画工作科など他教科等との 関連が深い。したがって,その指導に当たっては,低学年教育全体を視野に入れて, 他教科等と関連を図りながら進めていくことが求められる。このことは,児童の意識 に沿った充実した活動を展開する上からも,積極的に取り組む必要がある。これにつ --53/82-- -51- いては,学習指導要領の第1章総則の第4の1の(4)でも,「児童の実態等を考慮し, 指導の効果を高めるため,合科的・関連的な指導を進めること」が示されている。 今回の改訂においては,「積極的に」という文言が加えられ,これまで以上に他教 科等との関連を図ることが期待されている。それは,生活科における学習活動が他教 科等での学習材となったり,他教科で身に付けた技能が生活科において発揮されたり して,児童の学習意欲が高まり,一層の学習の効果が期待できるからである。 ここでいう合科的な指導とは,各教科のねらいをより効果的に実現するための指導 方法の一つで,単元又は1コマの時間の中で,複数の教科の目標や内容を組み合わせ て,学習活動を展開するものである。また,関連的な指導とは,教科等別に指導する に当たって,各教科等の指導内容の関連を検討し,指導の時期や指導の方法などにつ いて相互の関連を考慮して指導するものである。 国語科,音楽科,図画工作科など他教科等との関連を図った指導の在り方として, 具体的には次のようなことが考えられる。 第1は,生活科の学習成果を他教科等の学習に生かすことである。 生活科の内容には,他教科等へ発展する可能性をもっているものが多い。例えば, 季節の変化と生活に関する学習活動では,身近な自然を観察したり全身で感じたりす る。そうした活動を通して,自然の変化や四季それぞれの美しさを強く感じ取ること が,言葉や絵,歌などで表現したくなる気持ちにつながる。それは,国語科,音楽科, 図画工作科などにおける学習活動の動機付けとなったり,格好の題材となったりする。 特に,国語科との関連では,見たり,探したり,育てたり,作ったりしたことが, 書こうとする題材に必要な事柄を集めること,事柄の順序に沿って簡単な構成を考え ること,つながりのある文や文章を書くことなどへ発展することが考えられる。生活 科における豊かな体験を,国語科における,報告する文章や記録する文章などを書く 言語活動,説明する文章を書く言語活動,伝えたいことを手紙に書く言語活動などの 題材として活用することは,表現することへの有効な動機付けとなろう。 また,音楽科との関連では,身近な自然を観察したり身の回りのものを使って遊ん だりすることが,歌詞の表す情景や気持ちを想像して歌うこと,音の面白さに気付い て音遊びをすることなどに発展する可能性をもっている。 --54/82-- -52- 指導に当たっては,他教科等には,それぞれの目標や内容があるので,生活科の目 標や内容の実現とともに,関連する他教科等の目標や内容が一層効果的に実現できる よう配慮する必要がある。 第2は,他教科等の学習成果を生活科の学習に生かすことである。 生活科の学習効果をあげるためには,児童が他教科等において既に習得した知識, 技能,能力等を適切に生かして活動を展開する必要がある。これによって,児童は既 習事項の応用範囲を広げ,一層確かなものとして身に付けることになる。 例えば,国語科では,相手に応じて話す事柄を順序立てて話すこと,互いの話を集 中して聞き話題に沿って話し合うことなどの能力を育てる。こうした学習の成果が, 生活科における,生活の様子や地域の出来事を伝え合う活動において発揮され,互い に交流する活動が充実していく。また,図画工作科では,絵や立体工作に表す活動を 通して,身近な材料や扱いやすい用具を手を働かせて使うことができるようにする。 ここで十分に扱い慣れた土,粘土,木,紙,クレヨン,パス,はさみ,のり,簡単な 小刀類などの用具は,生活科での遊びや遊びに使うものを工夫してつくる活動に生か され,その技能や能力は確かなものとして身に付いていく。 このように,他教科等の学習成果を生活科の活動の中で適切に生かすためには,相 互の関連について検討し,指導計画に位置付けておく必要がある。 第3は,教科の目標や内容の一部について,これを合科的に扱うことによって指導 の効果を高めることである。 生活科においては,生活科の特質や低学年の児童の発達の特性などを考慮して,単 元又は1コマの時間の中で,複数の教科の目標や内容を組み合わせて,児童が具体的 かつ総合的に学習できるように工夫することが考えられる。その際,関連した教科の 目標が,生活科の目標とともに実現されていくように配慮しなければならない。例え ば,児童が生活科における活動を歌や踊り,劇によって表現する単元の展開が考えら れる。生活科の活動を基に発表内容を創り上げる際に,国語科,音楽科,図画工作科, つく 体育科等の目標も効果的に実現され,効率的な授業時数の活用を図ることなどが考え られる。 今回の改訂において加えられた,「第1学年入学当初においては,生活科を中心と --55/82-- -53- した合科的な指導を行うなどの工夫をする」とは,上記の第3と関連が深い。児童の 発達の特性や各教科等の学習内容から,入学直後は合科的な指導などを展開すること が適切である。例えば,4月の最初の単元では,学校を探検する生活科の学習活動を 中核として,国語科,音楽科,図画工作科などの内容を合科的に扱い大きな単元を構 成することが考えられる。こうした単元では,児童が自らの思いや願いの実現に向け た活動を,ゆったりとした時間の中で進めていくことが可能となる。大単元から徐々 に各教科に分化していくスタートカリキュラムの編成なども効果的である。 このように総合的に学ぶ幼児教育の成果を小学校教育に生かすことが,小1プロブ レムなどの問題を解決し,学校生活への適応を進めることになるものと期待される。 入学当初の生活科を中核とした合科的な指導は,児童に「明日も学校に来たい」とい う意欲をかき立て,幼児教育から小学校教育への円滑な接続をもたらしてくれる。 生活科では,合科的な指導の推進とともに,前述の第1,第2の扱いも取り入れた 合科的・関連的な指導を展開することが求められている。そのことにより,児童の思 いや願いを生かし,主体的な活動を重視した低学年教育をこれまで以上に充実させて いくことが実現できるからである。なお,こうした学習が,第3学年以降の総合的な 学習の時間において,さらに発展させられることにも配慮する必要がある。 (4) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき, 道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容について, 生活科の特質に応じて適切な指導をすること。 学習指導要領の第1章総則の第1の2においては,「学校における道徳教育は,道 徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間はも かなめ とより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に 応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならない」と規定 されている。 これを受けて,生活科の指導においては,その特質に応じて,道徳について適切に 指導する必要があることを示すものである。 --56/82-- -54- 生活科における道徳教育の指導においては,学習活動や学習態度への配慮,教師の 態度や行動による感化とともに,以下に示すような生活科の目標と道徳教育との関連 を明確に意識しながら,適切な指導を行う必要がある。 生活科においては,目標を「具体的な活動や体験を通して,自分と身近な人々,社 会及び自然とのかかわりに関心をもち,自分自身や自分の生活について考えさせると ともに,その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ,自立への基礎を 養う。」と示している。 自分と身近な人々,社会及び自然と直接かかわる活動や体験を通して,自然に親し み,生命を大切にするなど自然とのかかわりに関心をもつこと,自分のよさや可能性 に気付くなど自分自身について考えさせること,生活上のきまり,言葉遣い,振る舞 いなど生活上必要な習慣を身に付け,自立への基礎を養うことなど,いずれも道徳教 育と密接なかかわりをもつものである。 次に,道徳教育の要としての道徳の時間の指導との関連を考慮する必要がある。 かなめ 生活科で扱った内容や教材の中で適切なものを,道徳の時間に活用することが効果的 な場合もある。また,道徳の時間で取り上げたことに関係のある内容や教材を生活科 で扱う場合には,道徳の時間における指導の成果を生かすように工夫することも考え られる。そのためにも,生活科の年間指導計画の作成などに際して,道徳教育の全体 計画との関連,指導の内容及び時期等に配慮し,両者が相互に効果を高め合うように することが大切である。 --57/82-- -55- 2 内容の取扱いについての配慮事項 (1) 地域の人々,社会及び自然を生かすとともに,それらを一体的に扱うよう学習 活動を工夫すること。 生活科は,地域に根ざし,児童の生活に根ざす教科である。生活科学習の対象や場 は,児童の生活圏にある人,社会,自然である。このように,地域は,児童にとって 生活の場であると同時に大切な学習の場である。しかし,社会が変化し地域の様子が 大きく変わる中,児童が地域の人々,社会及び自然と直接かかわることが少なくなっ てきている。したがって,児童がそれらと直接かかわる学習活動を今まで以上に重視 することが求められる。 そうした中,地域の人々,社会及び自然を一体的に扱う学習活動を工夫することが 求められる。なぜなら,児童が直接かかわる対象や場は,人,社会,自然が一体とな って存在しているからである。また,その発達が未分化な状況にある低学年の児童は, 人,社会,自然を一体的に感じ取り,自分とのかかわりでとらえることが重要だから である。低学年の児童は,人,社会,自然を客観的に区別しながら認識するのではな く,つながりのあるものとして,それらを丸ごととらえていく傾向が強く,そうした 児童の発達の特性を生かした学習活動を行うことを忘れてはいけない。 例えば,町を探検する活動で児童が地域に出かける。児童は,公園,商店,空き地, 畑,駅,停留所,公民館などを見付け,それを利用したり,そこで働いたりしている 人に気付く。また,草,花,虫,林,川などの自然に目を向けることも考えられる。 そこでは,家の庭先に咲く花やそこにいる虫に心を留めたり,花を育てている人に思 いを寄せたりすることも想像できる。このように,児童は地域に出て,人,社会,自 然と出会い,それらをつながりのある一体的なものとしてとらえる。 さらに児童は,関心をもったことについて,見る,聞く,触れる,探すなどして直 接働きかけながら,それらと自分とのかかわりを深め,知的好奇心や探究心などをは --58/82-- -56- ぐくみ,豊かな感性を養い,自立への基礎となる様々な体験を総合的に積み重ねてい く。したがって,児童の側に立ち,児童の思いや願いに沿った必然性のある学習活動 を展開することが重要になる。そのことこそが,地域の人々,社会及び自然を自分と のかかわりで一体的に扱うことにつながる。 (2) 具体的な活動や体験を通して気付いたことを基に考えさせるため,見付ける, 比べる,たとえるなどの多様な学習活動を工夫すること。 これまでの生活科の学習の課題として,学習活動が体験だけで終わり,活動や体験 を通して得られた気付きを質的に高める指導が十分に行われていないという指摘があ った。この項目は,主に気付きの質を高めるという生活科の課題にこたえるために設 けられたものである。 気付きとは,対象に対する一人一人の認識であり,児童の主体的な活動によって生 まれるものである。そこには知的な側面だけではなく,情意的な側面も含まれる。ま た,気付きは次の自発的な活動を誘発するものとなる。したがって,活動を繰り返し たり対象とのかかわりを深めたりする活動や体験の充実こそが,気付きの質を高めていく ことにつながる。一方,気付いたことを基に考えさせるとは,一つ一つの気付きをその ままにしておくのではなく,それぞれを関連付けられた気付きへと質的に高めていくこと をいう。そのために,見付ける,比べる,たとえるなどの多様な学習活動を工夫すること が重要である。このことは,児童の気付きは教師が行う単元構成や学習環境の設定,学 習指導によって高まることを意味しており,今まで以上に意図的・計画的・組織的な授業 づくりが求められる。 例えば,コマを作って遊ぶ活動では,一緒に回して遊ぶ場を適切に用意することで 児童のコマづくりは活性化する。互いにコマを回し合い,どちらが長く回っているか, どちらが強いかなどを競争する姿が生まれるからである。そこには,友達のコマを真 剣に見つめ,自分のコマと比べ,違いを見付け出し,コマを改良していこうとする児 童の姿が生まれる。コマの材料,軸の長さや位置,形などを考え工夫する姿につなが るのである。 --59/82-- -57- また,ダイズを栽培する活動では,それまでの栽培活動を振り返り,次のような児 童の姿が見られた。 「ダイズはさやの中でおへそとおへそがくっついていて,おへそから栄養をもらって いるんだって」 「それなら,ダイズの親は枝で,ダイズがその子どもだね」 「へえっ。なんか,人間みたいだね」 児童は話し合いによって互いの気付きをつなぎ合わせ,ダイズの生命の連続性に気付 き,その発見に驚いている。ダイズにも生命があるということを,人間にたとえて考 え,実感的にとらえている。これは,児童の気付きを適切に取り上げ,つなぎ合わせ る話し合い活動によって生まれたと考えることができよう。 児童は,見付ける,比べる,たとえるなどの多様な学習活動を行いながら,気付き を比較したり,分類したり,関連付けたりして考え,より質の高い気付きを生み出し ていく。そのためにも,児童が自らの気付きを振り返ったり,互いの気付きを交流し たりするような活動を,必要に応じて適切に行うことが工夫されなければならない。 (3) 具体的な活動や体験を行うに当たっては,身近な幼児や高齢者,障害のある児 童生徒などの多様な人々と触れ合うことができるようにすること。 児童の生活は,地域の様々な人々とかかわることによって豊かになっていく。また, それは自立への基礎を養う上でも大切である。しかし,今日の少子化・高齢化などの 影響もあって,人と人とのつながりが希薄化しており,この傾向は一層強まっている。 このような現状と課題を踏まえ,児童が身近で多様な人々と触れ合う機会をつくるこ とはますます重要になってきている。 低学年の児童においても,身近にいる多様な人々と触れ合い,その発達に応じて他 者を尊重する態度や尊敬する気持ち,共に生きていくという考え方をはぐくむことは 大切である。また,異なる文化や習慣を持つ人々,障害のある人々とわけへだてなく 交流できるようにすることも大切である。 ここでの多様な人々とは,学校生活や家庭生活を支えてくれる人々,近所の人々や --60/82-- --60/82-- -58- 店の人などはもとより,身近な幼児,高齢者,障害のある児童生徒などであり,それ らの中から学校や地域の実態に応じて適切に選択することになる。 多様な人々と触れ合う活動については,日常的にかかわれる人との活動を基本にす る。また,具体的な活動や体験をする中で触れ合うことができるようにするものであ り,多様な人々について,それだけを取り出して指導したり単元を構成したりするの ではない。例えば,学校を探検する活動では,校内にある特別支援学級の児童との交 流を図り,一緒に校内の施設を利用したり遊んだりする。こうしたことを契機にして, 児童同士で休み時間に一緒に遊ぶようになることなどが期待される。特に,今回新設 された内容(8)「生活や出来事の交流」を他の内容と関連させることにより,学校の 友達や家族をはじめとした身近な人々からはじまり,地域の人々へと触れ合いや交流 の輪が広がっていく姿を期待している。 (4) 生活上必要な習慣や技能の指導については,人,社会,自然及び自分自身にか かわる学習活動の展開に即して行うようにすること。 生活科は,生活上必要な習慣や技能を身に付けることをねらいの一つにしている。 生活上必要な習慣や技能とは,遊んだり学習したり,人と触れ合ったり,豊かに生活 したりするために必要な習慣や技能であり,よき生活者としての自立への基礎を養う ものである。 生活上必要な習慣や技能の指導に当たって重要なことは,それだけを取り出して指 導するのではないということである。人,社会,自然及び自分自身にかかわる学習活 動の展開に即して,それぞれの具体的な場面で,その必要に応じて適切に指導するこ とである。 例えば,地域の人から話を聞こうとすれば,あいさつや言葉遣いは大切である。公 共施設などを利用すれば,そこでのルールやマナーを守ることが求められる。身近な 自然を利用したり,身近にある物を使ったりなどする遊びは,手や体,様々な道具を 使うことができて一層楽しいものになる。 このような内容について指導の効果を高めるためには,あいさつをした心地よさ, --61/82-- -59- 後始末をしたあとのすがすがしさ,道具を上手に使ってものづくりができた満足感な ど,こうした体験から得られた感情を積み重ねていくことが大切である。また,児童 一人一人に応じて,機会をとらえて的確に指導することが大切である。指導計画の作 成に当たっては,どのような場面で,どのような指導が必要になるかを想定し,その 内容や方法を指導計画に位置付けておくことが必要である。 --62/82-- -60- 第5章 指導計画の作成と学習指導 第1節 生活科における指導計画と学習指導 生活科の学習活動を充実したものとして展開するに当たっては,学習指導要領の目 標及び内容を踏まえ,年間指導計画,単元計画などの指導計画を綿密に作成すること が必要である。また,指導計画を具現するために,生活科学習の特質を生かした適切 な学習指導を行うことが大切である。各学校においては,この第5章を参考にして, 指導計画や学習指導についての見直しや改善を進めることが期待される。 1 指導計画の作成と特質 生活科の学習において,児童が自ら学び,自ら考え,主体的な学習ができるようにする ためには,指導計画を作成することが重要である。生活科では,特に三つの点が大切であ る。 ○ 具体的な活動や体験が十分にできる時間的な視点 ○ 主体的な活動の広がりや深まりを可能にする空間的な視点 ○ 学習の対象にじっくりと安心してかかわることのできる心理的な視点 これらを相互に関連させて児童の目線に立った指導計画を作成する必要がある。 生活科では,前回の改訂より内容を2学年まとめて示している。このことは,2年間 という見通しの中で,低学年の児童が身近な人々,社会及び自然と直接かかわる活動や体 験を一層充実できるようにすることを意味している。どの内容を,どの学年で扱うか,両 学年とも扱うか,また,複数の内容を関連させて単元を構成するかなど,創意工夫するこ とが大切である。 児童の思いや願いを生かし,主体的な活動ができるようにするには,教室という限られ た空間だけでは不十分である。校内はもとより,地域にあって児童の活動にふさわしい学 習環境を把握するとともに,それらの効果的な活用を指導計画に適切に位置付ける必要が --63/82-- -61- ある。また,低学年の児童の発達に即した活動が行われてこそ,児童は学習の対象にじっ くりとかかわることができる。多くの手順を必要としたり,一つ一つ指示がなければ行え なかったりするような活動は慎まなければならない。 なお,指導計画を作成するに当たっては,学習指導要領の内容を踏まえ,地域の特性や 児童の実態,授業時数などを考慮し,単元や学習活動を適切に配置することを心がけなけ ればならない。 2 学習指導の特質 生活科の学習指導の特質は,以下の五つが考えられる。 第1に,児童の身近な生活圏を活動や体験の場や対象にすることである。 生活科では,児童が身近な生活圏において,本来一体となっている人,社会,自然とか かわりながら,自らの興味・関心を発揮して具体的な活動や体験を行う。身近な生活圏を 学習の場や対象にする意義は,授業はもとより,それ以外の時間でも繰り返しそれらに働 きかけ,かかわることができることにある。したがって,いたずらに学習の場や対象を広 げるのではなく,一つ一つにじっくりとかかわったり,繰り返しかかわったりすることの できる学習活動が大切である。 第2に,児童が身近な人や社会,自然と直接かかわる活動を重視することである。 児童の身近にある対象は,手で触れたり全身で感じ取ったりして直接かかわること のできる対象である。それは,児童一人一人にとって強い興味・関心を生み出すもの であり,学習活動を推進する大きな原動力となる。生活科においては,かかわりを通 して対象を認識することを重視しており,その意味からも直接体験を欠かすことはで きない。 第3に,児童の思いや願いをはぐくみ,意欲や主体性を高める学習過程にすること である。 生活科では,一人一人の児童の思いや願いの実現に向けた活動を展開していく。そ のためには,例えば,人,社会,自然との出会わせ方を工夫することが考えられる。児 --64/82-- -62- 童が強い思いや願いをもつことができれば,単元を通して意欲的に学ぶことが可能になる からである。このように,生活科では,児童の興味・関心を踏まえ,適切な出会いの場を 用意するとともに,その思いや願いがさらに膨らむような学習過程を展開していくことが 大切である。また,その過程において,生活上必要な習慣や技能を身に付けることも求め ている。 第4に,働きかける対象についての気付きとともに,自分自身に気付くことができ るようにすることである。 生活科では,具体的な活動や体験を通して,かかわる対象への気付きが生まれることが 大切である。それとともに,一人一人が以前の自分より向上し,成長したことに気付くこ とを大切にする必要がある。単元の始めにはできなかったことが,できるようになってい たり,それまで気付かなかった自分のことに目が向くようになっていたりすることが大切 である。それは,児童が自分自身をよりよく理解し,自分のよさや可能性についての気付 きを深め,そのことによって生活することへの意欲や自信を一層高めることにつながるか らである。 第5に,児童の姿を丁寧に見取り,働きかけ,活動の充実につなげることである。 生活科で学ぶ児童の姿は様々に広がり,一人一人にその児童の個性が反映されてい る。生活科では,そうした多様な児童の発言やしぐさを丁寧に見取り,指導に生かすこ とが大切である。そのためには,児童が感じ取った事柄を,教師が尋ね返したり問いかけ たり共感したりするなどの言葉かけや働きかけをして,児童の発言やしぐさの背景を深く 理解しなければならない。教師は,それを言葉に出して意思の疎通を図ったり,児童の思 いに共感したりしていくことが重要である。そうして,児童に寄り添い,児童と同じ目線 で学習活動を見守り指導していくことが,活動の充実につながるのである。 --65/82-- -63- 第2節 年間指導計画の作成 第1章の2及び3で述べられた課題及び改訂の趣旨,学習指導要領の改訂内容を踏 まえて,一層充実した年間指導計画を作成する必要がある。以下に,年間指導計画の 作成において配慮すべき点を解説する。 1 児童の実態に対応する 生活科は,一人一人の思いや願いを生かす学習を重視する。すなわち具体的な活動 や体験を通して考え,工夫し,問題を解決しながら,自らの思いや願いを実現してい く学習過程を大切にしている。また,生活科は,児童が身近な環境に直接働きかける と同時に,働き返されながら学ぶという特質をもち,主体的な活動による一人一人の 体験が重視されている。このことから,個々の児童が興味・関心を向ける対象や,活 動への思いや願い,これまでの体験や既に身に付けている習慣や技能などを事前に把 握し,活動への意欲を高め,積極性を引き出すことが必要である。 生活科を学習する低学年の児童は,個別の学習活動から協同的な学習活動ができる ようになる発達の時期にいる。一人一人が好きなことをしていた遊びも,友達と協力 して取り組む遊びへと変わってくる児童の姿が見られる。こうした時期にあることを 踏まえて,個別の学習活動とともに,協同的な学習活動によって得られる体験を大切 にする。協同的な学習活動による体験は,互いの思いや願いを尊重しつつ活動の方向 を決め,活動を創り出していくという体験であり,一人一人の児童が社会性を高めて つく いく上で大切な体験である。 こうしたことから,指導計画の作成に当たっては,一人一人に即して個別性と協同 性の両面にわたる観点から児童の実態を的確に把握し,個々の児童に対応した指導が できるようにすることが大切である。 そのためにも,一人一人の児童が,これまでどのような自然に触れる活動や体験を 行ったことがあるか,動物を飼ったり植物を育てたりした体験はあるか,地域の様子 --66/82-- -64- や人々への興味や関心の向け方はどうか,生活上必要な習慣や技能をどの程度身に付 けているか,家庭や地域での生活や友人関係の実態はどうか,言葉や絵等による表現 力の育ちはどうか,集団による活動の体験をどの程度もつか,学習を進める上で特別 な困難はあるか,などについてあらかじめ的確に把握する必要がある。これらのこと が,指導計画に反映されて,はじめて一人一人の活動や体験が充実したものとなり, その広がりや深まりが期待できるのである。 このように,児童の実態を把握するに当たっては,日常の姿にとどまらず,家庭を はじめ,幼児教育を担う幼稚園や保育所などの協力を得ることも大切である。その際, 直接の聞き取りや調査用紙によるもののほか,幼児教育にかかわる施設等を訪問して, 指導に当たる人々との交流を深め,実際の保育や教育内容,指導方法などの理解に努 めることも大切である。 なお,今日の学校教育が対応すべき課題となっている,発達障害のある児童をはじ め,特別に配慮を要する児童の実態把握と理解も大切である。学習上の障害や困難を 適切に把握することは,児童へのきめ細かな指導や支援に欠かせないものである。 2 地域の環境を生かす 地域は,児童にとって生活の場であり学習の場である。したがって,地域の素材や 活動の場などを見出す観点から地域の環境を繰り返し調査し,それらを教材化して最 大限に生かすことが重要である。 例えば,通学路の安全を守っている人々,地域で生活したり働いたりしている人々, 公共の物や場所や施設,身近に見られる動植物やそれらが生息し生育する場所,地域 で行われる行事など,児童の活動や体験を具体的に思い描きながら調査し,把握する ことが指導計画を作成する上で役立つものとなる。 また,学校の環境も大切な活動や体験の場である。児童にとっては,学校も地域の 環境の一部であり,地域社会への入り口である。したがって,学校で働く人々や学校 を訪れる様々な人々,校地内の物や場所や施設,そこに見出すことができる自然,学 --67/82-- -65- 校で計画される行事などを,地域に見られる人や社会,自然などと関連付けて把握す ることも大切である。 地域の環境を調査して見出した学習の素材や人材,活動の場などを,例えば,生活 科マップや人材マップ,生活科暦などとして整理し,有効に活用することは大切なこ とである。しかし,これらを固定的にとらえ,変化を見逃すようなことがあってはな らない。1年間という時間の経過によるものだけでなく,絶えず地域の環境は変化す るものである。季節や時刻,毎日の天候や気温などによって,身近な自然とともに, 地域の人々の暮らしの様子や人々の動きも変化する。したがって,既に一度作成され た生活科マップや人材マップ,生活科暦なども絶えず見直し,指導計画の充実に生か して柔軟に活用できるようにしておくことが大切である。 さらに,動植物の飼育や栽培の活動をはじめとして,生活科の活動は季節と密接に 関連している。指導計画の作成に当たっては,季節の変化に対応させることが大切で ある。その際,季節の訪れは地域によって異なることから,地域の気候の違いに配慮 した指導計画が求められる。例えば,北国と南国では,生き物の動きが活発さを増す 季節,栽培活動を始める時期,暮らしや遊びの様子が変わる節目に大きな差がある。 したがって,四季の変化に伴う活動を織り込んだ指導計画を作成する際には,活動に 最適な時期はいつか,どの季節から始めるのがより適切か,なども検討する必要があ る。 なお,生活科では,地域の伝統的な行事や,近年各地で行われるようになった地域 のイベント的行事などを学習の素材として取り上げることもある。しかし,公立及び 国立の学校においては,宗教教育が禁止されていることを踏まえて,その学習活動が 特定の宗教や宗派のための教育にならないように,十分に留意する必要がある。 3 指導体制を整える 生活科は,一人一人の思いや願いが尊重され,その実現に向けた具体的な活動や体 験が重視されるため,個々の活動は多様なものとなる。したがって,一人一人の活動 --68/82-- -66- を支援し指導するためには,その体制を整え工夫することが必要である。また,今日, 大きな課題となっている学校や地域における児童の安全確保は,低学年の生活科にと どまらず,全校的な教育課程の編成,実施上の課題である。このことからも学校とし ての指導体制を十分整えることが重要である。 学校においては,人を含めた校内環境のすべてが具体的な活動の対象になることか ら,特にその指導の効果が上がる協力体制づくりが必要である。また,児童の活動内 容や活動の場の多様性にこたえるためにも,教師の協力的な指導は欠かせないもので ある。複数の教師がその役割を明確にして指導することや,あらかじめ活動の意図を 伝え,全校的な支援の中で児童の活動が展開できるような体制をつくることが必要で ある。また,その際,協力体制を当該の教師だけにとどめず,すべての教職員に広げ ることも大切である。 また,生活科は地域の身近な環境とのかかわりから直接学ぶという特質があること から,保護者や地域の人々,公共施設や関係機関の人々の協力が得られる体制づくり も必要である。児童の思いや願いを生かした多様な活動にこたえたり,地域での活動 が安全に行われたり,地域の施設や人々とのかかわりを深める活動を展開するために は,これらの人々の協力は欠かせないものである。このことから,例えば,児童の活 動に一緒に参加できる,動植物の飼育や栽培に助言できる,町内会や商店街や公共施 設などへの連絡や調整ができる,というような協力を得られる人々を見付け,これら の支援を受けて,児童の生き生きとした活動が展開できるような指導体制をつくるこ とが必要である。 なお,これらの人々に協力を求める際には,生活科の趣旨をはじめ,指導計画や活 動の目的,具体的な支援の内容や範囲を明確に伝えるなどして,児童が主体的な活動 を行えるよう配慮することが大切である。また,必要に応じて児童の活動の様子を伝 えてもらうなどして,その後の教師の指導に生かすようにすることも大切である。 さらに,今回の生活科の改訂では,幼児教育から小学校への円滑な接続を図る一環 として,児童が自らの成長を実感できるよう,低学年の児童が幼児と一緒に学習活動 を行うことなどに配慮することが求められている。また,教師の相互交流を通じて, 指導内容や指導方法について相互理解を深める重要性が指摘されていることからも, --69/82-- -67- 改めて近隣の幼稚園や保育所など,幼児教育に携わる人々と交流し,協力体制づくり に努める必要がある。その際,幼児と児童の交流が互恵的,継続的,計画的に行われ るよう,相互に年間計画に位置付けたり,事前や事後の打ち合わせを行ったりするこ とが大切である。 4 授業時数を適切に割り振る 指導計画の作成に当たっては,内容や活動に応じて年間授業時数を適切に割り振る ことが大切である。生活科の年間標準授業時数は,学校教育法施行規則別表第1(第 51条関係)で,第1学年102単位時間,第2学年105単位時間と定められている。 授業時数の割り振りに当たって,第1に配慮すべきことは,年間標準授業時数の範 囲内で生活科の目標が実現できるように,2年間を見通した計画の中で内容の配列を 工夫し,単元を構成することである。その際,校外での活動を積極的に取り入れると ともに,児童が具体的な活動や体験を十分にでき,学習の対象にじっくりとかかわる ことができるようにすることが大切である。また,季節や時刻による地域の環境の変 化にも留意し,必要に応じてまとまった活動の時間をとったり,活動の時期を集中し たりするなど,弾力的な単元構成の工夫も必要になる。さらに,例えば,育てている 動物や植物の世話のように,常時活動に位置付けた方がより適切だと思われる活動に ついては,その活動内容を十分吟味して,あらかじめ学校の教育活動の中に一定の時 間を位置付けておくなどの工夫も考えられる。 第2に,飼育・栽培活動について,動物と植物の双方を2学年にわたって継続的に 育てるための,授業時数の割り振りの配慮である。これらの取扱いでは,これまで一 部に動物の飼育をやめ栽培活動のみを行う事例や,動物とのかかわりに継続性を欠き, 短期的な触れ合いにとどまる事例が見られたとの指摘もある。このことから,今回の 改訂では,自然や生命に接する機会が乏しくなっている現状を踏まえ,動物と植物の 双方を自分たちで継続的に育てることが一層重視され,指導の充実に向けた配慮が求 められている。すなわち,指導計画の作成に当たっては,第1学年では飼育,第2学 --70/82-- --70/82-- -68- 年では栽培,あるいはその逆の取り上げ方が適当であるのか,それとも,第1学年, 第2学年共に飼育と栽培の両方を行うことが適当であるのか,などを十分に検討する ことが必要である。いずれにしても,どのような取扱いが適当であるかについては地 域や児童の実態から判断し,授業時数を適切に割り振ることが大切である。 第3に,生活科の指導では,国語科,音楽科,図画工作科など他教科等との関連を 積極的に図り,指導の効果を高めるようにすることが大切である。また,今回の改訂 では,特に第1学年入学当初においては,生活科を中心とした合科的な指導を行うな どの工夫をすることとされた。したがって,他教科等の目標の実現と合わせ,授業時 数の適切な割り振りに一層配慮する必要がある。なお,他教科等との合科的・関連的 な指導については,以下の5で述べることとする。 5 2年間を見通し立案する 生活科では,単元と単元のつながりや関係を意識することが大切である。例えば, 季節に応じて単元を配列すること,特定の対象を中心に複数の単元を関係付けること, ストーリー性を重視して単元を連続すること,などが考えられる。学校や地域の特色, 児童の実態等に応じて,2年間を見通した年間指導計画を作成することが大切である。 なお,今回の改訂では,入学当初をはじめとした低学年の時期において,生活科が 中心的な役割を担いつつ,他教科等との合科的・関連的な指導の一層の充実を図るこ とが求められている。これは,指導計画の作成に当たって,幼児教育から小学校教育 への円滑な接続を図るためには,児童の学習環境についての見直しが必要であるとい うことを示唆している。また,低学年児童の発達は未分化な特徴をもつことから,こ のような工夫は必ずしも入学当初に限らず,2年間にわたって積極的に行うことが大 切である。この場合,生活科だけの指導計画の作成にとどまらず,低学年教育の全体 を視野に入れた教育課程の創意工夫が必要である。 幼児教育と小学校教育の接続とともに,2年間における児童の成長や第3学年以上 の学習への接続にも留意することが大切である。指導計画の作成に当たっては,児童 --71/82-- -69- の成長や発達を見通し,2年間の中で具体的な活動や体験が拡充されるようにするこ とが大切である。そのためには,学年による発達の特性に十分留意し,体験や気付き の質が着実に高まるような工夫をすることが求められる。低学年の児童の知的な発達 や行動力の伸長は目ざましく,第1学年と第2学年では,対象への関心の向け方やか かわり方にも違いがある。また,学年が進むにつれ,具体的な活動への思いや願いも, 情緒的なものから次第に知的なものへと比重が増してくる。したがって,単元を作成 するに当たっては,学習対象の選び方や学習活動の構成が変わってくることが考えら れる。生活科では,このような2年間を見通した指導計画を作成することによって, 身の回りの対象への見方や考え方を広げ,思考力を伸ばし,気付きの質を高めていく ことにつながるようにしていくことが大切である。 また,生活科の学習内容や方法が,第3学年以上の教科等にも密接に関連している ことを理解する必要がある。生活科における身近な人々や社会,自然の事物や現象に 直接ふれる学習は,社会科や理科の学習内容に関連している。また,それらを一体的 に学ぶことや自分自身や自分の生活について考えること,具体的な活動や体験を通し て考え,問題を解決しながら自らの思いや願いを実現していく学習は,総合的な学習 の時間にも連続し,発展していく。生活科は,学習の内容的な側面と方法的な側面で, 第3学年以上の教科等に深く関連していると言える。 しかし,このような関連を踏まえつつも,ことさら知識や理解の系統性に目を奪わ れることがあってはならない。一見同じように見える活動でも,学習のねらいはそれ ぞれに異なっている。例えば,生活科で取り扱われる内容(3)の「働いている人々」 とのかかわりでは,一人一人の認識としての気付きを重視し,「親しみ」をもって接 することが大切であり,働く人の社会的役割を共通に理解させることをねらいとする ものではない。また,内容(6)の「遊びに使うものを工夫して」つくる活動でも,児 童の思いや願いを大切にした多様な活動を行う中で,「その面白さや不思議さ」に気 付くことが重視され,限定された特定の素材の働きや性質などを学ぶこととは異なる。 このように,社会科や理科,総合的な学習の時間等との違いや関連を理解しつつ, 生活科のねらいを実現させていくことが大切である。このことが,第3学年以上の学 習に発展していく。 --72/82-- -70- 第3節 単元計画の作成 生活科の単元は内容(1)〜(9)を基に,児童の思いや願いの実現に向けた学習活動が 意図的,計画的に構成されなければならない。生活科の単元には,次のような特徴が ある。 ○ 児童の思いや願いの実現に向けた必然性のある学習活動で構成する。 ○ 具体的な活動や体験の中に,児童一人一人の思いや願いに沿った多様な学習活 動が位置付く。 ○ 学習活動を行う中で,高まる児童の思いや願いに弾力的に対応できる柔軟性が ある。 ○ それぞれの学校や地域の特性を把握し,そのよさを生かす。 このような生活科の単元の特徴を大切にし,それぞれの学校で創意工夫ある単元計 画を作成することが求められる。その際,以下の点に配慮する必要がある。 1 内容の組合せ 生活科においては,複数の内容で一つの単元を構成することが考えられる。それは, 児童の意識を重視して単元を構成するからである。また,学校や地域の特性を生かす からである。 例えば,内容(3)「地域と生活」の単元を構想する場合,内容(4)「公共物と公共施 設の利用」と関連付けて単元を構成することが考えられる。それは,学校の周辺の地 域を探検する中で,図書館や博物館などの公共施設を見付け,公共施設の利用に関す る活動に必然的に発展することが容易に想定できる場合である。また,そのことが児 童の意識の流れに沿っていると考えられる場合である。一方,地域の特性によっては, 学校周辺の地域に公共施設がない場合なども考えられる。そうした学校では,内容(4) については,単独で構想することも考えられる。 このように,児童の意識と学校や地域の特性を勘案して,児童の目線に寄り添った --73/82-- -71- 豊かな単元を構想することが大切である。これは,児童が身近な人々,社会や自然が 一体的に構成された環境の中で生活しているからである。また,低学年の児童は身近 にある自然や社会を一体的に認識する発達の段階にあり,限られた学習対象を取り出 して学習を進めていくことは難しいからでもある。 こうして複数の内容を組み合わせることにより,児童の学習意欲や気付きの質が高 まるものと期待できる。一人一人の学習活動に関連性や連続性,発展性が生まれ,児 童の思いや願いが一層高まり,思考が深められていくからである。その際,第3章第 1節の2や3及び4を参考にして各内容の構成要素を丁寧に分析し,各内容のどの部 分を反映させた単元構成であるかを検討し,教師が意識しておく必要がある。 2 学習活動の組織化 学習の対象を何にするか,どのような活動を行うか,単元全体として学習活動をど のように組み合わせて展開していくか等は,単元を構成する際の中核となるポイント である。各内容の構成要素を視野にいれながら学習活動を組織し,単元の構想を具体 化する必要がある。 その際に,配慮することの一つ目として,児童の興味や関心がある。日常生活にお いて,児童はどのようなことに興味を抱いたり関心を寄せたりしているのか,それを 具体的にとらえ,児童の立場から考えることから単元づくりが始まる。 二つ目は,学習対象や学習材のもつ可能性である。生活科の学習を支えているもの は,対象と出会い,学習を進める中で生まれてくる対象への思いや願いである。対象 とのかかわりが深まるにつれ,また,かかわる期間が長くなるにつれ,思いや願いは 高まっていく。児童の思いや願いが高まる可能性のある対象を選定し,学習材のよさ が引き出されるようにすることが大切である。 三つ目は,こうして選定された学習対象によって具体的な学習活動を想定すること である。具体的な学習活動は単元の目標を達成していく上で重要な要素であることか ら,今までの各学校での取組を振り返りながら,よりよい学習活動へと吟味していく ことが必要である。例えば,単元計画の段階では「探検する」「遊ぶ」「調査する」「飼 --74/82-- -72- 育する」「栽培する」「製作する」「交流する」「企画する」などの多様な学習活動が 考えられよう。それらをどのように組み合わせていくかが大切になる。 四つ目は,単元の学習過程の中で,個と集団の学習を効果的に配置していくことで ある。それは,一人一人の思いや願いの実現を目指した学習を大切にするとともに, グループや学級全体の場で発表したり,話し合ったりするなどの学び合いも重視した いからである。 五つ目は,学習活動の繰り返しである。それは,繰り返すことによって,対象との かかわりが深まり,児童の気付きの質が高まるからである。繰り返しかかわる学習活 動では,例えば,一回目の観察,二回目の観察などと学習過程に位置付け,それぞれ の段階で必然性のある指導計画とすることが大切である。また,飼育や栽培活動のよ うに日常的に一人一人が活動を繰り返す場合の計画も考えることが大切である。 3 発達・成長への配慮 学習指導要領では9項目の内容を2学年まとめて示してある。9項目の内容の中に は両学年で取り上げる内容(7)もあるが,その他については,どの内容をどの学年 で扱うかは,各学校に任されている。各学校においては,同じ内容でも実施する学年 によって単元の構成が変わることに配慮する必要がある。 配慮することの一つ目は,低学年の児童は身近な学校や地域を,どのようにとらえ ていくか,ということである。児童は日々の学校生活を通して,教室から学校全体へ, 自分の通学路や学校の周囲へと認識できる空間が広がっていく。しかし,それらに対 する認識は,点と点としてのつながりであり,平面的な広がりをもつものにはなりに くい。生活科の学習を通して地域の事象とかかわりながら,児童は自らの行動半径を 広げ,空間的な認識を拡大していく。 二つ目は,低学年の児童は,思い出したり振り返ったりするということについて, どのようにして行っていくか,ということである。低学年の児童においては,過去の ことを順序正しく想起できるとは限らず,児童それぞれが独自の時間の感覚をもって いる。したがって,単一の時間軸で振り返ったり思い起こしたりすることが難しいこ --75/82-- -73- とになる。対象と継続的にかかわったり,自己の成長を振り返ったりする活動を通し て,共通の時間軸が形成され,徐々に時間に対する感覚が確かになっていくのである。 三つ目は,技能の違いである。生活上必要な技能は,児童自身が具体的な活動や体 験を通して習熟すべきものである。単元を構想する際には,技能などの習熟の実態を 把握して学習対象や学習活動を考えなければならない。学習活動によっては技能の難 易,習熟の度合いが学習の安全性や充実度にも影響することから,活動場面での配慮 や工夫が求められる。また,同学年であっても技能の習熟状況には差があることから, 個に応じた指導を丁寧に行う必要がある。近年は生活体験の不足から手先の巧緻性な ち どに課題が見られる児童が多いが,生活科での具体的な活動や体験を通して,技能を 習熟させ,身に付けさせていくことも重要である。 4 評価の在り方 具体的な活動や体験を重視する生活科の学習では,とりわけ評価は重要な意味をも っている。生活科の評価は,結果よりも活動や体験そのもの,すなわち結果に至るま での過程を重視している。学習過程における児童の関心・意欲・態度,思考や表現, 気付き等を評価し,目標の達成に向けた指導と評価の一体化が行われることが求めら れている。そのためにも単元の目標を明確にするとともに,評価計画を立て,評価規 準をあらかじめ設定しておかなければならない。 また,教師の評価が,より信頼性の高い評価となるように,様々な立場からの評価 資料を収集することも大切である。教師による行動観察や作品・発言分析等のほかに, 児童自身による自己評価や児童相互の評価,さらにはゲストティーチャーや学習をサ ポートする人,家庭や地域の人々からの情報などを収集することで,児童の姿を多面 的に評価することが可能となる。このような評価資料によって一人一人の児童の学習 の状況に即した指導が可能となる。 1単位時間での評価の大切さは言うまでもないが,生活科では単元全体を通しての 児童の変容や成長の様子をとらえる長期にわたる評価も重要である。また,授業時間 外の児童の姿の変容にも目を向け,評価の対象に加えることが望まれる。 --76/82-- -74- 児童の学習状況の評価のほかにも,学習活動や学習対象の選定,学習環境の構成, 配当時数などの単元計画や年間指導計画などについての評価を行い,今後の授業改善 や単元構想に生かすことも大切である。 生活科の学習の基礎にあるのは児童理解である。学習対象も,学習活動も,目の前 の児童の様子を思い浮かべながら選定され,構想されていく。実際の学習場面でも, 児童が様々に表現する思いや願いを共感的にとらえ,一人一人の多様な学びや育ちを 読み取り,よさを発揮できるように支援していかなければならない。このように生活 科における児童理解は,学習活動の進展と共に深化し,活用されていく。児童の思い や願いの実現を目指した授業を創り出すには,共感的な児童理解の力を,教師が日々 つく の授業を通して高めていくことが不可欠なのである。 --77/82-- -75- 第4節 学習指導の進め方 生活科は,児童が充実した活動や体験をするとともに,そのことで生まれる気付き が大切である。この気付きが質的に高まることによって,活動や体験は一層充実した ものへと変容し,実際の生活における資質や能力及び態度は確かなものとして身に付 いていく。ここでは,生活科における気付きの質を高めることを中心に,学習指導の 進め方を述べる。 1 振り返り表現する機会を設ける 生活科では振り返りの活動として,これまでも言葉などによる表現活動が位置付け られてきた。活動や体験したことを言葉などによって振り返ることで,無自覚だった 気付きが自分の中で明確になったり,それぞれの気付きを共有し関連付けたりするこ とが可能になるからである。 気付いたことを基に考えさせ気付きの質を高めるためには,見付ける,比べる,た とえるなどの多様な学習活動の工夫が求められる。児童は,表現することで活動や対 象を見つめ直したり,過去のことや周りのことと比べたりして気付きの質を高めてい く。中でも,言葉などによる表現とかかわりが深いのは,たとえる学習活動である。 児童は,諸感覚を生かした豊かな体験をすることで,「ぶどうみたいな実を見つけた よ」「みかんのようなにおいがしたよ」などと,体験したことをこれまでの体験につ なげて表現する。ここでの気付きは,それまでの気付きと関連付けが図られた,より 確かなものになっている。雲を眺めながら「白くてふわふわだったよ」と児童がつぶ やいたとき,教師が「何みたいに」と投げかけることで「綿菓子みたい」「うさぎさ んのように」などと児童は考え,言葉で表現する。そこでは,「昨日の雲は違ったよ」 「今日はモクモクしている」「明日の天気はどうなのかな」と,児童の気付きは質的 に高まっていくのである。このような教師の働きかけ,言葉かけも重要である。 --78/82-- -76- 2 伝え合い交流する場を工夫する 児童は,体験したことや調べたことを伝え合う中で,「友達が調べているあのお店 の人も,早起きして頑張っているんだ」「友達が調べている大工さんも名人なんだ」 「お年寄りがよく使う公園もあるんだな」など自分が発見したことと友達が発見した こととを比べ,似ているところや違うところを見付ける。そうして,「わたしが調べ ているお店の人は,ほかにどんなことを頑張っているのかな」「ほかに,名人がいる かな」「ぼくが調べている公園もお年寄りが使うのかな」などと,次々に調べたいこ とを明らかにして,再び地域に出かけていく。このように,互いに伝え合い交流する 活動は,集団としての学習を高めるだけではなく,一人一人の気付きを質的に高めて いく上でも意味がある。生活科の学習では,一人一人の気付きを全員で共有し,みん なで高めていくことが重要である。 一方,幼児をはじめ異学年の児童や地域の人々などに体験したことや調べたことを 伝える活動も行われる。このような活動では,伝えたい気持ちが高まる一方で,伝え たいことを確実に把握していないと相手には伝わらない。時には,相手の反応から足 りないところに気付き,次なる活動が明確になることもある。また,身の回りの人々 から称賛されることによって,意欲の向上が図られることもある。相手意識,目的意 識などが,児童の学習を促進することになる。活動や体験を重視する生活科において は,他者と伝え合い交流する活動を大切にする必要がある。 3 試行錯誤や繰り返す活動を設定する どんぐりゴマを作って遊ぶ児童は,集めてきたどんぐりや身近な物を準備し,何度 も何度も作り直す中で,どんぐりの大きさや形,軸の立て方,回し方などによって, 回り具合が違うことに気付き,よく回るどんぐりゴマは,これだと納得する。このよ うに,試行錯誤を繰り返し,条件を変えて試してみる過程で,どんぐりゴマの作り方 への気付きが質的に高まっていく。 --79/82-- -77- ある児童は,石の下にコオロギを発見したことから,「どんなところにコオロギが いるか」を調べ始めた。何度も何度もコオロギを探す中で,「側溝の中」「草むらの 中」「ベンチの下」など,コオロギがいる場所の特徴が見えてきた。すると児童は, 「コオロギの好きな場所は,暗くてじめじめしたところかもしれない」とコオロギの 生息場所を予想し,コオロギのすみかを探すようになった。 また,一人一人の児童が,異なる野菜を栽培してきた学級では,毎日の水やりや草 取りなどの世話を繰り返すうちに「ミニトマトもナスもキュウリも,どれも花が咲い たところに実がなります。別の野菜もみんな同じです」「でも,つるが伸びるのはキ ュウリだけです」と植物の斉一性や多様性に気付いていった。 繰り返し自然事象とかかわったり,試行錯誤して何度も挑戦することは気付きの質 を高めることになるとともに,事象を注意深く見つめたり予想を確かめたりするなど の科学的な見方や考え方の基礎を養うことにもつながる。このように教師は,条件を 変えて試したり,再試行したり繰り返したりすることができる学習活動を用意し,学 習環境を構成することを心がける必要がある。 4 児童の多様性を生かす 児童の思いや願いに寄り添うことは,学習活動に多様な広がりを生み出す要因となる。 なぜなら,児童一人一人には違いや特性があり,それは活動とともに変化するからである。 また,教師のかかわり方や児童相互のかかわり方によっても変化するからである。したが って,教師は,こうした児童が示す多様性を生かすようにし,児童の学びをより豊かにし ていくことが重要である。 児童の学習活動が多様であるということは,それぞれの気付きも多様であるという ことである。例えば,校内の様々な場所を探検する学習活動では,校長室に入ったり, 保健室の養護教諭に話を聞いたり,給食室の調理員の仕事を見せてもらったりする。 出会いの中で,一人一人の児童が気付くことは違っていても,それぞれの違いや共通 点を見出す中で,「学校にはいろいろな人がいて,ぼくたちのために一生懸命働いて --80/82-- --80/82-- -78- くれている」と気付きを質的に高める児童の姿が期待できる。 児童が活動しないままにじっとしていれば,児童相互の多様性は生かされにくい。しか し,具体的な活動や体験を通して,互いにかかわり合う状況に身を置けば,今まで見えな かった他の児童との共通点や相違点,児童自身のよさが見えてくる。それぞれの児童が自 らのよさを発揮できるようにするとともに,互いのよさやそれぞれの気付きを共鳴させる ことが,生活科の学習指導では大切である。学級全体の中に,多様性を尊重する風土を醸 成し,互いが異なることを認め合える雰囲気作りをしていくことが大切になってくる。 生活科では,よき生活者としての資質や能力及び態度の育成を重視している。これ は,まさに実社会や実生活と直接かかわる学習活動でこそ実現できる。 生活科の学習で身に付けた資質や能力及び態度は,児童の実際の生活の中で改めて 生かされ,一層強化されていく。このことこそが,自立への基礎につながる。 児童は,「今日はどうかな」「明日はどうなるのかな」と日々の生活を楽しみにし, 明日を心待ちにしながら過ごし,自分の世界を広げていく。そして,自らの学習活動 を豊かな表情と言葉で語り,その価値を実感する。 教師は,そのような児童の姿を見守り支えながら,意欲と自信をもって生活しよう とする児童の育成に向かって,日々取り組んでいくことが求められる。 --81/82-- 小学校学習指導要領解説生活編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 安 藤 直 哉 愛知県岡崎市教育委員会指導主事 伊 藤 洋 子 神奈川県横浜市立日枝小学校教諭 いわむらかずお 絵本作家,いわむらかずお絵本の丘美術館長 岡 野 雅 一 埼玉大学教育学部附属小学校副校長 鹿 毛 雅 治 慶應義塾大学教授 神 永 典 郎 茨城県日立市立大久保小学校教頭 木 村 吉 彦 上越教育大学大学院准教授 嶋 ア 修 山梨県教育委員会指導主事 清 水 一 豊 東京都大田区立久原小学校長 杉 田 かおり 新潟県上越市立柿崎小学校教諭 寺 尾 愼 一 福岡教育大学教授 根 本 裕 美 東京都練馬区立石神井小学校教諭 野 田 敦 敬 愛知教育大学教授 牧 口 秀 徳 北海道札幌市立新光小学校長 宮 野 真知子 秋田県生活環境文化部主査 なお,文部科学省においては,次の者が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 森 友 浩 史 初等中等教育局教育課程課学校教育官 田 村 学 初等中等教育局教育課程課教科調査官 --82/82--