小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 平成20年6月 文部科学省 --1/130-- 目次 第1章 総説………………………………… …………………………………… 1 第1節 改訂の経緯……………………… …………………………………… 1 第2節 総合的な学習の時間改訂の趣旨 …………………………………… 4 1 創設の趣旨と経緯………………… …………………………………… 4 2 平成15年の一部改正の趣旨… ………………………………………… 5 3 改訂の趣旨………………………… …………………………………… 5 第3節 総合的な学習の時間改訂の要点 …………………………………… 9 1 目標及び内容の改善……………… …………………………………… 9 2 内容の取扱いの改善……………… …………………………………… 10 第2章 総合的な学習の時間の目標……… …………………………………… 13 第1節 目標の構成……………………… …………………………………… 13 第2節 目標の趣旨……………………… …………………………………… 15 第3章 各学校において定める目標及び内 容………………………………… 21 第1節 各学校において定める目標…… …………………………………… 21 第2節 各学校において定める内容…… …………………………………… 23 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い… …………………………………… 25 第1節 指導計画の作成に当たっての配 慮事項…………………………… 25 第2節 内容の取扱いについての配慮事 項………………………………… 39 第5章 総合的な学習の時間の指導計画の 作成……………………………… 52 第1節 総合的な学習の時間における指 導計画…………………………… 52 1 指導計画の要素…………………… …………………………………… 52 2 全体計画と年間指導計画………… …………………………………… 53 第2節 各学校において定める目標の設 定………………………………… 56 第3節 育てようとする資質や能力及び 態度の設定……………………… 59 第4節 学校において定める内容の設定 …………………………………… 62 --2/130-- 1 目標,育てようとする資質や能力 及び態度と内容の関係………… 62 2 内容の設定と三つの課題………… …………………………………… 63 3 学習対象…………………………… …………………………………… 65 4 学習事項…………………………… …………………………………… 66 5 内容の設定と運用についての留意 点………………………………… 67 第5節 全体計画の作成………………… …………………………………… 70 第6章 総合的な学習の時間の年間指導計 画及び単元計画の作成………… 73 第1節 年間指導計画及び単元計画の基 本的な考え方…………………… 73 第2節 年間指導計画の作成…………… …………………………………… 75 第3節 単元計画の作成………………… …………………………………… 82 1 単元計画の基本的な考え方……… …………………………………… 82 2 児童の関心や疑問を生かした単元 の構想…………………………… 83 3 意図した学習を効果的に生み出す 単元の構成……………………… 84 4 単元計画としての学習指導案…… …………………………………… 87 第7章 総合的な学習の時間の評価……… …………………………………… 89 第1節 評価の基本的な考え方………… …………………………………… 89 第2節 児童の学習状況の評価………… …………………………………… 91 1 学習状況の評価の基本的な考え方 …………………………………… 91 2 評価の方法………………………… …………………………………… 91 第3節 指導計画・学習指導の評価…… …………………………………… 93 1 学校評価ガイドラインにおける評 価………………………………… 93 2 指導計画・学習指導の改善……… …………………………………… 94 第8章 総合的な学習の時間の学習指導… …………………………………… 96 第1節 学習指導の基本的な考え方…… …………………………………… 96 1 児童の主体性の重視……………… …………………………………… 96 2 具体的で発展的な教材…………… …………………………………… 97 3 適切な指導の在り方……………… …………………………………… 98 第2節 総合的な学習の時間の学習指導 のポイント……………………… 99 --3/130-- 1 学習過程を探究的にすること…… …………………………………… 99 2 他者と協同して取り組む学習活動 にすること………………………104 第9章 総合的な学習の時間を推進するた めの体制づくり…………………108 第1節 体制整備の基本的な考え方…… ……………………………………108 第2節 校内組織の整備………………… ……………………………………110 1 校長のリーダーシップ…………… ……………………………………110 2 校内推進体制の整備……………… ……………………………………111 3 教職員の研修……………………… ……………………………………114 第3節 年間授業時数の確保と弾力的な 授業時数の運用…………………116 1 年間授業時数の確保……………… ……………………………………116 2 弾力的な単位時間・授業時数の運 用…………………………………116 3 授業時数に関する留意点………… ……………………………………118 第4節 環境整備………………………… ……………………………………120 1 学習空間の確保…………………… ……………………………………120 2 学校図書館の整備………………… ……………………………………120 3 情報環境の整備…………………… ……………………………………121 第5節 外部との連携の構築…………… ……………………………………123 1 外部との連携の必要性…………… ……………………………………123 2 外部連携のための留意点………… ……………………………………123 --4/130-- -1- 第1章 総 説 第1節 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領 域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時代で あると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイディアなど 知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や文明との共 存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確かな学力,豊 かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがますます重要に なっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我が 国の児童生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用する 問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間など の学習意欲,学習習 慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来へ の不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたちの教 育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて,国の 教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対して要請が あり,同年4月から審議を開始した。この間,教育基本法改正,学校教育法改正が行 われ,知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに,基礎的・基本的 な知識・技能,思考力・判断力・表現力 等及び学習意欲を重視し(学校教育法第30条 第2項) ,学校教育においてはこれ らを調和的にはぐくむことが必要である旨が法律 上規定されたところである。中央教育審議会においては,このような教育の根本にさ --5/130-- -2- かのぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か月にわたる審議の末,平成20年 1月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改 善について」答申を行った。 この答申においては,上記のような 児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏ま えた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 D 確かな学力を確立するた めに必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の 育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方 向性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切り拓 ひら く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育の新し い理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新たに義務 教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正されたことを 十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては,読み・書き・ 計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学年では体験的な 理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して習得させ,学習の 基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の上に,Cの思考力・ 判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの作成,論述など知識・ 技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させるとともに,これらの学習 活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学校低・中学年の国語科にお いて音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着させた上で,各教科等におい て,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り組む必要があると指摘した。ま た,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実については,徳育や体育の 充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能力の重視や体験活動の充実により, --6/130-- -3- 他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これらとともに生きる自分への自信をもた せる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学 校教育法施行規則を改正するとともに, 幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小学校学 習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心に内容を前 倒しして実施するとともに,平成23年4月 1日から全面実施することとしている。 --7/130-- -4- 第2節 総合的な学習の時間改訂の趣旨 平成10年の学習指導要領の改訂において,総合的な学習の時間は創設された。ここ では,総合的な学習の時間の創設にまでさかのぼってその経緯を解説した上で,この たびの改訂について,そ の趣旨を述べる。 1 創設の趣旨と経緯 平成10年の学習指導要領の改訂においては,小学校の教育課程に新たに総合的な学 習の時間を創設することとし,各学校が地域や学校,児童の実態等に応じ,横断的・ 総合的な学習など創意工夫を生かした 教育活動を行うようにした。 総合的な学習の時間については, これからの教育の在り方として 「ゆとりの中で 「生 きる力」をはぐくむ」との方向性を示した平成8年7月の中央教育審議会「21世紀を 展望した我が国の教育の 在り方について」 (第一次答申)において創設が提言された。 この答申では, 「 「生きる力」が全人的な力であるということを踏まえると,横断的 ・総合的な指導を一層推進しうるような新たな手立てを講じて,豊かに学習活動を展 開していくことが極めて有効で あると考えられる」とし, 「一定のまとまった時間(総 合的な学習の時間)を設けて横 断的・総合的な指導を行 うこと」を提言した。 この提言を受けて,教育課程の基準の改善について具体的な検討を進めてきた平成 10年7月の教育課程審議会の答申(以下「平成10年の答申」という。 )において,そ の改善のねらいを効果的に実現するように,各学校が創意工夫を生かした特色ある教 育活動を展開できるようにするとともに,新たに総合的な学習の時間を創設すること が提言されたのである。 この平成10年の答申を踏まえ,学校教育法施行規則において,総合的な学習の時間 を各学校における教育課程上必置とすることを定めるとともに,その標準授業時数を 定め,総則において,その趣旨 ,ねらい等について定めた。 --8/130-- -5- 2 平成15年の一部改正の趣旨 平成15年10月の中央教育審議会「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の 充実・改善方策について」(答申)を受けた学習指導要領の一部改正では,各学校の総 合的な学習の時間の一層の充実を図ることとし,学習指導要領の記述の見直し,各学 校における取組内容の不 断の検証等が示された。 平成14年の学習指導要領全面実施以降,総合的な学習の時間の成果は一部で見られ てきたものの,実施に当たっての難しさも指摘されてきた。例えば,各学校において 目標や内容を明確に設定していない,必要な力が児童に付いたかについて検証・評価 を十分に行っていない,教科との関連に十分配慮していない,適切な指導が行われず 教育効果が十分に上がっていないなど,改善すべき課題が少なくない状況にあった。 そこで,平成15年12月に,学習指導要領の一部を改正した。具体的には,各教科や 道徳,特別活動で身に付けた知識や技能等を関連付け,学習や生活に生かし総合的に 働くようにすること,各学校において総合的な学習の時間の目標及び内容を定めると ともにこの時間の全体計画を作成する必要があること,教師が適切な指導を行うとと もに学校内外の教育資源の積極的な活用などを工夫する必要があること,について学 習指導要領に明確に位置付けた。 3 改訂の趣旨 (1)改善の基本方針 今回の改訂は,平成20年1月の中央教育審議会の答申に基づいて行われた。この答 申においては,総合的な学習の 時間の課題について,次 のように指摘された。 ・ 総合的な学習の時間の実施状況を見ると,大きな成果を上げている学校がある 一方,当初の趣旨・理念が必ずしも十分 に達成されていない状況も見られる。ま た,小学校と中学校とで同様の学習活動 を行うなど,学校種間の取組の重複も見 られる ・ こうした状況を改善するため,総合的な学習の時間のねらいを明確化するとと --9/130-- -6- もに,子どもたちに育てたい力(身に付 けさせたい力)や学習活動の示し方につ いて検討する必要がある ・ 総合的な学習の時間においては,補充学習のような専ら特定の教科の知識・技 能の習得を図る教育が行われたり,運動 会の準備などと混同された実践が行われ たりしている例も見られる。そこで,関 連する教科内容との関係の整理,中学校 の選択教科との関係の整理,特別活動 との関係の整理を行う必要がある これらを受け,答申では,総合的な学習の時間の改善の基本方針について,以下の ようにまとめられた。 ○ 総合的な学習の時間は,変化の激しい社会に対応して,自ら課題を見付け,自 ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よ りよく問題を解決する資質や能力を育て ることなどをねらいとすることから,思考力 ・判断力・表現力等が求められる「知 識基盤社会」の時代においてますます 重要な役割を果たすものである。 総合的な学習の時間については,その課題を踏まえ,基礎的・基本的な知識・ 技能の定着やこれらを活用する学習活動は,教 科で行うことを前提に,体験的な 学習に配慮しつつ,教科等の枠を超えた横断的 ・総合的な学習,探究的な活動と なるよう充実を図る。このような学習活動は, 子どもたちの思考力・判断力・表 現力等をはぐくむとともに,各教科における基 礎的・基本的な知識・技能の習得 にも資するなど教科と一体となって子 どもたちの力を伸ばすものである。 ○ 総合的な学習の時間の教育課程における位置付けを明確にし,各学校における 指導の充実を図るため,総合的な学習の 時間の趣旨等について,総則から取り出 し新たに章立てをする。 ○ 総合的な学習の時間において,補充学習のような専ら特定の教科の知識・技能 の習得を図る教育が行われたり,運動会 の準備などと混同された実践が行われた りしている例も見られることや学校間・ 学校段階間の取組の実態に差がある状況 を改善する必要がある。そのため,教科 において,基礎的・基本的な知識・技能 の確実な習得やその活用を図るための時 間を確保することを前提に,総合的な学 習の時間と各教科,選択教科,特別活動 のそれぞれの役割を明確にし,これらの 円滑な連携を図る観点から,総合的な学 習の時間におけるねらいや育てたい力を --10/130-- --10/130-- -7- 明確にすることが求められる。なお,総 合的な学習の時間が適切に実施されるた めには,効果的な事例の情報提供や人材 育成などの十分な条件整備と教師の創意 工夫が不可欠であること は言うまでもない。 ○ 学校段階間の取組の重複の状況を改善するため,子どもたちの発達の段階を考 慮し,各学校における実践を踏まえ,各 学校段階の学習活動の例示を見直す。ま た,近接する小・中・高等学校間で情報 交換を行うなど,学校段階間の連携につ いて配慮する。 (2)改善の具体的事項 こうした改善の基本方針を受けて,改善の具体的事項は次のように整理され示され た。 (ア) 総合的な学習の時間のねらいについては,小・中・高等学校共通なものとし, 子どもたちにとっての学ぶ意義や目的意識を明確にするため,日常生活における 課題を発見し解決しようとするなど,実社会や実生活とのかかわりを重視する。 また,総合的な学習の時間においては,教科等の枠を超えた横断的・総合的な学 習,探究的な活動を行うこ とをより明確にする。 (イ) 学校間・学校段階間の取組の実態に差がある状況を改善するため,総合的な学 習の時間において育てたい力の視点を例示する。その際,例示する視点は,学習 方法に関すること,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関するこ となどとする。 (ウ) 各学校において,総合的な学習の時間における育てたい力や取り組む学習活動 や内容を,子どもたちの実態に応じて明確に定め,どのような力が身に付いたか を適切に評価する。 (エ) 学習活動の例示については,小学校では地域の人々の暮らし,伝統や文化に関 する学習活動,中学校では職業や自己の将来に関する学習活動などを例示として 加える。 (オ) 小学校において,国際理解に関する学習を行う際には,問題の解決や探究的な 活動を通して,諸外国の生活や文化などを体験したり調査したりするなどの学習 --11/130-- -8- 活動が行われるように配慮する。 (カ) 小学校において,情報に関する学習を行う際には,問題の解決や探究的な活動 を通して,情報を受信し,収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与 える影響を考えたりするなどの学 習活動が行われるよう配慮する。 (キ) 中学校において,職業や自己の将来に関する学習を行う際には,問題の解決や 探究的な活動を通して,自己の生き方を考えるなどの学習活動が行われるよう配 慮する。 (ク) 互いに教え合い学び合う活動や地域の人との意見交換など,他者と協同して課 題を解決しようとする学習活動を重視するとともに,言語により分析し,まとめ ・表現する問題の解決や探究的な活動を重視する。その際,中学校修了段階にお いて,学習の成果を論文としてま とめることなどにも配慮する。 (ケ) 各学校における総合的な学習の時間の学習活動が一層適切に行われるよう,効 果的な事例の情報提供やコーディネートの役割を果たす人材の育成,地域の教育 力の活用などの支援策の充実を図り, 十分な条件整備を行う必要がある。 (コ) 教育委員会の指導,助言の下,各学校においては,総合的な学習の時間の趣旨 やねらいを踏まえた適切な学習活動が行われるよう,学校全体として組織的に取 り組み,指導計画や指導体制,実施状況について,点検・評価することを推進す る。 --12/130-- -9- 第3節 総合的な学習の時間の改訂の要点 総合的な学習の時間は,学校教育法施行規則第50条において次のように定められ, 各学校における教育課程 上必置とされている。 第50条 小学校の教育課程は,国語,社会,算数,理科,生活,音楽,図画工作, 家庭及び体育の各教科(以下本文中「各教科」という。 ) ,道徳,外国語活動, 総合的な学習の時間並びに特別活 動によって編成するものとする。 これまでは総則において,総合的な学習の時間の趣旨やねらいなどについて定めて きた。しかし,今回の改訂では,総合的な学習の時間の教育課程における位置付けを 明確にし,各学校における指導の充実を図るため,総則から取り出し新たに第5章と して位置付けることとした。この第5章において示した総合的な学習の時間の目標, 内容,内容の取扱いについて, 改訂の要点を以下に述べる。 1 目標及び内容の改善 総合的な学習の時間は,変化の激しい社会に対応して,自ら課題を見付け,自ら学 び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることな どをねらいとすることから, 思考力・判断力・表現力等が求められる 「知識基盤社会」 の時代においてますます重要な 役割を果たすものである。 今回の改訂においては,総合的な学習の時間の特質や目指すところを目標として示 し, この時間において育成する児童の 資質や能力及び態 度を明確にした。 この目標は, 従前から示されていたねらいの(1)及び(2)を踏まえながら,これまでも大切にしてき た「探究的な学習」を行うことや, 「協同的」に取り組む態度を育てることなどを明 らかにして構成した。なお,この目標は,総合的な学習の時間において国が示す目標 であり,各学校は創意工夫ある取組を行いつつも,総合的な学習の時間を通して実現 --13/130-- -10- することが求められる目標である。 その上で,国が示す目標を踏まえ,より具体的な目標や内容は,各学校において定 めることを明確に示した。これは,総合的な学習の時間の趣旨がこれまでと変わらな いことを端的に示すものである。したがって,従前と同様に,各学校において創意工 夫を生かした特色ある学習活動を行うものであること,この時間の学習活動が教科等 の枠を超えたものであることなどから,国の示す基準としては,目標を定め,この時 間を教育課程上必置とする時間数やその取扱いにとどめ,各学校で目標や内容を定め ることとした。 2 内容の取扱いの改善 (1)探究的な学習としての充実 総合的な学習の時間については,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐ くむために,既存の教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習となることを目指して 実施されてきた。 今回の改訂では,このことに加えて探究的な学習となることを目指している。基礎 的・基本的な知識・技能の定着やこれらを活用する学習活動は,教科で行うことを前 提に,総合的な学習の時間においては,体験的な学習に配慮しつつ探究的な学習とな るよう充実を図ることが求められている。すなわち,総合的な学習の時間と各教科等 との役割分担を明らかにし,総合的な学習の時間では探究的な学習としての充実を目 指している。このことについては目標において明示するとともに,内容の取扱いにお いても「探究的な学習」 「探究活動」 「問題の解決や探究活動の過程」などとして複 数箇所に示している。 学習活動の例として示されている国際理解や情報に関する学習を行う際にも, 「問 題の解決や探究活動に取り組むことを通して」と示し,体験活動だけで終わることや 知識・技能を一方的に教え込む だけの学習活動ではない ことを明確にしている。 (2)学校間の取組状況の 違いと学校段階間の取組の重複 --14/130-- -11- 総合的な学習の時間の課題として,学校間の取組の実態に差がある状況や学校段階 間の取組が重複していることが挙げられる。学校間の取組の状況に違いがあることを 改善するために,総合的な学習の時間において育てようとする資質や能力及び態度の 視点を例示することとした。例示する視点としては, 「学習方法に関すること,自分 自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなど」とした。このことに より,各学校において設定する育てようとする資質や能力及び態度が一層明確になる とを目指した。 併せて,学校段階間の取組の重複を改善するために,学校段階間の学習活動の例示 を見直した。従前から示されていた学習活動は, 「例えば国際理解,情報,環境,福 祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校 の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする」 とされていた。今回の改訂では,これに加えて,小学校では「地域の人々の暮らし, 伝統と文化など地域や学校の特色に応 じた課題についての学習活動」 ,中学校では「職 業や自己の将来に関する学習活動」を例示として加える。これらのことによって,各 学校段階における児童・生徒の発達に応じた適切な学習活動が展開されることを目指 した。 (3)体験活動と言語活動の充実 総合的な学習の時間においては,従前と同様に体験活動を行うことを重視し,積極 的に学習活動に取り入れることとしている。例えば,小学校における自然体験活動や 中学校の職場体験活動,高等学 校の就業体験活動や奉仕 体験活動などである。 しかし,体験活動がそれだけで終わるのではなく,体験活動を行うことによって児 童の学習を一層充実したものとすることが求められている。そのために,内容の取扱 いにおいて, 「体験活動については ,第1の目標並びに第2の各学校において定める 目標及び内容を踏まえ,問題の解決や探究活動の過程に適切に位置付けること」とし た。さらに, 「問題の解決や探究活 動の過程においては,他者と協同して問題を解決 しようとする学習活動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習 活動が行われるようにすること」を示した。これは,互いに教え合い学び合う活動や --15/130-- -12- 地域の人との意見交換や交流活動など,他者と協同して課題を解決しようとする学習 活動を重視することを意味する。また,言語により整理したり分析したりして考え, それをまとめたり表現したり して自分の考えを深める学習活動を重視するものであ る。 このように,体験活動と言語活動を共に充実させることが,総合的な学習の時間の 充実においては欠かせないのである。 ここまで述べてきたように,今回の改訂では,国が示す目標を踏まえ,具体的な目 標や内容は,各学校において定めることを明確にした。このようなことから,各学校 においては,教育委員会の指導の下,総合的な学習の時間の目標を踏まえた適切な学 習活動が行われるよう,校長を中心に学校全体として組織的に取り組み,指導計画や 指導体制,実施状況について,点検・ 評価することが求められる。 なお,本解説では,第2章〜第4章においては,学習指導要領の文言を基にした解 説を行う。第5章〜第9章においては,各学校における指導計画の作成,教育活動の 実施に当たっての基本的な考え方やポイントを,その手順や方法,具体例などを交え て解説する。 --16/130-- -13- 第2章 総合的な学習の時間の目標 第1節 目標の構成 総合的な学習の時間のねらいや育てようとする資 質や能力及び態度を明確にし,その特質 と目指すところが何かを端的に示したものが,以下 の総合的な学習の時間の目標である。 第1 目標 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら 考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や 能力を育成するとともに,学び 方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に 主体的,創造的,協同的に取り 組む態度を育て,自己の生き方を考える ことができるようにする。 今回の改訂では,総合的な学習の時間の目標を新 たに設定した。従前の総則に示されてい た総合的な学習の時間のねらいの(1)及び(2)を 踏まえて,新たに国の示す基準として目標を 定めたのは, 各学校において創意工夫を生かした 特色ある教育活動を引き続き行うとともに, この時間を通して実現することが求められる目標を 明確にするためである。なお,従前のね らい(1)及び(2)と比べると「探究的な学習」 「協同的」の文言が加わった。このことについて は,第2節で詳しく解説する。 総合的な学習の時間の目標は, (1) 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通すこと (2) 自ら課題を見付け ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する 資質や能力を育成すること (3) 学び方やものの考え方を身に付けること (4) 問題の解決や探究活動に主体的,創造 的,協同的に取り組む態度を育てること (5) 自己の生き方を考え ることができるようにすること という五つの要素から構成さ れている。この五つの要素のうち,(1)は,総合的な学習の時 --17/130-- -14- 間に特有な学習の在り方を示している。すなわち, 総合的な学習の時間においては,横断的 ・総合的な学習や探究的な学習を通 すことが目標であり,これを前提 にして,(2)(3)(4)に示 された資質や能力及び態度を育成していくことを求 めている。総合的な学習の時間では,こ れらの資質や能力及び態度を育成しつつ,(5) に示された自己の生き方 を考えることができ るようにすることを目指している。これらは,総合 的な学習の時間を通して育成したい児童 の姿でもある。 各学校においては,(1)〜(5)の目標の構成について十分に理解し,各 学校において定める目 標及び内容に反映させ ,創意工夫して実践していくこ とが求められる。 --18/130-- -15- 第2節 目標の趣旨 先に記した五つの要素で構成される総合的な 学習の時間の目標について,以下にその趣旨 を解説する。 (1)横断的・総合的な学習や探究的な学習を通すこと 総合的な学習の時間では,横断的・総合的な学習 や探究的な学習を通すことを目標にして いる。 これまで実施されてきた横断的・総合的な学習は ,例えば,国際理解,情報,環境,福祉 ・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・ 関心に基づく課題,地域や学校の特色に 応じた課題等,一つの教科等の枠に収まらない課題 に取り組む学習活動を通して,各教科等 で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習 や生活に生かし,それらが児童の中で総 合的に働くようにすることをねらいにしてきた。ま た,これまでも,総合的な学習の時間に ついては,問題の解決や探究活動に主体的,創造的 に取り組む態度を育てることをねらいと して示していたが,今回の改訂では,その趣旨を一 層明確にする観点から,探究的な学習に ついても目標に明確に位置付けた。 総合的な学習の時間において, 「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して」とした のは,以下の理由による。 ○「生きる力」が全人的な力であることを 踏まえると,横断的・総合的な指導を一層推進 する必要がある。 ○ 各教科等の学習を通して身に付けた知 識・技能等は,本来児童の中で一体となって働 くものと考えられるし,一体となること が期待されている。 ○ 容易には解決に至らない日常生活や社会,自 然に生起する複合的な問題を扱う総合的 な学習の時間において,その本質を探って見極めようとする探究 的な学習によって,こ の時間の特質を明確化する必要がある。 総合的な学習の時間における探究的な学習とは, 問題解決的な活動が発展的に繰り返され ていく次ページの図のような一連の学習活動のことである。総合的な学習の時間において, --19/130-- -16- 児童は,@日常生活 や社会に目を向けた ときに湧き上がって わ くる疑問や関心に基 づいて,自ら課題を 見付け,Aそこにあ る具体的な問題につ いて情報を収集し, Bその情報を整理・ 分析したり,知識や 技能に結び付けたり, 考えを出し合ったり しながら問題の解決 に取り組み,C明らかになった考えや意見などをま とめ・表現し,そこからまた新たな課題 を見付け,さらなる問題の解決を始めるといった 学習活動を発展的に繰り返していく。なお, この探究的な学習の過程については,第 8章で詳しく解説する。 要するに探究的な学習とは,物事の本質を探って 見極めようとする一連の知的営みのこと である。例えば,児童は身近な学習対象(ひと・も の・こと)とかかわって,自分にとって 意味や価値のある課題を設定する。その課題につい て,体験活動をしたり,調べたりしなが ら,必要な情報を取り出したり集めたりしていく。 さらには,得られた幅広い情報を整理・ 分析したり判断したりしながら,既習の知識や経験 と結び付けていく。こうして生み出され た自分の考えや意見,発見したことなどをまとめ, 表現する。それを他者と交換し合い,自 らの考えや意見を更新したり,協同して実践に移し たりしていく。こうした知的な営みが有 機的につながって発展的に繰り返されて いくことが望まれている。 探究的な学習では,次のような児童の学習の姿を 見出すことができる。事象をとらえる感 性や問題意識が揺さぶられて,学習活動への取組が 真剣になる。身に付けた知識・技能を活 用し,その有用性を実感する。見方が広がったことを喜 び,さらなる学習への意欲を高める。 概念が具体性を増して理解が深まる。学んだことを 自己と結び付けて,自分の成長を自覚し --20/130-- --20/130-- -17- たり自己の生き方を考えたりする。このように,探 究的な学習においては,児童の豊かな学 習の姿が現れる。 国際理解,情報,環境,福祉・健康などの課題及 び日常生活や社会とのかかわりの中から 見出される課題は, 「答えが多様で正答の定まらない問い」といった性質のものであること が多い。また,それらは,多様な視点 から積極的に探究する中で, 納得できる見方や考え方, 解決の方途等を自分たちで生み出すことが求められ ている課題でもある。児童は主体性,創 造性,協同性を発揮し,試行錯誤しながらも学習対 象とのやりとりを通じて,複雑に入り組 んだ社会や生活の諸問題を解き明かしていく。そう した中で,新たな認識を得たり,資質や 能力及び態度を身に付けたりしながら,自己の生き 方を考えることができるようにする学習 活動が望まれている。 先に,探究的な学習とは,一連の学習活動である と述べ,@ABCの過程を示した。だか らといって,それを固定的にとらえる必要はない。 物事の本質を探って見極めようとすると き,活動の順序が入れ替わったり,ある活動が重点 的に行われたりすることは,当然起こり 得ることだからである。 (2)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断し,よりよく問題を解決する資 質や能力を育成すること 創設時より,総合的な学習の時間では, 「生きる力」をはぐく むために,自ら課題を見付 け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよ く問題を解決する資質や能力の育成を重 視してきた。 日常生活や社会には,解決すべき問題が多方面に 広がっている。その問題は,複合的な要 素が入り組んでいて,答えが一つに定ま らず,容易には解決に至らないことが多い。 「自ら 課題を見付け」とは,そうした問題と向き合って, 自分で取り組むべき課題を見出すことで ある。この課題は,解決を目指して学習するための ものである。その意味で課題は,児童が 解決への意欲を高めるとともに,解決への具体的な 見通しをもてるものであり,そのことが 主体的な課題の解決につながっていく。 課題は,問題をよく吟味して児童が自分でつくり 出すことが大切である。例えば,日ごろ から解決すべきと感じていた問題を改めて見つめ直 す,具体的な事象を比較したり,関連付 --21/130-- -18- けたりして,そこにある矛盾や隔たりを認識する, などが考えられる。また,地域の人やそ の道の専門家との交流も有効である。そこで知らな かった事実を発見したり,その人たちの 真剣な取組や生き方に共感したりして,自分にとっ て一層意味や価値のある課題を見出すこ とも考えられる。 調べていく中で,探究している課題が,社会で解 決が求められている切実な問題と重なり 合っていることを知り,さらにそれに尽力している 人と出会うことにより,問題意識は一層 深まる。同一の学習対象でも,個別に追究する児童 の課題が多様であれば,お互いの情報を 結び合わせて,現実の問題の複雑さや総 合性に気付くこともある。 「自ら学び,自ら考え,主体的に判断し」とは, 自ら見付けた課題に関して主体的に学習 活動を繰り広げ,自分なりに納得できる答えを探し 求め,判断していくことである。それに は,見通しや計画を立て,多様な情報を収集し,整 理・分析するなどして考え,まとめてい く等の学び方やものの考え方を,様々な対象に適用 できるように育てていくことが必要にな る。 「よりよく問題を解決する」とは,解決の道筋が すぐには明らかにならない,唯一の正解 が得られないなどのことについても,自らの知識や 技能等を総動員して,目の前の具体的な 問題に粘り強く対処し解決しようとすることである 。身近な社会や人々,自然に直接かかわ る学習活動の中で,問題を解決する力を 育てていくことが必要になる。 こうしたよりよく問題を解決する資質や能力は, 試行錯誤しながらも新しい未知の課題に 対応することが求められる時代において,自立的に 生きるために必要な力である。 (3)学び方やものの考え方を身に付けること 総合的な学習の時間においては, 学び方やものの考え方を身に付けることを目指している。 学び方やものの考え方を身に付けるとは,横断的・ 総合的な学習や探究的な学習の過程にお いて,それらを現実の様々な状況に応じ て活用し,確かにすることである。 この時間の学習活動を通して身に付けていくこと が求められる学び方やものの考え方とし ては,例えば,課題の見付け方やつくり方,目的に 応じた情報の集め方や調べ方,整理・分 析の仕方,まとめ方や表現の仕方,報告や発表・討 論の仕方などが考えられる。また,見通 しや計画の立て方,記録のとり方や活用の仕方,コ ミュニケーションのとり方,振り返りや --22/130-- -19- 意思決定,自己評価の仕方等を挙げることができる 。とりわけ,自分の生活や生き方と結び 付けて物事をとらえる見方や考え方を大 切にすることが望まれる。 さらに,各教科等で身に付けた,比較する,分類 する,関連付ける,類推するなどのもの の見方や考え方を,学習活動において総合的に活用 できることも期待されている。総合的な 学習の時間では,各教科等を横断して総合的に知識 ・技能を活用しながら,児童が学習活動 を進める。そこでは,各教科等で学んだことの有用 性を実感し,学び方やものの考え方を確 かにしていくことが期待されている。こうして,児 童は,自ら学び,自ら考える力を高めて いく。 (4) 問題の解決や探究活動に主体的,創 造的,協同的に取り組む態度を育てること 問題の解決や探究活動では,児童が,身近な人々 や社会,自然に興味・関心をもち,それ らに意欲的にかかわろうとする主体的, 創造的な態度が欠かせない。 今回の改訂で協同的に取り組む態度が加わったのは,答申 で,これからの社会においては, 「自己との対話を重ねつつ,他者や社会,自然や環境と 共に生きる,積極的な「開かれた個」 であることが求められる」と指摘されたように,他 者と協力しながら身近な地域社会の課題 の解決に主体的に参画し,その発展に貢献しようと する態度をはぐくむことが必要とされる からである。そのために,お互いに考えや意見を出 し合い,見通しや計画を確かめ合い,他 者の考えを受け入れながら,問題の解決や探究活動 を協同して行う学習経験の積み重ねが大 切になる。 例えば,友達と協同して取り組むことで,学習活 動が発展したり課題への意識が高まった りして,問題の解決や探究活動の質が高まる。また ,異なる見方があることで解決への糸口 もつかみやすくなる。このように,問題の解決や探究活動においては,友達などと協同して 取り組むことが大切である。友達と一緒に活動した り話し合ったりしながら,自己を振り返 り自分の考えや意見を再構築していく。 身近な人々や社会,自然の問題について,児童だ けでは解決できない課題を見出した時, 他者と協同して解決しようとする活動に発展させて いくことも大切である。例えば,地域の 人や専門家から話を聞き協力を得る,地域の人々と 自然環境について考える,異なる学年や 世代の人と協力して地域活動に参加するなど,学校 ,地域が一体となって取り組む活動へと --23/130-- -20- 創造的に発展させることが考えられる。こうした幅 広い交流活動は,他者の生き方を自己の 生き方や将来の姿と重ね合わせることによって,他 者のよさを発見し,自分のよさを自覚す る機会とすることが期待できる。また,地域社会に 参画しようとする意識を高めることにも つながる。 (5)自己の生き方を考えることができるようにすること 総合的な学習の時間においては,横断的・総合的 な学習や探究的な学習を通して,自己の 生き方を考えることができるようにする ことが大切である。 「自己の生き方を考えることができる 」とは,以下の三つのことである。 一つには,人や社会,自然とのかかわりにおいて ,自らの生活や行動について考えていく ことである。社会や自然の中に生きる一員として, 何をすべきか,どのようにすべきかなど を考えることである。 二つには,自分にとっての学ぶことの意味や価値 を考えていくことである。取り組んだ学 習活動を通して,自分の考えや意見を深めることで あり,また,学習の有用感を味わうなど して学ぶことの意味を自覚することである。 これらの二つを生かしながら,学んだことを現在 及び将来の自己の生き方につなげて考え ることが三つ目である。学習の成果か ら達成感や自信をもち,自分 のよさや可能性に気付き, 自分の人生や将来について考えていくことである。 こうした三つの側面から自己の生き方を考えるこ とが大切である。その際,具体的な活動 や事象とのかかわりを拠り所として,多様な視点か ら考えさせることが大切である。また, よ その考えを深める中で,さらに考えるべきことが見 出されるなど,常に自己との関係で見つ め,振り返り,問い続けていこうとする ことが重要である。 --24/130-- -21- 第3章 各学校において定める目標及び内容 各学校は,第1に示された総合的な学習の時間の 目標を踏まえて,各学校の総合的な学習 の時間の目標や内容を適切に定めて,創意工夫を生 かした特色ある教育活動を展開する必要 がある。ここに総合的な学習の時間の大 きな特質がある。 第1節 各学校において定める目標 1目標 各学校においては,第1の目標を踏まえ,各学校の総合的な学習の時間の目標 を定める。 各学校においては,第1の目標を踏まえ,各学校 の総合的な学習の時間の目標を定め,そ の実現を目指さなければならない。この目標は,学 校の教育目標との関連性を考慮しつつ, 総合的な学習の時間での取組を通して,どのような 児童を育てたいのか,また,どのような 資質や能力及び態度を育てようとするの か等を明確にしたものである。 「第1の目標を踏まえ」とは,各学校の総合的な 学習の時間の目標を定めるに当たり,総 合的な学習の時間の目標の 五つの要素をすべて含む必要があ ることを意味している。第2章 でも述べた通り,第1の目標を構成する五つの要素とは,(1)横断的・総合的な学習や探究 的な学習を通すこと,(2)自 ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,より よく問題を解決する資質や能力を育 成すること,(3)学び方やものの考え方を身に付けるこ と,(4)問題の解決や探究活動に主体的, 創造的,協同的に取り組む態度を育てること, (5) 自己の生き方を考えることができるよう にすること,である。 各学校の総合的な学習の時間の目標は,この第1 の目標を適切に踏まえて,この時間全体 を通して,各学校が育てたいと願う児童像や育てよ うとする資質や能力及び態度,学習活動 の在り方などを表現したもの になることが求められる。 --25/130-- -22- その際,目標の五つの要素をすべて含ん でいるならば,これまで 各学校が取り組んできた 経験を生かして,各目標の要素のいずれかを具体化 したり,重点化したり,別の要素を付け 加えたりして目標を設定することが考えられる。な お,各学校における目標の設定の手順や 方法については,第5章第2 節で詳しく解説する。 各学校において,目標を定めることを求めている のは,@各学校が創意工夫を生かした横 断的・総合的な学習や探究的な学習を実施すること が期待されているからである。 それには, 地域や学校,児童の実態や特性を生かした目標を各 学校が主体的に判断して定めることが不 可欠である。また,A各学校で定めた目標に従って ,育てようとする資質や能力及び態度を 明確に示すことが望まれているからである。そして ,B学校として教育課程全体の中での総 合的な学習の時間の位置付けや各教科等との関連を 明らかにして,この時間で取り組むにふ さわしい内容を定めるためである。このように,各 学校において総合的な学習の時間の目標 を定めるということには,主体的かつ創造的に指導 計画を作成し,学習活動を展開するとい う意味がある。 なお,総合的な学習の時間が充実するために,中 学校との接続を視野に入れ,連続的かつ 発展的な学習活動が行えるよう目標を設 定することも重要である。 --26/130-- -23- 第2節 各学校において定める内容 2内容 各学校においては,第1の目標を踏まえ,各学校の総合的な学習の時間の内容 を定める。 各学校においては,第1の目標を踏まえ,各学校 の総合的な学習の時間の内容を定めるこ とが求められている。総合的な学習の時間では,各 教科等のように,どの学年で何を指導す るのかという内容を学習指導要領に明示していない 。これは,各学校が,国の示す目標に従 って,地域や学校,児童の実態に応じて,創意工夫 を生かした内容を定めることが期待され ているからである。 総合的な学習の時間においては,内容として,目標の実現のためにふさわしいと各 学校が判断した学習課題を定める必要 がある。この学習課題とは, 例えば,国際理解, 情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課 題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題などのこと であり,横断的・総合的な学習としての性格をもち,探究的に学習することがふさわ しく,そこでの学習や気付きが自己の生き方を考えることに結び付いていくような, 教育的に価値のある諸課 題のことである。 内容を定めるに当たっては,児童が探究的にかかわりを深めていくひと・もの・こ となどの学習対象や,学習対象とのかかわりを通して学ぶことが期待される学習事項 (教師側から見れば指導事項)等によって,学習課題を具体的・分析的に示すことが 考えられる。各学校においては,学習対象を明らかにするとともに,必要に応じて学 習事項等を定めることが考えられる。 また,内容を定める際に留意することとして,日 常生活や身近な社会とのかかわりを重視 し,その時々に最適な学習課題が何かを,適宜,判 断することが求められる。例示を参考に しつつ,地域や学校,児童の実態に応じて内容を見 直し定める必要がある。その上で,各学 --27/130-- -24- 校においては,児童の学習状況に応じた適切な指導 を行うとともに,総合的な学習の時間に おける評価結果等を基にして,その改善を円滑に実 施することが期待される。 なお,各学校においては,内容を指導計画に適切に位 置付けることが求められる。その際, 学年間の連続性,発展性や中学校との接続,各教科 等との違いや関連性などに配慮して,内 容を定めることが重要である。各学校における内容 の設定の手順や方法は,第5章第4節で 詳しく解説する。 --28/130-- -25- 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い 第1節 指導計画の作成に当たっての配慮事項 (1) 全体計画及び年間指導計画の作成に当たっては,学校における全教育活動との 関連の下に,目標及び内容,育てようとする資質や能力及び態度,学習活動,指 導方法や指導体制,学習の評価 の計画などを示すこと。 総合的な学習の時間の目標を実現するためには,各教科,道徳,外国語活動及び特 別活動を含めた全教育活動の中で,総合的な学習の時間の位置付けを明確にすること が重要である。各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動が適切 に実施され, その上で相互に関連し合うことではじ めて教育課程はその機能を果たし, 学習指導要領が目指している「生きる力」をはぐくむことにつながる。したがって, 総合的な学習の時間が実効性のあるものとして実施されるためには,地域や学校,児 童の実態や特性を踏まえ,各教科等を視野に入れた全体計画及び年間指導計画を作成 することが求められる。 全体計画とは,指導計画のうち,学校として,この時間の教育活動の基本的な在り 方を概括的・構造的に示すものである。一方,年 間指導計画とは,全体計画を踏まえ, その実現のために,どのような学習活動を,どのような時期に,どのくらいの時数で 実施するのかなどを示すものである。この二つの計画において,各学校が,総合的な 学習の時間を通してその実現を目指す「目標」と,その目標を実際の教育活動へと実 践するために具体的・分析的に示した「育てようとする資質や能力及び態度」 ,目標 を実現するためにふさわしいと判断した学習課題等からなる「内容」を明確にするこ とが重要である。さらには,それらとの関連において生み出される「学習活動」 ,そ の実施を推進していく「指導方法」や「指導体制」 ,児童の学習状況等を適切に把握 するための「学習の評価」など が示されるべきである。 --29/130-- -26- 各学校においては,校長の責任の下で総合的な学習の時間の全体計画及び年間指導 計画を作成することが重要である。これらの計画を作成することによって,適切な教 育活動が展開され,学校として行き届いた指導を行うことが可能となる。その際,こ れまでの各学校の教育実践の積み重ねや教育研究の実績に配慮して計画を作成するこ とが有効である。なお,各学校における目標 及び内容,育てようとする資質や能力及び態 度などの設定の手順や方法については, 第5章で詳しく解説する。 指導計画の作成においては,目標及び内容,育てようとする資質や能力及び態度, 学習活動などが,連続的かつ発展的に展開するように教科間・学年間の関連やつなが りに配慮することも大切である。例えば,低学年の生活科等で身に付けた資質や能力 及び態度が第3学年以降の総合的な学習の時間をはじめとする学習活動に生かされる ように作成することや,中学年で身に付けた資質や能力及び態度が高学年以降の学習 によりよく発展するように配慮して作成することなどが考えられる。また,中学校に おいても総合的な学習の時間の取組が連続的かつ発展的に展開できるようにするため には,小学校の全体計画や年間指導計画を踏まえた中学校の指導計画が作成されるよ う,指導計画をはじめ児童の学習状況などについて,相互に連携を図ることが求めら れる。 各学校においては,この時間の指導計画を踏まえ,意図的・計画的な指導に努める とともに,目標及び内容,育てようとする資質や能力及び態度,具体的な学習活動や 指導方法,学校全体の指導体制,評価の在り方,学年間・学校段階間の連携等につい て,学校として自己点検・自己評価を行うことが大切である。そのことにより,各学 校の総合的な学習の時間 を不断に検証し, 改善を図っていくことにつながる。 そして, その結果を次年度の全体計画や年間指導計画,具体的な学習活動に反映させるなど, 計画,実施,評価,改善というカリキュラム・マネジメントのサイクルを着実に行う ことが重要である。指導計画の評価に ついては,第7章で解説する。 なお,年度途中においても,学習活動の展開が必ずしも計画通りに進まない場合に は,当初の計画を固定的なものとしてとらえるのではなく,必要に応じて適宜見直し ていくという柔軟かつ弾力的な 姿勢をもつことも大切である。 --30/130-- --30/130-- -27- (2) 地域や学校,児童の実態等に応じて,教科等の枠を超えた横断的・総合的な学 習,探究的な学習,児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教 育活動を行うこと。 総合的な学習の時間は,平成10年の答申において,@各学校が創意工夫を生かした 特色ある教育活動を一層展開するための時間を確保する必要があること,A自ら学び 自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむために,既存の教科等の枠を超えた横断 的・総合的な学習を実施できる時間を確保する必要があることから,その創設が提言 されたものである。また,今回の改訂におい ては,この時間の創設の趣旨を踏まえて, 探究的な学習を行うこと を目標に位置付けた。 このような経緯を踏まえ,総合的な学習の時間では,横断的・総合的な学習,探究 的な学習,児童の興味・関心等に基づく学習などを,地域や学校,児童の実態等に応 じ,各学校が創意工夫を生かし て実施するものである。 創意工夫を生かすとは,他校にはない特殊なもの,独創性の高いものを行うことが 求められているわけではない。地域や学校,児童の実態に応じて,それぞれの学校の 児童にふさわしい教育活動を適切に実 施することが重要である。 ここで求められる実態とは,この時間の学習活動を適切に行うために十分考慮すべ き実態のことである。地域の実態としては,学校が設置されている地域の山や川など の自然環境,町やそこにある機関,歴史や文化などの社会環境,そこに住む人やその 営み,思いや願いなどの人的環境などが考えられる。学校の実態とは,児童数や学級 数などの学校の規模,職員数や職員構成,校内環境や学校の風土や伝統,教育研究の 積み重ねなどが考えられる。児童の実態とは,知的な側面,情意的な側面,身体的な 側面などに関する児童の実際の姿とこ れまでの経験などが考えられる。 例えば,学校の周辺に豊かな森林が広がる小規模の学校では,森や林を取り上げ, 環境や資源,産業などに関する学習活動を展開する場合がある。そこでは,小規模校 のよさを生かした異学年の縦割り集団や全校体制での学習活動を行うなど,地域や学 校の特色を生かした取組が考えられる。各学校においては,地域や学校,児童の実態 --31/130-- -28- を的確に把握し,それらの要素を複合的に関連付け,各学校の児童にとって必要であ ると考えられる教育活動を展開 していかなければならない。 なお,特色ある教育活動の創造につなげていくためにも,地域の実態把握が欠かせ ない。教師自らが地域を探索したりフィールド調査をしたり,実際に見たり聞いたり して,地域とかかわることが望まれる。また,児童の実態把握に関しては,教師や保 護者,児童自身に対する様々な観点からの実態調査に加えて,児童にかかわることの 多い地域の人や専門家からの情 報を集めることも有効である。 (3) 第2の各学校において定める目標及び内容については,日常生活や社会とのか かわりを重視すること。 各学校において目標や内容を定めるとは,どのような資質や能力及び態度を育成す るのか,どのような学習課題を扱うのかなどを明らかにすることである。その際,日 常生活や社会とのかかわりを重 視することが大切である。 日常生活や社会とのかかわりを重視することは,今回の改訂で新たに加わったこと である。このことには, 以下の意味がある。 一つ目は,総合的な学習の時間では,実社会や実生活において生きて働く資質や能 力及び態度の育成が期待されていることである。実際の生活にある問題を取り上げる ことで,児童は日常生活や社会において,課題を解決しようと真剣に取り組み,自ら の能力を存分に発揮する。その中で育成された資質や能力及び態度は,実社会や実生 活で生きて働くものとして育成される。 二つ目は,総合的な学習の時間では,児童が主体的に取り組む学習が求められてい ることである。日常生活や社会にかかわる課題は,自分とのつながりが明らかであり 児童の関心も高まりやすい。また,直接体験なども行いやすく,身体全体を使って, 本気になって取り組む児 童の姿が生み出される。 三つ目は,総合的な学習の時間では,児童にとっての学ぶ意義や目的を明確にする ことが重視されていることである。自ら設定した課題を解決する過程では,地域の様 々な人とのかかわりも考えられる。そうした学習活動では, 「自分の力で解決するこ --32/130-- -29- とができた」 「自分が学習したこと が地域の役に立った」などの,課題の解決に取り 組んだことへの自信や自尊感情がはぐくまれ,日常生活や社会への参画意識も醸成さ れる。 このように,各学校においては,上記の三つに配慮しつつ,目標及び内容を定める ことが求められる。実際の生活の中にある問題や地域の事象を取り上げ,それらを実 際に解決していく過程が大切であり,そのことが総合的な学習の時間の充実につなが る。 こうして行われる問題の解決や探究活動では,児童が自ら設定した学習課題や学習 対象などを,自分と切り離して見たり扱ったりするのではなく,自分や自分の生活と のかかわりの中でとらえ,考えることになる。また,人や社会,自然を,別々の存在 として認識するのではなく,それぞれがつながり合い関係し合うものとしてとらえ, 認識しようとすることにもつながる。総合的な学習の時間では,それぞれの児童が具 体的で関係的な認識を,自ら構築していくことを期待している。ここに,総合的な学 習の時間のもつ重要性と可能性がある。 (4) 育てようとする資質や能力及び態度については,例えば,学習方法に関するこ と,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなどの視点を 踏まえること。 育てようとする資質や能力及び態度は,第1の目標を踏まえて各学校が定めた目標 に含まれるものであるが,実際の学習活動として実践するために,具体的・分析的に 示す必要がある。総合的な学習の時間においては,各学校において育てようとする資 質や能力及び態度を明確に設定 し,学習活動の質を高めること が求められている。 中央教育審議会の答申では,育てようと する資質や能力及び態度の視点として, 「学 習方法に関すること」 (例えば,情報を収集し 分析する力,分かりやすくまとめ表現 する力など) , 「自分自身に関すること」 (例えば,自らの行為 について意思決定する 力,自らの生活の在り方 を考える力など) , 「他者や社会との かかわりに関すること」 (例えば,他者と協同して課題を解決する力,課題の解決に向けて社会活動に参加す --33/130-- -30- る態度など)といった三 つを例示している。 これらの育てようとする資質や能力及び態度について,例えば,地域の川を対象と した環境問題について探究的に学習する場合には,次のように考えられる。まず,学 習方法に関することとしては, 「生息している生物を採取し,他の川と比較するなど して分析する」 「分かったことなどをグラフや 地図に表す」などが考えられる。そし て,自分自身に関することとしては, 「日常生活において,川にはゴミを捨てない, 生活排水を少なくするなど,自らの生活を見直し身の回りの環境問題に関して意思決 定し行動しようとする」など,他者や社会とのかかわりに関することとしては, 「他 の児童と協力して調査したり,地域の人々から話を聞いたりして探究する」 「地域の 人々と協力して川を守る活動に参画しようとする」などが考えられる。このように各 単元においては,育てようとする資質や能力及び態度を,児童が取り組む学習活動と の関連において具体的に 示すことが必要である。 これらの視点は,これまで全国で取り組まれてきた実践事例を整理する中で見出さ れてきたものである。また,この三つの視点は「知識基盤社会」の時代を担う子ども たちに必要とされている国際標準の学力であるOECDの主要能力(キー・コンピテ ンシー)に符合している。 「社会・文化的,技術的ツ ールを相互作用的に活用する力」 はおよそ「学習方法に関すること」と, 「多様な社会グループにおける人間関係形成 能力」はおよそ「他者や社会とのかかわりに関すること」と, 「自立的に行動する能 力」はおよそ「自分自身に関すること 」とそれぞれかかわりがある。 なお,この三つはあくまでも例示であり,各学校において設定していた資質や能力 及び態度を見直す際の参考にしていくことが重要である。その際,地域や学校,児童 の実態に応じて設定することを忘れてはいけない。また,育てようとする資質や能力 及び態度の具体的な設定方法や 手順などについては, 第5章第3節で詳しく解説する。 (5) 学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福 祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動,児童の興味・関心に 基づく課題についての学習活動,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学 校の特色に応じた課題につい ての学習活動などを行うこと。 --34/130-- -31- 総合的な学習の時間では,各学校において指導計画を作成し,そこには内容として,目標 の実現のためにふさわしいと各学校が判断した学習 課題を定める必要がある。この学習課題 とは,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康 などの横断的・総合的な課題,児童の興 味・関心に基づく課題,地域の人々の暮らし,伝統 と文化など地域や学校の特色に応じた課 題など,横断的・総合的な学習としての性格をもち ,探究的に学習することがふさわしく, そこでの学習や気付きが自己の生き方を考えること に結び付いていくような,教育的に価値 のある諸課題のことである。 しかし,それぞれの課題はあくまでも例示であり,各学校が内容を設定する際の参 考として示したものである。これらの例示を参考にしながら,地域や学校,児童の実 態に応じて内容を設定し,具体 的な学習活動として展開 することが求められる。 以下に,例示した課題の特質 と学習活動について示す。 国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題とは,社会の変化 に伴って切実に意識されるようになってきた現代社会の諸課題のことである。そのい ずれもが,持続可能な社会の実現にかかわる課題であり,現代社会に生きるすべての 人が,これらの課題を自分のこととして考え,よりよい解決に向けて行動することが 望まれている。また,これらの課題については正解や答えが一つに定まっているもの ではなく,従来の各教科等の枠組みでは必ずしも適切に扱うことができない。したが って,こうした課題を総合的な学習の時間の内容として取り上げ,具体的な学習活動 としていくことには大きな価値がある。 一方,ここに示した課題をすべて取り上げる必要はない。地域や学校,児童の実態 に応じて,取り組みやすい課題や特に必要と考えられる課題に重点的に取り組むこと も考えられる。また,例示以外の課題についての学習活動を行うことも考えられる。 例えば,ものづくり,キャリア教育,食育 ,安全教育等にかかわる課題も想定できる。 児童の興味・関心に基づく課題とは,児童がそれぞれの発達段階に応じて興味・関 心を抱く課題のことである。 例えば,将来への夢やあこがれをもち挑戦しようとするこ と,ものづくりなどを行い楽しく豊かな生活を送ろうとすること ,生命の神秘や不思議さ を明らかにしたいと思うこと ,などが考えられる。これらの 児童が自ら設定した課題 --35/130-- -32- は, 一人一人の生活と深くかかわっており, 児童が自己の生き方と のかかわりで考え, よりよい解決に向けて行動する ことが望まれている。 総合的な学習の時間は,児童が,自ら学び,自ら考える時間であり,児童の主体的 な学習態度を育成する時間である。また,自己の生き方を考えることができるように することを目指した時間である。その意味からも,総合的な学習の時間において,児 童の興味・関心に基づく課題を取り上げ,それについての学習活動を行うことは重要 なことである。 なお,児童の興味・関心に基づく課題については,横断的・総合的な学習や探究的 な学習として,学習の質的高まりが期待できるかどうかを,教師が十分に判断する必 要がある。たとえ児童の選んだ課題であるとしても,総合的な学習の時間の目標にふ さわしくない場合や十分な学習の成果が得られない場合には,適切に指導を行うこと が求められる。 地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題とは,地域の 伝統,文化,行事,生活習慣,産業,経済などにかかわる,各地域や各学校に固有な 諸課題のことである。すべての地域社会には,その地域ならではのよさがあり特色が ある。古くからの伝統や習慣が現在まで残されている地域,地域の気候や風土を生か した特産物や工芸品を製造している地域など,様々に存在している。これらの特色に 応じた課題は,よりよい郷土の創造にかかわって生じる地域ならではの課題であり, 児童が地域における自己の生き方とのかかわりで考え,よりよい解決に向けて地域社 会で行動していくことが望まれている。また,これらの課題についても正解や答えが 一つに定まっているものではなく,従来の各教科等の枠組みでは必ずしも適切に扱う ことができない。したがって,こうした課題を総合的な学習の時間の内容として取り 上げ,具体的な学習活動としていくこ とには大きな価値がある。 なお,今回の改訂で, 「地域の人々の暮らし,伝統と 文化など地域や学校の特色に 応じた課題」が加わったのは,児童の発達から考えてふさわしい課題であり,数多く の学校が実践を積み重ねているという 全国の取組の実際による。 例えば,地域に古くから伝わる祭事の不思議さや面白さに関心をもち,問題の解決 や探究活動を行う場合には,祭りの歴史や由来などを調査したり,繰り返し地域の人 --36/130-- -33- 々とかかわりながら,祭りを支えてきた思いや願いなどを聞き取ったりしていく。ま た,その結果をまとめて報告したり,発表したり,実際に祭りに参加したりするなど の活動が考えられる。こうした探究的な学習を通して,児童は自分の地域のよさに気 付き,地域への誇りと愛着をはぐくんでいく。この他にも,地域に伝わる伝統文化や 伝統芸能,地域の産物を生かした特産品や工芸品,歴史や民話など,学校を取り巻く 地域には多くの優れた素材が存在している。これらの素材を生かした学習活動は,児 童にとって具体的であり身近であるため,興味や関心をもちやすい。また,地域の人 とのかかわりも生み出しやすい。 なお,地域に関して収集した資料や情報については,学校で蓄積・管理し,共有化 しておくことで,学習活動や指導計画に生かせるようにしておくことが大切である。 (6) 各教科,道徳,外国語活動及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関 連付け,学習や生活において生かし,そ れらが総合的に働くようにすること。 平成15年12月の学習指導要領の一部改正では,総合的な学習の時間のねらいに「各 教科,道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活に おいて生かし,それらが総合的に働くようにすること」が付け加えられた。これは, 総合的な学習の時間の実施上の課題として,各教科等との関連に十分な配慮がなされ ないままに実施されている事例が多く見受けられたことを踏まえて位置付けられたも のである。 今回の改訂においても,この点は重要であり,総合的な学習の時間と各教科等との 関連は一層重視していか なければならない。 「各教科,道徳,外国語活動及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連 付け,学習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにする」とは,各教科 等で別々に身に付けた知識や技能をつながりのあるものとして組織化し直し,改めて 現実の生活にかかわる学習において活用し,それらが連動して機能するようにするこ とである。身に付けた知識や技能は,当初学んだ場面とは異なる新たな場面や状況で 活用されることによって,一層 生きて働くようになる。 --37/130-- -34- 今日,状況に応じて自在に活用することができる知識や技能が,社会的にも,国際 的にも求められている。こうした知識や技能の獲得のためにも,総合的な学習の時間 の中で,課題を見付け,目的に応じて情報を収集し,その整理・分析を行い,まとめ ・表現したり,コミュニケーションを図ったり,振り返ったりするなどの学習活動を 行うことが重要である。例えば,近くの森林の酸性雨による被害に関心をもち,探究 的な学習を行った場合,児童は,森林に入り一本一本の樹木やその植生を調査し,生 育の様子や被害の様子を調べていく。ここでは,自然観察の力や植物に関する知識が 発揮されることで,豊富な情報が収集される。また,収集した情報はグラフ化して統 計処理したり,地図上に整理したりして,深く分析していく。さらには,そうした結 果を作文や絵にまとめたり,劇や音楽として発表したりしていくことが考えられる。 このように,総合的な学習の時間において,各教科等で身に付けた知識や技能等が 存分に発揮されることで,学習活動は深まりを見せ,大きな成果を上げる。そのため にも,教師は各教科等で身に付ける知識や技能等について十分に把握し,総合的な学 習の時間との関連を図るようにすることが必要である。例えば,年間指導計画を工夫 することで,各教科等で学ぶ1年間の学習内容や扱われる題材と,総合的な学習の時 間の内容や学習活動との関連を概観し ,とらえることができる。 一方,総合的な学習の時間で身に付けた資質や能力及び態度を各教科等で生かして いくことも大切である。総合的な学習の時間の成果が,当該学年はもとより先の学年 における各教科等の学習を動機付けたり推進したりすることも考えられる。各教科等 と総合的な学習の時間とは,互いに補い合い,支え合うものであることを十分に理解 すべきである。 このように各教科等で身に付けた知識や技能等を関連付け,活用することを経験す ることにより,日常の学習活動や生活における様々な課題に対する解決においても, 各教科等で身に付けた知識や技能等を 働かせる児童の姿が期待できる。 中央教育審議会の答申では, 「各学校での子どもたちの思考力・判断力・表現力等 を確実にはぐくむために,まず,各教科の指導の中で,基礎的・基本的な知識・技能 の習得とともに,観察・実験やレポートの作成,論述といったそれぞれの教科の知識 ・技能を活用する学習活動を充実させることを重視する必要がある。各教科における --38/130-- -35- このような取組があってこそ総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決 的な学習や探究的な活動も充実するし,各教科の知識・技能の確実な定着にも結び付 く。このように,各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は, 決して一つの方向に進むだけではなく,例えば,知識・技能の活用や探究がその習得 を促進するなど,相互に関連し合って力を伸ばしていくものである」と記しているよ うに,各教科等と総合的な学習の時間の役割を明確にしながらも,両者の関連を意識 して実践していくことが 極めて重要である。 (7) 各教科, 道徳, 外国語活動及び特別活動の目標及び内 容との違いに留意しつつ, 第1の目標並びに第2の各学校において定める目標及び内容を踏まえた適切な学 習活動を行うこと。 各教科,道徳,外国語活動及び特別活動と総合的な学習の時間は,それぞれ固有の 目標と内容をもっている。それぞれが役割を十分に果たし,その目標をよりよく実現 することで,教育課程は全体として適切に機能することになる。互いの違いを十分に 理解した上で,総合的な学習の時間の目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を展開 することが求められる。 特に,総合的な学習の時間と特別活動との関連については,学習指導要領の第1章 総則の第3の5に「総合的な学習の時間における学習活動により,特別活動の学校行 事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な学習の 時間における学習活動をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に 替えることができる」との記述がある。これは総合的な学習の時間についての記述で あり,横断的・総合的な学習や探究的な学習が実施されていることが前提となってい る。総合的な学習の時間において体験活動を実施した結果,学校行事として同様の成 果が期待できる場合にのみ,特別活動の学校行事を実施したと判断してもよいことを 示しているものである。特別活動の学校行事を総合的な学習の時間として安易に流用 して実施することを許容 しているものではない。 具体的には,総合的な学習の時間において,問題の解決や探究活動といった総合的 --39/130-- -36- な学習の時間の趣旨を踏まえ,例えば,自然体験活動やボランティア活動を行う場合 において,これらの活動は集団活動の形態をとる場合が多く,望ましい人間関係の形 成や公共の精神の育成など, 特別活動の趣旨も踏まえた 活動とすることが考えられる。 すなわち, ・ 総合的な学習の時間に行われる自然体験活動は,環境や自然を課題とした問題 の解決や探究活動として行われると同時に, 「自然の中での集団宿泊活動などの 平素と異なる生活環境にあって,見聞を広 め,自然や文化などに親しむとともに, 人間関係などの集団生活の在り方や公衆 道徳などについての望ましい体験を積む ことができる」遠足・集 団宿泊的行事と, ・ 総合的な学習の時間に行われるボランティア活動は,社会とのかかわりを考え る学習活動として行われると同時に, 「勤労の尊さや生産の喜びを体得するとと もに,ボランティア活動などの社会奉仕 の精神を養う体験が得られる」勤労生産 ・奉仕的行事と, それぞれ同様の成果も期待できると考えられる。このような場合,総合的な学習の時 間とは別に,特別活動として改めてこれらの体験活動を行わないとすることも考えら れる。 これまでの総合的な学習の時間では,補充学習のような特定の教科の知識や技能の 習得を図る学習活動が行われていたり,運動会の準備などと混同された学習活動が行 われたりなどしている事例が見られた。これらについては,総合的な学習の時間とし てふさわしくないものであるこ とは言うまでもない。 (8) 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に 定めること。 総合的な学習の時間の教育課 程の基準上の名称は 「総合的な学習の時間」 とするが, 各学校における教育課程,時間割上のこの時間の具体的な名称については,この規定 に示す通り,各学校で適切に定 めるものとされている。 各学校において,この時間の目標や内容,学習活動の特質,学校の取組の経緯を踏 --40/130-- --40/130-- -37- まえて,例えば,地域のシンボルや教育目標,保護者や地域の人々の願いに関連した 名称など,この時間の趣旨が広く理解され,児童や保護者,地域の人々に親しんでも らえるように適切な名称 を定めればよい。 (9) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき, 道徳の時間などとの関 連を考慮しながら, 第3章道徳の第2に示す内容について, 総合的な学習の時間の特質に 応じて適切な指導をすること。 学習指導要領の第1章総則の第1の2においては, 「学校における道徳教育は,道 徳の時間を 要 として学校の教育活動全 体を通じて行うものであり,道徳の時間はも かなめ とより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に 応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならない」と規定 されている。 これを受けて,総合的な学習の時間の指導においては,その特質に応じて,道徳に ついて適切に指導する必要があ ることを示すものである。 (1)道徳教育と総合的な学習の時間 総合的な学習の時間における道徳教育の指導 においては,学習活動や学習態度へ の配慮,教師の態度や行動による感化とともに ,以下に示すような総合的な学習の 時間の目標と道徳教育との関連を明確に意識し ながら,適切な指導を行う必要があ る。 総合的な学習の時間においては,目標を「横 断的・総合的な学習や探究的な学習 を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら 考え,主体的に判断し,よりよく問 題を解決する資質や能力を育成するとともに, 学び方やものの考え方を身に付け, 問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同 的に取り組む態度を育て,自己の生 き方を考えることができる ようにする」と示している。 総合的な学習の時間の内容は,各学校で定 めるものであるが,例えば,国際理解, 情報,環境,福祉・健康などの現代社会の課題 や児童の興味・関心に基づく課題, --41/130-- -38- 地域や学校の特色に応じた課題などが考えられ る。児童が,横断的・総合的な学習 や探究的な学習を通して,このような現代社会 の課題などに取り組み,これらの学 習が自己の生き方を考えることに つながっていくことになる。 また,総合的な学習の時間においては,横断 的・総合的な学習や探究的な学習を 通して,主体的に判断して学習活動を進めたり ,粘り強く考え解決しようとしたり する資質や能力,自己の目標を実現しようとし たり,他者と協調して生活しようと したりする態度を育てることも重要であり,こ のような資質や能力及び態度の育成 は道徳教育につながるものである。 (2)道徳の時間と総合的な学習の時間 総合的な学習の時間では,横断的・総合的な 学習や探究的な学習を通して道徳性 の育成が図られる。一方,道徳の時間では,道 徳的価値の自覚及び自己の生き方に ついての考えを深めるという視点から基本的な 道徳的価値の全般にわたって自覚を 図る授業が展開される。総合的な学習の時間に おける学習活動を通して,道徳の時 間における道徳的価値の自覚が深まる場合や, 道徳の時間の授業において,取り扱 う主題と総合的な学習の時間の学習活動とを関 連付け,道徳的価値の自覚を図る場 合などが考えられる。 児童の道徳性がより発展的,調和的に育っていくよう,道徳の時間と総合的な学 習の時間における道徳教育との関連を図り,全 体として道徳教育を充実していく必 要がある。 --42/130-- -39- 第2節 内容の取扱いについての配慮事項 (1) 第2の各学校において定 める目標及び内容に基づき, 児童の学習状況に応じ て教師が適切な指導を行うこと。 総合的な学習の時間においては,児童が自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断するなど,児童の主体性や興味・関心を十分に生かすことが望まれる。 しかしそれは,教師が指導を行わなくてもよいということを意味するものではない。 ところが,これまでは,支援者としての教師の役割が誤解され,必要な指導をためら い教育的な効果が十分上がらない事例があった。また逆に,指導事項を必要以上に教 え過ぎてしまうことによって,児童が自ら学ぶことを妨げるような事例も見られた。 「児童の学習状況に応じて教師が適 切な指導を行うこと」とは ,この反省に立って, 各学校で定めた総合的な学習の時間の目標及び内容に基づいて,児童が望まれる学習 状況に達しているかを継続的に評価しながら,より質の高い学習状況に向けて自立的 な学習が行われるよう,必要な手立て を講じることを意味している。 例えば,児童だけでは理解できない知識や法則が学習活動に不可欠だと考えられる 場合には,教師が資料を提示したり説明したりすることが適切である。児童が課題へ の取り組み方を考えつかない場合には,教師が過去に取り組んだ事例を示したり,よ り達成しやすい小さな課題に分けて示したりすることが適切である。課題や学習の場 の設定,学習活動の目的をしっかりもたせること,学習の状況についての価値付けや 方向付け, 探究活動が一段落したときの新たな方向 性の提示や次の課題の設定なども, 必要に応じて教師が行う ことが考えられる。 児童の主体性を生かした学習と教師の適切な指導が相まってこそ,より質の高い学 習が実現され,総合的な学習の時間の目標が達成される。また,そのことが児童の学 習活動への満足感や達成感も高める。なお,総合的な学習の時間の評価については第 7章で,学習指導については第 8章で詳しく解説する。 --43/130-- -40- (2) 問題の解決や探究活動の 過程においては,他者と協同 して問題を解決しよう とする学習活動や,言語により 分析し,まとめたり表現 したりするなどの学習 活動が行われるようにすること。 総合的な学習の時間においては,問題の解決や探究活動の過程を質的に高めていく ことを心がけなければならない 。そのためには,次の二つに配 慮する必要がある。 第1は,他者と協同して問題を解決 する学習活動を行うことである。 ここでは,他者を幅広くとらえておくことが重要である。共に学習を進めるグルー プだけでなく,学級全体や他の学級あるいは学校全体,地域の人々,専門家など,ま た価値を共有する仲間だけでなく異な る立場の人々をも含めて考える。 そのような多様な他者と協同して学習活動を行うことには様々な価値がある。一つ には,多様な情報を手に入れることができる点である。様々な考えや意見,情報をた くさん入手することは,その後の学習活動を推進していく上では重要な要素である。 二つには,他者を尊重するとともに,自らの役割を自覚することができる点である。 問題の解決に向かう際には,互いの持ち味や個性を生かし,それを認め合いながら進 める良好な学び合いが欠かせない。三つには,協同的に人とかかわることで,交流を 深めたり広げたりできる点である。他者と協同して学習活動を進めるには,互いのコ ミュニケーションは欠かせない。自分の思いや気持ちを相手に伝えるとともに,相手 の思いを受け止めることも求められる。これらによって,双方向の交流が質の高い学 習活動を実現する。 これからの時代を生きる児童にとっては,多様で複雑な社会において円滑で協同的 な人間関係を形成する資質や能力及び態度が求められる。このような資質や能力及び 態度は,国や地域を超えて常に重要である。総合的な学習の時間において問題の解決 や探究活動を行うことは,その資質や能力及び態度を育成する場としてふさわしい。 第2は, 言語により分析し, まとめたり表現したりする学習 活動を行うことである。 今回の改訂において,言語活動は各教科等を貫く重要な改善の視点である。体験し たことや収集した情報を,言語により分析したりまとめたりすることは,問題の解決 --44/130-- -41- や探究活動の過程において特に大切にすべきことである。そのためには,分析とは何 をすることなのか具体的なイメージをもつことが必要となる。例えば,集めた情報を 共通点と相違点に分けて分類したり,時間軸に沿って並べたり,原因と結果に分けた りすることなどが考えられる。 また,言語によりまとめたり表現したりする学習活動では,分析したことを文章や レポートに書き表したり,口頭で報告したりすることなどが考えられる。文章やレポ ートにまとめることは,それまでの学習活動を振り返り,体験したことや収集した情 報と既有の知識とを関連させ, 自分の考えとして整理す ることにつながる。 それらの報告の場として,学級全体で学習成果を共有する場面が想定される。参加 者全員の前で行うプレゼンテーションや目の前の相手に個別に行うポスターセッショ ンなど,多様な形式を目的に応じて設定することが考えられる。そこでは,発表の工 夫をさせると同時に,聞いている児童にも主体的にかかわらせることが重要である。 例えば,発表者には要点を絞って伝えるための図や表の活用,視聴覚機器やプレゼン テーションソフトウェアなどのツールの利用などが考えられる。聞いている児童には 発表内容を深め,問題点に気付かせる「よい質問」をしたり,発表者の学習成果を改 善させるアドバイスをしたりすることを目標とさせるなどの工夫が考えられる。その 上で,発表後の時間を十分確保して交流したり,それぞれに自己評価したりして,新 たな追究に向かわせるなども考えられる。このようにして,言語活動を利用した協同 的な学習によって,グループによって異なる学習内容を共有したり,相互に関係付け たりすることが実現する。 (3) 自然体験やボランティア 活動などの社会体験,ものづ くり,生産活動などの 体験活動,観察・実験,見学や 調査,発表や討論などの 学習活動を積極的に取 り入れること。 体験活動とは,自分の身体を通して実際に経験する活動のことである。児童は,感 覚器官を通して,外界の事物や事象に働きか け学んでいく。具体的には,視覚,聴覚, 味覚,嗅覚,触覚といった感覚を働かせて,あるいは組み合わせて,外界の事物や きゅう --45/130-- -42- 現象に働きかけ学んでいく。このように,児童が身体全体で対象に働きかけ実感をも ってかかわっていく活動 が体験活動である。 児童は,人々や社会,自然とかかわる体験活動を通して,自分と向き合い,他者に 共感することや社会の一員であることを実感する。また,自然の偉大さや美しさに出 会ったり,文化・芸術に触れたり,社会事象への関心を高め問題を発見したり,友達 との信頼関係を築いて物事を考 えたりなどして,喜びや 充実感を実感する。 こうしたことから,総合的な学習の時間では,一定の知識を覚え込ませるのではな く,直接的な体験を適切に位置付けた横断的・総合的な学習や探究的な学習を行う必 要がある。例えば,自然にかかわる体験活動,ボランティア活動など社会とかかわる 体験活動,ものづくりや生産,文化や芸術にかかわる体験活動などを行うことが考え られる。 同様の趣旨から,総合的な学習の時間における学習活動は,以下のような学習活動 を積極的に行う必要がある。例えば,事象を精緻に観察すること,科学的な見方で仮 ち 説を立て,実験し,検証すること,実際に事象を見学したり,事実を確かめるために 調査したりすることなどを行い,情報の収集を行うこと。また,そうした情報をまと めて整理したり,関連付けたりする発表や討論を行うこと。これらの学習活動によっ て学習の深まりが期待できる。 例えば,環境問題を課題にした場合,自然に対する豊かな感受性や生命を尊重する 精神,環境に対する関心等は,身近な自然に浸る時間を確保し,飼育・栽培や自然観 察などの活動を実際に行わなければ培えない。また,ボランティア活動などの社会体 験が,環境の保全やよりよい環境の創造のために働く人々への共感を生み,主体的に 行動する実践的な資質や能力及び態度を育成することにつながる。さらに,環境問題 をより科学的に認識するためには,温室効果を確かめる実験や風車をつくって発電す る実験などをしたり,環境保全にかかわる機関に見学に行ったりする活動が効果的で ある。また,自分たちが深く環境問題とかかわっていることを実感するためには,家 庭や学校での水の使用量や,排出するゴミの種類と量を調査するような活動が有効で ある。こうして調べたことや実験などで分かったことを発表・討論させることを通し て,具体的にどのように行動を変えればよいのかを考えさせたりそれを深めたりする --46/130-- -43- ことが実現できるのである。 なお,体験的な学習を展開するに当たっては,児童の発達特性を踏まえ,目標や内 容に沿って適切かつ効果的なものとなるよう工夫するとともに,児童をはじめ教職員 や外部の協力者などの安全確保,健康や衛生等の管理に十分配慮することが求められ る。 (4) 体験活動については,第 1の目標並びに第2の各学校 において定める目標及 び内容を踏まえ,問題の解決や探究活動の過程に適切に位置付けること。 総合的な学習の時間では体験活動を重視している。しかし,ただ単に体験活動を行 えばよいわけではなく,それを問題の解決や探究活動の過程に適切に位置付けること が重要である。 「問題の解決や探究活動の過程に適切に位置付ける」とは,一つには,設定した課 題に迫り,課題の解決につながる体験活動であることが挙げられる。予想を立てた上 で検証する体験活動を行ったり,体験活動を通して実感的に理解した上で事象と自分 とのかかわりについて課題を再設定したりなど,問題の解決や探究活動に適切に位置 付けることが欠かせない。 二つには, 児童が主体的に取り組むことのできる 体験活動であることが挙げられる。 そのためには,児童の発達に合った,児童の興味・関心に応じた体験活動であること が必要となる。児童にとって過度に難し過ぎたり,明確な目的をもたなかったりする 体験活動では十分な成果 を得ることができない。 三つには,年間を見通した適切な時数の範囲で行われる体験活動であることが挙げ られる。十分な体験活動を位置付けることは当然であるが,何のための体験活動なの かを明らかにし,その目的のた めに必要な時数を確保す ることが大切である。 四つには, 児童の安全に対して, 十分に配慮した体験活動で あることが挙げられる。 体験活動は,それ自体が魅力的であり児童の意欲を喚起することが多い。また,屋外 で行ったり,機材などを使ったりするダイナミックな活動であることも多い。事前の 準備や人的な手配などを丁寧に行い,十分な安全確保の中で体験活動の魅力を存分に --47/130-- -44- 引き出すようにすることが望まれる。 このように意図的・計画的に体験活動を位置付けることによって,総合的な学習の 時間の内容, 育てようとする資質や能力及び態度な どが確実に身に付くと考えられる。 なお,体験活動の具体例としては,例えば自然の偉大さや美しさに出会ったり,そ の中で友達とかかわったりしながら協同的に学ぶ自然体験活動なども考えられる。こ の体験活動は,特別活動として実施する集団宿泊活動の一部として行うことも考えら れるが,その際にも,問題の解決や探究活動に適切に位置付く学習活動でなければな らない。 このように,総合的な学習の時間において,学校行事と関連付けて体験活動を実施 することもあり得る。しかし,その場合でも必ず総合的な学習の時間の目標及び内容 を踏まえたものであること,問題の解決や探究活動の過程に位置付いていることなど に十分配慮しなければならない。そして,その上で実際に総合的な学習の時間の要件 を満たす活動の時数だけを算出して,総合的な学習の時間の時数として計上すること が求められる。 これまでは,好ましくない事例として,運動会の準備や応援練習などに総合的な学 習の時間を利用することが見られた。総合的な学習の時間と特別活動との目標や内容 の違いを踏まえ,それぞれの時 間にふさわしい体験活動を行わ なければならない。 総合的な学習の時間と特別活動との関連を意識し,適切に体験活動を位置付けるた めには,次のような点に十分配慮すべきである。例えば,修学旅行と関連を図る場合 は,事前に知りたいことや疑問に思うことなどを絞り込んで児童が課題を作ること, 現地での学習活動の計画を児童が立てること,その上で,現地では見学やインタビュ ーの機会を設けるなど児童の自主的な学習活動を保障すること,事後は,解決できた 部分をまとめ,解決できなかった部分を別の手段で追究する学習活動を行うこと,な ど一連の学習活動が探究的な学習となっていることが必要である。こうしたことに十 分配慮した上で,総合的な学習の時間と特別活動とを関連させて実施することが考え られる。その際,総合的な学習の時間の目標や内容にかかわらない時間については, 総合的な学習の時間に該当しないことは当然であり,適切な時間数が配当されるよう 十分に注意しなければならない。 --48/130-- -45- (5) グループ学習や異年齢集 団による学習などの多様な学 習形態,地域の人々の 協力も得つつ全教師が一体とな って指導に当たるなどの 指導体制について工夫 を行うこと。 多様な学習形態の工夫を行うことは,児童の様々な興味・関心や多様な学習活動に 対応するため必要なことである。例えば,興味・関心別のグループ,表現方法別のグ ループ,調査対象別のグループなど多様なグループ編成や,学級を越えた学年全体で の活動,さらには教え合いや学び合いの態度をはぐくむために異年齢の児童が一緒に 活動することにも考慮する必要がある。 個人による学習は,一人一人が計画を立てて調査し,分かったことを一人でまとめ ることが求められるため, 自分で学習を進める力 をはぐくむことができる。 その反面, 限られた時間で集められた資料だけで考えることになったり,考えが一面的になった りすることもある。 グループによる学習では,メンバー全員で計画を立てて役割分担をすることが求め られる。この中で,一人一人の個性を生かすことを学んだり,コミュニケーションの 取り方を学んだりすることが期待される。また,自分の役割を最後までやり遂げるこ とも求められる。一方で,一人一人の児童に課題が設定されなかったり,役割に軽重 がついたり,全員の関心や意見が十分に反映されなかったりするということも考えら れる。 学級全体での学習では,教師の指導の下,計画的に体験を行ったり,活発な討論が 行ったりする。また,それを基に新たな問題に向かっていく学習活動の高まりも期待 できる。しかし,一人一人が追究方法を考えたり,まとめの資料を作り上げたりする 側面が弱くなり,他者に依存す ることが危惧される。 ぐ 異年齢集団で学習を進めることは,上級生のリーダーシップをはぐくみ,下級生に とっても各自の資質や能力以上の学習活動を経験できるという利点がある。一方で, 全員が学習内容を理解するための時間がかかったり,学習活動の管理が難しくなった りすることも考えられる。 --49/130-- -46- 総合的な学習の時間を充実させるためには,これらの学習形態の長所,短所を踏ま えた上で,学習活動に即して適切な学習形態を選択したり組み合わせたりする必要が ある。また,人数と学習活動とは適正か,どれくらいの時間が必要か,事前にどのよ うな活動を行っておくかなどについて,しっかりとした計画を立てることも重要であ る。このような計画の下で学級や学年を越えた取組を進めることで,児童の多様な興 味・関心や学習経験など を生かすことができる。 指導体制について工夫を行うことは, 上のような多様な学習 形態を支えるとともに, 学習の幅や深まりを生み 出すことにつながる。 総合的な学習の時間は,保護者をはじめ地域の専門家など外部の人々の協力が欠か せない。この時間を豊かな学習活動として展開していくためには,地域の人々の協力 を積極的に活用することが必要である。 また,この時間は特定の教師のみが担当するのではなく,全教師が一体となって指 導に当たることが求められる。このことは,横断的・総合的な学習を行うなどのこの 時間の目標からも明らかである。そのためには,同学年や異学年の教師が協同で計画 や指導に当たることはもちろん,校長,教頭,養護教諭,栄養教諭,講師などもこの 時間の指導にかかわる体制を整え,全教職員がこの時間の学習活動の充実に向けて協 力するなど,学校全体として取り組むことが不可欠である。その際,幅広く外部にこ の時間の学習の状況や成果を公表し,保護者をはじめ地域の人々からの評価も得て, その後の実践に生かしていくなど,学校を取り巻く地域の理解と協力を得やすくする ことも大切である。 こうしたことの計画や準備を行う際には,全校的な組織をつくり,役割を分担する 校内の指導体制を確立することが重要である。また,その計画や準備のための時間を 十分に確保すること必要もある。なお,総合的な学習の時間における指導体制につい ては,第9章で詳しく解説する。 --50/130-- --50/130-- -47- (6) 学校図書館の活用,他の 学校との連携,公民館,図書 館,博物館等の社会教 育施設や社会教育関係団体等の 各種団体との連携,地域 の教材や学習環境の積 極的な活用などの工夫を行うこと。 総合的な学習の時間における問題の解決や探究活動の過程では,様々な事象につい て調べたり探したりする学習活動が行われるため,豊富な資料や情報が必要となる。 そこで,学校図書館やコンピュータ室の図書や資料を充実させ,コンピュータ等の情 報機器やネットワークを整備す ることが望まれる。 最新の図書や資料,新聞やパンフレットなどを各学年の学習内容に合わせて使いや すいように整理,展示したり,関連する映像教材やデジタルコンテンツを揃えていつ そろ でも利用できるようにしたりしておくことによって,調査活動が効果的に行えるよう になり,学習を充実させることができる。また,インターネットで必要なものが効率 的に調べられるように,学習活動と関連するサイトをあらかじめ登録したページを作 って,図書館やコンピュータ室 などで利用できるようにしてお くことも望まれる。 一方で,それらを用いて問題の解決や探究活動を進める学習場面を十分確保するこ とや,そのための多様な学習活動を展開できるスペースを確保しておくことにも配慮 が求められる。 また,総合的な学習の時間の学習活動が中学校の学習活動と相互に関連付けられ連 続的・発展的に展開できるようにしたり,地域の学校間で共通の課題を取り扱ったり するなど,他の学校との連携にも配慮する必要がある。例えば同じ河川流域の学校間 で水生生物の生息調査を協同して行い,その結果を共有化して活用するなどの連携に よって,学習活動に必要な情報 を効率的に集めることが できる場合がある。 異なる学校を結んで行う協同的な学習は,共に学習活動を進めるという意識や競い 合う意識を生んで学習意欲を高めたり,自分たちだけでは調べられない相手の地域の 情報を得たりするという利点がある。その一方,場合によっては意見交流が形骸化し がい てしまう可能性があることも踏まえ,協同して計画を立案し,実効性の高い連携を考 えていく必要がある。 --51/130-- -48- 地域には,豊かな体験活動や知識を提供する公民館,図書館や博物館などの社会教 育施設等や,その地域の自然や社会に関する詳細な情報を有している企業や事業所, 社会教育関係団体やNPO(特定非営利活動法人)等の各種団体がある。また,遺跡 や神社・仏閣などの文化財,伝統的な行事や産業なども地域の特色をつくっている。 この時間が豊かな学習活動として展開されるためには,学習の必然性に配慮しつつ, こういった施設等の利用を促進し,地域に特有な知識や情報と適切に出会わせる工夫 が求められる。 その際,見学などで施設を訪れることだけでなく,施設の担当者に学校に来てもら うことも方法の一つである。実際に来られないときには,手紙や電話,FAXや電子 メールなどを使って,情報を提供してもらったり,児童の質問に答えてもらったりす ることも有効である。 その一方で,社会教育施設等を無計画に訪れるなどして,先方の業務に支障を来す ことなどのないように配慮しなければならない。積極的に活用することと,無計画に 利用することは異なる。また,外部人材の活用の際に,講話内容を任せきりにしてし まうことによって,自分で学びとる余地が残らないほど詳細に教えてもらったり,内 容が高度で児童に理解できなかったりする場合もある。また,特定のものの見方だけ が強調されることも考えられる。学習のねらいについて,事前に十分な打合せをして おくことが必要であり,外部人 材に依存し過ぎることのないよ うにすべきである。 こうして地域のもつ教育力を活用することは,この時間の目標をよりよく実現する ことにつながるだけでなく,さらに次のような教育的効果をもたらす。学習活動を地 域の中で行ったり,その成果を保護者も含めた地域の人々に公開することにより,児 童が社会の一員であることを自覚したり,児童の学習意欲が向上したりすることにな る。さらには,学習活動を通して,児童が地域の人々と親密になったり,地域の教育 機関の利用に慣れたり,地域の自然や文化財等に関心をもったり,地域の伝統行事等 に参加したりするようになり,児童が地域への愛着を高め,豊かな生活を送ることに つながる。 なお,地域の人々の協力や地域の教材,学習環境の活用などに当たっては,生活科 の実践において生活科マップや人材バンクなどを作成している学校も多い。このよう --52/130-- -49- なノウハウを生かして,総合的な学習の時間の学習に協力可能な人材や施設などに関 するリスト(人材・施設バンク)を作成したり,地域の有識者との協議の場などを設 けたりする工夫も考えられる。また,地域によっては,この時間のためにコーディネ ーターなどの交渉窓口が設置されている場合もある。このような制度を積極的に活用 することが,充実した総合的な 学習の時間の実現につながる。 (7) 国際理解に関する学習を 行う際には,問題の解決や探 究活動に取り組むこと を通して,諸外国の生活や文化などを体験したり調査したりするなどの学習 活動が行われるようにすること。 グローバル化が一層進む中で,横断的・総合的な課題として国際理解を扱い,問題 の解決や探究活動を通して取り 組んでいくことは,意義 のあることである。 その際には,広く様々な国や地域を視野に入れ,外国の生活や文化を体験し慣れ親 しむことや,衣食住といった日常生活の視点から,日本との文化の違いやその背景に ついて調査したり追究したりす ることが重要である。 例えば,地域に暮らす外国人や外国生活経験者に協力を得て,諸外国の料理を作っ て食べる体験を通して,食材の違いや気候・風土との関係について考えたり,食べ方 の習慣とその歴史や文化について調べたり,我が国の習慣や文化と比べたり,体験し たことを議論したり発表したりするなど,幅広く学習を展開することが重要である。 また,日本と諸外国との関係について学ぶ際に,例えば地球温暖化や食料の輸出入 の問題のように,価値が対立する問題に出会うことがある。そのような問題を積極的 に生かして,世界中には多様な考え方や価値が存在することを実感できるような場面 を設定することも考えられる。また,それを解決する方法を考えたり,討論したりす る学習を通して,国際間の協調の重要さや難しさについて,考える機会を設けること も想定できる。 なお,スキルの習得に重点を置くなど単なる外国語の学習を行うことは,これまで と同様,総合的な学習の時間にふさわしい学習とは言えない。ただし,このことは, 総合的な学習の時間の目標を踏まえて行われる国際理解に関する学習の中で,外国語 --53/130-- -50- に触れる活動を行ってはならな いということではない。 (8) 情報に関する学習を行う 際には,問題の解決や探究活 動に取り組むことを通 して,情報を収集・整理・発信 したり,情報が日常生活 や社会に与える影響を 考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。 現代社会は情報化の時代と言われている。多様で大量な情報が,瞬時に世界に広が る。また,身の回りには様々な情報があふれ,それらを適切に処理し活用する資質や 能力及び態度の育成が求められている。こうした時代の中,この時間において,横断 的・総合的な課題としての情報を扱い,その課題を問題の解決や探究活動の過程を通 して取り組んでいくこと には大きな価値がある。 ここでは, 「問題の解決や探究活動に取り組 むことを通して」とあるように,電話, FAX,コンピュータ,インターネットなどの情報手段の活用の必然性が伴う学習活 動を行うことが重要であり,その過程において,情報手段の操作の習得が自然と行わ れるようにすることが望まれる。 情報を収集・整理・発信したりとは,インターネットを活用したり適切な相手を見 付けて問い合わせをしたりして課題に関する情報を幅広く収集し,それらを整理して 自分なりの意見をもち,それをプレゼンテーションしたり,インターネットを使って 発信したりするような,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を効果 的に活用する学習活動の ことを指している。 情報の収集に当たっては,図書やインターネット及びマスメディアなどで必要な情 報を得るにはどのようにすればよいのか,それぞれの長所や短所は何で,場面に応じ てどう使い分けるのかというような,情報の収集方法についても,実際に体験する中 で習得させたい。 また,関心が集まりがちなのは情報の収集や発信にかかわる技能的側面であるが, 問題の解決や探究活動の過程においては情報の整理がより重視されるべきである。す なわち,入手した情報の重要性や信頼性を吟味したり,比較・分類したりする。さら には,複数のものを関連付けたり組み合わせたりして新しい情報を創り出すような考 つく --54/130-- -51- えるための技法を,実際に課題を解決する過程を通して身に付けさせることが大切で ある。 情報の発信においては,返信が得られるように工夫することが望ましい。同級生や 地域の人々,他の学校の児童たちから,自分の発信した情報に対する感想やアドバイ スが返り,それを基にして修正したり発展させたりするサイクルをうまくつくること で,情報活用の実践力が育つと考えられる。また,情報を発信する学習においては, 他者の作成した情報を参考にしたり引用したりすることがある。この場合,情報の作 成者の権利を尊重し,出典を明記する ことを学ばせる必要がある。 情報が日常生活や社会に与える影響を考えさせることについては,総合的な学習の 時間の学習課題の例として,問題の解決や探究活動の過程において,情報手段の進化 によって日常生活や消費行動がどう変化したか,社会がどのように豊かになったのか といったことを取り上げることが考えられる。同時に,日常生活にどのような新しい 危険や困難がもたらされたのか,社会にどのような新しい問題が起こっているのかを 考えることも重要である。児童自身が情報を収集・整理・発信する活動を通して,情 報社会の一員として生活していることについての自覚を促し,発信情報に責任をもつ などの意識をもたせる必要もある。 その中で,自分自身が危険に巻き込まれないことや情報社会に害を及ぼさないこと などの情報モラルについても,機を見て丁寧に指導する必要がある。例えば,電子掲 示板を用いてみんなで調べたことを教え合うような学習活動では,時折相手を中傷す るような書き込みが見られることがある。そういう場面をとらえて,なぜそれがいけ ないのか,どのようなことに発展する可能性があるのかなどを討論するようなことが 考えられる。 --55/130-- -52- 第5章 総合的な学習の時間の指導計画の作成 第5章〜第9章は,各学校において定めた目標及び内容を適切に実施していくため の全体計画の作成,年間指導計画や単元計画の作成,評価の在り方,学習指導の進め 方,指導体制の整備等について,その基本的な考え方やポイントを,手順や方法,具 体例などを交えて解説する。 各学校においては, 以下に記す第5章以降を参考にして, これまでの取組を見直すととも に,具体的な改善を進め ることが期待される。 第1節 総合的な学習の時間における指導計画 1 指導計画の要素 教育課程には,その学校における教育活動の計画が,全領域,全学年にわたって記され る。指導計画とは,この教育課程の部分計画であり,例えば,第 1学年の指導計画,国語 科の指導計画,4月の指導計画といった具合に ,教育課程を構成する特定の部分について, その教育活動の計画を必要に応 じて示したものである。 総合的な学習の時間も教育課程を構成する一部であるから,その指導計画は当然必要で ある。第3の1の(1)「全体計画及び年 間指導計画の作成に当たっては ,学校における全 教育活動との関連の下に,目標 及び内容,育てようとする資質や 能力及び態度,学習活動, 指導方法や指導体制,学習の評価の計画などを示すこと」が,こ のことを明確に示してい る。 この記述にあるように,総合的な学習の時間の指導 計画の作成に際しては,以下の七つ について考える必要がある。 1) この時間を通してその 実現を目指す「目標」 2) 目標を実際の学習活動へと実践化するために,より具体的・分析的に示した「育て ようとする資質や能力及び態度」 3)「目標」の実現にふさわしいと各学校が判断した学習課題等からなる「内容」 。この --56/130-- -53- 「内容」を定めるに当たっては,学習 対象や学習事項等によって,学習課題を具体的 ・分析的に示すことが考えられる。 4)「内容」とのかかわりにおいて実 際に児童が行う「学習活動」 。これは,実際の指導 計画においては,児童にとって意味の ある問題の解決や探究活動のまとまりとしての 「単元」 ,さらにそれらを配列し,組織した「 年間指導計画」として示される。 5)「学習活動」を適切 に実施する際に必要と される「指導方法」 6)「学習の評価」 。これには,児童の学習状況の評価 ,教師の学習指導の評価,1)〜5) の適切さを吟味する指導計 画の評価が含まれる。 7) 1)〜6)の計画,実施を適切 に推進するための「指導体制」 第5章以下では,第4章までの解説を踏まえ,各学校においてどのように指導計画の作 成を進めていくべきかについて,これら七つの事項に即して,よ り具体的,実践的に解説 を加えていく。その際,1)2)3)に ついては第5章で,4)については第6章で,5)について は第8章で,6)について は第7章で,7)につい ては第9章で主に解説する。 2 全体計画と年間指導計画 第3の1の(1)は,総合的な学習の時間の指導 計画のうち,学校として全体計画と年間 指導計画の二つを作成 する必要があること, 及びその作成に当たっての要素を示している。 全体計画とは,指導計画のうち,学校として,この時間の教育活動の基本的な在り方を 示すものである。具体的には,各学校において定める目標,育て ようとする資質や能力及 び態度,内容について明記するとともに,学習活動,指導方法, 指導体制,学習の評価等 についても,その基本的な内容 や方針等を概括的・構造的 に示すことが考えられる。 一方,年間指導計画とは,全体計画を踏まえ,その実現のために,どのような学習活動 を,どのような時期に,どのように実施するか等を示すものであ る。具体的には,1年間 の時間的な流れの中に単元を位置付けて示すとともに,学校にお ける全教育活動との関連 に留意する観点から,必要に応じて各教科,道徳,外国語活動及 び特別活動における学習 活動も書き入れ,総合的な学習の時間における学習活動との関連 を示すことなどが考えら --57/130-- -54- れる。 このように,全体計画を単元として具体化し,1年間の流れの中に配列したものが年間 指導計画であり,年間指導計画やそこに示された個々の単元の成 立の拠り所を記したもの よ が全体計画であり,この二つは関連し対応する関係にある。した がって,各学校において は,それぞれを立案するとともに,二つの計画が関連をもつよう に,十分配慮しながら作 成に当たる必要がある。 以上のことからも分かるように,指導計画を構成する上記七つの要素については,指導 計画のどこかで示していればよく,したがって全体計画と年間指 導計画の少なくとも一方 において明示することで足 りると考えられる。 なお,第5章と第6章で主に扱う上記1)2)3)4)の相互の関係 については,下図のように 示すことができる。こ の図にあるように,各学校は,まず第1の目標を踏まえて自分 の学校の目標を作成する。次に,それらを踏まえて,育てようとする資質や能力及び 態度と内容を設定する。第4章でも述べた通り,育てようとする資質や能力及び態度 の設定に際しては,第3の1の(4)に例示され た三つの視点,すなわち,学習方法に 関すること,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなどを踏 まえることが考えられる。 また,内容としては, 目標の実現のためにふさわしいと各学 校が判断した学習課題等を定め る必要がある。そ の設定に際 しては,第3の1の(5)に示 された三つの課題が参考にな る。この育てようとする資質 や能力及び態度と内容の二つ を主な拠り所として,実際に よ 教室で日々展開される学習活 動,すなわち単元が計画,実 施される。 なお,指導計画を作成する 際には,責任者としての校長 --58/130-- -55- の指導の下,全教職員がそれぞれの特性と専門性を発揮しながら一致協力して,自律 的,創造的に行うことが重要である。そのための校内外の体制づくり等については, 第9章でさらに詳しく解説する。 --59/130-- -56- 第2節 各学校において定める目標の設定 第2の1に, 「各学校においては,第1の目標を踏ま え,各学校の総合的な学習の時間 の目標を定める」とある通り,各学校はこの時間の教育活動が創 意工夫に満ちた,豊かな ものとなるよう,総合的な学習の時間の目標を慎重に定める必要 がある。第3章第1節で も述べた通り, 「第1の目標を踏まえ」とは,各学校が 目標を定めるのに際し,第1の目 標を構成する以下の五つの 要素を含むよう配慮すべき ことを意味している。 (1) 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通すこと (2) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断し,よりよく問題を解決す る資質や能力を育成すること (3) 学び方やものの考え方を身に付けること (4) 問題の解決や探究活動に主体的,創造 的,協同的に取り組む態度を育てること (5) 自己の生き方を考えることができるようにすること 各学校において定める目標については,この五つの要素をその趣旨において含んでいれ ば,各学校や児童の実態に応じて,より具体 的な表現を盛り込む,いずれかを重点化する, さらに別な要素を付け加える,といったことも可能である。また ,そうであってこそ,各 学校において,独自に目標 を定める意味がある。 より具体的な表現を盛り込む例としては,例えば,目標においては「横断的・総合的な 学習や探究的な学習」という一般的な記述になっているところを 「自分の生活と地域の事 象とのかかわりについて探究することを通して」と「内容」とし ての学習課題を具体的に 記すことなどが考えられる。 いずれかを重点化する例としては,例えば, 他の要素以上に(3)の「学び方やものの考 え方を身に付け」を強調し, 「目的をもって調べ,関連付け,自 分の考えを組み立てる力 を身に付け」とし, 「学び方やものの考え方」に重点が あることを明確に示すことなどが 考えられる。 さらに別な要素を付け加える例としては,例えば「地域に対する親しみと愛着を高め」 「ありのままの自分を受け入れ,大切にし」 「自他の思いや願いを意識 し」など,各学校 --60/130-- --60/130-- -57- において大切にしたいことで,この時間の趣旨や教育課程上の位 置付けに照らしても妥当 な要素を付加すること などが考えられる。 また,五つの要素をその趣旨において含んでいれば,文中における五つの要素の順序が 入れ替わることや,複数の 要素を概括的に表現する工 夫なども考えられる。 例えば, 「身近な自然とそこに生きる人々との かかわりについての探究的な学習を通し て,多面的に追究する方法を身に付け,そこにある問題を主体的 に見出し,仲間と協力し て問題を解決するとともに,よりよい生活を創り 出そうとする」などとすることも考えら つく れる。この例では「学び方やものの考え方を身に付け」に相当す る「事象を多面的に追究 する方法を身に付け」を先に置くとともに, 「自ら課題を見付け,自ら 学び,自ら考え, 主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成する こと」と「問題解決や探 究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育てること」 の二つの要素を「そこに ある問題を主体的に見出し,仲間と協力して問題を解決する」と 概括的表現の中に複合さ せている。 別な概括的表現の工夫の例としては,例えば「自ら課題を見付け」から「取り組む態度 を育て」までに示された三つの要素の趣旨を踏まえた上で,これ に相当する箇所を「探究 活動に進んで取り組む能力と態度を育て」といった表現に置き換 える工夫なども考えられ る。 なお,従来,目標の設定に際して各学校が参考としてきたものの一つに総合的な学習の 時間のねらいがある。平成10年に改 訂された学習指導要領では二つの項目と して,平成15 年の一部改正では三つの項目として表現されていた経緯があり, 各学校における目標も, これと同様に複数の文を列挙する形式になっている事例が見受け られる。学習指導要領に おける各教科等の目標はいずれも一文で表されることが慣例では あるが,総合的な学習の 時間の各学校において定める目標については,引き続き複数の文 を列挙するなどの表現と することも考えられる。 各学校における目標の設定に際しては,新たに目標を設定し直してもよいし,既に各学 校において機能している目標については,第1の目 標を構成する五つの要素が含まれてい るかを検討するところから始めてもかまわない 。どちらにしても,各学校における実践の 成果を発展させるという姿勢で 取り組むことが大切である。 --61/130-- -58- 実際の作業を進めていく中で多くの学校が直面するのは,詳しく書こうとすればするほ ど文章が長くなってしまい,全体としての意味の把握が難しくな るという問題である。重 要なことは,適切な分量の中で各学校が大切にしたいことを,分 かりやすい表現で盛り込 むように工夫することである。そのためにも,具体的な児童の姿 をイメージしながら,各 学校の実態に応じた目標の記述となるよう,校内での議論を尽く していくことが重要であ る。 ここまで述べてきた目標を作成する作業に先立って,各学校においては,総合的な学習 の時間で育成したいものを明確化する必要がある。具体的には, 各学校における教育目標 ないしは育てたい児童像のうち,各教科,道徳,外国語活動及び 特別活動で実現を目指し ている部分を確認した上で, 総合的な学習の時間で育てたい 児童の姿を明らかにしていく。 その際,以下の点について考慮 することが重要である。 ・児童の実態 ・地域の実態 ・学校の実態 ・児童の成長に寄せる保護者の願い ・児童の成長に寄せる地域の願い ・児童の成長に寄せる教職員の願い これらは既に校内で明らかにされ,教育目標や育てたい児童像の中に盛り込まれている はずである。今回,国が示した 目標を踏まえて,その観点から 検討し直す必要がある。 --62/130-- -59- 第3節 育てようとする資質や能力及び態度の設定 育てようとする資質や能力及び態度とは,各学校において定める目標を,実際の学習活 動へと実践化するために,より具体的・分析的に示したものであ る。したがって,育てよ うとする資質や能力及び態度には,各学校の目標が実現された際 に現れる望ましい児童の 成長の姿が示されることになる。各学校において定める目標と, 育てようとする資質や能 力及び態度の二つにより,この時間の教育活動を通して「どんな 子どもを育てたいか」を 明示することになる。 第3の1の(4)に「育てようとする資質や能力 及び態度については,例えば,学習方法 に関すること,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわり に関することなどの視点 を踏まえること」とあるように,育てようとする資質や能力及び 態度の設定に際しては, これら三つの視点に配 慮する必要がある。 第4章でも述べた通り三つの視点はあくまでも例示であり,各学校の取組を制限するも のではない。三つの視点は,全国の学校の取組を国として整理し ,参考例として示したも のである。したがって三つの視点には,これまでの全国の学校と 教師の実践的な知恵や経 験が凝縮されている。各学校においては,三つの視点を参考にす るとともに,それを地域 や学校,児童の実態に応じて独自に工夫することが期待されてい る。これら例示した三つ の視点の趣旨は以下の通りである。 「学習方法に関すること」とは,児童が横断 的・総合的な学習や探究的な学習を主体的, 創造的に進めていくために必要な資質や能力及び態度について述 べている。具体的には, 例えば以下のようなものを 挙げることができる。 ・問題状況の中から課 題を発見し,設定する ・解決の方法や手順を考え, 見通しをもって計画を立てる ・手段を選択し,情報を収集する ・必要な情報を収集し分析する ・問題状況における事実や関 係を把握し理解する --63/130-- -60- ・多様な情報の中にある特徴を見付ける ・課題解決を目指して事象を比較し たり,関連付けたりして考える ・相手や目的に応じて,分か りやすくまとめ,表現する ・学習の仕方や進め方を振り返り, 学習や生活に生かそうとする など 「自分自身に関すること」とは,児童自身の生活や行為の在り方,あるいは自己理解や 自己省察に必要な資質や能力及び態度について述べている。具体 的には,例えば以下のよ うなものを挙げることができる。 ・自らの行為について意思決定する ・目標を設定し,課題 の解決に向けて行動する ・自らの生活の在り方 を見直し,実践する ・自己の将来を考え,夢や希望をもつ など 「他者や社会とのかかわりに関すること」とは,他者との協同や社会とのかかわりに必 要な資質や能力及び態度について述べている。具体的には,例え ば以下のようなものを挙 げることができる。 ・異なる意見や他者の考えを受け入れる ・他者と協同して課題を解決する ・身の回りの環境とのかかわ りを考えて生活する ・課題の解決に向けて地域の 活動に参加する など 各学校においては,設定したこの時間の目標を分析し,以上の三つの視点を踏まえ,育 てようとする資質や能力及び態度を設定することになる。その際 ,各学校における目標の 設定の際に踏まえた,教育目標,地域や学校及び児童の実態,児 童の成長に寄せる保護者 や地域及び教職員の願い等について も考慮することが重要である。 実際の作業を進めていく中で多くの学校が直面するのは,具体的な児童の成長の姿とし て詳しく示そうとすればするほど項目の数や文の長さが増し,全 体の記述量が多くなるこ とであろう。目指す児童の姿が鮮明にイメージできているからこ そであろうから,それ自 --64/130-- -61- 体は決して悪いことではない。しかし,育てようとする資質や能 力及び態度は,単元の開 発や学習の評価,外部への説明など日常的に活用することが多い 。したがって,項目や表 現を厳選し,日常的な使用 にふさわしい分量とするこ とにも配慮すべきである。 なお,一口に望ましい児童の姿といっても,学年段階によって違いが出てくる。したが って,育てようとする資質や能力及び態度の設定に際しては,学 年段階ごとに考えること が必要となってくる。 例えば, 「課題解決を目指して事 象を比較したり,関連付けたりして考える」につ いて,中学年の児童では「解決への見通しをもって,事象を比較したり,関係付けた りする」程度が適切であろう。一方,高学年では「問題状況に応じて,事象間の因果 関係を分析したり,推論したり する」程度が適切である。 育てようとする資質や能力及び態度の設定に際しては,全教職員がそれぞれの実践 経験を生かし,児童の実態を踏まえて考えることが大切である。その際,以下のよう な視点も参考になる。 ・各教科等に示された目標及び内容 ・児童のそれまでの経験 ・児童の興味・関心 ・直接体験から間接体験へと いった,児童の活動の質的変化 ・具体から抽象へといった, 児童の思考や認識の発達 なお,一つの資質や能力及び態度について設定すべき段階の数については様々な可能性 があるが,いくつかの教科における内容の示し方と同様に,第3 ・4学年,第5・6学年 と,2学年をひとまとまりとした2段階による設定が,実践事例 としても多く,また現実 的な示し方である。 --65/130-- -62- 第4節 各学校において定める内容の設定 1 目標,育てようとする資質や 能力及び態度と内容の関係 第3章でも述べた通り,総合的な学習の時間においては,内容と して,目標の実現 のためにふさわしいと各学校が判断した学習課題を定める必要がある。この学習課題 とは,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児 童の興味・関心に基づく課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特 色に応じた課題などのことであり,横断的・総合的な学習としての性格をもち,探究 的に学習することがふさわしく,そこでの学習や気付きが自己の生き方を考えること に結び付いていくような,教育的に価 値のある諸課題のことである。 内容を定めるに当たっては,児童が探究的にかかわりを深めていくひと・もの・こ となどの学習対象や,学習対象とのかかわりを通して学ぶことが期待される学習事項 等によって, 学習課題を具体的・分析的に 示すことが考えられる。 各学校においては, 学習対象を明らかにするとともに,必要に応じて学習事項等を定めることが考えられ る。 このことからも分かるように,目標と育てようとする資質や能力及び態度は,特定の領 域や対象によらない一般的,形式的な側面から望ましい児童の成 長の姿を記述している。 これに対して,内容は,学習課題としてどんな対象とかかわり, その対象とのかかわりを 通して何を学ぶかを記述している。いわば,目標と育てようとす る資質や能力及び態度が 「どんな子どもを育てたいか」を示すのに対し,内容はそのため に「どんな対象とかかわ らせるか」を定め,さらにそこにおいて具体的に「どんなことを 学んでほしいか」なども 示すことが考えられる。このように,両者は互いに関係している と同時に,両者がそろっ て初めて,各学校における指導 計画は適切に機能する。 --66/130-- -63- 2 内容の設定と三つの課題 内容が兼ね備えるべき要件としては,先の学習課題の定義からも明らかなように,横断 的・総合的な学習としての性格をもつこと,探究的に学習するこ とがふさわしいこと,そ こでの学習や気付きが自己の生き方を考えることに結び付いてい くこと,などが参考にな る。これらを満たす教育的に価値ある課題を,各学校の判断で内 容として設定することが 考えられる。 その際,第3の1の(5)に示された三つの課題 ,すなわち,国際理解,情報,環境,福 祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づ く課題,地域の人々の暮 らし,伝統と文化など地域や学 校の特色に応じた課題は,大い に参考にすべきである。 三つの課題の例示は,これからの社会に生きる児童にとって学ぶことが求められ,多く の学校で取り組まれてきたものを,国として整理し参考例として 示したものである。この ことは,各学校における自律的で創造的な内容の設定を支援する 意図で示された。したが って,そのすべてを取り扱うことを求めるもので はないし,そこに示さ れた課題を機械的, 形式的に網羅すれば,質の高い実践が実現されることを保証する ものでもない。各学校に おいては,地域や学校,児童の実態に応 じて,内容を設定することが求められている。 このような観点から,ここでは例示した三つの課題について,各学校において内容の設 定に際して参考になると思われ る点について補足する。 国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題とは,ここ数十年の間 に社会の変化に伴って新たに生じた,またはその深刻さを増して きた,あるいは切実に意 識されるようになってきた,現代社会における生活上の諸課題の ことである。そのいずれ もが,持続可能な社会の実現にかかわる課題であり,現代社会に 生きるすべての人が,こ れらの課題を自分のこととして受け止め,日々の生活の中で自己 の生き方とのかかわりで 考え続け,よりよい解決を目指して行動することが望まれる。ま た,これらの課題につい ては,大人も含めだれも答えを見出していないし,従来の教科の 枠組みでは必ずしも適切 に扱うことができない。このように,横断的・総合的な課題は, 内容を設定する際に大い に参考とすべき課題である。 児童の興味・関心に基づく課題とは,児童がその発達段階に応じて興味・関心を抱く課 --67/130-- -64- 題のことである。例えば,将来への夢やあこが れをもち挑戦しようとすること,ものづく りなどを行い楽しく豊かな生活を送ろうとすること,生命の神秘 や不思議さを明らかにし たいと思うことなど,が考えられる。 児童の興味・関心に基づく課題は, 児童の課題への取り組みの 姿勢を示唆するとともに, そのいずれもが,よりよい自己実現に深くかかわっている。児童 には,これらの課題を実 社会や実生活とのかかわりで考え,課題の解決を目指して自発的 に行動することが望まれ る。特に,この課題については,横断的・総合的な学習としての 性格をもち,探究的に学 習することがふさわしく,そこでの学習や気付きが自己の生き方 に結び付くような課題で あるかどうかの吟味が必要である。 地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学 校の特色に応じた課題とは,地域の伝統, 文化,行事,生活習慣,経済,産業などにかかわる,各地域や各 学校に固有な生活上の諸 課題のことである。すべての地域社会には,その地域社会ならで はのよさがあり,同時に 問題点もある。ある地域には,産業の衰退や過疎化の問題がある だろう。同時に,古くか らの伝統や習慣,生活の知恵が今も人々の生活に息づいているか もしれない。あるいは, 発展する町として活気に満ち,日々新たな出来事に胸躍るような 地域もあるだろう。しか しその一方で,人々のつながり の希薄さに孤独感や不安を 覚えているかもしれない。 地域や学校の特色に応じた課題は,児童の生活圏など児童の身近にあるとともに,その いずれもが,よりよい郷土の創造にかかわる課題である。また, これらの課題は,現代社 会の課題が身近な地域において具体的な事実を伴って現れたもの と考えることもできる。 地域社会に生きるすべての人が,その地域ならではのよさに気付 き,問題点を自分のこと として受け止めるとともに,日々の生活の中で自己の生き方との かかわりで考え続け,よ りよい解決を目指して行動することが望まれる。これらの課題に ついても,地域の大人も 含めだれも答えを見出していないし,従来の教科の枠組みでは必 ずしも適切に扱うことが できない。このように,地域や学校の特色に応じた課題もまた, 内容を設定する際に大い に参考とすべき課題である。 なお,参考として示した三つの課題は,互いにつながり合い,かかわり合っている課題 であり,それぞれの学習活動の広がりと深まりによって,しばし ば関連して現れてくるも のである。 --68/130-- -65- 各学校において,横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題の趣旨を踏ま えて内容を設定する場合には, それぞれの地域における現実の生活とのかかわりにおいて, 各課題がどのような具体的な現れ方をしているか,また各課題に かかわって人々や機関が どのように考え,あるいはどのように行動しているか,その実態 を幅広く正確に把握する 必要がある。その際,客観的な把握と同時に,それらが児童にと ってどのように映ってい るか,児童の実感や興味・関心の観 点からもとらえておく必要がある。 また,児童の興味・関心に応じた課題の趣旨を踏まえて内容を設定する場合には,各課 題にかかわって児童が何を感じ,どのように考え,あるいはどの ように行動しているか, その実態を幅広く正確に把 握する必要がある。 各学校においては,以上のような検討を踏まえて,何が内容として適切であるかを判断 することになる。この時,扱いたいと考える内容はどうしても多 くなりがちだが,限られ た時数の中で適切に扱うことが可能な内容には,おのずと限界が ある。各学校で定めた目 標や児童の実態等に配慮し,全体としてのバランスをとりながら ,優先順位を考え取捨選 択することで,質と量の双 方において適切な内容を選定することになる。 3 学習対象 ここまで述べてきたように,各学校が定める内容の具体的な要素としては,学習対象や 学習事項等が考えられる。 学習対象とは, 児童が探究的にかかわりを深めるひと ・もの・ことを示したものであり, 例えば以下のようなものなどである。 [横断的・総合的な課題] ・地域に暮らす外国人とその人たちが 大切にしている文化や価値観 ・情報化の進展とそれに伴う日 常生活や消費行動の変化 ・身近な自然環境とそこ に起きている環境問題 ・自分たちの消費生活と 資源やエネルギーの問題 ・身の回りの高齢者とその暮ら しを支援する仕組みや人々 ・毎日の健康な生活とス トレスのある社会 --69/130-- -66- ・食をめぐる問題と地域の農業や生産者 ・科学技術の進歩と自分たちの 暮らしの変化 など [児童の興味・関心に基づく課題] ・将来への展望とのかかわりで 訪ねてみたい人や機関 ・ものづくりの面白さや 工夫と生活の発展 ・生命現象の神秘,不思議,すばらしさ など [地域や学校の特色に応じた課題] ・町づくりや地域活性化のため に取り組んでいる人々や組織 ・地域の伝統や文化とそ の継承に力を注ぐ人々 ・商店街の再生に向けて 努力する人々と地域社会 ・防災のための安全な町づくりとその取組 など 学習対象が明らかとならなければ,学習活動は組織できない。したがって,各学校にお ける内容の設定に際しては ,まずは学習対象を定めることが必要である。 なお,学習対象に関する記述については,具体的な教材や活動名,例えば伝統芸能や福 祉施設の固有名称,あるいは「米づくり」といったところまで記 すかどうかについて,十 分検討する必要がある。例えば, 「米づくり」と記すかどうかに ついては,米以外の作物 を生産することでも食に関する学習は十分可能であるし,食に関 する問題にかかわって, 目標や育てようとする資質や能力及び態度の育成につながる学習 活動が展開できれば,学 級によって,あるいは年度によって,異なる作物の生産などに取 り組むことも考えられる からである。 4 学習事項 学習事項とは,個々の学習対象とのかかわりを通して,児童に「どんなことを学んでほ しいか」について,さらに踏み込ん で分析的に示したものである。 先に例示した学習対象のうち「身近な自然環境とそこに起きている環境問題」と「地域 の伝統や文化とその継承に力を注ぐ人々」について学習事項を示 すとすれば,例えば以下 のようなものをそれぞれイ メージすることができる。 --70/130-- --70/130-- -67- ○学習対象:身近な自然環境と そこに起きている環境問題 ○学習事項: ・身近な自然の存在とそのよさ ・環境問題と自分たちの生活とのかかわり ・環境の保全やよりよい 環境の創造のための取組 など ○学習対象:地域の伝統や文化 とその継承に力を注ぐ人々 ○学習事項: ・地域の伝統や文化のもつ特徴 ・地域の伝統や文化の継 承に力を注ぐ人々の思い ・地域の一員として,伝統や文化を守り ,受け継ごうとする活動や取組 など これらの例からも分かるように,学習対象を定めるだけではなく,学習事項までを明記 し,校内で共有することは,その単元計画において学習活動をど のように組織すべきか, さらにそこにおいてどのような支援を行うべきかなど,単元づく りや授業づくりの構想を 明確化することに大きく貢献する。このことにより,この時間に おける学習活動が単なる 体験や活動に終わることなく,教育的に価値ある学習を,限られ た時間の中で,適切に生 み出していくことにつながる。また,学年間の重複や逆転などの 問題を回避することにも つながる。このことは,第3の2の(1)「第2の 各学校において定める目標及び内容に基 づき,児童の学習状況に応 じて適切な指導を行うこと 」とも深く関連している。 以上述べてきたように,内容の設定に当たっては,例示された課題などを参考にしなが ら,学習対象を明らかにし,必要に応じて学習事項等を設定して いくことが考えられる。 5 内容の設定と運用についての留意点 内容の設定において,学習対象や学習事項を詳細に記述する際には,次のような点に十 分配慮しなければならない。それは,すべての学習課題を児童の 興味・関心や必要感にか かわりなく形式的に網羅し,学習対象や学習事項を要素的に一つ 一つ学び取らせていくこ --71/130-- -68- とにならないようにすることである。結果として,この時間の学 習活動が,教師による一 方的な体験や活動の押し付け,要素的な知識・技能の習得のみに 終止することなどが危惧 ぐ される。 総合的な学習の時間では,この時間で取り上げられる個々の学習対象について何らかの 知識を身に付けることや,課題を解決することそのものに主たる 目的があるのではない。 児童が個々の学習対象に主体的にかかわる中で生じる様々な気付 きや認識の深まり,豊か な経験の広がりを通して,目標にある資質や能力及び態度が育成 され,自己の生き方を考 えることができるようにすることを目指している。そのためにも ,内容の設定と運用に際 しては,次の2点について十分 に留意することが望まれる。 第1に,児童にとって必然性のある学習活動の中で具体的な対象とかかわり,また児童 の主体的な問題の解決や探究活動の過程において,児童が自ら進 んで学習事項を学んでい くよう,単元の展開や指導の在り方を工夫することが重要である 。そうすることにより, 学んだ学習事項は児童のうちで生きて働くものとなり,おのずと 目標に示された資質や能 力及び態度の伸長,自己の生き方をより深く考えることへと結び 付いていく。このことは 内容の設定とともに,単元構成や学習指導の在り方にかかわって いることであり,第6章 と第8章でも詳しく述べる。 第2に,各学校で設定した学習対象や学習事項等については,すべてを取り扱うことは もちろん望ましいが,仮にすべてを扱えなかった場合でも,目標 や育てようとする資質や 能力及び態度が十分実現できる可能性が低いわけではない。学習 対象や学習事項等のすべ てを一律的,網羅的に学び取ること がこの時間の必須の要件ではない。 す これは,内容の設定と運用における,総合的な学習の時間ならではの特質である。学習 活動の展開において児童の興味・関心を重視することや,事前の 計画に必要以上に縛られ ない柔軟で闊達な授業展開,個に応じた指導内容の工夫といった ,この時間の学習活動に かっ 顕著な特質も,このことと 深く関係している。 この考えに立つならば,目標や育てようとする資質や能力及び態度の実現が図られる限 りにおいて,例えば,1組と2組で取り扱われる内容に若干の違 いが出ることも十分にあ り得る。また,年度によって若干の変化が生じることも,学校の 判断と責任において許容 される。こうした措置を講じる場合には,児童や保護者等に対し て,その趣旨が十分に理 --72/130-- -69- 解されるよう,説明責任と結果責任を果たす必要がある。併せて ,個々の学級,個々の年 度,個々人,個々の小集団が結果的に取り組んだ学習対象と学習 事項についての学習の履 歴を残し,長期的な学習経験において著しい偏りや重複,逆転が 生じないようにすること は極めて重要である。 各学校においては,この時間の教育活動が,地域や学校,児童の実態等に応じた,創意 工夫を生かしたものとなり,それによって目標や育てようとする 資質や能力及び態度が十 分に実現されるとともに,必要な内容が適切に学ばれるよう,以 上の2点にも留意しつつ 適切な実践を行うこと が求められている。 --73/130-- -70- 第5節 全体計画の作成 全体計画とは,指導計画のうち,学校として,この時 間の教育活動の基本的な在り方を 示すものである。具体的には,各学校において定める目標,育て ようとする資質や能力及 び態度,内容について明記するとともに,学習活動,指導方法, 指導体制,学習の評価等 についても, その基本的な内容や方針等を概括的 ・構造的に示すことが考えられる。 第1節 でも述べた通り,指導計画を構成する七つの要素については,全 体計画及び年間指導計画 のどちらかで示していればよく, したがって全体計画に盛り 込むべきものとしては, @必須 す の要件として記すもの,A基本的な内容や方針等を概括的に示す もの,Bその他,各学校 が自分の学校の全体計画を示す 上で必要と考えるもの,の 三つに分けて考えられる。 @必須の要件として記すもの す ・各学校において定める目標 ・育てようとする資質や能力及び態度 ・内容 A基本的な内容や方針 等を概括的に示すもの ・学習活動 ・指導方法 ・指導体制 ・学習の評価 Bその他,各学校が全体計画を示す上で必要と考えるもの。具体 的には,例えば,以下の ような事項等が考えられる。 ・教育目標 ・年度の重点 ・地域の実態 ・学校の実態 ・児童の実態 ・保護者の願い --74/130-- -71- ・地域の願い ・教職員の願い ・各教科等との関連 ・地域との連携 ・中学校との連携 ・近隣の小学校との連携 など @に示す三つの事項については,本章で述べてきた通りである。Aの概括的に示す四つ の事項については,第6章〜第9章を参考に,各学校として,こ の時間の教育活動の基本 的な在り方を示すのに必要な内容や方針に絞って,数点を箇条書 きにするなど簡潔な記述 となるよう工夫する必要が ある。参考として,記述の一例を以下に示す。 [学習活動] ・3年生は地域,4年生は環境,5年生は福祉と健康,6年生は 国際理解を主なテーマと する ・単元は学年で開発し,中学年 は年間2〜3単元,高学年は年間2単元程度とする ・学級ごとに1年間1テー マでの取組を基本とする ・各学年20時間程度を学年合 同で,残り50時間程度を学級独自で行う単元とする ・6年生は個別探究に よる卒業研究を行う ・農業体験は年間を通して の帯単元として実施する ・10月と2月の発表会を節目と した単元展開を工夫する など [指導方法] ・児童の課題意識を連 続発展させる支援 ・個に応じた指導の工夫 ・諸感覚を駆使する体験活動の重視 ・協同的な学習活動の充実 ・教科との関連的な指導の重視 ・対話を中心とした個別支援の徹底 ・言語活動による体験の意味の自覚化 など --75/130-- -72- [指導体制] ・運営委員会における校内の連 絡調整と支援体制の確立 ・カリキュラム管理室を拠 点とした情報の集積と活用 ・地域教育力の人材バンク への登録と効果的運用 ・ティーム・ティーチングの日常化 ・ワークショップ研修の重視 ・担任外の教職員によ る支援体制の樹立 ・メディアセンターとしての余 裕教室の整備・充実 など [学習の評価] ・ポートフォリオを活 用した評価の充実 ・観点別学習状況を把握す るための評価規準の設定 ・個人内評価の重視 ・指導と評価の一体化の充実 ・学期末,学年末における 指導計画の評価の実施 ・授業分析による学習 指導の評価の重視 ・学校運営協議会における評価の実施 など Bのその他,各学校が必要と考える事項については,Aの概括的に示す四つの事項と同 じく,この時間の教育活動の基本的な在り方を示すのに必要な内 容や方針に絞って,箇条 書きにするなど簡潔な記述とな るよう工夫する必要がある。 全体計画の書式については,学校として,この時間の教育活動の基本的な在り方を概括 的・構造的に示すという趣旨から,基本的に は各要素の関係が分かるよう簡潔に示すこと が求められる。また,盛り込まれた事項相互の関係が容易に把握 できるよう,記述や表現 に工夫することも必要である。 --76/130-- -73- 第6章 総合的な学習の時間の年間指導計画及び単元計画の作成 第1節 年間指導計画及び単元計画の基本的な考え方 第6章では,第3の1の(1)に示された指導計画を構成する七つの要素のうち,主 に学習活動に関する事項について述べる。学習活動は,一連の問題の解決や探究活動 のまとまりとしての単元計画,それを配列し,組織した年間指導計画において示され る。第6章は,この単元計画と年間指導計画が,各学校においてどのように作成され るか,その具体的な作業の進め 方や考え方について解説する。 年間指導計画とは,1年間の流れの中に単元を位置付けて示したものであり,どの ような学習活動を,どのような時期に,どのくらいの時数で実施するのかなど,年間 を通しての学習活動に関する指 導の計画を分かりやすく 示したものである。 単元計画とは,児童にとって意味のある問題の解決や探究活動のまとまりである単 元の指導計画であり,具体的に は,いわゆる単元指導案 で示されることが多い。 年間指導計画及び単元計画は,全体計画とは異なり,児童が日々取り組む学習活動 の指導計画である。したがって,いかに周到に考え,緻密に作り上げたとしても,実 ち 際に展開する中で,教師が予想しなかった望ましい活動が児童から提案されたり,価 値ある学習を生み出す問題場面に遭遇したりする可能性もある。その場合には,当初 の計画に固執することなく,これらを取り上げて一層価値ある学習を生み出していく よう,弾力的に計画を修正することが肝要である。また,その意味で,児童の動きを 幾通りも予想し,それに応じる柔軟性を兼ね備えた計画にしておくことも,望ましい ことである。 年間指導計画と単元計画は相互に関連しているので,その作成作業の実際において は,両者を常に視野に入れ,両者の間を何度となく行き来しながら,それぞれの計画 を作成していくことが考えられる。 例えば,総合的な学習の時間の年間の授業時数を幾つの単元に,それぞれどのくら いの時数で配当するかを定めたとしても,実際に単元を構想していく中で,こちらの --77/130-- -74- 単元ではもう少し時数が必要であるとか,単元の数そのものも変えてはどうか,とい った考えが生じるかもしれない。そのような場合には,当初定めた年間指導計画の枠 組みを柔軟に見直す姿勢が必要となる。単元計画を作成することで見えてきた改善策 によって年間指導計画を見直し,さらによりよいものにしていくことを目指すべきで ある。 しかしその場合にも,無条件に変えてよいというものではない。つまり,単元計画 の作成から生じた改善策を,年間指導計画の作成に位置付け直して慎重に検討するこ とが大切である。年間指導計画の修正がかえって好ましくない結果をもたらすと判断 した場合には,単元計画の作成における工夫で調整ができないか,と考えていくこと になる。 このように,年間指導計画及び単元計画の作成に当たっては,柔軟で弾力的な運用 に配慮するとともに,両者を常に視野に入れ,両者の間を行き来しながら,それぞれ の計画をよりよいものにしてい こうとする姿勢が重要である。 --78/130-- -75- 第2節 年間指導計画の作成 指導計画のうち, 全体計画が, 第3学年から第6学年までの 児童の成長をとらえて, 目標,育てようとする資質や能力及び態度,内容などを設定するのに対し,年間指導 計画では,学年の始まる4月から翌年3月までの1年間における児童の成長をとらえ て,学習活動が連続するように設定していく。年間指導計画を作成する意味は,1年 間という時間の中で,時間の流れを追って学習活動を構想し,その学習活動における 児童の具体的な姿を想定する点などにある。どのような学習活動をどの時期に取り上 げ,その活動を通してどのような児童の変容を期待するのか。1年間の学習を通して どのような対象と出会わせ,どのような問題に直面し,設定した課題をどのように克 服させるのかなど,具体的な児童の姿を思い描きながら年間指導計画の構想を立てる ことが望まれる。 年間指導計画は,学校行事や各教科等の学習に配慮することはもちろん,学校が位 置している地域の地理や気候風土などの自然事象にかかわる特色,産業や公共施設な どの社会事象にかかわる特色,地域の年中行事や歴史などの地域文化にかかわる特色 など,総合的な学習の時間を有意義なものとする地域素材を十分に吟味して作成する ことが肝要である。 年間指導計画に盛り込まれる主たる要素としては,単元名,各単元における主な学 習活動,活動時期,予定時数などが考えられる。さらに,各学校が実施する教育活動 の特質に応じて必要な要素を盛り込み,この時間の学習活動が一層豊かなものとなる よう,創意工夫を生かして作成 することが望まれる。 以下,年間指導計画の作成に当たって留 意すべき七つの点について述べる。 (1)児童の学習経験に配慮すること 総合的な学習の時間の年間指導計画を作成するに当たっては,当該学年までの児童 の学習経験やその経験から得られた成果について事前に把握し,その経験や成果を生 かしながら年間指導計画を立てる必要がある。総合的な学習の時間に初めて取り組む --79/130-- -76- 第3学年の場合は,生活科など低学年における学習経験について把握するとともに, 生活科等の学習活動とこれから行う総合的な学習の時間の学習活動の関連性について もあらかじめ確認してお くことが大切である。 例えば,第3学年で高齢者福祉施設を訪問し,それを契機に高齢者との継続的な交 流活動を行う際には,生活科で地域の高齢者から昔の遊びを教わる活動の中で,何を 経験し,何を学んでいるかを確認し,新たな学習活動の出発点として指導計画を構想 していくことなどが考えられる。このように類似の活動を繰り返す場合には,学ぶこ とが期待される内容が当該学年の児童に合致しているか,繰り返し取り組むことによ る学習の質的な高まりがあるか,育てようとする資質や能力及び態度は適切か,など について,十分な検討を 行うことが必要である。 また, 発達段階に応じた経験の有無が, 後の学習活動の成否を左 右することもあり, 注意を要する。例えば,留学生との交流活動を,段階的な積み上げがないまま高学年 で実施しようとしても,児童が精神的なバリアを張ってしまい,うまく展開できない ことがある。それまでにどのような交流の経験を積み重ねておくかに十分配慮しなけ ればならない。また,体験の積み重ねが不足している場合には,その状況に応じた活 動となるよう配慮するこ とが必要である。 (2)十分な見通しをもっ た周到な計画にすること 年間指導計画は,学校の教育計画の根幹をなすものであり,前年度の適当な時期に 次年度の計画を作成する必要がある。 その一方で,実際に児童を目の前にし,児童と話し合いながら総合的な学習の時間 における学習活動を決めたい,という考え方もある。また,4月から一定の時間をか けて児童とともに学習活動の計画を立てていくこと自体を重要な学習の機会と位置付 け,適切に実施する中で, 「問題状況の中から課題を発見し,設定する」 「解決の方 法や手順を考え,見通しをもって計画を立てる」 「相手や目的に応じて,分かりやす くまとめ,表現する」などの育てようとする資質や能力及び態度を育成してきた事例 もある。 しかし,だからといって何らの見通しももたないまま新年度を迎えても,時間を浪 --80/130-- --80/130-- -77- 費するだけで, 限られた時間の中で価値ある学習を 効率的に生み出せるものではない。 目の前の児童の実態に応じることも大切ではあるものの,一般的な第3学年の児童が 興味・関心を抱くこと,多くの第5学年の児童が不思議に思うことなどがあるのも事 実である。また,実際に指導する児童について,前の学年での学習活動や取組の様子 を事前に把握することもできる。 したがって,そのような前年度の学習活動の様子と,校内をはじめとする当該学年 の過去の実践事例を基に,内容や育てようとする資質や能力及び態度を中心に計画を 立案し,見通しをもって4月を 迎えることが大切である。 先に例示した,児童とともに学習活動を計画してきた学校でも,実際には指導する 教師が計画を作成し,十分な見通しをもって児童と向かい合っている。また,そうで あるからこそ,児童の自発的な意見交換の中から,成果が期待できる学習活動を生み 出せるのである。各学校においては,周到な計画や十分な見通しをもつことで,目の 前の児童の思いや願いに丁寧か つ迅速に対応できる。 (3)季節や行事など適切 な活動時期を生かすこと 年間指導計画の作成においては,1年間の季節や行事の流れを生かすことが重要で ある。地域や校内の行事等について,日程と内容の両面から,総合的な学習の時間の 展開に生かしたり関連付けたりすることができるのかを,あらかじめ検討することが 大切である。 地域の伝統行事や季節の変化,動植物とのかかわりなど,学習活動が特定の時期に 集中することで効果が高まったり,適切な時期を逃してしまうことで効果が薄くなっ たりすることがあり,十分に留 意することが大切である。 例えば,地域に伝統的な行事のある地域では,その行事に参加することを目的にし て年間の計画を立てることもできる。一方,行事に参加することをきっかけにして地 域の歴史や伝統に関心をもち,学習活 動を発展させていくこともできる。 生産活動を中心に問題の解決や探究活動を展開する際にも,同様のことが考えられ る。例えば,ブドウ栽培の盛んな地域では,梅雨に入る前に栽培したブドウに雨があ たらないよう保護用の袋をかける。難しい作業の多いブドウ栽培の中では比較的単純 --81/130-- -78- な作業であり,このような時期をとらえて農作業の手伝いを申し出ることで,袋かけ などの作業を体験しながら,ブドウづくりに深くかかわることが可能となる。また, 作業をしながら農家の人の話を聞くことで,農家の人がブドウ栽培にかける思い,ブ ドウ農家の1年の暮らしなどを共感的 に理解することができる。 (4)各教科等との関連を見通すこと 第3の1の(6)に「各教科,道徳,外国語活動及び特別活動で身に付けた知識や技 能等を相互に関連付け, 学習や生活に生かし, それらが総合的に働くようにすること」 とあるように,総合的な学習の時間の年間指導計画の作成に際しては,各教科等との 関連的な指導を行うこと が求められている。 年間指導計画の作成に当たっては, 学習指導要領において各 教科等の内容を確認し, 関連的な指導が可能な単元については,相乗効果が得られるよう実施時期や指導方法 を調整するなどの工夫が望まれる。 --82/130-- -79- 関連的な指導は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動の すべてにおいて大切にしているが,横断的・総合的な学習を行う観点から,総合的な 学習の時間においてもっとも数多く,幅広く行われることが予想される。こうした特 性を踏まえて,第3の1の(6)に各教科等との関連付けを明記し,この時間において 特に重視している。 そこで,総合的な学習の時間の年間指導計画の作成に当たり,特に各教科等との関 連を明示した書式を工夫することも考えられる。例えば,前ページの図のように,総 合的な学習の時間における単元と,各教科等の単元を配置し,相互の関連を線で結べ ば,1年間の流れの中で各教科等との関連を見通した年間指導計画(単元配列表)を作 成することができる。 (5)学年間の関連を見通すこと 年間指導計画の作成に際しては,当該学年の中だけで考えるのではなく,第3学年 から第6学年までを見通し,学習活動に重複や偏りがないか,学習の質的な高まりや 段階的な積み上げがあるか,などを検討することが重要である。特に,各学年で取り 扱う内容については,丁寧な検討が求められる。児童の経験,興味や関心,活動の変 化,思考や認識の発達などに応じた適切な内容が,各学年において連続し発展するよ うに位置付けられているかを検 討しなければならない。 また,他学年の年間指導計画を視野に入れることで,学年を越えて協力したり,交 流したりするなどの学習活動を構想することも考えられる。学年間を越えて互いの取 組を理解することの意義は,教職員間だけでなく児童にもある。自分たちの学習活動 と他学年や他学級の学習活動とを比較したり重ね合わせたりすることになり,他の学 級の学習活動からヒントを得たり,4年間の総合的な学習の時間の見通しをもつきっ かけを得たりすることも考えられる。 (6)弾力的な運用に耐え うる柔軟性をもつこと 年間指導計画は様々な要因を視野に入れ,周到に立てる必要がある。しかしそれは 決して固定的なものではなく,弾力的な運用に耐えうる柔軟なものでなくてはならな --83/130-- -80- い。 実際に指導する教師が,目の前の児童の実態に応じて計画の適切さを検討し直し, 実施に移していくことが重要である。検討した結果,事前の計画以上にふさわしい学 習活動が生み出せると判断した場合には,必要に応じて計画を修正する柔軟性をもつ ことが大切である。児童の興味・関心や問題意識の方向性が当初計画した通りに展開 せず「ずれ」が生じた場合や,方向性が同じでも想定していた児童の姿と実際の姿と の間に大きな「隔たり」がある場合には,単元の展開途中であっても変更や改善を加 えることが望まれる。 年間指導計画の修正に際しては,内容や育てようとする資質や能力及び態度につい ての実現の見通しはどうか,児童にとって必要感があり,意欲が喚起できるものであ るか,見直しによって学習活動に質的な高まりが得られそうかなどに配慮することが 必要である。 (7)外部の教育資源の活用及び異校種 との連携や交流を意識すること 総合的な学習の時間を効果的に実践するには,保護者や地域の人,専門家などの多 様な人々の協力,社会教育施設や社会教育団体等の施設・設備など,様々な教育資源 を活用することが大切である。このことは,第3の2の(6)に示した通りである。年 間指導計画の中に児童の学習活動を支援してくれる団体や個人を想定し,学習活動の 深まり具合に合わせていつでも連携・協力を求められるよう日ごろから関係づくりを しておくことが望まれる。学校外の教育資源の活用は,この時間の学習活動を一層充 実したものにしてくれるからである。 また,総合的な学習の時間の年間指導計画の中に,幼稚園や保育所,中学校や特別 支援学校等との連携や,幼児・児童・生徒が直接的な交流を行う単元を構成すること も考えられる。異校種との連携や交流活動を行う際には,児童にとって交流を行う必 要感や必然性があること,交流を行う相手にも教育的な価値のある互恵的な関係であ ること,などに十分配慮しなければならない。教師,保育者が互いに目的をもって計 画的・組織的に進めるこ とが大切である。 なお,学校外の多様な人々の協力を得たり,異校種との連携や交流活動を位置付け --84/130-- -81- たりして学習活動を充実させるには,綿密な打合せを行うことが不可欠である。その ための適切な時間や機会の確保は,充実した学習活動を実施する上で配慮すべき事項 である。 --85/130-- -82- 第3節 単元計画の作成 1 単元計画の基本的な考え方 単元とは,児童の学習過程における学習活動の一連の「まとまり」という意味であ る。単元計画の作成とは,教師が意図やねらいをもって,このまとまりを適切に生み 出そうとする作業にほかならない。何を拠り所として学習過程におけるまとまり,す よ なわち単元を生み出すかについては様 々な考え方や手法がある。 目標にも示されている通り,総合的な学習の時間の学習活動については,探究的な 学習であることを重要な要件の一つとしている。したがって,総合的な学習の時間で は,児童にとって意味のある問題の解決や探究活動のまとまりとなるように単元を計 画することが大切である。児童は,自分を取り巻くひと,もの,ことについて,様々 な関心や疑問を抱いている。教師は,その中から教育的に見て価値のあるものをとら え,それを適切に生かして学習活動を組織する。学習活動の展開においては,育てよ うとする資質や能力及び態度が育成され,内容が獲得されるように,児童が自ら課題 を解決する過程を想定し て単元の計画を立てる。 このようにして生み出された単元は,児童の関心や疑問を拠り所とするので,児童 よ の活動への意欲は高い。また,そこでの学習も真剣なものとなりやすく,学んだ内容 も生きて働くものとなることが多い。その一方で,児童が主体的に進める活動の展開 においては,教師が意図した内容を児童が自ら学んでいくように単元を構成する点に 難しさがある。この点がうまくいかないと,単なる体験や活動に終始してしまう場合 もある。いわゆる「活動あって学びなし」とは,このような状況に陥った実践を批判 した表現である。 総合的な学習の時間の単元計画に際しては,次の二つの重要なポイントがある。一 つは,児童による主体的で粘り強い問題の解決や探究活動を生み出すには,児童の関 心や疑問を重視し,適切に取り扱うことである。もう一つは,問題の解決や探究活動 の展開において, いかにして教師が意図した学習を 効果的に生み出していくかである。 --86/130-- -83- 以下,この二つのポイントに沿って単元 計画を作成する際の要点を解説する。 2 児童の関心や疑問を生かした単元の構想 総合的な学習の時間では,児童の関心や疑問が単元の源であり,単元計画を作成す る際の出発点でもある。では,児童の関心や疑問をどのようにとらえ,単元計画につ なげていけばよいか。そこには ,三つの留意すべき点がある。 第1に,児童の関心や疑問は,そのすべてを本人が意識しているとは限らず,無意 識の中に存在している部分も多 いととらえることである。 主体的で粘り強い問題の解決や探究活動を生み出すには,その出発点である児童の 関心や疑問が本人にとって切実なものであることが重要である。しかし,何が自分に とっての関心や疑問であるか,児童が十分に自覚できていなかったり,適切に言語化 できていなかったりすることも多い。関心のあること,疑問に思っていること,取り 組んでみたいことなどについて,児童が話したことや書いたことのみを頼りに単元を 計画してもうまくいかないのは ,このためである。 単元の計画に際しては,児童の関心や疑問は何かを丁寧に見取り,把握することが 求められる。具体的には,日常生活の中での語りやつぶやき,日記その他の日常生活 の記録,保護者から寄せられた児童の様子など,児童の関心や疑問がうかがえる各種 の資料を収集し,精査することが考えられ る。あるいは,休み時 間や給食の時間など, 日常の何げない機会をとらえ,児童と丁寧に会話する機会を設ける工夫なども有効で ある。会話の中で自分の考えや思いを語り,無自覚だった関心や疑問を児童自身が自 覚することもある。 第2に,児童の関心や疑問とは,児童の内に閉ざされた固定的なものではなく,環 境との相互作用の中で生まれ,変化するものととらえることである。今現在,児童が 抱いている関心や疑問は,過去や現在における児童を取り巻く環境との相互作用の中 で生まれてきたものである。そして,今後も様々な相互作用を通して変化していく。 このように考えると,現在,児童が抱いている関心や疑問だけで単元計画を構想す る必要はない。教師の働きかけなどにより,新たな関心や疑問が芽生える可能性も十 --87/130-- -84- 分あるからである。そうやって新たに生まれた関心や疑問を拠り所に活動を組織し, よ 単元を生み出すことも含めて考えるこ とで,単元計画の選択肢は広がる。 例えば,体験を通して児童に新たな関心や疑問が生じることは十分考えられるし, それを意図して特定の体験を設定することは,教師の意図的で計画的な指導の一環で ある。あるいは,もっと直接的に「こんなことをしてはどうだろう」と具体的な活動 を提案してもよい。児童だけでは思いつかないが,教師に提案されれば是非ともやっ てみたいと思う活動もあり得る。 第3に,児童にとって切実な関心や疑問であれば何を取り上げてもよいというわけ ではなく,価値ある学習に結び付く見込みのあるものを取り上げ,単元を計画するこ とである。 教師が選択して取り上げるという点について,児童の関心や疑問に十分にこたえる ことにならないのではないか,との疑念をもつかもしれない。しかし,総合的な学習 の時間において,児童の関心や疑問を大切にし,それを拠り所として学習活動を生み よ 出すのは,その先で価値ある学習を実現するためである。そのためには,何でもよい というわけにはいかない。 また,児童の関心や疑問は一つではない。第2の留意点で述べた通り,尋ねれば児 童は一つの関心事を挙げるかもしれないが,それが唯一の関心でも,疑問のすべてで もない。今現在,児童が関心を寄せるもの,疑問に思うことはたくさんあり,さらに 周囲の環境との相互作用の中で新たな関心や疑問は生まれてくるものである。大切な のは,教師が教育的な意図で選択して取り上げたものが,児童にとっての関心や疑問 につながっていることである。 3 意図した学習を効果 的に生み出す単元の構成 児童の疑問や関心を源とする児童主体の学習活動の中で,いかにすれば教師が意図 する学習を効果的に生み出すことがで きるかについて,以下に述べる。 まず,その関心や疑問から,児童はどのよ うな活動を求め,展開していくだろうか, と考える。そして,活動の展開において出会う様々な問題場面と,その解決を目指し --88/130-- -85- て児童が行う問題の解決や探究活動の様相,さらにそれぞれの学習活動を通して児童 が学ぶであろう事項について,考えられる可能性をできるだけ多面的,網羅的に予測 する。もちろんその際には,各学校で定めた内容,育てたい資質や能力及び態度との 照らし合わせを行う。 例えば, 「そばづくりをしよう」 という単元であれば,児童は畑でそばを育てる活 動を考える。この過程では,立派なそばを育てるには土作りや肥料,農薬をどうする かといった課題を設定し,その解決を目指して様々な調査活動を展開することが予想 される。ここで児童は,環境の問題や食の安全が身近な生活と密接にかかわっている ことに気付くであろう。また,インタビューの仕方を工夫してインタビューが上手に なったり,得られた多様な意見を比較 ,分析する方法を学んだりもする。 栽培活動が順調に進むと,児童の関心は食品としてのそばへと向かう。ここでは, 健康食としてのそばへの注目を契機に,ふだんの食生活を見つめ直し,食品やその購 買行動と自分たちの健康について考えさせることが大切である。しかし,児童の力だ けでは意識が届かないことも想定しておかなければならない。そこで,教師が健康食 としてのそばを取り上げている本やポスターを授業で提示したり,朝の会で話題にし たりするなど,意図的な 働きかけも必要となる。 そばが収穫できれば,そば打ちを学び,自分たちの手で本格的なそばを打ちたいと 考える。児童はそば打ちのために,地域の人々に学ぼうとするが,そこでは様々な世 代の地域の人と適切にコミュニケーシ ョンする力が求められる。 交流の中で,なぜこの地域はそばづくりが盛んなのかという疑問もわいてくるに違 いない。この疑問について考える中で,この地域は水田耕作に適さない自然条件だか らこそ,そばづくりが盛んになったことを知り,厳しい自然条件と共生し,食文化や 観光資源として高めてきた人々の知恵や工夫に気付く。そして,そのことが地域への 愛着と地域の一員としての自覚を深めていくであろう。このような児童の変容を実現 するには,どのタイミングでだれに出会うのがもっとも効果的かなどを,教師として 慎重に検討しておくことが大切である。 このように児童の目線で丁寧に単元を構想する中で,各学校が設定した目標及び内 容,育てようとする資質や能力及び態度が,確かに実現するかどうかを判断していか --89/130-- -86- なければならない。特に,教師はどこでどのような意図的な働きかけをする必要があ るのか, またその際に留意すべ き事柄は何かなども, 具体的に明らかにすべきである。 なお,先の例からも分かるように,単元を構成するに当たっては,次の2点に留意 することが大切である。 一つは,学習の展開における児童の意識や活動の向かう方向を的確に予測すること である。そのための方策としては,まず,児童の立場で考えること。次に,複数の教 師で予測を行い,意見が異なった点については慎重に検討すること。また,タイプの 異なる児童を想定し, 「この児童であればこの 場面ではこう考えるのではないか」な どと,可能な限り具体に即して丁寧に 予測すること,などが考えられる。 もう一つは,十分な教材研究である。先の例で言えば,そばが健康食として注目を 浴びているということや,この地域におけるそばづくりの歴史的経緯などについて教 師が十分に把握していなければ,活動場面における学習の可能性に気付くことは難し い。 なお,総合的な学習の時間においては,児童にとって意味のある問題の解決や探究 活動のまとまりを基に単元を構成するので,その活動の過程において取り扱う内容は 一つとは限らない。一つの単元の中で複数の内容や育てたい資質や能力及び態度の実 現が見込まれることも多い。 したがって,教材研究においても, できるだけ幅広く,拡散的に思考を巡 らせていくことが重要である。 右の 「竹 とんぼ」の教材としての広がりを想定 した図のように,特定の素材から広が る活動や対象を,できるだけ幅広く拡 散的に探索する手法を用いることが有 効なのは,このためである。 --90/130-- --90/130-- -87- 4 単元計画としての学習指導案 先に記した単元の計画を具体的に表現するには,例えば,次に示す項目を学習指導 案に位置付けることが考えられ る。以下にその項目を記す。 (1)単元名 総合的な学習の時間において,どのような横断的・総合的な学習や探究的な学習が 展開されるかを一言で端的に表現したものが単元名である。総合的な学習の時間の単 元名については,例えば,次の点に配慮することが大切である。一つ目は,児童の学 習の姿が具体的にイメージできる単元名にすることである。二つ目は,学習の高まり や目的が示唆できるよう にすることである。 (2)単元目標 どのような学習を通して,児童にどのような内容を学ばせ,どのような資質や能力 及び態度を育成することを目指すのかを明確に示したものが単元目標である。各学校 の目標や内容,育てようとする資質や能力及び態度を視野に入れ,中核となる学習活 動を基に構成することが考えられる。なお,目標の 表記については,一文で示す場合, 箇条書きにする場合などが考えられる。 (3)児童の実態 単元を構想し,構成する際には,児童の実態を明確に把握する必要がある。特に, 扱う内容,育てようとする資質や能力及び態度について,どのような実態であるかを 把握しておくことが欠かせない。また,中核となる学習活動について,どのような経 験をもっているのかも明 らかにする必要がある。 (4)教材について 教材とは,児童の学習を動機付け,方向付け,支える学習の素材のことである。単 元計画の中に教材について記すに当たっては,教材の紹介にとどまらず,児童がその --91/130-- -88- 教材に出会うことによって学ぶ学習事項について分析し,教材のどこに価値があるの かを具体的に記すことが大切である。 (5)単元の展開 単元の展開では,内容と育てようとする資質や能力及び態度,児童の興味・関心を 基に中核となる学習活動を設定する。どのような内容を児童に獲得してほしいのか, どのような資質や能力及び態度の伸長を期待しているのか。児童の興味・関心から始 まる学習活動の連続が,問題の解決や探究活動となるよう単元を構想しなければなら ない。この段階では,具体的な時数や学習環境なども視野に入れ,単元の展開を具体 化することが求められる。 --92/130-- -89- 第7章 総合的な学習の時間の評価 第1節 評価の基本的な考え方 総合的な学習の時間の評価については,学習指導要領では特に示されていないが, 平成10年の答申において, 「この時間の趣旨,ねらい等の特質が生かされるよう,教 科のように試験の成績によって数値的に評価することはせず,活動や学習の過程,報 告書や作品,発表や討論などに見られる学習の状況や成果などについて,児童生徒の よい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを踏まえて適切に評価することと し,例えば指導要録の記載においては,評定は行わず,所見等を記述することが適当 である」と指摘している。 また,平成12年12月の教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況 の評価の在り方について」 (以下「平成12年の答申」という。 )において,小学校児 童指導要録の改善を図る観点から,総合的な学習の時間について,各学校で評価の観 点を定めて,評価を文章記述する欄を新設するとともに,新設する「総合所見及び指 導上参考となる諸事項」欄にも 必要に応じ所見を記述す ることなどが示された。 この平成12年の答申を踏まえ,平成13年4月に出された小学校児童指導要録等の改 善等についての文部科学省初等中等教育局長 通知(平成13年4月27日付け,13文科初 第193号) においては, 「総合的な学習の時間の記録」欄に,総合的な学習の時間で 行った学習活動及び指導の目標や内容に基づいて定めた評価の観点を記載した上で, それらの観点のうち,児童の学習状況に顕著な事項がある場合などにその特徴を記入 するなど,児童にどのような力が身に付いたかを文章で記述することとした。また, 「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄に,各教科等や総合的な学習の時間の所 見を記入することとしている。 また,平成15年の一部改正では,各学校において,総合的な学習の時間の全体計画 を作成することとしており,この全体計画において学習の評価の計画を示すこととし ている。 --93/130-- -90- これらのことに加えて,このたびの中央教育審議会の答申では,総合的な学習の時 間の改善の具体的事項として「各学校において,総合的な学習の時間における育てた い力や取り組む学習活動や内容を,子どもたちの実態に応じて明確に定め,どのよう な力が身に付いたかを適切に評 価する」と指摘している。 こうしたことから,総合的な学習の時間では,各学校が定めた目標及び内容を踏ま えて,児童にどのような力が身に付いたのかを明確にするためにも,適切な評価をす ることが必要である。また,総合的な学習の時間の評価は,各学校で適切に観点を定 め,これに基づいて児童の学習活動をよりよく改善するものであるということに十分 配慮しなければならない。その際,学習の成果,児童のよい点や意欲・態度,進歩の 状況などをよりよく見取 ることが必要である。 --94/130-- -91- 第2節 児童の学習状況の評価 1 学習状況の評価の基本的な考え方 総合的な学習の時間における児童の学習状況の評価は,児童がこの時間の目標につ いて,どの程度実現しているのかという状況を把握することによって,適切な学習活 動に改善するためのものである。 また, その結果を外部に説明 するためのものである。 そのためには,児童の学習状況についてある一定の望まれる姿を想定し,それと児童 の学習状況とを照らし合わせて考え,この学習活動で育てようとする資質や能力及び 態度が適切にはぐくまれ,内容が学ばれているのかを,児童の学習状況から丁寧に見 取ることが求められる。 総合的な学習の時間では,各学校において目標や内容を定めることから,その目標 や内容に従って評価の観点を適切に定めることが大切である。その上で,どのような 力が身に付いたのかを適切に把握するために,児童の学習の姿を基にした評価規準を 設定することが考えられる。 2 評価の方法 総合的な学習の時間における児童の学習状況の評価に当たっては,これまでと同様 に,ペーパーテストなどの評価の方法によって数値的に評価することは,適当ではな い。 総合的な学習の時間における児童の具体的な学習状況の評価の方法については,信 頼される評価の方法であること,多様な評価の方法であること,学習状況の過程を評 価する方法であることの 三つが重要である。 第1に,信頼される評価とするためには,教師の適切な判断に基づいた評価が必要 であり,著しく異なったり偏ったりすることなく,およそどの教師も同じように判断 できる評価が求められる。例えば,あらかじめ指導する教師間において,評価の観点 --95/130-- -92- や評価規準を確認しておき,これに基づいて児童の学習状況を評価するなどが考えら れる。この場合には,各学校において定められた評価の観点を,1単位時間ですべて 評価しようとするのではなく,一定程度の時数の中において評価を行うように心がけ る必要がある。 第2に,多様な評価とするためには,異なる評価方法や評価者による多様な評価を 適切に組み合わせることが重要である。異なる評価方法や評価者による多様な評価の 方法としては,例えば次のよう なものが考えられる。 ・発表や話し合いの様子,学習や活 動の状況などの観察による評価 ・レポート,ワークシート,ノート ,作文,絵などの制作物による評価 ・学習活動の過程や成果などの記録や作品を計画的に集積したポートフォリオによ る評価 ・一定の課題の中で身に付けた力を 用いて活動することによるパフォーマンス評 価 ・評価カードや学習記録などによる 児童の自己評価や相互評価 ・教師や地域の人々等による他者評価 など 第3に,学習状況の結果だけではなく過程を評価するためには,評価を学習活動の 終末だけではなく,事前や途中に適切に位置付けて実施することが大切である。多様 な評価方法が,学習活動前の児童の実態の把握,学習活動中の児童の学習状況の把握 と改善,学習活動終末の児童の学習状況の把握と改善という,各過程に計画的に位置 付けられることが重要である。すべての過程を通して,児童の実態や学習状況を把握 し,適切な指導に役立て ることが大切である。 なお,総合的な学習の時間では,その児童の内に個人としてはぐくまれているよい 点や進歩の状況などを積極的に評価することや,それを通して児童自身も自分のよい 点や進歩の状況などに気付くよ うにすることも大切である。 --96/130-- -93- 第3節 指導計画・学習指導の評価 1 学校評価ガイドラインにおける評価 各学校においては,他の教科等と同様に,総合的な学習の時間における指導につい ても適切に評価し,その改善を図ることが必要である。 「小学校学習指導要領解説総 則編」にある通り,文部科学省が平成20年1月31日に作成した「学校評価ガイドライ ン(改訂) 」においては,具体的に どのような評価項目・指標等を設定するかは各学 校が判断すべきことではあるが ,その設定について検討 する際の視点となる例 が示されており, 「教育課程・学習指導」については, 次のような例が示されている。 ○ 各教科等の授業の状況 ・ 説明,板書,発問など,各 教員の授業の実施方法 ・ 視聴覚教材や教育機器など の教材・教具の活用 ・ 体験的な学習や問題解決的な学習, 児童の興味・関心を生かした自主的・自 発的な学習の状況 ・ 個別指導やグループ別指導,習熟度 に応じた指導,児童の興味・関心等に応 じた課題学習,補充的な学習や発展的 な学習などの個に応じた指導の方法等の 状況 ・ ティーム・ティーチング指導など における教員間の協力的な指導の状況 ・ 学級内における児童の様子や,学習 に適した環境に整備されているかなど, 学級経営の状況 ・ コンピュータや情報通信ネットワ ークを効果的に活用した授業の状況 ・ 学習指導要領や各教育委員会が定め る基準にのっとり,児童の発達の段階に 即した指導に関する状況 ○ 教育課程等の状況 ・ 学校の教育課程の編成・実施の考え 方についての教職員間の共通理解の状況 --97/130-- -94- ・ 児童の学力・体力の状況を把握し ,それを踏まえた取組の状況 ・ 児童の学習について観点別学習状 況の評価や評定などの状況 ・ 学校図書館の計画的利用や ,読書活動の推進の取組状況 ・ 体験活動,学校行事などの 管理・実施体制の状況 ・ 部活動など教育課程外の活 動の管理・実施体制の状況 ・ 必要な教科等の指導体制の 整備,授業時数の配当の状況 ・ 学習指導要領や各教育委員会が定め る基準にのっとり,児童の発達の段階に 即した指導の状況 ・ 教育課程の編成・実施の管理の状況 (例:教育課程の実施に必要な,各教科 等ごと等の年間の指導計画や週案な どが適切に作成されているかどうか) ・ 児童の実態を踏まえた,個別指導や グループ指導,習熟度に応じた指導,補 充的な指導や発展的な学習な ど,個に応じた指導の計画状況 ・ 幼小連携,小中連携など学校間の 円滑な接続に関する工夫の状況 ・ (データ等)学力調査等の結果 ・ (データ等)運動・体力調査の結果 ・ (データ等)児童の学習について の観点別学習状況の評価・評定の結果 このように現在,各学校は自己評価を行うことが義務付けられており,その評価対 象には,指導計画や学習指導も含まれる。それらが,総合的な学習の時間の目標を効 果的に実現する働きをしているか,それとも改善を図る必要があるかを,各学校にお いては適切に評価するこ とが求められる。 2 指導計画・学習指導の改善 指導計画や学習指導の評価に続いて行わなければならないのが,その改善である。 指導計画や学習指導についての評価が行われたとしても,これがその改善に活用され なければ,評価本来の意 義が発揮されない。 --98/130-- -95- 改善の方法は,各学校の創意工夫によって具体的には異なるであろうが,一般的に は次のような手順が考えられる。 @ 評価の資料を収集し,検討すること A 整理した問題点を検討し,原因 と結果を明らかにすること B 改善案をつくり,実施すること 目標,内容,育てようとする資質や能力及び態度,学習活動などの指導計画を修正 したり,人的,物的諸条件のような学習環境や外部連携を見直したりすることが考え られる。このように,評価を具体的な改善に生かし,地域や学校及び児童の実態に応 じた指導計画を作成するとともに, 適切な学習指導を行うよう 努めなければならない。 なお,第3の2の(5)に「全教師が一体となって指導に当たるなど指導体制につい て工夫を行うこと」とされていることから,指導計画の評価に当たっても,同僚教師 間での情報交換や,教務主任や研究主任,コーディネーター役の教師を中心とした全 校体制での組織的な評価を進め ることが重要である。 --99/130-- -96- 第8章 総合的な学習の時間の学習指導 この章では,総合的な学習の時間では,どのような学習指導を行うことが求められ ているのかを記していく。まず,第1節では,学習指導の基本的な考え方を「児童の 主体性の重視」 「具体的で発展的な教材」 「適切な指導の在り方」の三つから記述し ていく。そして,第2節では,基本的な 考え方を受け,学習指導の際のポイントを「探 究的な学習」 「協同的」の二つの視点から具体 的に解説していく。 第1節 学習指導の基本的な考え方 1 児童の主体性の重視 総合的な学習の時間の学習指導の第1の基本は,学び手としての児童の有能さを引 き出し,児童の発想を大切にし育てる主体的,創造的な学習活動を展開することであ る。 児童は本来,知的好奇心に富み,自ら課題を 見付け,自ら学ぶ存 在である。児童は, 具体的な事実に直面したり様々な情報を得たりする中で,対象に強い興味や関心をも つ。また,実際に体験したり,調査したりして,繰り返し対象に働きかけることで, 対象への思いを膨らませていく。 さらに,児童は未知の世界を自らの力で切り開く有能な存在である。興味ある事象 についての学習活動に取り組む児童は,納得するまで課題を追究し,本気になって考 え続ける。この学習の過程において,児童は自ら課題を解決するための知識や技能を 身に付け,それらを活用する力 をはぐくんでいく。 こうした児童がもつ本来の力を引き出し,それを支え,伸ばすように指導していく ことが大切であり,そうした肯定的な 児童観に立つことが欠かせない。 例えば,児童の主体性が発揮されている場面では,児童が自ら変容していく姿を見 守ることが大切である。また,児童の取組が停滞したり迷ったりしている場面では, --100/130-- --100/130-- --100/130-- -97- 適切な指導が必要である。そのようにして,児童のもつ潜在的な力が発揮されるよう な学習指導を行うことが大切である。 2 具体的で発展的な教材 学習指導の第2の基本は,身近にある具体的な教材,発展的な展開が期待される教 材を用意することである。 総合的な学習の時間では,児童の自主性や自発性を重視し,児童の思いや願いを大 切にすることを記してきた。しかし,充実した学習活動を展開し,学習を深め,児童 に確かな力を育成するためには,適切な教材(学習材)が用意されていることが欠かせ ない。 教材は,横断的・総合的な学習や探究的な学習として質の高い学習活動となるよう に,児童の学習を動機付けたり,方向付けたり,支えたりするものであることが望ま れる。児童の身の回りの日常生活や社会にある事物や現象を適切に取り上げ,児童に とって価値のある教材としてい くことが重要である。 総合的な学習の時間の教材には,以下の特徴があることが求められる。一つには, 児童の身近にあり,直接体験をしたり繰り返しかかわったりすることのできる具体的 な教材であることである。 総合的な学習の時間は, 体験活動を行うことが重要であり, そうした中で行われる全身を使った対象の把握と情報の収集が欠かせない。間接的な 体験による二次情報も必要ではあるが,実物に触れたり,実際に行ったりする直接体 験が優先される。 二つには,児童の学習活動が豊かに広がり,発展していく教材であることである。 一つの対象から,次々と学習活動が展開し,自然事象や社会事象へと多様に広がり, 学習の深まりが生まれることが大切である。また,生活の中にある教材であっても, そこから広い世界が見えてくるなど,身近な事象から現代社会の課題等に発展してい くことが期待される。 このように,総合的な学習の時間における教材は,実際の生活の中にある問題や事 --101/130-- -98- 象を取り上げることが効果的である。例えば,食生活の問題を取り上げたとしても, そこから自然環境の問題や労働問題,食料自給率の問題などが見えてくる。身近にあ る具体的な教材,発展的な展開が期待 される教材であることが望まれる。 3 適切な指導の在り方 学習指導の第3の基本は,取り上げた課題に対する考えを深め,自己の生き方を考 えることにつながる横断的・総合的な学習や探究的な学習となるように,教師が適切 な指導をすることである。 第1の基本に示したように, 原則としては学び手としての児 童の有能さを引き出し, それを支え,伸ばすことが重要である。そこでは,児童の自発的・能動的な取組を重 視する。しかし,それだけでは学習の広がりや深まりは期待できない。そこで,第2 の基本で示したように適切な教材が用意されていることが大切であり,さらに,横断 的・総合的な学習や探究的な学習として展開していくように,教師が指導性を発揮す ることが重要である。どのような体験活動を仕組み,どのような話し合いを行い,ど のように考えを整理し,どのようにして表現し発信していくかなどは,まさに教師の 指導性にかかる部分であり,児童の学習を活性化させ,発展させるためには欠かせな い。こうした教師の指導性と児童の自発性・能動性とのバランスを保ち,それぞれを 適切に位置付けることが豊かな 総合的な学習の時間を生 み出すことにつながる。 そのためには,どのような児童観や教材観に立ち,どのような指導観をもって学習 を展開していくかが問われる。学習を展開するに当たって,教師自身が明確な考えを もち, 期待する学習の方向性や望まし い変容の姿を想定してお くことが不可欠である。 学習活動のイメージをもつことで,どのような場面でどのように指導するのかが明ら かになる。また,児童の望ましい変容の姿を想定しておくことで,学習状況に応じた 適切な指導も可能になる。 --102/130-- -99- 第2節 総合的な学習の時間の学習指導のポイント 今回の改訂においては,総合的な学習の時間を「横断的・総合的な学習」に加えて 「探究的な学習」とすること,この時間において「協同的」な態度を育てること,を これまで以上に明確にした。本節においては,この時間の改訂の趣旨を実現するため の具体的な学習指導のポイント として,この二つを取り 上げ以下に述べる。 1 学習過程を探究的にすること 探究的な学習とするためには,学習過程 が以下のようになることが重要である。 @ 【課題の設定】体験活動などを通し て,課題を設定し課題意識をもつ A 【情報の収集】必要な情報を 取り出したり収集したりする B 【整理・分析】収集した情報を,整 理したり分析したりして思考する C 【まとめ・表現】気付きや発見,自分の考えなどをまとめ,判断し,表現する なお,ここで言う情報とは,判断や意思決 定,行動を左右するすべての事柄を指し, 広くとらえている。言語や数字など記号化されたものによって情報を得ることもでき るし,具体物とのかかわ りや体験活動など,事象 と直接かかわることによ って情報を得ることもで きる。 もちろん,こうした探 究の過程は,いつも@〜 Cが順序よく繰り返され るわけではなく,順番が 前後することもあるし, 一つの活動の中に複数の --103/130-- -100- プロセスが一体化して同 時に行われる場合もある。 およその流れのイメージであるが, このイメージを教師がもつことによって,探究的な学習を具現するために必要な教師 の指導性を発揮することにつながる。また,この探究の過程は,前ページの図のよう に何度も繰り返され,スパイラルに高まっていく。以下に,それぞれのプロセスごと の学習活動のイメージと, そこで行われる具体的な教師 の学習指導のポイントを記す。 @課題の設定 総合的な学習の時間にあっては,児童が自ら課題意識をもち,その意識が連続発展 することが欠かせない。しかし,児童が自ら課題をもつことが大切だからといって, 教師は何もしないでじっと待つのではなく,教師が意図的な働きかけをすることが重 要である。例えば,人,社会,自然に直接かかわる体験活動においても,学習対象と のかかわり方や出会わせ方などを,教師が工夫する必要がある。その際,事前に児童 の発達や興味・関心を適切に把 握し,これまでの児童の考えとの「ずれ」や「隔たり」 を感じさせたり,対象への「あこがれ」や「可能性」を感じさせたりする工夫をしな くてはならない。 例えば,児童は,対象やそこに存在する問題事象に直接出会うとき,現実の状況と 理想の姿との対比などから問題を見出し,課題意識を高めることが多い。身近な川を 対象にし,川の探検をする活動では,川にゴミが落ちていることや川が汚れているこ となどに気付く。こうした川の現実の姿を知ることで,理想的な川のイメージとのず れなどから,児童は身近な川の環境問題に意識を向ける。ここでは,実際の川を目で 見て,肌で触れることが効果的である。身体全体を通して川とかかわり,川を理解す ることが, 「どうして川が汚れているのだろう」 「いつごろから川が汚くなったのだ ろう」 「生き物は生息しているのだろうか」な どといった課題意識を高めていく。 課題を設定する場面では,こうした対象に直接触れる体験活動が重要であり,その ことが,その後の息長い探究活 動の原動力となる。 A情報の収集 課題意識や設定した課題を基に,児童は,観察,実験,見学,調査,探索,追体験 などを行う。 こうした学習活動によって, 児童は課題の解決に必要 な情報を収集する。 情報を収集する活動は,そのことを児童が自覚的に行う場合と無自覚的に行っている --104/130-- -101- 場合とがある。 目的を明確にして調査したりインタ ビューしたりするような活動では, 自覚的に情報を収集していることになる。一方,体験活動に没頭したり,体験活動を 繰り返したりしている時には,無自覚のうちに情報を収集していることが多い。そう した自覚的な場と無自覚的な場とは常に混在している。意図や目的をもって栽培活動 を繰り返す活動では,育てている作物に関する様々な情報を収集しているのだが,同 時にその中で無自覚的な情報の収集も行われている。このように,情報を収集するこ とにおいても,体験活動は重要である。 例えば,川に生息する水生生物を調べたり,パックテストなどで水質調査をしたり する。実際に川に入って生き物を探したり,水質を調べたりする。また,川の周辺の 植生などを観察することも考えられる。その他にも,川の昔と今の様子を図書館の文 献で調べたり,川の近くの住民 にインタビューしたりす ることも考えられる。 こうした場面では,いくつか の配慮すべき事項がある。 一つ目は,収集する情報は多様であり,それは学習活動によって変わるということ である。例えば,パックテストを使えば数値化した情報を収集することができる。文 献を調べたり,インタビューをしたりすれば言語化した情報を手に入れることができ る。実際に体験活動を行えば「汚い」 「くさい」といった感覚的な情報の獲得が考え られる。どのような学習活動を行うかによって収集する情報の種類が違うということ であり,その点を十分に意識した学習活動が行われることが求められる。特に,総合 的な学習の時間では,体験を通した感覚的な情報の収集が大切であり,そうした情報 こそが児童の真剣な探究活動を支える。 二つ目は,課題解決のための情報収集を自覚的に行うことである。具体的な体験活 動が何のための学習活動であるのかを自覚して行うことが望ましい。体験活動自体の 目的を明確にし, そこで獲得される情報を意識的に 収集し蓄積することが大切である。 そのことによって, どのような情報を収集するのか, どのような方法で収集するのか, どのようにして蓄積するのか, などの準備が整うことになる。 三つ目は,収集した情報を適切な方法で蓄積することである。数値化した情報,言 語化した情報などは,デジタルデータをはじめ様々な形のデータとして蓄積すること が大切である。その情報がその後の探究活動を深める役割を果たすからである。収集 --105/130-- -102- した場所や相手,期日などを明示して,ポートフォリオやファイルボックス,コンピ ュータのフォルダなどに蓄積していく。その際,個別の蓄積を基本とし,必要に応じ て学級やグループによる協同の蓄積方法を用意することが考えられる。一方,適切な 方法で蓄積することが難しいの は感覚的な情報である。 体験活動を行ったときの感覚, そのときの思いなどは,時間の経過とともに薄れていき,忘れ去られる。しかし,そ うした情報は貴重なものであり,その後の課題解決に生かしたい情報である。したが って,体験活動を適切に位置付けていくだけではなく,体験で獲得した情報を作文な どで言語化して,対象として扱 える形で蓄積することに も配慮が必要である。 また,こうした情報の収集場面では,各教科で身に付けた知識や技能を発揮するこ とで,より多くの情報,より確かな情報が収集できる。例えば,理科で身に付けた観 察する技能や動植物に対する知識は,河川の周辺の情報を豊かに集めることにつなが る。また,国語科のインタビューの手法を発揮して,周辺の住民からたくさんの情報 を入手することも可能になる。社会科の資料活用の学習を生かして,多様な文献を探 し出し,資料を比較することも考えられる。なお,情報の収集に際しては,必要に応 じて教師が意図的に資料等を提 示することも考えられる。 B整理・分析 Aの学習活動によって収集した情報を整理したり,分析したりして,思考する活動 へと高めていく。収集した情報は,それ自体はつながりのない個別なものである。そ れらを種類ごとに分けるなどして整理したり,細分化して因果関係を導き出したりし て分析する。それが思考することであり,そうした学習活動を位置付けることが重要 である。 例えば,水生生物の分布の様子を地図上に整理したり,水質の変化をグラフ化した りすることが考えられる。また,文献から得た情報を年代ごとに表にまとめたり,イ ンタビューから得た情報をカードにし て整理したりすることも考えられる。 あるいは, 論点を明確にして決断を迫るような討 論を行うことなども考えられる。 このような学習活動を通して,児童は収集した情報を比較したり,分類したり,関 連付けたりして情報内の整理を行う。このことこそ,情報を活用した活発な思考の場 面であり,こうした学習活動を適切に位置付けることが重要である。その際には,以 --106/130-- -103- 下の点に配慮したい。 一つは,どのような情報が,どの程度収集されているかを把握することである。数 値化した情報と言語化した情報とでは扱い方が違ってくる。また,学習対象として扱 う情報の分量によっても学習活 動は変わってくる。 二つは,どのような方法で情報の整理や分析を行うのかを決定することである。数 値化された情報であれば,統計的な手法でグラフにすることが考えられる。グラフの 中にも,折れ線グラフ,棒グラフ,円グラフなど様々な方法が考えられる。言語化さ れた情報であれば,カードにして整理する方法,出来事を時間軸で並べる方法,調査 した結果をマップなどの空間軸に整理する方法などが考えられる。情報に応じて適切 な整理や分析の方法が考えられるとともに,その学習活動によって,どのように考え させたいのかが問われる。例えば,比較して考える,分類して考える,序列化して考 える,類推して考える,関連付けして考える,因果関係から考える,などである。何 を,どのように考えさせたいのかを意識し,学習活動を適切に位置付けることがポイ ントになる。 なお,ここでも,国語科や社会科,算数科などの教科での学習成果が生かされるこ とは,先に記した事例か ら明らかである。 Cまとめ・表現 情報の整理・分析を行った後,それを他者に伝えたり,自分自身の考えとしてまと めたりする学習活動を行う。 そうすることで, それぞれの児童の既存の経験や知識と, 学習活動により整理・分析された情報とがつながり,一人一人の児童の考えが明らか になったり,課題がより一層鮮明になったり,新たな課題が生まれたりしてくる。こ のことが学習として質的に高まっていくことであり,表面的ではない深まりのある探 究活動を実現することにつながる。 例えば,調査結果をレポートや新聞,ポスターにまとめたり,写真やグラフ,図な どを使ってプレゼンテーションとして表現したりすることなどが考えられる。相手を 意識して,伝えたいことを論理的に表現することで,自分の考えは一層確かになって いく。身近な川における環境の問題を考えながら,自らの日ごろの行動の在り方,身 近な環境と共生する方法につい て考えることになる。 --107/130-- -104- こうした場面では,次 の点に配慮したい。 一つは, 相手意識や目的意識 を明確にしてまとめたり, 表現したりすることである。 だれに伝え,何のためにまとめるのかによって,まとめや表現の手法は変わり,児童 の思考の方向性も変わるからである。二つは,まとめたり表現したりすることが,情 報を再構成し,自分自身の考えや新たな課題を自覚することにつながるということで ある。三つは,伝えるための具体的な方法を身に付けるとともに,伝えるべき内容を 十分に蓄積しておくことである。例えば,作文やポスター,プレゼンテーションソフ トなどの手法を使って,探究活動によって分かったことや考えたことを,学級の友達 や保護者,地域の人々などに分かりやすく伝える,といったことである。ここでは, 各教科で獲得した表現方法を積極的に活用することが考えられる。文章表現はもちろ ん,絵画や音楽などを使ったり,それらを組みわせたりしていく総合表現なども考え られる。 このように,国語科,音楽科,図画工作科などの教科で身に付けた力が発揮される ことが容易に予想できる。なお,ここでの学習活動は,それ自体がABCの学習活動 を同時に行っていると考えるこ とができる場合もある。 ここまで,@【課題の設定】 ,A【情報の収集】 ,B【整理・分析】 ,C【まとめ・ 表現】の探究の過程に沿って学習過程を具体的にイメージしてきた。こうした学習活 動をスパイラルに繰り返してい くことが探究的な学習を実現す ることにつながる。 2 他者と協同して取り組む学習活動にすること 総合的な学習の時間においては,特に,他 者と協同して課題を解決しようとする学 習活動を重視すべきである。それは,多様な考え方をもつ他者と適切にかかわり合っ たり,社会に参画したり貢献したりする資質や能力及び態度の育成につながるからで ある。また,協同的に学ぶことにより,探究的な学習として,児童の学習の質を高め ることにつながるからである。 協同的に学ぶことの価値の一つ目は,多様な情報の収集につながることである。同 --108/130-- -105- じ課題を追究する学習活動を行っていても,収集する情報は協同的な学習の方が多様 であり,その量も多い。情報の多様さと多さは,その後の整理や分析を質的に高める ために欠くことのできない重要な要件である。二つ目は,異なる視点から検討ができ ることである。整理したり分析したりする際には,異なる視点や異なる考え方がある ことの方が,深まりが出てくる。一面的な考え方や同じ思考の傾向の中では,情報の 整理や分析も画一的になりやすい。三つ目は,地域の人と交流したり友達と一緒に学 習したりすることが,相手意識を生み出したり,学習活動のパートナーとしての仲間 意識を生み出したりすることである。共に学ぶことが個人の学習の質を高め,同時に 集団の学習の質も高めていく。 このように協同的に取り組む学習活動を行うことが,児童の学習の質を高め,探究 的な学習を実現することにもつながる。具体的には,以下のような場面と児童の姿が 想定できる。 (1)多様な情報を活用して協同的に学ぶ 体験活動では,それぞれの児童が様々な体験を行い多様な情報を手に入れる。それ らを出し合い,情報交換しながら学級全体で考えたり話し合ったりして,課題が明確 になっていく場面が考えられる。 例えば,町の様子を探検した後に,発見し たことを出し合い,それを黒板に整理し, 「みんなが見付けた発見の中で,似ていたり,共通していたりすることはないだろう か」などと発問する。このことで児童は,町探検で発見してきた情報を改めて見つめ 直し,互いの発見の共通点や相違点に気付いたり,互いの発見の関連性を見付けたり する。 「ここがもっと知りたくなっ た,詳しく調べてみたいということはないだろう か」とさらに問いかけることで, 「また探検に出かけてみたい」 「今度は詳しく調べ てきたい」などと目的や課題を 明確にしていくことができる。 学級という集団での協同的な学習を有効に機能させ,多様な情報を適切に活用する ことで,探究的な学習へと高め ることが可能となる。 --109/130-- -106- (2)異なる視点から考え協同的に学ぶ 物事の決断や判断を迫られるような話し合いや意見交換を行うことは,収集した情 報を比較したり,分類したり,関連付けたりして考えることにつながる。そのような 場面では,異なる視点からの意 見交換が行われることで ,互いの考えは深まる。 例えば, 米作りの活動を行う際に, 農薬の使用について話し 合う場面が考えられる。 農薬の使用は,米を順調に生育させ,病害虫などから守る役目がある。一方で,農薬 を使用しないことに価値を見出している農家も存在する。実際に米作りの体験をした り,生産者の苦労などを直接聞き取ったり,農作物の成長や農薬の科学的な働きを調 べたりした上で話し合いを行うと,異なる視点での意見が出され,互いの考えを深め ることにつながっていく。このことにより,農薬の使用がどのような理由で行われて いるのか,そのことが食糧生産や農業事情と深くかかわっていることなど,児童の幅 広い理解と思考の深まりを生む。 このように異なる視点を出し合い,検討していくことで,事象に対する見方や考え 方が深まり,学習活動をさらに 探究的な学習へと高めて いくことが考えられる。 (3)力を合わせたり交流 したりして協同的に学ぶ グループや集団で学習活動を進めることや,地域の人や専門家など校外の人と交流 する機会を設けることも有効である。一人でできないことも集団で実現できることは 多い。また,地域の大人などと の交流は,児童の社会参画の意 識を目覚めさせる。 例えば,自分たちの生活する地域のよさを学び,その地域のよさを特産品として開 発する学習活動が考えられる。児童は特産品を開発し,地域の人や専門家に提案しよ うとする。その際,学級の友達と力を合わせたり分担したりして特産品を作り,一人 ではできなかったことも,仲間がいることで成し遂げられることを実感する。また, そこでは,開発した特産品のよさを地域の人に伝えようとしたり,特産品の特徴を分 かりやすく伝えようとしたりし て,真剣に活動に取り組む。 こうした製作や交流の場面では,友達や専門家からの助言,地域の大人からの激励 を受ける場面を設定することができる。児童は特産品を開発する活動を通して,力を 合わせて取り組むことの大切さ や地域社会にかかわる喜 びなどを実感していく。 --110/130-- --110/130-- -107- (1)〜(3)に示したように協同 的に取り組む学習活動においては, 「なぜその課題を 追究してきたのか(目的) 」 「これを追究して何を明らかにし ようとしているのか(内 容) 」 「どのような方法で追究すべきなのか(方法) 」などの点が繰り返し問われるこ とになる。このことは,児童が自らの学習活動を振り返り,その価値を確認すること にもつながる。協同して学習活動に取り組むことが,児童の問題の解決や探究活動を 持続させ繰り返させるとともに,一人一人の児童の考えを深め,自らの学習に対する 自信と自らの考えに対する確信をもたせることにもつながる。学級集団や学年集団を 生かすことで,個の学習と集団の学習が互いに響き合うことに十分配慮し,質の高い 学習を成立させることが求められる。 --111/130-- -108- 第9章 総合的な学習の時間を推進するための体制づくり この章では,総合的な学習の時間を適切に推進するための指導体制づくりについ て解説する。第1節では,各学校で取り組むべき体制整備の基本的な考え方について 四つの視点から述べる。第2節では,校内組織の整備について,第3節では,授業時 数の確保と弾力的な運用について,第4節では,環境整備について,さらに,第5節 では,外部との連携の構築について, 具体例を交えて解説する。 第1節 体制整備の基本的な考え方 総合的な学習の時間においては,各学校で指導計画を適切に作成しなければならな い。しかし,それだけで充実した総合的な学習の時間を実現することは難しい。適切 な計画を確実に実施していくための校内の指導体制の整備が欠かせない。質の高い豊 かな学習活動を実施するためにも,以下に記した四つを視野に入れた校内の体制づく りに十分配慮しなければならない。 一つ目は,校内の職員が一体となり協力できる体制をつくるなど,校内組織の整備 についてである。総合的な学習の時間では,児童の様々な興味・関心や多様な学習活 動にこたえるために,グループ学習や異年齢集団による学習をはじめ多様な学習形態 の工夫を積極的に図る必要がある。また,それぞれの教職員の特性や専門性を生かす ことが,総合的な学習の時間の特色を生み出し,一層の充実にもつながる。まず,校 内のすべての教職員が協力して 取り組む体制を整備する ことが重要である。 二つ目は,確実かつ柔軟な実施のための授業時数の確保と弾力的な運用についてで ある。総合的な学習の時間については,その時間が確実に実施されるとともに,状況 に応じた柔軟な対応が求められる。授業時数を適切に運用することが総合的な学習の 時間の充実には欠かせない。 三つ目は,総合的な学習の時間を推進するための環境整備についてである。総合的 な学習の時間の特徴は,体験活動を行うことである。そのことは必然的に,様々な場 --112/130-- -109- 所での学習活動や多様な学習活動を行うことにつながる。充実した総合的な学習の時 間を実現するためには,空間,時間,人などの学習環境を整えることが重要となる。 四つ目は,総合的な学習の時間を推進するための外部連携の構築についてである。 地域の特色を生かしたり,一人一人の児童の興味・関心に応じたりして学習活動を展 開していくには,保護者をはじめ,地域の人々,専門家などの教育力を活用すること が欠かせない。地域や社会に存在する多様で幅広い教育力を活用することが,総合的 な学習の時間の充実を実現する。 --113/130-- -110- 第2節 校内組織の整備 1 校長のリーダーシップ 各学校における教育課程は,校長のリーダーシップの下,全教職員が協力して編成 していくものである。特に総合的な学習の時間は,目標及び内容,育てようとする資 質や能力及び態度,学習活動等について,各学校が決定していかなければならないこ とから,校長はその教育的意義や教育課程における位置付けなどを踏まえながら,自 分の学校のビジョンを全教職員に説明するとともに,その実践意欲を高め,実施に向 けて校内組織を整えていかなければならない。そして,全教職員が互いに連携を密に して,総合的な学習の時間の指 導計画を作成し,実施し ていく必要がある。 さらに,教師が互いに知恵を出し合ったり,実践上の悩みや課題について気軽に相 談し合ったりできる体制づくりや雰囲気づくりも,校長をはじめとする管理職の務め である。 加えて,総合的な学習の時間では,児童の問題の解決や探究活動の広がりや深まり を促すために,校外の様々な人や施設,団体等からの支援が欠かせない。また,家庭 の理解と協力も必要である。このことから,校長はリーダーシップを発揮し,自分の 学校の総合的な学習の時間の目標や内容,実施状況について,学校だよりやホームペ ージ等により積極的に外 部に情報発信し, 広く協力を求めるこ とが大切である。 また, 学習に必要な施設・設備,予算面については,教育委員会等からの支援が欠かせない ことは言うまでもない。 また,小・中学校間で総合的な学習の時間の目標や内容,育てようとする資質や能 力及び態度,指導方法等について関連性や発展性が確保されるよう連携を深めること が大切である。例えば,中学校区単位で総合的な学習の時間の実施にかかわる協議会 を組織し,合同研修や情報交換,協同の指導計画作成等を行って連携を深めることも 有効である。同一中学校区内の小学校と中学校とが協議して,連携の目的や内容,方 法を盛り込んだ推進計画を示したり,総合的な学習の時間の支援者に参加協力を求め --114/130-- -111- たりするなど,校長の率先した 働きかけが欠かせない。 2 校内推進体制の整備 各学校では校長の方針に基づき,総合的な学習の時間の目標を達成できるように, 全教職員が協力して全体計画及び年間指導計画,単元計画などを作成し,互いの専門 性や特性を発揮し合って実践していく校内推進体制を整える必要がある。校内推進体 制の整備に当たっては,全教職員が目標を共有しながら校務分掌に基づいて適切に役 割を分担するとともに,教職員間及び校外の支援者とのコミュニケーションを密にす ることが肝要である。 この項では,児童に対する指導体制と実践を支える運営体制の二つの観点から,総 合的な学習の時間のための校内推進体 制の在り方について述べる。 (1)児童に対する指導体制 総合的な学習の時間の授業は,学級担任が中心的な指導者となって進められること が多い。日ごろ,学級担任は各教科等の授業を通して児童をよく理解しており,児童 の実態を生かしたり各教科等との関連を図ったりして創意あふれる実践を行うことが できる立場にある。 一方,総合的な学習の時間では,問題の解決や探究活動の幅が広がったり学習活動 が多様化したりすることや,児童の追究が次々と深化したりすることは,当然起こり 得る。その結果として,学級担任一人だけでは対応できない状況も出てくる。このよ うな場合には,級外の教師がティーム・ティーチングで指導する体制を整えたり,学 級枠を外して指導を分担したりする工夫も必要となる。また,学習内容によっては, 専科の教師や養護教諭,栄養教諭,司書教諭等の専門性を生かした学校全体の指導体 制が必要になる。 このような複数の教職員による指導を可能にするためには,時間割の工夫のほか, 全教職員が自分の学級や学年だけでなく,他の学級や学年の総合的な学習の時間の実 --115/130-- -112- 施の様子を十分把握しておくことが大切である。その意味で,学級担任は,総合的な 学習の時間の実施の様子を様々な形で公開する必要がある。例えば,日常の授業の公 開のほか,児童の学習活動の様子を廊下に掲示したり,学級だよりや学年だよりの記 事にしたりすること,最終場面の発表会はもちろん中間発表会を公開することなども 考えられる。また,全教職員で実践の状況を紹介し合い,互いに学び合うことを目的 としたワークショップ型の研修を行うことなども,学校全体の実施状況の理解を深め ると同時に,教職員の協同性を 高めることにつながる。 (2)実践を支える運営体制 学校は組織体として運営されており,教師や校内組織がそれぞれに連携して教育活 動を営んでいる。特に総合的な学習の時間では,児童の問題の解決や探究活動の広が りや深まりによって,複数の教師による指導や校外の支援者との協力的な指導が必要 になる。そのため,指導方法や指導内容などをめぐって,指導する教師が気軽に相談 できる仕組みを職員組織に位置付けておくことも大切になる。さらに,指導に必要な 施設・設備の調整や予算の配分や執行の役割も校内に必要である。このように,総合 的な学習の時間においては,校内に,指導に当たる教師を支える運営体制を整える必 要がある。 そこで,校長は自分の学校の実態に応じて既存の組織を生かすとともに,新たな発 想で運営のための組織を整備し,児童の学習活動を学校全体で支える仕組みを校内に 整える必要がある。その際,次に示す 職員分担や組織運営が参考になる。 @ 総合的な学習の時間の 実践を支える校内分担例 総合的な学習の時間の 円滑な運営のために, 既存の校務分掌組織を生かす観点から, 次のような役割分担が考えられる。 ○教 頭:運営体制の整備,校外 の支援者,支援団体との渉外 ○教務主任:各種計画の作成 と評価,時間割の調整 ○研修担当:研修計画の 立案,校内研究の実施 ○学年主任:学年内の連 絡・調整,研修,相談 ○総合的な学習の時間担当:総合的 な学習の時間の企画・運営・実施 --116/130-- -113- ○図書館担当:必要な図書の 整備,児童の図書館活用支援 ○機器担当:情報機器等の整備及び配当 ○安全担当:学習活動時の安全確保 ○養護教諭:学習活動時の健康管理 ,健康教育にかかわること ○栄養教諭:食育にかかわること ○事務担当:予算の管理及び執行 など A 校内推進委員会 総合的な学習の時間の全体計画等の作成や評価,各分担及び学年間の連絡・調整, 実践上の課題解決や改善等を図るため,関係教職員で組織するものが,校内における 推進委員会である。 構成については学校の実態によって様々なものが考えられるが,例えば,教頭,教 務主任,研究担当,道徳教育担当,特別活動担当,学年主任などが挙げられる。協議 内容によっては,養護教諭,栄養教諭,図書館司書,情報教育担当,国際理解教育担 当などを加える場合もあろう。 推進委員会では,これらの関係教職員の共 通理解や連携強化のために連絡・調整を 図るとともに, 全体計画をはじめとする各種計画の 作成・運用・評価についての協議, 校外の支援者との連携のため にコーディネート役の機能をもたせることも有効であ る。 B学年部会 総合的な学習の時間では,学年ごとに年間指導計画や単元計画等を作成したり,実 施したりする学校が多い。異学年間合同で学習活動を行う場合も,学年の担当者を窓 口に教師間の連携が図られることが多い。このことから,学年部会は,総合的な学習 の時間を運営する上で重要な役 割をもつといえる。 学年部会は,学級間の連絡・調整のみなら ず,指導計画の改善や実践に伴って次々 と生まれる諸課題の解決や効果的な指導方法等について学び合うなど,研修の場とし ても大切な役割が期待される。時には,学年部の教師が共に地域を歩き,教材化でき る素材の収集を行ったり,地域の人の思いや願いを把握したりすることは,地域に根 ざした魅力ある授業を創 造する上で有効である。 --117/130-- -114- なお,学年部会では,実践上の悩みや疑問 が率直に出され,互いに自由な雰囲気で 話し合えるよう配慮することが大切である。そのことが,教師同士の協同性を高め, 総合的な学習の時間の日常的な 改善を容易にしていく。 なお,小規模校では,例えば3・4学年部会と5・6学年部会を構成したり,場合 によっては3〜6学年合同部会を構成したりして,実践交流や情報交換等を行うなど の工夫によって,協同性や協力体制を 向上させることができる。 3 教職員の研修 総合的な学習の時間を充実させ,その目標を達成する鍵を握るのは,指導する教師 かぎ の指導計画の作成と運用の能力, そして授業での指導力 や評価力などである。 さらに, 地域や学校,児童の実態に応じて,特色ある学習活動を生み出していく構想力も必要 である。また,総合的な学習の時間は,教師がチームを組んで指導に当たることによ って,児童の多様な学習活動に対応できることから,教職員全体の指導力向上を図る 必要もある。したがって,すべての学校で年間の職員研修計画の中に,総合的な学習 の時間のための校内研修を確実に位置 付けることが極めて重要になる。 校内研修のねらいや内容は,各学校の職員構成や実践上の課題等に応じて適切に定 めていくべきものであるが,まずは,本『小学校学習指導要領解説総合的な学習の時 間編』を参考に総合的な学習の時間の趣旨や内容等についての理解を教職員全体で確 かにする必要がある。また,具体的な内容としては,次の例を参考に,できる限り実 践を進める教師の希望や必要感 を生かした校内研修計画 を立てるべきである。 ○ 総合的な学習の時間の目標,内容,育てよ うとする資質や能力及び態度の設定 について ○ 総合的な学習の時間の教育課程における 位置付けや各教科,道徳,外国語活動, 特別活動との関連について ○ 全体計画,年間指導計画,単 元計画の作成及び評価について ○ 教材開発の在り方や地 域素材の生かし方について --118/130-- -115- ○ 総合的な学習の時間のための ICTの活用について など なお,校内研修は全教師が一堂に会して実施する場合もあるが,学年単位や課題別 グループ単位等の少人数で,実践上の課題に応じて弾力的に,そして継続的に実施し ていくことも必要である。また,研修方法については,次の例を参考に,各学校の実 態や研修のねらいに応じ て工夫すべきである。 ○ 校内での研修例 ・グループ研修:指導計画作成や教材作りの 演習,テーマに基づくワークショ ップ など ・全体研修:視察報告会, 講師を招いての講義 など ○ 校外での研修例 ・実地体験研修:児童の体験活動 の臨地研修とその評価 など ・教材収集研修:地域の諸 事象の観察や調査 など 授業研究では,児童の学習に取り組む姿を通して教師の指導について評価し,指導 力の向上を図ることが必要である。また,総合的な学習の時間の授業を公開し,互い に学び合えるようにして おくことも大切である。 さらに,総合的な学習の時間の全体計画,年間指導計画,単元計画,実践記録,児 童の作品や作文等の写し,映像記録,参考文献等を整理・保存し,いつでも活用でき るようにしておくことも,研修の推進にとって有効である。このようにして取り組む 校内研修は,教師間の協同性を 高める上でも重要である。 一方,校長は校外で行われる研修会や研究会に積極的に職員を派遣し,その成果を 各学校の実践に役立てる ことが大切である。 また, 近隣の学校同士で実践交流を行い, 互いに学び合う機会を設けるこ とも,実践力の向上に役立つ。 なお, 中央教育審議会の答申では, 総合的な学習の時間の改 善の具体的事項として, 「各学校における総合的な学習の時間の学習活動が一層適切に行われるよう,効果的 な事例の提供やコーディネートの役割を果たす人材の育成,地域の教育力の活用など の支援策の充実を図り,十分な条件整備を行う必要がある」ことを挙げている。教育 委員会等は,所管の教職員の研修効果が一層上がるよう,十分な情報提供をしたり研 修会を開催したりすることが望まれる。 --119/130-- -116- 第3節 年間授業時数の確保と弾力的な授業時数の運用 1 年間授業時数の確保 学習指導要領の第1章総則の第3の3で, 「各教科等のそれぞれの 授業の1単位時 間は,各学校において,各教科等の年間授業時数を確保しつつ,児童の発達の段階及 び各教科等や学習活動の特質を 考慮して適切に定めるも のとする」としている。 年間授業時数を確保しつつとは,学校教育 法施行規則第51条の別表第1に定める授 業時数を確保するという意味である。つまり,総合的な学習の時間においても,1単 位時間を45分とした場合,年間70単位時間の授業時数を確保し,実施することを示し ている。 なお,総合的な学習の時間では,特に,1単位時間や年間を見通した授業時数の弾 力化が必要となる。したがって,授業時数の確保が行われているかどうかを確認する ことが,一層重要となる。そのためにも,年間指導計画に授業時数を明確に示すとと もに, 児童の時間割に総合的な学習の時間 を位置付けることが欠かせない。 さらには, 週単位,月単位,学期単位などに応じて授業時数の確認を行い,年間授業時数が確保 されているかどうかを十分把握 しなければならない。 2 弾力的な単位時間・授業時数の運用 総合的な学習の時間では, 体験活動が重視され学習活 動が多様に展開される。 また, 地域の特色などを生かした学習活動が行われる。児童の学習活動は校外に出てダイナ ミックに行われたり,地域の行事や季節の変化に応じて集中的に行われたりする。し たがって,1単位時間を45分で実施する場合もあれば,60分などに設定する場合もあ る。また,毎週定期的に繰り返される時期もあれば,ある時期に集中的に実施するこ となどもある。この項では,1単位時間の弾力化と年間の授業時数の配当の2点につ いて述べる。 --120/130-- --120/130-- -117- (1)目的に応じた単位時間の弾力化 授業の1単位時間を何分にするかについては,児童の学習についての集中力や持続 力,指導内容のまとまり,学習活動等を考慮して,どの程度が最も効果的かという観 点から決定する必要がある。 授業の1単位時間については,通常の場合は45分が適当であるものの,指導方法の 工夫によって教育効果を高めることができる場合には,各教科等の授業の1単位時間 は,各学年及び各教科等の年間授業時数を確保しつつ,児童の発達段階及び各教科等 や学習活動の特質を考慮して, 各学校において定めるこ とが認められている。 例えば, 実験や観察,調査などにおいては60分で授業を行うなど,学習活動によっては授業時 間の区切り方を変えた方が効果的な場 合もあることを考慮すべきである。 特に,総合的な学習の時間においては,授業の1単位時間を,45分にこだわらず, 弾力的に扱う柔軟な運用が求められる。 (2)1年間を見通した弾 力的な授業時数の運用 学習指導要領の第1章総則の第3の1には, 「各教科,道徳,外国語活動,総合的 な学習の時間及び特別活動(以下「各教科等」という。ただし,1及び3において, 特別活動については学級活動(学校給食に係るものを除く。 )に限る。 )の授業は, 年間35週(第1学年については34週)以上にわたって行うよう計画し,週当たりの授 業時数が児童の負担過重にならないようにするものとする。ただし,各教科等や学習 活動の特質に応じ効果的な場合には,夏季,冬季,学年末等の休業日の期間に授業日 を設定する場合を含め, これらの授業を特定の期 間に行うことができる」 としている。 これは,各教科等の授業を年間35週以上にわたって行うことを原則とするものの,各 学校の創意工夫を生かした時間割や教育課程の編成の観点から,特定の期間に集中し て行った方が効果的な場合もあることを考慮したものである。各学校においては,地 域や学校,児童の実態,各教科等や学習活動の特質に応じた時間割や教育課程の編成 に配慮することを通じて指導方法の工夫や地域の人々の協力や外部の人材の活用など を一層促進することが可 能となると考える。 例えば,総合的な学習の時間では,現地での調査や現場に出かけての見学,地域の --121/130-- -118- 人へのインタビューなどを実施するのにふさわしい時期があり,そうした時期に集中 的に学習活動が行われることが考えられる。また,自然体験活動なども一定の期間に 集中して実施することで学習の成果が上がることが考えられる。さらには,学習活動 の成果発表会なども同様である。 なお,時間割の編成に当たっては,上述したように各教科等の年間授業時数を確保 すること,適切な計画の下に実施する ことなどに留意する必要がある。 3 授業時数に関する留意点 総合的な学習の時間の授業時数を確実に確保し,しかも柔軟に運用していくには次 のようなことに留意する必要がある。 (1)年間指導計画及び単 元計画における授業時数の配当 単元において,どの活動に何時間の授業時数が必要なのかを算出し,年間指導計画 又は単元計画に明示する。長期的な見通しの中で,授業時数を適正に配当しておくこ とがまず第一に必要である。 その際,地域の行事や学校内のイベント,季節や植生の変化などに目を向け,メリ ハリをつけた授業時数の配当に ついて配慮が必要となる。 (2)週単位の適切な実施計画と管理 単元計画を各週の計画に位置付ける。この計画は,基本的には時間割を踏まえるこ とになるが,時期に応じて,学習活動に応じて柔軟に対応することになる。まずは, 計画を立て, 必要な授業時数を割り当 てるとともに, 実際の実施時数を積算しながら, 適切な授業時数の運用になっているか を管理していかなければならない。 (3)学期ごとの見直し 授業時数の管理については,実施しながら日常的に適切かどうかを見直していくも --122/130-- -119- のの,学期末などの大きな節目に実施時数を積算し,学習活動の進展の状況と照らし 合わせることが必要となる。そのことにより,その後の学習活動の展開が変わるから である。 体験活動を重視する総合的な学習の時間は,ややもすると授業時数が不必要に増大 していくことがある。短期的かつ長期的な見通しをもった計画作りと,適切な時数の 管理と学習活動の見直しが必要である。 --123/130-- -120- 第4節 環境整備 横断的・総合的な学習や探究的な学習に児童が意欲的に取り組み,そこでの学習を 深めていくには,学習環境が適切に整えられていなければならない。そこで,この節 では,学校全体で整備しておかなければならない施設・設備等の物的な環境整備の在 り方について要点を述べる。 1 学習空間の確保 総合的な学習の時間では,問題の解決や探究活動の過程で,学級内はもちろん,学 年内,さらには異学年間での学習活動などが展開されることがある。また,ものづく りや発表のための準備な どもよく行われる。 こうした学習活動を行う際,教室以外にも学習活動を行うスペースが確保されてい ると,スムーズに展開しやすい。例えば,多目的スペースなどにミーティングテーブ ルを設置したり移動黒板を用意したりするなど,多様な学習形態に対応できる空間を 確保する工夫が考えられる。校内に余裕教室がある場合などは,学習目的に応じて有 効に活用することが望まれる。 このような学習スペースには,総合的な学習の時間の学習活動の流れ図や写真など を掲示したり児童の作品を展示したりして,学習への関心や意欲を高めることができ る。また,総合的な学習の時間に活用する教材や資料,実物や模型,写真などを展示 し,いつでも児童が活用できるように用意しておくこと,児童の学習活動に必要な道 具や材料を常備しておく ことなども考えられる。 2 学校図書館の整備 学習の中で疑問が生じたとき,身近なところで必要な情報を収集し活用できる環境 を整えておくことは,問題の解決や探究活動に主体的に取り組んだり,学習意欲を高 --124/130-- -121- めたりする上で大切な条件であり,その意味からも学校図書館は読書センターや学習 ・情報センターとしての機能を 担う中核的な施設である。 そのため,学校図書館には,総合的な学習の時間で取り上げるテーマや児童の追究 する課題に対応して,関係図書を豊富に整備する必要がある。学校図書館だけでは蔵 書に限りがあるため,自治体の中には,公立図書館が便宜を図り,学校での学習状況 に応じた図書の拡充を行っているところや,学校が求める図書を定期的に配送するシ ステムをとっているところもある。地域と一体となって学習・情報センターとしての 機能を高めたい。 学校図書館では,児童が必要な図書を見付けやすいように日ごろから図書を整理し たり,コンピュータで蔵書管理したりすることも有効である。図書館担当は,学校図 書館の物的環境の整備を担うだけでなく,参考図書の活用にかかわって児童の相談に 乗ったり必要な情報提供をしたりするなど,児童の学習を支援する上での重要な役割 が期待される。教師は全体計画及び年間指導計画に学校図書館の活用を位置付け,授 業で活用する際にも図書館担当と十分 打合せを行っておく必要がある。 一方,総合的な学習の時間において児童が作成した発表資料や作文集などを,学校 図書館等で蓄積し閲覧できるようにしておくことも,児童が学習の見通しをもつ上で 参考になるだけでなく,優れた実践を学校のよき伝統や校風の一つにしていく上で有 効である。 3 情報環境の整備 コンピュータをはじめとする情報機器は,その有効な活用によって,総合的な学習 の時間における児童の情報検索や情報活用,情報発信の可能性を広げ,学習意欲や学 習効果の向上に役立つ。 コンピュータ等の情報機器が集中してコンピュータ室に配置されている場合には, コンピュータ室を有効に活用できるよう,適切に調整する必要がある。その際,例え ば,2週間単位程度で利用希望調査を行って調整を図るなどして,できる限り児童の 学習状況に応じる工夫もある。また,複数の学級が同時に使えるように,コンピュー --125/130-- -122- タ等を空き教室等に分散配置す る方法も考えられる。 一方,コンピュータ室だけでなく,教室やオープンスペース等にインターネットへ の接続環境を整えておくことで,児童が必要なときに直ちに調査活動に当たることが できる。また,校内にサーバーを設置し,すべてのコンピュータを接続することで, デジタルコンテンツを共有したり,児童が取材した写真やビデオなどを蓄積したりす ることにつながる。 学校によっては,コンピュータ室が日常的に利活用できない状況もあるが,児童が 適切に利用できるよう指導した上で,コンピュータ室を昼休みや放課後等も開放し, 児童が積極的に利用できるようにしておきたい。なお,コンピュータやその他の情報 機器の管理や使用に当たって,係を児童に割り振ったり校内でライセンス制度を設け たりするなどして,自分たちが利用の主役であるという意識をもたせることも有効で ある。 さらに,児童による調査活動の記録のため,デジタルカメラやデジタルビデオカメ ラ, ICレコーダーなどを整備 しておく必要がある。 発表活動を効果的に行うために, 音声や映像の編集,プレゼンテーション等のソフトやプロジェクターなどを整備して おくことも望まれる。また,児童間の情報共有や協同的な学習を促すためには,複数 の児童が同じ画面を見ながらそれぞれのアイディアを記入することができるようなツ ールや他の児童の考えにコメントを付けられるような仕組みを用いることも考えられ る。ワープロや表計算だけでなく,アイディアを視覚的に表したり整理したりできる ようなソフトも有効である。各地の教育センターの中には,ホームページの中に総合 的な学習の時間に活用できる専用サイトを設け,実践に役立てている例もあり,それ らを活用することも有益である。 こうした機器等の物的条件整備のほか,校内研修や地域の教育センター等による研 修を通して, 教師のICT活用指導力を高 めておくことが大切である。 具体的には 「教 員のICT活用指導力のチェックリスト(平成19年3月 教員のICT活用指導力の 基準の具体化・明確化に関する検討会) 」に基づく諸能力を参考に,研修を計画・実 施することが求められる。いずれにしても,教師が情報技術の急速な進展に対応し, 時代に求められる諸能力を身に 付けることが肝要である。 --126/130-- -123- 第5節 外部との連携の構築 1 外部との連携の必要性 総合的な学習の時間では,地域の素材や地域の学習環境を積極的に活用することが 期待されている。それは,横断的・総合的な学習や探究的な学習では,実社会や実生 活の事象や現代社会の課題を取り上げるからである。また,この時間では,多様で幅 広い学習活動が行われることも期待されている。それは,児童一人一人の興味・関心 に応じた学習活動を実現しよう とするからである。 このような学習を実現するためには,保護者や地域の人々,専門家をはじめとした 外部の人々や社会教育施設や社会教育関係団体等の協力が欠かせない。この時間にお いて豊かな学習活動を展開するには,これらの地域の人々の協力を得るとともに,地 域の教育資源などを積極的に活 用することが望まれる。 2 外部連携のための留意点 外部連携に当たっては,一人一人の教師が個別に外部の教育資源を活用することが 大切である。その上で,外部の教育資源を有効に活用するためには,校内に外部連携 のためのシステムが必要である。ここでは,外部連携のためのシステムや外部連携を 適切に行うための配慮事項を記す。 (1)日常的なかかわり 協力的なシステムを構築するためには,日ごろから外部人材などと適切にかかわろ うとする姿勢をもつことが大切である。例えば,地域活動に学校側から積極的に参画 していくなどのかかわり方が大切である。そのことによって信頼関係が築かれ,互い に協力できる態勢ができあがる 。このことが,外部連携 の基盤となっていく。 --127/130-- -124- (2)担当者や組織の設置 外部人材などと連携し,外部の教育資源を適切に活用するためには,校務分掌上に 地域連携部などを設置したり,外部と連携するための窓口となる担当者を置いたりす るなどが考えられる。その上で,地域との連絡協議会などの組織を設置することも考 えられる。 また, 学校を支えてくれる地域の有識者との 協議の場を設ける必要もある。 そのためにも,教頭や教務主任などが地域連携の中心を担うだけでなく,地域連携の ためのコーディネート役の教師 を校内組織に位置付ける ことも考えられる。 (3)教育資源のリスト 学校外の教育資源を活用することに関しては,生活科での経験があり,多くの学校 で生活科マップなどを作成してきた。これまでに培ってきた地域の教育資源の活用の ノウハウを生かして,総合的な学習の時間に協力可能な人材や施設などに関するリス ト(人材・施設バンク)を作成することが考えられる。そのデータを,校内で共有化 し,手軽に,日常的に活用できるように整備しておくことも考えられる。こうしたリ ストを生かして,指導計画などを作成したり,具体的な学習活動を充実させたりして いくことが大切である。 (4)適切な打合せの実施 外部の教育資源を活用して学習活動を行う際には,協力してくれる地域の人々や施 設等の置かれている立場や状況などをしっかり把握しておくことが大切である。場合 によっては,相手に迷惑をかけることなども予想される。連携に当たっては,外部人 材に対して,適切な対応を心がけるとともに,授業のねらいを明確にし,教師と連携 先との役割分担を事前に確認するなど,十分な打合せをする必要がある。加えて,外 部人材と事後の反省をしたり,外部人材から事後の評価を受けたりするなども,その 後の学習活動の充実にと って重要である。 外部から講師を招く際に,例えば,講話内容を任せきりにしてしまうことで,児童 が自分で学びとる余地がないほど詳細に教えてもらうことになってしまったり,内容 が難し過ぎて児童が理解できなくなってしまったりする場合も見られる。外部講師に --128/130-- -125- 依存し過ぎることなく,児童の学習状況に応じて教師が指導するなど,学習活動を構 成する責任者としての役割を果 たさなくてはならない。 (5)学習成果の伝達 学校公開日や学習発表会などの開催を通知したり,学校だよりの配布などをしたり して,保護者や地域の人々に総合的な学習の時間の成果を発表する場と機会を設ける ことも必要である。そのことにより,保護者や地域の人々は,総合的な学習の時間に 関心を示すとともに,連携や協力の成果を実感し,満足感をもつことにもなる。こう した取組は,総合的な学習の時間が児童の成長につながるだけでなく,相手にとって も大きな成果を生む場合がある。例えば,児童の学習活動が町づくりに影響を与えた り,地域環境の保全につながったりする事例である。このように学校と地域との互恵 性が生まれることが,息長く継続的な外部連携を実現することにつながる。このこと は学校を地域に開くことにもつながり,保護者や地域との信頼関係を築く大きな要因 となる。 --129/130-- 小学校学習指導要領解説総合的な学習 の時間編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 大 内 美智子 神奈川県横浜市立立野小学校長 久 野 弘 幸 愛知教育大学准教授 黒 上 晴 夫 関西大学教授 佐 藤 真 兵庫教育大学大学院教授 四ヶ所 清 隆 福岡県教育センター指導主事 嶋 野 道 弘 文教大学大学院教授 奈 須 正 裕 上智大学教授 野 口 徹 東京都町田市立小山田南小学校主幹教諭 原 田 信 之 岐阜大学大学院准教授 無 藤 隆 白梅学園大学教授 村 川 雅 弘 鳴門教育大学大学院教授 なお,文部科学省においては,次の者 が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 宮 崎 活 志 初等中等教育局視学官 森 友 浩 史 初等中等教育局教育課程課学校教育官 田 村 学 初等中等教育局教育課程課教科調査官 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