小学校学習指導要領解説 総則編 平成20年6月 文部科学省 --1/111-- 目次 第1章 総説 …………………………………………………………………… 1 1 改訂の経緯 …………………………………………………………… 1 2 改訂の基本方針 ……………………………………………………… 3 3 改訂の要点 …………………………………………………………… 5 第2章 教育課程の基準 ………………………………………………………10 第1節 教育課程の意義 ……………………………………………………10 第2節 教育課程に関する法制 ……………………………………………12 1 教育課程とその基準 ………………………………………………12 2 教育課程に関する法令 ……………………………………………13 第3章 教育課程の編成及び実施 ……………………………………………16 第1節 教育課程編成の一般方針 …………………………………………16 1 教育課程編成の原則 ………………………………………………16 2 道徳教育 ……………………………………………………………23 3 体育・健康に関する指導 …………………………………………28 第2節 内容等の取扱いに関する共通的事項 ……………………………31 1 各教科等の内容の共通的取扱い …………………………………31 2 複式学級の場合の教育課程編成の特例…………………………34 3 その他の教育課程編成の特例 ……………………………………35 第3節 授業時数等 …………………………………………………………41 1 各教科等の年間授業時数 …………………………………………41 2 年間の授業週数 ……………………………………………………44 3 特別活動の授業時数 ………………………………………………45 4 授業の1単位時間 …………………………………………………46 5 時間割の弾力的な編成 ……………………………………………48 6 年間授業日数 ………………………………………………………49 7 総合的な学習の時間の実施による特別活動の代替 ……………50 第4節 指導計画の作成 ……………………………………………………53 1 各教科等及び各学年相互間の関連………………………………54 2 学年の目標及び内容を2学年まとめて示した教科等の 指導計画 ……………………………………………………………55 3 指導内容のまとめ方や重点の置き方 ……………………………56 4 合科的・関連的な指導 ……………………………………………57 第5節 教育課程実施上の配慮事項………………………………………60 1 児童の言語環境の整備と言語活動の充実 ………………………60 2 体験的・問題解決的な学習及び自主的,自発的な学習 の促進 ………………………………………………………………64 3 学級経営と生徒指導の充実 ………………………………………66 4 見通しを立てたり,振り返ったりする学習活動の重視 ………68 5 課題選択や自己の生き方を考える機会の充実 …………………69 --2/111-- 6 指導方法や指導体制の工夫改善など個に応じた指導 の充実 ………………………………………………………………71 7 障害のある児童の指導 ……………………………………………74 8 海外から帰国した児童や外国人の児童の指導 …………………77 9 情報教育の充実,コンピュータ等や教材・教具の活用 ………78 10 学校図書館の利活用 ………………………………………………81 11 指導の評価と改善 …………………………………………………82 12 家庭や地域社会との連携及び学校相互の連携や交流 …………83 第4章 教育課程編成の手順と評価 …………………………………………86 第1節 教育課程の編成の手順 ……………………………………………86 1 教育課程の編成の手順 ……………………………………………86 2 学校の教育目標の設定 ……………………………………………89 第2節 教育課程の評価 ……………………………………………………91 1 学校評価における教育課程の評価………………………………91 2 教育課程の改善 ……………………………………………………93 (資料) 学習指導要領等の改訂の経過………………………………………95 --3/111-- -1- 第1章 総 説 1 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる 領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時 代であると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイディ アなど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や文 明との共存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確か な学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがま すます重要になっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我 が国の児童生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用す る問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間な どの学習意欲,学習習慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたちの 教育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せて, 国の教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対して 要請があり,同年4月から審議を開始した。この間,教育基本法改正,学校教育法 改正が行われ,知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに,基礎 的・基本的な知識・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し(学校 教育法第30条第2項),学校教育においてはこれらを調和的にはぐくむことが必要 である旨が法律上規定されたところである。中央教育審議会においては,このよう な教育の根本にさかのぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か月にわたる --4/111-- -2- 審議の末,平成20年1月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校 の学習指導要領等の改善について」答申を行った。 この答申においては,上記のような児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 D 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方 向性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切り拓 ひら く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育の新 しい理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新たに 義務教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正された ことを十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては,読み・ 書き・計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学年では 体験的な理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して習得さ せ,学習の基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の上に, Cの思考力・判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの作成, 論述など知識・技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させるととも に,これらの学習活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学校低・ 中学年の国語科において音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着させた 上で,各教科等において,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り組む必 要があると指摘した。また,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 については,徳育や体育の充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能力の重 視や体験活動の充実により,他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これらとと --5/111-- -3- もに生きる自分への自信をもたせる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学校教育法施行規則を改正するとともに, 幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小学校 学習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心に内容 を前倒しして実施するとともに,平成23年4月1日から全面実施することとしてい る。 2 改訂の基本方針 今回の改訂は,教育基本法や学校教育法等の規定にのっとり,前述の中央教育審 議会答申を踏まえ,次の方針に基づき行った。 @ 教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成する こと。 平成8年7月の中央教育審議会答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り 方について」)は,変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力は,基礎・基 本を確実に身に付け,いかに社会が変化しようと,自ら課題を見つけ,自ら学び, 自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力,自ら を律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心などの豊かな 人間性,たくましく生きるための健康や体力などの「生きる力」であると提言し た。今回の改訂においては,生きる力という理念は,知識基盤社会の時代におい てますます重要となっていることから,これを継承し,生きる力を支える確かな 学力,豊かな心,健やかな体の調和のとれた育成を重視している。 このため,総則の「教育課程編成の一般方針」として,引き続き「各学校にお いて,児童に生きる力をはぐくむことを目指」すこととし,児童の発達の段階を 考慮しつつ,知・徳・体の調和のとれた育成を重視することが示された。 また,教育基本法改正により,教育の理念として,新たに,公共の精神を尊ぶ こと,環境の保全に寄与すること,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんでき --6/111-- -4- た我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与 することが規定されたことなどを踏まえ,内容の充実を行った。 A 知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視するこ と。 確かな学力を育成するためには,基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得さ せること,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現 力その他の能力をはぐくむことの双方が重要であり,これらのバランスを重視す る必要がある。 このため,各教科において基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視するとと もに,観察・実験やレポートの作成,論述など知識・技能の活用を図る学習活動 を充実すること,さらに総合的な学習の時間を中心として行われる,教科等の枠 を超えた横断的・総合的な課題について各教科等で習得した知識・技能を相互に 関連付けながら解決するといった探究活動の質的な充実を図ることなどにより思 考力・判断力・表現力等を育成することとしている。また,これらの学習を通じ て,その基盤となるのは言語に関する能力であり,国語科のみならず,各教科等 においてその育成を重視している。さらに,学習意欲を向上させ,主体的に学習 に取り組む態度を養うとともに,家庭との連携を図りながら,学習習慣を確立す ることを重視している。 以上のような観点から,国語,社会,算数及び理科の授業時数を増加するとと もに,高学年に外国語活動を新設した。 B 道徳教育や体育などの充実により,豊かな心や健やかな体を育成すること。 豊かな心や健やかな体を育成することについては,家庭や地域の実態(教育力 の低下)を踏まえ,学校における道徳教育や体育などの充実を重視している。 このため,道徳教育については,道徳の時間を 要 として学校の教育活動全体 かなめ を通じて行うものであることを明確化した上で,発達の段階に応じた指導内容の 重点化や体験活動の推進,道徳教育推進教師(道徳教育の推進を主に担当する教 --7/111-- -5- 師)を中心に全教師が協力して道徳教育を展開することの明確化,先人の伝記, 自然,伝統と文化,スポーツなど児童が感動を覚える教材の開発と活用などによ り充実することを示している。また,体育については,児童が自ら進んで運動に 親しむ資質や能力を身に付け,心身を鍛えることができるようにすることが大切 であることから,低・中学年において授業時数を増加し,生涯にわたって運動や スポーツを豊かに実践していくことと体力の向上に関する指導の充実を図るとと もに,心身の健康の保持増進に関する指導に加え,学校における食育の推進や安 全に関する指導を総則に新たに規定するなどの改善を行った。 3 改訂の要点 (1) 学校教育法施行規則改正の要点 学校教育法施行規則では,教育課程編成の基本的な要素である各教科等の種類 や授業時数,合科的な指導等について規定している。今回は,これらの規定につ いて次のような改正を行った。 ア 外国語を通じて,児童が積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を 育成し,言語・文化に対する理解を深めるために,小学校第5・6学年に「外 国語活動」を新設することとした。このため,学校教育法施行規則第50条にお いては,従前は「小学校の教育課程は,国語,社会,算数,理科,生活,音楽, 図画工作,家庭及び体育の各教科,道徳,特別活動並びに総合的な学習の時間 によつて編成するものとする。」と規定していたが,今回の改正においては,こ れらに外国語活動を加えて編成することとした。 イ 各学年の年間総授業時数については,従来よりも,第1学年にあっては年間6 8単位時間,第2学年にあっては70単位時間,第3学年から第6学年にあっては 35単位時間増加することとした。また,各学年の各教科,道徳,外国語活動, 総合的な学習の時間及び特別活動ごとの授業時数については,各教科における 基礎的・基本的な知識・技能の習得やそれらの活用を図る学習活動を充実する 観点から,国語,算数,理科等の授業時数を増加する一方,総合的な学習の時 --8/111-- -6- 間についてはその授業時数を縮減した。 ウ 構造改革特別区域研究開発学校設置事業(いわゆる「特区研発」)は,構造改 革特別区域制度の一つとして,平成15年度から,内閣総理大臣の認定により, 新たな教科の創設など学習指導要領によらない教育課程の編成・実施が可能と なる仕組みとして開始された。今回の学校教育法施行規則の改正においては,「構 造改革特別区域基本方針」(平成18年4月)を踏まえ,同様の特例措置を内閣総 理大臣が認定する手続きを経なくても文部科学大臣の指定により実施すること を可能にしたものである(学校教育法施行規則第55条の2)。 なお,あらかじめ文部科学省が示した研究課題等を踏まえて申請を行った学校 について,文部科学大臣が学習指導要領によらない教育課程の編成・実施を認め, その実践研究を通して学習指導要領等の改善に資する実証的資料を得るための仕 組みとして,昭和51年度から開始されている「研究開発学校制度」(学校教育法 施行規則第55条)は,引き続き継続し,その活用を図ることとしている。 (2)「総則」の改善の要点 総則については,今回の改訂の趣旨が教育課程の編成や実施に生かされるよう にする観点から改善を行った。また,これまで総則に規定してきた「総合的な学 習の時間」は第5章として規定することとしたので,「教育課程編成の一般方針」, 「内容等の取扱いに関する共通的事項」,「授業時数等の取扱い」及び「指導計画 の作成等に当たって配慮すべき事項」の四本の柱を立てて構成することとした。 ア 教育課程編成の一般方針 教育課程編成の原則,道徳教育及び体育・健康に関する指導の三本柱の構成 は従前どおりとし,今回の改訂の趣旨を生かす観点から,次のような改善を行 った。 (ア) 今回の改訂の趣旨が生かされるよう,各学校において,児童に生きる力を はぐくむことを目指し,基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ,これ らを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能 力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養うことに努めること --9/111-- -7- とした。また,その際,児童の発達の段階を考慮して,児童の言語活動を充実 するとともに,家庭との連携を図りながら,児童の学習習慣が確立するよう配 慮しなければならないこととした。 (イ) 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の重要性を強調し,その一層の 充実を図るため,引き続き道徳教育の全体の目標を総則において掲げることと し,次の三点の改善を図った。第一に,道徳教育は,道徳の時間を 要 として かなめ 学校の教育活動全体を通じて,児童の発達の段階を考慮して行うものであるこ とを明確にした。第二に,改正教育基本法を踏まえ,道徳教育の目標として, 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し,公共の精 神を尊び,他国を尊重し国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献する主体性 ある日本人を育成することを追加した。第三に,小学校段階の道徳教育におい ては,発達の段階を踏まえ,道徳性の育成に資する体験活動として集団宿泊活 動を追加するとともに,特に児童が基本的な生活習慣,社会生活上のきまりを 身に付け,善悪を判断し,人間としてしてはならないことをしないようにする ことなどを重視することとした。 (ウ) 体育・健康に関する指導については,新たに学校における食育の推進及び 安全に関する指導を加え,発達の段階を考慮して,食育の推進並びに体力の向 上に関する指導,安全に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導を, 体育科の時間はもとより,家庭科,特別活動などにおいてもそれぞれの特質に 応じて適切に行うよう努めることとした。 イ 内容等の取扱いに関する共通的事項 第5・6学年に外国語活動を新設したことに伴い,関連する規定に外国語活 動を追加した。 ウ 授業時数等の取扱い 年間授業週数については,35週(第1学年については34週)以上にわたって 行うよう計画するとの規定は現行どおりとするが,夏季,冬季,学年末等の休 業日の期間に授業日を設定する場合を含め,各教科等の授業を特定の期間に行 うことができることをより明確に示した。また,各学校においては,地域や学 --10/111-- --10/111-- -8- 校及び児童の実態,各教科等や学習活動の特質等に応じて,創意工夫を生かし た時間割を弾力的に編成できることを示した。 これらは,各学校が創意工夫を生かした時間割を編成することができるよう, 授業時数の運用の一層の弾力化を図ったものである。 また,総合的な学習の時間において体験活動を行う場合であって,当該学習 活動により特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待でき る場合においては,総合的な学習の時間における学習活動をもって相当する特 別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えることができる旨規定した。 エ 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項 今回の改訂の趣旨が実際の指導において生かされるようにするため,指導計 画の作成や教育課程の実施における配慮事項を示した。 @ 児童の言語活動の充実 今回の改訂においては,言語活動の充実を重視している。このため,配慮事 項として,各教科等の指導に当たっては,児童の思考力・判断力・表現力等を はぐくむ観点から,基礎的・基本的な知識・技能の活用を図る学習活動を重視 するとともに,言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語活動の充実が必 要であることを示した。 A 見通しを立てたり,振り返ったりする学習活動の重視 各教科等の指導に当たっては,児童が学習の見通しを立てたり学習したこ とを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるように工夫することを示し た。 B 障害のある児童の指導 障害のある児童などについては,特別支援学校等の助言又は援助を活用しつ つ,例えば指導についての計画又は家庭や医療,福祉等の業務を行う関係機関 と連携した支援のための計画を個別に作成することなどにより,個々の児童の 障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと が重要であることを示した。また,障害のある幼児児童生徒との交流及び共同 学習の機会を設けることを規定した。 --11/111-- -9- C 情報教育の充実 小学校における各教科等の指導に当たっては,コンピュータで文字を入力す るなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにする ための学習活動を充実することを示した。 --12/111-- -10- 第2章 教育課程の基準 第1節 教育課程の意義 教育課程の意義については,様々なとらえ方があるが,学校において編成する教育 課程とは,学校教育の目的や目標を達成するために,教育の内容を児童の心身の発達 に応じ,授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であると言うこ とができる。 学校において編成する教育課程をこのようにとらえた場合,学校の教育目標の設定, 指導内容の組織及び授業時数の配当が教育課程の編成の基本的な要素になってくる。 学校教育の目的や目標は教育基本法及び学校教育法に示されている。まず,教育基 本法においては,教育の目的(第1条)及び目標(第2条)が定められているととも に,義務教育の目的(第5条第2項)や学校教育の基本的役割(第6条第2項)が定 められている。これらの規定を踏まえ,学校教育法においては,義務教育の目標(第 21条)や小学校の目的(第29条)及び目標(第30条)に関する規定がそれぞれ置かれ ている。したがって,各学校において学校の教育目標を設定するに当たっては,法律 で定められている教育の目的や目標などを基盤としながら,地域や学校の実態に即し た教育目標を設定する必要がある。 各学校における具体的な指導内容については,これらの規定を踏まえ,学校教育法 施行規則及び小学校学習指導要領に各教科等の種類やそれぞれの目標,指導内容等に ついての基準を示している。すなわち,学校教育法施行規則においては,教育課程は, 国語,社会,算数,理科,生活,音楽,図画工作,家庭及び体育の各教科,道徳,外 国語活動,総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成することとしている。ま た,学習指導要領においては,各教科等の指導内容を学年段階に即して示している。 各学校においては,これらの基準に従うとともに地域や学校の実態及び児童の心身の 発達の段階と特性を考慮して指導内容を組織する必要がある。 授業時数は,教育の内容との関連において定められるべきものであるが,学校教育 は一定の時間内において行わなければならないので,その配当は教育課程の編成上重 --13/111-- -11- 要な要素になってくる。授業時数については,学校教育法施行規則に各教科等の標準 授業時数を定めているので,各学校はそれを踏まえ授業時数を定めなければならない。 以上のことを要約すれば,学校において編成する教育課程は,教育基本法や学校教 育法をはじめとする教育課程に関する法令に従い,各教科,道徳,外国語活動,総合 的な学習の時間及び特別活動についてそれらの目標やねらいを実現するよう教育の内 容を学年に応じ,授業時数との関連において総合的に組織した各学校の教育計画であ る。 --14/111-- -12- 第2節 教育課程に関する法制 1 教育課程とその基準 学校教育が組織的,継続的に実施されるためには,学校教育の目的や目標を設定 し,その達成を図るための教育課程が編成されなければならない。 小学校は義務教育であり,また,公の性質を有する(教育基本法第6条第1項) ものであるから,全国的に一定の教育水準を確保し,全国どこにおいても同水準の 教育を受けることのできる機会を国民に保障することが要請される。このため,小 学校教育の目的や目標を達成するために学校において編成,実施される教育課程に ついて,国として一定の基準を設けて,ある限度において国全体としての統一性を 保つことが必要となる。 一方,教育は,その本質からして地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階 や特性に応じて効果的に行われることが大切であり,また,各学校において教育活 動を効果的に展開するためには,学校や教師の創意工夫に負うところが大きい。 このような観点から,今回の小学校学習指導要領の改訂においては引き続き各学 校が一層創意工夫を生かし特色ある教育活動を進めることができるようにしてい る。例えば,学習指導要領に示している内容は,すべての児童に対して確実に指導 しなければならないものであると同時に,個に応じた指導を充実する観点から,児 童の学習状況などその実態等に応じて,学習指導要領に示していない内容を加えて 指導することも可能である点(学習指導要領の「基準性」)は前回の学習指導要領 と同様である。また,教科の特質に応じ目標や内容を複数学年まとめて示したり, 授業の1単位時間や授業時数の弾力的な運用を可能としたりしているほか,総合的 な学習の時間における各学校の創意工夫を重視しているといった点に変更はない。 したがって,各学校においては,国として統一性を保つために必要な限度で定め られた基準に従いながら,創意工夫を加えて,地域や学校及び児童の実態に即した 教育課程を責任をもって編成,実施することが必要である。 また,教育委員会は,それらの学校の主体的な取組を支援していくことに重点を --15/111-- -13- 置くことが大切である。 2 教育課程に関する法令 我が国の学校制度は,日本国憲法の精神にのっとり,学校教育の目的や目標及び 教育課程について,法令で種々の定めがなされている。 (1) 教育基本法 教育の目的(第1条),教育の目標(第2条),生涯学習の理念(第3条),教育 の機会均等(第4条),義務教育(第5条),学校教育(第6条),私立学校(第8 条),教員(第9条),幼児期の教育(第11条),学校,家庭及び地域住民等の相互 の連携協力(第13条),政治教育(第14条),宗教教育(第15条),教育行政(第16 条),教育振興基本計画(第17条)などについて定められている。 (2) 学校教育法,学校教育法施行規則 学校教育法では,教育基本法において教育の目的及び目標並びに義務教育の目 的が規定されたことを踏まえ,義務教育の目標が10号にわたって規定された(第2 1条)。その上で,小学校の目的について「心身の発達に応じて,義務教育として 行われる普通教育のうち基礎的なものを施す」(第29条)とするとともに,小学校 教育の目標として,小学校の「目的を実現するために必要な程度において第21条 各号に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。」(第30条第1項)と定め られている。また,同条第2項は,「前項の場合においては,生涯にわたり学習す る基盤が培われるよう,基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これらを 活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をは ぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければなら ない。」と規定している。さらに,これらの規定に従い,文部科学大臣が小学校の 教育課程の基準を定めることになっている(第33条)。 なお,教育基本法第2条(教育の目標),学校教育法第21条(義務教育の目標) 及び第30条(小学校教育の目標)は,いずれも「目標を達成するよう行われるも のとする。」と規定している。これらは,児童が目標を達成することを義務付ける --16/111-- -14- ものではないが,教育を行う者は「目標を達成するよう」に教育を行う必要があ ることに留意する必要がある。 この学校教育法の規定に基づいて,文部科学大臣は,学校教育法施行規則にお いて,小学校の教育課程に関するいくつかの基準を定めている。すなわち,小学 校の教育課程は,国語,社会,算数,理科,生活,音楽,図画工作,家庭及び体 育の各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間並びに特別活動によって編 成すること(第50条第1項)や,各学年における各教科,道徳,外国語活動,総 合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの年間の標準授業時数並びに各学年に おける年間の標準総授業時数(第51条の別表第1)などを定めている。これらの 定めのほか,小学校の教育課程については,教育課程の基準として文部科学大臣 が別に公示する小学校学習指導要領によらなければならないこと(第52条)を定 めている。 (3) 学習指導要領 学校教育法第33条及び学校教育法施行規則第52条の規定に基づいて,文部科学 大臣は小学校学習指導要領を告示という形式で定めている。このように学習指導 要領は,小学校教育について一定の水準を確保するために法令に基づいて国が定 めた教育課程の基準であるので,各学校の教育課程の編成及び実施に当たっては, これに従わなければならないものである。 なお,前述のとおり,学習指導要領の「基準性」は前回の学習指導要領と同様 である。また,教科の特質に応じ目標や内容を複数学年まとめて示したり,授業 の1単位時間や授業時数の弾力的な運用を可能としたりするとともに,総合的な 学習の時間における各学校の創意工夫を重視しているといった点に変更はない。 さらに,全体としては従前と同様に,学習指導要領に示す教科等の目標,内容等 は中核的な事項にとどめており,大綱的なものとなっているので,学校や教師の 創意工夫を加えた学習指導が十分展開できるようになっている。 (4) 地方教育行政の組織及び運営に関する法律 公立の小学校においては,以上のほか,地方教育行政の組織及び運営に関する 法律による定めがある。すなわち,教育委員会は,学校の教育課程に関する事務 --17/111-- -15- を管理,執行し(第23条第5号),法令又は条例に違反しない限度において教育課 程について必要な教育委員会規則を定めるものとする(第33条第1項)とされて いる。この規定に基づいて,教育委員会が教育課程について規則などを設けてい る場合には,学校はそれに従って教育課程を編成しなければならない。 なお,私立の小学校については,学校教育法(第44条)及び私立学校法(第4 条)の規定により,都道府県知事が所轄庁であり,教育課程を改める際には都道 府県知事に対して学則変更の届出を行うこととなっている(学校教育法施行令第2 7条の2)。また,平成19年6月に公布された地方教育行政の組織及び運営に関す る法律の一部改正により,都道府県知事が私立学校に関する事務を管理,執行す るに当たり,必要と認めるときは,当該都道府県教育委員会に対し,学校教育に 関する専門的事項について助言又は援助を求めることができることとなった(第2 7条の2)。 各学校においては,以上の法体系の全体を理解して適切な教育課程を編成する 必要がある。 --18/111-- -16- 第3章 教育課程の編成及び実施 学習指導要領第1章総則においては,教育課程の編成,実施について各教科等にわ たる通則的事項を示している。したがって,各学校においては,総則に示されている 事項に従い,創意工夫を加えて教育課程を編成し,実施する必要がある。 第1節 教育課程編成の一般方針 学習指導要領第1章総則の第1の教育課程編成の一般方針においては,教育課程編 成の基本的な仕組みを示すとともに,教育課程の編成において特に配慮する必要のあ る事項について示している。 1 教育課程編成の原則(第1章第1の1) 1 各学校においては,教育基本法及び学校教育法その他の法令並 びにこの章以下に示すところに従い,児童の人間として調和のとれ た育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や 特性を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これら に掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。 学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童に 生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教 育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習 得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判 断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取 り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならな い。その際,児童の発達の段階を考慮して,児童の言語活動を充実 するとともに,家庭との連携を図りながら,児童の学習習慣が確立 するよう配慮しなければならない。 (1) 教育課程の編成の主体 教育課程の編成主体については,学習指導要領第1章総則第1の1において「各 --19/111-- -17- 学校においては,・・・・適切な教育課程を編成するものとし」と示している。今 回の改訂においても,「創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する」ことが 示され,教育課程編成における学校の主体性を発揮する必要性が引き続き強調さ れている。 学校において教育課程を編成するということは,学校教育法第37条第4項にお いて「校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。」と規定されていること から,学校の長たる校長が責任者となって編成するということである。これは権 限と責任の所在を示したものであり,学校は組織体であるから,教育課程の編成 作業は,当然ながら全教職員の協力の下に行わなければならない。「総合的な学習 の時間」をはじめとして,創意工夫を生かした教育課程を各学校で編成すること が求められており,学級や学年の枠を超えて教師同士が連携協力することがます ます重要となっている。 各学校には,校長,教頭のほかに教務主任をはじめとして各主任等が置かれ, それらの担当者を中心として全教職員がそれぞれ校務を分担処理している。各学 校の教育課程は,これらの学校の運営組織を生かし,各教職員がそれぞれの分担 に応じて十分研究を重ねるとともに教育課程全体のバランスに配慮しながら,創 意工夫を加えて編成することが大切である。また,校長は,学校全体の責任者と して指導性を発揮し,家庭や地域社会との連携を図りつつ,学校として統一のあ るしかも一貫性をもった教育課程の編成を行うように努めることが必要である。 なお,今回の改訂において,「各学校においては,・・・・適切な教育課程を編 成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。」と の記述が追加された。これは,前述のとおり,教育基本法第2条(教育の目標), 学校教育法第21条(義務教育の目標)及び第30条(小学校教育の目標)は,いず れも「目標を達成するよう行われるものとする。」と規定していることを踏まえた ものである。本項においても,「目標を達成するよう」という規定振りであること から,教育基本法第2条と同様,児童が目標を達成することを義務付けるもので はないが,今回の改訂により,各学校は,教育基本法,学校教育法及び学習指導 要領に掲げる目標を達成するよう教育を行う必要があることが明確になった。 --20/111-- --20/111-- -18- (2) 教育課程の編成の原則 ア 教育基本法及び学校教育法その他の法令並びに学習指導要領の示すところに 従うこと 学校において編成される教育課程については,公教育の立場から教育基本法 及び学校教育法その他の法令により種々の定めがなされているので,これらの 法令に従って編成しなければならない。 学習指導要領第1章総則第1の1において,「各学校においては,教育基本法 及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い,・・・・適 切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を 行うものとする。」と示している。 この「教育基本法及び学校教育法その他の法令」とは,第2章第2節「教育 課程に関する法制」で説明したとおり,教育基本法,学校教育法,学校教育法 施行規則,地方教育行政の組織及び運営に関する法律等である。 なお,学校における政治教育及び宗教教育については,教育基本法に次のよ うに規定されているので,各学校において教育課程を編成,実施する場合にも 当然これらの規定に従わなければならない。 (政治教育) 第14条 良識ある公民として必要な政治的教養は,教育上尊重されなければ ならない。 2 法律に定める学校は,特定の政党を支持し,又はこれに反対するための 政治教育その他政治的活動をしてはならない。 (宗教教育) 第15条 宗教に関する寛容の態度,宗教に関する一般的な教養及び宗教の社 会生活における地位は,教育上尊重されなければならない。 2 国及び地方公共団体が設置する学校は,特定の宗教のための宗教教育そ の他宗教的活動をしてはならない。 次に,「この章以下に示すところ」とは,言うまでもなく学習指導要領を指し --21/111-- -19- ている。 学習指導要領は,学校教育法第33条を受けた学校教育法施行規則第52条にお いて「小学校の教育課程については,この節に定めるもののほか,教育課程の 基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとす る。」と示しているように,法令上の根拠に基づいて定められているものである。 したがって,学習指導要領は,国が定めた教育課程の基準であり,各学校にお ける教育課程の編成及び実施に当たって基準として従わなければならないもの である。 教育課程は,地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や特性を考慮し, 教師の創意工夫を加えて学校が編成するものである。教育課程の基準もその点 に配慮して定められているので,教育課程の編成に当たっては,法令や学習指 導要領の内容について十分理解するとともに創意工夫を加え,学校の特色を生 かした教育課程を編成することが大切である。 イ 児童の人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の 心身の発達の段階と特性を十分考慮すること 学習指導要領第1章総則第1の1においては「各学校においては,・・・・児 童の人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の心身 の発達の段階や特性を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,こ れらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。」と示している。 「児童の人間として調和のとれた育成を目指」すということは,まさに学校 教育の目的そのものであって,教育課程の編成もそれを目指して行わなければ ならない。特に今回の改訂においては,教育基本法に義務教育の目的(第5条 第2項),学校教育法に義務教育の目標(第21条)がそれぞれ規定されたことを 踏まえ,義務教育9年間を見通して,発達の段階に応じた小学校教育と中学校 教育の連続性の確保を重視していることに留意する必要がある。 次に,地域や学校の実態を考慮するということは,各学校において教育課程 を編成する場合には,地域や学校の実態を的確に把握し,児童の人間として調 和のとれた発達を図るという観点から,それを学校の教育目標の設定,指導内 --22/111-- -20- 容の組織あるいは授業時数の配当などに十分反映させる必要があるということ である。 (ア) 地域の実態 今回の教育基本法改正により,同法に「学校,家庭及び地域住民その他の関 係者は,教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに,相互の連携 及び協力に努めるものとする。」との規定(第13条)が置かれた。また,学校 教育法には,「小学校は,当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関 係者の理解を深めるとともに,これらの者との連携及び協力の推進に資するた め,当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提 供するものとする。」と定められた(第43条)。これらの規定が示すとおり,学 校は地域社会を離れては存在し得ないものであり,児童は家庭や地域社会で 様々な経験を重ねて成長している。 地域には,都市,農村,山村,漁村など生活条件や環境の違いがあり,産業, 経済,文化等にそれぞれ特色をもっている。このような学校を取り巻く地域社 会の実情を十分考慮して教育課程を編成することが大切である。とりわけ,学 校の教育目標や指導内容の選択に当たっては,地域の実態を考慮することが大 切である。そのためには,地域社会の現状はもちろんのこと,歴史的な経緯や 将来への展望など,広く社会の変化に注目しながら地域社会の実態を十分分析 し検討して的確に把握することが必要である。また,地域の教育資源や学習環 境(近隣の学校,社会教育施設,児童の学習に協力することのできる人材等) の実態を考慮し,教育活動を計画することが必要である。 なお,学校における教育活動が学校の教育目標に沿って一層効果的に展開さ れるためには,家庭や地域社会と学校との連携を密にすることが必要である。 すなわち,学校の教育方針や特色ある教育活動の取組,児童の状況などを家庭 や地域社会に説明し,理解を求め協力を得ること,学校が家庭や地域社会から の要望に応えることが大切であり,このような観点から,その積極的な連携を 図り,相互の意思の疎通を図って,それを教育課程の編成,実施に生かしてい くことが大切である。 --23/111-- -21- (イ) 学校の実態 学校規模,教職員の状況,施設設備の状況,児童の実態などの人的,物的条 件の実態は学校によって異なっている。 教育課程の編成に際しては,このような学校のもつ条件が密接に関連してく るので,効率的な教育活動を実施するためには,これらの条件を十分考慮する ことが大切である。そのためには,これらの条件を客観的に把握しなければな らないが,特に,児童の特性や教職員の構成,教師の指導力,教材・教具の整 備状況,地域住民による協力体制の整備状況などについて分析し,教育課程の 編成に生かすことが必要である。 (ウ) 児童の心身の発達の段階や特性 これは,各学校において教育課程を編成する場合には,児童の調和のとれた 発達を図るという観点から,児童の心身の発達の段階と特性を十分把握して, これを教育課程の編成に反映させることが必要であるということを強調したも のである。 児童は,6歳から12歳という心身の成長の著しい時期を小学校に在学してお り,また,児童はそれぞれ能力・適性,興味・関心,性格等が異なっている。 学校においては,児童の発達の過程などを的確にとらえるとともに,その学校 あるいは学年などの児童の特性や問題点について十分配慮して,適切な教育課 程を編成することが必要である。 以上,教育課程の編成の原則を述べてきたが,校長を中心として全教職員が 共通理解を図りながら,学校として統一のあるしかも特色をもった教育課程を 編成することが望まれる。 (3) 生きる力をはぐくむ各学校の特色ある教育活動の展開 学習指導要領第1章総則第1の1の後段に「学校の教育活動を進めるに当たっ ては,各学校において,児童に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生 かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎的・基本的な知識及び技能を確実 に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表 現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個 --24/111-- -22- 性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際,児童の発達の段階を考 慮して,児童の言語活動を充実するとともに,家庭との連携を図りながら,児童 の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。」ことを示している。「生き る力」とは,平成8年7月の中央教育審議会答申において,基礎・基本を確実に 身に付け,いかに社会が変化しようと,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力,自らを律しつつ, 他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性,たく ましく生きるための健康や体力などであると指摘されている。今回の改訂におい ても,「児童に生きる力をはぐくむことを目指」すと規定しているのは,@新しい 知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基 盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時代の中で,確か な学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する生きる力をはぐくむことがます ます重要になっていることや,A改正教育基本法や同法を受けて改正された学校 教育法において,知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号),基礎的・基 本的な知識・技能,思考力・判断力・表現力等,学習意欲(学校教育法第30条第 2項)が重視される必要がある旨が法律上規定されたことを受けたものである。 このため,これからの学校教育においては,平成20年1月の中央教育審議会答 申でも指摘されているように,@基礎的・基本的な知識・技能の習得,A思考力・ 判断力・表現力等の育成,B学習意欲の向上や学習習慣の確立,C豊かな心や健 やかな体の育成のための指導の充実をバランスよく図ることが求められている。 総則第1の1の後段は,このような今回の学習指導要領の改訂の基本方針を教育 課程編成,実施の理念として示したものである。 すなわち,@及びAについては,各教科では,基礎的・基本的な知識・技能を 習得しつつ,観察・実験をし,その結果をもとにレポートを作成する,文章や資 料を読んだ上で,知識や経験に照らして自分の考えをまとめて論述するといった それぞれの教科の知識・技能の活用を図る学習活動を行い,それを総合的な学習 の時間を中心に行われている教科等を横断した課題解決的な学習や探究活動へと 発展させることが重要である。これらの学習活動は相互に関連し合っており,截 せつ --25/111-- -23- 然と分類できるものではなく,知識・技能の活用を図る学習活動や総合的な学習 の時間を中心とした探究活動を通して,思考力・判断力・表現力等がはぐくまれ るとともに,知識・技能の活用を図る学習活動や探究活動が知識・技能の習得を 促進するなど,実際の学習の過程としては,決して一つの方向で進むだけではな いことに留意する必要がある。 Bについては,個別指導やグループ別指導,繰り返し指導,学習内容の習熟の 程度に応じた指導など個に応じた指導の充実により分かる喜びを実感したり,観 察・実験やレポートの作成,論述などの体験的な学習や知識・技能の活用を図る 学習活動,職業や自己の将来に関する学習などを通し学ぶ意義を認識したりする ことで学習意欲を高めることが求められる。また,特に,低・中学年において学 習習慣を確立することは極めて重要であり,家庭との連携を図りながら,宿題や 予習・復習など家庭での学習課題を適切に課すなど家庭学習も視野に入れた指導 を行う必要がある。 Cについては,「第1 教育課程編成の一般方針」の2で道徳教育について,3 で体育・健康に関する指導についてそれぞれ示している。 以上のことは創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開することにより,効果 的に実現されるものである。各学校においては,これらの趣旨を十分理解し,教 育課程の編成,実施に生かすようにしなければならない。 2 道徳教育(第1章第1の2) 2 学校における道徳教育は,道徳の時間を 要 として学校の教育活 かなめ 動全体を通じて行うものであり,道徳の時間はもとより,各教科, 外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に 応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければ ならない。 道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本 精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学 い 校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をも ち,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を --26/111-- -24- 愛し,個性豊かな文化の創造を図るとともに,公共の精神を尊び, 民主的な社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し,国際社会の平 和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育 ひら 成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。 道徳教育を進めるに当たっては,教師と児童及び児童相互の人間 関係を深めるとともに,児童が自己の生き方についての考えを深め, 家庭や地域社会との連携を図りながら,集団宿泊活動やボランティ ア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して児童の内面に根ざ した道徳性の育成が図られるよう配慮しなければならない。その際, 特に児童が基本的な生活習慣,社会生活上のきまりを身に付け,善 悪を判断し,人間としてしてはならないことをしないようにするこ となどに配慮しなければならない。 (1) 道徳教育の目標 道徳教育は,豊かな心をもち,人間としての生き方の自覚を促し,道徳性を育 成することをねらいとする教育活動であり,社会の変化に主体的に対応して生き ていくことができる人間を育成する上で重要な役割をもっている。今日の家庭や 地域社会及び学校における道徳教育の現状や児童の実態などからみて,さらに充 実を図ることが強く要請されている。 学校における道徳教育の目標は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育 の根本精神に基づき,今日的課題を加味して設定されたものである。 道徳教育の目標は,学習指導要領第1章総則第1の2の中段で次のように示し ている。 「道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基 づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会にお い ける具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を尊重し,それ らをはぐくんできた我が国と郷土を愛し,個性豊かな文化の創造を図るととも に,公共の精神を尊び,民主的な社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し, 国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を ひら 育成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。」 --27/111-- -25- 総則に示されている目標のうち,「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんでき た我が国と郷土を愛」すること,「公共の精神を尊」ぶこと,「他国を尊重」する こと,「環境の保全に貢献」することについては,改正教育基本法により新たに規 定された理念を踏まえ記述を加えたものである。 道徳教育の目標として盛り込まれている環境の保全などの理念は,地球的視野 で考え,様々な課題を自らの問題としてとらえ,身近なところから取り組み,社 会の持続可能な発展の担い手として個人を育成することにつながるものであり, その点にも留意して指導が行われることが重要である。 さらに,道徳教育の目標として,学習指導要領第3章道徳の第1目標の前段に, 「道徳教育の目標は,第1章総則の第1の2に示すところにより,学校の教育活 動全体を通じて,道徳的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこ ととする。」と示している。 これは,学校の全教育活動を通じて行う道徳教育の目標であり,道徳教育の 要 かなめ の時間である道徳の時間の目標もこれに基づくとともに,各教科や外国語活動, 総合的な学習の時間及び特別活動などの指導を通じて行う道徳教育も,常にこの 目標の実現を目指して行われなければならない。 つまり,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動が,そ れぞれ固有の目標やねらいの実現を目指しながら,それぞれの特質に応じて適時 適切な指導を行い道徳性の育成を図るようにすることが大切であり,今回の改訂 においては,この点を明確にする観点から,すべての教科等において,「第1章総 則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき,道徳の時間 などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容について,当該教科 等の特質に応じて適切な指導をすること。」との規定を置いた。 (2) 道徳の時間の意義 このような道徳教育の目標を実現するため,学習指導要領第1章総則第1の2 の前段において,「学校における道徳教育は,道徳の時間を 要 として学校の教育 かなめ 活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間はもとより,各教科,外国語活動, 総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階 --28/111-- -26- を考慮して,適切な指導を行わなければならない。」と示している。 道徳の時間の目標は,学習指導要領第3章道徳第1目標の後段に,「道徳の時間 においては,以上の道徳教育の目標に基づき,各教科,外国語活動,総合的な学 習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,計画的,発 展的な指導によってこれを補充,深化,統合し,道徳的価値の自覚及び自己の生 き方についての考えを深め,道徳的実践力を育成するものとする。」と示している。 道徳の時間は,学校における道徳教育のいわば扇の 要 となる重要な時間である かなめ が,道徳の時間のみで道徳教育のすべてが行われるものではない。学校の教育活 動全体を通じてそれぞれの教育活動の特質に応じて行われる道徳教育と,それら を補充,深化,統合する道徳の時間とがうまく機能することによって,その効果 が期待できる。したがって,道徳教育の目標がより効果的に実現されるには,道 徳の時間において各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動におけ る道徳教育と密接に関連を図りながら計画的,発展的に指導を行うことが必要で ある。 学習指導要領第3章道徳第3において,道徳教育の全体計画と道徳の時間の年 間指導計画を作成することを明示している。これは,学校の教育活動全体を通じ て行われる道徳教育と道徳の時間との関連を計画の上で具体化することを求めた ものであり,このことによって両者の関連を一層緊密にして指導の効果を高める ことを意図したものである。 (3) 家庭や地域社会との連携,豊かな体験を通した道徳性の育成及び指導の重点化 学習指導要領第1章総則第1の2の後段においては,「道徳教育を進めるに当た っては,教師と児童及び児童相互の人間関係を深めるとともに,児童が自己の生 き方についての考えを深め,家庭や地域社会との連携を図りながら,集団宿泊活 動やボランティア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して児童の内面に根 ざした道徳性の育成が図られるよう配慮しなければならない。その際,特に児童 が基本的な生活習慣,社会生活上のきまりを身に付け,善悪を判断し,人間とし てしてはならないことをしないようにすることなどに配慮しなければならない。」 と示している。 --29/111-- -27- 各学校において道徳教育を進めるに当たっては,児童相互の好ましい人間関係 や児童と教師の信頼関係が確立し,学級の雰囲気も温かく,児童が安心して学習 できる雰囲気がなければ実質的な効果は期待できない。この点については日ごろ から十分配慮する必要がある。その際,教師は,児童とともに考え,悩み,感動 を共有していくという姿勢で指導に当たることも大切である。また,今回の改訂 においては,「児童が自己の生き方についての考えを深め」ることが追加して記述 された。これは中学校段階では,「道徳的価値に基づいた人間としての生き方につ いての自覚を深め」ることを前提に,小学校においては,自らを見つめ,自らに 問いかけることを出発点に,他者,自然や崇高なもの及び集団や社会とのかかわ りの中で自らの生き方についての考えを深めることが重要であることを示したも のである。 次に,日常生活における道徳的実践を促すためには家庭や地域社会との連携が 不可欠であり,保護者や地域の人々の協力による道徳教育が充実できるよう連携 を十分図っていく必要がある。さらに,社会の一員であるという自覚と互いが支 え合う社会の仕組みを考え,平素と異なる生活環境にあって人間関係など集団生 活の在り方などについて望ましい体験を積む集団宿泊活動,自分自身をも高める ためのボランティア活動,自然や動植物を愛し大切にする心や感動する心などを 育てるための自然体験活動など,学校の教育活動全体において各教育活動の特質 や児童の興味・関心を考慮し,広い意味での豊かな体験をさせることを通して自 然な形で児童の内面に根ざした道徳性が育成されるようにすることが大切である。 特に今回,発達の段階を踏まえた指導を重視する観点から,小学校においては, 体験活動の例示として集団宿泊活動を追加した。また,これらの体験活動は,一 定期間にわたって行うことにより,一層意義が深まるものである。 また,今回の改訂では,道徳教育についても児童の発達の段階を考慮し,小学 校段階においては,特に,基本的な生活習慣や社会生活上のきまりを身に付ける こと,善悪を判断し,人間としてしてはならないことをしないようにすることな どを,中学校段階においては,特に,自他の生命を尊重すること,規律ある生活 ができること,自分の将来を考え,法やきまりの意義の理解を深め,主体的に社 --30/111-- --30/111-- -28- 会の形成に参画すること,国際社会に生きる日本人としての自覚を身に付けるよ うにすることなどをそれぞれ重視することを,小学校学習指導要領及び中学校学 習指導要領の第1章総則第1の2において示した。 その中でも特に小学校教育においては,第3章道徳第3で,各学年を通じて自 立心や自律性,自他の生命を尊重する心を育てることを前提に,特に低学年では あいさつなどの基本的な生活習慣,社会生活上のきまりを身に付け,善悪を判断 し,人間としてしてはならないことをしないこと,中学年では集団や社会のきま りを守り,身近な人々と協力し助け合う態度を身に付けること,高学年では法や きまりの意義を理解すること,相手の立場を理解し,支え合う態度を身に付ける こと,集団における役割と責任を果たすこと,国家・社会の一員としての自覚を もつことなどに配慮した指導を行うことが大切であることを示している。また, 特に高学年においては,悩みや葛藤等の心の揺れ,人間関係の理解等の課題を積 かっとう 極的に取り上げ,自分の生き方についての考えを一層深められるよう指導を工夫 することの重要性も指摘されている。 なお,道徳教育及び道徳の時間の指導については,小学校学習指導要領解説道 徳編で詳述しているので参照されたい。 3 体育・健康に関する指導(第1章第1の3) 3 学校における体育・健康に関する指導は,児童の発達の段階を 考慮して,学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特 に,学校における食育の推進並びに体力の向上に関する指導,安全 に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導については, 体育科の時間はもとより,家庭科,特別活動などにおいてもそれぞ れの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。また,それら の指導を通して,家庭や地域社会との連携を図りながら,日常生活 において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し,生涯を通じ て健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮 しなければならない。 --31/111-- -29- これからの社会を生きる児童に,健やかな心身の育成を図ることは極めて重要で ある。体力は,人間の活動の源であり,健康の維持のほか意欲や気力といった精神 面の充実に大きくかかわっており,生きる力を支える重要な要素である。児童の心 身の調和的発達を図るためには,運動を通じて体力を養うとともに,食育の推進を 通して望ましい食習慣を身に付けるなど,健康的な生活習慣を形成することが必要 である。また,児童の安全・安心に対する懸念が広がっていることから,安全に関 する指導の充実が必要である。さらに,児童が心身の成長発達について正しく理解 することが必要である。こうした現代的課題に対して,今回の改訂では,学校にお ける体育・健康に関する指導に,児童の発達の段階を考慮して学校教育活動全体と して取り組むことが必要であることを強調したものである。 体育・健康に関する指導は,健康・安全で活力ある生活を営むために必要な資質 や能力を育て,心身の調和的な発達を図ることをねらいとするものである。 したがって,体育に関する指導については,子どもの体力水準が全体として低下 していることがうかがえるとともに,積極的に運動する子どもとそうでない子ども に分散が拡大しているとの指摘があることから,生涯にわたって運動やスポーツを 豊かに実践していくことと体力の向上を重視し,児童が自ら進んで運動に親しむ資 質や能力を身に付け,心身を鍛えることができるようにすることが大切である。 このため,教科としての体育科において,基礎的な身体能力の育成を図るととも に,運動系のクラブ活動,運動会,遠足や集会などの特別活動や教育課程外の学校 教育活動などを相互に関連させながら,学校教育活動全体として効果的に取り組む ことが求められている。 健康に関する指導については,児童が身近な生活における健康に関する知識を身 に付けることや活動を通じて自主的に健康な生活を実践することのできる資質や能 力を育成することが大切である。 特に,学校における食育の推進においては,偏った栄養摂取などによる肥満傾向 の増加など食に起因する健康課題に適切に対応するため,児童が食に関する正しい 知識と望ましい食習慣を身に付けることにより,生涯にわたって健やかな心身と豊 --32/111-- -30- かな人間性をはぐくんでいくための基礎が培われるよう,栄養のバランスや規則正 しい食生活,食品の安全性などの指導が一層重視されなければならない。また,こ れら心身の健康に関する内容に加えて,自然の恩恵・勤労などへの感謝や食文化な どについても教科等の内容と関連させた指導を行うことが効果的である。食に関す る指導に当たっては,栄養教諭等の専門性を生かすなど教師間の連携に努めるとと もに,地域の産物を学校給食に使用するなどの創意工夫を行いつつ,学校給食の教 育的効果を引き出すよう取り組むことが重要である。 さらに,安全に関する指導においては,身の回りの生活の安全,交通安全,防災に 関する指導を重視し,安全に関する情報を正しく判断し,安全のための行動に結び付 けるようにすることが重要である。なお,児童が心身の成長発達に関して適切に理 解し,行動することができるようにする指導に当たっては,学校の教育活動全体で 共通理解を図り,家庭の理解を得ることに配慮するとともに,関連する教科,特別 活動等において,発達の段階を考慮して,指導することが重要である。 体育・健康に関する指導は,こうした指導を相互に関連させて行うことにより,生 涯にわたり楽しく明るい生活を営むための基礎づくりを目指すものである。 したがって,その指導においては,体つくり運動や各種のスポーツ活動はもとよ り,保健指導,安全指導,給食指導などの健康に関する指導が重視されなければな らない。このような体育・健康に関する指導は,体育科の時間だけではなく家庭科 などの関連の教科や道徳,特別活動のほか,総合的な学習の時間なども含めた学校 の教育活動全体を通じて行うことによって,その一層の充実を図ることができる。 各学校において,体育・健康に関する指導を効果的に進めるためには,地域や学 校の実態及び新体力テストなどを用いて児童の体力や健康状態等を的確に把握し, それにふさわしい学校の全体計画を作成し,地域の関係機関・団体の協力を得つつ, 計画的,継続的に指導することが重要である。 また,体育・健康に関する指導を通して,学校生活はもちろんのこと,家庭や地 域社会における日常生活においても,自ら進んで運動を適切に実践する習慣を形成 し,生涯を通じて運動に親しむための基礎を培うとともに,児童が積極的に心身の 健康の保持増進を図っていく資質や能力を身に付け,生涯を通じて健康・安全で活 --33/111-- -31- 力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮することが大切である。 --34/111-- -32- 第2節 内容等の取扱いに関する共通的事項 学習指導要領第1章総則第2では,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の内容 等の取扱いに関する原則的な事項を定めている。 1 各教科等の内容の共通的取扱い (1) 内容の取扱いの原則(第1章第2の1,第2の2,第2の3) 1 第2章以下に示す各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の内 容に関する事項は,特に示す場合を除き,いずれの学校においても 取り扱わなければならない。 これは学習指導要領に示されている各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の内 容の取扱いについて示したものである。すなわち,学習指導要領は国が定める教育 課程の基準であり,各学校において教育課程を編成,実施する際には,学習指導要 領の各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の内容に関する事項は,第2章以下に 特に示している場合を除き,必ず取り扱わなければならないことを規定したもので ある。教育課程の編成に当たっては,まず学習指導要領に示している指導事項を十 分研究することが必要である。 学習指導要領では,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標を実現するた めに必要な中核的な内容を示すにとどめているので,各学校においては,配当でき る授業時数を考慮しつつ,地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や特性を 踏まえ,具体的な指導内容を確定し,適切に配置しなければならない。 2 学校において特に必要がある場合には,第2章以下に示してい ない内容を加えて指導することができる。また,第2章以下に示す 内容の取扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は,すべての児 --35/111-- -33- 童に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したもので あり,学校において特に必要がある場合には,この事項にかかわら ず指導することができる。ただし,これらの場合には,第2章以下 に示す各教科,道徳,外国語活動及び特別活動並びに各学年の目標 や内容の趣旨を逸脱したり,児童の負担過重となったりすることの ないようにしなければならない。 本項は,前項を踏まえた上で,学校において特に必要であると認められる場合 には,学習指導要領に示していない内容でも,これを加えて教育課程を編成,実 施することができることを示しているものである。前項と本項をあわせて学習指 導要領に示す内容の取扱いの基本的な原則を示しているものである。すなわち, 学習指導要領に示している内容は,すべての児童に対して確実に指導しなければ ならないものであると同時に,個に応じた指導を充実する観点から,児童の学習 状況などその実態等に応じて,学習指導要領に示していない内容を加えて指導す ることも可能である(学習指導要領の「基準性」)。 このように,学習指導要領の基準性が明確に示されている趣旨を踏まえ,学習 指導要領に示している,すべての児童に対して指導するものとする内容の確実な 定着を図り,さらに知識・技能を深めたり高めたりするとともに,思考力・判断 力・表現力等を豊かにし,学習意欲を一層高めたりすることが期待される。 今回の改訂においては,学習指導要領に示していない内容を加えて指導するこ とができることを明確にする観点から,例えば,従前,第2章第8節家庭第2の 内容の(4)のアの「食品の栄養的な特徴を知り,食品を組み合わせてとる必要 があることが分かること。」について同節の第3の2(1)のイでは,「(4)のアにつ いては,食品の体内での主な働きを中心にし,細かな栄養素や食品成分表の数値 は扱わないこと。」としていたものを,同節の第2の内容に「体に必要な栄養素の 種類と働きについて知ること。」を加えた上で,同節の第3の2(1)のアで「(2)の ア及びイについては,五大栄養素と食品の体内での主な働きを中心に扱うこと。」 に改めるなどの改正を行っている。学校においては,これらの規定を踏まえた指 導を十全に行った上で,個性を生かす教育を充実する観点から,児童の学習状況 --36/111-- -34- などその実態等に応じ,特に必要があると判断する場合には,上記の例にあって は,五大栄養素や食品の体内での主な働き以外について指導を行うこともできる。 ただし,これらの場合にあっても,まずは学習指導要領に示しているすべての 児童に対して指導するものとする内容の確実な定着が求められることは前述した とおりである。また,学習指導要領に示した各教科,道徳,外国語活動及び特別 活動並びに各学年の目標や内容の趣旨を逸脱しないことが必要である。すなわち, 学習指導要領に示している内容を児童が理解するために関連のある事柄などにつ いての指導を行うことであって,全く関連のない事柄を脈絡無く教えることは避 けなければならない。さらに,これらの指導によって,児童の負担が過重となっ たりすることのないよう,十分に留意しなければならない。 3 第2章以下に示す各教科,道徳,外国語活動及び特別活動並び に各学年の内容に掲げる事項の順序は,特に示す場合を除き,指導 の順序を示すものではないので,学校においては,その取扱いにつ いて適切な工夫を加えるものとする。 学習指導要領の第2章以下に示す各教科等の学年別の内容に掲げる事項は,それ ぞれの教科等の内容を体系的に示す観点から整理して示しているものであり,その 順序は,特に示す場合を除き,指導の順序を示すものではない。したがって,各学 校においては,各指導事項の関連を十分検討し,地域や学校の実態及び児童の発達 の段階や特性を考慮するとともに,教科書との関連も考慮して,指導の順序やまと め方に工夫を加え,効果的な指導ができるよう指導内容を組織し指導計画を作成す ることが必要である。 (2) 学年の目標及び内容をまとめて示した教科の内容の取扱い(第1章第2の4) 4 学年の目標及び内容を2学年まとめて示した教科及び外国語活 動の内容は,2学年間かけて指導する事項を示したものである。各 学校においては,これらの事項を地域や学校及び児童の実態に応じ, --37/111-- -35- 2学年間を見通して計画的に指導することとし,特に示す場合を除 き,いずれかの学年に分けて,又はいずれの学年においても指導す るものとする。 学習指導要領では,国語,生活,音楽,図画工作,家庭及び体育の各教科,外 国語活動,また,社会科の第3学年及び第4学年については,学年の目標及び内 容を2学年まとめて示している。これは,これらの教科等が具体的な活動や体験 を伴うなどの特性を有していることや実施の経験からみてより弾力的な取扱いが ふさわしいことなどを考慮し,学校において地域や学校及び児童の実態に応じた 創意工夫を生かした指導が一層できやすくすることを意図したものである。 したがって,各学校においては,これらの教科等の目標及び内容に示している 指導事項を十分検討するとともに,地域や学校の実態及び児童の発達の特性等を 考慮し,2学年間を見通した適切な指導計画を作成し効果的な指導ができるよう にする必要がある。その際,内容に示している指導事項については,音楽科にお けるA表現領域の共通教材,体育科の保健に関する指導事項,生活科や家庭科に おける特定の指導事項などのように特に示す場合を除き,いずれかの学年に分け て指導したり,いずれの学年においても指導したりして,確実に身に付けるよう にすることが大切である。 2 複式学級の場合の教育課程編成の特例(第1章第2の5) 5 学校において2以上の学年の児童で編制する学級について特に 必要がある場合には,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目 標の達成に支障のない範囲内で,各教科,道徳,外国語活動及び特 別活動の目標及び内容について学年別の順序によらないことができ る。 複式学級の場合においても,児童の学年に応じた教育課程を編成することが必要 である。 --38/111-- -36- しかし,複式学級が2以上の学年の児童で学級を編制する関係上,各教科,道徳, 外国語活動及び特別活動の学年別の目標や内容をそのまま学年の順序で指導できな い場合があることも考慮して,指導形態や指導方法の工夫をできやすくする観点か ら,総則の第2の5で「学校において2以上の学年の児童で編制する学級について 特に必要がある場合には,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標の達成に 支障のない範囲内で,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標及び内容につ いて学年別の順序によらないことができる。」こととしている。 学年別の順序によらないことができるのは,複式学級において「特に必要がある 場合」で,「各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標の達成に支障のない範 囲内」に限られていることに留意する必要がある。 3 その他の教育課程編成の特例 (1) 特別支援学級の場合 特別支援学級は,学校教育法第81条第2項の規定による障害のある児童を対象 とする学級であるため,対象となる児童の障害の種類,程度等によっては,障害 のない児童に対する教育課程をそのまま適用することが必ずしも適当でない場合 がある。 そのため,学校教育法施行規則第138条では,「小学校若しくは中学校又は中等 教育学校の前期課程における特別支援学級に係る教育課程については,特に必要 がある場合は,第50条第1項,第51条及び第52条の規定並びに第72条から第74条 までの規定にかかわらず,特別の教育課程によることができる。」と規定している。 この場合,特別の教育課程を編成するとしても,学校教育法に定める小学校の 目的及び目標を達成するものでなければならないことは言うまでもない。なお, 特別支援学級において特別の教育課程を編成する場合には,学級の実態や児童の 障害の程度等を考慮の上,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし, 例えば,障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域 である「自立活動」を取り入れたり,各教科の目標・内容を下学年の教科の目標・ --39/111-- -37- 内容に替えたり,各教科を,知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援 学校の各教科に替えたりするなどして,実情に合った教育課程を編成する必要が ある。そして,小学校学習指導要領第1章総則第4の2(7)においては,「特別支 援学級又は通級による指導については,教師間の連携に努め,効果的な指導を行 うこと。」と示されており,特別支援学級における指導に当たっては,学級担任だ けでなく他の教師と連携協力して,個々の児童の障害の状態等に応じた効果的な 指導を行う必要がある。 特別支援学級について,特別の教育課程を編成する場合であって,文部科学大 臣の検定を経た教科用図書を使用することが適当でない場合には,当該特別支援 学級を置く学校の設置者の定めるところにより,他の適切な教科用図書を使用す ることができるようになっている(同規則第139条)。 (2) 通級による指導の場合 通級による指導は,小学校の通常の学級に在籍している比較的軽度の障害のあ る児童に対して,主として各教科等の指導を通常の学級で行いながら,当該児童 の障害に応じた特別の指導を特別の指導の場(通級指導教室)で行う教育形態で ある。ここでいう特別の指導とは,障害による学習上又は生活上の困難の改善・ 克服を目的とする指導のことである。したがって,指導に当たっては,特別支援 学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし,例えば,障害による学習上又は生 活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域である「自立活動」の内容を取り 入れるなどして,個々の児童の障害の状態等に応じた具体的な目標や内容を定め, 学習活動を行うことになる。また,これに加えて,特に必要があるときは,特別 の指導として,児童の障害の状態等に応じて各教科の内容を補充するための指導 を一定時間内において行うこともできることになっている。そして,小学校学習 指導要領第1章総則第4の2(7)においては,「特別支援学級又は通級による指導 については,教師間の連携に努め,効果的な指導を行うこと。」と示されており, 通級による指導の担当教師だけでなく,他の教師との連携協力の下,効果的な指 導を行う必要がある。 通級による指導の対象となる者は,学校教育法施行規則第140条各号の一に該当 --40/111-- --40/111-- -38- する児童(特別支援学級の児童を除く。)で,具体的には,言語障害者,自閉症者, 情緒障害者,弱視者,難聴者,学習障害者,注意欠陥多動性障害者などである。 通級による指導を行う場合には,学校教育法施行規則第50条第1項,第51条及 び第52条並びに第72条から第74条までの規定にかかわらず,特別の教育課程によ ることができ,前述した特別の指導を,小学校の教育課程に加え,又は,その一 部に替えることができることになっている(学校教育法施行規則第140条,平成5 年文部省告示第7号,平成18年文部科学省告示第54号,平成19年文部科学省告示 第146号)。 通級による指導に係る授業時数は,年間35単位時間から280単位時間までを標準 とされているほか,学習障害者及び注意欠陥多動性障害者については,年間10単 位時間から280単位時間までを標準とされている。 また,児童が在籍校以外の小学校又は特別支援学校の小学部において,特別の 指導を受ける場合には,当該児童が在籍する小学校の校長は,これら他校で受け た指導を,特別の教育課程に係る授業とみなすことができることになっている(同 規則第141条)。なお,このように児童が他校において指導を受ける場合には,当 該児童が在籍する小学校の校長は,当該特別の指導を行う学校の校長と十分協議 の上,教育課程を編成するとともに,学校間及び担当教師間の連携を密にする必 要がある。 (3) 私立小学校の場合 小学校の教育課程は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特 別活動によって編成することになっているが(学校教育法施行規則第50条第1項), 同条第2項において「私立の小学校の教育課程を編成する場合は,前項の規定に かかわらず,宗教を加えることができる。この場合においては,宗教をもって前 項の道徳に代えることができる。」と規定している。すなわち,私立の小学校にお いては,宗教を加えて,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間,特別 活動及び宗教によって教育課程を編成し,又は宗教をもつて道徳に代えて,各教 科,宗教,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動によって教育課程を編 成することを認めている。 --41/111-- -39- また,宗教の時間と道徳の時間を併せて設けている小学校にあっては,宗教の 授業時数をもって道徳の授業時数の一部に代えることができることになっている (同規則第51条,別表第1備考第3号)。 国・公立の学校においては特定の宗教のための宗教教育を行ってはならないが, 私立の学校においては宗教の自由が留保されている(教育基本法第15条第2項)。 私立の学校には,宗教団体を基礎として設立され,宗教教育を行うことを建学の 精神とするなど積極的に宗教教育を行っている学校が多い。宗教教育はその本質 からして,それを通して道徳性の涵養も行われるものとみることができる。そこ で,私立の学校の特色を生かし,その自主性を尊重する趣旨から,私立の小学校 の教育課程について上記のような特例が設けられている。 (4) 教育課程の改善のための研究の場合 学校教育法施行規則第55条において,「小学校の教育課程に関し,その改善に資 する研究を行うため特に必要があり,かつ,児童の教育上適切な配慮がなされて いると文部科学大臣が認める場合においては,文部科学大臣が別に定めるところ により,第50条第1項,第51条又は第52条の規定によらないことができる。」と定 めている。 これは,小学校において教育課程の改善のための研究を行う場合,教育の配慮 が適切になされると文部科学大臣が認めれば,学校教育法施行規則に定める教育 課程の構成や授業時数あるいは学習指導要領によらない教育課程を編成し,実施 することを認めたものである。 学習指導要領等に示している教育課程の基準は大綱的なものであり,教育課程 の改善の研究も多くはこの基準の範囲内で行うことができるが,教育課程の基準 について相当大幅な改訂を行うなどの場合にその基礎資料を得る必要があること を考慮し,このような特例が設けられているのである。 この特例措置により学習指導要領等によらない教育課程の編成・実施を認めて いる枠組みとしては,平成20年6月末現在,「研究開発学校制度」のほか,「スー パーサイエンスハイスクール」,「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイ スクール」,「目指せスペシャリスト」がある。 --42/111-- -40- (5) 小学校又は地域の特色を生かした特別の教育課程の編成の場合 今回の学校教育法施行規則の改正により,同規則第55条の2として,「小学校に おいて,当該小学校又は当該小学校が設置されている地域の実態に照らし,より 効果的な教育を実施するため,当該小学校又は当該地域の特色を生かした特別の 教育課程を編成して教育を実施する必要があり,かつ,当該特別の教育課程につ いて,教育基本法(平成18年法律第120号)及び学校教育法第30条第1項の規定等 に照らして適切であり,児童の教育上適切な配慮がなされているものとして文部 科学大臣が定める基準を満たしていると認める場合においては,文部科学大臣が 別に定めるところにより,第50条第1項,第51条又は第52条の規定の全部又は一 部によらないことができる。」との規定が置かれた。 これは,前述のとおり,平成15年から開始された構造改革特別区域研究開発学 校設置事業(いわゆる「特区研発」)について,「構造改革特別区域基本方針」(平 成18年4月)を踏まえ,同様の特例措置を内閣総理大臣が認定する手続きを経な くても文部科学大臣の指定により実施することを可能にしたものである。 なお,同条を踏まえ,平成20年文部科学省告示第30号が公示され,教育基本法 及び学校教育法に定める学校種ごとの教育の目標等に照らして適切であり,児童 の教育上適切な配慮がなされているものとして認める基準として, @ 学習指導要領においてすべての児童に共通して履修させる内容として定め られている事項について,当該特別の教育課程において適切に取り扱われて いること。ただし,異なる種類の学校間の連携により一貫した特別の教育課 程を編成する場合(設置者が異なる場合には,当該設置者の協議に基づき定 めるところにより教育課程を編成する場合に限る。)にあっては,当該特別の 教育課程全体を通じて,適切に取り扱うものとされていること。 A @に掲げる内容を指導するために必要となる標準的な総授業時数が確保さ れていること。 B 児童の発達の段階並びに各教科等の特性に応じた内容の系統性及び体系性 に配慮がなされていること。 C 義務教育段階である小学校において特別の教育課程を編成する際には,保 --43/111-- -41- 護者の経済的な負担への配慮を含め,義務教育における機会均等の観点から の適切な配慮がなされていること。 D @〜Cに掲げるもののほか,児童が転出入する際の配慮等の教育上必要な 配慮がなされていること。 が定められ,前述の学校教育法施行規則の一部改正と併せて,平成20年4月1日 から施行されることとなった。 (6) 不登校児童を対象にした学校の場合 学校教育法施行規則第56条の規定は,「小学校において,学校生活への適応が困 難であるため相当の期間小学校を欠席していると認められる児童を対象として, その実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施する必要があると文部 科学大臣が認める場合においては,文部科学大臣が別に定めるところにより,第5 0条第1項,第51条又は第52条の規定によらないことができる。」と定めている。 これは,(5)と同様に,構造改革特別区域制度を活用した不登校児童生徒等を対 象とした学校の設置に係る教育課程弾力化事業が,平成17年7月に同様の特例措 置を内閣総理大臣が認定する手続きを経なくても文部科学大臣の指定により実施 することを可能としたものである。 --44/111-- -42- 第3節 授業時数等 各教科等の指導は,言うまでもなく,一定の時間内で行われるものであり,これら に対する授業時数の配当は,教育課程編成の上で重要な要素である。各教科等の授業 時数については,学校教育法施行規則において各教科等の年間授業時数の標準を定め, 学習指導要領において年間の授業週数などを定めている。また,学習指導要領では, 特別活動のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については,それらの内容に 応じ,適切な授業時数を充てるものとし,また,給食,休憩などの時間については, 学校において工夫を加え,適切に定めるものとしている。 各学校においては,これらを踏まえ,学校の教育課程全体のバランスを図りながら, 地域や学校及び児童の実態等を考慮し,学習指導要領に基づいて各教科等の教育活動 を適切に実施するための授業時数を具体的に定める必要がある。その際,授業時数の 確保を単に形式的に行うのではなく,個に応じた指導などの指導方法や教材等の工夫 改善を行い授業等の質的な改善を図りつつ,授業日数や授業週数,授業の1単位時間 との関連を確保しながら,授業時数を配当することにより,指導に必要な時間を実質 的に確保する必要がある。 1 各教科等の年間授業時数 各学年における各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動の 年間の授業時数並びに各学年の年間の総授業時数は,学校教育法施行規則第51条に おいて次のように定めている。 第51条 小学校の各学年における各教科,道徳,外国語活動,総合的な学 習の時間及び特別活動のそれぞれの授業時数並びに各学年におけるこれ らの総授業時数は,別表第1に定める授業時数を標準とする。 別表第1(第51条関係) --45/111-- -43- 備考 1 この表の授業時数の1単位時間は,45分とする。 2 特別活動の授業時数は,小学校学習指導要領で定める学級活動(学 校給食に係るものを除く。)に充てるものとする。 3 第50条第2項の場合において,道徳のほかに宗教を加えるときは, 宗教の授業時数をもつてこの表の道徳の授業時数の一部に代えるこ とができる。(別表第2及び別表第4の場合においても同様とする。) これらの学校教育法施行規則の規定及び学習指導要領は完全学校週5日制の下で の教育課程の基準であり,この年間の総授業時数は,学校週5日制を前提として定 めたものである。 第1章総則第2の1のとおり,学習指導要領第2章以下に示す各教科,道徳,外 国語活動及び特別活動の内容に関する事項は,特に示す場合を除き,いずれの学校 においても取り扱わなければならないものである。別表第1に定めている授業時数 は,学習指導要領で示している各教科等の内容を指導するのに要する時数を基礎と 区 分 各 教 科 の 授 業 時 数 道徳の授業時数外国語活動の授業時数 総合的 な学習 の時間 の授業 時 数 特別活動の授業時数総授業時数 国語社会算数理科生活音楽図画工作家庭体育 第1学年 306 136 102 68 68 102 34 34 850 第2学年 315 175 105 70 70 105 35 35 910 第3学年 245 70 175 90 60 60 105 35 70 35 945 第4学年 245 90 175 105 60 60 105 35 70 35 980 第5学年 175 100 175 105 50 50 60 90 35 35 70 35 980 第6学年 175 105 175 105 50 50 55 90 35 35 70 35 980 --46/111-- -44- し,学校運営の実態などの条件も十分考慮しながら定めたものであり,各学校にお いて年度当初の計画段階から別表第1に定めている授業時数を下回って教育課程を 編成することは,上記のような学習指導要領の基準性の観点から適当とは考えられ ない。 しかしながら,このことは単に別表第1に示されている各教科等の授業時数を形 式的に確保すればよいということを意味するものではない。各学校において,この 別表第1に示されている授業時数を踏まえ,地域や学校及び児童の実態を考慮しつ つ,さらには個に応じた指導などの指導方法・指導体制,教材等の工夫改善など授 業等の質的な改善を図りながら,学習指導要領に基づき教育課程を適切に実施し指 導するために必要な時間を実質的に確保するという視点が重要である。なお,その 際,学校において適切に授業時数を配当する必要がある特別活動の児童会活動,ク ラブ活動,学校行事や給食,休憩の時間等を含む教育課程全体のバランスを図るこ とが必要であるのは言うまでもない。 なお,学校教育法施行規則第51条において,別表第1に定めている授業時数が標 準授業時数と規定されているのは,@指導に必要な時間を実質的に確保するという 考え方を踏まえ,各学校においては,地域の状況や児童の実態を十分に考慮して, 児童の負担過重にならない限度で別表第1に定めている授業時数を上回って教育課 程を編成し,実際に上回った授業時数で指導することが可能であること,A別表第 1に定めている授業時数を踏まえて教育課程を編成したものの災害や流行性疾患に よる学級閉鎖等の不測の事態により当該授業時数を下回った場合,その確保に努力 することは当然であるが,下回ったことのみをもって学校教育法施行規則第51条及 び別表第1に反するものとはしないといった趣旨を制度上明確にしたものである。 特に,@については,学習指導要領のねらいが十分実現されていないと判断され る場合には,指導方法・指導体制の工夫改善を図りながら,標準を上回る適切な指 導時間を確保するなど,指導内容の確実な定着を図ることに努めることが必要であ る。その際,年間の行事予定や各教科等の年間指導計画,その実施,改善の状況等 について,保護者をはじめ地域住民等に対して積極的に情報提供することも重要で ある。 --47/111-- -45- なお,別表第1は,各教科等のそれぞれの授業時数だけでなく,各学年の総授業 時数も標準として定めている。したがって,個々の教科等の授業時数と同様に総授 業時数についてもその確保を図ることが求められる。各学校においては,このよう な考え方に立って,授業時数を適切に配当した教育課程を編成するとともに,その 実施に当たっても,実際に必要な指導時間を確保するよう,学年や学期,月ごと等 に授業時数の実績の管理や学習の状況の把握を行うなど,その状況等について自ら 点検及び評価を行い,改善に努める必要がある。 このほか,授業時数の確保に当たっては,各学校において,教師が教材研究,指 導の打合せ,地域との連絡調整等に充てる時間を可能な限り確保するため,会議等 の持ち方や時間割の工夫など時間の効果的・効率的な利用等に配慮することなどに 留意することが求められる。 2 年間の授業週数(第1章第3の1) 1 各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動 (以下「各教科等」という。ただし,1及び3において,特別活動 については学級活動(学校給食に係るものを除く。)に限る。)の授 業は,年間35週(第1学年については34週)以上にわたって行うよ う計画し,週当たりの授業時数が児童の負担過重にならないように するものとする。ただし,各教科等や学習活動の特質に応じ効果的 な場合には,夏季,冬季,学年末等の休業日の期間に授業日を設定 する場合を含め,これらの授業を特定の期間に行うことができる。 なお,給食,休憩などの時間については,学校において工夫を加え, 適切に定めるものとする。 各教科等の授業時数を年間35週(第1学年については34週)以上にわたって行う ように計画することとしているのは,各教科等の授業時数を年間35週以上にわたっ て配当すれば,学校教育法施行規則別表第1において定めている年間の授業時数に ついて児童の負担過重にならない程度に,週当たり,1日当たりの授業時数を平均 --48/111-- -46- 化することができることを考慮したものである。したがって,各教科等の授業時数 を35週にわたって平均的に配当するほか,児童の実態や教科等の特性を考慮して週 当たりの授業時数の配当に工夫を加えることも考えられる。各学校においてはこの 規定を踏まえ,地域や学校及び児童の実態等を考慮し,必要な指導時間を確保する ため,適切な週にわたって各教科等の授業を計画することが必要である。 今回の改訂においては,各教科等や学習活動の特質に応じ効果的な場合には,「夏 季,冬季,学年末等の休業日の期間に授業日を設定する場合を含め,」これらの授 業を特定の期間に行うことができることを示している。これは,教科等や学習活動 によっては年間を通ずることなく,夏季,冬季,学年末,農繁期等の休業日の期間 に授業日を設定することも含め,特定の期間に集中して行った方が効果的な場合も あることを考慮したものである。 また,給食,休憩等の時間については,学校において工夫を加え,適切に定める こととしている。学校全体の生活時間や日課について工夫を加えるとともに,地域 や学校の実態に応じ,給食,休憩の時間の設定を工夫する必要がある。 3 特別活動の授業時数(第1章第3の2) 2 特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事 については,それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに 適切な授業時数を充てるものとする。 特別活動のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事の授業時数については, 学校教育法施行規則では定められていないが,学習指導要領第1章総則第3の2に おいて,児童会活動,クラブ活動及び学校行事の授業時数については,それらの内 容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てることとしている。 これは,これらの活動の性質上学校ごとの特色ある実施が望まれるものであり,そ の授業時数を全国一律に標準として定めることは必ずしも適切でないことによるも のである。 --49/111-- -47- クラブ活動については,年間35週以上にわたって実施するものと規定されていた 時期もあったが,平成10年の改訂において,学校や地域の実情等を考慮しつつ,児 童の興味・関心を踏まえて計画し実施できるよう,学校において適切な授業時数を 充てることにした。 したがって,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については,各学校において 地域や学校の実態を考慮して実施する活動内容とのかかわりにおいて授業時数を定 める必要がある。なお,学校行事については,第6章特別活動において,「学校や 地域及び児童の実態に応じて,各種類ごとに,行事及びその内容を重点化するとと もに,行事間の関連や統合を図るなど精選して実施すること。」としており,学校 においてはそのことに留意して授業時数を定めることが大切である。 4 授業の1単位時間(第1章第3の3) 3 各教科等のそれぞれの授業の1単位時間は,各学校において, 各教科等の年間授業時数を確保しつつ,児童の発達の段階及び各教 科等や学習活動の特質を考慮して適切に定めるものとする。 授業の1単位時間すなわち日常の授業の1コマを何分にするかについては,児童 の学習についての集中力や持続力,指導内容のまとまり,学習活動の内容等を考慮 して,どの程度が最も指導の効果をあげ得るかという観点から決定する必要がある。 各教科等の授業の1単位時間は,各学年及び各教科等の年間授業時数を確保しつ つ,児童の発達の段階及び各教科等や学習活動の特質を考慮して,各学校において 定めることとした。これは,例えば,実験や観察の際の理科の授業は60分で行うこ とや計算や漢字の反復学習を10分間程度の短い時間を活用して行うことなど,児童 の発達の段階及び各教科等や学習活動によっては授業時間の区切り方を変えた方が 効果的な場合もあることを考慮したものである。特に,特定の学習活動を10分間程 度の短い時間を活用して行う場合については,当該教科や学習活動の特質に照らし --50/111-- --50/111-- -48- 妥当かどうかの教育的な配慮に基づいた判断が必要であり,例えば,道徳の時間や 特別活動(学級活動)の授業を毎日10分間程度の短い時間を活用して行うことは, 通常考えられない。また,10分間程度の短い時間を活用して児童が自らの興味や関 心に応じて選んだ図書について読書活動を実施するなど指導計画に適切に位置付け ることなく行われる活動は,授業時数外の教育活動となることは言うまでもない。 各授業時数の1単位時間を定めるに当たっては,学校教育法施行規則第51条別表 第1に定める授業時数の1単位時間は45分とするとの規定は従前どおりとしてお り,総則でいう「年間授業時数を確保しつつ」という意味は,あくまでも授業時数 の1単位時間を45分として計算した学校教育法施行規則第51条別表第1に定める授 業時数を確保するという意味であることに留意する必要がある。すなわち,各教科 等の年間授業時数は各教科等の内容を指導するのに実質的に必要な時間であり,こ れを確保することは前提条件として考慮されなければならないということである。 また,具体的な授業の1単位時間は,指導内容のまとまりや学習活動の内容を考慮 して教育効果を高める観点に立って,教育的な配慮に基づき定められなければなら ない。 さらに,授業の1単位時間の運用については,学校の管理運営上支障をきたさな いよう教育課程全体にわたって検討を加える必要がある。 児童会活動,クラブ活動及び学校行事については,本節の3で述べたように学校 教育法施行規則で年間授業時数が定められていないことから,この規定は適用され ないが,これらについても,各学校において,指導内容や児童の発達の段階,さら には児童の学習負担などに十分配慮して適切な時間を定めることになるのは言うま でもない。 なお,中学校学習指導要領においては,特に,「10分間程度の短い時間を単位と して特定の教科の指導を行う場合において,当該教科を担当する教師がその指導内 容の決定や指導の成果の把握と活用等を責任をもって行う体制が整備されていると きは,その時間を当該教科の年間授業時数に含めることができる。」との規定が置 かれている。これは,教科担任制である中学校では,例えば,10分間程度の短い時 間を単位として,計算や漢字,英単語等の反復学習等を行う場合において,特に, --51/111-- -49- 当該教科の担任以外の学級担任の教師などが当該10分間程度の短い時間を単位とし た学習に立ち会うことも考えられる。このような場合,一定の要件のもと,年間授 業時数に算入できることを明確化したものである。このため,原則として学級担任 がすべての教科等の指導を行う小学校においては,同様の規定は設けていないが, 前述のとおり,児童の発達の段階及び各教科等や学習活動の特質に照らし妥当かど うかの教育的な配慮に基づいた判断に基づき,特定の学習活動を10分間程度の短い 時間を活用して行った場合,その時間を当該教科等の年間授業時数に含めることは 可能である。 5 時間割の弾力的な編成(第1章第3の4) 4 各学校においては,地域や学校及び児童の実態,各教科等や学 習活動の特質等に応じて,創意工夫を生かし時間割を弾力的に編成 することができる。 今回の改訂においては,本項について,「創意工夫を生かし時間割を弾力的に編 成することに配慮するものとする。」を「創意工夫を生かし時間割を弾力的に編成 することができる。」に修正した。 前回の改訂においては,「年間の授業週数」の運用を弾力化し各教科等の授業を 年間35週以上にわたって行うことなく特定の期間に行うことができることとし,「授 業の1単位時間」を各学校において定めることとした。また,各教科等の年間の標 準授業時数についても必ずしも年間の授業週数である35の倍数にこだわることなく 設定した。このため,時間割について「弾力的に編成することに配慮するものとす る。」と規定し,各学校においては,時間割を年間で固定するのではなく,地域や 学校,児童の実態,各教科等や学習活動の特質に応じ,弾力的に組み替えることに 配慮する必要があることを明らかにしたものである。 これについては,平成20年1月の中央教育審議会答申において,「各教科の年間 --52/111-- -50- の標準授業時数を定めるに当たっては,子どもの学習や生活のリズムの形成や学校 の教育課程編成上の利便の観点から,週単位で固定した時間割で教育課程を編成し 学習する方がより効果的・効率的であることを踏まえ,可能な限り35の倍数にする ことが望ましい。」との提言がなされた。この答申を踏まえ,今回の改訂において は,例外はあるものの,各教科等の年間の標準授業時数を35の倍数にすることを基 本とした。このため,従前と比べ,より固定的に時間割を編成できるようにしたと ころであるが,他方,各学校の工夫の一つとして,地域や学校,児童の実態,各教 科等や学習活動の特質に応じ,弾力的に組み替えることも引き続き可能であること を明確にしたものである。 6 年間授業日数 年間の授業日数は,各教科等の授業時数が適切に確保されるとともに,週当たり の授業時数が児童の負担にならないよう配慮して定めるべきものである。 ところで,年間授業日数については,国の基準では直接定めていないが,通常は 休業日を除いた日が授業日として考えられている。休業日については,学校教育法 施行令及び学校教育法施行規則で次のように定められている。 学校教育法施行令 (学期及び休業日) 第29条 公立の学校(大学を除く。)の学期及び夏季,冬季,学年末,農繁期等に おける休業日は,市町村又は都道府県の設置する学校にあつては当該市町村又は 都道府県の教育委員会が,公立大学法人の設置する高等専門学校にあつては当該 公立大学法人の理事長が定める。 学校教育法施行規則 第61条 公立小学校における休業日は,次のとおりとする。ただし,第3号に掲げ る日を除き,特別の必要がある場合は,この限りでない。 一 国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する日 二 日曜日及び土曜日 三 学校教育法施行令第29条の規定により教育委員会が定める日 --53/111-- -51- 第62条 私立小学校における学期及び休業日は,当該学校の学則で定める。 各教育委員会及び各学校においては,これらの規定等を踏まえて休業日を定める 必要がある。また,年間授業日数については,学習指導要領で示している各教科等 の内容の指導に支障のないよう,適切な日数を確保する必要がある。 7 総合的な学習の時間の実施による特別活動の代替(第1章第3の5) 5 総合的な学習の時間における学習活動により,特別活動の学校 行事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待できる場合において は,総合的な学習の時間における学習活動をもって相当する特別活 動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えることができる。 総合的な学習の時間は,前回改訂において創設され,平成12年度の移行措置期間 中から多くの小学校で実施された後,平成14年度の完全実施から現在に至るまで, すべての小学校で様々な取組が行われている。 前述のとおり,今回の改訂においては,基礎的・基本的な知識・技能,これらの 知識・技能を活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等及び学習意 欲の3つの重要な要素を調和的に定着・育成することを重視し,知識・技能の活用 を図る学習活動や言語活動の充実を図ることとしているが,各教科等を横断する課 題についての問題解決や探究活動を行う総合的な学習の時間は,知識・技能の習得 を図る学習活動,これらの活用を図る学習活動及び探究活動という一連の学習活動 の流れの中で重要な役割を担っている。 このような総合的な学習の時間の重要性を踏まえ,今回の改訂においては,従前 第1章総則に位置付けられていた総合的な学習の時間に関する規定を,第5章とし て独立した章として位置付けた。さらに,各教科等との関係については,「各教科, 道徳,外国語活動及び特別活動の目標及び内容との違いに留意しつつ,第1の目標 並びに第2の各学校において定める目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を行う --54/111-- -52- こと。」と記述し,各教科等と連携しながら,問題の解決や探究活動を行うという 総合的な学習の時間の特性を十分に踏まえた活動を展開する必要を示した。同様に, 言語活動の充実との関係では,「問題の解決や探究活動の過程においては,他者と 協同して問題を解決しようとする学習活動や,言語により分析し,まとめたり表現 したりするなどの学習活動が行われるようにすること。」との規定を置いた。これ らを前提として,総合的な学習の時間においては,自然体験やボランティア活動な どの社会体験,ものづくり,生産活動などの体験活動を積極的に取り入れることの 必要性を明らかにしつつ,その際は,体験活動を問題の解決や探究活動の過程に適 切に位置付けることを求めている。 このように,総合的な学習の時間において,問題の解決や探究活動といった総合 的な学習の時間の趣旨を踏まえ,例えば,自然体験活動やボランティア活動を行う 場合において,これらの活動は集団活動の形態をとる場合が多く,望ましい人間関 係の形成や公共の精神の育成など,特別活動の趣旨も踏まえた活動とすることが考 えられる。すなわち, ・ 総合的な学習の時間に行われる自然体験活動は,環境や自然を課題とした問題 の解決や探究活動として行われると同時に,「自然の中での集団宿泊活動などの 平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとともに, 人間関係などの集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積む ことができる」遠足・集団宿泊的行事と, ・ 総合的な学習の時間に行われるボランティア活動は,社会とのかかわりを考え る学習活動として行われると同時に,「勤労の尊さや生産の喜びを体得するとと もに,ボランティア活動などの社会奉仕の精神を養う体験が得られる」勤労生産・ 奉仕的行事と, それぞれ同様の成果も期待できると考えられる。このような場合,総合的な学習の 時間とは別に,特別活動として改めてこれらの体験活動を行わないとすることも考 えられる。このため,今回の改訂においては,第1章総則第3の5として総合的な 学習の時間の実施による特別活動の代替を認める記述を追加したものである。 なお,本項の記述は,総合的な学習の時間においてその趣旨を踏まえると同時に, --55/111-- -53- 特別活動の趣旨をも踏まえ,体験活動を実施した場合に特別活動の代替を認めるも のであって,特別活動において体験活動を実施したことをもって総合的な学習の時 間の代替を認めるものではない。また,総合的な学習の時間において体験活動を行 ったことのみをもって特別活動の代替を認めるものでもなく,望ましい人間関係の 形成や公共の精神の育成といった特別活動の趣旨を踏まえる必要があることは言う までもない。このほか,例えば,補充学習のような専ら特定の教科の知識・技能の 習得を図る学習活動や運動会のような特別活動の健康安全・体育的行事の準備など を総合的な学習の時間に行うことは,総合的な学習の時間の趣旨になじまないこと は第5章総合的な学習の時間に示すとおりである。 --56/111-- -54- 第4節 指導計画の作成 1 各学校においては,次の事項に配慮しながら,学校の創意工夫 を生かし,全体として,調和のとれた具体的な指導計画を作成する ものとする。 教育課程は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動につい て,それらの目標やねらいを実現するように,教育の内容を学年段階に応じ授業時数 との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり,それを具体化した計画が 指導計画であると考えることができる。学校における実際の作成の過程においては両 者を区別しにくい面もあるが,指導方法や使用教材も含めて具体的な指導により重点 を置いて作成したものが指導計画であると言うことができる。 すなわち,指導計画は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別 活動のそれぞれについて,学年ごとあるいは学級ごとなどに,指導目標,指導内容, 指導の順序,指導方法,使用教材,指導の時間配当等を定めたより具体的な計画であ る。指導計画には,年間指導計画や2年間にわたる長期の指導計画から,学期ごと, 月ごと,週ごと,単位時間ごと,あるいは単元,題材,主題ごとの指導案に至るまで 各種のものがある。 各学校においては,学習指導要領の第1章総則及び第2章以下の各章に示された指 導計画の作成に関する配慮事項などに十分配慮し,地域や学校の実態を考慮して,創 意工夫を生かし,全体として調和のとれた具体的な指導計画を作成しなければならな い。 指導計画の作成に当たっては,学習指導要領第1章第4の1に特に配慮する必要が ある事項を4項目にわたり示しているので,これらの事項に留意する必要がある。 --57/111-- -55- 1 各教科等及び各学年相互間の関連(第1章第4の1(1)) (1) 各教科等及び各学年相互間の関連を図り,系統的,発展的な指 導ができるようにすること。 指導計画は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそ れぞれについて作成されるものである。小学校教育の目標はこれらのすべての教育 活動の成果が統合されてはじめて達成されるものである。したがって,個々の指導 計画は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動それぞれの 固有の目標やねらいの実現を目指すと同時に,他の教育活動との関連や学年間の関 連を十分図るように作成される必要がある。そのためには,各教科,道徳,外国語 活動及び特別活動それぞれの目標,指導内容の関連を検討し,指導内容の不必要な 重複を避けたり,重要な指導内容が欠落したりしないように配慮するとともに,指 導の時期,時間配分,指導方法などに関しても相互の関連を考慮した上で計画が立 てられることが大切である。総合的な学習の時間についても第5章総合的な学習の 時間に示された目標などについて,各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標 や内容との関連を検討し,各学校の実態に応じた目標及び内容を定めるとともに, 指導計画を作成する必要がある。 各教科等において,系統的,発展的な指導を行うことは,児童の発達の段階に応 じ,その目標やねらいを効果的に実現するために必要である。各教科,道徳,外国 語活動及び特別活動の内容は,学年間の系統性,発展性について十分配慮されてい るので,各学校においては,それを十分研究し,それらの指導計画を作成する際, 学年相互の関連を図り,指導の効果を高めるよう配慮する必要がある。また,各教 科,道徳,外国語活動及び特別活動の各学年の内容として示している指導事項は, 特に示す場合を除き,指導の順序を示しているものではないので,学校においては, 創意工夫を加え,地域や学校の実態及び児童の発達の段階や特性を考慮し,系統的, 発展的な指導が進められるよう指導内容を具体的に組織,配列することが必要であ --58/111-- -56- る。総合的な学習の時間の指導計画作成に際しても,横断的・総合的な課題,児童 の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,発達の 段階にふさわしい学習活動が進められるように創意工夫を図る必要がある。このよ うに,指導内容の組織や配列に当たっては,当該学年全体や全学年を見通した上で 行うことが大切である。 学校においては,学校の教育目標との関連を図りながら,指導計画の作成者相互 で必要な連絡を適宜行い,学校全体として組織的に進めることが大切である。 2 学年の目標及び内容を2学年まとめて示した教科等の指導計画(第1章第 4の1(2)) (2) 学年の目標及び内容を2学年まとめて示した教科及び外国語活 動については,当該学年間を見通して,地域や学校及び児童の実態 に応じ,児童の発達の段階を考慮しつつ,効果的,段階的に指導す るようにすること。 国語,生活,音楽,図画工作,家庭及び体育の各教科,外国語活動,また,社会 科の第3学年及び第4学年については,学年の目標及び内容を2学年まとめて示し ている。第1章総則の第2においては,これらの教科等の内容は,2学年間かけて 指導する事項を示したものであり,各学校においては,これらの事項を地域や学校 及び児童の実態に応じ,2学年間を見通して計画的に指導することとしている。し たがって,特に示されている場合を除き,いずれかの学年に分けて指導したり,い ずれの学年においても指導したりするものとしている。 この趣旨を受けて,これらの教科等については,2学年間を見通した指導計画を 作成し,地域や学校及び児童の実態に応じ,児童の発達の段階を考慮し,創意工夫 を生かした学習を展開することによって,これらの教科等の目標を効果的,段階的 に実現するようにすることとしたものである。 内容を2学年まとめて示しているのは,2学年の幅の中で内容の取り上げ方に創 --59/111-- -57- 意工夫が必要になるということである。例えば,いずれの学年でも素材や題材を変 えて繰り返し指導されるもの,地域や児童の実態等から扱う学年を一方の学年にす るもの,飼育や栽培活動のように長い期間をかけて学習活動を展開するもの等,教 科等や指導内容の特質等を生かした多様な取り上げ方が考えられる。その際,2学 年間を見通して児童の発達の段階や教育課題を考慮しながら,例えば平易なものか ら,あるいは身近なものから段階的に内容を配列するなど工夫をすることが大切で ある。また,低学年と中学年,中学年と高学年それぞれの発達の段階に応じた指導 においても,全体として段階的にその目標やねらいの実現を目指して効果的に指導 が行われるように内容を位置付け,指導計画を作成することも大切である。 3 指導内容のまとめ方や重点の置き方(第1章第4の1(3)) (3) 各教科の各学年の指導内容については,そのまとめ方や重点の 置き方に適切な工夫を加え,効果的な指導ができるようにすること。 第2章の各教科の目標及び内容に関する事項は,各学年においてすべての児童に 対して指導すべき事項を類型や系統性を考慮し,整理して示したものである。これ らの指導事項は,第1章総則第2の1に示しているように「特に示す場合を除き, いずれの学校においても取り扱わなければならない。」ものである。しかし,第2 の3に示しているように,各教科の学年別の内容に掲げる事項の順序は,「特に示 す場合を除き,指導の順序を示すものではないので,学校においては,その取扱い について適切な工夫を加えるものとする。」としている。 各学校において指導計画を作成するに当たっては,各教科の目標と各指導事項と の関連を十分研究し,まとめ方などを工夫したり,内容の重要度や児童の学習の実 態に応じてその取扱いに軽重を加えたりして,効果的な指導を行うことができるよ う配慮しなければならない。また,教材・教具の工夫や児童の理解度の把握などを 通して,教えることと考えさせることの両者を関連付けることも重要である。 --60/111-- --60/111-- -58- 今回の改訂では,従前,本項に規定していた「教材等の精選を図」ることを削除 している。今回の改訂においては,授業時数の増加を図った教科について,授業時 数の増加の程度ほどには指導内容は増加させず,これらの教科において,反復学習 等による基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得や観察・実験,レポートの作成 といった知識・技能の活用を図る学習活動の充実を図ることを可能としている。こ のことを前提としつつ,平成20年1月の中央教育審議会答申は,主たる教材として 重要な役割を果たす教科書の質・量両面での充実を重視しており,「子どもが学習 内容について十分に理解を深め,基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付ける とともに,それらを活用する力をはぐくむように,繰り返し学習や知識・技能を活 用する学習,発展的な学習に自ら取り組み,知識・技能の定着や思考を深めること を促すような工夫が凝らされた読み応えのある教科書が提供される」ことが重要と 提言している。その上で,教科書のページ数の増加や,発展的な学習に関する記述 の一層の充実などを図ることにより,児童の学習意欲を高め,教師が児童により教 えやすくするとともに,児童が学ぶに当たって必要な学習内容が質的にも量的にも 十分に確保されるよう記述内容を工夫する必要があるとした。このように,今回の 改訂においては,指導内容の増加は抑制し,基礎的・基本的な知識・技能の確実な 定着やその活用を図る学習活動の充実を重視することとしているが,そのためには, 教科書だけでなく,各学校において使用される各種教材等についても,質・量両面 での充実が必要であるとの考え方に立っており,このような観点から「教材等の精 選を図」ることを削除したものである。 4 合科的・関連的な指導(第1章第4の1(4)) (4) 児童の実態等を考慮し,指導の効果を高めるため,合科的・関 連的な指導を進めること。 学校教育において目指している全人的な生きる力を児童にはぐくんでいくために --61/111-- -59- は,各教科等の間の連携を図った指導を行い,横断的・総合的な指導を推進してい くことが必要である。 このため,総合的な学習の時間と連携しつつ,小学校低学年においては生活科を 中核とした合科的な指導を一層推進するとともに,中学年以上においても合科的・ 関連的な指導を進めることを重視する必要がある。 各教科等がそれぞれ独立して目標をもち内容を構成しているのは,各教科等ごと にそれぞれ独立して授業を行うことを前提としているからである。しかし,児童に 確かな学力を育成するため,知識と生活との結び付きや教科等を超えた知の総合化 の視点を重視した教育を展開することを考慮したとき,教科の目標や内容の一部に ついてこれらを合わせて指導を行ったり,関連させて指導を進めたりした方が効果 が上がる場合も考えられることから,合科的な指導を行うことができることとした り,関連的な指導を進めたりすることとしたものである。 学習指導要領における「合科的・関連的な指導」については,次のように理解す る必要がある。 すなわち,合科的な指導は,教科のねらいをより効果的に実現するための指導方 法の一つである。単元又は1コマの時間の中で,複数の教科の目標や内容を組み合 わせて,学習活動を展開するものである。また,関連的な指導は,教科等別に指導 するに当たって,各教科等の指導内容の関連を検討し,指導の時期や指導の方法な どについて相互の関連を考慮して指導するものである。 学習指導要領では,合科的・関連的な指導について,総則におけるこの規定のほ か,国語科,音楽科及び図画工作科において「低学年においては,生活科などとの 関連を積極的に図り,指導の効果を高めるようにすること。」とし,生活科におい て「国語科,音楽科,図画工作科など他教科等との関連を積極的に図り,指導の効 果を高めるようにすること。特に,第1学年入学当初においては,生活科を中心と した合科的な指導を行うなどの工夫をすること。」とそれぞれ示している。このよ うに,低学年では特に生活科を中核として合科的・関連的な指導の工夫を進め,指 導の効果を一層高めるようにする必要がある。特に第1学年入学当初における生活 科を中心とした合科的な指導については,新入生が,幼児教育から小学校教育へと --62/111-- -60- 円滑に移行することに資するものであり,幼児教育との連携の観点から工夫するこ とが望まれる。 中学年以上においても,児童の興味・関心が広がり,思考が次第に総合的になる 発達の段階を考慮し,各教科間の目標や内容の関連をより幅広く押さえ,指導計画 を弾力的に作成し,合科的・関連的な指導を進めるなど創意工夫した指導を行うこ とが大切である。また,総合的な学習の時間における学習活動が,各教科等の目標 や内容と関連をもつとき,指導の時期を考慮したり,題材の取り上げ方を工夫した りして関連的に指導することもできる。 合科的・関連的な指導についての指導計画の作成に当たっては,各教科等の目標, 内容等を検討し,各教科等の指導の年間の見通しに立って,その教材や学習活動の 関連性を具体的に確認するとともに,指導内容が広がり過ぎて焦点が定まらず十分 な成果が上がらなかったり,児童の負担過重になったりすることのないように留意 する必要がある。 合科的・関連的な指導を行うに当たっては,児童が自然な形で意欲的に学習に取 り組めるような学習課題を設定するとともに,課題選択の場を設けたり,教科書を 工夫して使用したり,その指導に適した教材を作成したりして,指導の効果を高め るようにすることが必要である。 なお,合科的な指導に要する授業時数は,原則としてそれに関連する教科の授業 時数から充当することになる。指導に要する授業時数をあらかじめ算定し,関連す る教科を教科ごとに指導する場合の授業時数の合計とおおむね一致するように計画 する必要がある。 --63/111-- -61- 第5節 教育課程実施上の配慮事項 教育課程実施に当たっては,配慮しなければならない様々な事項がある。 学習指導要領第1章総則第4の2においては,そのような実施上の配慮事項につい て,12項目にわたって示している。従前に比べて,言語活動の充実,見通しを立てた り振り返ったりする学習活動の充実,障害のある児童の指導の充実,情報教育の充実 などについての記述の充実を図っているが,これらは教育の効果を高めるために特に 必要な事項を加えたものである。各学校においては,これらの事項に十分配慮し,教 育課程を実施するよう努めなければならない。 1 児童の言語環境の整備と言語活動の充実(第1章第4の2(1)) (1) 各教科等の指導に当たっては,児童の思考力,判断力,表現力 等をはぐくむ観点から,基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図 る学習活動を重視するとともに,言語に対する関心や理解を深め, 言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え,児童の 言語活動を充実すること。 前述のとおり,今回の改訂では,基礎的・基本的な知識・技能を習得する学習活 動,これらの活用を図る学習活動及び総合的な学習の時間を中心とした探究活動と いった学習の流れを重視し,基礎的・基本的な知識・技能の習得とこれらを活用し て課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の育成をバランスよく図 ることとしている。 この点についての中央教育審議会の審議の流れを整理すると,平成17年10月の中 央教育審議会答申(「新しい時代の義務教育を創造する」)は,習得型の教育と探究 型の教育とは対立的・二者択一的にとらえるべきものではなく,両方を総合的に育 成することが必要と提言したが,習得と探究をどのように関係付けて総合的にはぐ くむのかその具体的なイメージがはっきりしないといった指摘もあった。そこで, --64/111-- -62- 中央教育審議会教育課程部会では,現在でも取り組まれている観察・実験,レポー トの作成,論述といった知識・技能の活用を図る学習活動をその両者の間に位置付 け,実際の指導において知識・技能の習得を図る学習活動,知識・技能の活用を図 る学習活動,総合的な学習の時間を中心として行われる,教科等の枠を超えた横断 的・総合的な課題について各教科等で習得した知識・技能を相互に関連付けながら 解決するといった探究活動などの学習活動の動態的な流れを意識するとともに,各 教科で知識・技能を活用する学習活動を充実することができるよう授業時数を見直 したりこれらの学習活動の流れの基盤である言語に関する能力を重視したりする必 要があるとの審議が行われた。 その結果,新しい学習指導要領についての中央教育審議会答申(平成20年1月) は,知識・技能の習得や活用,探究について次のように提言した。 ・ 教科では,基礎的・基本的な知識・技能を習得しつつ,観察・実験をし,その 結果をもとにレポートを作成する,文章や資料を読んだ上で,知識や経験に照ら して自分の考えをまとめて論述するといったそれぞれの教科の知識・技能を活用 する学習活動を行い,それを総合的な学習の時間における教科等を横断した課題 解決的な学習や探究活動へと発展させることが必要である。 ・ これらの学習活動は相互に関連し合っており,截然と分類されるものではない せつ が,知識・技能を活用する学習活動やこれらの成果を踏まえた探究活動を通して, 思考力・判断力・表現力等がはぐくまれる。 ・ 各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は,決して一つ の方向で進むだけではなく,例えば,知識・技能の活用や探究がその習得を促進 するなど,相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。 このため,今回の改訂においては,例えば,漢字の指導を充実させたり(国語), 四則演算について学年間で反復(スパイラル)させたりする(算数)などの学習活 動を各教科の内容に加え,発達の段階に応じた知識・技能の習得に配慮している。 その上で,各教科において,例えば,算数科では,「身の回りから,伴って変わる 二つの数量を見付け,数量の関係を表やグラフを用いて表し,調べる活動」といっ た算数的活動を例示するとともに,理科では,「身近な自然の観察」といった観察・ --65/111-- -63- 実験を重視するなど知識・技能の活用を図る学習活動を新たに設けた。これらの学 習活動を通じ,「科学的な概念の定着」を図るなど各教科の基本的な概念の理解も 重視している。 また,知識・技能を習得するのも,これらを活用し課題を解決するために思考し, 判断し,表現するのもすべて言語によって行われるものであり,これらの学習活動 の基盤となるのは,言語に関する能力である。さらに,言語は論理的思考だけでは なく,コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもあり,豊かな心をはぐくむ上で も,言語に関する能力を高めていくことが求められている。したがって,今回の改 訂においては,言語に関する能力の育成を重視し,各教科等において言語活動を充 実することとしている。 具体的には,言語に関する能力を育成する中核的な教科である国語科においては, 話すこと・聞くこと,書くこと,読むことのそれぞれに記録,要約,説明,論述と いった言語活動を例示した。また,各教科においても, ・ 「観察や調査・見学などの体験的な活動やそれに基づく表現活動の一層の充 実」(社会) ・ 「三角形,平行四辺形,ひし形及び台形の面積の求め方を,具体物を用いた り,言葉,数,式,図を用いたりして考え,説明する」といった算数的活動の 充実(算数) ・ 「観察,実験の結果を整理し考察する学習活動や,科学的な言葉や概念を使 用して考えたり説明したりするなどの学習活動」の充実(理科) ・ 「自分たちの生活や地域の出来事を身近な人々と伝え合う活動を行い,身近 な人々とかかわることの楽しさが分かり,進んで交流する」活動の充実(生活) ・ 「楽曲を聴いて想像したことや感じ取ったことを言葉で表すなどして,楽曲 の特徴や演奏のよさを理解すること」の重視(音楽) ・ 「感じたことや思ったことを話したり,友人と話し合ったりするなどして, 表し方の変化,表現の意図や特徴などをとらえること」の重視(図画工作) ・ 「衣食住など生活の中の様々な言葉を実感を伴って理解する学習活動や,自 分の生活における課題を解決するために言葉や図表などを用いて生活をよりよ --66/111-- -64- くする方法を考えたり,説明したりするなどの学習活動」の充実(家庭) ・ 「自分のチームの特徴に応じた作戦を立てたりする」活動の重視(体育) などそれぞれの教科の特質に応じた言語活動の充実について記述されている。また, 外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図る態度をはぐくむとともに我が国 と外国の言語や文化について体験的に理解を深めることを目的とする外国語活動は もとよりのこと,道徳においても,「自分の考えを基に,書いたり話し合ったりす るなどの表現する機会を充実」することを,総合的な学習の時間では,「問題の解 決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学習活動 や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるよう にすること」をそれぞれ重視している。さらに,特別活動では,「体験活動を通し て気付いたことなどを振り返り,まとめたり,発表し合ったりするなどの活動」の 充実が規定された。 このように,今回の改訂においては,各教科等を通じ基礎的・基本的な知識・技 能の活用を図る学習活動や言語活動の充実を図っているところであるが,その基本 的な考え方を総則上明示したのが本項である。 なお,このように言語に関する能力を向上させ,言語に対する意識や関心を高め 理解を深めることは,各教科等における指導だけでなく,学校生活全体において配 慮することが大切である。児童の日常生活において,言語活動は何らかの生活目的 を達成するために行われており,児童がどういう目的のために言語活動をするのか という意識をもち,その目的にかなった言語活動ができるようにすることが大切で ある。そのためには,児童が日常生活における言語の役割や機能などについて意識 や関心をもって正しい国語を用いるよう指導することが必要であり,また教師自身 が児童より一層言語に対する意識と関心をもって指導に当たることが必要である。 また,児童の言語活動は,児童を取り巻く言語環境によって影響を受けることが 大きいので,学校生活全体における言語環境を整備することも大切である。すなわ ち,学校全体における言語環境を望ましい状態に整えておくことが児童の言語活動 を適正にする上で重要であるからにほかならない。学校生活全体における言語環境 の整備としては,例えば,@教師は正しい言語で話し,黒板などに正確で丁寧な文 --67/111-- -65- 字を書くこと,A校内の掲示板やポスター,児童に配布する印刷物において用語や 文字を適正に使用すること,B校内放送において,適切な言葉を使って簡潔に分か りやすく話すこと,C適切な話し言葉や文字が用いられている教材を使用すること, D教師と児童,児童相互の話し言葉が適切に行われるような状況をつくること,E 児童が集団の中で安心して話ができるような教師と児童,児童相互の好ましい人間 関係を築くことなどに留意する必要がある。なお,言語環境をはじめ学校教育活動 を通じ,色のみによる識別に頼った表示方法をしないなどの配慮も必要である。ま た,小学校段階では,教師の話し言葉などが児童の言語活動に与える影響が大きい ので,それを適切にするよう留意することが大切である。 2 体験的・問題解決的な学習及び自主的,自発的な学習の促進(第1章第4 の2(2)) (2) 各教科等の指導に当たっては,体験的な学習や基礎的・基本的 な知識及び技能を活用した問題解決的な学習を重視するとともに, 児童の興味・関心を生かし,自主的,自発的な学習が促されるよう 工夫すること。 これからの学校教育においては,変化の激しいこれからの社会を考えたとき,ま た,生涯にわたる学習の基礎を培うため,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定 着とともに,それらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等の 育成を重視した教育を行うことが必要であり,児童がこれらを支える知的好奇心や 探究心をもって主体的に学習に取り組む態度を養うことは極めて重要である。この ような資質や能力を育成するためには,体験的な学習や基礎的・基本的な知識・技 能を活用した問題解決的な学習を充実する必要がある。 このため,例えば,国語科では「資料を提示しながら説明や報告をしたり,それ らを聞いて助言や提案をしたりすること」,「調べたことやまとめたことについて, 討論などをすること」などを言語活動例として示し,社会科では観察や調査・見学, --68/111-- -66- 表現活動,算数科では「言葉,数,式,図を用いたりして考え,説明する活動」や 「目的に応じて表やグラフを選び,活用する活動」といった算数的活動,理科では 観察,実験の結果を整理し考察する学習活動やものづくりを通した学習活動,家庭 科では衣食住や家庭の生活などに関する実践的・体験的な活動などを充実してい る。さらに,総合的な学習の時間においては,自然体験やボランティアなどの社会 体験,ものづくり,生産活動などの体験活動,観察・実験,見学や調査,発表や討 論などの学習活動を積極的に取り入れ,基礎的・基本的な知識・技能を活用した問 題解決的な学習を充実させることとしている。このような学習の在り方は特定の教 科等にとどまらず学校教育全体を通じて重視する必要がある。 体験的な学習や基礎的・基本的な知識・技能を活用した問題解決的な学習は,主 体的に学習に取り組む能力を身に付けさせるとともに,学ぶことの楽しさや成就感 を体得させる上で有効である。このような学習の意義を踏まえ,各教科等の指導に おいて体験的な学習や問題解決的な学習に取り組めるようにすることが大切であ る。各教科等において習得すべき知識や技能も体験的な学習やそれらを活用した問 題解決的な学習を通すことによって,児童一人一人のその後の学習や生活において 生かされ総合的に働くようになるものと考えられる。 また,各教科等の指導においては,基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得に 留意しつつ,児童の興味・関心を生かした学習指導を展開することが大切である。 児童の興味・関心を生かすことは,児童の学習意欲を喚起する上で有効であり,ま た,それは自主的,自発的な学習を促すことにつながると考えられるからである。 この意味で各教科等の指導においては,学習することの意味の適切な指導を行いつ つ,基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得を図るとともに,自主的,自発的な 学習を促すことによって,児童が学習の目的を自覚し,学習における進歩の状況を 意識し,進んで学習しようとする態度が育つよう配慮することが大切である。 このような学習を実施するためには,各学校においては,指導計画に適切に位置 付けるとともに,教材,指導形態,1単位時間や授業時数の運用などに創意工夫を 加え,これらの学習を積極的に取り入れることが望まれる。なお,これらの学習を 展開するに当たっては,学習の内容と児童の発達の段階に応じて安全への配慮を十 --69/111-- -67- 分に行わなければならない。 3 学級経営と生徒指導の充実(第1章第4の2(3)) (3) 日ごろから学級経営の充実を図り,教師と児童の信頼関係及び 児童相互の好ましい人間関係を育てるとともに児童理解を深め,生 徒指導の充実を図ること。 学校は,児童にとって伸び伸びと過ごせる楽しい場でなければならない。児童一 人一人は興味や関心などが異なることを前提に,児童が自分の特徴に気付き,よい 所を伸ばし,存在感を実感することが求められており,そのために,生徒指導の一 層の充実を図ることが必要である。生徒指導は,児童一人一人の人格を尊重しなが ら,規範意識をはぐくむなど社会的資質や行動力を高めるように指導,援助するこ とである。 生徒指導を着実に進める上での基盤は学級であり,学級担任の教師の営みは重要 である。学級担任の教師は,学校・学年経営を踏まえて,調和のとれた学級経営の 目標を設定し,指導の方向及び内容を学級経営案として整えるなど,学級経営の全 体的な構想を立てるようにする必要がある。 学級経営を行う上で最も重要なことは学級の児童一人一人の実態を把握するこ と,すなわち確かな児童理解である。一人一人の児童はそれぞれ違った能力・適性, 興味・関心等をもっている。学級担任の教師の,日ごろのきめ細かい観察を基本に, 面接など適切な方法を用いて,一人一人の児童を客観的かつ総合的に認識すること が児童理解の第一歩である。日ごろから,児童の気持ちを理解しようとする学級担 任の教師の姿勢は,児童との信頼関係を築く上で極めて重要であり,愛情をもって 接していくことが大切である。 また,学級を一人一人の児童にとって存在感を実感できる場としてつくりあげる ことが大切である。すなわち,児童の規範意識を育成するため,必要な場面では, 学級担任の教師の毅然とした対応を行いつつ,相手の身になって考え,相手のよさ --70/111-- --70/111-- -68- を見付けようと努める学級,お互いに協力し合い,自分の力を学級全体のために役 立てようとする学級,言い換えれば,児童相互の好ましい人間関係を育てていく上 で,学級の風土を支持的な風土につくり変えていくことが大切である。さらに,集 団の一員として,一人一人の児童が安心して自分の力を発揮できるよう,日ごろか ら,児童に自己存在感や自己決定の場を与え,その時その場で何が正しいかを判断 し,自ら責任をもって行動できる能力を培うことが大切である。 学習場面においては,指導方法の改善を図るとともに,習熟度別・少人数指導や 補充的な学習といったきめ細かい個に応じた指導などを必要に応じ外部人材の活用 を図りつつ行うことにより,児童がつまずきやすい内容をはじめ基礎的・基本的な 知識・技能の確実な定着を図る必要がある。分かる喜びは学習意欲につながる。ま た,小学校低・中学年の段階における家庭学習も含めた学習習慣の確立とともに, 観察・実験やレポートの作成など知識・技能の活用を図る学習活動や勤労観・職業 観を育てるためのキャリア教育などを通じ学ぶ意義を実感することも重要である。 分かる喜びや学ぶ意義を実感できない授業は児童にとって苦痛であり,児童の劣等 意識を助長し,情緒の不安定をもたらし,様々な問題行動を生じさせる原因となる ことも考えられる。学級担任の教師は,児童一人一人の特性を十分把握した上で, 他の教師の助言や協力を得て,指導技術の向上,指導方法や指導体制などの工夫改 善を図り,日ごろの学習指導を一層充実させることが大切である。また,教師の意 識しない言動や価値観が,児童に感化を及ぼすこともあり,この見えない部分での 教師と児童との人間関係に十分配慮する必要がある。 生徒指導は,全教職員の共通理解を図り,学校全体として協力して進めることが 大切である。この点を踏まえ,校長や副校長,教頭の指導の下,学級担任の教師は, 学年の教師や生徒指導の主任,さらに養護教諭など他の教職員と連携しながら学級 経営を進めることが大切であり,開かれた学級経営の実現を目指す必要がある。ま た,充実した学級経営を進めるに当たっては,家庭や地域社会との連携を密にする ことが大切である。特に保護者との間で,学級通信や保護者会,家庭訪問などによ る相互の交流を通して,児童理解,児童に対する指導の在り方について共通理解を しておく必要がある。 --71/111-- -69- 4 見通しを立てたり,振り返ったりする学習活動の重視(第1章第4の2 (4)) (4) 各教科等の指導に当たっては,児童が学習の見通しを立てたり 学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるように 工夫すること。 今回の改訂では,教育基本法第6条第2項(「教育を受ける者が,学校生活を営 む上で必要な規律を重んずるとともに,自ら進んで学習に取り組む意欲を高めるこ とを重視して行われなければならない。」)及び学校教育法第30条第2項(「主体的 に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければならない。」)を踏まえ, 児童の学習意欲の向上を重視している。指導に当たって,児童が学習の見通しを立 てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れ,自主的に学ぶ態 度をはぐくむことは,学習意欲の向上に資することから,今回特に規定を新たに追 加したものである。 従前から,「日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てる」 (算数),「見通しをもって観察,実験などを行」う(理科)など児童が学習を行う 上で見通しを立てたり,学習したことを振り返ったりする活動を重視しているが, OECDのPISA調査などの各種の学力調査においては,例えば,与えられた課 題が科学的に調査可能な問題かどうかを問う出題についての正答率が低いなど必ず しも学習の見通しを立てることなどが十分にできているとは言えない状況が見られ た。 このため,本項において,各教科等の指導に当たっては,児童が学習の見通しを 立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるように工夫す ることが重要であることを記述したものである。 具体的には,例えば,授業の冒頭に当該授業での学習の見通しを児童に理解させ --72/111-- -70- たり,授業の最後に児童が当該授業で学習した内容を振り返る機会を設けたりとい った取組の充実や児童が家庭において学習の見通しを立てて予習をしたり学習した 内容を振り返って復習したりする習慣の確立などを図ることが重要である。これら の指導を通じ,児童の学習意欲が向上するとともに,児童が学習している事項につ いて,事前に見通しを立てたり,事後に振り返ったりすることで学習内容の確実な 定着が図られ,思考力・判断力・表現力等の育成にも資するものと考えられる。 5 課題選択や自己の生き方を考える機会の充実(第1章第4の2(5)) (5) 各教科等の指導に当たっては,児童が学習課題や活動を選択し たり,自らの将来について考えたりする機会を設けるなど工夫する こと。 知識・技能を活用して課題を解決するための思考力,判断力,表現力等や主体的 に学習に取り組む態度を養うに当たっては,児童が学習課題や活動を選択する能力 を育てたり,将来の生き方や進路などを考えたりする指導を工夫することが大切で ある。なかでも,思春期に入り,自分の将来に目を向け始める児童が多い高学年の 段階では,工夫した指導が望まれる。 そのためには,各教科等の指導において,基礎的・基本的な知識・技能の確実な 定着を図るとともに,これらの活用を図る学習活動を行うに当たって,児童が主体 的に自分の生活体験や興味・関心をもとに課題を見付け,自分なりに方法を選択し て解決に取り組むことができるように配慮し,課題選択能力や解決能力を育てるこ とが必要である。また,児童が自分自身を見つめ,自らの将来について目を向ける 機会などを通して,自分の特徴に気付き,自分らしい生き方を実現していこうとす る態度を育成していくことが大切である。 このような能力や態度を育てるためには,学校の全教育活動を通じて,全教職員 が児童の発達の段階を考慮し,計画的,継続的な指導を行っていくことが必要であ る。 --73/111-- -71- まず,各教科の学習においては,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図 り,分かる喜びを実感させることに留意しつつ,(4)のとおり,指導に当たって, 児童が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取 り入れるように工夫し,児童が学習することの意味をとらえたり,児童自らが成長 を実感できるようにしたりすること,児童が体験や調査,実験等を通して問題解決 的に取り組む課題選択的な学習を充実することなどが大切である。 道徳の時間では,児童自らが基本的な生活習慣や粘り強さ,目標へ向けての努力 などにかかわる主題について自己を見つめ,道徳的価値の自覚を深めることを通し て,道徳的実践力が育つように指導を工夫し,児童がこれからの課題や目標を見付 けられるようにすることが大切である。 特別活動では,特に学級活動の内容(2)のアとして「希望や目標をもって生きる 態度の形成」を示すとともに,学級活動などにおいて児童が自ら現在及び将来の生 き方を考えることができるよう工夫することとしている。例えば学年のはじめや学 期のはじめに,その学年,学期を過ごすための自分の目標をもつことができるよう にしたり,各自の悩みや葛藤,将来の夢等の課題を積極的に取り上げ,考えを深め かっとう られるようにしたりして,指導を工夫することなどが考えられる。 さらに,総合的な学習の時間でも,児童が横断的・総合的な課題や興味・関心に 基づく課題等について,問題解決や探究活動に主体的・創造的に取り組み,自己の 生き方に目を向けていくことができるようにすることが大切である。 なお,これらの指導は,児童の自立心や自律性をはぐくむ上で重要であることを 踏まえ,その充実に努めるとともに,児童の実態に応じ,きめ細かな相談に応じた り様々な情報を提供することにも配慮する必要がある。 これらの指導をより効果的に推進するためには,全教職員がこの指導の重要性を 共通理解し,教職員が相互に密接な連絡をとり,それぞれの役割・立場において協 力して指導に当たること,家庭や地域との連携についても十分に考慮していくこと が大切である。 --74/111-- -72- 6 指導方法や指導体制の工夫改善など個に応じた指導の充実(第1章第4の 2(6)) (6) 各教科等の指導に当たっては,児童が学習内容を確実に身に付 けることができるよう,学校や児童の実態に応じ,個別指導やグル ープ別指導,繰り返し指導,学習内容の習熟の程度に応じた指導, 児童の興味・関心等に応じた課題学習,補充的な学習や発展的な学 習などの学習活動を取り入れた指導,教師間の協力的な指導など指 導方法や指導体制を工夫改善し,個に応じた指導の充実を図ること。 児童はそれぞれ能力・適性,興味・関心,性格等が異なっており,また,知識, 思考,価値,心情,技能,行動等も異なっている。児童が学習内容を自分のものと して働かせることができるように身に付けるためには,教師はこのような個々の児 童の特性等を十分理解し,それに応じた指導を行うことが必要であり,指導方法の 工夫改善を図ることが求められる。それによって,児童一人一人が基礎的・基本的 な知識・技能を確実に習得し,それらを活用して課題を解決するために必要な思考 力・判断力・表現力等をはぐくみ,その後の学習や生活に生かすことができるよう にするとともに,自分自身のものの見方や考え方をもてるようにすることが大切で ある。また,児童が主体的に学習を進められるようになるためには,学習内容のみ ならず,学習方法への注意を促し,それぞれの児童が自分にふさわしい学習方法を 模索するような態度を育てることも必要となる。そのための児童からの相談にも個 別に応じることが望まれる。なお,こうした指導方法の工夫はすべての児童に対応 するものであるが,学習の遅れがちな児童には特に配慮する必要がある。 個に応じた指導のための指導方法や指導体制については,児童の実態,学校の実 態などに応じて,学校が一体となって工夫改善を進めていくことが重要である。す なわち,各学校は,その環境や教職員の構成,施設・設備などがそれぞれ異なって いるが,それらに応じて最も効果的な方法を工夫し,組織体としての総合的な力を 発揮していくことが大切である。学校には,校長,副校長,教頭,主幹教諭,指導 --75/111-- -73- 教諭,教諭,養護教諭や栄養教諭など専門性を有する教職員がおり,これらすべて の教職員が協力して児童の指導に当たることが必要である。指導体制の充実は,学 習指導や生徒指導などに幅広くわたるものであり,学校全体が,共通理解の下に協 力して教育活動を進めていかなくてはならない。 指導体制の工夫改善を進める上で校長の果たす役割は大きいので,校長は指導力 を発揮して,指導体制の活性化を図るよう努めることが必要である。また,校長や 副校長,教頭が授業の指導を行ったり参加したり,学習指導について経験豊かな指 導教諭などの教師が他の学級の授業を支援したりするなど,様々な工夫をすること が求められる。さらに,指導案の作成,授業研究などを学年会や教科部会,学校全 体などで行い,広く意見を交わし合い,教師間で情報の共有を図るような機会を設 けたり,それぞれの役割分担を明確にすることも,より効果的な指導を行うために は大切である。なお,教師が教材研究,指導の打合せ,地域との連絡調整などに充 てる時間を可能な限り確保できるよう,会議の持ち方や時間割の工夫など時間の効 果的・効率的な利用等に配慮することも重要であろう。 指導方法については,児童の発達の段階や学習の実態などに配慮しながら,従来 から取り組まれてきた一斉指導に加え,個別指導やグループ別指導といった学習形 態の導入,理解の状況に応じた繰り返し指導,学習内容の習熟の程度に応じた指導, 児童の興味・関心や理解の状況に応じた課題学習,補充的な学習や発展的な学習な どの学習活動を取り入れた指導などを柔軟かつ多様に導入することが重要である。 学習内容の習熟の程度に応じた指導については,教科により児童の習熟の程度に 差が生じやすいことを考慮し,それぞれの児童の習熟の程度に応じたきめ細かな指 導方法を工夫して着実な理解を図っていくことが大切であることから,これらの指 導方法等が例示されているものであるが,その指導については,学級内で学習集団 を編成する場合と学級の枠を超えて学習集団を編成する場合が考えられる。その実 施に当たっては,学校の実情や児童の発達の段階等に応じ,必要な教科について適 宜弾力的に行うものであり,実施時期,指導方法,評価の在り方等について十分検 討した上で実施するなどの配慮が必要である。また,各学校で学習内容の習熟の程 度に応じた指導を実施する際には,児童に優越感や劣等感を生じさせたり,学習集 --76/111-- -74- 団による学習内容の分化が長期化・固定化するなどして学習意欲を低下させたりす ることのないように十分留意する必要がある。また,学習集団の編成の際は,教師 が一方的に児童を割り振るのではなく,児童の興味・関心等に配慮し,自分で課題 や集団を選ぶことができるよう配慮することも重要である。その際,児童が自分の 能力・適性に全く合致しない課題や集団を選ぶようであれば,教師は適切な助言を 行うなどの工夫を行うことが大切である。また,保護者に対しては,指導内容・指 導方法の工夫改善等を示した指導計画,期待される学習の充実に係る効果,導入の 理由等を事前に説明するなどの配慮が望まれる。なお,小学校は義務教育段階であ るということを考慮し,基本的な学級編制を変更しないことが適当である。 児童の興味・関心等に応じた課題学習,補充的な学習や発展的な学習などの学習 活動を取り入れた指導を実施する際には,それぞれのねらいを明らかにし,授業で 扱う内容と学習指導要領に示す各教科等の目標と内容との関係を明確にして取り組 むことが大切である。特に,補充的な学習を取り入れた指導を行う際には,様々な 指導方法や指導体制の工夫改善を進め,当該学年までに学習する内容の確実な定着 を図ることが必要であるし,発展的な学習を取り入れた指導を行う際には,児童の 負担過重とならないように配慮するとともに,学習内容の理解を一層深め,広げる という観点から適切に導入することが大切である。このほかにも,教材・教具の工 夫や開発,コンピュータ等の教育機器の活用,指導の過程における形成的評価など の評価の工夫など児童の実態や指導の場面に応じ,多方面にわたる対応が必要であ ろう。 また,指導体制の工夫に当たっては,教師一人一人にも得意の分野など様々な特 性があるので,それを生かしたり,学習形態によっては,教師が協力して指導した りすることにより,指導の効果を高めるようにすることが大切である。その具体例 としては,ティーム・ティーチング,合同授業,交換授業のほか,従来の学級担任 による全教科担任にとらわれず,学年や教科によって,専科指導を取り入れること などが考えられ,各学校の実態に応じて工夫することが望ましい。また,食育その 他の心身の健康の保持増進に関する指導において,これらについての専門性を有す る養護教諭や栄養教諭の積極的な参画・協力を得たりすること,学校内にとどまら --77/111-- -75- ず,学校外の様々な分野の専門家の参加・協力を得たりすることなど様々な工夫を 行い,指導の効果を高めることが大切である。 7 障害のある児童の指導(第1章第4の2(7)) (7) 障害のある児童などについては,特別支援学校等の助言又は援 助を活用しつつ,例えば指導についての計画又は家庭や医療,福祉 等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成 することなどにより,個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容 や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。特に,特別支援学 級又は通級による指導については,教師間の連携に努め,効果的な 指導を行うこと。 平成18年に学校教育法が改正され,従来の盲・聾・養護学校は,障害の重複化等 ろう に対応した適切な教育を行うため,平成19年度から,複数の障害種別を教育の対象 とすることのできる「特別支援学校」に転換された。特別支援学校は,障害のある 児童生徒等に対して,小学校等に準ずる教育を行うとともに,障害による学習上又 は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける教育を行う(同 法第72条)ほか,小学校等の要請に応じて,小学校等に在籍する障害のある児童等 の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努める(同法第74条)ものと規定され た。 また,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等において,障害のある児童生徒等に 対し,障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うこと(同法 第81条第1項)が規定された。このように,特別支援教育については,大きな制度 改正がなされたところである。 小学校には,特別支援学級や通級による指導を受ける障害のある児童とともに, 通常の学級にもLD(学習障害),ADHD(注意欠陥多動性障害),自閉症などの障害の ある児童が在籍していることがあり,これらの児童については,障害の状態等に即 した適切な指導を行わなければならない。 --78/111-- -76- 今回の改訂では,障害のある児童の指導に当たっては,特別支援学校等の助言や 援助を活用すること,個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工 夫を計画的,組織的に行うことなどが新たに加わった。 障害のある児童を指導するに当たっては,まず,児童の障害の種類や程度を的確 に把握する必要がある。児童の障害には,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不 自由,病弱・身体虚弱,言語障害,情緒障害,自閉症,LD(学習障害),ADHD(注意 欠陥多動性障害)などがある。 次に,個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容・指導方法の工夫を検討し, 適切な指導を計画的,組織的に行わなければならない。例えば,弱視の児童につい ての体育科におけるボール運動の指導や理科等における観察・実験の指導,難聴や 言語障害の児童についての国語科における音読の指導や音楽科における歌唱の指導, 肢体不自由の児童についての体育科における実技の指導や家庭科における実習の指 導など,それぞれに個別的に特別な配慮が必要である。また,読み書きや計算など に困難があるLD(学習障害)の児童についての国語科における書き取りや算数科に おける筆算や暗算の指導など,教師の適切な配慮により対応することが必要である。 さらに,ADHD(注意欠陥多動性障害)や自閉症の児童に対して,話して伝えるだけ でなく,メモや絵などを付加する指導などの配慮も必要である。 このため,特別支援学校や医療・福祉などの関係機関と連携を図り,障害のある 児童の教育についての専門的な助言や援助を活用しながら,適切な指導を行うこと が大切である。指導に当たっては,例えば,障害のある児童一人一人について,指 導の目標や内容,配慮事項などを示した計画(個別の指導計画)を作成し,教職員 の共通理解の下にきめ細かな指導を行うことが考えられる。 また,障害のある児童については,学校生活だけでなく家庭生活や地域での生活 も含め,長期的な視点に立って幼児期から学校卒業後までの一貫した支援を行うこ とが重要である。このため,例えば,家庭や医療機関,福祉施設などの関係機関と 連携し,様々な側面からの取組を示した計画(個別の教育支援計画)を作成するこ となどが考えられる。 このような指導は,特別支援学校や特別支援学級で行われてきており,それらを --79/111-- -77- 参考とするなどして,それぞれの学校や児童の実態に応じた指導方法を工夫するこ とが効果的と考えられる。 さらに,担任教師だけが指導に当たるのではなく,校内委員会を設置し,特別支 援教育コーディネーターを指名するなど学校全体の支援体制を整備するとともに, 特別支援学校等に対し助言又は援助を要請するなどして,計画的,組織的に取り組 むことが重要である。 特に,本章第2節3にあるように,特別支援学級は,障害があるために通常の学 級における指導では十分に指導の効果を上げることが困難な児童のために編制され た少人数の学級であり,児童の障害の状態等に応じて,適切な配慮の下に指導が行 われている。特別支援学級は,小学校の学級の一つであり,特別支援学級も通常の 学級と同様,これを適切に運営していくためには,すべての教師の理解と協力が必 要である。学校運営上の位置付けがあいまいになり,学校組織の中で孤立すること のないよう留意する必要がある。このため,学校全体の協力体制づくりを進めたり, すべての教師が障害について正しい理解と認識を深めたりして,教師間の連携に努 める必要がある。 また,通級による指導は,特別支援学級とは別に,小学校の通常の学級に在籍し ている障害のある児童に対して,特別の指導の場(通級指導教室)において,障害 に応じた特別の指導を行うものである。対象となる児童に対する通常の学級におけ る指導と通級による指導とが共に効果的に行われるためには,それぞれの担当教師 同士が児童の様子や変化について定期的に情報交換を行い,特別の指導の場におけ る指導の成果が,通常の学級においても生かされるようにするなどして連携に努め, 指導の充実を図ることが重要と言える。さらに,他校において指導を受ける場合に は,学校間及び担当教師間の連携の在り方を工夫し,情報交換等が円滑に行われる よう配慮する必要がある。 障害のある児童の指導に当たっては,特に教職員の理解の在り方や指導の姿勢が, 児童に大きく影響することに十分留意し,学校や学級内における温かい人間関係づ くりに努めることが大切である。 なお,学習上の配慮を要する児童については,児童の実態に応じたきめ細かな指 --80/111-- --80/111-- -78- 導をするよう配慮する必要がある。 8 海外から帰国した児童や外国人の児童の指導(第1章第4の2(8)) (8) 海外から帰国した児童などについては,学校生活への適応を図 るとともに,外国における生活経験を生かすなどの適切な指導を行 うこと。 国際化の進展に伴い,学校現場では帰国児童や外国人児童の受け入れが多くなっ ている。これらの児童の多くは,外国における生活経験等を通して,我が国の社会 とは異なる言語や生活習慣,行動様式を身に付けているが,一人一人の実態は,そ の在留国,在留期間,年齢,外国での就学形態や教育内容・方法,さらには家庭の 教育方針などによって様々である。このため,これらの児童の受け入れに当たって は,一人一人の実態を的確に把握し,当該児童が自信や誇りをもって学校生活にお いて自己実現を図ることができるように配慮することが大切である。 海外から帰国した児童や外国人の児童の中には,日本語の能力が不十分であった り,我が国とは異なる学習経験を積んでいる場合がある。このため,日本語の習得 については,日常的な取組を基本としつつ,特に文字の読み書きについては,段階 的,効率的な指導を工夫することが必要である。なお,外国人児童等の中には日常 的な日本語の会話はできていても学習に必要な日本語の能力が十分ではなく,学習 活動への参加に支障が生じている場合もあることに留意する必要がある。また,教 科の指導においては,児童一人一人に応じたきめ細かな指導が大切である。このよ うな指導は,通常の授業や日常の学校生活において十分配慮することが基本ではあ るが,これらの児童の実態によっては,取り出し指導や放課後を活用した特別な指 導などの配慮をすることも大切である。なお,この場合,あまりにも性急に未履修 分野の指導を進めようとするのではなく,当該児童の実態に合わせて,最も適した 方法を選択し,学習の成果が上がるように努めるようにすることが大切である。特 に,言葉の問題とともに生活習慣の違いなどによる不適応の問題が生じる場合もあ --81/111-- -79- るので,教師自身が当該児童の在留国に関心をもち,理解しようとする姿勢を保ち, 温かい対応を図るとともに,当該児童を取り巻く人間関係を好ましいものにするよ う学級経営等において配慮する必要がある。また,外国人児童については,課外に おいて当該国の言語や文化の学習の機会を設けることなどにも配慮することが大切 である。 また,海外から帰国した児童や外国人の児童は,日本の児童が経験していない外 国での貴重な生活経験をもっている。外国での生活や外国の文化に触れた体験を, 本人の各教科等の学習に生かすようにするとともに,他の児童の学習にも生かすよ うにすることが大切である。さらに,外国で身に付けたものの見方や考え方,感情 や情緒,外国語の能力などの特性を生かすよう配慮することも大切である。このよ うな機会としては,外国語活動のほか,例えば社会科や音楽科などの教科や道徳, 総合的な学習の時間での学習活動,特別活動における学校行事やクラブ活動などが 考えられるが,児童や学校の実態等に応じて適宜工夫することが必要である。なか でも,外国語活動などにおいて,外国語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ 親しんだりする国際理解などに関する体験的な学習活動を進める際には,それらの 生活経験等を積極的に生かすことができる。 このような,海外から帰国した児童や外国人の児童については,本人に対するき め細かな指導とともに,他の児童についても帰国した児童や外国人の児童の長所や 特性を認め,広い視野をもって異文化を理解し共に生きていこうとする姿勢を育て るよう配慮することが大切である。そして,このような相互啓発を通じて,互いに 尊重し合う態度を育て,国際理解を深めるとともに,国際社会に生きる人間として 望ましい能力や態度を育成することが期待される。 9 情報教育の充実,コンピュータ等や教材・教具の活用(第1章第4の2 (9)) (9) 各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信 ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を --82/111-- -80- 入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用 できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情 報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用 を図ること。 児童に基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに,それらを活用して課 題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育成し,主体的に学習に取 り組む態度を養うためには,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情 報手段に慣れ親しみ適切に活用できるようにすることが重要である。また,教師が これらの情報手段や視聴覚教材,教育機器などの教材・教具を適切に活用すること が重要である。 社会の情報化が進展していく中で,児童が情報を主体的に活用できるようにした り,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作,情報モラルを身に付けた りすることは一層重要となっている。このような情報活用能力を育成するため,今 回の改訂において,「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通 信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなど の基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習 活動を充実する」ことを示している。各教科等においては,国語科における言語の 学習,社会科における資料の収集・活用・整理,算数科における数量や図形の学習, 理科の観察・実験,総合的な学習の時間における情報の収集・整理・発信などコン ピュータや情報通信ネットワークなどを活用することとしているほか,道徳におい ては情報モラルを取り扱うこととしている。 すなわち,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の活用に当たっ ては,小学校段階ではそれらに慣れ親しませることから始め,キーボードなどによ る文字の入力,電子ファイルの保存・整理,インターネットの閲覧や電子メールの 送受信などの基本的な操作を確実に身に付けさせるとともに,文章を編集したり図 表を作成したりする学習活動,様々な方法で文字や画像などの情報を収集して調べ たり比較したりする学習活動,情報手段を使って交流する学習活動,調べたものを --83/111-- -81- まとめたり発表したりする学習活動など,情報手段を適切に活用できるようにする ための学習活動を充実することが必要である。 また,インターネット上での誹謗中傷やいじめ,インターネット上の犯罪や違法・ 有害情報の問題を踏まえ,情報モラルについて指導することが必要である。情報モ ラルとは,「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」であり, 具体的には,他者への影響を考え,人権,知的財産権など自他の権利を尊重し情報 社会での行動に責任をもつことや,危険回避など情報を正しく安全に利用できるこ と,コンピュータなどの情報機器の使用による健康とのかかわりを理解することな どであり,情報発信による他人や社会への影響について考えさせる学習活動,ネッ トワーク上のルールやマナーを守ることの意味について考えさせる学習活動,情報 には自他の権利があることを考えさせる学習活動,情報には誤ったものや危険なも のがあることを考えさせる学習活動,健康を害するような行動について考えさせる 学習活動などを通じて,情報モラルを確実に身に付けさせるようにすることが必要 である。その際,情報の収集,判断,処理,発信など情報を活用する各場面での情 報モラルについて学習させることが重要である。また,子どものインターネットの 使い方の変化に伴い,学校や教師はその実態や影響に係る最新の情報の入手に努め, それに基づいた適切な指導に配慮することが重要である。なお,携帯電話の利用の 問題に関しては,学校においては,家庭との連携を図りつつ,情報モラルを身に付 けさせる指導を適切に行う必要がある。 各教科等の指導に当たっては,教師がこれらの情報手段に加え,視聴覚教材や教 育機器などの教材・教具の適切な活用を図ることも重要である。これらの教材・教 具を有効,適切に活用するためには,教師はそれぞれの情報手段の操作に習熟する だけではなく,それぞれ情報手段の特性を理解し,指導の効果を高める方法につい て絶えず研究することが求められる。 また,校内のICT環境の整備に努め,児童も教師もいつでも使えるようにして おくことが重要である。 なお,児童が安心して情報手段を活用できるよう,学校においては情報機器にフ ィルタリング機能の措置を講じたり,情報セキュリティの確保などに十分配慮した --84/111-- -82- りすることが必要である。 10 学校図書館の利活用(第1章第4の2(10)) (10) 学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主 体的,意欲的な学習活動や読書活動を充実すること。 学校図書館については,教育課程の展開を支える資料センターの機能を発揮しつ つ,@児童が自ら学ぶ学習・情報センターとしての機能とA豊かな感性や情操をは ぐくむ読書センターとしての機能を発揮することが求められる。したがって,学校 図書館は,学校の教育活動全般を情報面から支えるものとして図書,その他学校教 育に必要な資料やソフトウェア,コンピュータ等情報手段の導入に配慮するととも に,ゆとりのある快適なスペースの確保,校内での協力体制,運営などについての 工夫に努めなければならない。これらを司書教諭が中心となって,児童や教師の利 用に供することによって,学校の教育課程の展開に寄与することができるようにす るとともに児童の自主的,主体的な学習や読書活動を推進することが要請される。 今回の改訂においては各教科等を通じて児童の思考力・判断力・表現力等をはぐく む観点から,言語に対する関心や理解を深め,言語に関する能力の育成を図る上で 必要な児童の言語活動の充実を図ることとしている。その中でも,読書は,児童の 知的活動を増進し,人間形成や情操を養う上で重要であり,児童の望ましい読書習 慣の形成を図るため,学校の教育活動全体を通じ,多様な指導の展開を図ることが 大切である。このような観点に立って,各教科等において学校図書館を計画的に活 用した教育活動の展開に一層努めることが大切である。各教科等においても,国語 科,社会科及び総合的な学習の時間で学校図書館を利活用することを示すとともに, 特別活動の学級活動で学校図書館の利用を指導事項として示している。また,コン ピュータや情報通信ネットワークの活用により,学校図書館と公立図書館等との連 携も一層進めやすくなっている。 --85/111-- -83- また,保護者や地域社会の人々との連携協力を進め,学校図書館が地域に開かれ たものになり,人々の生涯学習に貢献することも大切である。 11 指導の評価と改善(第1章第4の2(11)) (11) 児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに, 指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生 かすようにすること。 基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図るとともに,これらを活用して課 題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育成するための指導を行う ためには,評価の在り方が大切である。いわゆる評価のための評価に終わることな く,児童一人一人の学習の成立を促すための評価という視点を一層重視することに よって,教師が自らの指導を振り返り,指導の改善に生かしていくことが特に大切 である。 評価に当たっては,児童の実態に応じた多様な学習を促すことを通して,主体的 な学習の仕方が身に付くように配慮するとともに,児童の学習意欲を喚起するよう にすることが大切である。その際には,学習の成果だけでなく,学習の過程を一層 重視する必要がある。特に,他者との比較ではなく児童一人一人のもつよい点や可 能性などの多様な側面,進歩の様子などを把握し,学年や学期にわたって児童がど れだけ成長したかという視点を大切にすることが重要である。また,児童が自らの 学習過程を振り返り,新たな自分の目標や課題をもって学習を進めていけるような 評価を行うことが大切である。 評価については,指導内容や児童の特性に応じて,評価の場面や方法を工夫する 必要がある。学習の過程の適切な場面で評価を行うことや,教師による評価ととも に,児童による相互評価や自己評価などを工夫することも大切である。特に,相互 評価や自己評価は,児童自身の学習意欲の向上にもつながるとの観点から重視する 必要がある。 --86/111-- -84- 12 家庭や地域社会との連携及び学校相互の連携や交流(第1章第4の2 (12)) (12) 学校がその目的を達成するため,地域や学校の実態等に応じ, 家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深め ること。また,小学校間,幼稚園や保育所,中学校及び特別支援学 校などとの間の連携や交流を図るとともに,障害のある幼児児童生 徒との交流及び共同学習や高齢者などとの交流の機会を設けるこ と。 教育基本法には,第13条において「学校,家庭及び地域住民その他の関係者は, 教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに,相互の連携及び協力に努 めるものとする。」と規定されている。また,学校教育法には,「小学校は,当該小 学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに,これら の者との連携及び協力の推進に資するため,当該小学校の教育活動その他の学校運 営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする。」との規定が置かれた(同法 第43条)。このように,学校がその目的を達成するためには,家庭や地域の人々とと もに児童を育てていくという視点に立ち,家庭,地域社会との連携を深め,学校内 外を通じた児童の生活の充実と活性化を図ることが大切である。また,学校,家庭, 地域社会がそれぞれ本来の教育機能を発揮し,全体としてバランスのとれた教育が 行われることが重要である。 そのためには,教育活動の計画や実施の場面では,家庭や地域の人々の積極的な 協力を得て児童にとって大切な学習の場である地域の教育資源や学習環境を一層活 用していくことが必要である。また,各学校の教育方針や特色ある教育活動,児童 の状況などについて家庭や地域の人々に説明し理解や協力を求めたり,家庭や地域 の人々の学校運営などに対する意見を的確に把握し,自校の教育活動に生かしたり することが大切である。その際,家庭や地域社会が担うべきものや担った方がよい --87/111-- -85- ものは家庭や地域社会が担うように促していくなど,相互の意思疎通を十分に図る ことが必要である。さらに,家庭や地域社会における児童の生活の在り方が学校教 育にも大きな影響を与えていることを考慮し,休業日も含め学校施設の開放,地域 の人々や児童向けの学習機会の提供,地域社会の一員としての教師のボランティア 活動を通して,家庭や地域社会に積極的に働きかけ,それぞれがもつ本来の教育機 能が総合的に発揮されるようにすることも大切である。 また,学校同士が相互に連携を図り,積極的に交流を深めることによって,学校 生活をより豊かにするとともに,児童の人間関係や経験を広げるなど広い視野に立 った適切な教育活動を進めていくことが必要である。その際には,近隣の学校のみ ならず異なった地域の学校同士において,あるいは同一校種だけでなく異校種間に おいても,このような幅広い連携や交流が考えられる。 学校間の連携としては,例えば,同一市区町村等の学校同士が学習指導や生徒指 導のための連絡会を設けたり,合同の研究会や研修会を開催したりすることなどが 考えられる。その際,幼稚園や保育所,中学校との間で相互に幼児児童生徒の実態 や指導の在り方などについて理解を深めることは,それぞれの学校段階の役割の基 本を再確認することとなるとともに,広い視野に立って教育活動の改善充実を図っ ていく上で極めて有意義であり,幼児児童生徒に対する一貫性のある教育を相互に 連携し協力し合って推進するという新たな発想や取組が期待される。 学校同士の交流としては,例えば,近隣の小学校や幼稚園,保育所,校区の中学 校と学校行事,クラブ活動や部活動,自然体験活動,ボランティア活動などを合同 で行ったり,自然や社会環境が異なる学校同士が相互に訪問したり,コンピュータ や情報通信ネットワークなどを活用して交流したり,特別支援学校などとの交流を 図ったりすることなどが考えられる。これらの活動を通じ,学校全体が活性化する とともに,児童が幅広い体験を得,視野を広げることにより,豊かな人間形成を図 っていくことが期待される。 障害者基本法第14条第3項にも規定するとおり,障害のある幼児児童生徒との交 流及び共同学習は,児童が障害のある幼児児童生徒とその教育に対する正しい理解 と認識を深めるための絶好の機会であり,同じ社会に生きる人間として,お互いを --88/111-- -86- 正しく理解し,共に助け合い,支え合って生きていくことの大切さを学ぶ場でもあ ると考えられる。特別支援学校との交流の内容としては,例えば,学校行事や学習 を中心に活動を共にする直接的な交流及び共同学習のほか,文通や作品の交換とい った間接的な交流及び共同学習が考えられる。なお,交流及び共同学習の実施に当 たっては,双方の学校同士が十分に連絡を取り合い,指導計画に基づく内容や方法 を事前に検討し,各学校や障害のある幼児児童生徒一人一人の実態に応じた様々な 配慮を行うなどして,組織的に計画的,継続的な交流及び共同学習を実施すること が大切である。 また,特別支援学級の児童との交流及び共同学習は,日常の様々な場面で活動を 共にすることが可能であり,双方の児童の教育的ニーズを十分把握し,校内の協力 体制を構築し,効果的な活動を設定することなどが大切である。 都市化や核家族化の進行により,日常の生活において,児童が高齢者と交流する 機会は減少している。そのため,学校は児童が高齢者と自然に触れ合い交流する機 会を設け,高齢者に対する感謝と尊敬の気持ちや思いやりの心をはぐくみ,高齢者 から様々な生きた知識や人間の生き方を学んでいくことが大切である。高齢者との 交流としては,例えば,授業や学校行事などに地域の高齢者を招待したり,高齢者 福祉施設などを訪問したりして,高齢者の豊かな体験に基づく話を聞き,介護の簡 単な手伝いをするなどといった体験活動が考えられる。また,地域の様々な人々と の交流を図っていくことも考えられる。 こうした取組を進めるに当たっては,総合的な学習の時間や特別活動などを有意 義に活用するとともに,学校は介護や福祉の専門家の協力を求めたり,地域社会や 学校外の関係施設や団体で働く人々と連携したりして,積極的に交流を進めていく ことが大切である。 --89/111-- -87- 第4章 教育課程編成の手順と評価 これからの学校教育においては,各学校において創意工夫を生かした特色ある教育 課程を編成・実施し,特色ある学校教育活動を進めていくことが求められている。そ のためには,地域や学校,児童の実態等を的確に把握・分析し,それを基に,それぞ れの学校の教育課題を明確にし,全教職員が一致協力して教育課程の編成と評価に当 たることが重要である。 第1節 教育課程の編成の手順 1 教育課程の編成の手順 教育課程の編成の手順は必ずしも一定したものではなく,それぞれの学校がその実 態に即して,手順を考えるべきものである。 したがって,ここでは教育課程の編成の手順の一例を示すこととする。 (1) 教育課程の編成に対する学校の基本方針を明確にする。 基本方針を明確にするということは,教育課程の編成に対する学校の姿勢や作 業計画の大綱を明らかにするとともに,それらについて全教職員が共通理解をも つことである。 ア 学校として教育課程の意義,教育課程の編成の原則などの編成に対する基本 的な考え方を明確にし,全教職員が共通理解をもつ。 イ 編成のための作業内容や作業手順の大綱を決め,作業計画の全体について全 教職員が共通理解をもつ。 ウ 編成のための組織と日程の基本的な方針を明確にする。 (ア) 編成に当たる組織及び各種会議の役割や相互関係について,その基本的な 考え方を明確にする。 (イ) 分担作業の実施やその調整なども含め,作業日程についてその基本的な考 え方を明確にする。 --90/111-- --90/111-- -88- (2) 教育課程の編成のための具体的な組織と日程を決める。 教育課程の編成は,組織的かつ計画的に実施する必要がある。そのために編成 を担当する組織を確立するとともに,それを学校の組織全体の中に明確に位置付 ける。また,編成の作業日程を明確にするとともに,それと学校が行う諸活動と の調和を図る。 ア 編成のための組織を決める。 (ア) 編成に当たる組織及び各種会議について,その職務分担,役割などを具体 的に決める。 (イ) 編成に当たる組織及び各種会議について,分担,協力などその相互関係を 明確にするとともに,それを学校の組織全体の中に位置付ける。 (ウ) 既存の組織を整備,補強したり,新たな組織を設けるなど,具体的に組織 の手直しや組織づくりをする。 (エ) 組織内の役割や分担を決める。 イ 編成のための作業日程を決める。 分担作業やその調整を含めて,各作業ごとの具体的な日程を決める。 (3) 教育課程の編成のための事前の研究や調査をする。 事前の研究や調査によって,教育課程についての国や教育委員会の基準の趣旨 を理解するとともに,教育課程の編成にかかわる学校の実態や諸条件を把握する。 ア 教育課程についての国の基準や教育委員会の規則などを研究し理解する。 イ 地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や特性を把握する。その際, 保護者や地域住民の意向,児童の状況等を把握することに留意する。 ウ 実施中の教育課程を検討し評価して,その改善点を明確にする。その際,児 童の学習状況や反応などに留意する。 (4) 学校の教育目標など教育課程の編成の基本となる事項を定める。 学校の教育目標など教育課程の編成の基本となる事項は,学校教育の目的や目 標及び教育課程の基準に基づきながら,しかも各学校が当面する教育課題の解決 を目指し,両者を統一的に把握して設定する。 ア 事前の研究や調査の結果を検討し,学校教育の目的や目標に照らして,それ --91/111-- -89- ぞれの学校や児童がもっている教育課題を明確にする。 イ 学校教育の目的や目標を調和的に達成するため,各学校の教育課題に応じて, 学校の教育目標など教育課程の編成の基本となる事項を設定する。 ウ 編成に当たって,特に留意すべき点を明確にする。 (5) 教育課程を編成する。 教育課程は学校の教育目標の実現を目指して,指導内容を選択し,組織し,そ れに必要な授業時数を定めて編成する。 ア 指導内容を選択する。 (ア) 指導内容について,その基礎的・基本的なものを明確にする。 (イ) 学校の教育目標の有効な達成を図るため,重点を置くべき指導内容を明確 にする。 (ウ) 各教科等の指導において,基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得と思 考力・判断力・表現力等の育成を図るとともに,個に応じた指導を推進するよ う配慮する。 (エ) 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育及び体育・健康に関する指導に ついて,適切な指導がなされるよう配慮する。 (オ) 地域や学校,児童の実態に応じて学校が創意を生かして行う総合的な学習 の時間を適切に展開できるよう配慮する。 (カ) 指導内容に取り上げた事項のまとめ方や重点の置き方を検討する。 イ 指導内容を組織する。 (ア) 各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動について, 各教科等間の指導内容相互の関連を図る。 (イ) 各教科等の指導内容相互の関連を明確にする。 (ウ) 発展的,系統的な指導ができるように指導内容を配列し組織する。特に, 内容を2学年まとめて示した教科については,2学年間を見通した適切な指導 計画を作成する。 (エ) 各学年において,合科的・関連的な指導について配慮する。 ウ 授業時数を配当する。 --92/111-- -90- (ア) 指導内容との関連において,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の 時間及び特別活動の年間授業時数を定める。 (イ) 各教科等や学習活動の特質に応じて,創意工夫を生かし,1年間の中で, 学期,月,週ごとの各教科の授業時数を定める。 (ウ) 各教科等の授業の1単位時間を,児童の発達の段階及び各教科等や学習活 動の特質を考慮して適切に定める。 2 学校の教育目標の設定 小学校の目的や目標は学校教育法に示されており,各学校においては,その達成 を目指して教育を行わなければならない。しかし,法律に規定された目的や目標は 一般的であり,各学校においては,児童の実態や学校の置かれている各種の条件を 分析して検討した上でそれぞれの学校の教育の課題を正しくとらえ,それに応じた 具体的な強調点や留意点を明らかにした教育目標を設定する必要がある。各学校の 教育課程は,それぞれの学校の教育目標の実現を目指して編成されるものであり, 各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動の目標やねらい,指 導内容に十分反映するようにすることが大切である。 学校の教育目標をこのようにとらえると,それは,法律で定められている小学校 の目的や目標を前提とするものであり,また,学習指導要領に示されている各教科 等の目標やねらいを前提とするものであることが必要である。また,地域や学校及 び児童の実態に即したものであること,教育的価値が高く,継続的な実践が可能な ものであることなどが必要である。 以上のことを整理すると,各学校で設定する教育目標は,次のような要件を具備 する必要がある。 (1) 法律に定められた小学校の目的や目標を前提とするものであること。 (2) 学習指導要領に示す各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別 活動の目標やねらいを前提とするものであること。 (3) 教育委員会の規則,方針等に従っていること。 --93/111-- -91- (4) 地域や学校の実態等に即したものであること。 (5) 教育的価値が高く,継続的な実践が可能なものであること。 (6) 評価が可能な具体性を有すること。 --94/111-- -92- 第2節 教育課程の評価 1 学校評価における教育課程の評価 (1) 学校評価に関する法制度 学校評価については,平成14年4月に施行された小学校設置基準等において,各 学校は自己評価とその結果の公表に努めることとされた。また,保護者等に対する 情報提供について,積極的に行うこととされた。その後,平成19年6月に学校教育 法が改正され,学校評価及び情報提供に関する総合的な規定が設けられた。さらに 平成19年10月に学校教育法施行規則が改正され,自己評価・学校関係者評価の実 施・公表,評価結果の設置者への報告に関する規定が新たに設けられた。 学校教育法 第42条 小学校は,文部科学大臣の定めるところにより当該小学校の教育活動 その他の学校運営の状況について評価を行い,その結果に基づき学校運営の 改善を図るため必要な措置を講ずることにより,その教育水準の向上に努め なければならない。 第43条 小学校は,当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の 理解を深めるとともに,これらの者との連携及び協力の推進に資するため, 当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供 するものとする。 学校教育法施行規則 第66条 小学校は,当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況について, 自ら評価を行い,その結果を公表するものとする。 2 前項の評価を行うに当たつては,小学校は,その実情に応じ,適切な項目 を設定して行うものとする。 第67条 小学校は,前条第1項の規定による評価の結果を踏まえた当該小学校 の児童の保護者その他の当該小学校の関係者(当該小学校の職員を除く。) による評価を行い,その結果を公表するよう努めるものとする。 第68条 小学校は,第66条第1項の規定による評価の結果及び前条の規定によ り評価を行つた場合はその結果を,当該小学校の設置者に報告するものとす る。 --95/111-- -93- これにより,各小学校は法令上, @ 教職員による自己評価を行い,その結果を公表すること, A 保護者などの学校の関係者による評価(「学校関係者評価」)を行うとともに その結果を公表するよう努めること, B 自己評価の結果,学校関係者評価の結果を設置者に報告すること, が必要である。 (2) 学校評価ガイドラインにおける教育課程の評価 文部科学省は,これらの法令上の規定等を踏まえ,平成20年1月31日に「学校評 価ガイドライン〔改訂〕」を作成した。その中では,具体的にどのような評価項目・ 指標等を設定するかは各学校が判断すべきことではあるが,その設定について検討 する際の視点となる例が示されており,「教育課程・学習指導」については,次の ような例が示されている。 ○ 各教科等の授業の状況 ・ 説明,板書,発問など,各教員の授業の実施方法 ・ 視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の活用 ・ 体験的な学習や問題解決的な学習,児童の興味・関心を生かした自主的・ 自発的な学習の状況 ・ 個別指導やグループ別指導,習熟度に応じた指導,児童の興味・関心等に 応じた課題学習,補充的な学習や発展的な学習などの個に応じた指導の方法 等の状況 ・ ティーム・ティーチング指導などにおける教員間の協力的な指導の状況 ・ 学級内における児童の様子や,学習に適した環境に整備されているかなど, 学級経営の状況 ・ コンピュータや情報通信ネットワークを効果的に活用した授業の状況 ・ 学習指導要領や各教育委員会が定める基準にのっとり,児童の発達の段階 に即した指導に関する状況 ・ 授業や教材の開発に地域の人材など外部人材を活用し,より良いものとす る工夫の状況 ○ 教育課程等の状況 --96/111-- -94- ・ 学校の教育課程の編成・実施の考え方についての教職員間の共通理解の状 況 ・ 児童の学力・体力の状況を把握し,それを踏まえた取組の状況 ・ 児童の学習について観点別学習状況の評価や評定などの状況 ・ 学校図書館の計画的利用や,読書活動の推進の取組状況 ・ 体験活動,学校行事などの管理・実施体制の状況 ・ 部活動など教育課程外の活動の管理・実施体制の状況 ・ 必要な教科等の指導体制の整備,授業時数の配当の状況 ・ 学習指導要領や各教育委員会が定める基準にのっとり,児童の発達の段階 に即した指導の状況 ・ 教育課程の編成・実施の管理の状況 (例:教育課程の実施に必要な,各教科等ごと等の年間の指導計画や週案な どが適切に作成されているかどうか) ・ 児童の実態を踏まえた,個別指導やグループ別指導,習熟度に応じた指導, 補充的な学習や発展的な学習など,個に応じた指導の計画状況 ・ 幼小連携,小中連携など学校間の円滑な接続に関する工夫の状況 ・ (データ等)学力調査等の結果 ・ (データ等)運動・体力調査の結果 ・ (データ等)児童の学習についての観点別学習状況の評価・評定の結果 各学校は,例示された項目を網羅的に取り入れるのではなく,その重点目標を達 成するために必要な項目・指標等を精選して設定することが期待されるが,その際, 教育課程もその重要な評価対象となり得る。 2 教育課程の改善 (1) 改善の意義 教育課程の評価に続いて行われなければならないのは,その改善である。 教育課程についての評価が行われたとしても,これがその改善に活用されなけ れば,評価本来の意義が発揮されない。このため,各学校においては,児童の人 間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の心身の発達の 段階や特性を十分考慮して編成,実施した教育課程が目標を効果的に実現する働 --97/111-- -95- きをするよう改善を図ることが求められる。教育課程の評価が積極的に行われて はじめて,望ましい教育課程の編成,実施が期待できる。教育課程の改善は,編 成した教育課程をより適切なものに改めることであるが,これは教育課程を地域 や学校の実態及び児童の心身の発達の段階と特性に即したものにすることにほか ならない。この意味から,学校は教育課程を絶えず改善する基本的態度をもつこ とが必要である。このような改善によってこそ学校の教育活動が充実するととも に質を高めて,その効果を一層上げることが期待できる。 (2) 改善の方法 教育課程の改善の方法は,各学校の創意工夫によって具体的には異なるであろ うが,一般的には次のような手順が考えられる。 @ 評価の資料を収集し,検討すること。 A 整理した問題点を検討し,原因と背景を明らかにすること。 B 改善案をつくり,実施すること。 指導計画における指導目標の設定,指導内容の配列や構成,予測される学習活 動などのように,比較的直ちに修正できるものもあれば,人的,物的諸条件のよ うに,比較的長期の見通しの下に改善の努力を傾けなければならないものもある。 また,個々の部分修正にとどまるものもあれば,広範囲の全体修正を必要とする ものもある。さらに学校内の教職員の努力によって改善できるものもあれば,学 校外へ働きかけるなどの改善の努力を必要とするものもある。教育課程の改善は, それらのことを見定めて実現を図っていかなければならない。なお,改善に当た っては,教育委員会の指導助言を役立てるようにすることも大切である。 このようにして,地域や学校の実態に即し,また,児童の心身の発達の段階に 即し,各学校の創意工夫を生かしたより一層適切な教育課程を編成するように努 めなければならない。 --98/111-- -96- (資 料) 学習指導要領等の改訂の経過 平成20年の小学校学習指導要領の改訂は,昭和22年に「教科課程,教科内容及びそ の取扱い」の基準として,初めて学習指導要領が編集,刊行されて以来,昭和26年, 33年,43年,52年,平成元年,10年の全面改訂に続く7回目の全面改訂である。 昭和22年3月に学校教育法が制定されて,小学校教育は根本的な変革がなされ,教 育課程についても大きな改革がなされた。 すなわち,同年5月に学校教育法施行規則が制定され,学校教育法第20条の規定に 基づいて教育課程(当時は「教科課程」と称していた。)に関する基本的な事項を定 めるとともに,教育課程の基準としての学習指導要領を試案の形で作成した。 (1) 昭和22年の学習指導要領 この最初の学習指導要領については,昭和22年3月に一般編が刊行され,同年内 に算数科,家庭科,社会科,図画工作科,理科,音楽科及び国語科の各編が相次い で刊行され,昭和24年には体育科編が刊行された。この最初の学習指導要領におけ る特色は次のとおりである。 ア 従来の修身(公民),日本歴史及び地理を廃止し,新たに社会科を設けたこと。 社会科は,児童が自分たちの社会に正しく適応し,その中で望ましい人間関係 を実現し,進んで自分たちの属する共同社会を進歩向上させることができるよう に,社会生活を理解させ,社会的態度や社会的能力を養うことを目標とした。 イ 新たに家庭科を設けたこと。 家庭科は,従来女子だけに課していた裁縫や家事と異なり,男女共に課し,望 ましい家族関係の理解と家族の一員としての自覚の下に,家庭生活に必要な技術 を修めて生活の向上を図る態度や能力を養うことを目標とした。 ウ 新たに自由研究を設けたこと。 自由研究は,児童の自発的な活動を促すために,教師の指導の下に児童がそれ --99/111-- -97- ぞれの興味と能力に応じて,教科の発展として行う活動や学年の区別なく同好の 者が集まって行うクラブ活動などを行う時間として設けた。 エ 各教科の授業時数を改めたこと。 授業時数については,指導に弾力性をもたせるという趣旨から,各教科とも年 間の総時数で表し,1年間を35週とした場合の週当たりの授業時数を併せて示し た。また,日課表を作成する上で1単位時間を特に固定せず,学習の進み方など の必要に応じて変化のある学習が行われるようにした。 (2) 昭和26年の改訂 昭和22年の学習指導要領は,戦後の教育改革の急に迫られて極めて短時日の間に 作成されたもので,例えば,教科間の関連が十分図られていなかったことなどの問 題があった。そこで,昭和23年以降学習指導要領の使用状況の調査を行う一方,実 験学校における研究,編集委員会による問題点の研究などを行い,その改訂作業を 始めた。さらに,昭和24年には,小学校,中学校及び高等学校の教育課程に関する 事項の調査審議を行うための教育課程審議会を文部省に設け,同審議会から,昭和 25年6月には小学校家庭科の存否,毛筆習字の課程の取扱い,自由研究の存否,総 授業時数の改正などについて,昭和26年1月には道徳教育の振興について答申を受 けた。 このような経過を経て,学習指導要領は,昭和26年に全面的に改訂され,昭和22 年の場合と同様に,一般編と各教科編に分けて試案の形で刊行された。その改訂の 主な特色は次のとおりである。 ア 各教科の配当授業時数については,教科を学習の基礎となる教科(国語,算数), 社会や自然についての問題解決を図る教科(社会,理科),主として創造的な表現 活動を行う教科(音楽,図画工作,家庭),健康の保持増進を図る教科(体育)の 4つの経験領域に分け,これらに充てる授業時数を教科の総授業時数に対する比 率で示すこととし,教科と教科以外の総授業時数の基準を2個学年ごとにまとめ て示したこと。 イ 家庭科(第5,第6学年)は他の教科と著しく重複する目標や指導内容を整理 して存置することとしたこと。 --100/111-- --100/111-- -98- ウ 毛筆習字は,国語学習の一部として第4学年から課すことができるようにした こと。 エ 自由研究を発展的に解消し,教科の学習では達成されない目標に対する諸活動 を包括して教科以外の活動とし,それらの活動を例示したこと。 また,道徳教育については,昭和26年の教育課程審議会の答申に基づいて,「道 徳教育のための手引書要綱」を作成するとともに,学習指導要領一般編において, 道徳教育は学校教育のあらゆる機会に指導すべきであるとし,社会科をはじめ各教 科の道徳教育についての役割を明確にした。さらに,健康教育についても同様に一 般編において,教科,教科以外の活動を含めてあらゆる機会を通じて行われること が望ましいとした。 なお,この学習指導要領においては,昭和22年の学習指導要領の「教科課程」と いう用語に代えて「教育課程」という用語が用いられた。 その後,昭和28年に教育課程審議会から社会科の改善に関する答申を受け,「社 会科の改善についての方策」を発表するとともに,この方策に沿って学習指導要領 社会科編の改訂を行い,昭和30年12月に刊行した。この改訂においては,社会科に おける道徳教育の在り方を一層明確にするとともに,地理,歴史教育の系統性,指 導内容の学年別配当を明らかにし,また,政治,経済,社会等については,小学校 段階としての範囲を明確にするとともに世界的な視野に立った国民的自覚を促すこ となどを強調した。 (3) 昭和33年の改訂 昭和26年の学習指導要領については,全教科を通じて,戦後の新教育の潮流とな っていた経験主義や単元学習に偏り過ぎる傾向があり,各教科のもつ系統性を重視 すべきではないかという問題があった。また,授業時数の定め方に幅があり過ぎる ということもあり,地域による学力差が目立ち,国民の基礎教育という観点から基 礎学力の充実が叫ばれるようになった。そのほか,基礎学力の充実に関連し科学技 術教育の振興が叫ばれ,理科,算数の改善が要請された。 このような点を改善するため,昭和31年に教育課程審議会に「小学校・中学校教 育課程の改善について」諮問し,昭和33年3月に同審議会から答申を受け,学習指 --101/111-- -99- 導要領を全面的に改訂し,昭和36年4月から実施した。 学習指導要領の改訂に先だち,昭和33年8月に学校教育法施行規則の一部を改正 した。その改正の要点は次のとおりである。 ア 学習指導要領は,教育課程の基準として文部大臣が公示するものであると改め, 学校教育法,同法施行規則,告示という法体系を整備して教育課程の基準として の性格を一層明確にしたこと。 イ 小学校の教育課程は,各教科,道徳,特別教育活動及び学校行事等によって編 成するということを明示したこと。 ウ 小学校における各教科及び道徳の年間最低授業時数を明示したこと。 このように,従来は学習指導要領で規定していた事項を学校教育法施行規則にお いて規定したのも,昭和33年の改訂の特色の一つである。 また,学習指導要領は,従来は一般編及び各教科編から成っていたが,この改訂 において一つの告示にまとめ,教育課程の基準として必要な事項を規定するにとど めた。 昭和33年の改訂は,独立国家の国民としての正しい自覚をもち,個性豊かな文化 の創造と民主的な国家及び社会の建設に努め,国際社会において真に信頼され,尊 敬されるような日本人の育成を目指して行った。その改訂の特色は次のとおりであ る。 ア 道徳の時間を特設して,道徳教育を徹底して行うようにしたこと。 イ 基礎学力の充実を図るために,国語,算数の内容を再検討してその充実を図る とともに授業時数を増やしたこと。 ウ 科学技術教育の向上を図るために,算数,理科の充実を図ったこと。 エ 地理,歴史教育を充実改善したこと。 オ 情操の陶冶,身体の健康,安全の指導を充実したこと。 とうや カ 小・中学校の教育の内容の一貫性を図ったこと。 キ 各教科の目標及び指導内容を精選し,基本的な事項の学習に重点を置いたこと。 ク 教育課程の最低基準を示し,義務教育の水準の維持を図ったこと。 (4) 昭和43年の改訂 --102/111-- -100- 昭和33年の改訂後,我が国の国民生活の向上,文化の発展,社会情勢の進展はめ ざましいものがあり,また,我が国の国際的地位の向上とともにその果たすべき役 割もますます大きくなりつつあった。そこで,教育内容の一層の向上を図り,時代 の要請に応えるとともに,さらに,実施の経験にかんがみ,児童の発達の段階や個 性,能力に即し,学校の実情に適合するように改善を行う必要があった。 このため,昭和40年6月に教育課程審議会に「小学校,中学校の教育課程の改善 について」諮問し,同審議会から昭和42年10月に答申を受け,昭和43年7月に学校 教育法施行規則の一部を改正するとともに学習指導要領を全面的に改訂し,昭和46 年4月から実施した。 学校教育法施行規則の主な改正点は,次のとおりである。 ア 小学校の教育課程は,国語,社会,算数,理科,音楽,図画工作,家庭及び体 育の各教科,道徳並びに特別活動によって編成するものとしたこと。 イ 小学校の各学年における各教科及び道徳の授業時数を,最低時数から標準時数 に改めたこと。 ウ 小学校の教育課程に関し,その改善に資する研究を行うため特に必要があり, かつ,児童の教育上適切な配慮がなされていると文部大臣が認める場合において は,文部大臣が別に定めるところにより,小学校学習指導要領等によらないこと ができることとしたこと。 また,この学習指導要領の改訂の方針は次のとおりである。 ア 小学校の教育は,教育基本法及び学校教育法の示すところに基づいて人間形成 における基礎的な能力の伸長を図り,国民育成の基礎を養うものであるとしたこ と。 イ 人間形成の上から調和と統一のある教育課程の実現を図ったこと。すなわち, 基本的な知識や技能を習得させるとともに,健康や体力の増進を図り,正しい判 断力や創造性,豊かな情操や強い意志の素地を養い,さらには,国家及び社会に ついて正しい理解と愛情を育てるものとしたこと。 ウ 指導内容は,義務教育9年間を見通し,小学校段階として有効・適切な基本的 な事項に精選したこと。この場合,特に時代の進展に応ずるようにしたこと。 --103/111-- -101- (5) 昭和52年の改訂 昭和43年の改訂後,我が国の学校教育は急速な発展を遂げ,昭和48年度には高等 学校への進学率が90パーセントを超えるに至り,このような状況にどのように対応 するかということが課題となっていた。また,学校教育が知識の伝達に偏る傾向が あるとの指摘もあり,真の意味における知育を充実し,児童生徒の知・徳・体の調 和のとれた発達をどのように図っていくかということが課題になっていた。 そこで,昭和48年11月に教育課程審議会に「小学校,中学校及び高等学校の教育 課程の改善について」諮問を行い,昭和51年12月に答申を受けた。答申においては, 教育課程の基準の改善は,自ら考え正しく判断できる児童生徒の育成ということを 重視しながら,次のようなねらいの達成を目指して行う必要があるとした。 @ 人間性豊かな児童生徒を育てること。 A ゆとりのあるしかも充実した学校生活が送れるようにすること。 B 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視するとともに児童生徒の 個性や能力に応じた教育が行われるようにすること。 この答申を受けて,昭和52年7月23日に学校教育法施行規則の一部を改正すると ともに,小学校学習指導要領を全面的に改訂し,昭和55年4月から実施した。 この改訂においては,自ら考え正しく判断できる力をもつ児童生徒の育成を重視 し,次のような方針により改善を行った。 @ 道徳教育や体育を一層重視し,知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童生 徒の育成を図ることとしたこと。 豊かな人間性を育てる上で必要な資質や徳性を児童の発達の段階に応じて十分 身に付けるようにするため,各教科等の目標の設定や指導内容の構成に当たって, これらの資質や徳性の涵養に特に配慮した。 かん A 各教科の基礎的・基本的事項を確実に身に付けられるように教育内容を精選 し,創造的な能力の育成を図ることとしたこと。 各教科の指導内容については,次の4つの観点に立って,各学年段階において 確実に身に付けさせるべき基礎的・基本的な事項に精選した。 ア 小・中・高等学校の指導内容の関連と学習の適時性を考慮して,各学年段階 --104/111-- -102- 間の指導内容の再配分や精選を行った。 イ 各学年にわたって取り扱うことになっていた指導内容は必要に応じて集約化 を図った。 ウ 各教科の指導内容の領域区分を整理統合した。 エ 各教科の目標を中核的なものに絞り,それを達成するための指導事項を基礎 的・基本的なものに精選した。 B ゆとりのある充実した学校生活を実現するため,各教科の標準授業時数を削減 し,地域や学校の実態に即して授業時数の運用に創意工夫を加えることができる ようにしたこと。 ゆとりのあるしかも充実した学校生活を実現するため,各教科の指導内容を精 選するとともに,学校教育法施行規則の一部を改正し,第4学年では週当たり2 単位時間,第5,6学年では4単位時間の標準授業時数の削減が行われた。この ことによって,学校の教育活動にゆとりがもてるようにするとともに,地域や学 校の実態に応じ創意を生かした教育活動が展開できるようにした。 C 学習指導要領に定める各教科等の目標,内容を中核的事項にとどめ,教師の自 発的な創意工夫を加えた学習指導が十分展開できるようにしたこと。 各教科等の目標や指導内容について中核的な事項のみを示すにとどめ,また, 内容の取扱いについて指導上の留意事項や指導方法に関する事項などを大幅に削 除した。このような大綱化を図ることによって学校や教師の創意工夫の余地を拡 大した。 (6) 平成元年の改訂 昭和52年の改訂後,科学技術の進歩と経済の発展は,物質的な豊かさを生むとと もに,情報化,国際化,価値観の多様化,核家族化,高齢化など,社会の各方面に 大きな変化をもたらすに至った。しかも,これらの変化は,今後ますます拡大し, 加速化することが予想された。 このような社会の変化に対応する観点から教育内容の見直しを行うことが求めら れていた。 そこで,昭和60年9月に教育課程審議会に「幼稚園,小学校,中学校及び高等学 --105/111-- --105/111-- -103- 校の教育課程の基準の改善について」諮問を行い,昭和62年12月に答申を受けた。 答申においては,次の諸点に留意して改善を図ることを提言している。 @ 豊かな心をもち,たくましく生きる人間の育成を図ること。 A 自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること。 B 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し,個性を生かす教育の 充実を図ること。 C 国際理解を深め,我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すること。 この答申を受けて,平成元年3月15日に学校教育法施行規則の一部を改正すると ともに,小学校学習指導要領を全面的に改訂し,平成4年4月から実施した。 学校教育法施行規則の主な改正点は,第1学年及び第2学年に,新教科として生 活科を設定することとし,これに伴い,第1学年及び第2学年の社会及び理科は廃 止したことである。各教科等の授業時数については,各学年の年間の総授業時数は 変更しないが,第1学年及び第2学年に新設する生活科については,第1学年102 単位時間,第2学年105単位時間をそれぞれ充てるとともに,第1学年及び第2学 年において,国語の力の充実を図るため,国語の授業時数を第1学年34単位時間, 第2学年35単位時間それぞれ増やした。 この改訂においては,生涯学習の基盤を培うという観点に立ち,21世紀を目指し 社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を図ることを基本的なねらいと し,次の方針により行った。 @ 教育活動全体を通じて,児童の発達の段階や各教科等の特性に応じ,豊かな心 をもち,たくましく生きる人間の育成を図ること。 これからの社会において自主的,自律的に生きる力を育てるため,道徳を中心 にして各教科や特別活動においても,それぞれの特質に応じて,内容や指導方法 の改善を図ることに配慮した。 A 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し,個性を生かす教育を 充実するとともに,幼稚園教育や中学校教育との関連を緊密にして各教科等の内 容の一貫性を図ること。 各教科の内容については,小学校段階において確実に身に付けさせるべき基礎 --106/111-- -104- 的・基本的な内容に一層の精選を図るとともに,基礎的・基本的な内容を児童一 人一人に確実に身に付けさせるようにするため,個に応じた指導など指導方法の 改善を図ることとした。また,個性を生かすためには,児童一人一人が自分のも のの見方や考え方をもつようにすることが大切であり,各教科において思考力, 判断力,表現力等の能力の育成や,自ら学ぶ意欲や主体的な学習の仕方を身に付 けさせることを重視した。 B 社会の変化に主体的に対応できる能力の育成や創造性の基礎を培うことを重視 するとともに,自ら学ぶ意欲を高めるようにすること。 各教科の内容については,これからの社会の変化に主体的に対応できるよう, 思考力,判断力,表現力等の能力の育成を重視することとした。 また,生涯学習の基礎を培う観点から,学ぶことの楽しさや成就感を体得させ 自ら学ぶ意欲を育てるため体験的な学習や問題解決的な学習を重視して各教科の 内容の改善を行った。 C 我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視するとともに,世界の文化や 歴史についての理解を深め,国際社会に生きる日本人としての資質を養うこと。 我が国の文化と伝統に対する理解と関心を深め,それを大切にする態度の育成 を図るとともに,日本人としての自覚やものの見方,考え方についての基礎を培 う観点から,各教科等の内容の改善を図ることとした。その一環として,国旗及 び国歌の指導については,日本人としての自覚を高め国家社会への帰属意識を涵 かん 養するとともに,国際社会において信頼される日本人を育てる観点から,その充 実を図ることとした。 (7) 平成10年の改訂 平成8年の中央教育審議会の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」 の第1次答申は,21世紀を展望し,我が国の教育について,[ゆとり]の中で[生き る力]をはぐくむことを重視することを提言した。[生きる力]について,同答申 は「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体 的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自らを律しつつ,他 人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして, --107/111-- -105- 「たくましく生きるための健康や体力」を重要な要素として挙げた。また,同答申 は[ゆとり]の中で[生きる力]をはぐくむ観点から,完全学校週5日制の導入を 提言するとともに,そのねらいを実現するためには,教育内容の厳選が是非とも必 要であるとしている。 そこで,平成8年8月に教育課程審議会に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校, 盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」諮問を行い,平成 ろう 10年7月に答申を受けた。答申においては,次の諸点に留意して改善を図ることを 提言している。 @ 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚の育成を重視す ること。 A 多くの知識を一方的に教え込む教育を転換し,子どもたちの自ら学び自ら考え る力の育成を重視すること。 B ゆとりのある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性 を生かす教育の充実を図ること。 C 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。 この答申を受けて,平成10年12月14日に学校教育法施行規則の一部を改正すると ともに,小学校学習指導要領を全面的に改訂し,平成14年4月から実施した。 学校教育法施行規則の主な改正点は,第一に,各学校が,地域や学校,児童の実 態等に応じて,横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意 工夫を生かした教育活動を行う時間として,第3学年以上の各学年に「総合的な学 習の時間」を創設したこと,第二に,各学年の年間総授業時数については,完全学 校週5日制が実施されることに伴う土曜日分を縮減した時数とし,従前より各学年 とも年間70単位時間(第1学年にあっては68単位時間),週当たりに換算して2単 位時間削減することとし,また,各学年の各教科,道徳,特別活動及び総合的な学 習の時間ごとの授業時数についての改正を行ったこと,第三に,第3学年以上にお いても合科的な指導を進めることができるようにしたこと,の3点である。 この改訂においては,平成14年度から実施される完全学校週5日制の下で,各学 校がゆとりの中で特色ある教育を展開し,児童に豊かな人間性や基礎・基本を身に --108/111-- -106- 付け,個性を生かし,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を培うことを基本 的なねらいとして,次の方針により行った。 @ 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること。 児童の人間としての調和のとれた育成とともに国際社会の中で日本人としての 自覚をもち主体的に生きていく上で必要な資質や能力の基礎を培う観点から,社 会や体育,道徳,特別活動等において,それぞれの特質に応じて,内容や指導方 法の改善を図ることに配慮した。 A 自ら学び,自ら考える力を育成すること。 これからの学校教育においては,多くの知識を教え込むことになりがちであっ た教育の基調を転換し,児童に自ら学び自ら考える力を育成することを重視した 教育を行うことが必要との観点から,総合的な学習の時間の創設のほか,各教科 において体験的な学習や問題解決的な学習の充実を図った。 B ゆとりのある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性 を生かす教育を充実すること。 完全学校週5日制を円滑に実施し,生涯学習の考え方を進めていくため,時間 的にも精神的にもゆとりのある教育活動が展開される中で,児童が基礎・基本を じっくり学習できるようにするとともに,興味・関心に応じた学習に主体的に取 り組むことができるようにする必要がある。このような観点から,年間総授業時 数の削減,各教科の教育内容を授業時数の縮減以上に厳選し基礎的・基本的な内 容に絞り,ゆとりの中でじっくり学習しその確実な定着を図るようにすることな どの改善を図った。また,児童が学習内容を確実に身に付けることができるよう 個別指導やグループ別指導,繰り返し指導,教師の協力的な指導など指導方法や 指導体制を工夫改善し個に応じた指導を充実することを総則に示した。 C 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。 児童一人一人の個性を生かす教育を行うためには,各学校が児童や地域の実態 等を十分踏まえ,創意工夫を存分に生かした特色ある教育活動を展開することが 大切である。このような観点から,総合的な学習の時間の創設や授業の1単位時 間や授業時数の運用の弾力化,国語等の教科の目標や内容を2学年まとめるなど --109/111-- -107- の大綱化といった改善を図った。 --110/111-- 小学校学習指導要領解説総則編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 安 彦 忠 彦 早稲田大学教授 池 田 芳 和 東京都港区立御成門小学校長 全国連合小学校長会長 市 川 伸 一 東京大学大学院教授 衞 藤 隆 東京大学大学院教授 草 野 一 紀 東京都新宿区立牛込第二中学校長 全日本中学校長会顧問 無 藤 隆 白梅学園大学教授 なお,文部科学省においては,次の者が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 合 田 哲 雄 初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長 --111/111--