小学校学習指導要領解説 特別活動編 平成20年8月 文部科学省 --1/127-- 目次 第1章 総 説……………………………………………………………………………1 1 改訂の経緯………………………………………………………………………1 2 特別活動改訂の趣旨……………………………………………………………2 3 特別活動改訂の要点……………………………………………………………4 第2章 特別活動の目標 ………………………………………………………………8 第1節 特別活動の目標 ……………………………………………………………8 1 特別活動の目標 ………………………………………………………………8 2 特別活動の目標と各活動・学校行事の目標との関連………………………13 第2節 特別活動の基本的な性格と教育的意義……………………………………15 1 人間形成と特別活動……………………………………………………………15 2 特別活動の教育的意義…………………………………………………………20 3 特別活動の内容相互の関連……………………………………………………21 4 特別活動と各教科,道徳,外国語活動及び 総合的な学習の時間などとの関連……………………………………………22 第3章 各活動・学校行事の目標及び内容……………………………………………32 第1節 学級活動………………………………………………………………………32 1 学級活動の目標…………………………………………………………………32 2 学級活動の内容…………………………………………………………………33 3 学級活動の指導計画……………………………………………………………40 4 学級活動の内容の取扱い………………………………………………………49 第2節 児童会活動……………………………………………………………………64 1 児童会活動の目標………………………………………………………………64 2 児童会活動の内容………………………………………………………………65 3 児童会活動の指導計画…………………………………………………………66 4 児童会活動の内容の取扱い……………………………………………………72 --2/127-- 第3節 クラブ活動……………………………………………………………………76 1 クラブ活動の目標………………………………………………………………76 2 クラブ活動の内容………………………………………………………………77 3 クラブ活動の指導計画…………………………………………………………79 4 クラブ活動の内容の取扱い……………………………………………………85 第4節 学校行事………………………………………………………………………88 1 学校行事の目標 ………………………………………………………………88 2 学校行事の内容 ………………………………………………………………89 3 学校行事の指導計画 …………………………………………………………96 4 学校行事の内容の取扱い………………………………………………………100 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い……………………………………………104 第1節 指導計画の作成に当たっての配慮事項 …………………………………105 1 特別活動の全体計画と各活動・学校行事の年間指導計画の作成 ………105 2 自ら現在及び将来の生き方を考えることができるようにすること ……110 3 クラブ活動の計画と実施………………………………………………………111 4 道徳の時間などとの関連………………………………………………………112 第2節 内容の取扱いについての配慮事項…………………………………………113 1 学級活動,児童会活動,クラブ活動の取扱い………………………………113 2 学級活動の取扱い………………………………………………………………117 3 児童会活動の取扱い……………………………………………………………120 4 学校行事の取扱い………………………………………………………………120 第3節 入学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の取扱い……………………121 第4節 特別活動における評価………………………………………………………122 --3/127-- -1- 第1章 総 説 1 改訂の経緯 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆ る領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の 時代であると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は,アイデ ィアなど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で,異なる文化や 文明との共存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において,確 かな学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことが ますます重要になっている。 他方,OECD(経済協力開発機構)のPISA調査など各種の調査からは,我が国 の児童生徒については,例えば, @ 思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題,知識・技能を活用す る問題に課題, A 読解力で成績分布の分散が拡大しており,その背景には家庭での学習時間な どの学習意欲,学習習慣・生活習慣に課題, B 自分への自信の欠如や自らの将来への不安,体力の低下といった課題, が見られるところである。 このため,平成17年2月には,文部科学大臣から,21世紀を生きる子どもたち の教育の充実を図るため,教員の資質・能力の向上や教育条件の整備などと併せ て,国の教育課程の基準全体の見直しについて検討するよう,中央教育審議会に対 して要請があり,同年4月から審議を開始した。この間,教育基本法改正,学校教 育法改正が行われ,知・徳・体のバランス(教育基本法第2条第1号)とともに, 基礎的・基本的な知識・技能,思考力・判断力・表現力等及び学習意欲を重視し (学校教育法第30条第2項),学校教育においてはこれらを調和的にはぐくむこ とが必要である旨が法律上規定されたところである。中央教育審議会においては, このような教育の根本にさかのぼった法改正を踏まえた審議が行われ,2年10か 月にわたる審議の末,平成20年1月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び 特別支援学校の学習指導要領等の改善について」答申を行った。 この答申においては,上記のような児童生徒の課題を踏まえ, @ 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂 A 「生きる力」という理念の共有 B 基礎的・基本的な知識・技能の習得 C 思考力・判断力・表現力等の育成 --4/127-- -2- D 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保 E 学習意欲の向上や学習習慣の確立 F 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 を基本的な考え方として,各学校段階や各教科等にわたる学習指導要領の改善の方 向性が示された。 具体的には,@については,教育基本法が約60年振りに改正され,21世紀を切 り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から,これからの教育 ひら の新しい理念が定められたことや学校教育法において教育基本法改正を受けて,新 たに義務教育の目標が規定されるとともに,各学校段階の目的・目標規定が改正さ れたことを十分に踏まえた学習指導要領改訂であることを求めた。Bについては, 読み・書き・計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学 年では体験的な理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して 習得させ,学習の基盤を構築していくことが大切との提言がなされた。この基盤の 上に,Cの思考力・判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの 作成,論述など知識・技能の活用を図る学習活動を発達の段階に応じて充実させる とともに,これらの学習活動の基盤となる言語に関する能力の育成のために,小学 校低・中学年の国語科において音読・暗唱,漢字の読み書きなど基本的な力を定着 させた上で,各教科等において,記録,要約,説明,論述といった学習活動に取り 組む必要があると指摘した。また,Fの豊かな心や健やかな体の育成のための指導 の充実については,徳育や体育の充実のほか,国語をはじめとする言語に関する能 力の重視や体験活動の充実により,他者,社会,自然・環境とかかわる中で,これ らとともに生きる自分への自信をもたせる必要があるとの提言がなされた。 この答申を踏まえ,平成20年3月28日に学校教育法施行規則を改正するととも に,幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を公示した。小 学校学習指導要領は,平成21年4月1日から移行措置として算数,理科等を中心 に内容を前倒しして実施するとともに,平成23年4月1日から全面実施すること としている。 2 特別活動改訂の趣旨 平成20年1月の中央教育審議会の答申において,教育課程の基準の改善のねらいが 示されるとともに,各教科等別の主な改善事項を示している。このたびの小学校特別 活動の改訂は,これらを踏まえて行われたものである。 答申の中で,特別活動の改善の基本方針については,次のように示されている。 --5/127-- -3- (@) 改善の基本方針 ○ 特別活動については,その課題を踏まえ,特別活動と道徳,総合的な学習の時間 のそれぞれの役割を明確にし,望ましい集団活動や体験的な活動を通して,豊かな 学校生活を築くとともに,公共の精神を養い,社会性の育成を図るという特別活動 の特質を踏まえ,特によりよい人間関係を築く力,社会に参画する態度や自治的能 力の育成を重視する。また,道徳的実践の指導の充実を図る観点から,目標や内容 を見直す。 ○ 特別活動の各内容のねらいと意義を明確にするため,各内容に係る活動を通して 育てたい態度や能力を,特別活動の全体目標を受けて各内容の目標として示す。 ○ 子どもの自主的,自発的な活動を一層重視するとともに,子どもの実態に適切に 対応するため,発達や学年の段階や課題に即した内容を示すなどして,重点的な指 導ができるようにする。その際,道徳や総合的な学習の時間などとの有機的な関連 を図ったり,指導方法や教材を工夫したりすることが必要である。 ○ 自分に自信がもてず,人間関係に不安を感じていたり,好ましい人間関係を築け ず社会性の育成が不十分であったりする状況が見られたりすることから,それらに かかわる力を実践を通して高めるための体験活動や生活を改善する話合い活動,多 様な異年齢の子どもたちからなる集団による活動を一層重視する。 特に体験活動については,体験を通して感じたり,気付いたりしたことを振り返 り,言葉でまとめたり,発表し合ったりする活動を重視する。 次に答申では,小学校特別活動における改善の具体的事項を次のように示してい る。 (A) 改善の具体的事項 (小学校) (ア) 学級活動については,@学級や学校の生活づくり,A日常の生活や学習への適 応及び健康安全の内容で構成することとする。また,学級集団育成上の課題や発 達の段階に応じた課題に即して計画的に指導をするため,低・中・高学年ごと に,重点化を図って内容を示す。 @ 学級や学校の生活づくりについては,自らよりよい生活を築くために合意形 成をする話合い活動や自分たちでルールをつくって守る活動などを一層重視す る。また,自らよりよい学級生活の実現に取り組む意欲をはぐくむとともに, --6/127-- -4- 集団の一員としての自覚や責任感を高め,勤労を重視する観点から係活動とと もに,日常の清掃などの当番活動も計画的に指導できるようにする。 A 日常の生活や学習への適応及び健康安全については,いわゆる小1プロブレ ムなどの集団の適応にかかわる問題を重視し,よりよい人間関係を築くための 社会的スキルを身に付けるための活動を効果的に取り入れる。特に小学校入学 時には,幼児教育との接続,高学年では自己の生き方を取り上げるなど中学校 における教育との接続に配慮して,指導の重点化を図る。 (イ) 児童会活動については,よりよい学校生活を主体的に築くための話合い活動や 集団への寄与など,異年齢の子どもたちからなる集団による自治的能力の育成を 重視する観点から,具体的な内容を示す。 (ウ) クラブ活動については,個性を伸長し,異年齢の子どもたちからなる集団によ る共通の興味・関心を追求する活動を通して,楽しい学校生活やよりよい人間関 係を築く力の育成の充実を図る観点から,具体的な内容を示す。 (エ) 学校行事については,集団への所属感や連帯意識を深めつつ,学校の仲間や地 域の人々とのかかわり,協同の意義,本物の自然や文化の価値や大切さを実感す る機会をもつことが重要である。これらのことを踏まえ,自然の中での集団宿泊 体験や異年齢交流なども含む多様な人々との交流体験,文化的な体験などを重視 する観点から,学校行事の内容について改善を図る。 3 特別活動改訂の要点 特別活動については,望ましい集団活動を通して豊かな人間性や社会性を育成する 実践活動であるという基本的な性格や,学級活動,児童会活動,クラブ活動,学校行 事の四つの内容によって構成されることはこれまで通りとした上で,改善の基本方針 等を踏まえて,次のような改善を行った。 (1) 目標の改善 特別活動が,よりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度を育て る教育活動であることをより一層明確にするため,目標に「人間関係」を加えた。ま た,道徳の改善を踏まえて,道徳的実践の指導の充実を図る観点から「自己の生き方 についての考えを深め,自己を生かす能力を養う」を加えた。さらに,特別活動の目 標を受けて,各活動・学校行事を通して育てたい態度や能力を目標として新たに示し た。 --7/127-- -5- (2) 各活動・学校行事の内容の改善 ア 学級活動の改善 学級活動においては,学級活動を通して育てたい態度や能力について,新たに目 標として示した。特に,よりよい人間関係を築き,楽しい生活をつくるなど,自分 たちの学級や学校の生活の充実と向上のために主体的に参画し,進んで話し合い, 協力して実現しようとする自主的,実践的な態度の育成を重視した。 また,学級集団の育成上の課題や発達の課題に即した指導ができるようにするた め,「第1学年及び第2学年」,「第3学年及び第4学年」,「第5学年及び第6 学年」の低・中・高学年ごとに「内容」を示した。 さらに,いずれの学年においても取り扱う内容を「共通事項」として示した。活 動内容(1)については,児童が協力してよりよい生活をつくる活動内容であること を明確にするため,「学級や学校の生活づくり」と改めた。特に,学校で行われる 各種の集団による自発的,自治的な活動が一層効果的に行われるようにするため, 「学校における多様な集団の生活の向上」を加えた。 活動内容「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」については,「勤労 観」を養う観点から,「清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解」を 加えた。また,「食育」の充実に資する観点から「学校給食と望ましい食習慣の形 成」に「食育の観点を踏まえた」の文言を加えた。 イ 児童会活動の改善 児童会活動においては,児童会活動を通して育てたい態度や能力を,新たに目標 として示した。特に,年齢が異なる児童同士の人間関係を築き,楽しい生活をつく るなど自分たちの学校生活の向上を目指して,進んで話し合い,協力して実現しよ うとする自主的,実践的な態度の育成を重視した。 また,内容を明確にし活動の充実を図るために,新たに「児童会の計画や運 営」,「異年齢集団による交流」,「学校行事への協力」の内容を示した。 ウ クラブ活動の改善 クラブ活動においては,クラブ活動を通して育てたい態度や能力を,新たに目標 として示した。特に,個性を伸長し,異年齢の人間関係を築き,共通の興味・関心 を追求する活動を楽しむなど,児童による自発的,自治的な活動を重視した。 また,内容を明確にして活動の充実を図るために,新たに「クラブの計画や運 営」,「クラブを楽しむ活動」,「クラブの成果の発表」の内容を示した。 エ 学校行事の改善 学校行事においては,学校行事を通して育てたい態度や能力を新たに目標として 示した。特に,よりよい人間関係を築き,公共の精神を養い,社会性の育成を図る ことを重視した。また,学校行事の内容については,自然の中での集団宿泊体験や --8/127-- -6- 異年齢の交流などを含む多様な人々との交流体験,文化的な体験などを重視する観 点から,遠足・集団宿泊的行事の内容に「自然の中での集団宿泊活動など」と「人 間関係など」を加えた。また,「学芸的行事」を「文化的行事」と改め,「文化や 芸術に親しんだりするような活動」を加えた。 (3) 指導計画の作成と内容の取扱いの改善 〔指導計画の作成〕 ア 全体計画及び年間指導計画の作成 特別活動については,指導計画の作成やその活用が不十分であったり,必ずしも 全教職員の共通理解の下に組織的に取り組まれていなかったりするなどにより,各 学級や学校で扱う内容や指導の方法に相違が生まれ,子どもたちの資質や能力の育 成に十分つながっていない状況が指摘されていた。そこで,各学校で作成すべき特 別活動の指導計画については,「特別活動の全体計画」や「各活動・学校行事の年 間指導計画」など各学校で作成すべき指導計画を明確に示した。また,これらの指 導計画の作成に当たっては,「各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間 などの指導との関連を図る」を加えた。 イ 道徳的実践の指導の充実 道徳的実践の指導の充実を図る観点から「 (4) 第1章総則の第1の2及び第3 章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき,道徳の時間などとの関連を考慮しな がら,第3章道徳の第2に示す内容について,特別活動の特質に応じて適切な指導 をすること。」を加えた。 〔内容の取扱い〕 ア 集団としての意見をまとめるなどの話合い活動等の充実 学級活動,児童会活動,クラブ活動については,今日的な課題を踏まえ「よりよ い生活を築くために集団としての意見をまとめるなどの話合い活動や自分たちでき まりをつくって守る活動,人間関係を形成する力を養う活動などを充実するよう工 夫すること。」を加えた。 イ 発達の段階に応じた内容の重点化及び学級活動と道徳教育や学級経営等との関 連 学級活動については,「学級,学校及び児童の実態,学級集団の育成上の課題や 発達の課題及び第3章道徳の第3の1の(3)に示す道徳教育の重点などを踏まえ, 各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図るとともに,必要に応じて, 内容間の関連や統合を図ったり,他の内容を加えたりすることができること。」が --9/127-- -7- 示された。 また,学級経営の充実と学級活動の指導との関連が深いことから,「学級経営の 充実を図り,個々の児童についての理解を深め,児童との信頼関係を基礎に指導を 行う」を加えた。 ウ 「異年齢集団による交流」の充実と言語活動の充実 学校行事の実施に当たっての配慮事項として,「異年齢集団による交流」の充実 を加えるとともに,言語活動を充実する観点から「体験活動を通して気付いたこと などを振り返り,まとめたり,発表し合ったりするなどの活動を充実するよう工夫 すること。」を加えた。 --10/127-- --10/127-- -8- 第2章 特別活動の目標 第1節 特別活動の目標 特別活動の目標は,学習指導要領第6章第1「目標」で,次のように示している。 望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り,集 団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度を 育てるとともに,自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養 う。 この特別活動の目標は,学級活動,児童会活動,クラブ活動及び学校行事の四つの 内容の目標を総括する目標である。 1 特別活動の目標 特別活動は,「望ましい集団活動」を通して,「心身の調和のとれた発達」,「個 性の伸長」,「集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築」くなどの「自主的, 実践的な態度」を育て,「自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力」 を養うことを目標とする教育活動である。 今回,「人間関係」や「自己の生き方についての考えを深め, 自己を生かす能力 を養う」を新たに目標に加えたのは,今日的な課題を踏まえ,望ましい集団活動を通 してよりよい人間関係を築くとともに,自己の生き方についての望ましい認識をもつ など考えを深め,集団の一員として自己をよりよく生かすことができるようにするな ど,道徳的実践の指導の一層の充実を図り,豊かな人間性や社会性,自律性を備えた 児童を育てることを目指したことによるものである。 (1) 望ましい集団活動の展開と望ましい集団の育成 目標に示してある「望ましい集団活動」は,特別活動固有のものであり,特別活動 の特質が望ましい実践的な集団活動として展開される教育活動であることを示してい る。したがって,豊かな学校生活を築くとともに,公共の精神を養い,社会性を育成 することをねらいとする特別活動では,学級活動,児童会活動,クラブ活動及び学校 行事のいずれにおいても「望ましい集団活動」を展開することが前提となる。 --11/127-- -9- 「望ましい集団活動を通して」とは,一人一人の児童が互いのよさや可能性を認 め,生かし,伸ばし合うことができるような実践的な方法によって集団活動を行った り,望ましい集団を育成しながら個々の児童に育てたい資質や能力を育成したりする という特別活動の方法原理を示したものである。 人間は,所属する集団における人と人との関係の中で人間形成を図っていくという 側面がある。したがって,児童の成長は,所属する集団の人間関係がどのようなもの かによって大きく左右される場合が少なくない。所属する集団の人間関係が望ましい ものでない場合には,例えばいじめなどに見られるように一部の児童が排斥された り,不登校のきっかけになったり,児童一人一人のよさが十分に発揮されなかったり するなどの問題が生ずることもある。 これらのことを踏まえ,特別活動の指導に当たっては,個々の児童が互いのよさや 可能性を発揮し,よりよく成長できるような「個が生きる集団活動」を展開する必要 があることから,目標の冒頭に,「望ましい集団活動を通して」と示しているのであ る。 望ましい集団活動とは,児童の発達の段階や特性,あるいは,それぞれの集団の編 成の時期などによってとらえられなくてはならないが,一般的に,次のような条件を もつものと考えられる。 ア 活動の目標を全員でつくり,その目標について全員が共通の理解をもってい ること。 イ 活動の目標を達成するための方法や手段などを全員で考え,話し合い,それ を協力して実践できること。 ウ 一人一人が役割を分担し,その役割を全員が共通に理解し,自分の役割や責 任を果たすとともに,活動の目標について振り返り,生かすことができるこ と。 エ 一人一人の自発的な思いや願いが尊重され,互いの心理的な結び付きが強い こと。 オ 成員相互の間に所属感や所属意識,連帯感や連帯意識があること。 カ 集団の中で,互いのよさを認め合うことができ,自由な意見交換や相互の関 係が助長されるようになっていること。 --12/127-- -10- 一般的に,児童が自発的に集団をつくったり,その集団活動を行ったりする場合に も,以上のような活動の条件をいくつかもつようになるが,特別活動のそれぞれの集 団活動を行う場合には,特に以上のような条件を備えた望ましい集団活動が行われる よう教師の適切な指導が必要である。 (2) 個人的な資質の育成 目標に示してある「心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り」の部分は,個々 の児童が将来において社会的な自己実現を図るために必要とされる資質の基礎を培う ことをねらいとして,特別活動が達成すべき目標の一つとして示している。 児童期は,知的な面でも,心の面でも,身体的な面でも成長・発達が著しい時期で ある。低学年は,学校での規則的な生活や友達との関係などを通して,周囲が自分の 思い通りに動かないことを知り,次第に自己中心性が減少していく時期である。 「徒党時代」と言われる中学年の時期は,それまでの流動的であった友達との関係 に固定化が見られ,常に行動を共にする仲間ができてくる。自分の仲間集団と他の仲 間集団との区別がはっきりしてくるので,仲間との行動を通して,自分が仲間からど のように評価されているのかを気にするようになり,自分への認識が深まる時期でも ある。 また,高学年の時期は,男女間の閉鎖的な仲間関係から脱却して,学級全体として の仲間意識をもつようになり,集団の一員としての所属感や役割意識を自覚するよう になる。 このような時期をとらえて多様な集団を編成し,集団活動に積極的に取り組ませる ことにより,生涯を通じて心身ともに健康な生活を送るための基礎を培うことが大切 である。 目標に示した「個性」とは,自己中心的な「閉じた個」ではなく,集団から認めら れ,集団の中で自らのよさをよりよく発揮し,他者と協調できるような「開かれた 個」である。また,「個性の伸長」とは,児童が,様々な集団活動を通して,多様な 他者との人間的な触れ合いの中で,自他のよさや可能性に気付き,理解し,そのよさ や可能性を互いに認め合い,よりよく伸ばし合うとともに,自分への自信をもち,積 極的に集団活動に生かしていくことを示している。 特に,個性は集団の中において伸ばされていくものであり,望ましい集団において こそ,自己を実現し,自己を創造的に個性化していくことができる。そこで,目標に 示した個性の伸長は,教育活動全体を通じて行うことになるが,多様な集団活動が展 開される特別活動においては,より高い効果が期待できる。そのため,特別活動の指 --13/127-- -11- 導に当たっては,共通の目標を追求するような様々な集団活動の場や機会をより多く 設定することが大切である。さらには,このような集団活動を通して,児童一人一人 の個性を見いだし,客観的に理解するよう努める必要がある。また,児童が人間的な 触れ合いを深める中で自他の個性について気付き,理解できるようにするとともに, 互いの個性を認め合い,自分への自信を高め,自分のよさや可能性を学級や学校生活 の中で積極的に生かすことができるようにする必要がある。特に,目標に「個性の伸 長」を示したクラブ活動においては,このことに配慮して指導することが大切であ る。 (3) 社会的な資質の育成 目標に示してある「集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする」の 部分は,様々な集団活動を通して,自分の所属する集団への所属意識をもち,集団の 一員としての自覚をもって生活の向上のために進んで貢献していこうとする社会性の 基礎を育成していくことを示している。例えば,学級や学校の生活づくりのために自 己の役割や責任を果たす態度,多様な他者と互いのよさを認め合って協力する態度, 規律を守る態度,人権を尊重する態度などの基礎である。 このような社会性の基礎は,多様な価値観,性格などをもつ児童が一緒に一つの目 標を協同して追求する集団活動において,児童一人一人が自分の役割を受け持ち,協 力してその責任を果たすことにより,確かなものとして身に付いていく。したがっ て,このような社会性の基礎を身に付けるためには,児童が互いの個性を認め合う中 で,与えられた役割を自覚し,責任をもって仕事を果たす必要があるのであり,この ような経験を積み重ねることが大切である。 指導に当たっては,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築くことへの関心 ・意欲を高め,諸問題の解決に向けて思考・判断を深めるとともに,実践を通して集 団活動を行うのに必要な知識や技能を身に付けるよう,学級や学校の集団の育成上の 課題や発達の段階に応じた課題に即して適切に指導することが求められる。 (4)自主的,実践的な態度の育成 目標に示した「自主的,実践的な態度を育てる」の部分は,特別活動が目指す中心 的な目標であり,「心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り」や「集団の一員と してよりよい生活や人間関係を築こうとする」ことについて,児童自身が意識して努 力したり,自ら高めたり,伸ばしたりすることができるようにするなど,自主的,実 践的な態度を育てることを示している。また,このような態度は,児童が自主的,実 --14/127-- -12- 践的に活動することを積み重ねることにより身に付くものであり,望ましい集団活動 が,児童の自主的,実践的な活動として展開できるようにすることも大切なことであ る。 特別活動は,望ましい集団生活を築くために児童が協力し合って活動の目標を設定 したり,自分の役割や責任を進んで遂行したりするとともに,個々の児童が実際に直 面する諸問題への対応や解決の仕方などを実践的,体験的に学ぶ活動が行われるな ど,児童が自発的,自主的に取り組みやすい活動内容によって構成されている。児童 には,このような活動を通して,自分たちで決めた目標の達成を目指し,現実に即し て実行可能な方法について考えながら着実に遂行するなどの自主的,実践的な態度を 育成していくことが期待される。 また,特別活動のいずれの活動も,互いに触れ合い,協力し合い,認め合う中で自 分への自信をもち,自己を学級や学校生活の中で積極的に生かす場や機会が多い。そ こで,特別活動の指導に当たっては,このような児童による自発的,自治的な取組を 通して,一人一人の児童に自分への自信をもたせるようにするとともに,これらを発 揮してよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度が身に付くよう に配慮することが大切である。 (5) 自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養う 目標に示してある「自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養 う」の部分は,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする多様な集団 活動を通して,望ましい認識がもてるようにするとともに,集団の中で自己を生かす 能力を養っていくことを示している。例えば,集団の一員として,目標をもつこと, 将来に夢や希望をもって現在の生活を改善しようとすること,協調性や責任感,規範 意識を高めること,人権を尊重することなどにかかわる自己の生き方についての考え を深め,その大切さを認識できるようにすることである。また,これらのことにかか わる自己のよさや可能性を集団の中で生かしてよりよい生活を築いていくことができ るような能力を育成することである。 特別活動の四つの内容は,教師と児童,児童相互の人間的な触れ合いを通して,助 け合い,認め合い,そして,自己のよさや可能性に気付き,自信をもち,これらを学 級や学校生活の中でよりよく生かす場でもある。 児童は仲間から受容され,支持されることによって,集団の中における自己の姿を 客観的に理解し,自己の認識を深め,自分への自信と心理的安定感を強める。このよ うな認め合う雰囲気の中において,児童は,それぞれ自分なりに精一杯生きたいとい う人間的要求を正しく積み上げることができ,教師や児童たちとの人間的な触れ合い を通して,自発的,自治的に個性を形成し,自主性が養われていくのである。児童 は,様々な集団活動に参加することによって,他人の立場を理解し,自己を律し,共 通の目標を達成するために力を尽くすことを学ぶ。さらに,集団活動の運営につい --15/127-- -13- て,意見を交換し,計画の実行に際して直面する困難や課題を克服するために工夫 し,協力することによって各自の役割を自覚し責任を果たすことができ,また,多く の社会的知識と社会的技術を獲得することができる。児童は,このような人間関係を 築きながら「(1) 学級や学校の生活づくり」を進める中で,集団の一員としての自己 の生き方についてのよりよい認識を深め,自己を生かす能力を培っていくのである。 2 特別活動の目標と各活動・学校行事の目標との関連 特別活動は,学級活動,児童会活動,クラブ活動及び学校行事の各内容から構成さ れている。これらの内容は,それぞれ独自の目標と内容をもつ教育活動であるが,最 終的には特別活動の目標を目指して行われるものである。したがって,次に示したよ うに特別活動の目標と各活動・学校行事の目標には密接な関係があることについて理 解するとともに,十分考慮し,関連を図って計画し,指導することが大切である。 特別活動の目標と各活動・学校行事の目標 望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を 特別活動 図り、集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主 的,実践的な態度を育てるとともに,自己の生き方についての考えを深 め,自己を生かす能力を養う。 学級活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員として学 学級活動 級や学校におけるよりよい生活づくりに参画し,諸問題を解決しようと する自主的,実践的な態度や健全な生活態度を育てる。 児童会活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員として 児童会活動 よりよい学校生活づくりに参画し,協力して諸問題を解決しようとする 自主的,実践的な態度を育てる。 クラブ活動を通して,望ましい人間関係を形成し,個性の伸長を図 クラブ活動 り,集団の一員として協力してよりよいクラブづくりに参画しようとす る自主的,実践的な態度を育てる。 学校行事を通して,望ましい人間関係を形成し,集団への所属感や連 学校行事 帯感を深め,公共の精神を養い,協力してよりよい学校生活を築こうと する自主的,実践的な態度を育てる。 --16/127-- -14- 特に,特別活動の中心的な目標として示している「自主的,実践的な態度」につい ては,各活動・学校行事の目標のすべてに示した。これは,各活動・学校行事の目標 に示した「人間関係の形成」や「生活づくりへの参画」などが,それぞれの特質を生 かして児童の自主的,実践的な態度として育成されるようにすることを示したもので ある。 また,特別活動の目標で示している「望ましい集団活動を通して」については,特 に各活動・学校行事の目標には示していないが,特別活動のすべての内容に共通する 方法原理であることから,例えば「学級活動を通して」を,「学級活動における望ま しい集団活動を通して」ととらえて指導に当たる必要がある。同様に,特別活動の目 標に示した「自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養う」につい ても,特別活動のすべての内容に係るものととらえて,各内容の特質に即して指導す る必要がある。 このほか,目標に新たに加えた「人間関係」については,各活動・学校行事の目標 に「望ましい人間関係を形成し」を共通に示したことを踏まえ,各活動・学校行事の 特質に即して指導するとともに,特別活動全体として児童一人一人に望ましい人間関 係を築く態度が形成されるようにする必要がある。 さらには,目標の「集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主 的,実践的な態度を育てる」を受けて,児童の自発的,自治的な活動を特質とする学 級活動,児童会活動,クラブ活動において,「集団の一員として」と「参画し」を共 通に示した。このことを踏まえ,各内容相互の関連を図り,児童による自発的,自治 的な活動が一層効果的に展開できるようにするとともに,児童に社会に参画する態度 や自治的能力が育つように指導する必要がある。 --17/127-- -15- 第2節 特別活動の基本的な性格と教育的意義 特別活動は,目標に示すように,児童の望ましい集団活動を通して人間形成を図ろ うとする教育活動である。このことから,特別活動の基本的な性格を次のようにとら えることが大切である。 1 人間形成と特別活動 子どもたちが,これから生きていかなければならない社会は,変化が激しく,複雑 な人間関係の中で新しい未知の課題に試行錯誤しながら対応することが求められる難 しい社会である。このような社会をたくましく生きていかなければならない児童にと っては,このような複雑で変化の激しい社会での生き方などについて体験的に学ぶ場 が必要である。特別活動は,その重要な場や機会として,学校教育において,望まし い集団活動や体験的な活動を通して,実際の社会で生きて働く社会性を身に付けるな ど,児童の人間形成を図る教育活動である。 これからの教育においては,このような複雑で変化の激しい社会において,将来の 職業や生活を見通して自立的に生きるための「生きる力」を育成することが求められ ている。特に,自分のよさや個性を生かして,多様な他者と共に,社会,自然・環境 とのかかわりの中で,これらと共に生きる自分への自信をもたせることや基本的な生 活習慣を確立するとともに,公共の精神など社会生活を送る上で必要な資質や能力な どを,発達の段階に応じた活動や体験を通して,体得させていくことが重要な課題に なっている。このような資質や能力は,学校の教育活動全体を通じて育成されるもの であるが,特に,学校における望ましい集団活動や体験的な活動を通して,児童の人 間形成を図ることを特質とする特別活動は,大きな役割を担うものである。 (1) 学校における集団活動や体験的な活動の一層の充実 近年,都市化,少子高齢化,地域社会における人間関係の希薄化などが進む中で, 家庭や地域社会において社会性を身に付ける機会が減少している。また,情報化の進 展により,間接体験や疑似体験が膨らむ一方,望ましい人間関係を築く力などの社会 性が身に付けにくくなっている。このような状況の中で,児童の対人関係が未熟なま まに,協力してよりよい生活を築くことができないことや,社会性の未熟さがいじめ や不登校,暴力行為などの一因になっていることも指摘されている。 --18/127-- -16- これらの問題行動等を解消するとともに,望ましい人間関係を築く態度を形成し, 多様な他者と協力して生活上の諸問題を解決し,よりよい生活を築くことができるよ うにするなど,たくましく生きる力を育成するためには,学校における児童の望まし い集団活動や体験的な活動を一層充実することが重要である。 (2)「発達課題の達成」の理解に基づいた指導 人がよりよく発達を遂げるためには,人間としてそれぞれの発達時期に達成してお くべき課題がある。学級や学校生活における望ましい集団活動を通して,人間形成を 図ろうとする特別活動においては,この発達課題を十分に理解して指導に当たる必要 がある。それぞれの発達時期にこの発達課題を達成していない場合は,その偏りや未 熟さが,様々な不適応行動の要因になることが多いからである。なぜならば,乳・幼 児期からどのような環境の下で育てられ,生活経験を積んできたか,児童期にどのよ うな人間性や社会性が育てられたかが,青年期の生活や学習の在り方,ひいては個人 の一生の問題と深くかかわることもあるからである。 児童期における発達課題の例として,以下のものがある。これらは,集団活動と深 いかかわりをもつものが多い。 ア 普通の遊びに必要な身体的技能の習得 イ 自分の身体に対する健全な態度の形成 ウ 友人との適切な仲間関係の成立 エ 読み・書き・計算の基礎的な技能の発達 オ 良心・道徳性・価値判断の尺度の発達 カ 人格の独立性の発達 キ 各種の社会的態度の発達 これらの発達課題は,自然に達成され,身に付くものではない。教師などの意図的 な働きかけをきっかけとして,児童自身の主体的な生活経験が積み重ねられて身に付 くものである。 児童は,所属する学級の友達と協力して活動することを通して,また,学年や学級 を超えた様々な集団の中で,試行錯誤しながら進んで活動する経験を積むことによ り,集団の一員としての自覚や自己の生き方についてのよりよい認識を深め,協力し て生活しようとする自主的,実践的な態度を身に付けることができるのである。 (3) 学校生活における集団活動の発達的な特質を踏まえた指導 特別活動は,集団活動を通して人間形成を図る教育活動であることから,発達課題 について理解するとともに,幼児期の発達や指導の状況を理解し,次のような児童期 --19/127-- -17- の集団活動の発達的な特質を十分に踏まえて指導する必要がある。 ア 低学年 児童は,まず学級生活を中心に新しい生活を始める。小学校への入学当初におい ては,幼児期の自己中心性がかなり残っており,学校の中の児童相互の関係は,個 々の児童の単なる集合の段階にある。また,教師と児童との関係が中心で,児童相 互の人間関係は少ない。さらには,行ってよいことと悪いことについての理解はで きるようになるが,感情的,衝動的な言動が多く,入学期に小学校生活や集団生活 にうまく適応できなかったり,このことによって授業が成立しにくい状況が生まれ たりするなどのいわゆる小1プロブレムの問題も生じてくる。 第1学年後半になると,教師を中心とする学級集団への所属感や一体感が現れ始 める。また,2,3人の小グループにおいて仲よく活動することはできるようにな る。しかし,友人関係は全体として流動的で結び付きも弱く,学級全体としての集 団のまとまりは欠けている。 第2学年になると,活動の中心となる児童が目立ち始め,他人の立場を認めた り,理解したりしようとする態度や,よりよい学級生活を築こうとする自主性など も次第に高まってくる。学級の中のそれぞれの集団は,仲間としての結び付きもそ の期間も次第に長くなり,その成員数も増え,小集団での協同的な活動ができるよ うになってくる。また,学級全体に目を向けたり,学校に対する所属感を少しずつ 深めていくようになる。さらには,役割を分担して活動したり,きまりの大切さを 認識して生活したり遊んだりすることができるようになる。 そこで,教師は,このような低学年の学校生活における集団活動の発達的な特質 を踏まえ,いわゆる小1プロブレムにかかわる課題に配慮し,就学前教育との関連 を図りながら,例えば,幼稚園教育要領の「人間関係」の領域などの教育や社会性 をはぐくむ幼児期の教育との接続を図って,小学校における集団生活に適応できる ようにすることが大切である。 そのためには,入学当初から徐々に大きな集団における幅広い人間関係の中で活 動できるようにし,集団で活動する楽しさを味わわせたり,上学年の児童が温かく 見守るようにしたりするなどして,安心して学校に通えるようにすることが大切で ある。また,集団活動を通して,約束やきまりなどを守らなければならないことを 理解させたり,みんなと一緒に活動できるようにしたりする必要がある。さらに は,学習や給食,清掃など学校における基本的な生活の仕方を身に付けるととも に,集団活動を通して友達に対してしてよいことや悪いことをしっかりと自覚でき --20/127-- --20/127-- -18- るようにすることが大切である。その他にも,友達の大切さを実感させたり,徐々 に児童が学校での生活に慣れるようにしたりして,学校生活を楽しく送ることがで きるように計画的に指導することが重要である。 この時期の特別活動では,特に学級や学校における集会活動や係活動などを通し てみんなと一緒に活動する楽しさを体感させたり,学級会において友達の意見をし っかり聞くことの大切さを理解して話合いができるようにしたり,異年齢集団や学 級内のグループでの活動を協力して行うことを通して個々の児童が望ましい人間関 係を築く態度の基礎を身に付けることができるようにすることが大切である。 低学年においては,これらのことに配慮し,望ましい集団活動や体験的な活動を 通して,児童が仲よく助け合い学級生活を楽しくすることができるようにするとと もに,進んで日常の生活や学習に取り組むことができるようにすることが大切であ る。 イ 中学年 第3学年になると,集団の中の仲間としての結び付きや集団としての閉鎖性が次 第に増大し,協力して楽しい学級生活をつくろうとする小集団による活動が盛んに なる。また,この時期は,集団感情や集団意識が強く育ってきて,いわゆる「われ われ意識」などの仲間意識が高まってくる。しかし,指図する者とされる者が次第 にはっきりしてきて,それぞれの仲間集団としての小集団が分立し,集団同士の対 立や集団への付和雷同的な行動も見られるようになってくるなど,学級全体として のまとまりが育ちにくい時期でもある。集団活動を行うにしても,それぞれの集団 での活動目標について,ある程度共通に理解して持続して活動することができる が,まだ,個人的な興味・関心や要求に動かされることが多く,その集団に所属す る成員の間にはっきりとした相互依存の関係は見られない。 第4学年になると,集団目標の達成に主体的にかかわったり,協同の活動に取り 組んだりして,リーダー的な児童を中心に教師の力を借りなくてもある程度の計画 的な活動ができるようになり,自分たちできまりをつくって守ろうとするなどの自 主性も増してくる。また,クラブ活動に参加するなど,学級生活のみでなく学校生 活全般に興味・関心を広げ,自発的に活動しようとする意欲が強くなる。また,男 女の活動の違いも見られるようになり,男女別の小集団もつくられるようになる。 そこで,教師は,このような中学年の学校生活における集団活動の発達的な特質 を踏まえ,低学年の経験を生かしつつ,例えば,児童の集団活動に対する強い興味 ・関心の出現,自発的な活動への要求の高まりなどを積極的に生かし,自分の行動 --21/127-- -19- や集団としての活動の成果や反省を踏まえて,特に楽しい学級生活づくりのための 係活動などの協同の活動の充実を図ったり,多様な集団に所属して望ましい人間関 係を築く態度を形成するための活動を充実させたりする必要がある。 また,生活や遊びのきまりをつくって守る活動やよりよい生活を築くために集団 としての意見をまとめるための方法などを理解して話合い活動ができるようにした り,集団の秩序や規範,集団活動の方法などを自分たちでつくり上げたり,そのた めの方法を身に付けたりすることができるように指導することも大切である。さら には,高学年に向けて学年の集団など他の学級と一緒に活動に取り組む機会を適切 に設けるなどして,より大きな集団においても個人と集団が調和的に発達できるよ うにすることが大切である。 中学年においては,これらのことに配慮し,望ましい集団活動や体験的な活動を 通して,児童が協力し合って楽しい学級生活がつくれるようにするとともに,日常 の生活や学習に意欲的に取り組めるように指導することも大切である。 ウ 高学年 第5学年になると,中学年までの経験を生かして,自分たちで決めた集団の活動 目標をできるだけ大切にし,常に実践活動を振り返り,改善しながらこれを達成し ようとする感情や意識が強くなる。学級全体としてまとまった活動ができるように なり,友達の長所や短所なども客観的にとらえられるようになるとともに,目標を 実現するために,互いに信頼し支え合って活動することを強く求めるようになる。 また,集団としての実践や自分の言動について振り返り,改善するなどしてよりよ い生活を築こうとする意欲が高まってくる。さらには,児童会活動やクラブ活動の 運営に参加するなど,学校生活の改善や向上にも目を向け,学校全体の集団をまと めようとする意識や活動も見られ,自分の役割や責任などについての自覚が深まっ てくる。 その一方で,思春期にさしかかるこの時期の児童の価値観は,ときに,理想主義 的であり,一面的で独断的な傾向になりやすく,相手に批判的になったり自分の価 値判断に固執しがちになったりする。また,他者と自分を比較して自分に自信がも てなくなったり,些細なことで友達との関係が壊れたり,友達への不信感をもった り,傷付いたりして悩みや不安を感じるようにもなる。また,この時期の学級は, 男女など心身の成長の差が大きい中で,共に生活していることも特徴の一つであ る。 第6学年になると,児童会活動やクラブ活動,学校行事などにおいて中心的な役 割を担うようになり,最高学年としてリーダーシップを発揮しようとするなどの意 --22/127-- -20- 識や態度も育ち,役割や責任を自覚して活動するようになる。また,思春期特有の 不安定な感情がより大きくなり,人間関係に悩んだり,先頭に立って活動すること に消極的になったり,中学校生活への不安を抱きながら生活する児童も少なくな い。 そこで,教師は,このような高学年の学校生活における発達的な特質を踏まえ, 高学年としての役割や責任を果たしたり,最高学年としてリーダーシップを発揮し たりする活動を多様に設定するとともに,多様な他者を認めることの大切さを実感 できるようにしたり,友達の大切さを経験を通して理解できるようにしたりするこ とが大切である。特に,この時期に自分への自信が大きく低下する児童が多い傾向 にあることが指摘されていることを踏まえ,下学年の児童の面倒をみたり,より高 い目標をもって様々な役割を担う体験を通したりして,困難を越えて目標を達成で きるようにしたり,このことについて互いが認め合えるようにしたりして,自分へ の自信がもてるようにすることが大切である。また,現在及び将来の自己の生き方 を取り上げたり,中学校の学級活動等の指導との関連を図った指導計画を作成した りするなど,いわゆる中1ギャップにかかわる課題に配慮し,社会的な自立を高め る中学校への指導につなぐことができるような教育活動を重視する必要がある。 高学年においては,これらのことに配慮し,望ましい集団活動を通して,男女が 協力するなど,信頼し支え合って楽しく豊かな学級や学校の生活がつくれるように するとともに,日常の生活や学習に自主的に取り組むことができるように指導する ことも大切である。 2 特別活動の教育的意義 特別活動は,いくたびかの変遷を経て現在に至っているが,特別活動の特質とし て,次の点を挙げることができる。 第一は,集団活動を特質とすることである。この集団は,単なる遊び仲間の集団で はない。それぞれの集団には,活動目標があり,目標を達成するための方法や手段を 全員で考え,共通の目標を目指して協力して実践していく集団である。 また,各教科等や道徳の学習が主として学級集団を単位として行われるのに対し て,特別活動では,学級活動のように学級集団を単位として行われる活動もあるが, 児童会活動,クラブ活動及び学校行事のように,学年や学級の枠を外して組織された 異年齢集団で行われる活動もある。このように児童が種々の集団に所属して活動する ことにより,人間関係が拡充され,生活経験が豊かになるとともに,思いやりの心, --23/127-- -21- 共に生きていく態度,自己責任の自覚,自律・自制の心など豊かな人間性や社会性を 身に付けることができるのであり,特別活動には,他の教育活動とは異なる役割があ る。 第二は,集団による実践的な活動を特質とすることである。特別活動は,集団活動 であるとともに,集団の実践的な活動でもある。実践的な活動とは,児童が学級や学 校生活の充実・向上を目指して,自分たちの力で諸問題の解決に向けて具体的な活動 を実践することを意味している。したがって,児童の実践を前提とし,実践を助長す る指導が求められるのであり,児童の発意・発想を重視し,啓発しながら,「なすこ とによって学ぶ」を方法原理とする必要がある。 このように考えると,特別活動の教育的意義としては,次の点を挙げることもでき る。 ア 集団の一員として,なすことによって学ぶ活動を通して,自主的,実践的な態 度を身に付ける活動である。 イ 教師と児童及び児童相互の人間的な触れ合いを基盤とする活動である。 ウ 児童の個性や能力の伸長,協力の精神などの育成を図る活動である。 エ 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの学習に対して,興味 ・関心を高める活動である。また,逆に,各教科等で培われた能力などが総合・ 発展される活動でもある。 オ 道徳的実践を効果的に展開できる重要な場や機会であることを積極的に生かし て,知・徳・体の調和のとれた豊かな人間性や社会性の育成を図る活動である。 したがって,特別活動の指導に当たっては,これらの教育的意義を理解して効果的 な計画を立て,望ましい集団活動が展開されるようにすることが大切である。 なお,学校週5日制の下,児童が家庭や地域社会において,豊かな自然体験や社会 体験をする機会に,学校における集団活動の経験が十分生かされ,発揮される必要が ある。また,家庭や地域社会における集団活動の経験を,学校教育に生かすことも大 切である。このように考えると,特別活動には,学校と家庭・地域社会との間に立っ て,両者を結ぶ重要な役割を果たすことが期待される。 3 特別活動の内容相互の関連 特別活動の内容相互の関連については,学習指導要領第6章の第3の2の(1)の中 で「〔学級活動〕,〔児童会活動〕及び〔クラブ活動〕の指導については,指導内容 の特質に応じて,教師の適切な指導の下に,児童の自発的,自治的な活動が効果的に 展開されるようにするとともに,内容相互の関連を図るよう工夫すること。」と示し ている。 --24/127-- -22- 学級活動,児童会活動,クラブ活動は,児童による自発的,自治的な活動を効果的 に展開する実践活動である。したがって,これらの活動における一貫した指導によっ て身に付けた態度が相互に生かされ,学級や学校の生活づくりに参画する態度や自治 的能力がより一層身に付くことになる。 特別活動の内容相互の関連については,このほかにも考えられる。特別活動におけ る四つの内容は,それぞれが固有の価値をもち,集団の単位,活動の形態や方法,時 間の設定などにおいて異なる面が多い。しかし,これらは,最終的に特別活動の目標 を目指して行われ,相互に関連し合っていることを理解し,児童の自主的,実践的な 態度を育成する活動を効果的に展開できるようにすることが大切である。 学級活動においては,「(1)学級や学校の生活づくり」を大切にしており,児童会 活動,クラブ活動,学校行事の充実にかかわることも生活づくりの問題の一つとして 取り上げることが大切である。そして,このことを通して学級や学校の一員としての 自覚を深め,社会性を培い,個性を伸長するとともに,望ましい人間関係やよりよい 学級集団を育成するのであり,学級活動は特別活動の基盤となる教育活動である。ま た,学級活動の指導において,児童の自主的な実践活動の積み重ねにより身に付いた 資質や能力が児童会活動,クラブ活動,学校行事においても発揮される。一方,児童 会活動やクラブ活動,学校行事ではぐくまれた自主的,実践的な態度や自分への自信 が学級活動で発揮されるなどの関連もある。 児童会活動やクラブ活動及び学校行事において,高学年については下学年への思い やりや高学年としてのリーダーシップを育てたり,下学年については上学年へのあこ がれをはぐくんだりするなど,異年齢集団による活動の効果的な展開が期待できる。 また,学級活動の「学校における多様な集団の生活の向上」を目指した話合い活動と の関連が図られることにより,一層充実した活動が展開できる。 これらの四つの内容相互の密接な関連を全教職員が理解し,6年間を見通した学校 としての特別活動の全体計画と各活動・学校行事の年間指導計画を作成し,児童の自 主的,実践的な活動を効果的に指導することによって,特別活動の全体が充実し,特 別活動の目標を達成していくことができるのである。 4 特別活動と各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などとの関 連 特別活動と各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などとの関連につい ては学習指導要領第6章の第3の1の(1)の中で「各教科,道徳,外国語活動及び総 合的な学習の時間などの指導との関連を図る」と示されている。 小学校の教育課程は,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活 --25/127-- -23- 動によって編成されており,それぞれが固有の目標やねらいをもつ教育活動である。 しかし,固有のねらいをもつといっても,実際には,直接的,あるいは間接的に様々 な関連をもっている。したがって,それぞれの教育活動が相互に関連し補充し合いな がら,それぞれのねらいを達成することにより,全体として小学校教育の目的や目標 を達成することができる。 (1) 各教科及び外国語活動との関連 集団活動を充実するためには,各教科等の学習で獲得した関心・意欲,知識や技能 などが,集団活動の場で総合的に生かされ,発揮されなければならない。また,集団 活動を通して培われた自発的,自治的な態度が,各教科等の学習によい影響を与える ことも多い。このように各教科等と特別活動は,互いに支え合い,補い合う関係にあ る。その意味で,特別活動の目標を達成し,ひいては各学校の教育目標をよりよく実 現するために,他の教育活動との関連を十分に図って特別活動の全体計画や各活動・ 学校行事の年間指導計画を作成して,指導することが大切である。 特別活動における集団活動は,意見の異なる人と折り合いを付けたり,他者と議論 して集団としての意見をまとめたりする話合い活動や,体験したことや調べたことを まとめたり発表し合ったりする活動が多様に展開されることから,言語力の育成や活 用の場として重要な役割を果たしている。 国語科との関連においては,例えば,国語科で身に付けた「話すこと・聞くことの 能力」が,特別活動においてよりよい生活や人間関係を築いたり,集団としての意見 をまとめたりするための話合い活動に実践的に働くことになる。また,特別活動で養 われることになるよりよい生活を築くために話し合ったり,言葉で表現したり,まと めたり,発表し合ったりしようとする自主的,実践的な態度が,国語科における「話 すこと・聞くことの能力」「書くことの能力」を養うための学習においても生かされ ることになる。 また,学級活動や児童会活動などで行われる調査・統計・結果を効果的にまとめた り,説明したりするなどの基礎となる能力は,算数科,理科,社会科などで培われる ものである。 同好の児童が共通の興味・関心を追求する活動を展開するクラブ活動においては, 伝統的,文化的,体育的,生産的,奉仕的な活動などから様々なテーマを取り上げて 取り組むことがある。これらのテーマは,各教科等の学習と深いかかわりをもってい る場合が多い。 学校行事においては,学芸会,作品展,音楽会,運動会,遠足,集団宿泊活動,修 学旅行,飼育栽培活動など各種の行事が行われており,これらの行事は,各教科等の --26/127-- -24- 学習と深いかかわりをもつものが多い。逆に,様々な行事の経験が各教科の学習に生 きるなど,学校行事と各教科等は深いかかわりをもっている。このように学校行事 は,児童が日常の学習や経験を総合的に発揮し,発展を図る教育活動であり,各教科 等では容易に得られない体験的な集団活動である。また,儀式的行事などにおける国 旗及び国歌の指導については,社会科や音楽科などにおける指導と十分に関連を図 り,成果を上げることが大切である。 また,外国語活動との関連については,特別活動が「望ましい人間関係の形成」を すべての各活動・学校行事の目標に共通に示していることを踏まえ,両者の特質を生 かして,結果として友達とのかかわりを大切にした体験的なコミュニケーション活動 を一層効果的に展開できるようにする必要がある。 これまでに概観したように特別活動の各内容は,各教科等の指導や学習と深いかか わりをもっている。また,特別活動において培われた協力的で,自主的,実践的な態 度は,各教科等の学習に影響を与え,ともすると受動的で,平板に陥りがちな学習活 動を変えていく効果もある。 (2) 道徳との関連 特別活動と道徳との関連については,学習指導要領第6章の第3の1の(4)で,次 のように示している。 (4) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づ き,道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容 について,特別活動の特質に応じて適切な指導をすること。 学習指導要領の第1章総則の第1の2においては,「学校における道徳教育は, 道徳の時間を 要 として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間 かなめ はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの 特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならな い」と規定されている。 これを受けて,特別活動の指導においては,その特質に応じて,道徳について適 切に指導する必要があることを示すものである。 ア 道徳教育と特別活動 特別活動における道徳教育の指導においては,学習活動や学習態度への配慮,教 師の態度や行動による感化とともに,以下に示すような特別活動の目標と道徳教育 との関連を明確に意識しながら,適切な指導を行う必要がある。 特別活動においては,目標を「望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた --27/127-- -25- 発達と個性の伸長を図り,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとす る自主的,実践的な態度を育てるとともに,自己の生き方についての考えを深め, 自己を生かす能力を養う。」と示している。この目標には,心身の調和のとれた発 達と個性の伸長,自主的,実践的な態度,自己の生き方についての考え,自己を生 かす能力など道徳教育がねらいとする内容と共通している面が多く含まれており, 道徳教育との結び付きは極めて深い。とりわけ,特別活動における学級や学校生活 における望ましい集団活動や体験的な活動は,日常生活における道徳的実践の指導 をする重要な機会と場であり,道徳教育に果たす役割は大きい。 具体的には,例えば,自分勝手な行動をとらずに節度ある生活をしようとする態 度,自己の役割や責任を果たして生活しようとする態度,よりよい人間関係を築こ うとする態度,みんなのために進んで働こうとする態度,自分たちで約束をつくっ て守ろうとする態度,目標をもって諸問題を解決しようとする態度,自己のよさや 可能性に自信をもち集団活動を行おうとする態度などは,集団活動を通して身に付 けたい道徳性である。また,児童の悩み,学級や学校生活における@藤などの道徳 かつとう 性に関する問題は,学級活動における指導と深いかかわりがある。 特に,学級活動の内容に示した〔第1学年及び第2学年〕の「仲良く助け合い学 級生活を楽しくする」や〔第3学年及び第4学年〕の「協力し合って楽しい学級生 活をつくる」,〔第5学年及び第6学年〕の「信頼し支え合って楽しく豊かな学級 や学校の生活をつくる」は,第3章道徳の第2に示す「2 主として他の人とのか かわりに関すること」や,「4 主として集団や社会とのかかわりに関すること」 のうち,かかわりの深い内容項目を踏まえたものである(57ページ参照)。ま た,学級活動の指導計画の作成に当たっては,「第3章道徳の第3の1の(3)に示 す道徳教育の重点などを踏まえること」と示している。このように学級活動におい ては,〔共通事項〕の(1)の「学級や学校の生活づくり」の内容として,学級や学 校における生活上の諸問題の解決,学級内の組織づくりや仕事の分担処理,学校に おける多様な集団の生活の向上を示している。この活動は,児童がよりよい生活を 築くために,諸課題を見いだし,これを自主的に取り上げ,協力して解決していく 自発的,自治的な活動である。このような児童による自発的,自治的な活動によっ て,望ましい人間関係の形成やよりよい生活づくりに参画する態度などにかかわる 道徳性を身に付けることができる。 また,学級活動の〔共通事項〕の(2)の「日常の生活や学習への適応及び健康安 全」の内容としては,希望や目標をもって生きる態度の形成,基本的な生活習慣の 形成や望ましい人間関係の形成,清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の 理解,学校図書館の利用,心身ともに健康で安全な生活態度の形成,食育の観点を 踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成を示している。これらのことについて, --28/127-- -26- 自らの生活を振り返り,自己の目標を定め,努力して健全な生活態度を身に付けよ うとすることは,道徳性の育成に密接なかかわりをもっている。 そのほか,児童会活動においては,児童会の計画や運営,異年齢集団による交 流,学校行事への協力などを通して,学校生活の充実と向上を図る活動が行われ る。異年齢の児童が学校におけるよりよい生活を築くために,諸問題を見いだし, これを自主的に取り上げ,協力して解決していく自発的,自治的な児童会活動は, 異年齢による望ましい人間関係の形成やよりよい学校生活づくりに参画する態度な どにかかわる道徳性を身に付けることができる。 クラブ活動においては,クラブの計画や運営,クラブを楽しむ活動,クラブの成 果を発表する活動など,異なる学年や学級の児童により,共通の興味・関心を追求 する活動が行われる。異年齢の交流を深め,協力して共通の興味・関心を追求する 自発的,自治的なクラブ活動は,異年齢による望ましい人間関係の形成や個性の伸 長,よりよいクラブ活動づくりに参画する態度などにかかわる道徳性を身に付ける ことができる。 学校行事においては,学校生活に秩序と変化を与え,学校生活の充実と発展に資 する体験的な活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団への所属感や連帯感 を深め,公共の精神を養い,協力してよりよい学校生活を築こうとする自主的,実 践的な態度を育てる指導がなされる。特に,ボランティア精神を養う活動や自然の 中での集団宿泊体験,幼児,高齢者や障害のある人々などとの触れ合いや文化や芸 術に親しむ体験を通して,望ましい人間関係,自律的態度,心身の健康,協力,責 任,公徳心,勤労,社会奉仕などにかかわる道徳性の育成を図ることができる。 イ 道徳の時間と特別活動 特別活動は,道徳の時間に育成した道徳的実践力について,よりよい学級や学校 の生活や人間関係を築こうとする実践的な活動の中で実際に言動に表すとともに, 集団の一員としてのよりよい生き方についての考えを深めたり,身に付けたりする 場や機会でもある。そして,児童が特別活動における様々な活動において経験した 道徳的行為や道徳的な実践について,道徳の時間にそれらについて取り上げ,学級 の児童全体でその道徳的意義について考えられるようにし,道徳的価値として自覚 できるようにしていくこともできる。さらに,道徳の時間での指導が特別活動にお ける具体的な活動場面の中に生かされ,具体的な実践や体験などが行われることに よって,道徳的実践力と道徳的実践との有機的な関連を図る指導が効果的に行われ ることにもなる。 特に,今回の学習指導要領の改訂によって,特別活動の目標に,道徳の時間の目 標と共通に,「自己の生き方についての考えを深め」を示したことを踏まえ,それ --29/127-- -27- ぞれの指導方法などの違いを十分に理解した上で,道徳の時間との関連を図って日 常生活における道徳的実践の指導の充実を図る必要がある。 特別活動における「自己の生き方についての考えを深める」とは,実際に児童が 実践活動や体験的な活動を通し,現在及び将来にわたって希望や目標をもって生き ることについてや,他者と共生しながら生きていくことなどについての考えを深 め,集団の一員としての望ましい認識をもてるようにすることであり,読み物資料 などを通して自己の生き方についての考えを深める道徳の時間とは区別して指導す る必要がある。 なお,特別活動と道徳の時間との安易な関連付けは,逆に双方の学習効果を低め ることになりかねない。両者の特質をしっかり理解した上で,それぞれの特質を生 かして関連付けることが必要である。 具体的には,例えば,集団宿泊活動において,実際に寝食を共にする体験やより よい生活を築くための話合い活動を繰り返し行った際に,他者と共生しながら生き ていくことなどについての考えを深め,「楽しく生活するためには,誰とでも仲よ くし,協力することが大切である」とか,「集団としての意見をまとめるために は,広い心で自分と異なる意見や立場を大切にする必要がある」などの望ましい認 識がもてるようにするとともに,このような認識に基づいて実際に行動や態度に表 すことができるよう指導することなどが考えられる。 これらは,特別活動において道徳性の育成にかかわる実践的な活動や体験的な活 動を積極的に取り入れ,活動そのものを充実させることによって道徳性の育成を図 ろうとするものである。そして,このような体験活動における道徳的価値の大切さ を自覚し,自己の生き方についての考えを深めるという視点から実践的な活動や体 験的な活動を考えることができるように道徳の時間を工夫し,連携を図っていく必 要がある。 (3) 総合的な学習の時間との関連 特別活動と総合的な学習の時間との関連を考えるに当たっては,まず,それぞれの 目標や内容を正しく理解しておく必要がある。 特別活動は,「望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長 を図り,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な 態度を育てるとともに,自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養 う」ことを目標としており,総合的な学習の時間は「横断的・総合的な学習や探究的 な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよ く問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に付 --30/127-- --30/127-- -28- け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の 生き方を考えることができるようにする」ことを目標としている。 このように,特別活動の特質は「望ましい集団活動を通して」に,総合的な学習の 時間の特質は「横断的,総合的な学習や探究的な学習を通して」にあるととらえるこ とができ,これが両者の大きな違いであるといえる。 一方で,両者とも児童が自主的あるいは主体的に物事に取り組む態度を養うことを 目標としている点に,共通性が見られる。例えば,特別活動で身に付けた集団の一員 としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度は,総合的な学 習の時間のよりよく問題を解決する資質や能力の育成の基盤になるものであり,逆も また同様である。 また,特別活動においては,学級や学校における各種のグループや異年齢集団など において活動が行われるものであるとともに,自然体験やボランティア活動などの社 会体験などの体験活動を重視したり,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合 いを大切にしたりすることとしており,このような点においても総合的な学習の時間 と共通性がある。 以上のような点を踏まえ,両者の関連を図った指導を行うことが重要である。具体 的には,特別活動として実施する集団宿泊活動において,例えば,数日間実施するう ち,探究的な学習として実施したり,このことに関連して事前や事後に指導をしたり する部分について,総合的な学習の時間として行うなどが考えられる。 その際,とりわけ特別活動の学校行事については,その趣旨と総合的な学習の時間 の趣旨を相互に生かし,両者の活動を関連させることにより,結果として活動の成果 が大きくなるようにすることが大切である。また,このことにより,体験活動がダイ ナミックに展開されるようにするなど,学校全体として体験活動が充実されるように する必要がある。 さらに,総合的な学習の時間において計画した学習活動が,学習指導要領に示した 特別活動の目標や内容と同等の効果が得られる場合も考えられる。このため,学習指 導要領の第1章第3の5において,このような場合について,総合的な学習の時間の 実施によって,特別活動の学校行事の実施に替えることができることとする規定を設 けた。 具体的には,総合的な学習の時間において,問題の解決や探究活動といった総合的 な学習の時間の趣旨を踏まえ,例えば,自然体験活動やボランティア活動を行う場合 において,これらの活動は集団活動の形態をとる場合が多く,望ましい人間関係の形 成や公共の精神の育成など,特別活動の趣旨も踏まえた活動とすることが考えられ る。すなわち, --31/127-- -29- ・ 総合的な学習の時間に行われる自然体験活動は,環境や自然を課題とした問題の 解決や探究活動として行われると同時に,「自然の中での集団宿泊活動などの平素 と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとともに,人間 関係などの集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことが できる」遠足・集団宿泊的行事と, ・ 総合的な学習の時間に行われるボランティア活動は,社会とのかかわりを考える 学習活動として行われると同時に,「勤労の尊さや生産の喜びを体得するととも に,ボランティア活動などの社会奉仕の精神を養う体験が得られる」勤労生産・奉 仕的行事と, それぞれ同様の成果も期待できると考えられる。このような場合,総合的な学習の時 間とは別に,特別活動として改めてこれらの体験活動を行わないとすることも考えら れる。 その際,学校行事は,目標と5種類の行事を教育課程の基準として示している集団 活動であること,学年や学校を単位とする,学校生活に秩序と変化を与えることを目 指す教育活動であること,学校集団や学校生活への所属感を深め,望ましい人間関係 の形成や公共の精神などを養う教育活動であることを正しく理解しておく必要があ る。 なお,学習指導要領の第1章第3の5において,「総合的な学習の時間における学 習活動をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替える」場合に は,学習指導要領に示した特別活動と学校行事の目標が達成されるようにするととも に,各学校行事の内容を十分に実施できるようにする必要がある。 (4) 生徒指導等との関連 生徒指導については,学習指導要領第1章総則の第4の2の(3)で,次のように示 している。 (3) 日ごろから学級経営の充実を図り,教師と児童の信頼関係及び児童相互の 好ましい人間関係を育てるとともに児童理解を深め,生徒指導の充実を図る こと。 また,学習指導要領第6章第3の2の(2)においても,「学級経営の充実を図り,個々 の児童についての理解を深め,児童との信頼関係を基礎に指導を行うとともに,生徒指導 との関連を図るようにすること。」が新たに示されている。 生徒指導は,「一人一人の児童生徒の個性の伸長を図りながら,同時に社会的な資質や 能力・態度を育成し,さらに将来において社会的に自己実現ができるような資質・態度を --32/127-- -30- 形成していくための指導・援助であり,個々の児童生徒の自己指導能力の育成を目指すも の(生徒指導資料第20集)」である。このことは,「個性の伸長」や「社会的な資質の育 成」を目標とする特別活動において大切にしていることであり,生徒指導との関連が深 い。 児童は,特別活動において,学校生活の充実と向上を目指して様々な活動に取り組 む。その過程で適切な指導助言を受けることにより,充実感や達成感を味わい,一層 積極的,意欲的によりよい活動を目指すようになる。また,教師は様々な集団活動の 場と機会をとらえ,児童一人一人について,より詳細に具体的に理解する資料が得ら れ,それに基づいて,一層適切に生徒指導を進めることができる。このように生徒指 導は,児童が実践的な集団活動を展開する過程で機能的に働き,様々な活動を円滑に 進めるための基盤をつくるなど特別活動の実践を支え,容易にする。 特別活動と生徒指導とのかかわり方として,次の3点を挙げることができる(参照 :「小学校生徒指導資料1・児童の理解と指導」文部省,昭和57年3月,21〜23ペー ジ)。 ア 所属する集団を,自分たちの力によって円滑に規律正しく運営することを学ぶ イ 集団生活の中で,それぞれの個性を生かし,人格を尊重する生き方を学ぶ ウ 集団としての連帯意識を高め,集団の一員としての望ましい態度や行動の在り 方を学ぶ 生徒指導は,便宜的に学業指導,適応指導,道徳性指導,保健指導,余暇指導など に分けて計画されることがある。これらの内容は,学級活動と深いかかわりがある。 特に,学級活動の「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の内容である「希 望や目標をもって生きる態度の形成,基本的な生活習慣の形成,望ましい人間関係の 形成,清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解,学校図書館の利用,心 身ともに健康で安全な生活態度の形成,食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食 習慣の形成」においては,個々の児童の自己指導能力の育成を目指して,地域や学 校,児童の実態に応じて,学級活動の時間に計画的に指導することになる。 生徒指導は,児童が自らを生かし自己実現できるよう援助する教育機能であり,学 校の教育活動全体を通じて推進することを基本としている。その中にあって学級活動 は,児童が日常生活を営む上で必要な様々な行動の仕方を,計画的,発展的に指導す る教育活動である。その意味で学級活動には,各教科等の時間以上に生徒指導の機能 が多く作用していると考えられる。 学級活動と生徒指導とのかかわり方として,次の3点を挙げることができる。 ア 学級を単位として,きめ細かな生徒指導を行う。 イ 生徒指導の機能を補充し,深化し,統合する役割をもっている。 ウ 生徒指導の観点から,他の教育活動を充実するための条件整備の役割を果たし ている。 学級を超えて行われる集団活動では,ともすると児童一人一人への配慮が欠けがち --33/127-- -31- になる。そこで,指導に当たっては,児童との人間的な触れ合いを深め,学級以外の 者への排他的な考え方はないか,一人一人が受け身でなく主体的に活動しているか, 得意とする能力を生かしているかなどについて留意し,児童一人一人に存在感や自己 実現の喜びを味わえる場と機会を与えるなど,日ごろから生徒指導の充実に努めるこ とが大切である。 また,特別活動は,望ましい勤労観・職業観を育成したり,児童が自ら現在及び将 来の生き方を考えることができるようにしたりするなど,キャリア教育としての役割 も有している。例えば,係活動や委員会活動,清掃などの日常の当番活動,勤労生産 ・奉仕的行事におけるボランティア活動などの指導を充実することによって,望まし い経験や体験を通して,集団やみんなのためにチームで働き貢献することの意義や大 切さを実感するなど,望ましい勤労観や職業観を自ら形成することになる。 また,学級活動や児童会活動などにおいては,諸問題についてみんなで話し合って 民主的に解決したり,きまりの必要性を理解させたり,きまりをつくったり,守った りすることの意義を考えさせたりする場面が多くあり,法教育としての役割も有して いる。特別活動におけるこのような役割を認識し,よりよい学級や学校の生活づくり の指導において,自分たちできまりをつくって守る活動を充実することは,集団の秩 序をつくり,児童の規範意識を育てる上でも大切なことである。 --34/127-- -32- 第3章 各活動・学校行事の目標及び内容 第1節 学級活動 1 学級活動の目標 学級活動の目標は,学習指導要領第6章の第2〔学級活動〕の「1 目標」で,次 のように示している。 学級活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員として学級や学校 におけるよりよい生活づくりに参画し,諸問題を解決しようとする自主的,実践 的な態度や健全な生活態度を育てる。 学級活動は,共に生活や学習に取り組む同年齢の学級を単位とした集団において行 われる活動である。学級活動の目標は,このような学級集団における望ましい集団活 動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員として学級や学校におけるより よい生活づくりに参画し,学級集団の育成上の課題や学年や発達の課題に即して諸問 題を解決しようとする自主的,実践的な態度を育成することである。 学級編制直後などの学級においては,集団としてのまとまりに欠け,学級集団内に 対立や離反などの問題が生じたり,生活や学習が効果的に行われなかったりする場合 がある。しかし,教師の適切な指導によって,学級に望ましい人間関係がはぐくま れ,学級への愛着が深まり,生活や学習が効果的に展開できるような組織的なまとま りもでてくる。このようなことから,学級活動における望ましい集団活動が効果的に 展開されることが求められる。 学級活動で育てたい「望ましい人間関係」とは,楽しく豊かな学級生活づくりのた めに,互いに尊重しよさを認め合えるような人間関係である。特に,低学年では「仲 良く助け合おうとする人間関係」,中学年では「協力し合おうとする人間関係」,高 学年では「信頼し支え合おうとする人間関係」の育成を重視する。 また,学級活動で育てたい「自主的,実践的な態度」とは,目標をもち,学級の一 員としてよりよい生活を築くために役割や責任を果たし,生活や学習に関する諸問題 について,自己をよりよく生かすとともに,みんなで話し合い,協力して解決した り,自己の生き方について考えを深めたりする自主的,実践的な態度である。 --35/127-- -33- 例えば,発達の段階に即して身に付けたよりよい人間関係を築く態度を生かして, 学級生活の目標をつくり,みんなで話し合い,協力して目標を実現できるような自主 的,実践的な態度である。また,自己の生き方についての考えを深め,自己のよさや 可能性を生かして楽しく豊かな「(1)学級や学校の生活づくり」に参画できるような 自発的,自治的な態度である。特に,低学年では「学級生活を楽しくする」ような 「自主的,実践的な態度」,中学年では「楽しい学級生活をつくる」,「自主的,実 践的な態度」,高学年では「楽しく豊かな学級や学校の生活をつくる」,「自主的, 実践的な態度」の育成を重視する。 学級活動で育てたい「健全な生活態度」とは,日常生活を営むために必要な行動の 仕方を身に付け,集団の中で自己を正しく生かそうとする態度であり,「(2)日常の 生活や学習への適応及び健康安全」など心身の健康を増進することができる態度であ る。例えば,アからキに示した共通事項(37〜40ページ参照)について,自己の問 題としてとらえ,改善の方法について話し合い,よりよい自分づくりに向けての目標 や方法を設定し,強い意志をもって努力することができるような生活態度である。 2 学級活動の内容 学級活動の内容については,学習指導要領において,〔第1学年及び第2学年〕, 〔第3学年及び第4学年〕,〔第5学年及び第6学年〕に分けて,次のように示してい る。 〔第1学年及び第2学年〕 学級を単位として,仲良く助け合い学級生活を楽しくするとともに,日常の生 活や学習に進んで取り組もうとする態度の育成に資する活動を行うこと。 〔第3学年及び第4学年〕 学級を単位として,協力し合って楽しい学級生活をつくるとともに,日常の生 活や学習に意欲的に取り組もうとする態度の育成に資する活動を行うこと。 --36/127-- -34- 〔第5学年及び第6学年〕 学級を単位として,信頼し支え合って楽しく豊かな学級や学校の生活をつくる とともに,日常の生活や学習に自主的に取り組もうとする態度の向上に資する活 動を行うこと。 学級活動の指導に当たっては,このことを踏まえ,学級集団の育成上の課題,いわ ゆる小1プロブレムなどの就学前教育との接続の課題,いわゆる中1ギャップや「学 業と進路」にかかわることなどの中学校との接続の課題に即して,適切な内容を取り 上げて計画的に指導する必要がある。 特に,低学年では,周りの児童と仲よく助け合い,身近な人に親切にし,みんなの ために働くなどして学級生活を楽しくすることができる態度を育成するような活動内 容に重点を置くこととした。また,健康や安全に気を付け,自分勝手な行動をとらず に,規則正しい生活をしたり,自分がやらなければならない勉強や仕事はしっかり行 ったりするなど,進んで生活や学習に取り組もうとする態度の育成を図る活動内容に 重点を置くこととした。 中学年では,学級生活を楽しくするとともに,学年全体にも目を向け,互いに理解 し合い,思いやり,みんなで協力し合って,進んでみんなのために働くなど自発的, 自治的に楽しい学級生活をつくろうとする態度の育成を図る活動内容に重点を置くこ ととした。また,よく考えて行動し,節度ある生活をするとともに,目標を立てて自 分でやろうと決めたことは粘り強くやり遂げるなど,意欲的に達成しようとしたり, 自分の特徴に気付き,よいところを伸ばし集団の中で生かそうとしたりする態度の育 成を図る活動内容に重点を置くこととした。 高学年では,自分たちの学級だけでなく学校の生活全体にも目を向け,身近な集団 に積極的に参画し,高学年の一員としての自分の役割を自覚し,誰に対しても思いや りの心をもち,相手の立場に立って親切にし,互いに信頼し合い男女仲よく協力し, 主体的に責任を果たすとともに,よりよい校風をつくろうとするなど,自発的,自治 的に楽しく豊かな学級や学校の生活をつくろうとする態度の育成を図る活動内容に重 点を置くこととした。また,日常の生活や学習についてより高い目標を立て,自分の 生活を見直すなどして,希望と目標をもってくじけないで努力し,自主的に達成しよ うとしたり,自分の特徴に気付き,よいところを伸ばそうとしたりする態度の育成を 図る活動内容に重点を置くこととした。 また,学習指導要領では,いずれの学年においても取り扱う内容を〔共通事項〕と して,「(1)学級や学校の生活づくり」と「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安 全」の二つを次のように示している。 --37/127-- -35- 〔共通事項〕 (1) 学級や学校の生活づくり ア 学級や学校における生活上の諸問題の解決 イ 学級内の組織づくりや仕事の分担処理 ウ 学校における多様な集団の生活の向上 (2) 日常の生活や学習への適応及び健康安全 ア 希望や目標をもって生きる態度の形成 イ 基本的な生活習慣の形成 ウ 望ましい人間関係の形成 エ 清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解 オ 学校図書館の利用 カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成 キ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成 次に二つの活動内容について,その概要を述べることにする。 (1) 学級や学校の生活づくり この活動は,教師の適切な指導の下に,児童自らが楽しく充実した学級や学校の生 活をつくっていくことを内容としている。児童の発意,発想から様々な活動が生ま れ,学級や学校の生活を向上させようとする活動へと広がっていく過程で児童一人一 人に自主性や社会性,集団の一員としての責任感などについて実践を通して育てると ともに,望ましい人間関係を築こうとする態度を形成するものである。 学校の生活づくりに関する内容は,児童自らが気付き,関心をもつものであって, しかも,児童の能力にふさわしく,児童が共同して,具体的に解決の方法を見いだ し,実践できるものが望ましい。つまり,取り上げる問題の条件として,例えば人の 話を静かに聞くなど,一人一人が心掛ければ解決する問題ではなく,学級の児童全員 が協力して取り組まなければ解決できない問題であり,児童の発達の段階にふさわし く,解決の方法を見いだすことができ,しかも,教育的に望ましいと認められる問題 であることが大切である。 これらに関する内容には,次のようなものがある。 ア 学級や学校における生活上の諸問題の解決 この活動は,学級や学校の生活の充実と向上に関する諸問題について,一般的に 「学級会」と称されることが多い会議の場で話し合い,話し合って決めたことなど を協力して実践していくことが主な内容となる。学級会などで話し合う内容として --38/127-- -36- は,楽しい学級にするための様々な内容や集会活動の計画,充実した学級生活を送 るためのきまりや創意工夫,代表委員会などへの学級としての意見の提案などが考 えられる。これらは,いずれの場合においても児童の発意,発想を大切にして取り 上げる必要がある。 児童は,幼稚園や保育所での折り合いをつける経験を基盤にして,各学年の発達 に応じてこのような自発的,自治的な活動を積み重ねることにより,よりよい人間 関係を築く態度を学び,学級における所属感を一層深めることができる。このよう な人間関係を形成し所属感を深めることは,学級活動を活性化するだけでなく,各 教科等の学習を効果的に行う上でも基盤となる重要な課題である。 なお,学級生活の充実と向上を目指して,児童自らが話し合い,計画するだけで なく,決まったことを実際に実行するなど児童が自主的に活動する時間が必要とな るため,適切な授業時数を確保する必要がある。 イ 学級内の組織づくりや仕事の分担処理 学級や学校での生活を充実,向上させるために,必要とされる学級内の組織づく りや仕事の分担などを,児童自身が見いだし,協力していこうとする活動である。 例えば,学級会などの話合い活動が円滑に行われるための計画や準備等を行う計画 委員会,学級生活を豊かにする係活動等の組織づくりや運営に関する内容が考えら れる。これらの組織が機能し,活発な活動が展開されることにより,学級生活の充 実と向上を図ることができるのである。 ウ 学校における多様な集団の生活の向上 児童は,各学級の一員であると同時に,学校の一員でもある。ここで示した「多 様な集団」とは,例えば,各学級における係活動などの各種の小集団,学年を超え て編成される児童会やクラブの集団,学校行事に取り組む各種の集団,日常的に異 年齢交流を行う集団,通学を共にする集団等が考えられる。 児童は,これらの多様な集団に所属し,その一員として生活の向上を目指して発 達の段階に即した役割などを果たす活動を通して,望ましい人間関係を築く態度を 形成したり,所属感を深め,社会性や公共の精神などを培ったりすることができる のである。その際,集団活動の幅を広げて考えることも大切であり,例えば学校行 事などにおいて行う,特別支援学校などとの交流,地域社会との交流,他の小学校 や幼稚園・保育所,中学校などとの交流の一部について,児童の自発的,自治的な 活動として取り組むことも考えられる。 なお,学級活動で取り上げる内容としては,これらの集団活動を活性化するため に,例えば,よりよい集団の生活を築くための計画や運営についての話合い,集団 --39/127-- -37- 生活のために進んで力を尽くそうとしたり,リーダーシップを発揮しようとしたり するための話合い,互いのよさや可能性を生かして役割分担をするための話合いな どの活動内容が考えられる。 (2) 日常の生活や学習への適応及び健康安全 この内容は,日常の生活や学習への適応及び健康や安全に関するもので,児童に共 通した問題であるが,個々に応じて実践されるものである。したがって,児童の共同 の問題として取り上げ,協力して実践する「(1)学級や学校の生活づくり」との違い を踏まえて,教師が意図的,計画的に指導する必要がある。 この「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の共通事項としては,次のよ うなものがある。 ア 希望や目標をもって生きる態度の形成 児童が自分に自信をもち,現在及び将来の生活や学習によりよく適応し,自己を 生かそうとする生活態度を育てることは重要である。また,いわゆる小1プロブレ ム,中1ギャップなどの集団の適応にかかわる問題に対応するため,円滑な学校間 の接続に配慮した指導も必要となる。 指導に当たっては,自分への気付きや自己決定を促す適切な情報・資料を提供す るとともに,心の健康を増進し,健全な人間関係を醸成するなど工夫することが大 切である。具体的には,学校生活への希望や願い,日常生活での目標の設定,不安 や悩みの解消など学校生活への適応に関する内容,望ましい集団生活と自分の役割 の自覚など集団への適応に関する内容,自己の理解を深め個性の伸長を図るなど自 己を見つめる内容,意欲的,計画的な学習態度の形成に関する内容,土・日曜日な どの余暇活用に関する内容などが考えられる。 イ 基本的な生活習慣の形成 持ち物の整理整頓,衣服の着脱,あいさつや言葉遣いなど基本的な生活習慣にか とん かわる問題は,幼稚園・保育所との接続に配慮し,児童の実態に応じて適切に指導 することが大切である。これらの指導は,ともすると,教師の一方的な説話のみに なりやすいので,児童の実態や発達の段階に即して,具体的な資料を活用して児童 の理解を深めるなどの工夫をし,日常生活の実践に結び付く効果的な指導を行うよ う配慮することが大切である。 ウ 望ましい人間関係の形成 今日の子どもに見られる問題行動として,いじめ,不登校,暴力行為などが指摘 されている。これらの問題行動の遠因として,家庭や地域社会などにおける子ども の人間関係の希薄化に伴う対人関係の在り方の未熟さが考えられる。このような問 題行動を解消するとともに,一人一人の児童の健全育成を図るためには,様々な人 --40/127-- --40/127-- -38- 間関係を経験させることが必要である。学校の生活においても,教師と児童,児童 相互の間に信頼・尊敬・親愛・協力など,温かい人間関係が育成されていないとこ ろでは,児童の学級への所属意識も薄くなり,人間関係にかかわる様々な問題が発 生している。 したがって,教師は,例えば,就学前教育における人間関係に関する内容などの 教育や道徳の時間の「主として他の人とのかかわりに関すること」をはじめとする 道徳教育と関連させ,日ごろから一人一人の児童と密接な人間関係を保ち,望まし い人間関係を築く態度の形成に努めるとともに,学級活動においても適切な内容を 取り上げて効果的に指導する必要がある。さらには,特別支援教育の観点からも, 人権を尊重する態度など望ましい人間関係に関する指導を行うことも大切なことで ある。 具体的な指導内容としては,友達と仲よく,仲直り,男女の協力,互いのよさの 発見,違いを認め合う,よい言葉や悪い言葉,親友をつくる,などが考えられる。 その際,特別活動の児童会活動,クラブ活動,学校行事の各内容に共通して,「望 ましい人間関係の形成」を示していることを踏まえ,それらの活動場面を効果的に 取り入れるなどの関連を図り,全体として望ましい人間関係を築く態度の形成が図 られるようにすることが大切である。 なお,望ましい人間関係の形成の指導として,社会的スキルを身に付けるための 活動を効果的に取り入れることも考えられる。その際,学級活動の指導の特質を踏 まえた指導の展開となるようにするとともに,時間の配分に留意して適切な授業時 数を充てるようにし,児童が現実の生活の中で自主的,実践的に望ましい人間関係 を築こうとすることができるように配慮する必要がある。 エ 清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解 日々の学級や学校の生活を維持するため,児童に清掃をはじめ当番活動に取り組 ませている学校が多い。その際,与えられた役割を果たすというだけの消極的な活 動ではなく,当番活動の役割や働くことの意義などが十分に理解できるようにする とともに,学級や学校に貢献していることが実感できるように指導することが大切 である。 これらの指導は,学級活動の授業時数を充てない朝や帰りの時間,児童が当番活 動を行っている時間などに行うことが中心となるが,学級活動においても適切に取 り上げ,計画的に指導する必要がある。その際,清掃のほかにも,給食,日直,飼 育,栽培などの当番活動や学校内外でのボランティア活動などの活動を具体的に取 り上げた多様な指導方法を工夫することが大切である。 なお,低学年から所属する集団やみんなのために一生懸命働く経験を重視し,日 常の積み重ねを通してキャリア教育の一環として働くことの大切さや意義を理解さ --41/127-- -39- せていくことは,児童会活動における学校に寄与する活動などの充実につながると ともに,望ましい勤労観・職業観を育て,公共の精神を養い,社会性の育成を図る ことにもつながる。また,道徳教育や学校行事の勤労生産・奉仕的行事,総合的な 学習の時間などで行うボランティア体験などと関連させて指導することも大切なこ とである。 オ 学校図書館の利用 この内容については,言語活動充実の観点も踏まえ,各教科などの学習と関連し て指導したり,また,実際に学校図書館の仕組みの理解や利用の仕方に関する実践 活動を行ったりするなど,指導に具体性と変化をもたせることが望ましい。また, 日常の読書指導との関連を考慮するとともに,日常の学習に学校図書館を活用する 態度の育成に努めることが大切である。これらの指導に当たっては,内容によって 司書教諭などの協力を得ることが必要である。 カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成 心身ともに健康で安全な生活態度の形成は,学校の教育活動全体を通じて総合的 に推進するものであるが,学級活動においてもその指導の特質を踏まえて取り上げ る必要がある。この内容には,保健指導と安全指導の内容がある。 保健指導としては,心身の発育・発達,心身の健康を高める生活,健康と環境と のかかわり,病気の予防,心の健康など,児童が自分の健康状態について関心をも ち,身近な日常生活における健康の問題を自ら見付け,自分で判断し,処理できる 能力や態度の育成などの内容が考えられる。これらの内容から,発達の段階に即し て重点化して取り上げることになるが,取り上げた内容について日常生活で具体的 に実践できるようにすることが大切である。 なお,心身の発育・発達に関する指導に当たっては,発達の段階を踏まえ,学校 全体の共通理解を図るとともに,家庭の理解を得ることなどに配慮する必要があ る。また,内容によっては,養護教諭などの協力を得て指導に当たることも考慮す る必要がある。 安全指導としては,防犯を含めた身の回りの安全,交通安全,防災など,自分や 他の生命を尊重し,危険を予測し,事前に備えるなど日常生活を安全に保つために 必要な事柄を理解し,進んできまりを守り,危険を回避し,安全に行動できる能力 や態度を育成するなどの内容が考えられる。これらの内容から発達の段階に即して 取り上げることになるが,取り上げた内容について,日常生活で具体的に実践でき るようにすることが大切である。 なお,保健指導や安全指導については,関係団体等の協力を得て実施される健康 教室,防犯教室,交通安全教室,避難訓練などの学校行事と関連付けて指導を行う ことが重要である。また,防犯や交通安全の指導を行うに当たっては,保護者と連 --42/127-- -40- 携するなどして作成した「地域安全マップ」の活用を行うなど,日常生活で具体的 に実践できるよう工夫することが大切である。 キ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成とは,児童が食に関する 知識や能力等を発達の段階に応じて総合的に身に付けることができるように学校教 育全体で指導することであり,給食の時間はその中心的な指導の場となる。給食の 時間は,楽しく食事をすること,健康によい食事のとり方,給食時の清潔,食事環 境の整備などに関する指導により,望ましい食習慣の形成を図るとともに,食事を 通して望ましい人間関係の形成を図ることをねらいとし,給食の準備から後片付け を通して,計画的・継続的に指導する必要がある。また,心身の健康に関する内容 にとどまらず,自然への恩恵などへの感謝,食文化,食料事情などについても教科 等の指導と関連を図りつつ指導を行うことが重要である。 これらの指導に当たっては,内容によって,栄養教諭や学校栄養職員などの協力 を得ることが必要である。また,これらの学校給食に関する内容については,学級 活動の授業時数には充てない給食の時間を中心に指導することになるが,学級活動 の時間でも取り上げ,その指導の特質を踏まえて計画的に指導する必要がある。そ の際,学校給食を教材として活用するなど多様な指導方法を工夫することが大切で ある。 なお,学校給食を実施していない学校においても,児童が健康の大切さを実感 し,生涯にわたって自己の健康に配慮した食生活が営めるよう,食育の観点も踏ま えて望ましい食習慣の形成の指導を行う必要がある。また,指導する内容によって は,「カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成」の指導として取り上げること も考えられる。 3 学級活動の指導計画 各活動・学校行事の指導計画の作成については,学習指導要領第6章の第3の1の (1)で,次のように示している。 (1) 特別活動の全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画の作成に当たって は,学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達の段 階などを考慮し,児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする こと。また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導 との関連を図るとともに,家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活 用などを工夫すること。 --43/127-- -41- 学級活動の指導計画には,学校としての年間指導計画,学級ごとの年間指導計画や 1単位時間の指導計画がある。これらの学級活動の指導計画については,ここで示し たことを踏まえ,特に次のようなことに配慮して作成する必要がある。 (1) 学級や学校の実態や児童の発達の段階などを考慮し,児童による自主的,実践的 な活動が助長されるようにする 学級活動の指導計画については,特別活動の全体計画を踏まえ,特別活動の目標を 受けて,学級や学校の実態や児童の発達の段階などを考慮し,指導する内容,取り上 げる議題例や題材,授業時数などを示すなどして作成する。 具体的には,〔第1学年及び第2学年〕〔第3学年及び第4学年〕〔第5学年及び 第6学年〕の内容を踏まえ,発達の課題や道徳教育における内容項目,重点等を考慮 し,各学校における児童や家庭,地域の実態に応じて,学校としての年間指導計画を 作成し,それを基にして学級の実態や学級集団の育成上の課題を踏まえた学級ごとの 年間指導計画を作成することになる。さらには,この学級ごとの指導計画の中から, 1単位時間の指導計画を作成する。なお,学級活動の年間指導計画を作成する際に は,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間との関連を踏まえ,1年間を 通して系統立てて,計画的に指導できるようにすることが大切である。学校としての 年間指導計画,学級ごとの年間指導計画や1単位時間の指導計画を作成する手順を図 示すると,例えば次のようになる。 --44/127-- -42- 「(1)学級や学校の生活づくり」に関する内容は,主として児童の自発的,自治的 な実践活動を特質としている。したがって,指導計画は,児童の活動として望ましい 内容(予想される議題例)や時期,方法,授業時数などについて,あらかじめ大まかな 枠組みを定めておき,実際の活動は,計画委員会の児童などの手によって一層具体的 な活動計画が立てられ実施することができるような弾力性,融通性に富むものにする ことが大切である。 学級活動における自主的な実践活動の経験は,児童会活動やクラブ活動などにおけ る活動の基盤となるものであるから,低学年,中学年及び高学年の発達の段階に応じ て児童による自主的な活動が十分に行われるように工夫する必要がある。その際,特 に,児童の自主的,実践的な活動が活発に行われるようにする観点から,学級活動の 「(1)学級や学校の生活づくり」の共通事項として,新たに「学校における多様な集 団の生活の向上」が示されたことの趣旨を踏まえ,指導内容の特質に応じて教師の適 切な指導の下に,児童の自発的,自治的な実践活動がより一層活発かつ効果的に展開 されるよう配慮する必要がある。 しかし,真に児童の自発的,自治的な活動とするためには,学校として児童に任せ ることができない条件を明確にして指導することが大切である。それには,例えば, 個人情報やプライバシーの問題,相手を傷付けるような結果が予想される問題,教育 課程の変更にかかわる問題,校内のきまりや施設・設備の利用の変更などにかかわる 問題,金銭の徴収にかかわる問題,健康・安全にかかわる問題などが考えられる。 なお,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の内容は,個々に応じて実 践される。しかし,そのような問題を扱う場合においても,児童の自主的,実践的な 態度を育てるために,できるだけ児童による自主的な話合い活動を取り入れ,問題を 解決するように配慮することが望ましい。 (2) 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導との関連を図る 学級活動の指導計画を作成するに当たっては,各教科等で身に付けた能力などを, 学級活動における楽しく豊かな学級や学校の生活づくりや健全な生活態度を育成する 活動においてよりよく活用できるようにすることが大切である。また,学級活動で取 り扱う内容について各教科等の学習内容との関連を図って指導の効果を高めたり,各 教科等の学習内容との関連を踏まえて学級活動の指導内容を重点化したりすることも 考えられる。また,学級活動で身に付けた自主的,実践的な態度を各教科等の学習に 生かすようにすることも大切である。 学級活動の話合い活動の場は,国語科を中心として各教科等の指導で身に付けた言 葉を的確に理解したり表現したりする能力,互いの立場や考えを尊重し伝え合う能 --45/127-- -43- 力,要約して記録する能力などを実践的に活用したり,さらにこのような能力を向上 させたりする場であり,言語活動を充実する観点からも重要な活動である。特に,学 級会の仕方などの指導については,国語科の学習内容との関連を図って指導する必要 がある。また,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」に充てられる授業時 数に限りがあることから,「オ 学校図書館の利用」や「カ 心身ともに健康で安全 な生活態度の形成」や「キ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形 成」については,国語科や体育科,家庭科の学習とも関連を図って指導することが大 切である。 (3) 家庭や地域の人々との連携などを工夫する 学級活動の指導計画を作成するに当たっては,家庭や地域の人々との連携,社会教 育施設等の活用などを工夫することが大切である。具体的には,学級活動における楽 しく豊かな学級や学校の生活づくりや健全な生活態度を育成する活動を効果的に展開 するために,個々の家庭の状況に配慮したり,家庭での指導との連携を図ったり,地 域の人材を活用したりすることである。 「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」については,児童の家庭生活との 関連が深い事項が多いことから,家庭と連携して指導することが大切である。例えば 「イ 基本的な生活習慣の形成」,「エ 清掃などの当番活動等の役割と働くことの 意義の理解」,「カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成」,「キ 食育の観点 を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成」などの事項は,家庭での教育と連携を 図ることで一層効果的な指導をすることが期待できる。その際,保護者と児童が一緒 に学び合う工夫をしたり,保護者や家庭などの個人情報やプライバシーなどの問題に 十分留意して指導計画を作成したりする必要がある。また,「(2)日常の生活や学習 への適応及び健康安全」に関する指導に当たっては,指導する内容によって,積極的 に地域の人材を活用し,専門的な立場の人々から話を聞くことなどは,望ましい工夫 の例である。 (4) 児童が自ら現在及び将来の生き方を考えることができるように工夫する 〔学級活動〕などの指導計画の作成にかかわって,学習指導要領第6章の第3の1 の(2)で,次のように示している。 (2) 〔学級活動〕などにおいて,児童が自ら現在及び将来の生き方を考えるこ とができるよう工夫すること。 --46/127-- -44- 児童が,目標をもって現在の生活をよりよく改善し,結果として自己の性格や能力 ・適性等について考え,これらを生かして夢や希望をふくらませるなど自己の生き方 についての考えを深められるようにすることが大切である。 例えば,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」においては,学年の進 級,児童会活動やクラブ活動の開始,中学校への進学などにかかわって,希望や目標 をもち,よりよい生活を築こうとしたり,中学校の学級活動の「(3)学業と進路」へ の接続を踏まえて将来の職業などへの夢や希望をふくらませて,現在の生活を改善し ようとしたりするなどの題材が考えられる。 なお,「(1)学級や学校の生活づくり」においても,集団とのかかわりの中で自己 のよさや可能性に気付き,自己の将来の生き方などについて考えられるようにするこ とも大切なことである。 (5) その他の配慮事項 ア 時間の配当を工夫する 学級活動の授業時数については,学校教育法施行規則別表第1で,第1学年34単 位時間,第2,3,4,5,6学年それぞれ35単位時間を充てるものと示されてい る。したがって,特別活動の基盤となる学級活動については,児童の継続的な活動 を促進する上から,毎週計画的に実施することを基本としつつ,具体的な実践活動 によっては弾力的に扱うようにすることも考えられる。 なお,特別活動の授業時数について,「学級活動(学校給食に係るものを除く。) …」と示されているが,この「学校給食に係るものを除く」という意味は給食の時 間における指導は特別活動の標準授業時数には含まれないという意味である。 すなわち,学校教育法施行規則の別表第1では,特別活動に充てる授業時数を示 しているが,年間にわたり日々1単位時間程度を充てて行われる給食の時間を,特 別活動の標準授業時数に含めることは適切でないので,別表第1で示している授業 の中には,給食の時間は含まれないということである。 しかし,このことは,給食の時間における指導を学級活動として位置付けること を否定したものではない。学校給食の特質は,例えば,望ましい食習慣や人間関係 の在り方などについて,食事をすることを中心とする給食の時間における児童の実 践活動を通して体得することにあるのである。したがって,給食の時間に,それら の内容を指導計画に基づいて指導する場合には,学級活動の時間とすることができ るのであるが,その場合,学校教育法施行規則の別表第1に示された標準授業時数 以外の時間と考えて計画し,実施することになる。 学校給食は,望ましい食習慣の形成とともに,食事を通して望ましい人間関係を --47/127-- -45- 形成し,心身ともに健全な発達を図ることを目指している。このねらいを達成する ために,学校給食に関する指導は,主として給食の時間に指導することになるが, 特に指導を必要とする内容については,学級活動の時間に計画的に取り上げて指導 することになる。 なお,もとより,清掃などの当番活動については,当番活動の役割と働くことの 意義の理解を図るための指導を学級活動で行うものであり,全校で分担して行って いる清掃活動や個々の児童が日常的に行っている当番活動の時間を標準授業時数に 含むことは適切ではない。 イ 弾力的な時間の配分を工夫する 学級活動は,「(1)学級や学校の生活づくり」と「(2)日常の生活や学習への適応 及び健康安全」の二つの活動内容から構成されているので,それぞれに充てる授業 時数は,学校や児童の実態及び低・中・高学年の内容に応じて適切に配分する。そ の際,擬似的な体験を通してではなく,実生活の中で生じた諸問題を解決するな ど,よりよい生活をつくる活動を重視することが大切である。 また,活動内容「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の内容として, アからキの事項を挙げている。これらは学級,学校及び児童の実態に応じて取り上 げる指導内容の重点化を図ることが大切である。 日ごろから学級経営の充実に努め,教師と児童の信頼関係及び児童相互の好まし い人間関係を育て,児童が安心して生活できるよう指導を充実することによって, 学級活動の授業として取り上げる指導内容の関連や統合を図ることも可能である。 児童の自主性を伸ばし,学校生活を一層楽しくするために「(1)学級や学校の生活 づくり」に重点を置いた学級活動の指導が行われるよう工夫することが大切であ る。 (6) 学級としての指導計画の作成 学級活動の学級としての指導計画には,年間指導計画と1単位時間の指導計画があ る。教師は,自ら作成した年間指導計画に即して,1単位時間の指導計画を作成し指 導することになる。なお,実際の指導に当たっては,学級活動の活動形態の特質を踏 まえて行うことになる。 ア 学級や学校としての年間指導計画の作成 学級活動は,各学級で指導が行われるのであるが,学校全体として指導の成果を 上げていくために,指導計画について全教職員が共通理解を図り,計画的に指導す る必要がある。そのためには,まず学校として第1学年から第6学年までを見通し た各学年の年間指導計画を作成し,さらにそれを基にして,学級の実態に応じた学 級ごとの年間指導計画を作成する必要がある。 --48/127-- -46- 学校としての年間指導計画や学級ごとの年間指導計画に示す内容には,例えば, 次のものが考えられる。 ○学校や学年,学級の指導目標 ○育てたい力 ○指導内容(予想される議題例,題材名)と時期 ○指導の時間配当 ○特別活動の他の内容との関連 ○他教科等との関連 ○評価の観点 「(1)学級や学校の生活づくり」は,主として児童の自発的,自治的な実践活動 を特質としている。このことから指導計画には,児童の活動として望ましい内容 (予想される議題例)や時期,時間配当などについて示すことが考えられる。 一方,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」に関する内容は,学級担任 の教師が意図的,計画的に指導する内容であるから,各学年,学級ごとに,指導す る内容(題材名)や時期,時間配当などを明確にして指導計画を作成する必要があ る。 また,学級活動は,「(1)学級や学校の生活づくり」と「(2)日常の生活や学習へ の適応及び健康安全」のそれぞれの特質を生かし相互の関連を十分考慮し,かつ弾 力的な指導が展開できるように配慮し,学級活動の指導全体を通して成果を上げら れるように指導計画を作成することが大切である。 なお,学級活動には多様な内容が含まれており,年度当初から詳細な計画を立て て指導することが容易な内容もあれば,男女間の対立など,年度の途中で新たに生 起する問題もある。そのような場合には,指導計画の一部を変更して指導を行う必 要がある。しかし,学級活動に充て得る時間にも限りがあることから,年度の途中 で偶発的に発生する問題をすべて学級活動として取り上げるのではなく,例えば朝 や帰りの時間などを活用して随時に指導するなどの配慮をすることが大切である。 イ 1単位時間の指導計画 1単位時間の指導計画は,一般的には,「学級活動指導案」と呼ばれているもの である。 この1単位時間の指導計画については,学級活動の活動内容の「(1)学級や学校 の生活づくり」と「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」のそれぞれの特 質を踏まえて作成する必要がある。「(1)学級や学校の生活づくり」は,集団での 話合いを通して,集団の目標を決定し,集団で実践する児童の自発的,自治的な活 --49/127-- -47- 動を特質としている。また,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」は, 集団での話合いを通して,個人の目標を自己決定し,個人で実践する児童の自主 的,実践的な活動を特質としている。したがって,これらの特質を踏まえた話合い 等の活動過程にすることが大切である。一般的には,例えば,次の表のような一連 の活動過程が考えられる。 「(1)学級や学校の生活づくり」の指導の1単位時間の指導計画については,児 童による自発的,自治的な実践活動であることから,発達の段階に応じて,計画委 員会などで児童が自らの手によって作成した活動計画を添付するなどの工夫が大切 である。 「(1)学級や学校の生活づくり」の指導の1単位時間の指導計画に示す内容に は,例えば,次のようなものが考えられる。 ○議題名 ○児童の実態と議題選定の理由 ○事前の活動(本時に至るまでの活動の流れ) ○本時のねらい ○本時の活動計画(児童の活動計画) ○指導上の留意点 ○使用する教材・資料 ○事後の活動 --50/127-- --50/127-- -48- ○評価の観点 また,教師の適切な指導の下に児童が作成する「活動計画」に示す内容には,例 えば,次のようなものが考えられる。 ○議題名 ○計画委員会の役割分担 ○提案理由 ○話合いの順序 ○気を付けること 「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の1単位時間の指導計画に示す 内容には,例えば,次のようなものが考えられる。 ○題材名 ○児童の実態と題材設定の理由 ○本時のねらい ○事前指導 ○指導過程(本時の展開,導入・展開・終末) ○使用する教材・資料 ○事後指導 ○評価の観点 なお,学級活動の指導に当たっては,道徳や総合的な学習の時間などとの有機的 な関連を図ったり,発達の段階に即して指導方法や教材,資料などを工夫したりす ることが必要である。例えば,「(1)学級や学校の生活づくり」における教材や資 料の工夫については,学級会,係活動,集会活動の計画や運営に関するものが考え られる。また,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」における教材や資 料の工夫については,〔共通事項〕の各内容に即した問題の状況や原因を理解する ための各種の調査結果,解決の方法を理解するための必要な情報,解決方法を見定 めるための多様な事例などが考えられる。これらの教材や資料については,各学級 の実態に即して学級で作成したり,学校として作成したりして,共有できるように することが望ましい。 ウ 学級活動の活動形態 学級活動の指導の成果を上げるためには,「(1)学級や学校の生活づくり」及び 「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の内容の特質を踏まえ,次に示す ように学級活動の形態に即して効果的に活動が展開できるようにすることが大切で ある。 (ア) 話合い活動 「話合い活動」は,学級活動の中心的な活動形態である。 --51/127-- -49- 特に,「(1)学級や学校の生活づくり」において中心的な役割を果たす学級会に おいては,学校として共通理解の下に,計画的な指導が行われるようにすること が重要である。その際,例えば,児童の発達の段階に応じて,学級会の議題の見 付け方や選定の方法,司会や記録などの計画委員会への指導,児童による活動計 画の作成,円滑な学級会の進め方や集団決定の仕方,役割分担の呼称などについ て,学校として共通理解を図って指導に当たることが考えられる。 「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」に関する話合い活動は,教師が 解決すべき内容が多く,教師の指導を中心にして進められることになる。したが って,この話合い活動は,問題の意識化,原因の追求把握,解決や対処の仕方の 自己決定などについて,教師が中心になって指導することになる。ただし,場合 によっては教師の指導と児童の自主的な活動を組み合わせて行う方法も考えられ る。学級の実態や児童の発達の段階などを考慮して,指導する内容に応じて効果 的な指導方法を工夫することが大切である。 (イ) 係活動 係活動は,学級の児童が学級内の仕事を分担処理するために,自分たちで話し 合って係の組織をつくり,全員でいくつかの係に分かれて自主的に行う活動であ り,児童の力で学級生活を豊かにすることをねらいとしている。したがって,設 置する係の種類や数は,学年や学級によって異なるので,児童が十分に創意工夫 して計画し活動できるよう適切に指導することが望まれる。 (ウ) 集会活動 集会活動は,学級生活を一層楽しく充実・向上させるために,学級の全児童が 集まって行う活動である。学期ごとなどに学級会において話し合って創意工夫し て計画し,自主的に運営するため,児童の発達の段階に応じて適切に指導するこ とが必要となる。学級の児童が役割を分担して行う集会活動においては,計画の 立案や効果的な運営方法,協力や責任などについて実践を通して体得できるよう にするとともに,児童の学級への愛着が深められるようにすることが大切であ る。 4 学級活動の内容の取扱い 学級活動の内容の取扱いについては,学習指導要領第6章の第3の2の(2)で,次 のように示している。 (2) 〔学級活動〕については,学級,学校及び児童の実態,学級集団の育成上 の課題や発達の課題及び第3章道徳の第3の1の(3)に示す道徳教育の重点など を踏まえ,各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図るととも --52/127-- -50- に,必要に応じて,内容間の関連や統合を図ったり,他の内容を加えたりす ることができること。また,学級経営の充実を図り,個々の児童についての 理解を深め,児童との信頼関係を基礎に指導を行うとともに,生徒指導との 関連を図るようにすること。 (1) 各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図る 学級活動においては,「学級,学校及び児童の実態,学級集団の育成上の課題や発 達の段階・・・・・・などを踏まえ,各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図 る」ことが大切である。 ア 学級の実態を踏まえる 学級活動において「学級,学校の実態」を踏まえて重点化を図る際には,学級の 児童の生活の問題や自主的,実践的な態度の高まりの状況,学校としての生徒指導 上の課題などを踏まえて,各学年段階において取り上げる指導内容を重点化するこ とが大切である。 例えば,中学年において,自発的,自治的な態度が育っていない場合は,年度当 初において教師が中心になって学級会を進めることが考えられる。逆に,学校とし て組織的に自発的,自治的な活動を効果的に指導していることにより児童にその態 度が育っている場合,低学年から計画委員会を組織し,教師と児童が一緒になって 学級会を進めることも考えられる。また,学級や学年において,男女の対立が激し いなどの問題が深刻な場合,日常や個別の指導を充実するほか,適切な時期に学級 活動において「男女の協力」に関する題材を設定して重点化して指導することも考 えられる。 さらに,学級活動の時間を学級の実態に即して弾力的に指導する場として有効に 生かすことを基本としながら,学校における生徒指導の課題として「いじめの予防 月間」などを設定する場合,各学年段階において共通の指導内容を取り上げるなど して,一斉に指導することも考えられる。 イ 学級集団の育成上の課題を踏まえる 「学級集団の育成上の課題」を踏まえて重点化を図るとは,個々の学級の集団と してのまとまりや実践力,人間関係などの状況や各学期ごとの学級集団の育成の状 況などを踏まえ,各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図るようにす ることである。 その際,学級経営を充実するための中核に学級活動を据え,例えば,第1学期は 学級の仲間意識を高める(人間関係・協力),第2学期は一人一人に居場所をつくる --53/127-- -51- (役割・所属意識),第3学期は互いの認め合いを充実させる(承認と自信)などのよ うに学校として「各学期ごとの学級生活づくりの指導のめやす」を決めておくこと が考えられる。また,このめやすを基に各学年において各学期ごとの指導の重点や テーマなどを見定めるようにしたり,各学級において学校行事や児童会,クラブ活 動などの予定などとも関連させながら,学級活動で取り上げる内容の重点化を図っ て1年間の学級活動の指導計画を作成することも考えられる。また,学級集団の育 成を学年や発達の段階に即して行うことも大切であることから,学校として「学級 集団の育成上の指導のめやす」を決めておくことも考えられる。 ウ 発達の課題を踏まえる 「発達の課題」には,いわゆる小1プロブレムや中1ギャップなどの一般的な発 達の課題や中学校への接続を踏まえた課題などが考えられる。 例えば,低学年において,いわゆる小1プロブレムなど集団適応の課題につい て,就学前教育との関連を図り,学校生活を楽しんだり,集団での生活や学習がで きるようにしたりする指導内容に重点を置いた指導計画を作成することが考えられ る。高学年では,小学校生活と中学校生活とのギャップを埋めたり,児童が自ら現 在及び将来の生き方を考えることができるようにするための指導内容に重点化を図 った指導計画を作成したりすることが考えられる。 また,発達の課題については,活動内容や活動形態ごとの発達の課題も踏まえて 指導に当たる必要がある。例えば,次のような「発達の段階に即した指導のめや す」などを参考にすることが大切である。 発達の段階に即した指導のめやす <指導の参考例> 〔(1)学級や学校の生活づくり〕 (ア) 話合い活動 <低学年の指導> 入学当初は,教師が話合いの司会の役割を受け持ち,記録についても担当する などして,話合いの進め方を実際に見て,理解できるようにする。その後,司会 や記録の役割の一部を児童に任せ,教師の助言を受けながら,話合いの進め方を 実践を通して身に付けることができるようにすることが大切である。また,事前 に自分の考えをもって参加できるようにしたり,あらかじめ示された話し方や手 順に従って意見を発表し合ったりすることも大切である。その他,低学年におけ る話合いにおいては,自分の意見を主張することのみに集中することがあるの で,互いの意見をよく聞いたり,気遣ったりして,仲よく助け合って話合いを進 --54/127-- -52- め,学級生活を楽しくするための集団決定ができるように適切な指導をすること が必要である。 なお,子どもたちの実態によっては,話合い活動の計画を作成する計画委員会 を組織して運営に当たれるようにすることも考えられる。 <中学年の指導> 中学年になると,ある程度まで自分たちで,学級会を運営していくことができ るようになる。中学年では,話合い活動の計画を作成する計画委員会を設け,こ れらの役割を十分に指導しながら,少しずつ話合いが自主的にできるようにして いくことが望ましい。計画委員会は輪番で担当し,教師が助言しながら,全員が 経験できるように配慮することが大切である。話合いについては,協力し合って 進め,事前に考えてきたことについて,理由を明確にして分かりやすく話した り,異なる意見にも耳を傾け,公平に判断したりして,楽しい学級生活をつくる ために折り合いを付けて集団決定ができるように適切な指導をすることが大切で ある。 なお,自分の考えと異なる意見に決まっても,気持ちよく協力することの大切 さを実践を通して理解できるよう配慮する必要がある。 <高学年の指導> 高学年では,児童が活動計画を作成し,役割を分担して話合いが自主的に進め られるように配慮する。その際,司会や記録,話合いの隊形や進め方などを工夫 して,効率的,計画的に話合いが進められるようにする。具体的には,自分の言 葉で話せるようにしたり,建設的な意見が言えるようにしたり,意見の発表方法 を工夫できるようにしたりして,話合いの質的な向上を図ることが大切である。 また,学級のことにとどまらず,学校生活全体にかかわることも取り上げるよう 助言したり,多様な意見のよさを積極的に生かし,信頼し支え合って話合い活動 を進められるようにしたりして,楽しく豊かな学級や学校生活をつくるためによ りよい集団決定ができるように適切な指導をすることが大切である。 なお,身に付けた話合いの知識や技能については,児童会活動やクラブ活動に おいても活用できるように指導することが大切である。 (イ) 係活動 <低学年の指導> 低学年の係活動は,どのような仕事が学級生活に必要かを発見させることから 始まる。その仕事の内容が当番的であったり,簡単なものであったりしても,全 --55/127-- -53- 員が何らかの係を担当できるようにし,少人数で構成された係で仲よく助け合っ て活動できるようにすることが大切である。 低学年でも,経験を積み重ねるにしたがって,児童の創意工夫の余地が少ない 当番的な活動から,児童の創意工夫が生かされ,協力して取り組めるような係の 活動を増やしていくように指導することが大切である。また,適切な時期に係を 交代するような配慮もするなどして,仲よく助け合い,学級生活を楽しくする係 活動として取り組むことができるように適切な指導をすることが大切である。 なお,係活動への活動意欲の個人差が大きいため,児童の状況に応じた適切な 指導が求められる。 <中学年の指導> 低学年までの係活動の経験を生かして,創意工夫を加えて活動に取り組めるよ うにする。また,低学年の係活動には,当番的な活動内容が残っていることもあ ることから,中学年において,それらを整理統合して,児童の創意工夫が生かさ れるような係活動として組織できるよう配慮する。また,集団の意識も強まり, 継続的に仕事を進めることができるようになるので,協力して,計画的に活動に 取り組めるようにすることが大切である。さらに,それぞれの係がその活動を独 自に進めるだけではなく,活動の計画や悩みなどを学級会の議題とし,お互いの 意見や希望を聞くようにして,係活動の改善に取り組めるようにするなどして, 協力し合って楽しい学級生活をつくるための係活動として取り組むことができる ように適切な指導をすることが大切である。 なお,係活動を活発にするためには,係活動の連絡や発表の機会を朝の会や帰 りの会など多様に設けることが効果的である。 <高学年の指導> 高学年になると,教師の指導に頼ることなく自主的に係活動を進めることがで きるようになったり,自分のよさを積極的に生かせる係に所属して,責任をもっ て活動が継続できるようになったりする。反面,児童会活動やクラブ活動の運営 にもかかわるようになり学級の係活動に多くの時間を充てにくくなり,活動が固 定化し不活発になることも予想される。そのため,児童会の組織とは区別して所 属できるようにしたり,活動内容を高学年としてふさわしい創意工夫あるものに 重点化したりするなどして,信頼し支え合って楽しく豊かな学級や学校の生活を つくるための係活動として取り組むことができるように適切な指導をすることが --56/127-- -54- 大切である。 なお,児童会活動の運営に当たる高学年においては,係活動で身に付けた創意 工夫の考え方や計画的な活動の進め方などを委員会活動などに生かすことができ るように指導することが求められる。 (ウ) 集会活動 <低学年の指導> 低学年においては,学校は楽しい,集団活動は楽しい,学級活動は楽しいとい うことが実感できるようにするために,教師が主導して,楽しい集会活動が経験 できるように工夫することが望ましい。また,幼稚園や保育所などの経験も生か しながら,児童の総意によって集会の内容を選択できるようにしたり,児童がプ ログラムの一部を計画したり,役割を分担したりして,できるだけ児童が計画, 運営にかかわり,創意工夫ができるよう配慮することが必要である。 なお,自己中心的な言動が多い低学年においては,個々の児童の実態に即し て,誰とでも仲よく集会活動が楽しめるように指導することが大切である。 <中学年の指導> 中学年では,低学年の集会活動の経験を生かして,児童が一層創意工夫をして 計画や運営ができるようにすることが大切である。集会の種類や内容も,固定化 されることなく,ねらいを明確にして,ゲーム,スポーツ,発表会など多様な集 会に取り組めるように配慮することが必要である。また,計画や準備などをより 多くの児童が分担できるようにするなどして,協力し合って楽しい集会活動をつ くることができるようにすることが大切である。 なお,中学年においては,係活動の充実が期待されることから,集会について も係活動の組織を生かして運営することも考えられる。 <高学年の指導> 高学年では,中学年までの経験や児童会活動やクラブ活動での経験を生かしな がら,教師の適切な指導の下に児童自身の力で計画し,運営できるように指導し ていくことが望ましい。また,互いのよさを生かしたり,反省を生かしたりする ために十分に話し合い,一人一人が役割をもち,責任を果たし,協力してよりよ い集会活動が行えるようにすることが大切である。 なお,集会活動の内容については,ねらいに即して高学年にふさわしい創意工 --57/127-- -55- 夫を生かした集会が行われるようにするとともに,ここで身に付けた計画や運営 する力,誰もが楽しめるような工夫などについて,児童会の集会活動やクラブ活 動の運営に生かすことができるように指導助言することが望まれる。 これらの発達に即した指導のめやすなど,大切なことをまとめると次の表のよ うに考えられる。 〔発達の段階に即した指導のめやす〕 〔(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全〕 <低学年の指導> 小学校の入学時には,就学前教育との接続に配慮して指導の重点化を図ること が必要である。いわゆる小1プロブレムなど集団への適応の問題を解決すること は,この後の学級や学校での生活を充実させる活動を展開していく上で不可欠で 形 話合い活動 係活動集会活動 態 仲良く助け合い学級生活を楽しくする 低 ・教師が進行等の役割を受け持つこ ・当番的な活動から始め,・入門期には教師が主導し とから始め,少しずつ児童がその 少しずつ創意工夫でき て楽しい集会活動を多く 学 役割を担うことができるようにし る係の活動を見つけら 経験できるようにする。 ていく。 れるようにする。 ・児童が集会の内容を選択 年 ・友達の意見をよく聞いたり,自分 ・少人数で構成された係 し,簡単な役割や準備を の意見を言えるようにしたりし で仲良く助け合って活 みんなで分担して,誰と て,学級生活を楽しくするための 動し,学級生活を楽し でも仲良く集会活動を楽 集団決定をすることができるよう くすることができるよ しむことができるように にする。 うにする。する。 協力し合って楽しい学級生活をつくる ・教師の適切な指導の下に児童が活 ・様々な活動を整理統合 ・集会活動の経験を生かし, 動計画を作成し,進行等の役割を して児童の創意工夫が ねらいを明確にして,創 中 輪番で受け持ち,より多くの児童 生かせるような係活動 意工夫を加え,より多様 が司会等の役割を果たすことがで として組織できるよう な集会活動に取り組める 学 きるようにする。 にし,協力し合って楽 ようにする。 ・異なる考えなどについてもしっか しい学級生活がつくれ ・計画や運営,準備などに 年 りと聞いたり,理由を明確にして るようにする。おける役割を,より多く 意見を言えるようにしたりして, ・朝や帰りの時間などを の児童が分担し,協力し 楽しい学級生活をつくるために, 生かして,積極的に取 合って楽しい集会活動を 折り合いをつけて集団決定ができ り組めるようにする。 つくることができるよう るようにする。 にする。 信頼し支え合って楽しく豊かな学級や学校生活をつくる ・教師の助言を受けながら,児童自 ・自分のよさを積極的に ・児童会活動やクラブ活動 高 身が活動計画を作成し,進行等の 生かせる係に所属し, の経験を生かして,学級 役割を輪番で受け持ち,話合いの 継続的に活動できるよ 生活を楽しく豊かにする 学 方法などを工夫して運営すること うにする。ための活動に取り組める ができるようにする。・高学年としてふさわし ようにする。 年 ・学級のみならず学校生活にまで目 い創意工夫のできる活 ・話合い活動によって,互 を向け,自分の言葉で建設的な意 動に重点化するなどし いのよさを生かしたり, 見を述べ合えるようにし,多様な て,信頼し支え合って, 反省を生かしたりして, 意見のよさを生かして,楽しい学 楽しく豊かな学級や学 信頼し支え合って創意工 級や学校の生活をつくるためのよ 校の生活をつくること 夫のある集会活動をつく りよい集団決定ができるようにす ができるようにする。 ることができるようにす る。 る。 --58/127-- -56- ある。また,基本的な生活習慣が定着するよう,適切な題材を設定するととも に,計画的に指導することが大切である。 低学年においては,特に問題の解決方法について考え,正しい方法や自分に合 った方法を選んで,目標をもって努力できるようにすることが大切である。 なお,このような指導については,学級活動の指導を中心にして,個に応じて 繰り返し指導したり,家庭と連携して指導したりするなどの配慮が大切である。 <中学年の指導> 中学年の段階になると,学校生活にも徐々に慣れ,活動範囲も広がっていく。 その一方で小集団をつくり,その集団を中心に活動したいと願う児童も増えるた め,小集団間や小集団の中で様々な摩擦が生じ,人間関係に問題が生じやすい時 期でもある。このため,例えば望ましい人間関係の形成について,社会的スキル を身に付けるための活動を効果的に取り入れるなど工夫し,協力して楽しい学級 生活が築けるようにすることが大切である。 中学年では,特に,問題を自分のものとして真剣に考えることができるように し,具体的な解決方法や目標を決めて,一定期間継続して互いに努力できるよう にすることが大切である。 なお,清掃などの当番活動に取り組む態度の個人差も大きくなってくる時期で あるため,その意義等の理解を図ることも大切である。 <高学年の指導> 思春期にさしかかる高学年の時期は,心身ともに大きく変化する時期なので, 人間関係や健康安全,食育などに関する悩みの解消などを重視するとともに,い わゆる中1ギャップの問題にも配慮し,児童が自ら現在及び将来の生き方を考え ることができるようにしたり,自分に自信をもち,よさを生かし伸ばして生活で きるようにしたりすることが大切である。 高学年においては,自己の問題について真剣に受け止め,資料などを参考にし て自己に合った実現可能な解決方法を決め,目標をもって粘り強く努力できるよ うにすることが大切である。 なお,6年生では,最高学年としての自覚をもつことができるようにするとと もに,中学校における教育との接続に配慮して指導をすることも大切である。 --59/127-- -57- エ 道徳教育の内容との関連や道徳の重点を踏まえる 学習指導要領第6章第3の1の(4)の中で「第3章道徳の第2に示す内容につい て,特別活動の特質に応じて適切な指導をすること。」と示していることは,学級 活動においても配慮する必要がある。その際,学級活動の内容については,次の表 のような関連を踏まえて作成していることを十分に理解して指導に当たる必要があ る。 また,学級活動の指導に当たっては,学習指導要領第6章第3の2の(2)の中で 「第3章道徳の第3の1の(3)に示す道徳教育の重点などを踏まえ,各学年段階に おいて取り上げる指導内容の重点化を図る」と示されているが,次のようなことに 配慮する必要がある。 低学年においては「基本的な生活習慣,社会生活上のきまりを身に付け,善悪を 判断し,人間としてしてはならないことをしないこと」にかかわって内容の重点化 を図るようにする。また,中学年においては「集団や社会のきまりを守り,身近な 人々と協力し助け合う態度を身に付けること」にかかわって内容の重点化を図るよ うにする。さらに,高学年においては「法やきまりの意義を理解すること,相手の 立場を理解し,支え合う態度を身に付けること,集団における役割と責任を果たす こと」にかかわって内容の重点化を図るようにする。さらに,高学年においては 「悩みや@藤等の心の揺れ,人間関係の理解等の課題を積極的に取り上げ,自己の かつとう 生き方についての考えを一層深められるよう」に指導を工夫することが大切であ る。 学級活動の内容道徳の内容項目(特に関連の深い) 2 主として他の人とのかかわりに関すること。 低 仲良く助け合い学級を楽 (3) 友達と仲よくし,助け合う。 学 しくする4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。 年( 4) 先生を敬愛し,学校の人々に親しんで,学級や 学校の生活を楽しくする。 2 主として他の人とのかかわりに関すること。 中 協力し合って楽しい学級 (3) 友達と互いに理解し,信頼し,助け合う。 学 生活をつくる4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。 年( 4) 先生や学校の人々を敬愛し,みんなで協力し合 って楽しい学級をつくる。 2 主として他の人とのかかわりに関すること。 高 信頼し支え合って楽しく (3) 互いに信頼し,学び合って友情を深め,男女仲 学 豊かな学級や学校の生活 よく協力し助け合う。 年 をつくる(5) 日々の生活が人々の支え合いや助け合いで成り 立っていることに感謝し,それにこたえる。 4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。 (3) 身近な集団に進んで参加し,自分の役割を自覚 し,協力して主体的に責任を果たす。 --60/127-- --60/127-- -58- (2) 必要に応じて内容間の関連や統合を図ったり,他の内容を加えたりすることがで きる 学級活動については,必要に応じて,内容間の関連や統合を図ったり,他の内容を 加えたりすることができる。具体的には,効果的な展開ができると考えられる場合, 「(1)学級や学校の生活づくり」や「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の 共通事項について関連を図って指導したり,「(2)日常の生活や学習への適応及び健 康安全」について,共通事項の統合を図ったり,共通事項以外の他の内容を加えたり して指導をすることができるということである。 例えば,学級活動には,学校図書館の利用や心身ともに健康で安全な生活態度の形 成など様々な内容が含まれている。これらは,学級活動の指導を通して成果を上げる ことができるとともに,学級活動以外の学習とも関連を図ることによって一層成果を 上げることができる。具体的な例を挙げれば, 体育科の「保健」の内容で,〔第3学年 及び第4学年〕で健康によい生活についての理解,体の発育・発達についての理解, 〔第5学年及び第6学年〕で,心の発達及び不安,悩みへの対処についての理解,け がの防止についての理解,病気の予防についての理解を指導することになっているの で,これらの指導が実践に生かされるように配慮する必要がある。 なお,学級活動における保健指導,安全指導及び給食指導は,学校における健康の 保持増進に関する指導の一環であるので,学習指導要領第1章総則第1の3の趣旨を 十分に生かし,関連教科の内容や特別活動の他の内容などとの密接な関連を図り,計 画的に行うことが必要である。 そのほか,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の「ウ 望ましい人間 関係の形成」で指導したことを生かして,「(1)学級や学校の生活づくり」の「ア 学級や学校における生活上の諸問題の解決」や「ウ 学校における多様な集団の生活 の向上」において,同年齢や異年齢におけるよりよい人間関係を築く活動を展開した りすることが望まれる。 また,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の「イ 基本的な生活習慣 の形成」や「カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成」または「キ 食育の観点 を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成」などを統合して「生活のリズム」や 「運動と睡眠」または「食に関する指導」などを行ったりすることなどが考えられ る。 学級活動の内容については,「(1)学級や学校の生活づくり」のアからウまで示し た内容のほかにも,必要に応じて教師が提案する内容,保護者や地域に働きかける内 容などが考えられる。また,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」のアか らキまでで示した内容のほかにも,日常の道徳性の指導,国民の祝日や長期休業日の --61/127-- -59- 事前・事後の指導,環境美化に関する指導,学校行事の事前・事後指導,貯蓄や消費 に関する指導,情報モラルに関する指導などが考えられる。ただし,児童の生活にか かわる問題には,広い範囲にわたって様々な問題が考えられるので,限られた時間の 中ですべての内容を網羅して指導することはできない。したがって,日常の生徒指導 や学級経営を充実するとともに,学校教育目標,学校の実情,地域の現状,児童の実 態などに基づいて,指導する内容を精選して計画し,指導する必要がある。 (3) 学級経営の充実を図る 学級活動の指導は,学級経営と密接に関連している。学級経営の充実を図るために は,「(1)学級や学校の生活づくり」,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安 全」を内容とする学級活動は欠かすことができないものである。一方,学級活動にお いて充実した活動が展開されるためには,その土台となる日々の学級経営が必要であ る。 特に,教師と児童の間に信頼関係が成り立っていないと,児童が安心して自らより よい生活をつくっていこうとする自主的な活動には取り組むことができないし,児童 の生活づくりへの意欲を高めるなどの指導が効果的に行えないのは当然である。児童 一人一人が自らの希望や目標に向かって意欲的に活動しようとする態度の育成には, 教師の共感的な児童理解と強い信頼関係が基盤となっていることを忘れてはならな い。 なお,生徒指導との関連については,本解説の第2章第2節の4の(4)に留意して 指導することが必要である。学級活動の指導に当たっては,学級経営の基盤となるよ りよい人間関係や学級集団としての秩序や規律,まとまりを育てたり,学級の諸問題 を児童が自主的,実践的に解決できるような態度を育てたりすることが大切である。 例えば,集団としてまとまって生活や学習ができないという学級経営上の課題を踏 まえ,「(1)学級や学校の生活づくり」において,共通の目標に向かって協力する集 会活動を効果的に生かし,児童自らがよりよい学級生活づくりに取り組もうとする意 欲を引き出したり,学級の諸問題を自分たちで解決できるようにしたりするなど,集 団としてのまとまりや自主的,実践的な態度を高めることが考えられる。また,家庭 学習がうまくいかないという学級経営上の課題を踏まえ,「(2)日常の生活や学習へ の適応及び健康安全」において「家庭学習の進め方」を効果的に取り上げることが考 えられる。 そのほか,学校生活の節目に行われる学校行事を学級経営に生かす視点から,学級 活動との関連をよりよく生かすなど,指導を工夫していくことが求められる。また, --62/127-- -60- 学級経営の充実によって十分に成果が上がっている内容について,学級活動で指導す る内容の重点化や統合を図るなど精選することも大切なことである。これらのことに 配慮し,学級経営案と学級活動の指導計画の関連を図ることが重要である。 (4) 個々の児童についての理解を深め, 児童との信頼関係を基礎に指導を行うととも に,生徒指導との関連を図るようにする ア 個々の児童についての理解を深める 学級活動の指導を行うに当たっては,「個々の児童についての理解を深め,児童 との信頼関係を基礎に指導を行う」ことが大切である。具体的には,教師が児童の 個人差,個々の児童の課題の状況などに配慮して指導計画を作成したり,児童の性 格や考え方などを理解して個に即した指導ができるようにしたりすることが考えら れる。 例えば,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の「ウ 望ましい人間 関係の形成」において,「互いのよさを見付け合う」の指導では,保護者からの手 紙を読む活動を取り入れる場合には,個々の家庭の状況を理解して取り扱ったりす るなどの配慮が必要である。また,「(1)学級や学校の生活づくり」において,自 分に自信がもてない児童に丁寧に助言をしたり,自己中心的な児童に粘り強く働き かけたりすることなどの配慮も必要である。 イ 児童との信頼関係を基礎に指導する 学級活動の指導に当たっては,「児童との信頼関係を基礎に指導する」ことが大 切である。具体的には,教師が児童に積極的に働きかけ,日ごろからコミュニケー ションを密にするなど信頼関係をつくったり,児童相互の好ましい人間関係を育 て,児童が共に協力して生活の向上を目指して努力しようとする雰囲気の醸成に努 めたりすることである。 例えば,学級活動において,誉める,励ますを指導の基調とし,個々の児童の実 態に即して,一人一人に寄り添いながら考え,期待をもって様々な改善を働きかけ るようにするなどして,児童との信頼関係を深めることである。 ウ 生徒指導との関連を図る 学級活動は,生徒指導の機能を生かした授業であることから,共通事項に示され たどの内容も,日常のあらゆる教育活動を通して進められる生徒指導と深いかかわ りがある。特に,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の指導は,学級 で行う生徒指導の場であることから,「自己の問題の状況を知る」,「解決方法に ついて自己決定する」,「決定に基づき努力をする」という一連の指導過程を重視 し,自己指導能力が育成できるようにすることが大切である。特に,自己決定につ --63/127-- -61- いては,例えば,単に努力目標を決めるだけではなく,いつ,どこで,何をどのよ うに努力するのか等を具体的に決められるようにすることが大切である。また,学 級活動に充てられる授業時数にも限りがあることから,日ごろの生徒指導を充実す るとともに家庭教育との連携などを図ることが大切である。このような日常の指導 を充実することによって,学級活動の授業として取り上げる内容を精選することが できる。 そのほか,学級活動の「(1)学級や学校の生活づくり」や児童会活動,クラブ活 動,学校行事における集団活動の機会も,生徒指導の重要な場である。そのため, 活動場面を適切にとらえて,自己決定の場を与える,自己存在感を与える,共感的 な関係を基盤に据えるなどの生徒指導の機能を生かして,積極的な生徒指導が効果 的に行えるようにすることも大切なことである。 (5) 学級活動の組織 学級活動を効果的に進めるためには,話合いの計画や係活動などを自主的に運営で きるよう,児童の発達の段階を考慮し学級活動の組織を編成する必要がある。 学級活動の組織に関して,各学年に共通する留意点として,次の事柄を挙げること ができる。 ア 児童の心身の発達や学級の実態を考慮し,なるべく簡潔で,いずれの児童にも 理解しやすい組織を工夫する。 イ 話合い活動における司会や記録などの役割については,低学年において,教師 が中心になって行い,徐々に中学年に向けて計画委員会を組織し,高学年までに は教師の指導の下,児童が自主的に運営できるようにする必要がある。そのため には,全教職員の共通理解の下で小学校の6年間を見通して計画的に指導できる ようにすることが大切である。また,役割を輪番制にするなど,特定の児童に偏 ることのないよう配慮する。 ウ 係活動は日常の学級生活に密接にかかわる役割分担であり,やらなければなら ない当番活動と異なり,児童の必要感から設置されるものである。一人一人の児 童が自分たちでつくったという意識がもてるように,児童による話合いを通して 構成された組織とする。その内容は形式的な組織ではなく,児童が活動の過程で 検討し合い,その自主的な創意工夫によって改善できるようなものが望ましい。 エ 学級全員が何らかの役割を分担し,学級の一員として認められ,みんなから必 要とされているという認識をもつなどの自己有用感や仲間と共に活動をしている という充実感がもてるような組織を工夫する。 オ 学級活動は,児童が活動している過程を大切にする必要がある。学級の多くの --64/127-- -62- 成員と共に活動しながら,相互に知り合い,理解し合えるようにする。そのため には,児童一人一人の役割や所属する組織を固定せず,柔軟で弾力性に富んだ組 織になるよう工夫する必要がある。 (6) その他の配慮事項 学級活動は第1学年から第6学年まで,すべての学年,学級において,児童全員の 活動を通して展開されるものである。その指導に当たっては,次の点に特に配慮する 必要がある。 ア 学級活動「(1)学級や学校の生活づくり」では,学級の生活上の共同の問題を 取り上げ,学級会を通して学級としての意見をまとめるなど集団決定をし,決ま ったことを協力して実践していく活動が中心となる。その際,折り合いを付ける ことや集団決定をしたことをみんなで実践することの大切さが実感できるように するとともに,充実した楽しい学級や学校の生活が送れるようにすることが重要 である。 イ 学級活動「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」では,児童に共通す る問題を取り上げ,話合いを通してその原因や対処の方法などについて考え,自 己の問題の解決方法などについて自己決定し,強い意志をもって粘り強く実行し ていく活動が中心になる。そして,自己決定したことがその後の生活の改善に生 かすことができるように励ましたり,助言したりすることが大切である。その 際,提示する資料や評価等を工夫することが重要である。 ウ 学級活動「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の共通事項の指導に ついては,日常のあらゆる教育活動を通して進められる生徒指導の充実を図り, 学級活動の授業として取り上げる内容を発達の段階に即して重点化することが必 要である。 エ 一人一人の児童について,集団の中での成長を見つめ,児童の実態を的確に把 握して指導する。個々の児童の思いや願いを理解し,一人一人が当該学級集団に 所属し,集団の一員として認められているという満足感や充実感,連帯感などを もち,互いに協力する中で自己有用感がもてるように配慮する。 オ 学級や学校の生活,その他日常生活に関する諸問題に具体的に取り組むように する。児童がもつ具体的な問題について話し合うようにし,実践を通して解決を 図る方向に活動が展開するように配慮する。 カ 問題の解決に当たっては,必要に応じて児童の自発的,自治的な実践活動が展 開されるように留意する。その際,教師は児童と共に考え,児童と共に解決して いく姿勢を常に失わないように配慮する。 --65/127-- -63- キ 学級の児童の様々な問題には多様な内容が含まれており,児童による解決が難 しい問題や児童の自主的な活動に任せられない問題もある。そのような問題の解 決に当たっては,その学級の児童の実態に応じて,教師の適切な指導が必要にな るが,できるかぎり児童の自主的な活動を通して解決されるように留意する。 ク 学級活動は,学級担任の教師が指導するのが原則であるが,活動の内容によっ ては学級担任の教師よりも他の教師等の専門性を生かした方が効果的である場合 も予想される。例えば,健康や安全,給食の問題,読書などを取り上げる場合, 養護教諭,栄養教諭,学校栄養職員,司書教諭などの協力を得て指導に当たるよ うにすることは望ましい配慮である。 ケ 学級活動の授業については,学校や児童の実態などを踏まえて,話合い活動, 係活動,集会活動などについての指導が組織的,計画的に行われるようにするた め,学校として様々な指導方法について情報交換をしたり,学校として教材を作 成して共有化を図るなどの工夫が必要である。 --66/127-- -64- 第2節 児童会活動 1 児童会活動の目標 児童会活動の目標は,学習指導要領第6章の第2の〔児童会活動〕の「1 目標」 で,次のように示されている。 児童会活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員としてよりよい 学校生活づくりに参画し,協力して諸問題を解決しようとする自主的,実践的な 態度を育てる。 児童会活動は,学校生活を共に楽しく豊かにするために学校の全児童をもって組織 する異年齢集団の児童会によって行われる活動である。 児童会活動は,このような児童会の集団における望ましい集団活動を通して,望ま しい人間関係を形成し,集団の一員としてよりよい学校生活づくりに参画し,協力し て諸問題を解決しようとする自主的,実践的な態度を育成することを目標としてい る。 したがって,児童会活動の指導に当たっては,児童会の集団の特質をよく理解し, 楽しい学校生活づくりのために,より望ましい異年齢集団活動として展開できるよう にすることが前提となる。このような異年齢集団活動を通して,上学年が下学年を思 いやり,下学年が上学年にあこがれをもち,仲よく,協力し,信頼し支え合おうとす る人間関係を形成したり,集団の一員として自分の役割を果たし,協力してよりよい 学校生活づくりに積極的に取り組んだりすることについて,児童自身が意識して努力 したり,自らが主体的に取り組んだりするなどの自主的,実践的な態度を育成するこ とが求められる。 例えば,児童が,学校の一員として,活動の目標を理解して児童会活動に参加し, 自己の考えをもって話し合い,学校生活へ寄与するための役割や責任を果たすなど, 協力して諸問題を解決するとともに,自己の生き方について考えを深めるなど,自己 のよさや可能性を生かして楽しく豊かな学校生活を築こうとする自主的,実践的な態 度である。 なお,このような異年齢集団による児童会の自発的,自治的な活動の場や機会をよ り多く設定することにより,高学年の児童のリーダーシップを育て,学校集団として の活力を高め,楽しく豊かな学校生活をつくるようにすることも大切なことである。 --67/127-- -65- 2 児童会活動の内容 児童会活動の活動内容について,学習指導要領第6章第2の〔児童会活動〕「2 内容」で,次のように示している。 学校の全児童をもって組織する児童会において,学校生活の充実と向上を図る 活動を行うこと。 (1) 児童会の計画や運営 (2) 異年齢集団による交流 (3) 学校行事への協力 (1) 児童会の計画や運営 児童が,教師の適切な指導の下に自発的,自治的な活動として児童会活動を展開す るためには,年間や学期,月ごとなどに活動計画を立て,役割を分担し,協力して運 営に当たれるようにする必要がある。具体的には,児童会活動の目標の実現に向け て,主として運営に当たる高学年が中心となって話し合い,児童会としての意見をま とめたり,計画を立案したり,運営に当たったりすることができるようにすることが 求められる。 その際,教師の広く豊かな視野からの適切な指導助言の下に,学校生活をより楽し く豊かなものにするために,児童の発意・発想を生かし,創意工夫して代表委員会活 動や委員会活動,児童会集会活動などが円滑に行われるようにすることが大切であ る。また,児童会活動においては,共通に自発的,自治的な活動を特質とする代表委 員会や委員会活動はもとより,学級活動の学級会やクラブ活動などとも相互の連携, 協力を図って学校生活の充実と向上を図るようにすることが大切である。 (2) 異年齢集団による交流 児童会活動における「異年齢集団による交流」には,児童が,児童会集会活動など 学年や学級の異なる他者と共に楽しく触れ合い,交流を図ることによって,望ましい 人間関係を深めるような異年齢集団による活動などが考えられる。 特に,全校児童が一堂に会して行われる全校児童集会は,児童の自発的,自治的な --68/127-- -66- 活動を効果的に進めるとともに,異年齢集団による交流のよさを一層重視して計画・ 運営できるようにすることが大切である。このほか,異年齢集団活動として行う話合 い活動や各委員会からのお願いや報告,発表などの活動も異年齢集団による交流の一 つである。 なお,児童会活動とは別に日常生活の中で継続的に異年齢交流を行う活動を設定し ている場合は,この児童会の異年齢集団による交流と連携を図って指導する必要があ る。 (3) 学校行事への協力 児童会活動における「学校行事への協力」には,教師の指導によって,児童が,学 校行事の各種類の内容の特質に応じて,計画の一部を担当したり,児童会の組織を活 用して学校行事の運営に協力したりする活動などが考えられる。 例えば,学芸会や運動会,学年を超えて行う遠足や集団宿泊活動などの学校行事の 一部を,児童の発意・発想を生かした計画によって実施したり,各委員会の活動内容 を生かした協力的な活動を取り入れて実施したりすることなどである。 なお,学校行事は,児童の自発的,自治的な活動を特質とするものではないが,児 童会活動として学校行事へ協力し,児童の積極的な参加の下に展開することで,児童 相互の連帯感が深まるとともに活動の幅も広がり,児童会活動の充実にも結び付くの である。 3 児童会活動の指導計画 各活動・学校行事の年間指導計画の作成については,学習指導要領第6章の第3の 1の(1)で,次のように示している。 (1) 特別活動の全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画の作成に当たって は,学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達の段 階などを考慮し,児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする こと。また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導 との関連を図るとともに,家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活 用などを工夫すること。 児童会活動の指導計画については,ここに示されたことを踏まえ,特に次のような ことに配慮して年間指導計画を作成する。 --69/127-- -67- (1) 学級や学校の実態や児童の発達の段階などを考慮し,児童による自主的,実践的 な活動が助長されるようにする これは,児童の自主的,実践的な活動が行えるようにするため,児童数や学級数の 多少,指導に当たる教職員の組織,施設,設備などの学校の実態などを考慮して,設 置する委員会の数や人数,活動内容などを見定めて指導計画を作成するなどの配慮が 必要であることを示したものである。例えば,児童数が少ない学校においては,中学 年から児童会の運営に当たれるようにしたり,その人数に見合った委員会の数を組織 したりするなどの工夫をして,指導計画を作成することが考えられる。 さらに,地域の実態に即した委員会を組織することも大切なことである。例えば, 近隣に外国人が多い地域の学校においては,国際理解に関する活動に取り組む委員会 を設置したり,自然に恵まれた地域においては,学校内外の自然環境を楽しんだり守 ったりする委員会を設置したりすることが考えられる。 「児童の発達の段階などを考慮し」とは,主として運営している高学年の児童や, 他の学年の児童の自発的,自治的に活動する能力などについての実態を的確にとら え,児童の要求や関心を把握し,これに応じた指導ができるように考慮して指導計画 を作成することである。 児童に自発的,自治的に活動する能力を育成するに当たっては,このような能力が 実践活動の経験に左右されることが多いことから,児童の実態や発達の段階,活動の 経験などを十分考慮して計画を作成することが重要である。特に,異なる学年の児童 が共に活動する児童会活動においては,児童の発達の段階や学年段階に応じて活動の 目標や参加の方法などを考慮し,無理なく目標が達成されるように配慮する必要があ る。 また,「児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする」ためには,教 師の適切な指導の下に,児童の発意・発想に基づいて,児童が児童会活動の活動計画 を作成し,児童による自主的,実践的な活動が展開できるようにすることが大切であ る。 児童会活動は,異年齢集団の児童の自発的,自治的な実践活動を特質とする教育活 動であるから,教師が作成する指導計画は,形式的,画一的,固定的なものではな く,児童の活動として取り上げるべき具体的な内容,方法,時間などについて,あら かじめ基本的な枠組みを定めておき,実際の活動は,児童の手によって一層具体的な 活動計画が立てられるような弾力性,融通性に富むものにすることが大切である。 --70/127-- --70/127-- -68- (2) 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導との関連を図る 児童会活動においては,「各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間など の指導との関連を図る」ことも大切である。具体的には,各教科等で身に付けた能力 などを,児童会活動における楽しく豊かな学校生活づくりのためによりよく活用でき るようにしたり,児童会活動で身に付けた自主的,実践的な態度などを各教科等の学 習に生かしたりすることである。 各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動の学習活動は,それ ぞれ独自の教育的意義をもちながらも相互に関連し合って,全体として学校の教育目 標の達成を目指すものである。児童会活動の年間指導計画も,各教科,道徳,外国語 活動,総合的な学習の時間及び特別活動における他の内容などの指導計画と有機的に 関連し合うように作成することが大切である。 (3) 家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを工夫する 児童会活動においては,「家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用など を工夫する」ことが大切である。具体的には,児童会活動における楽しく豊かな学校 生活づくりの活動を効果的に展開するために,家庭や地域の協力を得たり,社会教育 施設等を活用したりすることである。 例えば,児童会集会活動の異年齢集団による交流の活動として,近隣の幼稚園や小 学校との交流を行う等の活動を設定し,当該校の教職員や保護者の協力を得たりする ことが考えられる。また,学校行事に協力する児童会活動として,運動会を行う際に 敬老席を用意して地域の高齢者を招待するなどして,地域の福祉に携わる活動や仕事 をしている人々の協力を得たりする活動などが考えられる。 (4) 学校の実態を踏まえて児童会活動の組織を編成する 児童の自発的,自治的な活動が効果的に展開されるようにするためには,学校の実 態を踏まえた児童会の組織を編成することが必要である。 児童会の構成,組織は,学校の実情によって異なるものであるが,施設や設備,教 師や児童の数など学校の規模を考慮し,児童の希望を十分反映させて,それぞれの学 校が創意を生かし独自の組織を作成することになる。 例えば,代表委員会の活動においては,代表委員の構成や人数などは学校により異 なり,各委員会の活動においても種別や数などは各学校で異なってくるであろう。し たがって,代表委員会の構成及び委員会の種別や数は,児童の希望,学校の実情等を 考慮し,それぞれの活動が有機的な関連をもって学校生活を向上し得るような配慮の 下に決めることが必要である。そして,代表委員会と各委員会,各委員会ごとの相互 --71/127-- -69- の関連が図られ,異年齢集団による活動の成果が十分に上がるよう組織することが望 まれる。 (5) その他の配慮事項 ア 全校の教師により作成すること 児童会活動は,全校的な活動で,全教師の共通理解と協力が基盤になって行われ る活動であるため,年間指導計画の作成においても全教師の参加,協力が望まれ る。それを支える諸条件が変わるにつれて,絶えず修正され,現実の事態に即応す るように,毎年よりよい指導計画に作り替えていくことにおいても全教師の参加, 協力が望まれる。全教師が何らかの役割を分担して指導計画を作成することが大切 である。 イ 指導計画に示す内容 学校としての特別活動の全体計画に基づいて,児童会活動の年間指導計画を作成 することになるが,児童会活動の年間指導計画に示す内容には,例えば,次のもの が考えられる。 ○学校における児童会活動の目標 ○代表委員会,各委員会の組織と構成 ○活動時間の設定 ○年間に予想される主な活動 ○活動に必要な備品,消耗品 ○活動場所 ○指導上の留意点 ○委員会を指導する教師の指導体制 ○評価の観点 児童会活動の年間指導計画には,学校としての指導の目標が具体的に示されてい ることが望ましい。児童会活動の目標は各教科や道徳などの場合と異なり,あくま でも,児童の実践的な活動を通して達せられるものであることを踏まえ,漠然とし たものにならないようにすることが大切である。 ウ 活動の形態 児童会活動の運営について,学習指導要領第6章の第3の2の(3)で次のように 示している。 (3) 〔児童会活動〕の運営は,主として高学年の児童が行うこと。 これは,学校の全児童をもって組織する児童会において,その運営を主として第 --72/127-- -70- 5学年及び第6学年の児童によって行うことを示したものである。 高学年になれば,学校への所属感も高まり,集団活動の経験も増し,他のグルー プと協力して集団生活の向上発展を図ろうとする態度も身に付いて,全校的な視野 に立った活動も可能になってくる。このような児童の発達の段階をとらえて,高学 年の児童によりよい学校生活づくりの運営に参画させることを通して,リーダーの 経験が効果的にできるようにしたり,高学年の自覚や自分への自信を高めることが できるようにしたりするなど,教師の適切な指導が行われることが大切である。 なお,「主として高学年」と示したのは,自発的,自治的な活動をより一層効果 的に展開するために児童会の運営を高学年の児童のみに任せるのではなく,中学年 の児童も参加できるような配慮をすることも考えられるからである。また,小規模 校にあっては,児童の発達の段階などを考慮しながら,中学年の児童が運営に参加 することも考えられるからである。 主として高学年が運営に当たる児童会活動の形態は,次の三つに大別することが できる。 (ア) 代表委員会 代表委員会は,自分たちの学校生活の充実と向上を図るために,学校生活に関 する諸問題について話し合い,解決を図るための活動を行う。 なお,主として高学年の代表者が参加して,学校生活に関する諸問題について 話し合い,解決を図るための活動であり,全校児童の意向を反映し,学校生活を より向上発展させるために自発的,自治的に行われる活動である。 代表委員会の構成,組織は学校の実態によって異なるものであるが,主に高学 年の学級代表,各委員会の代表,関連する内容等必要に応じてクラブ代表が参加 する。 代表委員会において,話合い活動の計画や準備等を行い,円滑に運営する組織 として運営委員会(または児童会計画委員会)を設置し,適宜交代して経験がで きるよう工夫することが必要である。 (イ) 委員会活動 学校内の自分たちの仕事を分担処理するための活動である。主として高学年の 全児童が,いくつかの委員会に分かれて,自分たちの学校生活を向上発展させ, より豊かにしていくために,児童の発意を生かし,創意工夫して実際の活動を分 担して行うものである。各委員会としては,例えば集会,新聞,放送,図書,環 境美化,飼育栽培,健康,福祉ボランティアなどが考えられよう。 なお,命を大切にする教育の観点から小動物などの飼育に関すること,環境教 --73/127-- -71- 育の観点から環境美化に関すること,健康教育の観点から健康の増進や運動に関 することなどの委員会を設置して活動に取り組むことは,望ましいことである。 (ウ) 児童会集会活動 児童会の主催で行われる集会活動である。全校の児童で行われる全校児童集 会,学年の児童で行われる学年児童集会などがある。これは,全校または学年の 児童が一堂に会して,活動の計画や内容についての協議,活動状況の報告や連 絡,集会などが行われるものである。この集会は,児童の自発的,自治的な活動 として行われるものであって,学校行事として行われるものとは,計画及び運営 において異なるものである。 なお,児童会活動の運営は,主として高学年による自発的,自治的な活動であ ることから,児童による活動計画の作成が必要である。したがって,教師があら かじめ作成した基本的な枠組みとしての年間指導計画に基づき,教師の適切な指 導助言の下に,児童が具体的な活動計画を立てられるようにする必要がある。児 童が作成する児童会活動の活動計画には,年間の活動計画と1単位時間の活動計 画などがある。 児童が作成する児童会活動の年間の活動計画に示す内容には,例えば,次のよ うなものが考えられる。 ○活動の目標 ○各月などの活動内容 ○役割分担 など また,児童が作成する1単位時間の集会活動等の活動計画に示す内容には,例 えば,次のようなものが考えられる。 ○活動名 ○実施の日時 ○活動のねらい ○活動内容・プログラム ○参加するために準備すること ○役割分担 など エ 実施学年や委員会への所属 児童会活動は,全校の児童をもって組織するものであるが,その運営には主とし て高学年の児童が当たる。ここで,運営に当たるというのは,児童会の種々の組織 の一員となって活動することなどを指すのであるが,小規模学校の場合には中学年 の児童を,その運営に参加させることも考えられる。 また,児童会活動は学級や学年が異なる児童により構成される集団での活動であ る。集団の構成員一人一人には,様々な経験の違いが見られるので,一人一人の個 --74/127-- -72- 性が発揮され,相互の協力による望ましい集団活動を展開するためには,児童相互 の人間関係を密にして活動できるようにする必要がある。 したがって,委員会活動においては,児童は,1年間は同一の委員会に所属して 活動することが望ましいが,児童によっては,途中で委員会の所属変更を希望する 場合もあろう。これらの児童に対しては,委員会活動の意義を十分理解させ,継続 して活動するように指導することが望ましいが,事情によっては適当な機会にその 変更を認めるような配慮が必要になる場合もある。 オ 時間の取り方 児童会活動の授業時数等の取扱いについては,学習指導要領第1章総則第3の2 で,次のように示している。 (2) 特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事について は,それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を 充てるものとする。 年間指導計画の作成に当たっては,児童会活動をいつ行い,どの程度の時間を充 てるかという時間設定も大切なことである。 代表委員会や各委員会ごとに話合いをする時間を,月に1単位時間程度設けるこ とや児童会が主催する比較的規模の大きい集会活動を学期に1・2回程度設けるな どの工夫が考えられる。集会に関する委員会が設けられている場合には,児童の継 続的な活動を促進する上からも,特定の曜日の朝など短時間で実施できるよう工夫 することにも配慮したい。また,代表委員会と各委員会との有機的な関連を図り, 活動を活性化するため,両者を同時に並行して実施することは避けるなど,実施の 在り方を工夫する必要がある。代表委員会は,高学年の児童や各学年の教師が参加 したり,参観したりしやすい時間に設定して,年間を通じて実践活動ができるよう 工夫することが大切である。 4 児童会活動の内容の取扱い 児童会活動の内容の取扱いについては,学習指導要領第6章の第3の2の(1)で次 のように示している。 (1) 〔学級活動〕,〔児童会活動〕及び〔クラブ活動〕の指導については,指 導内容の特質に応じて,教師の適切な指導の下に,児童の自発的,自治的な 活動が効果的に展開されるようにするとともに,内容相互の関連を図るよう --75/127-- -73- 工夫すること。また,よりよい生活を築くために集団としての意見をまとめ るなどの話合い活動や自分たちできまりをつくって守る活動,人間関係を形 成する力を養う活動などを充実するよう工夫すること。 (1) 児童の自発的,自治的な活動が効果的に展開されるようにする 児童会活動については,「児童の自発的,自治的な活動が効果的に展開されるよう にする」必要がある。具体的には,児童が教師の適切な指導の下に,全校の児童の活 動であることを理解しながら学校の諸問題について話し合い,代表委員会や各委員会 としての意見をまとめ,集団決定したことについて自己の責任を果たし,協力して実 現できるようにする活動の機会をより多く設定するとともに,その活動内容が活発に 展開できるようにすることである。 このような異年齢集団による自治的な実践活動を活発にするためには,児童会活動 を推進するための教師の指導体制を確立し,積極的に児童会を運営する児童にかかわ り,常に児童自身が学校生活を充実・向上させるための諸問題に気付いたり,これら の問題を自分たちで解決しようとしたりする意欲を高め,児童自らが協力して諸問題 を解決するなど,楽しく豊かな学校生活づくりに進んで参画できるよう組織的な指導 に努める必要がある。 なお,学校内の諸問題についての活動を十分に行った上で,学校や地域の実態に応 じて,児童の発意・発想を大切にしながら,他校の児童会や中学校の生徒会,他地域 や外国の児童の組織などと交流をすることなども考えられる。 運営に当たる児童が,高学年であっても未熟な面を多分にもっていることから,教 師の適切な指導の下に,下学年の思いや願いも理解できるようにするなど,全校児童 の意向が反映されるように配慮する必要がある。 また,児童会活動は全校児童による組織的な集団活動であり,児童一人一人が集団 の目標についての理解を深め,その目標を達成するために,それぞれの仕事を分担 し,協力して解決に当たる活動である。児童が学校内の仕事を分担処理していくに当 たっては,様々な活動の内容を自発的に選定していくことになるが,教師は,それが 常に児童会活動の目標を達成するのにふさわしい内容となるように指導するととも に,児童の負担過重にならないよう配慮する必要がある。そのために教師は,児童の 手で解決できない問題など児童の自治的な活動として任すことのできない条件を明確 にして指導に当たる必要がある。 なお,委員会活動において小動物を継続して飼育する場合は,生命を大切にする教 育の視点から,教師のきめ細かで適切な指導とともに,地域の獣医師などとの連携を --76/127-- -74- 図るなどの工夫をすることが望ましい。 (2) 内容相互の関連を図るよう工夫する 児童会活動が活発になり,充実したものになるためには,学級における指導が大き く影響することから,特に学級活動との関連を図って指導する必要がある。学級活動 において,学級における生活上の諸問題について積極的に話し合い,係活動など学級 内の仕事の分担処理の活動の経験を積み,楽しい集会活動を行う活動の過程におい て,児童が自発的,自治的に活動するための指導が適切に行われているならば,児童 会活動も活発になり,学校生活も児童にとってより楽しいものになる。同時に,児童 会活動で経験した多様な活動が学級生活にも生かされ,学級や学校の生活をより一層 充実したものにしていくのである。 また,児童会活動は,学校の全児童をもって組織しているが,その運営は主として 高学年の児童が担当することから,高学年の児童が主体となって活動する場合が多 い。したがって,学級活動などとの関連を一層図るようにし,学級代表が参加してい ない低学年の学級と代表委員会とが連絡を密にして,代表委員会の活動内容が伝わる ようにしたり,低学年の児童の意見が児童会活動に反映されるようにしたりすること が大切である。 特に,学級活動においては,児童会活動の運営に当たる児童に,発達の段階に即し て児童会活動の目標について理解できるようにしたり,自分の目標をもって委員会活 動などに参加できるようにしたりするための指導をするなど,関連を図って児童会活 動が効果的に展開できるようにすることが必要である。 クラブ活動との関連については,必要に応じてクラブの意見を代表委員会に反映さ せるなど,それぞれの活動がより充実し発展していくように配慮することが望まし い。 さらに,放送や新聞などの委員会の活動によって,代表委員会,各委員会,各クラ ブの活動状況についての情報が広く児童に伝わるようにすることも大切な配慮であ る。 (3) 人間関係を形成する力を養う活動を充実する 児童会活動においては,人間関係を形成する力を養う活動などを充実することが大 切である。具体的には,児童が,学年や学級を超えた異年齢集団によって行われる児 童会における活動の機会や場を多様に設定することにより,上級生は下級生に対して 思いやりの気持ちをもって接し,下級生は上級生に尊敬の気持ちをもって協力できる ようにするなど,望ましい人間関係を築く態度の形成を図ることが望まれる。 --77/127-- -75- そのためには,構成員の一人一人の児童には様々な経験の差があり,発言の内容や 仕事の遂行上での技能などに差はあるにしても,同じ成員として互いに尊重され,互 いの長所が生かされるよう指導する必要がある。また,このような適切な指導によっ て,一人一人の児童が自己を生かし,互いに協力し合う望ましい活動の場となり,民 主的な実践活動が展開されることになる。 --78/127-- -76- 第3節 クラブ活動 1 クラブ活動の目標 クラブ活動の目標は,学習指導要領第6章の第2の〔クラブ活動〕の「1 目標」 で次のように示している。 クラブ活動を通して,望ましい人間関係を形成し,個性の伸長を図り,集団の 一員として協力してよりよいクラブづくりに参画しようとする自主的,実践的な 態度を育てる。 「クラブ活動」は,主として第4学年以上の児童で組織される学年や学級が異なる 同好の児童の集団によって行われる活動である。 クラブ活動は,このようなクラブの集団における望ましい集団活動を通して,望ま しい人間関係を形成し,個性の伸長を図り,集団の一員として協力してよりよいクラ ブづくりに参画しようとする自主的,実践的な態度を育てることを目標としている。 そこで,担当する教職員は,このようなクラブの集団の特質をよく理解し,より望 ましい異年齢集団活動として展開することが求められる。また,発達の段階や経験の 差を理解し,それぞれのよさに目を向けて励まし合えるようにするなど,学年や学級 が異なる同好の児童が互いに協力し,信頼し支え合おうとする人間関係を築くことが できるようにすることが大切である。さらには,自分の希望する興味・関心を追求す るクラブを選択できるようにし,「個性の伸長を図」るという観点から,児童の興味 ・関心にかかわるよさや可能性について,多様な他者との人間的な触れ合いの中で認 め合うことができるようにする必要がある。このような配慮により,児童が自分の興 味・関心やこれに取り組むよさや可能性に気付き,理解し,自他のよさや可能性を互 いに認め合い,よりよく伸ばすとともに,自分への自信を高め,現在及び将来の生活 や学習に積極的に生かしていくことができるようにすることが求められる。 なお,小学校のクラブ活動での経験が部活動などの中学校生活の充実や将来の趣味 や職業へと発展することなども考えられることから,クラブ活動の指導を通して,自 己の興味・関心に自信がもてるようにするとともに,自己を生かす能力を養うよう指 導することも大切なことである。 例えば,演劇クラブの活動における取組などについて称賛したり,励ましたりする --79/127-- -77- などして,学芸会の活動に生かせるようにしたり,中学校の部活動の選択に生かすこ とができるようにしたり,将来の職業として夢を膨らませることができるようにした りするなどはその例である。 「集団の一員として協力してよりよいクラブづくりに参画しようとする自主的,実 践的な態度を育てる」とは,共通の興味・関心を追求するために,目標をもち,クラ ブの一員としてよりよいクラブづくりに寄与するための役割や責任を果たし,自己を よりよく生かして活動することについて,児童自身が意識して努力するなど,自ら主 体的に取り組むなどの自主的,実践的な態度を育てることである。また,みんなで話 し合い協力して活動したり,異年齢における望ましい人間関係を築いたり,集団の一 員としての自己の生き方についての考えを深めたりすることについて,児童自身が意 識して努力するなど,自ら主体的に取り組むなどの自主的,実践的な態度を育てるこ とである。 なお,児童が自らの希望によって選択し,所属して,異年齢集団の中で共通の興味 ・関心を追求するクラブ活動は,児童の学校生活の楽しさや満足度を高める効果が大 きいことから,このような機会をより効果的に設定するとともに適切な授業時数を充 てることが求められる。 2 クラブ活動の内容 クラブ活動の内容について,学習指導要領第6章の第2の〔クラブ活動〕の「2 内容」で次のように示している。 学年や学級の所属を離れ,主として第4学年以上の同好の児童をもって組織 するクラブにおいて,異年齢集団の交流を深め,共通の興味・関心を追求する活 動を行うこと。 (1) クラブの計画や運営 (2) クラブを楽しむ活動 (3) クラブの成果の発表 (1) クラブの計画や運営 児童が,教師の適切な指導の下に自発的,自治的な活動としてクラブ活動を展開で --80/127-- --80/127-- -78- きるようにするためには,教師が作成した指導計画に基づき年間や学期,月ごとなど に児童が活動計画を立て,役割を分担し,協力して運営に当たることができるように することが大切である。また,所属するクラブ成員が,クラブの目標の実現に向け, 異年齢の他者と話し合ってクラブとしての意見をまとめたり,計画を立案してその運 営に当たったりする「クラブの計画や運営」の活動を重視して指導する必要がある。 その際,教師の広く豊かな視野からの適切な指導助言の下に,クラブをより楽しく 豊かなものにするために,児童の発意・発想を生かして活動が行われるようにするこ とが大切である。また,クラブ活動においては,児童会活動や学級活動の学級会など の指導とも関連を図って,全体として児童による自発的,自治的な活動が効果的に展 開できるようにすることが大切である。 クラブ活動の活動計画については,クラブに所属する児童自らの手によって一層具 体的に立てられるものであり,クラブに所属する児童全員の話合いによって活動の内 容,役割分担などを決めることになる。その際,前年度同じクラブに所属していた児 童の意見などを参考にしながら作成されることが望ましい。 また,クラブ活動は,教師の意図によるものでなく,児童の話合いによって運営さ れるものであることから,各クラブに所属する児童は,必要に応じて全員が集まり, 時には異年齢の活動グループごとにクラブの計画や運営についての話合いを行うこと となる。話合いにより意見の異なる人を説得したり,集団としての意見をまとめたり して異年齢の児童が協力し合って楽しく活動できるようにすることが望まれる。 (2) クラブを楽しむ活動 「クラブを楽しむ活動」とは,児童が,教師の適切な指導の下に作成した活動計画 に基づいて,異なる学年の児童が仲良く協力し,創意工夫を生かしながら自発的,自 治的に共通の興味・関心を追求することを楽しむ活動である。 クラブ活動の時間のほとんどが,この活動に充てられることになるが,興味・関心 をより深く追求していく喜びや計画したことが実現できた満足感,学級や学年が異な る仲間と協力して活動を進めることができた喜びなどが実感できるように指導するこ とが大切である。また,みんなで話し合ってつくったきまりを守ったり,役割を交代 して誰もが楽しむことができるようにしたりすることも大切である。 この活動では,全員が共同し一緒に行う場合といくつかのグループに分かれて行う 場合などが考えられるが,さらに学校や地域の実態によっては,他のクラブや地域の 人々などとの交流を図るなどして,一層クラブを楽しむことができるようにすること --81/127-- -79- も考えられる。 (3) クラブの成果の発表 「クラブの成果の発表」とは,児童が,共通の興味・関心を追求してきた成果を, クラブの成員の発意・発想による計画に基づき,協力して全校の児童や地域の人々に 発表する活動である。 クラブの成果の発表の機会としては,運動会や学芸会などの学校行事や児童会全校 集会などの場での発表,校内放送や展示による日常の発表,そして年間の活動のまと めとして行う展示や映像,実演などの方法による発表が考えられる。学校の実態に応 じて,学期ごとなどに様々な機会を生かして発表の場を設定するようにすることは, 児童の活動意欲を高める上で望ましいことである。 なお,年度末に1年間のまとめとして行うクラブの成果の発表は,次年度にクラブ を選択する際のオリエンテーションの機会として活用することも考えられる。また, 年度末に,クラブを実際に体験をする期間などを設けて,次年度のクラブを選択する 際の参考にさせることも望ましい。 3 クラブ活動の指導計画 各活動・学校行事の年間指導計画の作成については,学習指導要領第6章の第3の 1の(1)で次のように示している。 (1) 特別活動の全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画の作成に当たって は,学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達の段 階などを考慮し,児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする こと。また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導 との関連を図るとともに,家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活 用などを工夫すること。 クラブ活動については,ここに示したことを踏まえ,特に次のようなことに配慮し て年間指導計画を作成する。 (1) 学級や学校の実態や児童の発達の段階などを考慮し,児童による自主的,実践的 な活動が助長されるようにする クラブ活動の指導計画については,児童数や学級数の多少,指導に当たる教職員の 組織,施設,設備などの学校の実態などを考慮して,設置するクラブの数や人数,活 --82/127-- -80- 動内容などを定めて指導計画を作成する必要がある。 例えば,児童数が少ない学校においては,第3学年や低学年からクラブ活動に参加 できるようにしたり,その人数に見合ったクラブの数を組織したりするなどの工夫を して,指導計画を作成することが考えられる。さらに,地域の実態に即してクラブを 組織することも大切なことである。例えば,近隣の老人クラブを生かして交流を楽し むクラブを設置したり,自然豊かな環境を生かして野外活動を楽しむクラブを設置し たりすることが考えられる。 クラブ活動においては,児童の発達の段階などを考慮することが大切である。具体 的には,担当する教師がクラブ活動の参加対象となる第4学年以上の児童の発達的特 徴,活動の要求や関心,自発的,自治的な活動の経験などを適切にとらえ,それらに 応じた指導ができるように計画することが大切である。 ただ,児童の興味・関心とはいえ,小学校段階の児童は,まだ持続性が低く,人間 関係等に影響されることも多いので,教師の適切な指導の下に自らの興味・関心に基 づく活動が積極的に展開されるよう配慮することが必要となる。 また,集団活動における自発的,自治的な活動の能力は,児童の発達の段階の違い だけでなく,個々の実践の経験に左右される面も多いので,学校の実態や学級におけ る活動の経験を十分考慮して計画を作成しなければならない。さらに,クラブ活動 は,異なる学年や学級の児童が共に活動することを特色とするものであるため,無理 なくクラブ活動の目標が達成されるように計画段階から配慮する必要がある。 クラブ活動においては,「児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにす る」ことが大切である。具体的には,教師の適切な指導の下に,児童の発意・発想に 基づいて,児童がクラブ活動の活動計画を作成し,児童による自主的,実践的な活動 が展開できるようにすることである。 クラブ活動は,異年齢集団の児童の自発的,自治的な実践活動を特質とする教育活 動であるから,教師が作成する指導計画は,形式的,画一的,固定的なものではな く,児童の活動として取り上げるべき具体的な内容,方法,時間などについて,あら かじめ基本的な枠組みを定めておき,実際の活動は,児童の手によって一層具体的な 活動計画が立てられるような弾力性,融通性に富むものにすることが大切である。 クラブ活動は,学年や学級の異なった同好の児童による共通の興味・関心を追求す る集団活動として展開されるところに特質がある。したがって,異なる学年や学級の 児童が一緒になって,協力しながら各自の能力や特性を十分に発揮し,伸び伸びと楽 しく,豊かな集団活動を自発的,自治的に展開しながらクラブづくりに参画できるよ うにするのである。 --83/127-- -81- 共通の興味・関心を追求するクラブ活動は,児童にとって魅力的であり,異年齢の 仲間と協力しながらものごとを深く追求していく楽しさや成功したときの満足感は, より充実した新たな活動への動機付けになる。また,自らの興味・関心を深く追求す ることによって,児童が自分の個性を発見したり理解したりすることが期待できる。 このような特質を踏まえ,活動の仕方やきまりなどを工夫することにより,経験差や 年齢差を補い,異年齢の児童が協力して楽しく活動できるようにすることが大切であ る。 なお,クラブ活動は教師の適切な指導の下に,児童による自発的,自治的な活動が 展開されるものであり,指導する教師が不在の中で活動が行われることがないように するとともに,準備や後片付けなど,教師の適切な指導の下に事故防止の指導を徹底 するなど安全確保に十分な配慮をすることが必要である。 (2) 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導との関連を図る クラブ活動においては,「各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間など の指導との関連を図る」ことが大切である。具体的には,各教科等で身に付けた能力 などを,クラブ活動においてよりよく活用できるようにしたり,クラブ活動で身に付 けた自主的,実践的な態度などを各教科等の学習に生かしたりすることである。 クラブ活動の目標を達成するためには,学級活動,児童会活動及び学校行事との関 連を図り,児童の自発的,自治的な活動が日ごろからより充実して行われるよう配慮 する必要がある。 また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間の指導において培われた 学習態度や道徳性は,クラブ活動の運営や共通の興味・関心を追求する活動において 大きな影響を与えるものである。 このように,クラブ活動の基盤は,学級生活や学校生活全体を通して培われる面が 多い。そのため,各教科等の学習を中心として行われる様々な教育活動の中で,絶え ず一人一人の児童の自主的な活動が促され,それぞれの児童が自己の特性を生かしな がら学級や学校の生活を送ることができるようになることにより,クラブ活動も活発 に行われ,一層目標を達成することが期待される。また,児童がクラブ活動を通して 身に付けた様々な技能や態度が,その他の教育活動においても生かされ,学級生活や 学校生活をより一層充実させることにもなる。 (3) 家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを工夫する クラブ活動においては,「家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用など --84/127-- -82- を工夫する」ことが大切である。具体的には,クラブ活動を効果的に展開するため に,家庭や地域の協力を得たり,社会教育施設を活用したりすることが大切である。 例えば,児童の興味・関心を基本としながら,地域のお囃子や踊りなどの伝統芸能 はやし や文化と関連付けて,外部講師や地域の教育力を活用したりするなど,地域の実態や 特性を考慮して計画を作成することも考えられる。また,ゲートボールクラブなどが 地域のゲートボール場に出向いて,地域のお年寄りによるチームと対戦することなど も考えられる。地域の施設や自然環境などを活用するため校外へ出て活動を行うクラ ブについては,児童の安全確保に努めるとともに,その教育的意義を明確にして指導 計画を作成することが必要である。 なお,学校週5日制の下での余暇の拡大や生涯学習の進展などにともない,学校で のクラブ活動と家庭や地域社会における学校外活動との関連を図るなどの配慮も大切 である。 (4) クラブ活動の組織 クラブ活動の組織に関連して,学習指導要領第6章の第3の1の(3)で次のように 示している。 (3) 〔クラブ活動〕については,学校や地域の実態等を考慮しつつ児童の興味 ・関心を踏まえて計画し実施できるようにすること。 クラブ活動の組織については,このことを踏まえ,児童の興味・関心に基づいて編 成しなければならない。 クラブの種類については,児童の興味・関心が多様化していることから,多方面に わたることが予想されるが,その活動が児童自らの手によって自主的に計画,運営さ れる範囲内で考えなければならない。具体的にどのように組織され,個々のクラブの 名称や数などをどうするかは,それぞれの学校の実態に応じて決定されることにな る。 このようなことから,各学校でクラブ活動を組織するに当たっては,次の諸点に配 慮することが大切である。 ア 児童の興味・関心ができるだけ生かされる組織であること クラブ活動の全体の組織については,学校の実態や児童の発達特性などに応じ, 児童の興味・関心を生かす配慮をする必要がある。そのため,クラブ活動に対する 正しい認識を育てる指導を充実するとともに,適切な時期をとらえて児童の希望を 調査し,計画と指導に反映させることも大切である。 --85/127-- -83- イ 教科的な色彩の濃い活動を行うクラブ活動の組織にならないこと クラブ活動は,各教科等の学習と関連のある場合が多い。しかし,それが単に各 教科等の延長としての活動や個人的な技能を高めることのみに終始する活動である ならば,クラブ活動の目標から考え,望ましいものとは言えない。 クラブ活動は,児童の興味・関心を追求する活動であるから,それが結果として 教科の学習に寄与する場合があるとしても,それはあくまで結果としてであって, 直接的な目的とするものではないことに留意する必要がある。 ウ 学校や地域の実態に即した組織であること クラブ活動を組織するに当たっては,指導教師の数や学校の施設・設備及びその 他の環境などを考慮するとともに,安全面に配慮するなど十分な検討が必要であ る。また,児童の希望するクラブの設置に努め,必要に応じて,社会教育施設をは じめとして学校外にも活動の場を求めることも考えられる。さらに,指導を充実す るため,地域の人々をはじめとする専門的な外部講師の協力を得るなど,積極的に 地域の人材との連携を図っていくことも大切である。 クラブ活動の組織づくりに際しては,児童の興味・関心が,それぞれの学校の置 かれている地域の特色と関連したものに向けられることがある。この場合,それが クラブ活動の目標を達成するのに役立つものであるならば,クラブ活動として組織 することも考えられる。児童の希望があれば,例えば,奉仕活動にかかわるクラブ として手話クラブや情報教育との関連を生かしたコンピュータクラブ,地域の特色 を生かした伝統芸能クラブ,国際理解への関心を深めるための英会話クラブなどを 設けることも考えられる。 (5) その他の配慮事項 ア 全校の教師により作成すること クラブ活動は,主として第4学年以上の児童による活動であるが,その指導は, 全教師によって行わなければならない。したがって,全教師のクラブ活動に対する 共通の理解や指導姿勢を基盤として,その指導が行われる必要がある。そのため, 指導計画の作成においても,全教師の協力を得て,毎年よりよい指導計画に作り替 えていくことが望まれる。 イ 年間指導計画に示す内容 クラブ活動の年間指導計画に示す内容には,例えば,次のものが考えられる。 ○学校におけるクラブ活動の目標 ○クラブの組織と構成 ○活動時間の設定 ○年間に予想される主な活動 --86/127-- -84- ○活動に必要な備品,消耗品 ○活動場所 ○指導上の留意点 ○クラブを指導する教師の指導体制 ○評価の観点など クラブ活動における指導の目標を明確にし,しかも具体的に計画に示されている ことが望ましい。ただ,指導の目標といっても,各教科,道徳及び外国語活動の場 合と異なり,あくまでも児童の興味・関心を追求する活動を通して達せられるもの であることを忘れてはならない。 なお,クラブ活動における指導計画は,児童の自発的,自治的な活動を育てる基 本的な枠組みであるから,その活動に先立って,児童と共に,一層具体的な活動計 画を立てる必要がある。今までの学習経験を生かして児童の手によって自発的,自 治的に計画が立てられるようになると活動も活発になり,望ましい活動が展開され ることが期待できる。その際,児童が自ら活動に必要な材料や用具などについても 考え,計画して実践できるようにすると,一層自主的に創意工夫して実践活動を展 開するようになる。いずれにしても,計画段階から教師の適切な指導助言を欠かす ことがないよう配慮する必要がある。 児童が作成するクラブ活動の年間の活動計画に示す内容には,例えば,次のよう なものが考えられる。 ○活動の目標 ○各月などの活動内容 ○準備する物 ○役割分担など ウ 実施学年 学習指導要領には,クラブの構成及び組織について,「学年や学級の所属を離 れ,主として第4学年以上の同好の児童をもって組織するクラブにおいて,異年齢 集団の交流を深め,共通の興味・関心を追求する活動を行うこと」と示されてい る。クラブ活動は,主として第4学年以上の児童による活動であるが,小規模校に おいては第3学年以下の学年からの実施も考えられる。 エ クラブへの所属 クラブは,学級や学年が異なる児童により組織され,自主性,社会性の育成や個 性の伸長を目標とすることから,その活動は,計画的,継続的に行われることが望 ましい。したがって,児童は,その学年において同一クラブに所属して活動するこ とを原則とすることが望ましい。 しかし,児童によっては,当初の興味・関心を持続できず,途中でクラブの所属 --87/127-- -85- 変更を希望してくることがある。このような児童については,所属するクラブを継 続することによって,興味・関心や活動する意欲が再び高まることもあることに留 意した指導を行うとともに,事情によっては,適当な機会にその変更を認めるよう な配慮も必要である。 オ 時間の取り方 クラブ活動の授業時数等の取扱いについては,学習指導要領第1章総則の第3の 2で次のように示している。 2 特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については, それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てる ものとする。 クラブ活動の時間の取り方については,学習指導要領第6章第3の「指導計画の 作成と内容の取扱い」の1の(3) に,「学校や地域の実態等を考慮しつつ児童の興 味・関心を踏まえて計画し実施できるようにすること。」と示されている。 したがって,各学校が必要と思われる授業時数を設定することになるが,「児童 の興味・関心を踏まえて計画し実施できるようにする。」と示されていることや総 則第3の2に「年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てるものとす る。」と示されていることの趣旨を十分に踏まえることが大切である。 ここに示した「適切な授業時数」とは,クラブ活動の目標が十分に達成できるよ うな授業時数であり,「ア クラブの計画や運営」「イ クラブを楽しむ活動」 「ウ クラブの成果の発表」の三つの内容が効果的に行える授業時数のことであ る。各学校においては,このことを踏まえ,クラブ活動を通して児童の自主的,実 践的な態度を育成するために必要な適切な授業時数を充てるとともに,時間割表に 明確に位置付けて児童の興味・関心が持続し継続的に活動できるようにすることが 大切である。 4 クラブ活動の内容の取扱い クラブ活動の内容の取扱いについては,学習指導要領第6章の第3の2の(1)で, 次のように示している。 (1) 〔学級活動〕,〔児童会活動〕及び〔クラブ活動〕の指導については,指 導内容の特質に応じて,教師の適切な指導の下に,児童の自発的,自治的な --88/127-- -86- 活動が効果的に展開されるようにするとともに,内容相互の関連を図るよう 工夫すること。また,よりよい生活を築くために集団としての意見をまとめ るなどの話合い活動や自分たちできまりをつくって守る活動,人間関係を形 成する力を養う活動などを充実するよう工夫すること。 (1) 児童の自発的,自治的な活動が効果的に展開されるようにする クラブ活動は,教師の適切な指導の下に,共通の興味・関心を追求する児童による 自発的,自治的な活動である。したがって,クラブを楽しむ活動計画を作成するため に話し合い,クラブとしての意見をまとめ,集団決定したことについて協力して実践 できるようにする活動を重視するとともに,その活動が活発に展開できるようにする ことが大切である。 このような異年齢集団による自発的,自治的な実践活動を活発にするためには,ク ラブ活動を推進するための教師の指導体制を確立し,積極的に担当するクラブの児童 にかかわり,常に児童自身がクラブを楽しむために,創意工夫をしたり,協力して役 割を分担したりするなど,楽しいクラブづくりに進んで参画できるよう組織的な指導 に努める必要がある。 その際,高学年の児童であっても未熟な面を多分にもっていることから,教師の適 切な指導の下に,下学年の思いや願いを理解できるよう配慮する必要がある。 また,クラブ活動は,児童による自発的,自治的な活動であることから,それが常 にクラブ活動の目標を達成するのにふさわしい内容となるように指導するとともに, 児童の負担過重にならないよう配慮する必要がある。そのために教師は,児童の手で 実践できない活動など児童の自治的な活動として任すことのできない条件を明確にし て指導に当たる必要がある。 (2) 内容相互の関連を図るよう工夫する クラブ活動における「内容相互の関連を図るよう工夫すること」とは,共通の特質 をもつ学級活動や児童会活動の指導との関連を図って,全体として児童の自発的,自 治的な活動が一層効果的に展開できるようにすることである。特に,学級活動におい ては,児童に発達の段階に即してクラブ活動の目標や内容などについて理解できるよ うにしたり,目標をもってクラブ活動に参加できるようにするための指導をするな ど,クラブ活動が効果的に展開できるようにすることが望ましい。 --89/127-- -87- (3) 人間関係を形成する力を養う活動を充実する クラブ活動においては,「人間関係を形成する力を養う活動などを充実する」こと が大切である。具体的には,学年や学級を超えた異年齢集団によって行われるクラブ 活動の機会や場を多様に設定することにより,上級生は下級生に対して思いやりの気 持ちをもって接し,下級生は上級生に尊敬の気持ちをもって協力できるようにするな どの望ましい人間関係を築く態度の形成に努めることである。 児童の創意工夫によって運営されるクラブ活動は,学校週5日制の下で,日常の生 活において余暇を有効に活用しようとする積極的な態度を身に付けることにも役立つ ものである。また,同好の友人と共通の興味・関心を追求するクラブ活動は,児童が 学校を離れて地域においても学校での活動を発展的に行うことができる面をもち,地 域社会の人材や施設,様々な活動との連携を図った地域における活動として展開され る可能性をもつ。地域における人間関係が希薄化している現状からも,中学校生活へ の円滑な接続を図る上でも,クラブ活動を通した異年齢の望ましい人間関係を形成す る体験は貴重な機会となるのである。 --90/127-- --90/127-- -88- 第4節 学校行事 1 学校行事の目標 学校行事の目標は,学習指導要領第6章の第2の〔学校行事〕「1 目標」で次の ように示している。 学校行事を通して,望ましい人間関係を形成し,集団への所属感や連帯感を深 め,公共の精神を養い,協力してよりよい学校生活を築こうとする自主的,実践 的な態度を育てる。 学校行事は,全校又は学年という大きな集団を単位として行われる活動である。 学校行事は,このような大きな集団における望ましい集団活動や感動体験などを通 して,望ましい人間関係を形成し,集団の所属感や連帯感を深め,公共の精神を養 い,協力してよりよい学校生活を築こうとする自主的,実践的な態度を育成すること を目標としている。 したがって,教師は,全校又は学年という大きな集団の特質をよく理解し,児童が 各種の学校行事に積極的に参加できるようにしたり,役割を担ってその責任を果たす ことができるようにしたり,共に喜びや苦労を分かち合いながら目標を成し遂げるこ とができるようにしたりするなど,望ましい体験的な活動が展開できるようにすると ともに,例えば次のようなことが効果的に育てられるように適切な指導をする必要が ある。 ○学校生活を豊かで実りあるものにするという共通の目標に向かって,自らを律し, 協力し,信頼し,励まし合い,切磋琢磨し,喜びや苦労を分かち合うような人間関 係を築こうとする態度 ○学校への愛着,学校の一員としての自覚や仲間意識などの集団への所属感や連帯感 ○郷土の伝統や文化,地域社会の生活や人々と積極的にかかわり,自分の役割を自覚 し,自らを律するとともに,自己を生かし,協力しながら進んで役に立とうとする などの公共の精神 ○学校生活の充実と向上のため,互いの力を合わせ互いに役割や責任を果たし合おう とすることについて,児童自身が意識して努力するなど,自らが主体的に取り組む などの自主的,実践的な態度 --91/127-- -89- 2 学校行事の内容 学校行事の内容は,学習指導要領第6章の第2の〔学校行事〕「2 内容」で次の ように示している。 全校又は学年を単位として,学校生活に秩序と変化を与え,学校生活の充実と 発展に資する体験的な活動を行うこと。 この「体験的な活動」,あるいは「学校生活に秩序と変化を与え」とは,他の教育 活動では容易に得られない教育的価値を実現する内容としての学校行事の特質を述べ たものである。特に,学校行事における様々な感動体験の場は,子どもの心を育て, 自己の生き方の考えを深めるよい機会になるとともに,学級集団はもとより学年や全 校の集団を育成する上でも効果的な場となる。 また,この体験的な活動は,ともすると単調になりがちな学校生活に望ましい秩序 と変化を与えることから,年間を通して計画的に実施することによって,児童の学校 生活にリズムを与え,節目を付け,より生き生きとした生活を実現することになる。 「学校生活の充実と発展に資する」とは,児童に,他者と力を合わせて学校行事に 取り組ませることを通して,学校生活に満足感や充実感を味わわせることができるよ うな内容である。また,そのような児童の積極的な参加によって,結果として学校生 活がより豊かになるなど充実・発展することも期待される。 学校生活は,児童にとって魅力があり,楽しく充実したものでありたいが,そのた めに学校行事の果たす役割が大きい。また,学校行事は,特色ある学校づくりを進 め,よりよい校風をつくっていく上でも中心的な役割を果たしている。さらには,学 校行事に参加したことや学級又は学校の一員としての役割を果たしたことなどが,自 分への自信を高めたり,学校生活の楽しさや満足度に大きく貢献したりすることが多 い。このようなことを踏まえ,児童一人一人にとって魅力があり,やりがいのある学 校行事を展開するなどして,児童が学校生活の充実と発展に資する体験的な活動に積 極的に取り組むことができるようにすることが大切である。ここで示した「学校生活 の充実と発展」は,学校行事の内容だけで達成できるものではない。学校行事も他の --92/127-- -90- 教育活動と相まって小学校教育の目標の達成を目指すものである。したがって,学校 行事に他の教育活動における学習や経験などを総合的に取り入れ,その発展を図り, 効果的に展開されるようにする必要がある。また,日常の各教科,道徳,外国語活 動,総合的な学習の時間及び学校行事以外の特別活動などの学習を充実したものにす ることによって学校行事は成果を上げ,学校教育全体の調和を図り,真に学校生活を 豊かな実りあるものにするのである。 学習指導要領には,このような学校行事の内容に即して,すべての学年で取り組む べき次の五つの種類の内容を示している。 (1) 儀式的行事 ア 儀式的行事のねらいと内容 儀式的行事は,学習指導要領第6章の第2で,次のように示している。 学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい 生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。 儀式的行事のねらいは,次のように考えられる。 児童の学校生活に一つの転機を与え,児童が相互に祝い合い励まし合って喜びを 共にし,決意も新たに新しい生活への希望や意欲をもてるような動機付けを行い, 学校,社会,国家などへの所属感を深めるとともに, 厳 かな機会を通して集団の おごそ 場における規律,気品のある態度を育てる。 儀式的行事は,全校の児童及び教職員が一堂に会して行う教育活動であり,その 内容には,入学式,卒業式,始業式,終業式,修了式,開校記念に関する儀式,着 任式,離任式,朝会などが考えられる。 イ 実施上の留意点 (ア) 日常の学習成果を生かして,児童が積極的に参加できるようにするととも に,地域の実情に応じた十分な教育的な配慮の下に計画する。 (イ) 儀式的行事の教育効果は,児童の参加意欲とその儀式から受ける感銘の度合 いによって大きく左右される。したがって,いたずらに形式に流れたり,厳粛 な雰囲気を損なったりすることなく,各行事のねらいを明確にし,絶えず行事 の内容に工夫を加えることが望ましい。 (ウ) 入学式や卒業式など儀式的行事を行う場合には,学級活動などにおける指導 との関連を図って,それらの行事の意義が児童に理解できるようにする。 (エ) 入学式や卒業式などにおいては,国旗を掲揚し,国歌を斉唱することが必要 である。その取扱いについては,第3節「入学式や卒業式などにおける国旗及 び国歌の取扱い」を参照されたい。 --93/127-- -91- (オ) 儀式的行事のねらいから考えて,全校児童の参加が望ましいが,施設などの関 係でやむなく全員が参加できない場合には,少なくとも複数の学年の児童が参 加するように配慮することが望ましい。 (2) 文化的行事 ア 文化的行事のねらいと内容 文化的行事は,学習指導要領第6章の第2で,次のように示している。 平素の学習活動の成果を発表し,その向上の意欲を一層高めたり,文化や芸術 に親しんだりするような活動を行うこと。 文化的行事のねらいは,次のように考えられる。 児童が学校生活を楽しく豊かなものにするため,互いに努力を認めながら協力し て,美しいもの,よりよいものをつくり出し,互いに発表し合うことにより,自他 のよさを見付け合う喜びを感得するとともに,自己の成長を振り返り,自己を伸ば そうとする意欲をもてるようにする。また,文化や芸術に親しみ,美しいものや優 れたものに触れることによって豊かな情操を育てる。 文化的行事には,児童が各教科などにおける日ごろの学習の成果を総合的に発展 させ,発表し合い,互いに鑑賞する行事と,児童の手によらない作品や催し物を鑑 賞する行事とがある。前者には,学芸会,学習発表会,作品展示会,音楽会,読書 感想発表会,クラブ発表会などがあり,後者には,音楽鑑賞会,演劇鑑賞会,地域 の伝統文化等の鑑賞会などが考えられる。 イ 実施上の留意点 (ア) 言語力の育成の観点から,学芸会などで異年齢の児童が一堂に会して,互い に発表し合う活動を効果的に実施することが望ましい。その際,特定の児童だ けが参加,発表するのではなく,何らかの形で全員が参加しているという意識 がもてるようにする。 (イ) 児童の発表意欲を尊重し,自主的な活動を十分に認め,できるだけ自主的に 運営できるよう配慮する。そのためには,児童会活動などの組織を必要に応じ て活用するような運営が望ましい。 (ウ) 練習や準備に過大な時間をとり,児童に過重な負担をかけることのないよう に,練習,準備の在り方を工夫,改善するとともに,行事の年間指導計画を作 成する際にあらかじめ適切な時間を設定しておくようにする。 (エ) より質の高い芸術や文化などに触れる機会を設定して,児童の豊かな感性を 養うことができるよう配慮する。その際,内容に応じて保護者の参加を得て, --94/127-- -92- 親子などで鑑賞できるようにする工夫も考えられる。また,地域を理解し,郷 土への愛着を深める観点から,地域の伝統や文化に触れる機会を積極的に設定 するよう配慮する。 (3) 健康安全・体育的行事 ア 健康安全・体育的行事のねらいと内容 健康安全・体育的行事は,学習指導要領第6章の第2で,次のように示してい る。 心身の健全な発達や健康の保持増進などについての関心を高め,安全な行動や 規律ある集団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵養,体 かん 力の向上などに資するような活動を行うこと。 健康安全・体育的行事のねらいは,次のように考えられる。 児童自らが自己の発育や健康状態について関心をもち,心身の健康の保持増進に 努めるとともに,身の回りの危険を予測・回避し,安全な生活に対する理解を深 め,さらに,体育的な集団活動を通じて,心身ともに健全な生活の実践に必要な習 慣や態度を育成する。また,児童が運動に親しみ,楽しさを味わえるようにすると ともに体力の向上を図る。 健康安全・体育的行事には,健康診断や給食に関する意識を高めるなどの健康に 関する行事,避難訓練や交通安全,防犯等の安全に関する行事,運動会や球技大会 等の体育的な行事などが考えられる。 イ 実施上の留意点 (ア) 病気の予防など健康に関する行事については,学校や地域の実態に即して実 施し,できるだけ集中的,総合的,組織的に行われるよう配慮することが大切 である。また,学級活動における健康にかかわる指導や児童会活動,体育科の 保健の学習内容などとの関連を図るようにする。 (イ) 避難訓練など安全に関する行事については,表面的,形式的な指導に終わる ことなく,具体的な場面を想定するなど適切に行うことが必要である。特に, 交通安全指導や防犯指導については,新入学児に対して学年当初に日常の安全 な登下校ができるよう適切な指導を行うようにする。なお,遠足・集団宿泊的 行事における宿泊施設等からの避難の仕方や安全などについて適宜指導してお くことも大切である。 (ウ) 運動会などについては,実施に至るまでの指導の過程を大切にするととも に,体育科の学習内容と関連を図るなど時間の配当にも留意することが大切で ある。また,活発な身体活動をともなう行事の実施に当たっては,児童の健康 --95/127-- -93- や安全には特に留意し,教師間の協力体制を万全にし,事故防止に努める必要 がある。 (エ) 運動会においては,学校の特色や伝統を生かすことも大切である。ただし, 児童以外の参加種目を設ける場合は,運動会の教育的意義を損なわない範囲に とどめるよう配慮する。また,児童会などの組織を生かした運営を考慮し,児 童自身のものとして実施することが大切である。その場合,児童に過度の負担 を与えたり,過大な責任を負わせたりすることのないように配慮する。 (オ) 各種の競技会などの実施に当たっては,いたずらに勝負にこだわることな く,また,一部の児童の活動にならないように配慮することが必要である。 (4) 遠足・集団宿泊的行事 ア 遠足・集団宿泊的行事のねらいと内容 遠足・集団宿泊的行事は,学習指導要領第6章の第2で,次のように示してい る。 自然の中での集団宿泊活動などの平素と異なる生活環境にあって,見聞を広 め,自然や文化などに親しむとともに,人間関係などの集団生活の在り方や公衆 道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと。 遠足・集団宿泊的行事のねらいは,次のように考えられる。 校外の豊かな自然や文化に触れる体験を通して,学校における学習活動を充実発 展させる。また,校外における集団活動を通して,教師と児童,児童相互の人間的 な触れ合いを深め,楽しい思い出をつくる。さらに,集団生活を通して,基本的な 生活習慣や公衆道徳などについての体験を積み,互いを思いやり,共に協力し合っ たりするなどの人間関係を築く態度を育てる。 遠足・集団宿泊的行事には,遠足,修学旅行,野外活動,集団宿泊活動などが考 えられる。 特に,児童の発達の段階や人間関係の希薄化や自然体験の減少といった児童を取 り巻く状況の変化を踏まえると,小学校段階においては,自然の中での集団宿泊活 動を重点的に推進することが望まれる。 イ 実施上の留意点 (ア) 計画の作成に当たっては,児童の自主的な活動の場を十分に考慮し,児童の 意見をできるだけ取り入れた活動ができるようにする。 --96/127-- -94- (イ) あらかじめ,実地踏査を行い,現地の状況や安全の確認,所要時間などを把 握するとともに,それらに基づいて指導と準備をする。 (ウ) 実施に当たっては,地域社会の社会教育施設等を積極的に活用するなど工夫 し,十分に自然や文化などに触れられるよう配慮する。 (エ) 学級活動などにおいて,事前に,目的,日程,活動内容などについて指導を 十分に行い,児童の参加意欲を高めるとともに,保護者にも必要事項について 知らせておく。 (オ) 必要に応じて,事前に参加する児童の健康診断や健康相談を行い,個々の児 童の健康状態を把握しておく。 (カ) 宿泊を伴う行事を実施する場合は,通常の学校生活で行うことのできる教育 活動はできるだけ除き,その環境でしか実施できない教育活動を豊富に取り入 れるように工夫する。また,集団宿泊活動については,望ましい人間関係を築 く態度の形成などの教育的な意義が一層深まるとともに,高い教育効果が期待 されることなどから,学校の実態や児童の発達の段階を考慮しつつ,一定期間 (例えば1週間(5日間)程度)にわたって行うことが望まれる。その際,児 童相互のかかわりを深め,互いのことをより深く理解し,折り合いを付けるな どして人間関係などの諸問題を解決しながら,協調して生活することの大切さ が実感できるようにする。 (キ) 学校行事として実施する長期にわたって宿泊を伴う体験的な活動において は,目的地において,教科の内容にかかわる学習や探究的な活動が効果的に展 開できると期待される場合,教科等や総合的な学習の時間などの学習活動を含 む計画を立てるとともに,宿泊施設を活用した野外活動を盛り込むなどの工夫 をする。その際,それぞれの目標が十分に達成できるよう,事前・事後の活動 などの綿密な指導計画を作成する必要がある。 (ク) 事故防止のための万全な配慮をする。特に,安全への配慮から,小学校の段 階においては,活動する現地において集合や解散をすることは望ましくないこ とから十分に考慮すべきである。また,自然災害などの不測の事態に対して も,自校との連絡体制を整えるなど適切な対応ができるようにする(なお,計 画の実施に関しては,「小学校,中学校,高等学校等の遠足・修学旅行につい て」(昭和43年10月2日付け,文初中第450号 文部省初等中等教育局長通達), 「修学旅行における安全確保の徹底について」(昭和63年3月31日付け,文初高 第139号文部事務次官通達)などを参照すること。)。 --97/127-- -95- (5) 勤労生産・奉仕的行事 ア 勤労生産・奉仕的行事のねらいと内容 勤労生産・奉仕的行事は,学習指導要領第6章の2「内容」で,次のように示し ている。 勤労の尊さや生産の喜びを体得するとともに,ボランティア活動などの社会奉 仕の精神を養う体験が得られるような活動を行うこと。 勤労生産・奉仕的行事のねらいは,次のように考えられる。 学校内外の生活の中で,勤労生産やボランティア精神を養う体験的な活動を経験 することによって,勤労の価値や必要性を体得できるようにするとともに,自らを 豊かにし,進んで他に奉仕しようとする態度を育てる。 勤労生産・奉仕的行事には,飼育栽培活動,校内美化活動,地域社会の清掃活 動,公共施設等の清掃活動,福祉施設との交流活動などが考えられる。 イ 実施上の留意点 (ア) 学校や地域社会に奉仕し,公共のために役立つことや働くことの意義を理解 するなど,あらかじめ,児童が十分にその行事の教育的意義を理解し,進んで 活動できるように指導する。 (イ) 飼育や栽培の活動で収穫したものの扱いについては,生産の喜びを味わえる ような指導を配慮する。 (ウ) 勤労体験や学校外におけるボランティア活動などの実施に当たっては,児童 の発達の段階を考慮して計画し,実施することが望まれる。その際,児童の安 全に対する配慮を十分に行うようにする。 (エ) 一般的に行われている大掃除は,健康安全・体育的行事として取り上げられ る場合もあるが,特に勤労面を重視して行う場合は,勤労生産・奉仕的行事と して取り上げることも可能である。 (オ) 「勤労生産・奉仕的行事」については,総合的な学習の時間で,ボランティ ア活動や栽培活動を行うことによって代替することが考えられる。その際, 「勤労生産・奉仕的行事」が,「勤労の尊さ」と「生産の喜び」の両方を体得 する活動であることから,例えば,総合的な学習の時間における学習活動によ り生産の喜びを体得できない場合には,学校行事において「生産の喜び」を体 得する活動を別に行う必要がある。 --98/127-- -96- 3 学校行事の指導計画 各活動・学校行事の年間指導計画の作成については,学習指導要領第6章の第3の 1の(1)で次のように示している。 (1) 特別活動の全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画の作成に当たって は,学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達の段 階などを考慮し,児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする こと。また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導 との関連を図るとともに,家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活 用などを工夫すること。 学校行事の指導計画については,各種類の行事に示したことを踏まえ,特に次のよ うなことに配慮して年間指導計画を作成する必要がある。 (1) 学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達の段階などを 考慮する 学校行事は,各学校の創意工夫を生かしやすく,特色ある学校づくりを進める上で も有効な教育活動であるので,全校の教師が共通理解を深め,協力してよりよい計画 を生み出すようにする。具体的には,学校の教育目標や指導の重点,特色や伝統など から,行事の重点化を図るなど自校の実態に即した特色ある学校行事の指導計画を作 成することである。 例えば,学校の教育目標やその年度の指導の重点が「思いやりのある子どもの育 成」であれば,その具現化を図るために,各教科や道徳等における授業の改善や学校 生活全体での心の教育の充実とともに,道徳的実践の指導の充実を図る観点から勤労 生産・奉仕的行事の充実を図ることも考えられる。このことによって,「思いやりの ある子どもの育成」に向けて児童の平素の生活態度の向上の契機とすることが期待で きる。このように,学校行事の年間指導計画作成に当たっては,学校の教育目標の実 現を図る教育活動の一つとして十分に検討することが大切である。 学校行事においては,「学級や学校の実態を考慮する」とは,児童数や学級数の多 少,指導に当たる教師の人数や組織などの人的条件,講堂,体育館,運動場などの物 的条件などに配慮して指導計画を作成することである。 例えば,児童数の多い学校で,儀式的行事などを行う場合,全校児童を体育館に収 容するのが困難なことから,やむを得ず参加児童の範囲を限定して2回に分けて実施 --99/127-- -97- することも考えられる。また,児童数の少ない学校では,遠足・集団宿泊的行事など において,複数学年や他の学校と合同で行う場合も考えられる。 学校行事においては,「児童の発達の段階などを考慮する」ことも大切なことであ る。具体的には,該当する学年段階の児童の要求や関心を把握し,集団活動の発達的 な特質などを理解して指導計画を作成するということである。 学校行事は,全学年あるいは数個の学年の全児童が同時,同条件,一斉に活動する 場合が多い。このような場合,学年の異なる児童が共に活動するので児童の心身の発 達の特性を的確に把握し,画一的にならないようにすることが望まれる。そのために も,活動のねらいや参加の方法などは,児童の発達の段階に応じて考慮し,行事のね らいが無理なく達成できるようにすることが大切である。 (2) 児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする 学校行事の指導においても,児童が積極的に活動できるようにするため,事前・事 後の指導について十分に留意し,指導の効果を高めるように配慮する。その際,行事 の種類によって,児童の意見や希望も指導計画に反映させるとともに,児童の自主的 な活動も可能な限り行えるよう配慮し,児童が楽しく参加できるようにする。 具体的には,発達の段階や学校行事の内容によっても異なるが,できるだけ児童に 自主的な活動意欲をもたせるため,特に,児童会活動との関連を密にして,学校行事 の一部を児童が分担し,自主的にその運営に当たれるようにすることが望ましい。 しかし,児童の創造性や自主性を考慮するあまりに,学校行事と児童会の集会活動 とを混同しないように十分配慮する必要がある。 (3) 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導との関連を図る 学校行事においては,「各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの 指導との関連を図る」ことが大切である。具体的には,各教科等で身に付けた能力な どを,学校行事においてよりよく活用できるようにすることである。また,学校行事 で身に付けた自主的,実践的な態度などを各教科等の学習に生かすことである。 特に学校行事は,平素の教育活動の総合的な発展の場であるから,日常の教育活動 の成果が生かされるようにすることが大切である。したがって,学校行事の年間指導 計画も,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間,特別活動の他の内容な --100/127-- --100/127-- --100/127-- -98- どの年間指導計画と有機的に関連し合うように作成することが大切である。このよう な配慮によって,全体としての調和のとれた教育が展開されることになる。 (4) 家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを工夫する 学校行事においては,体験的な活動を効果的に展開するために,家庭や地域の協力 を得たり,社会教育施設を活用したりするなどの工夫をすることが大切である。 例えば,学校が地域社会と協力して教育効果を上げるためには,学校の教育につい て積極的に地域の人々に理解してもらう必要がある。そのため,文化的行事や健康安 全・体育的行事などを実施する場合には,地域社会の人々が参観しやすいように,期 日などを考慮して計画することも必要である。また,地域の伝統文化に触れる活動や 地域の行事と学校行事との関連を図って実施することも考えられる。 また,勤労生産・奉仕的行事などを実施する際には,保護者や地域の関係団体の協 力を得るなど地域の人々との連携を図ったり,家庭への積極的な参加を呼びかけたり しながら,児童の体験的活動を豊かなものとするように計画することも必要である。 さらに,学校行事の計画に当たっては,学校の所在する地域の特性を十分に考慮す ることが大切である。市街地で生活する児童の多い学校,地域の社会教育施設に近接 した学校,自然に恵まれた地域の学校など,学校の所在するそれぞれの地域の特性を 考慮する必要があり,このことによって,児童の望ましい成長,発達が期待できるの である。 (5) その他の配慮事項 ア 全教師により作成する 学校行事は,全校又は学年という大きな集団による教育活動である。したがっ て,その実施に当たっては,学校の全教師が行事の目標や指導の重点などを共通理 解し一体となって指導に当たらなくてはならないことから,全教師がかかわって年 間を見通した適切な年間指導計画を作成し,全教師の協力的な指導体制を確立し て,組織的に指導に当たる必要がある。 イ 指導計画に示す内容 学校行事は他の教育活動と異なり,全校又は学年の全児童が集団として活動する のであるから,その年間指導計画は,特に慎重な検討を経て立案する必要がある。 学校行事の年間指導計画には,次のような内容を示すことが考えられる。 ○各行事ごとのねらい ○五つの種類ごとの各行事を実施する時期と内容及び授業時数 --101/127-- -99- ○各教科等との関連 ○評価の観点 など なお,各行事ごとの指導計画については,その詳細をそれぞれ立案し,全教職員 の共通理解の下で実施されるようにする必要がある。 ウ 年間指導計画の見直し 学校行事を実施するに当たっては,毎年検討を加え,精選に努め改善を図るよう にし,特に教育的価値に富む行事については,より積極的に取り上げていくように することが望ましい。学校行事は,その学校の伝統を築く基になる教育活動である ので,急に大きく変更することは難しいものもある。しかし,惰性的に実施される 行事や児童の実態から遊離し,形式的なものとなって教育効果を十分に発揮してい ない行事なども少なからず見られる。したがって,各学校では,ねらいの明確化, 指導をする時数の見直し,行事間の関連を図ったり行事を統合したりするなど実施 の在り方を創意工夫する中で,精選を行うことも考えられる。 年間指導計画は,児童の実態や学校の事情などの諸条件が変化するにつれて,絶 えず修正され,現実の事態に即応するように見直し,改められなくてはならないも のである。特に学校行事の年間指導計画は,それぞれの行事が教育的価値を十分に 発揮し,教育効果を高めることができるように,弾力性,融通性に富むものである ことが望ましい。 なお,学校行事の中には,地域社会との密接な関連を考えて実施するものもあ り,地域社会との連携を密にして,児童の体験的な活動の充実を図っていくことが 望まれる。その際,学校全体の教育計画の観点から,その教育的価値を検討し,年 間指導計画作成の段階において,学校が主体的に判断して,教育活動全体の調和と 統一が失われることのないようにすることが大切である。 エ 時間の取り方 学校行事の授業時数等の取扱いについては,学習指導要領第1章総則第3の2に 次のように示している。 2 特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については, それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てる ものとする。 学校行事の時数については,各学校が教育的な見地から適切に定めることにな る。これは,学校行事の特質からみて,行事に充てる年間の時数を一律に示すこと は困難であり,各学校や地域社会の実態に即して重点化され,行事間の関連や統合 --102/127-- -100- を図って精選された適切な年間指導計画を作成して実施することが望ましいと考え られるからである。 そこで,各学校においては,各種類ごとに必要と考える行事を計画し,その実施 に要する時数を配当することになる。しかし,学校行事に充て得る年間の授業時数 にも限りがあることから,小学校における教育課程全体を見通して,適切な時数の 配当計画を立てることが重要である。 実際に学校行事に充て得る年間の授業時数は,まず年間の総授業時数を調べ,そ の予定時数と,各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動にお ける他の内容に充てる時数を考慮して決めることになる。各学校においては,これ までの学校行事の実施の経過を詳細に検討し,無理のない実施可能な時数の予定を 立てることが必要である。 なお,学校教育法施行規則第61条第1項ただし書きによって,休業日である国民 の祝日,日曜日及び休業日となる土曜日などにも授業を行うことができるようにな っており,必要に応じて日曜日などに学校行事を実施することも可能である。 4 学校行事の内容の取扱い (1) 学校行事の内容の取扱いに関する留意事項 学校行事の内容の取扱いについては,学習指導要領第6章第3の2の(4)で次のよ うに示している。 (4) 〔学校行事〕については,学校や地域及び児童の実態に応じて,各種類ご とに,行事及びその内容を重点化するとともに,行事間の関連や統合を図る など精選して実施すること。また,実施に当たっては,異年齢集団による交 流,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合い,自然体験や社会体験 などの体験活動を充実するとともに,体験活動を通して気付いたことなどを 振り返り,まとめたり,発表し合ったりするなどの活動を充実するよう工夫 すること。 各学校においては,学校行事の目標を達成するにふさわしい個々の行事を種類ごと に精選したり,それぞれの学校行事の教育的価値を検討し,各種類ごとに教育上必要 とされるものに精選したりするとともに,より充実した学校行事にするため行事間の 関連や統合を図るなど学校の創意工夫を生かして実施する必要がある。 ア 各種類ごとに,行事及びその内容を重点化するとともに,行事間の関連や統合 を図るなど精選して実施すること --103/127-- -101- 学校行事には,各種類ごとに多様な内容が含まれていることから,学校の方針 や学年の発達の段階に即して取り上げる内容を絞るなど重点化することが大切で ある。 例えば,文化的行事の例示として,学芸会,学習発表会,作品展示会,音楽 会,読書感想発表会,クラブ発表会,音楽鑑賞会,演劇鑑賞会,地域の伝統文化 等の鑑賞会などが示されているが,児童が各教科などにおける日ごろの学習の成 果を総合的に発展させ,発表し合い,互いに鑑賞する行事として学芸会を実施 し,児童の手によらない作品や催し物を鑑賞する行事として地域の伝統文化等の 鑑賞会を実施するなど,重点化することである。 学校行事における「行事間の関連を図る」とは,別々の学校行事を同じ時期に 実施するなど指導の関連を図り,より効果的,効率的に学校行事の目標を追求し ようとすることである。例えば,文化的行事として行った学習発表会の成果を生 かして,儀式的行事の離任式において,学習発表会で披露した児童の発表を披露 するなどの関連である。 学校行事における「行事間の統合」とは,別々の学校行事を一つの学校行事に 組み合わせて実施するなど,学校行事に充てる授業時数を精選し,より効果的, 効率的に目標を追求しようとすることである。 例えば,遠足・集団宿泊的行事において長期の集団宿泊活動を行う場合,登山 などを実施した際に勤労生産・奉仕的行事として清掃活動を行うなど,遠足・集 団宿泊的行事と勤労生産・奉仕的行事を統合して実施するなどである。 なお,その際,学習指導要領の勤労生産・奉仕的行事には,「勤労の尊さや生 産の喜びを体得するとともに,ボランティア活動などの社会奉仕の精神を養う体 験が得られるような活動を行うこと」と示されていることから,勤労の尊さを体 得する内容だけでなく生産の喜びを体得する内容の学校行事を別に実施する必要 があることに留意する必要がある。 イ 異年齢集団による交流,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合いを充 実すること 学校行事においては,「異年齢集団による交流」を充実することが求められ る。具体的には,複数の学年が一緒に参加する学校行事をより多く計画し,異年 齢の他者と望ましい人間関係を築く態度の形成を図ろうとすることである。例え ば,運動会や遠足,学芸会や大掃除などの行事を異年齢で実施することであり, 様々な学校行事における工夫が考えられる。 また,学校行事においては,「幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合 いを充実する」ことも求められる。具体的には,地域の幼児や高齢者,学校内外 --104/127-- -102- の障害のある人々などと触れ合う活動をより多く計画し,多様な人々との人間関 係を築く態度の形成を図ろうとすることである。例えば,学校行事として幼稚園 や保育所,介護施設,特別支援学級や学校などと交流を図ったり,集団宿泊活動 などにおいて,異年齢の児童が共に生活することができるようにするなどの工夫 である。 ウ 体験活動を通して気付いたことなどを振り返り,まとめたり,発表し合ったり するなどの活動を充実する 学校行事においては,特に,言語力の育成や体験したことからより多くのこと を体得させる観点から,「体験活動を通して気付いたことなどを振り返り,まと めたり,発表し合ったりするなどの活動を充実する」ことが求められる。その 際,その場限りの体験活動で終わらせることなく,事前にそのねらいや意義を児 童に十分に理解させ,活動についてあらかじめ調べたり,準備したりすることが できるようにするとともに,活動の節目や事後に,話す,聞く,読む,書く,な どの活動を効果的に取り入れることが求められる。例えば,集団宿泊活動の実施 にかかわって,感想文集にまとめたり,お世話になった方々に手紙を書いたり, 発表会をしたりすることが考えられる。 (2) その他の留意事項 ア 小学校6年間や各学年の1年間を見通した計画を立てることとし,特定の時期 に行事が集中することがないように配慮する。また,活動の内容については,多 過ぎたり,高度のものを求め過ぎたりして,児童の負担が過重にならないよう に,児童の発達の段階や行事の内容などについては十分留意する。 イ 学校行事は,平素の学習活動の成果を総合的に発展させる実践の場であるの で,計画の作成や実施に当たっては,それらとの関連を十分に考慮する必要があ る。なお,総合的な活動であるだけに,ややもすると,ねらいが不明確になりや すいので,個々の行事のねらいを明確に設定して実施することが必要である。 その際,児童一人一人が行事のねらいを明確につかみ,積極的に活動できるよ うにするため,事前・事後の指導についても十分に留意し,指導の効果を高める ように配慮する。 ウ 全校又は学年という大きな集団が一つのまとまりとして組織的に行動するとこ ろに教育的価値があり,その計画や指導に当たっては,体育科における集団行動 の指導との関連を十分に図る必要がある。 エ いずれの種類の行事においても,児童の健康と安全を図ることについて十分配 慮し,事故防止のために万全の計画を立て,不測の事態に対しても適切に対応し --105/127-- -103- 必要な処置がとれるようにする。 オ 幼児,高齢者,障害のある人々などと触れ合う行事を行う場合は,地域の関係 施設を活用したり,地域の関係諸団体との連携を図ったりして効果的に体験でき るようにする。なお,その場合には,十分に事前の打合せを行い,教育的な効果 が十分上がるように配慮する。 カ 学校行事の評価の観点や方法などについて,計画の段階から見通しを立ててお き,行事を効果的に実施するとともに,行事の改善につながるようにする。 --106/127-- -104- 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い 平成20年1月の中央教育審議会の答申において,特別活動の課題として,次のこと が示された。 ○ 特別活動の充実は学校生活の満足度や楽しさと深くかかわっているが,他 方,それらが子どもたちの資質や能力の育成に十分つながっていない状況も指 摘されている。 ○ 学校段階の接続の問題としては,小1プロブレム,中1ギャップなど集団へ の適応にかかわる問題が指摘されている。 ○ 情報化,都市化,少子高齢化などの社会状況の変化を背景に,生活体験の不 足や人間関係の希薄化,集団のために働く意欲や生活上の諸問題を話し合って 解決する力の不足,規範意識の低下などが顕著になっており,好ましい人間関 係を築けないことや,望ましい集団活動を通した社会性の育成が不十分な状況 も見られる。 ○ 特別活動について,全体の目標は示しているが,各内容ごとの目標は示して いない。このため,活動を通して何を育てるかが明確でないことや,総合的な 学習の時間などとの教育活動の重なりも指摘されている。 ○ 特別活動の中でも,その基盤的な役割を担う学級活動やホームルーム活動の 内容については,小学校では6年間を通じた活動内容をまとめて示しているた め,発達や学年の課題に対応した適切な活動が行われにくいとの指摘がある。 また,中学校及び高等学校では,内容が網羅的になっているため,重点を置き たい内容の指導に力が注ぎにくいとの指摘がある。 このことを踏まえ,特別活動を充実させることにより,児童にとっての学校生活を 楽しく豊かにするとともに,児童の資質や能力の育成に十分つながるようにするた め,以下に示すことに即して,学校として適切な指導計画や指導するための資料など の教材を作成し,指導方法を工夫するなどして各内容を取り扱う必要がある。 --107/127-- -105- 第1節 指導計画の作成に当たっての配慮事項 1 特別活動の全体計画と各活動・学校行事の年間指導計画の作成 特別活動の全体計画や年間指導計画の作成については,学習指導要領第6章の第3 の1の(1)で,次のように示している。 (1) 特別活動の全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画の作成に当たっ ては,学校の創意工夫を生かすとともに,学級や学校の実態や児童の発達 の段階などを考慮し,児童による自主的,実践的な活動が助長されるよう にすること。また,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間な どの指導との関連を図るとともに,家庭や地域の人々との連携,社会教育 施設等の活用などを工夫すること。 特別活動の目標は,特別活動の各活動・学校行事の実践的な活動を通して達成され るものであり,その指導計画は,学校の教育目標を達成する上でも重要な役割を果た している。したがって,調和のとれた特別活動の全体計画と各活動・学校行事の年間 指導計画を全教師の協力の下で作成することが大切である。 ここで示した「特別活動の全体計画」とは,特別活動の目標を調和的かつ効果的に 達成するために各学校が作成する,特別活動の全体の指導計画のことである。 このような特別活動の全体計画を作成する際には,全教師が指導に当たるため,全 教師の共通理解と協力体制が確立されるよう,例えば,各学校における特別活動の役 割などを明確にして重点目標を設定したり,各活動・学校行事の内容を示したりする ことが大切である。また,特別活動に充てる授業時数や設置する委員会,クラブや実 施する学校行事等を明らかにしておくことが大切である。さらに,児童の実態を十分 に把握するとともに,低・中・高学年などの発達の段階や特性を生かすようにし,教 師の適切な指導の下に,児童の自主的,実践的な活動が助長できるような全体計画を 作成することが求められる。 特別活動の全体計画に示す内容には,例えば,次のようなものが考えられる。 ○特別活動の重点目標 ○学校教育目標や指導の重点との関連 ○各教科,道徳(道徳の内容項目や道徳の重点),外国語活動及び総合的な学習の時 間などとの関連 ○学級活動,児童会活動,クラブ活動,学校行事の目標と指導の方針 ○特別活動に充てる授業時数や設置する委員会,クラブ,実施する学校行事 --108/127-- -106- ○学級活動の各内容に充てる授業時数 ○評価の観点 なお,教育課程には位置付けられていないが,教育的意義が大きく特別活動と関連 が深い朝の指導の時間,朝の会や帰りの会等の児童の活動などがあるが,これらとの 関連などについても,特別活動の全体計画に示しておくことも大切である。 この特別活動の全体計画に基づいて,学校や学年又は学級ごとなどに,指導目標, 指導内容,指導の順序,指導方法,使用教材,指導の時間配当,評価などを示したよ り具体的な指導計画が,「各活動・学校行事の年間指導計画」である。 (1) 学校の創意工夫を生かすこと 特別活動については,教科のように具体的な内容までは示されていないなどの弾力 性を積極的に生かし,各学校において特色ある指導計画を作成することが求められ る。例えば,学校の伝統や歴史,経営方針や重点目標,地域のよさや特性などを積極 的に生かして,特色ある学校行事の指導計画を作成する必要がある。 (2) 学級や学校の実態や児童の発達の段階などを考慮すること 学級活動については,特に学級の実態を考慮し,児童会活動やクラブ活動,学校行 事については,特に学校の実態を考慮する必要がある。考慮すべき学級の実態として は,人間関係や集団のまとまり,特別活動の経験の状況などがある。また,考慮すべ き学校の実態とは,児童数や学級数といった学校規模,指導に当たる教師の人数,組 織などの人的条件,施設設備などの物的条件などである。 また,「児童の発達の段階を考慮する」とは,人間としてそれぞれの時期に達成し ておくべき「発達課題」(16ページ参照),「学校生活における集団活動の発達的 な特質」(16〜20ページ参照),「発達の段階に即した指導のめやす(51〜56ペ ージ参照)」などの一般的な考え方や実際の学級の児童や集団の状況などを考慮して 指導計画を作成するということである。 例えば,特別活動が,集団の一員として,「なすことによって学ぶ」活動を通し て,自主的,実践的な態度を身に付ける活動であることから,児童がこれまでどのよ うな集団による実践的な活動をどれだけ経験してきているのか,学級や学校の諸問題 を自分たちで解決する力がどの程度育ってきているのかを把握し,それを特別活動の 全体計画や各活動・学校行事の年間指導計画に反映させるということである。 --109/127-- -107- (3) 児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにする 特別活動が育てようとする資質や能力のすべては,児童自らが考え,高めていくよ うな自主的,実践的な態度として育てる必要がある。また,特別活動の方法原理であ る「望ましい集団活動を通して」が,内容の特質に即して児童の自主的,実践的な活 動として活発に行われるようにすることが大切である。 また,特別活動は,集団活動を通して,児童が自発的,自主的,実践的に活動する とともに,様々な対象との体験的な触れ合いによって展開されるという特質をもって いる。児童がなすことによって学ぶ実践活動を,自発的,自主的に行うことは,いわ ば体験的な活動を,受動的でなく,能動的に行うことであることから,例えば,奉仕 や勤労の精神,活動の仕方などを積極的に身に付けることになる。 例えば,学級活動の「(1)学級や学校の生活づくり」や児童会活動,クラブ活動 は,児童の自発的,自治的な活動を特質とするものであるため,自発的,自治的な活 動を一層効果的に展開することが,自主的,実践的な活動を助長することになる。ま た,学級活動の「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」や学校行事において は,教師の指導が中心となるが,内容の特質に応じて,その計画や運営について,教 師の適切な指導の下で,児童の自主的,実践的な活動をできるだけ取り入れていくこ とが求められるのである。 特別活動は,このように児童の自主的,実践的な活動を重視し,育て伸ばしていく ことが中心的な目標であるが,一朝一夕に成果を上げられるものではない。また,学 校の一部の教師の努力で育つものでもない。このことから,学校の全教師が,指導計 画について共通理解を図るとともに,例えば,どのように児童の活動意欲を刺激し高 めることができるか,児童が積極的に問題を発見し活動するために配慮すべき事項は 何かなどについて,学校として明らかにし,学校全体で組織的に指導に当たることが 大切である。 なお,児童の自主的,実践的な態度を育てるに当たっては,児童の少々の失敗に直 ちに干渉したり,援助したりするのではなく,温かく見守り,期待し,個々の児童の 状況に即して適切に指導するなどして,自分たちで考え,自分たちで判断し,自分た ちで生活上の諸問題などを解決することができるような自主的,実践的な態度を育て るのである。特に,「なすことによって学ぶ」という方法原理を十分生かして,失敗 してもまた挑戦する,失敗の経験を生かす,経験から学んだことをさらに発展させる など,様々な集団活動を積み重ねる中で育てられるようにすることが大切なことであ る。 特別活動は,集団活動であるとともに,学級や学校の生活における実践的な活動で もある。したがって,特別活動の指導は,常に児童の実態を前提とし,現実の生活の --110/127-- --110/127-- -108- 問題を取り上げ,児童が学校生活の中で生かし,実践していけるような指導をしなけ ればならない。そういう意味で特別活動の指導は,教えて覚えさせる,知識として理 解させることにとどまらず,実践や体験を通して実感をもって体得できるようにする ことが大切である。 そのためには,まず,適切な活動の場とより多くの活動の機会を設けることが大切 である。児童の興味・関心を重んじながら,集団活動を通して人間形成を図るのが特 別活動である。 (4) 各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間などの指導との関連を図る 特別活動の指導に当たっては,各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間 などの指導との関連を図る必要がある。具体的には,各教科等で育成された能力が特 別活動で十分に活用できるようにするとともに,特別活動で培われた協力的で実践的 な態度が各教科等の学習に生かされるように関連を図ることになる。とりわけ,道徳 的実践の指導の充実が重視される特別活動においては,「自己の生き方についての考 えを深め」が道徳と特別活動のいずれの目標にも共通に示されていることを踏まえ, 積極的に道徳との関連を図る必要がある。 また,特別活動の体験活動と各教科,道徳,外国語活動及び総合的な学習の時間の 学習活動とのかかわりがある場合には,相互に関連させて展開するよう配慮すること が大切である。体験的な活動は全教育活動で配慮することが必要であるが,特に,特 別活動,生活科及び総合的な学習の時間の学習活動のいずれにおいても自然体験や社 会体験を充実し,自己の生き方についての考えを深めることが求められていることか らも,各学校が学校や地域の実態を生かして両者の関連に十分配慮する必要があろ う。そのことによって,それぞれのねらいが一層生かされ,特色ある教育活動づくり が推進されることにもなる。 これらのことを踏まえ,各学校が教育目標の具現化に向けて,特別活動と各教科, 道徳,外国語活動,総合的な学習の時間,生徒指導などとの関連を図った独自の全体 計画を作成するためには,学校の実態を十分に考慮した特別活動として何を重視すべ きかなど重点目標を定め,それぞれの役割を明確にしておく必要がある。 そのほか,特別活動で培われた望ましい人間関係が外国語活動におけるコミュニケ ーション活動に生かされることなどを十分に理解した上で,特別活動の全体計画や年 間指導計画を作成することも大切である。 --111/127-- -109- (5) 家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを工夫する 特別活動については,「家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを 工夫する」ことが大切である。そのため,児童の手によって,よりよい学級や学校の 生活づくりをする特別活動において,家庭や地域など実生活や実社会との関連を一層 深め,よりやりがいのある活動にするために工夫をすることが大切である。 特別活動においては,我が国の伝統と文化を尊重する態度を育成することや,自然 との触れ合い,奉仕や勤労の精神の涵養などにかかわる体験的な活動を一層重視する かん ことが求められている。したがって,特別活動の計画に当たっては,これらの点につ いて留意し,特別活動の各内容の特質に応じて,地域の文化や伝統,地域の人々や自 然との触れ合い,奉仕や勤労の精神の涵養などにかかわる活動などを取り上げるよう かん にすることが大切である。 また,児童の興味・関心を踏まえて計画的に実施するクラブ活動においては,学校 週5日制の趣旨を踏まえ,地域の活動との関連や高齢者などとの交流を図るなど様々 な工夫が考えられるであろう。さらに,学校行事については,ボランティア精神を養 う活動を充実するとともに,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合い,自然 体験や社会体験などを積極的に取り上げるようにすることが求められる。特に,特別 活動は,教師と児童及び児童相互の人間的な触れ合いを基盤とする教育活動であるこ とから,各種の活動の機会をとらえて,幼児や高齢者,障害のある人々や外国の人々 など多様な人々へと交流を広げるようにするとともに,誰とでも温かい人間的な触れ 合いができるようにすることなどに配慮するなどして指導計画を作成することが大切 である。その際,各学校においては,地域や学校の実態に即し,学校の特色を生かし て創意工夫を十分発揮して計画することが必要になる。 さらに,社会教育施設の活用については,青少年自然の家,公民館や公立図書館, 資料館や博物館,美術館,科学館,音楽ホールなど地域の実態に応じて積極的に活用 していくことが求められる。 (6) 特別活動の授業時数 特別活動に充てる授業時数については,学校教育法施行規則第51条別表第1に示さ れているが,学習指導要領第1章総則の第3において,次のように示している。 --112/127-- -110- 1 各教科,道徳,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動(以下「各教 科等」という。ただし,1及び3において,特別活動については学級活動(学 校給食に係るものを除く。)に限る。)の授業は,年間35週(第1学年について は34週)以上にわたって行うよう計画し,週当たりの授業時数が児童の負担過 重にならないようにするものとする。ただし,各教科等や学習活動の特質に応 じ効果的な場合には,夏季,冬季,学年末等の休業日の期間に授業日を設定す る場合を含め,これらの授業を特定の期間に行うことができる。なお,給食, 休憩などの時間については,学校において工夫を加え,適切に定めるものとす る。 2 特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については, それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てる ものとする。 各学校においては,これらの規定に基づいて,学校や児童などの実態を考慮し,学 級活動以外の特別活動の授業時数を配当することになる。実際には,年間の授業に充 て得る総授業時数から各教科等別に示された時数を除いた中から配当することとな る。具体的には,本解説の第3章において〔児童会活動〕,〔クラブ活動〕,〔学校 行事〕について示していることを踏まえ,それぞれの目標やねらいが十分に達成でき るようによく検討した上で年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てるな どして,全体計画を作成することとする。 2 自ら現在及び将来の生き方を考えることができるようにすること 〔学級活動〕などの指導計画の作成について,学習指導要領第6章の第3の1の (2)で,次のように示している。 (2) 〔学級活動〕などにおいて,児童が自ら現在及び将来の生き方を考えるこ とができるよう工夫すること。 「児童が自ら現在及び将来の生き方を考えることができるよう工夫する」とは,児 童が〔学級活動〕などの集団活動を通して自己をみつめ,自己のよさや可能性などを 発見し,目標や希望をもって自らの将来についての自己の生き方や現在の生活の在り 方などについて考えることができるように工夫することである。 --113/127-- -111- 学級活動においては,児童が自らの生活や現在及び将来に夢や希望をもち目標に向 かって生きようとする意欲や態度を育てるようにすることが大切である。例えば,日 常の生活や学習について,目標をもって取り組めるような指導をしたり,よりよい学 級や学校の生活づくりのために,自分の役割や責任を果たしたり,友達と仲よく係活 動や当番活動に取り組んだりすることができるようにしたりする指導を重視すること などが考えられる。 児童会活動においては,児童が自分の役割や責任を自覚して取り組み,役に立つ喜 びを味わうように工夫するなど,様々な役割や立場を実践的に学ぶ場としていくこと が大切である。 クラブ活動においては,児童が異年齢の人間関係の中で,自己の興味・関心を追求 することによって活動意欲を高め,自己のよさや可能性を発見する場となるよう工夫 することが大切である。 学校行事においては,児童が事前にねらいや体験活動の意義を十分に理解し,意欲 をもって活動できるようにするとともに,事後に感じたり気付いたりしたことを自己 と対話しながら振り返り,児童が自己の生き方についての考えを深められるように工 夫することが大切である。 指導に当たっては,特に入学時や学年始め・学期始めや学年末・学期末における学 校生活への適応に関する指導,卒業時の中学校進学に向けての指導等において,児童 の不安を解消し,発達の段階に応じて児童が希望や目標をもち,当面の生活や学習及 び将来の生き方について考え,自己を生かそうとする生活態度を育てるような指導を 工夫していく必要がある。また,道徳の時間などとの関連を図りながら,学年や時期 を考慮して効果的な指導ができるようにすることも大切である。 3 クラブ活動の計画と実施 学習指導要領第6章の第3の1の(3)で,次のように示している。 (3) 〔クラブ活動〕については,学校や地域の実態等を考慮しつつ児童の興味 ・関心を踏まえて計画し実施できるようにすること。 クラブ活動の計画と実施については,解説の第3章第3節3において,学校や地域 の実態等を考慮し児童の興味・関心を踏まえることとしている。各学校においては, 児童にとって,クラブ活動が学校生活において楽しい時間であることを十分に受け止 --114/127-- -112- め,児童にとってより楽しいクラブ活動が実施できるよう工夫する必要がある。 クラブ活動の外部講師については,地域との連携を大切にする観点から,地域の人 々をクラブ活動の指導者として招くことは望ましいことであるが,その際,クラブ活 動が児童の自発的,自治的な活動であることの趣旨を十分に理解してもらうなど,児 童の話合いによって作成された活動計画に沿って自主的,実践的に活動が展開できる よう配慮する必要がある。 4 道徳の時間などとの関連 学習指導要領第6章の第3の1の(4)で,次のように示している。 (4) 第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づ き,道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容 について,特別活動の特質に応じて適切な指導をすること。 道徳の時間などとの関連については,解説の第2章第2節4の(2)に示したよう に,特別活動における道徳性の育成を目指して,道徳教育の内容との関連を考慮しな がら指導計画を作成することが大切である。特に,特別活動の「望ましい集団活動に よる児童の自主的,実践的な活動」の特質を生かし,道徳的実践の指導の充実を図る ようにすることが必要である。 --115/127-- -113- 第2節 内容の取扱いについての配慮事項 1 学級活動,児童会活動,クラブ活動の取扱い 学習指導要領第6章の第3の2の(1) には,次のように示している。 (1) 〔学級活動〕,〔児童会活動〕及び〔クラブ活動〕の指導については,指 導内容の特質に応じて,教師の適切な指導の下に,児童の自発的,自治的な 活動が効果的に展開されるようにするとともに,内容相互の関連を図るよう 工夫すること。また,よりよい生活を築くために集団としての意見をまとめ るなどの話合い活動や自分たちできまりをつくって守る活動,人間関係を形 成する力を養う活動などを充実するよう工夫すること。 (1) 指導内容の特質に応じて,教師の適切な指導の下に,児童の自発的,自治的な活 動を効果的に展開するとともに,内容相互の関連を図るよう工夫する ここで示している「指導内容の特質に応じて」とは,教師の適切な指導の下に行わ れる児童の自発的,自治的な活動を特質とする内容と,教師の指導を中心とした児童 の自主的,実践的な活動を特質とする内容を区別して指導することを示したものであ る。児童の自発的,自治的な活動を特質としている内容は,学級活動の「(1)学級や 学校の生活づくり」,児童会活動,クラブ活動である。また,教師の指導を中心とし た児童の実践的活動を特質とする内容は,学級活動の「(2)日常の生活や学習への適 応及び健康安全」と学校行事である。したがって,ここで示した「教師の適切な指導 の下に,児童の自発的,自治的な活動が効果的に展開されるようにするとともに,内 容相互の関連を図るよう工夫する」とは,学級活動の「(1)学級や学校の生活づく り」と児童会活動とクラブ活動の指導を関連させることの重要性を示しているもので ある。 自発的,自治的な活動は,特別活動固有の特質であり,なかでも学級活動の, 「(1)学級や学校の生活づくり」は,特別活動の中心的な活動である。このことを理 解するとともに,特に学級会の指導が充実するように努める必要がある。 なお,児童の自発的,自治的な活動を助長する指導に当たっては,「教師の適切な 指導の下に」であることを正しく理解し,放任に陥ったり,一方的な指導になったり --116/127-- -114- することがないように配慮する必要がある。この指導については,例えば,自分の所 属する学級やクラブ,委員会などの活動において,各自が集団の一員としての役割を 担い,その責任を果たせるようにすることが大切である。また,よりよい学級や学校 の生活をつくるために,諸問題を見いだし,話合いを通して解決できるように指導す ることが大切である。 特別活動は,学級活動,児童会活動,クラブ活動及び学校行事からなり,その上, 各内容は,それぞれの特質をもち,多様である。しかも,小学校は,第1学年から第 6学年にわたる発達の段階や特性が異なる多学年の集団から成り立っている。 このため,特別活動の内容については,学校の実態や児童の発達の段階などについ て考慮し,内容を精選したり,重点化を図ったりして全体計画,各内容や各学年の年 間指導計画を作成する必要がある。 例えば,学級活動は,「(1)学級や学校の生活づくり」及び活動内容「(2)日常の生 活や学習への適応及び健康安全」のように,それぞれ異なる特質をもつ内容で構成さ れている。 そこで,それぞれの特質を生かし,かつ,学級活動全体の調和を図りながら,年間 指導計画を作成し実施することになるが,「(1)学級や学校の生活づくり」を重視す るためには,「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の内容について関連, 統合を図るなど指導内容を精選し,全体として学級活動の指導の重点化を図ることが 必要になる。学習指導要領第6章第3の2の(2)で「〔学級活動〕については,学 級,学校及び児童の実態,学級集団の育成上の課題や発達の課題及び第3章道徳の第 3の1の(3)に示す道徳教育の重点などを踏まえ,各学年段階において取り上げる指 導内容の重点化を図る」としているのはそのためである。その際,日常の生徒指導を 充実するなどの関連を図って重点化することが重要になる。 学校行事についても,各学校が取り上げる活動について地域や学校の実態に応じて 重点化に努め,行事間の関連や統合を図って精選することが求められている。 また,学習指導要領第6章第3の2の(1)で,学級活動,児童会活動及びクラブ活 動の指導については,指導内容の特質に応じて,内容相互の関連を図るよう工夫する こととしているが,学校行事との関係においても活動内容によっては児童の自主的な 活動との関連を工夫することも考えられる。 このように,特別活動の全体計画に基づいて内容相互の関連を図り,適切に実施さ れることが大切である。 --117/127-- -115- (2) よりよい生活を築くために集団としての意見をまとめるなどの話合い活動を充実 する 話合い活動は,学級活動の「(1)学級や学校の生活づくり」や,児童会活動の「児 童会の計画や運営」,クラブ活動の「クラブの計画や運営」において中心となる活動 である。 これらの話合い活動では,生活上の諸問題を話合いで解決したり,進んで自分の考 えを表現したり,意見の異なる人を説得したり,協同的に議論して他者の思いや願い などを理解して集団としての意見をまとめたり,よりよい人間関係を構築しながら生 活しようとしたりする資質や態度の育成が求められる。そのためには,次のような指 導を発達の段階に応じて行うことが大切である。 ア 理由を明確にして,自分の言葉で思いや考えを話すことができるようにする。 イ だれの話でも,相手の立場に立って真剣に聞くことができるようにする。 ウ 互いの意見や考えの相違点を理解し合えるようにする。 エ 互いの思いや気持ちを察し合い,そのよさを理解し合えるようにする。 オ 異なる意見について,説得したり,互いの意見のよさを生かしたり,折り合い を付けたりして集団としての意見をまとめることができるようにする。 カ 自分が賛成していないことに決まっても,集団決定したことについて,気持ち よく従い,協力できるようにするとともに,互いの気持ちを推し量った言動がで きるようにする。 (3) 自分たちできまりをつくって守る活動を充実すること 児童がつくるきまりは,よりよい学級や学校生活づくりを目指してつくられるもの であり,児童の自発的,自治的な活動の範囲内の児童に任すことが適当なきまりであ る。また,このようなきまりは,教師が先導してつくるようなものではない。 具体的には,学級のボールを仲よく使うためのきまりや学級文庫を気持ちよく利用 するためのきまり,休み時間に低学年も楽しく遊べるようなきまり,教師が定めたき まりの範囲内で児童たちの側からつくるきまりなど,学級や学校の生活を楽しく豊か に過ごすためのきまりなどである。これらのきまりは,児童の話合いによってつくら れる。 このとき教師は,特定の児童が非難されたり,一部の児童に有利なきまりが決定さ れたりすることがないようにするとともに,集団における自由な意見交換が助長され るよう指導しなければならない。 また,自分たちでつくったきまりを守る活動に取り組ませる場合は,きまりを守る --118/127-- -116- ことの大切さや,様々な理由できまりを守れない状況が生まれる場合もあること,そ れを温かく認めることも時には必要であることにも気付くことができるようにしてい くことが大切である。 このような活動を大切にすることは,規範意識を確立したり民主主義における法や きまりの意義を理解したりすることにもつながる。 (4) 人間関係を形成する力を養う活動を充実すること 児童相互の心理的結び付きは,同じ目的に向かって協力したり達成感を共有したり するときに強くなる。具体的には,学級や学校生活の向上を目指した活動目標や,そ の目標を達成するための方法や手段を全員で考えたり,役割を分担して実践したり, 実践の過程で互いのよさに気付いたりすることによって望ましい人間関係は形成され る。このようなことから,教師は,日ごろから学習活動や集団活動を通して友達のよ さに着目させたり,学級活動の授業として取り上げたりして,それらに積極的に目を 向けようとする態度を育成することが大切である。 また,児童会活動やクラブ活動,学校行事などにおけるそれぞれの集団や集団活動 の特質に即して,他者とのかかわり方などに関する自己の生き方についての考えを深 めたり,自己を生かす能力を養ったりすることが大切である。 発達の段階に即した人間関係を形成する力については,学級活動の内容に示した 〔第1学年及び第2学年〕の「仲良く助け合い」や〔第3学年及び第4学年〕「協力 し合って」,〔第5学年及び第6学年〕「信頼し支え合って」を目指して指導するこ とが求められる。具体的には,特別活動における実践活動や体験的な活動を通して, 例えば次に示したようなことについての考えを深め,望ましい認識をもてるようにす るとともに,その大切さを児童自身が実感できるようにし,実際の集団活動の中で実 践できるようにすることが考えられる。 ○ 低学年においては,学級生活を楽しくするために,うそをつかないこと,約束を 守ること,人が嫌がることを言ったりやったりしないこと,どの児童とも仲良くす ること,けんかをしたらあやまるなどして仲直りをすること,どの児童の考えもよ く聞くこと,困っている人に親切にしたり,声をかけたりすることなど助けるこ と。 ○ 中学年においては,楽しい学級生活をつくるために,相手のことを思いやって話 し合ったり言動したりすること,時には自分の考えを通すのではなくがまんをする こと,誰にでもよいところがあり,それらを認め合い,力を合わせたり協力し合っ たりしてよりよい生活を築くこと,暴力でなく言葉で解決すること。 ○ 高学年においては,楽しく豊かな学校生活をつくるために,男女など互いのよさ を認め合ったり生かし合ったりするなど支え合うこと,誰に対しても差別や偏見を --119/127-- -117- もつことなく,相手の立場に立って考えたり行動したりすること,多様な意見を大 切にして話し合うこと,幼児や高齢者など相手に応じたふさわしい言動をしてより よい関係をつくること,マナーを守って集団生活をすること。 その際,例えば,次のような活動を一層重視することが大切である。 ○ 学級や学校の生活上の諸問題について,言葉や話合いを通して解決するための学 級会や楽しい学級生活をつくる係活動や集会活動 ○ 協同の目標の実現を目指して,同年齢で協力して行う学級における様々な集団活 動 ○ 世話をしたり,世話をされたりするような異年齢による交流活動 ○ 児童会活動やクラブ活動,学校行事などにおいて,地域の人々と,触れ合ったり 会議をしたりする活動や,あいさつや言葉遣い,正しい敬語などを活用してコミュ ニケーションを図るような交流活動 なお,特別活動の各内容の特質に応じて,例えば,「意図的にあるグループ作業を 行わせ,ここで感じたことなどを率直に話し合うことにより人間関係を形成するため に大切なことを理解させる手法」や「人間関係を形成するための基本的な知識や方法 などについて,ロールプレイングやグループで練習をするような手法」を,効果的に 取り上げることも考えられる。その際,このような手法を学級活動の「(2)日常の生 活や学習への適応及び健康安全」の「(ウ)望ましい人間関係の形成」の授業において 活用する場合は,日常の生活と関連付けながら,集団での話合いを通して,個人の目 標を自己決定し,個人で実践するなどの指導方法の特質を十分に踏まえて活用する必 要がある。 なお,このような手法については,朝や帰りの会,学校行事等の様々な機会を効果 的に活用するなどして,学級活動においてその他の内容の指導に充てる授業時数との バランスを欠くことがないよう留意する必要がある。 2 学級活動の取扱い 学習指導要領第6章の第3の2の(2)では次のように示している。 (2) 〔学級活動〕については,学級,学校及び児童の実態,学級集団の育成上 の課題や発達の課題及び第3章道徳の第3の1の(3)に示す道徳教育の重点な どを踏まえ,各学年段階において取り上げる指導内容の重点化を図るととも に,必要に応じて,内容間の関連や統合を図ったり,他の内容を加えたりす ることができること。また,学級経営の充実を図り,個々の児童についての 理解を深め,児童との信頼関係を基礎に指導を行うとともに,生徒指導との --120/127-- --120/127-- -118- 関連を図るようにすること。 学級活動については,ここに示したことについて,本解説の第2章第2節の1の (3)や第3章第1節の3の(2)を踏まえて取り扱うこと。 なお,特に,他の教科等の学習において行うべき話合いを特別活動の話合い活動に おいて行うことがないよう区別して取り扱うようにすること。 また,学習指導要領第1章総則第4の2の(3)で,「日ごろから学級経営の充実を 図り,教師と児童の信頼関係及び児童相互の好ましい人間関係を育てるとともに児童 理解を深め,生徒指導の充実を図ること。」と示し,学級経営の充実に努めることの 重要性について強調している。特別活動の目標の達成を目指し各内容の特質を生かし た指導を充実するには,教師個々の学級経営及び教師が互いに協力し合う学年経営の 充実が不可欠である。 学級経営は,その担任教師が学校の教育目標や学級の実態等を踏まえて作成した学 級経営の目標・方針に即して,必要な諸条件の整備を行い運営・展開されるものであ る。学年経営は,学年主任を中心にして各学年の教師の学級経営の実態や教師の個性 を生かしながら調和的に進められるものである。 したがって,学級経営と学年経営は相互に補完し合い,高め合っていく関係にある ことから,教師が互いの役割や考えを尊重し協力し合うことが大切である。 特に,特別活動の基盤である学級活動が,学級を単位として,学級や学校の生活の 充実と向上を図り,健全な生活態度の育成に資する活動を行うことであることから, 学級担任の教師の学級経営の在り方が児童の健全な生活態度の育成に大きくかかわっ てくる。 なお,このことと関連して学年経営の充実については,児童会活動,クラブ活動, 学校行事における児童の意欲的・自主的な活動をより一層促すものでもある。また, 全教師で特別活動の指導をしていく学校体制づくりの基盤となるものでもある。 次の事項にも留意して,特別活動の充実に資する学年・学級経営を工夫することが 大切である。 ○ 児童が自発的,自治的に活動できるように,学級の教室環境や学校の施設等を有 効に生かすよう工夫することが必要である。例えば,児童が自分たちで自由に運営 する学級活動コーナーや活動の事実等の作品を展示する場所を設けるなどが考えら れる。 ○ 例えば,学級活動の「(2)日常の生活や学習への適応及び健康安全」の指導につ いては,学校としての指導計画に基づき,指導の時期,指導方法,指導資料の作成 等において,同学年の教師が協力し合って,効果的な指導が行われるよう学年の協 --121/127-- -119- 力体制を工夫することが大切である。 ○ 近年,少子化に伴う学校の小規模化により,単学級あるいは2学級といった学年 が増えつつある。したがって,同じ学年同士または近接の学年が互いに協力し合っ て児童の活動状況を多様な視点で見つめるよう指導を工夫することが大切である。 ○ また,学校全体として,学校の実態に即した学年・学級経営や校務分掌等を見直 すなど,学校の指導組織の体制を改善・工夫することなども大切である。さらに, 特別活動を展開していく上で,生徒指導の充実は不可欠である。しかし,特別活動 は様々な集団活動の形態があり,一人の教師の児童理解には限界がある。児童一人 一人について具体的に理解する資料を得て,適切に生徒指導を進め,特別活動の目 標を達成するには,学校の全教師の協力体制が重要である。 本解説の第2章第4の(5)などの生徒指導にかかわる事項を踏まえるとともに, 以下の観点から生徒指導の充実を図り,そのための協力体制を工夫することが必要 である。 ○ 特別活動が児童の個性の伸長と調和のとれた豊かな人間性を育成することを目指 していることから,児童の学級・学校生活の基盤づくりとしての役割を果たしてい ることを理解する必要がある。その上で,望ましい人間関係の醸成,基本的なモラ ルや社会生活上のルールの習得,希望や目標をもって生きる態度の形成,基本的な 生活習慣の形成などの視点を一層重視し,教師相互の共通理解を図り,各内容の指 導計画を作成し,活動を展開していく必要がある。 ○ 特別活動の指導の全体を通して,教師と児童及び児童相互が温かい人間関係と信 頼感で支えられるよう教育相談的な指導観を教師個々がもつことが大切である。特 に,児童の活動意欲を十分に受け入れ,児童が自主的に活動を展開していくよう活 動の具体的な場面において支援することが大切である。 ○ 特に,学級活動の指導に当たっては,「児童の学校生活の居場所としての学級」 という考えを重視し,児童一人一人が自らよりよい生活を過ごせるよう援助する必 要がある。とりわけ,児童が自らの夢や希望をもって目標に向かって生きようとす る意欲や態度を育てるようにすることが大切である。 ○ また,入学時や学年始め・学期始めや学年末・学期末における学校生活への適応 に関する指導,卒業時の中学校進学に向けての指導等においても,児童の不安を解 消し,発達の段階に応じて児童が希望や目標をもち,当面の生活や学習及び将来の 生き方についても考えることができるような指導を工夫していく必要がある。 --122/127-- -120- 3 児童会活動の取扱い 学習指導要領第6章の第3の2の(3)には,次のように示している。 (3) 〔児童会活動〕の運営は,主として高学年の児童が行うこと。 児童会活動の運営については,本解説の第3章第2節に示していることを踏まえ, 学校の実態に応じて適切に取り扱うこと。 4 学校行事の取扱い 学習指導要領第6章の第3の2の(4)には,次のように示している。 (4) 〔学校行事〕については,学校や地域及び児童の実態に応じて,各種類ご とに,行事及びその内容を重点化するとともに,行事間の関連や統合を図る など精選して実施すること。また,実施に当たっては,異年齢集団による交 流,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合い,自然体験や社会体験 などの体験活動を充実するとともに,体験活動を通して気付いたことなどを 振り返り,まとめたり,発表し合ったりするなどの活動を充実するよう工夫 すること。 学校行事においては,ここに示したことを踏まえ,本解説の第3章第4節に基づい て適切に取り扱うこと。 --123/127-- -121- 第3節 入学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の取扱い このことについて小学校学習指導要領第6章の第3の3では,次のように示して いる。 3 入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するととも に,国歌を斉唱するよう指導するものとする。 国際化の進展に伴い,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるととも に,児童が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していく ためには,国旗及び国歌に対して一層正しい認識をもたせ,それらを尊重する態度を 育てることは重要なことである。 学校において行われる行事には,様々なものがあるが,この中で,入学式や卒業式 は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気の中で,新しい 生活の展開への動機付けを行い,学校,社会,国家など集団への所属感を深める上で よい機会となるものである。このような意義を踏まえ,入学式や卒業式においては, 「国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」こととしてい る。 入学式や卒業式のほかに,全校の児童及び教職員が一堂に会して行う行事として は,始業式,終業式,運動会,開校記念日に関する儀式などがあるが,これらの行事 のねらいや実施方法は学校により様々である。したがって,どのような行事に国旗の 掲揚,国歌の斉唱指導を行うかについては,各学校がその実施する行事の意義を踏ま えて判断するのが適当である。 国旗及び国歌の指導については,社会科において,「我が国の国旗と国歌の意義を 理解させ,これを尊重する態度を育てるとともに,諸外国の国旗と国歌も同様に尊重 する態度を育てるよう配慮すること」等としているとともに,音楽科において,「国 歌「君が代」は,いずれの学年においても歌えるよう指導すること」としている。 入学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の指導に当たっては,このような社会科 や音楽科における指導などとの関連を図り,国旗及び国歌に対する正しい認識をもた せ,それらを尊重する態度を育てることが大切である。 --124/127-- -122- 第4節 特別活動における評価 評価については,第1章総則第4の2の(11)で次のように示している。 (11) 児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに,指導の過 程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにする こと。 このことは,個性の伸長を目指し,実践的な活動を特質とする特別活動において, 特に配慮すべきことであり,指導計画の作成,計画に基づく活動,活動後の反省とい う一連の過程のそれぞれの段階で評価する必要がある。 特別活動の評価において,最も大切なことは,児童一人一人のよさや可能性を積極 的に認めるようにするとともに,自ら学び自ら考える力や,自らを律しつつ他人とと もに協調できる豊かな人間性や社会性など生きる力を育成するという視点から評価を 進めていくということである。そのためには,児童が自己の活動を振り返り,新たな 目標や課題をもてるような評価を進めるため,活動の結果だけでなく活動の過程にお ける児童の努力や意欲などを積極的に認めたり,児童のよさを多面的・総合的に評価 したりすることが大切である。その際,集団活動や自らの実践のよさを知り,自信を 深め,課題を見いだし,それらを自らの実践の向上に生かすなど,児童の活動意欲を 喚起する評価にするよう,児童自身の自己評価や集団の成員相互による評価などの方 法について,一層工夫することが求められる。 また,評価については,指導の改善に生かすという視点を重視することが重要であ る。評価を通じて教師が指導の過程や方法について反省し,より効果的な指導が行え るような工夫や改善を図っていくことが大切である。 特に,集団活動を特質とする特別活動においては,児童一人一人の評価のみなら ず,集団の発達や変容についての評価が重要である。とりわけ,学級活動について は,学級集団の育成上の課題や発達の課題を踏まえて指導することを重視しているた め,学級集団の育成の状況について評価したり,発達の課題についての状況を評価し たりするとともに,この評価の結果を適切に指導に生かすことが重要である。 また,特別活動の評価に当たっては,各活動・学校行事について具体的な評価の観 点を設定し,評価の場や時期,方法を明らかにする必要がある。その際,特に活動過 程についての評価を大切にするとともに,児童会活動やクラブ活動,学校行事におけ --125/127-- -123- る児童の姿を学級担任以外の教師とも共通理解を図って適切に評価できるようにする ことが大切である。 --126/127-- 小学校学習指導要領解説特別活動編作成協力者(五十音順) (職名は平成20年6月末日現在) 猪 股 亮 文 宮城県仙台市教育委員会主任指導主事 今 村 信 哉 埼玉県さいたま市立蓮沼小学校長 遠 藤 忠 宇都宮大学教授 木 村 孝 之 埼玉県菖蒲町立三箇小学校教諭 銀 杏 陽 子 東京都世田谷区立上北沢小学校長 小 泉 雅 彦 徳島県北島町立北島南小学校教頭 児 島 邦 宏 帝京大学教授 渋 谷 修 造 埼玉県鷲宮町立桜田小学校教頭 新 富 康 央 國學院大學教授 田 村 亜紀子 東京都武蔵野市立桜野小学校主幹教諭 平 野 吉 直 信州大学教授 宮 川 八 岐 日本体育大学教授 目 黒 明 彦 福島県福島市立渡利小学校教頭 森徹 日本体育大学非常勤講師 (前神奈川県横浜市立末吉小学校長) 谷内口 まゆみ 富山県氷見市立宇波小学校教頭 脇 田 哲 郎 福岡県宗像市教育委員会主幹指導主事 なお,文部科学省においては,次の者が本書の編集に当たった。 橋 道 和 初等中等教育局教育課程課長 牛 尾 則 文 初等中等教育局視学官 森 友 浩 史 初等中等教育局教育課程課学校教育官 杉 田 洋 初等中等教育局教育課程課教科調査官 --127/127--