今回は問題解決について3つの系統に分けた(分類の経緯については本稿、総括において示している)。
A.解決手順>処理の自動化
解決手順を示していくことにより問題解決を行う手法。解決手段としてコンピュータ等を用い処理の自動化を行う。
B.モデル化>シミュレーション
モデル化を行うことにより問題解決を行う手法。解決手段としてコンピュータや情報通信ネットワークの利用しシミュレーションを行う。
C.共有・蓄積・管理>データベース
情報通信ネットワークなどを用い、さまざまな情報を共有・蓄積・管理することにより問題解決を行う手法。解決手段としてデータベースを用いる。この場合のデータベースはSQLなどのデータベース言語だけではなく、インターネット等の情報通信ネットワーク上で稼動する検索エンジン、Wiki等もデータベースと考えている。
問題解決学習について、教科書にはどのような形で取り上げられているか、現在発行されている情報Aの教科書19冊、情報Bの教科書10冊、情報Cの教科書11冊、合計40冊について問題解決学習について触れられている部分を調査し、上記の分類方法で分類したことろ、ほとんどの教科書は分類Aの「解決手順>処理の自動化」に分類された。
分類Aにおける教科書の取り上げ方を教科別にみると、「情報A」の場合、一番多い内容は、見学旅行やテーマパークに遊びに行くなど、旅行プランを題材としたもの(6件)であった。その他は、学校行事(文化祭等)、食生活、携帯電話など、身近な題材を扱っている。その他にはコンピュータの購入やインターネットプロバイダの選定などを扱っている教科書もあった。
「情報B」では、この分類に関する、具体的な課題を解決していく例は少ないが、フローチャートの概念や、クロスチェックなどの調査・検証方法に関する実習が多く見られた。そのほかデータベースによる問題解決についても取り上げられているが、コンピュータのアプリケーションとしての使用であり、情報通信ネットワークなどを用い共有するというとらえ方で無いので分類Aに該当する。
「情報C」では、インターネットのトラブルやウイルス等のセキュリティを題材としたものが最も多く(5件)、次いで環境問題、高齢化・少子化問題などの社会問題などを扱った例も複数見られた。その他ユニバーサルデザイン、TVCMを題材としたものもあり、情報Aと異なった題材が取り上げられている。
分類Bの「モデル化>シミュレーション」に関しては、学習指導要領の定めるとおり情報Bの教科書にはすべてこれらの記載が見られる。
分類Bについては、「情報B」のみが取り上げている。モデル化とシミュレーションでは、商品の売り上げ、料理のレシピや、水槽の水量変化、建物の節電などについて取り上げられている例が見られる。
分類Cの「共有・蓄積・管理>データベース」に関しては、現行の学習指導要領に記載がないためか、ほとんど取り上げられていない。
以上の、教科書に記載されている問題解決学習の事例では、スプレッドシート、プレゼンテーションソフトウェアなどはもちろんのこと、問題解決の手法としてブレインストーミング(特にKJ法)を扱っている教科書も多く見られた。なお、問題解決授業に関する教科書40冊の内容については、北海道高等学校情報教育研究会情報部会のウェブページ(http://choice.satsukita.ed.jp/)の「教科書調査(問題解決学習)」から閲覧が可能である。
教科書の分類は上記のように分類Aに偏った結果になったが、実際の授業はどのように運営されているか理解を深めるため、本ワークグループで、北海道内の高等学校を対象に行った「『問題学習』に関するアンケート」(回答99校)のなかで、「問題解決」に関する学習活動を取り入れた授業の概要について以下のような結果を得ることができた。
この「『問題学習』に関するアンケート」結果の詳細についても、北海道高等学校情報教育研究会情報部会のウェブページ(http://choice.satsukita.ed.jp/)の「2009問題解決学習アンケート」から閲覧が可能である。
分類Aについてはアンケート47校の回答のうち42校を占める。特徴的な内容としては、高校生活において大切な行事である「見学旅行」に関する問題解決の事例(5件)など、ウェブページを使った調べ学習、スプレッドシートなどを使った処理などが多くみられた。問題解決する手法としては「KJ法」や「マインドマッピング」などのブレインストーミングを取り入れている学校も多数見られる。
分類 | 手法 | 件数 | タグ(キーワード) |
ウェブページ検索 | ウェブページ検索 | 18 | サーチエンジン、旅行プラン、調べ学習、時事問題、自らテーマを設定、新書の内容を検証 |
プレゼンテーション | プレゼンテーション | 10 | 自己紹介、ライフプラン、学習活動、地域研究、環境問題、進路 |
スプレッドシート | スプレッドシートによる処理 | 8 | 報告書の作成、携帯電話の統計、関数の学習 |
問題解決手法 | ブレインストーミング | 4 | KJ法、マインドマッピング |
ニューコードゲーム | 1 | NASAゲーム | |
コンピュータ技術 | 1 | 文字コード、画像フォーマット | |
シンキングツール | 1 | ロジカルクリティカルシンキング | |
情報機器と手作業比較 | 1 | スプレッドシート等 | |
モラル | 情報モラル | 3 | 情報の信憑性、ウェブメールを利用 |
動画作成 | 動画作成 | 2 | 動画のしくみ、地域の映像 |
言語 | BASIC | 1 | |
Java Script | 1 | デバック、プログラムの流れ | |
ウェブページの作成 | ウェブページの作成 | 2 | |
セキュリティ | 暗号化 | 1 |
分類Bについては、3つの実践があった。モデル化の例では駐車場の車の流れについての実習などが見られた。
分類 | 手法 | 件数 | タグ(キーワード) |
アルゴリズム | フローチャート | 1 | 駐車場のモデル化とシミュレーション |
プログラミング | 1 | ||
手続きの自動化 | 1 | ||
図 | 図によるモデル化 | 1 |
分類Cには、3つの実践がある。いずれもWikiで製作した、データベースを共有・蓄積・管理することにより、より理解を深め、問題解決を行っていく実践である。
分類 | 手法 | 件数 | タグ(キーワード) |
Wiki | 情報モラル | 1 | スパムメールの製作、共有・蓄積 |
協調的問題解決 | 1 | ||
統計的仮説検証 | 1 |
今回の教科書の分類は、本文に記載されている内容を参考に分類を行っている。しかし、教科「情報」の授業を取り巻く環境は、情報通信ネットワーク等の発達により、以前とは大きく異なっており、教員は学習指導要領に定められた内容を遵守しながらも創意工夫し、その時代にあった授業を運営していくことは当然のことである。
アンケートの結果に情報通信ネットワークを積極的に取り入れ問題解決を行う分類Cの授業が取り入れられてきているのは、現実には教科「情報」の授業が、今回提示した3つの系統に(今は偏っているが)、バランス良く分化していっているのではないかと考察される。