*総括 [#kd49ea0b]

**1 3系統(システム)別の問題解決型学習活動 [#hbe85a2e]
本研究を行うにあたって、問題解決型学習を3つの系統に分けた経緯を述べる。
次期学習指導要領では、科目「情報の科学」の中で問題解決の考え方が大きなウェートを占めている。情報を科学的に理解した上で、情報を効果的に活用した問題解決を行おうとするものである。したがってまず最初に、科学的であるということがどのようなことなのかを明らかにしておく必要がある。

一般的に科学的であるということは、実証的・論理的・体系的に物事を考えることであり、事実に基づき、合理的・原理的に思考が体系づけられていなければならない。これらの科学的であることを規定する要素と、情報科における問題解決の学習とは、次のように関連付けることができる。

まず、問題解決における「体系的な手法」を習得する必要がある。これは、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報技術を利用せずとも、私たちが身に付けておくべき基本的な考え方であり知識である。そのことを前提に、「論理的な処理手順」を考えてコンピュータによる「実証的な自動実行」が可能となる。また、「原理的な思考によるモデル化」を行うことで「合理的なシミュレーション」も可能である。

一方の科目「社会と情報」でも、情報機器ばかりか情報通信ネットワークを活用した問題解決に言及している。これは、教科全体として、コンピュータを中心とした情報機器主体から情報通信ネットワーク主体へと考え方の軸が移行していることを考慮すると、至極当然のことと受け止めることができる。したがって、データベースを背景としてインターネットなどを活用して問題解決を図ることも重要な学習活動として考える必要があろう。

以上をまとめると、まずは「問題解決の基本的な手法」を学ぶということを前提として、次のような情報科における問題解決型学習の3系統を考えることができるのである。
-(A)考えられた解決手順によっては、コンピュータを用いた処理手順の自動化(プログラミングそのものを指すのではないことに注意)による問題解決を行う。
-(B)問題の種類によっては、問題となっている状況のモデル化を行い、コンピュータ(場合によってはインターネットなども)を用いたシミュレーションによる問題解決を行う。
-(C)情報を共有・蓄積・管理する(データベース)ことが有効な場合には、インターネット(場合によってはコンピュータでも)を活用した、コミュニティにおける集合知(コンピュータの場合には情報処理)による問題解決を行う。

**2 研究調査から得た問題意識 [#wa0eb4bb]
執筆プロジェクトによる教科書の調査や、会員によるアンケート調査などによって、情報科における問題解決型学習の実態が浮かび上がってきた。そのような調査結果に触れながら次第に意識の中に沈殿してきたのは、いまさらではあるが、問題解決型学習とは何かという根源的な問い掛けであった。教科書の分析を担当したメンバーの一人は、「情報機器の使い方など、その単元だけを狭く見ると問題解決学習に入らないが、章全体の流れを考えるとその単元は問題解決学の一部と考えることができるような項目が少なからず存在している。」と述べている。完全には問題解決と言えないが、扱いようによっては問題解決的な学習内容が存在するのである。教科書調査では、問題解決型の学習活動と認めることができた場合に、先に述べた3系統による分類に加えて「活動内容」による分類を行ったが、学習活動から問題解決型学習を抽出するという前提として調査を行ったために、「学習コンセプト」を意識した分類をすることはできなかった。問題解決的学習を明確にとらえて的確な学習活動をデザインするためには、問題解決型の学習とはどのようなものなのかという定義の問題を解決しなければならない。

**3 学習活動の型(コンセプト・タイプ) [#p8fa8a84]
学習活動の目的やそのコンセプトから、学習活動をどのように分類するべきかを考える。
知識体系を系統的に記述した教科書に沿って学習する「系統的学習」は、効率的に知識項目を網羅整理することができるが、知識技能を身につけることを期待するのは難しい。どのように考えどのように学ぶべきなのかを自分で見つけ出していくこと、つまりメタ認知的な学習は系統的な学習では困難である。系統的な学習の枠を超えたとき、それらは課題探求(研究)学習、課題解決型学習、そして問題解決型学習などと呼ばれている。これらは相互にどのように関係であり、どのように異なっているのであろうか。以下に、それらの特徴の概要をまとめる。
-○系統学習/生徒の発達段階を考慮して知識や技術を構造化し、学習内容に系統性を生み出し、順序だった理解をさせる学習。短時間で多くの内容を伝達できることが長所だが、教師主体の学習となりやすく、生徒の関心・意欲・態度を引き上げるような主体的な学習とはなりにくいという短所がある。(System Based)
-○課題探求型学習/教師から課題(テーマ)の大枠を与えられ、その中から生徒が決めた課題について、あらかじめ想定されている筋道を生徒が辿り、大凡沿想定されている結論や成果を得るような学習。(Subject Based)
-○課題解決型学習/教師の思惑が働いているにしろいないにしろ、自分が置かれた状況の中から生徒が課題を発見し、自分なりの方法で試行錯誤しながらアプローチして、生徒なりの解決に至る学習。(Task Baset)
-○問題解決型学習/自分が置かれた状況において改善したり解決したりしなければならない問題を探求し発見して、自分なりの方法で試行錯誤しながらアプローチして、確かな問題の改善や解決に至る学習。(Problem Based)

**4 学習活動のプロセス(問題解決のスパイラル) [#g765aecc]
これらの概要からは何となくの違いは理解できても、明確に分類することはできない。分類するための何らかの基準が必要である。ここでは、問題解決のプロセスを手がかりに考察を進めた。問題解決のプロセスをどのように把握するかは微妙な違いはあるにせよ、次のように整理することができる。
-(A)問題の発見
何が問題であるかを把握する段階であるが、このことが一番難しいと思われる。人から課題を与えられるのではなく、現状の中から自分で問題となっていることを認識することは、日常的にクリティカルに思考する習慣がなければ、ひどく意識的な行動である。ロジカルな思考も含めて普段の学習活動の中で育みながら、問題解決という学習活動につなげていくことが望ましい。
-(B)問題の調査分析
問題を意識してそれを認知した段階では、問題はまだ漠然としていることもあるし、周囲の様々な状況の中でその問題は考えられなければならない。原因を探り、問題がどのような解決すべき条件を内包しているかなど、環境を調査し問題の根がどこに潜んでいるかを分析しなくてはならない
-(C)問題の表現
何が問題なのかを把握することは、それをきちんと説明できることに他ならない。自分に説明するだけではなく、他の人に対しても的確に理解されるような説明でなければならない。方法としては言葉として話をして伝えるのみならず、文字や文章にしたり、図やグラフなどのイメージを駆使したものも考えられる。どの方法を取るにしても、論理的な言語力が求められることは言うまでもない。
-(D)問題解決案の策定
問題を分析しモデルとして表現できれば、どのように解決にあたればよいかが見えてくる。そのことを具体的な方策として考案し、問題解決の手段を策定する。問題解決の筋道を仮説として立て、それを検証するという方向性を明らかにする。
-(E)問題解決行動
策定した解決案にしたがって行動にあたる。策定の段階では想定できなかった状況に向き合うこともあるが、試行錯誤を繰り返すことも含めて、可能な限り柔軟な対応を行うことで解決に向かう。最終的に問題を解決することは一度の解決行動ではなされることは少ないから、後の評価と改善のためにも、ここでのつまずきや失敗の経験をレポートなどに残すなどして大切にしたい。
-(F)問題解決プロセスの評価
計決行動の結果を云々するのではなく、重要なのは問題発見から始まるここまでのプロセスを振り返ることである。たとえ結果が思わしくなくても、その原因が解決行動そのものにあることは少なく、解決のプロセス全体に負うことの方が多い。プロセスとして評価しなければ、問題解決の次の段階にスパイラルに接続していくことはできない。
評価の手段としては、あらかじめ生徒に示してある学習目標にしたがい、まず評価規準を明確にしておく。それを具体化した形で、解決行動を終えた段階で評価基準表(ルーブリック)として示し、生徒の自己評価を行う。グループで解決行動をした場合には、グループとしての活動のみならず、グループとしての機能にどのように関わり、個人の役割をどのように果たしたかを自己評価、そして相互評価という形で行いたい。
-(G)問題解決プロセスの改善
問題解決のプロセスを評価したら、そこに自ずから改善の方法が見えてくる。先の評価の段階で改善策を提言するようなレポートを組み込み、それらをまとめることで改善策を策定する。解決に向けてうまく行動できた場合でも、なぜうまくいったかを具体的に考えて表現することで、それをさらに改善する方策も見えてくるので、単純な成功失敗での評価には終わらせず、ここでの改善につなげる。
-(H)問題解決プロセスの共有
これまでは得てして、評価や改善を行ったら再び問題の発見に移行するサイクルを想定していた。しかし、社会の情報化が進みネットワークの利用が一般的になり、人々が気軽に情報発信を個人的に行うようになるにつれて、自分の体験を公開することにより不特定多数の人々と共有するようになってきた。問題解決のプロセスがいわば集合知としてネット上に形成されようとしている。個人的な活動では限られた体験しかできない。他人の体験によって自分も仮想的に体験することで、問題に対してあらかじめ知的に対応することが可能になり、よりよい問題解決に向かうことができる。

**5 学習活動の型とプロセスとの関係 [#seaa293b]
本稿をまとめるに先立って実施した情報科授業での問題解決型学習に関するアンケートでは、その集計にあたって、授業の内容と手法とに注目して実践されている授業を項目に分類した。その項目には回答を得た件数を記しているので、どのような授業が多く行われているのかが一目瞭然となっている。ところが一方で、そうして実践されている授業内容だけで十分であるのかとか、他に行うべき授業内容や授業形態があるのではないかとかいった疑問は解消されることはない。そうした観点から、問題解決型学習活動に対してさらに違う分析の仕方が必要になる。

ここではこれまでに述べてきた、学習のタイプと学習の(特に問題解決型学習の)プロセスとに注目して、下記のようなマトリックスにしてみた。明らかに対応するものには○、微妙であると思われるものには△を付した。それぞれの学習タイプをどのようなものとしてとらえるかについては個々の考え方に依存する部分もあるので、一つの見方として読まれることを期待する。

        A B C D E F G H~
系統学習          △ ○ △~
課題探求型学習   ○ ○ ○ ○ ○~
課題解決型学習   ○ ○ ○ ○ ○ ○ △~
問題解決型学習 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○~

このように、問題解決のプロセスの観点から授業形態を分類してみると、自らがデザインした授業が、実際にはどんなタイプのものであるのかが明確になる。系統学習は別としても、やはり問題を発見するプロセス(A)がなければ問題解決型とはいえないし、問題解決のプロセスの改善(G)がなければ、問題解決のスパイラル状態は生まれない。特に情報科が行う問題解決型学習では、情報通信ネットワークを活用した問題解決の成果やプロセスの共有(H)が行われることは、これからますます重要な要素となっていくであろう。

**6 まとめ(問題解決<指向>型でいこう [#s767ef55]
これまで述べてきたことを整理してみると、問題解決型学習(Problem Based Learning)を実際に授業の中に取り入れようとしたときには、そこにいくつものとても難しい問題が潜んでいることが明らかである。
-・問題をどのように把握させるか。
-・そもそもそれは、問題といえるのか。単なる課題であったり、プロジェクトの目的であったりしないのか。
-・その問題は授業の枠組みの中で扱いきれるものなのか。
そしてその難しさを裏付けるように、授業実践の内容に関するアンケート調査の結果からは、現状では未だ本格的な問題解決型は数が少ない。また同結果からは、問題解決型学習への教師の自覚も深まっていないことも分かる。さらに、同時に行われた教科書調査からは、教師の実践の拠り所となる教科書の内容そのものの未熟さも浮かび上がっている。

ところで現実的には、学習すべき内容のすべてが問題解決型に適応するわけではないし、生徒集団の興味や関心はいろいろであるし、教員の準備も時間的や施設的に制約がある場合の多い。そのようなことを踏まえながら、情報科の教員として問題解決型学習の授業実践を進めるためには、まずは問題解決型の学習とは何かを本質的に把握し、今の自分にできることとできないこととを認識し、今後はどのように準備をしていくべきかという明確な方向性を持つことである。

この意味で、私たちは問題解決型学習を目標にすることを自覚しながらも、けっしてそれを大上段に振りかぶる必要はなくて、問題解決指向型学習(Problem Oriented Learning)の実践を心がけていけばよいのではないだろうか。本稿で示した、学習のタイプとプロセスとの関連や3系統の問題解決型学習などの考察が、今後に向けていくらかでも会員相互の研修に役立てば幸いである。

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