[[研究紀要プロジェクト]]

**教科書及びアンケートから読み取れる問題解決学習の問題点 [#ie34586f]
 「問題解決の3系統」による問題解決学習の分類に基づいて、教科書に取り上げられている問題解決学習を分類した。情報A、情報B及び情報Cの各科目に分けて、分析に基づき問題点や改善点を述べる。今回実施した「問題解決」学習に関するアンケート(調査結果)を基に、授業の中での問題解決学習を、「問題解決の3系統」による分類を行った。その結果を基に、問題点を洗い出し、改善点を提案する。

***1 教科書に記述されている問題解決学習 [#i635894b]
 問題解決の科目による扱いの違いは何か。「情報A」と「情報B」の違いについて、簡単に触れる。問題解決とは、問題を見つけたり、与えられたりしながら、解決の手順を考え実行し、その結果を評価することである。または、評価の前に解決方法を改善し再実行することもあり得る。「情報A」では、身の回りの比較的簡単に解決できる問題に対し、生徒にさまざまな解決手段を試みさせるとともにいろいろな情報機器を使用させて、結果を比較させる。解決手順や情報機器の利用の有無、情報機器の選択の違いが、問題解決の能率や結果に重大な影響を与えることを生徒自身に体験させる。これにより生徒に問題解決における解決手順と情報機器の活用の重要性を意識させることができる。しかし、「情報A」では、問題解決における解決手順と情報機器の重要性を意識させることが重要であり、効率的な方法を教え込むことはしない。「情報B」では、科目全体を通して「コンピュータを活用した問題解決」が中心テーマであることから、単元「問題解決とコンピュータの活用」で問題解決についての導入を身に付けることになっている。
単元「コンピュータの仕組みと働き」、単元「問題のモデル化とコンピュータを活用した解決」と進むうちに、生徒は問題を発展させたり、より効果的な解決を図るなどの工夫ができるようになることが望まれる。「情報B」で扱う題材としては身の回りの問題も扱うが、解決の手段がいろいろ工夫できるような問題が望ましい。
 「問題解決の3系統」による問題解決学習の分類と情報A、情報B、情報Cはそれぞれ1対1には対応しない。
 本稿の「分類」でも述べているように、分類Aの「解決手段>処理の自動化」が、情報A、情報B、情報Cのすべての科目で取り入れられている。この背景として、 「問題解決の3系統」による問題解決学習の分類が、新学習指導要領を意識した分類であるためである。図1では、科目の前に教科における重要度の指標として、順位付けを行った。つまり、現行学習指導要領では、問題解決の基礎的及び導入の目的で、分類Aを用い、応用及び発展として分類B、分類Cが活用されていると考えることができる。
表1 新旧学習指導要領における「問題解決の3系統」の重み付け
	分類A	分類B	分類C
現行
要領	1情報A
3情報B
1情報C	1情報B	2情報B

新要領	3社会と情報
3情報と科学	1情報と科学
2社会と情報	1社会と情報
2情報と科学

教科書で取り扱われている問題解決学習の課題もこの重み付けを反映した形で、配置されている。情報Bを例に取ると、分類Aに含まれるフローチャートの概念等を学習した後、分類Bの「モデル化>シミュレーション」のプログラミング等の応用に進んでいる。問題解決学習の具体的実習内容と問題解決の3系統の分類との詳細を検討する必要がある。それぞれの実習が、どの分類に含まれるかを詳細におうことによって、さらに明らかになる。つまり、現行の教科書では、分類Cに含まれる「ネットワークとデータベース」に関係した問題解決学習が不足しているという仮説をたてることができる。
教科書に記述されている問題解決学習を拾い上げた。情報に関する教科書40冊を詳細に調査した結果、問題解決学習を取り上げている項目は349にわたっており、科目ごと及び分類ごとに整理したのが、表2である。
表2 各科目で取り上げられている問題解決学習
	分類A	分類B	分類C	計
情報A	126	0	16	142
情報B	43	95	3	141
情報C	38	3	25	66
計	207	98	44	349
表3 各科目の問題解決学習の分類ごとの割合(%)
	分類A	分類B	分類C	計
情報A	88.7%	0.0%	11.3%	100.0%
情報B	30.5%	67.4%	2.1%	100.0%
情報C	57.6%	4.5%	37.9%	100.0%
計	59.3%	28.1%	12.6%	100.0%
これらの表から、各科目における問題解決学習の観点が見て取れる。情報Aでは「解決手段>処理の自動化」を問題解決学習の中心と位置づけ、若干「共有・蓄積・管理>データベース」を扱う内容を取り上げている。情報Bでは、科目の大単元の中に「モデル化とシミュレーション」など分類Bに直結する内容を含んでいることから、分類Bを中心に扱っているのは当然のことである。しかし、情報Bでも全体の3分の1程度を分類Aの問題解決学習に当てており、「解決手順>処理の自動化」を重視していることがわかる。情報Cでは、分類Aと分類Cがかなりバランスよく配置されており、他の科目よりネットワークを重視している科目の特徴を表している。
教科書で扱われる問題解決学習を見ることによって、今更ながら、各教科の特徴を再認識した。今後特に、ネットワークの必要性が重視されることから、新学習指導要領ではさらに、分類Cの重要性が高まってくると考えられる。現行の教科書では不足している点を改善することができるのである。
新学習指導要領では、分類Aを導入の段階としての位置づけとし、「情報の科学」は分類Bを、「社会と情報」は分類Cに重きを置いた問題解決学習となる。
今後は、それに即した教科書が作成されることを期待するものである。問題点を整理すると、新学習指導要領での問題解決型学習の位置づけから考えると教科書の内容そのものも大きく変わってくることが予想され、それに応じて教員も準備を求められることになるであろう。

2 アンケートによる授業実践の分類
 アンケートの概要を整理する。科目については、情報Aが圧倒的に多く、ほぼ半数の学校で実施していた。情報Bの選択率が低く、5%未満であることと、情報Cの選択率が25%以上と高いのが、北海道の特徴といえる。「問題解決」の要素が取り入れられているかの問いに対し、半数以上は取り入れていると回答している。キーワードとしてあげられることばも、「習得、活用、探求、収集、調査、分析」といったものが20%を超えるなど、分類Aに含まれる内容を実践している。具体的内容についても、教科書で見られる問題解決学習の項目がそのままであったり、担当する教員の一工夫が反映されたものであった。さらに日常の授業だけでなく、見学旅行といった学校行事との連携で進める事例もあった。授業内容の活用という面からも、望ましいことである。問題解決学習を授業に取り入れている理由を見ても、教科科目の持つ目標である情報の収集・整理・発信の指導に役立てたり、生徒の自立性を高める指導に役立てていることなどがあげられている。問題解決学習を行う授業環境も、コンピュータによる実習が半数を占めており、コンピュータ機器の活用による動機づけの重要性も読み取れる。
その反面、「問題解決」の意識は持っていたがうまくいかないという回答が25%以上であった。うまくいかない原因を今後早急に捉える必要がある。それに対する支援の方法も考える必要がある。
また「問題解決」を取り入れていないという回答が23%以上あり、理由として、実施している授業に「問題解決」に該当するものがないというのも16%程度ある。さらに、実施している授業が「問題解決」に該当しているかどうかわからないも14%程度あった。
このことからも、情報という教科がスタートして、6年目であるが、担当する教員の間には十分「問題解決学習」を自分のものとしてとらえている人もいれば、その意味のなかなか理解できていない人もいることも現実である。さらに詳しく見ていくと以下のようになる。
教科書で見られた傾向と同じように系統Aの実践が多く見られた。内容は調査、まとめ、発表に関わるものが多かった。(詳細は前項のまとめをご覧いただきたい)これらの実践は各社の教科書でも幅広く扱われている分野だけに現場においてもバラエティに富んだ活動が行われていることが読み取れる。アンケートでは回答をいただいた約半数の現場で教師が工夫して授業の中に問題解決の手法を取り入れていることが分かる。問題解決そのものに自分で問題点を見つけ、解決まで自力で行うという性質がある以上、教師が授業をデザインする中にも教師自らが教材を良く練り、現状に合わせたプランを作成していると思われる。今回のアンケートは情報部会としても初めての試みであり、実情を知るということがメインだったために実践そのものをクローズアップすることが目的ではなかった。そのため各授業者がそれぞれの授業で何を目指し、どんな工夫を組み込んでいるかまでは踏み込んでいない。この部分については次回以降に詳しく調査をすることとして、今回は現場の授業での問題解決の扱われ方に関する問題点を指摘し、いくつかの提言を行ってみたい。
アンケートを通して理解できることとして、以下のことがあげられる。
・「情報」において問題解決が重要な意味を持っていることが幅広く認知され、多くの学校で実践されている。 ・問題解決の土台となる部分はかなりの学校で定着しつつある。 ・実践の内容が系統Aに寄っているのは教科書の編集を見ても同じ傾向であり、教科書の流れに準じて授業が行われていることを表している。
・全体の傾向としては系統Aが多いが、教科書と違うのはその他の系統Bや系統Cに分類される実践も報告されていることである。これは既に新しい指導要領を意識して、現在の教科書の内容を発展的に解釈して実践していることを表している。学校を取り巻く環境も社会の情報化の進展に応じて、短期間の間に大きく変化している。教員がその時々の社会的、時代的な流れに合わせて授業のデザインを行う良い例として、問題解決学習の例を挙げルことができる。こうした前向きな実践を行っている現場が今後増えるためにも、各教員の取り組みを広く紹介し、その意義を理解してもらうことが必要である。  一方で、アンケートに寄せられた回答の中には、問題解決型授業を行っていない、あるいは自分の授業が問題解決型に該当しているかどうか分からないというものもあった。割合としては何らかの形で問題解決が授業の中に取り入れられているという回答と取り入れられていないという回答が半々であった。アンケートでは問題解決が取り入れられていない理由について多かったものが (1)何をして良いのかわからない (2)実施している授業が「問題解決」に該当しているか分からない (3)実施している授業に「問題解決」に該当しているものが無い 以上の3つである。授業の中に問題解決を含まれるようになるためについて考察してみる。  2−1 問題解決を授業に取り入れる  担当する教員が免許講習等で「情報」の免許を取得し、スキルや知識が十分ではなく、日々の授業を作り上げることで精一杯であることも考えられる。この状況では、問題解決型授業を積極的に取り入れることが簡単にできるとは考えにくい。このような状況を十分認識し、高教研情報部会としてそのような悩める現場が少なからず存在していることを十分にふまえた上で、情報を担当する教員全体に向けてよりよい授業の構築を行えるよう、情報を提供し、抱える課題を協力して解決できる方法を提案する必要がある。
その方策の一つとして、現在情報部会では全道各地へ出向き研究会を開く、「キャラバン研究会」を実施している。内容は毎回異なるテーマを取り上げているが、その時々で最もホットな話題性のある授業で取り上げてほしい内容をチョイスしている。今一番の関心事となっている新学習指導要領も、早い時期からテーマとして取り上げ、平成24年度の実施に向けて、啓蒙活動を進めている。各地区の情報研究会などでの参加を呼びかけのおかげで、自分の授業を向上させようと考えている多くの教員の積極的な参加が見られる。このような機会を活用し、授業で使えるヒントや参加した教員の抱える悩みを共有し、自分の授業力を高めることが重要である。研修の機会の充実が、問題解決型授業の実施の拡大にとって役立つのである。 2−2 問題解決型授業を身近なものにする  教員の多くは問題解決型の授業が未経験であり、教員になってから自分で手探りで授業を行っているだろう。多忙な中、時間のやりくりをし、教材研究をする中でも、活用すべきは同じ悩みを持つ教員間の協力と連携である。変化を敏感に感じ取る教員、新しい授業作りを考える教員、技術の進歩をいち早く取り入れる教員、生徒の関心事をとらえ適切な指導を思いつく教員など、様々な特技を持った教員がいる。ICTといわれる情報通信技術の発達といった追い風の中、一昔前では考えられなかった教員間の連携の可能性が生まれている。インターネット上でたくさんの仲間たちと共有することも行いやすくなり、ネット上のトラブルをクローズアップして授業で取り上げることは最近では目新しいことではなくなった。新しいインターネットを活用した授業のスタイルとして「知の共有」や「クラウド」などこれから成長する可能性のある事例を、教員があらかじめ新しい技術や先進的な事例を研究し、問題点等を把握した上で、授業の話題として生徒に提供することも可能である。そのような授業を実践するためには、教員は新しい技術に関心を持ち、
自分で実践して知識と実技を身に付けた上で、先進性や問題点に関するコメントを持つことが求められる。生徒に問題解決を求めるのであれば、教師があらかじめ問題解決できる能力を身に付けなければならない。そのため、よりいっそう教員の授業能力向上が求められる。   2−3 情報科の教師の連携を深める  教科情報は普通科では必修科目で標準単位数が2と少ないため、1校に1人の教員のみで、学校では授業に関しての相談相手が不在となり、授業計画や授業における悩みを共有できないという大きな問題が生じている。さらに地方では、経験の浅い教員が本来、主免として得た教科以外の教科情報を担当する事例も多い。  この問題を解決するために、他校の情報科を担当する教師たちと授業計画や教材についての情報交換が自由に行える環境を構築することが必要である。特に重要なのは単なる授業案の集合体や教材集を共有することではなく、自分が考えた授業プランに対しての第三者からのアドバイスや批評であり、不足している部分についての適切な助言までえら得ることである。そのような交流が、経験の浅い教師や情報科の授業内容に不安を感じている教師にとって何よりの手助けとなり、日々授業を受ける生徒にとって有益である。歴史ある教科であれば高教研を含め、様々な研究団体がこのような教員を支援する活動を行っている。「自分一人」といった情報科教員の置かれている状況を詳しく把握し、日々の授業のデザインを行う上でお互いに何らかのサポートができる環境作りが早急に求められている。
このような状況を踏まえ、教員のサポートを心がけ日々活動しているのが高教研情報部会ではあるが、今回の「問題解決学習」の調査によっても、まだまだ教員へのサポートが不十分であることが示された。先進的なグループとして、常に新しい授業の可能性を目指して日夜意見を交わしていくことのできる環境作りの重要性を再認識した。高教研情報部会も、北海道内の熱心な有志によって活動している研究会である。年に一度の研究会を中心にし、メーリングリストの運営や近年では道内各地を巡るキャラバン研究会も行い、各地域で研究会を開きながら、地元の教師仲間と交流を深め、互いに顔を見ながら情報交換が行われている。情報部会としてもキャラバンで訪れた地域の研究会との交流を行うことで、優れた実践事例を知ることが可能になった。広い地域に学校が点在しているという北海道の特性を踏まえて地域の枠を越えた活動が若い情報部会にはより必要とされていると認識している。
今後の活動として、「問題解決学習」といった授業で実際に行うべき学習内容が、教員全体で上手に行われているか、といったことにも目を向けていく必要がある。研究会では「授業のネタ」の提供が多く参加した教員からは好評であった。他方、授業で取り上げるべき内容、今回でいえば、「問題解決学習」がうまく行われているかについて意見交換会を実施することも、一つの研修のあり方である。  教科情報にある、コミュニケーション能力の向上という課題を我々教師が日々実践しなければならない。広い北海道に点在する研修活動の活発な地点を、高教研情報部会が網の目のようにつないで情報を共有し、意見交換も盛んに行われるようになれば日々苦労している、現場の教員にとって、力強く頼りになる。さらに優れた活動を行っているグループにとっても、自分たちの実践を取り上げ、他校で実践することで、改めて見えてくる問題点や改善点を見つけることもできるであろう。実践を提供する教員もそれをヒントに授業を構成して実践する教員双方にとって、実際に授業を行って初めて見つけられる課題点をお互いにフィードバックすることで研究活動に貢献できるのである。   2−4 教科書を超えた実践  現場の教師が授業を組み立てる最も底辺にあるのは学習指導要領であるが、日々の授業で参照しているのは教科書である。先にも述べたが教科書を編集している出版社はより良い内容を目指しながらも現場で採用されるよう配慮しながら内容を取捨選択している。教材の採択に関しては現場の声をフィードバックすることも不可能ではないはずである。どのような教科書を元にしてどのように実践したかをデータベース化し、蓄積することで多くの現場がその結果を検証し、改善点を見いだす糸口となりうるのである。もちろん教科書の出版元も現場での実践結果を求めているであろう。ここにも実践と検証のサイクルが存在し、より良い学習活動へとつながって行くのである。研究会に参加するよりも難しいことと思われがちであるが、各種研究会での活動が教科書会社への自然なフィードバックとなるのである。小さな実践の積み重ねが集まって、我々全体に還元されるしくみが出来上がっている。情報科は若い教科である故、苦労する部分は他教科よりも多いのは事実であるが、逆にこれから発展できるだけの余力をより多く残している教科でもある。ほんの少しパイオニアとしての自覚を持って日々の授業に向き合ってみるのも悪くない発想ではないだろうか。そして小さくとも前向きなチャレンジを行ったなら、それを身近な場で構わないので発表する機会を設けていただきたい。その流れがいつかは北海道を巡り、日本中に広まることも夢ではないのだ。 
3 今後の展望
今後の課題として、ほとんど全ての情報を担当する教員に理解されている必要がある事柄を再確認して、授業の質を高めていく動きが必要である。
とっかかりとして、今回明らかとなった、問題解決型授業について、必要性と効果、授業の仕方といったことについて整理することが重要である。それを基に、うまく実践できないで困っている教員や、問題解決型授業の導入の必要を感じない教員に対し、授業の効果を説明し、実践を促していく必要がある。このためには、今回整理した教科書の演習を参考に、実践事例集などを作成しながら、具体的に使っていくことができる資料を揃えていくことが必要である。
具体的な事例を示すことが、現実味を感じられない教員や必要性を感じない教員にとって、やろうという気持ちにさせる一助となる。まず今回の教科書に載っていた事例の中から、共有化できる事例を選び、教材化することも一案である。
アンケートによれば、回答が寄せられた現場の半数が何らかの形で問題解決型授業を取り入れているのだが、残りの半数ではまだ取り組まれていない、あるいは問題解決型授業についての理解も浸透していないことが読み取れる。このことは情報科という教科が抱える問題点として全体が共通の認識を持ち、意識的に取り組むべき課題と捉えたい。今後のあるべき授業の方向性は本稿の総括にまとめられている。高教研情報部会として広く問題解決型授業に取り組めるよう継続的に活動を行う。会員各位においても本研究会を最大限利用いただいて授業のブラッシュアップに役立てていただきたい。

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