研究テーマとその考え方

研究テーマ趣旨説明 2012(平成24)年度版

はじめに

「社会と情報」と「情報の科学」との2科目に再編された共通教科情報科が、いよいよ来年度から履修される。 新しい学習指導要領を読み込むことによって両科目の特性を把握し、学校や生徒の特性が考慮された中で、生徒たちは選択必修することになる。 科目の選択を生徒がするのが望ましいが、学校がする場合には、その科目を選択する根拠をきちんと説明できるようにしておきたい。

学習指導要領の新旧で何が変わったか

新しい情報科では、これまではコンピュータにあった軸足がそれを包含する形で情報通信ネットワークに移り、情報技術や抽象的な情報そのものへ関心を持つに至った。 これまでの情報のディジタル化や情報通信ネットワークの特性に対する理解は、こうしたことへの前提としてとらえることになる。 また、情報Aの中心的な目標であった情報活用の実践力や、情報Cでの中心的な目標であった情報社会に参画する態度といったものの内容も、情報技術の進展に伴って、より具体的なものになってきたことへも注意が必要であろう。

情報活用の実践力を目指す情報Aは姿を消した。 このことは、情報機器の基本的な操作の習得は小学校や中学校での目標となったと解釈するのではなく、ほんとうに実践的に活用する能力は、さまざまな学習課題に取り組む中で質的な向上を見ながら繰り返し活用しようとすることで発展的に育まれると考えるべきである。

実習時間の縛りについてもなくなった。 これは、情報科においては、実習を行うことで知識や技能が身に付き、情報技術や情報社会への理解も深まるという考えが根付いたからであると考えるべきであり、安易に知識習得を中心とした学習に流れるべきではない。 実習は根付いたという前提で外された縛りだと考えられるが、現状はいかがなものであろうか。 ワープロや表計算のソフトウェアを操作できることを直接的な目標とした実習は、この文脈でいう実習には当たらない。

中心的に据えるべきもの

学習計画を組み上げる場合には、問題解決の学習を中心に据えるべきであると言っても過言ではないだろう。 両科目とも「問題解決」を学習の核として取り上げており、特に「情報の科学」では、その内容のほぼ半分が問題解決に係わっているとも考えられる。 ただし、問題解決とうたってはいるが、単に目の前にある問題を解決するのみならず、これまで意識することがなかった問題を掘り起こし、それを克服することで状況を改善向上しようとする態度は最も求められるものであることは念頭に置いておく必要がある。 さらに、情報の科学においては、情報を科学的に学ぶだけではなく、情報社会への主体的な係わりを求められていることも忘れてはならない。 このようなことを勘案した上で、やはり共通教科情報科としての特性が、問題解決学習にあると考えられる。

また、情報モラルへの取り組みも忘れることはできない。 特に「社会と情報」では、学習指導要領の半分近くを情報モラルが占めている、あるいは情報社会との係わりの中で情報モラルを考えることに主眼が置かれていると言ってもいいかもしれない。 情報技術がこれからも加速度的に進展していくことを仮定した場合、それに伴って情報モラルの問題も、輻輳的に混迷の度合いを増していくことは間違いないだろう。 教える側が昔自分が教わった知識や価値観を伝達するのが情報科の指導ではなくて、自らが体験的に修得したり探求して得た世界観を通して、生徒と共に情報社会へ主体的に参画していく姿勢を共有したい。

問題解決の系統的整理

問題解決の学習には、両科目の特性に絡んで多様なバリエーションが生じると考えられる。 端的に述べると、「社会と情報」は社会との係わりの中で情報を理解し、「情報の科学」は科学的な理解の上に立って情報を扱う。 つまり、取り上げるべき問題、解決手段の考案と選択、解決プロセスのスタイル、求める結果、結果を評価する観点などについて、両科目の情報に対するアプローチの違いによっていろいろな選択要素があるので、極めて複雑な様態になる。

ここで、最大公約数的に、問題解決学習を系統的に整理してみる。

まず、問題解決のプロセスを理解し、それぞれの段階においてどのような手法を選択すればよいのか、それらの代表的な手法について理解する必要がある。

次に、適切だと考えられる問題解決の手段を選択されたとき、もしその手順がアルゴリズムとして表現が可能である場合、コンピュータを活用して自動的に実行させることができる。

また、解決すべき問題を抽象的にモデル化できる場合、コンピュータなどを活用してシミュレーションすることが可能である。 特に情報の科学的理解という観点からこれらを読み解くと、体系的な手法によって論理的な処理手順を見出すことが可能であれば、実証的な自動実行による問題解決を、そして、原理的な思考によるモデル化が可能であれば、合理的なシミュレーションによる問題解決を行うことができる。

問題解決のために多くの情報(知恵)が必要な場合には、情報検索してネットワークをデータベース的に活用したり、インターネット上のコミュニティを集合知として活用したりすることができる。

そして、多くの情報から必要なものを抽出する、情報を客観的に読み取る、仮説を立ててそれを検証する、将来の結果を予測する、などのためには、情報の可視化の技術や統計的処理の知識が必要になる。 以上をキーワード的にまとめると次のようになる。

  1. 問題解決のプロセスと手法
  2. アルゴリズムとプログラミング
  3. モデル化とシミュレーション
  4. ネットワーク上のデータベースとコミュニティ
  5. 情報の可視化と統計的処理

情報モラルの情報技術的観点からの整理

新しい学習指導要領の中で重要とされているもう一つの領域が、情報モラルに関する内容である。

まず、「情報モラル」と言った場合それは、情報社会で適切な活動を行うためのもとになる考え方と態度を、そして「情報モラル等」と言った場合にそれは、ネットワーク上でのルールやマナー、危険回避、個人情報やプライバシー、人権侵害、著作権への対応、情報機器の使用による健康との係わりなどを指していることに留意する必要がある。

どちらかというと広い意味での用いられる情報モラルは、授業に落とし込もうとするとあまりにも漠然としていて、どのように具体的な学習活動として実現したらよいのか戸惑うことが多い。 そのような情報モラルであるが、情報社会といわれるようになって忽然と姿を現してきたものでもない。 これまで道徳と呼ばれてきたものが、社会の情報化が進む中で改めて見直され、ある部分は質的な変容を遂げたり、ある部分は意味するところを拡張してきたりしたものであると考えられる。 そうした変容なり拡張なりが、情報技術の進展の結果としてなされたものであるとしたら、情報モラルは次のように分類整理することができる。

学習活動のシーケンス

新しい学習指導要領では、学習活動の段階を「習得−活用−探求」として発展的にとらえている。 一方で、観点別評価の新しい4観点は、関心・意欲・態度、思考・判断・表現、技能、知識・理解である。 (この新4観点については、現段階では解説が必要かもしれないが、本稿の文脈を考慮して省略する。) 学習活動の段階「習得−活用−探求」を詳細化して考えることで、授業を具体的に構想するときに、小規模な学習活動を積み木のように階層的な構造に積み重ねることが容易になることが期待できる。

これらを踏まえて、学習の段階を階層的に詳細化してみたのが次のシーケンスである。 ここでは4観点を、関心を持った意欲的な態度で「探求」すること、「思考」して「判断」した結果を「表現」すること、「技能」を持っている、「知識」を得ることで「理解」する、などと解釈していることに留意されたい。

調べる → 知識を得る → 理解する → 思考する → 判断する → 編集する → 表現する → 技能を生かす → 問題解決する → 探求する → 自己形成する → 社会に参画する

何に向かって進むべきか

ここまで、学習内容の中心に問題解決と情報モラルを据え、学習活動のプロセスである「習得−活用−探求」を階層詳細化して捉えることを提案してきた。

これらの提案を料理に例えると、どんな料理にするのかは決まったが、食材の調達はまだである。 料理の手順であるレシピは固まったが、味付けの調味料はまだ決めていない。 さらに、調理する環境を整えたり道具を揃えたりすることも、まだこれからである。 残りの準備は、一生懸命に作ったこの料理を食べてもらう生徒の顔を思い浮かべながら、仲間のみんなで楽しくしてみたい。 それぞれが作った手料理を、ぜひ一緒にワイワイと試食してみたいものだ。

以上を趣旨説明として、平成24年度(2012年度)の研究テーマを、以下のように提案する。

求められている授業の構想、デザイン (授業づくりの方法論に向かって)


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Last-modified: 2023-03-28 (火) 21:32:53