3.中学校の学習指導要領を読み解く

(1)中学校の情報教育の概要

 平成20年3月に発行された、新しい中学校学習指導要領総則「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」(P5)において、

「各教科等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」

との記述があり、全ての教科でICTの活用を行う事が明記されている。この中で、小学校段階ではコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段について「基本的な操作や情報モラルを身に付け」「適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」という記述があるが、中学校段階では更に「情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できる」という文書が追加され、小学校で学んだ基礎をさらに発展させる事が求められている。

(2)中学校卒業時までに身に付けるべき情報活用能力

 新学習指導要領において、本稿「2.研究方法について」に述べられている方法で分析を行った。その結果、中学校段階では、課題解決等のため情報通信ネットワークを活用した情報の入手能力を身につける。入手した情報の真偽や適否などを見極め整理・分類できる。様々なICT機器を効果的に選ぶ能力を身につけ、自分の考え方や気持ちが相手に正しく伝わるように情報を発信できる技術等、いわゆるネットワークリテラシーの活用能力についての記述が全ての教科に共通して見られた。
 同時にそれらを利用するに当り必要な情報社会に関わる態度を身につけ、情報モラルの必要性や情報に対する責任を理解させる。著作権等の知的財産権、肖像権の大切さを理解させる。と言う部分も各教科共通の記述となっている。
 また、専門的な分野では、理科のICT機器を活用した、分析・数値化・可視化・シミュレーションや、技術・家庭のコンピュータを構成する要素、情報処理の仕組み、情報通信ネットワークにおける基本的な情報処理のしくみ等、情報処理の流れからICTの技術的な内容まで幅広く取り上げられている。また、保健体育ではICT機器と健康の関係について理解させるなどの記述も見られる。

(3)中学校での情報教育を評価の4観点から分類する

 評価の4観点の面から分類を行うと、小学校と比較し「(2)技能」が大幅に減り「(3)思考・判断・表現」の比率が増えている。これは技術・家庭において顕著な傾向を示し、今回ピックアップした19の項目のうち「(3)思考・判断・表現」が11件と全体の6割近くを占めている。これは中学校段階では、小学校段階で身につけた基礎をさらに発展させた内容の記述があるという事を裏付けていると考えられる。
 その他、「(1)知識・理解」については、全ての教科においてネットワークリテラシーや情報モラルについての知識、技術・家庭では、ICTの技術面などの知識についての記述が見られる。
 「(2)技能」については、前述した通り小学校段階と比較し大幅に減っているが、主に情報通信ネットワークと、さまざまなメディアを統合する手法など、ICT機器の活用についての能力について記述が多く見られる。
 「(4)関心・意欲・態度」の記述は少ないが、全教科において情報モラルの必要性や情報に対する責任を理解させ、興味関心を持たせる記述がある。

(4)ソフトウェア操作に必要なスキル

新学習指導要領では、「(2)技能」についての記述が減っているという事については前述したが、全く取り組む必要が無いわけではない。小学校段階より高度な授業を行うために、児童に身につけさせなければならないソフトウェア等の操作についても検討する必要が出てくるからである。そこで必要なソフトウェアを抽出し、身につけるべき操作について予想した。

【必要なソフトウェア】( )は主に記述があった教科

【身につけるべき操作】

 各教科共通の内容では、プレゼンテーションソフト、ワードプロセッサ、表計算ソフトの操作が全ての教科で必要になる。プレゼンテーションソフトは、基本的な操作は小学校段階で行うであろうが、より表現力のあるプレゼンテーションを行うために、伝わる事を目標とする、文字の配置・配色の方法、アニメーション等の表現方法について理解し、さらに、さまざまなメディアを統合できるように画像、動画等の取り込み等の技術が求められる。
 ワードプロセッサの基本的操作も小学校段階で行うことになるが、プレゼンテーションソフト同様、より伝わる事を目標とする、文字の配置・配色・表の作成や、さまざまなメディアを統合できる技術が求められる。
 表計算ソフトは、資料の収集、処理等に使用するため、基本的な関数を身につけ、目的にあったグラフの作成が出来るような技術が必要になる。
 教科別で見ると、音楽では楽曲制作にDTMソフトの利用についての記述がある。これはDTMソフトの基本操作、音符の数値化する手法についての理解も必要である。また制作した音楽をCD等の一般的なメディアにするための、音声編集ソフトや必要に応じてライティングソフトの知識が必要である。
 美術では、新たな表現の可能性を学ぶためにドローソフト、フォトレタッチソフト等の基本操作を身につける必要がある。これらのソフトウェアは、その他の教科で、プレゼンテーションソフトウェアに使用する画像処理などでも利用できる。
 英語では海外と英文の電子メールを使い交流を行うために、MUAの基本操作を理解させる必要がある。具体的には電子メールの送受信の基礎的な知識から、メールの送受信、ファイルの添付など手法を身につける必要がある。また学習指導要領に記述はないが、よりメールの表現力を高めるため、HTMLメールを使ったレイアウトができるようになることも必要かもしれない。
 技術・家庭では、さまざまなメディアを統合するために、プレゼンテーションソフトウェアの他にWebページなども利用する。そのためWebページ制作ソフトウェアの基本的な操作を身につける必要がある。Webページの作成にはテキストエディタを用いHTMLを記入することによって制作する方法もあるが、現在のWebページはスタイルシート等を用い、以前より複雑なものになっている現状を考えると専用ソフトウェアの使用は必要と考える。
 また、画像、動画等のデータをWebページに統合することを考慮し、動画編集ソフトウェアの基本操作などについても理解させる必要があると同時に、製作した動画を一般的に再生できる動画形式に出力できる技術なども必要である。

(5)まとめ

 今回の分析で、中学校段階で行う情報教育は小学校段階から比較し応用的に発展させた内容である事がわかった。また新学習指導要領の分析を行って行く中で、現行の高等学校「情報A」の学習内容のほとんどが、中学校段階に移動している事もわかった。
 しかし、中学校段階の情報教育の中心となるであろう技術・家庭をはじめ、それぞれの教科で、現行の単位数でこれだけの量の授業を実施するには、時間的にもコンピュータ教室の確保という面でも困難であることが予想される。我々高等学校の情報科に携わる教員はどの様な授業を進めていけば良いか、今後、中学校の教員と十分な情報交換等を持つ機会を作るということも大切な事だと感じた。


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Last-modified: 2023-03-28 (火) 21:32:53